(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5674227
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月25日
(54)【発明の名称】インモールド転写用ポリエステルフィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 27/36 20060101AFI20150205BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20150205BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20150205BHJP
【FI】
B32B27/36
B32B27/20 Z
B29C45/14
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-189916(P2013-189916)
(22)【出願日】2013年9月13日
(62)【分割の表示】特願2009-102683(P2009-102683)の分割
【原出願日】2009年4月21日
(65)【公開番号】特開2014-24341(P2014-24341A)
(43)【公開日】2014年2月6日
【審査請求日】2013年9月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006172
【氏名又は名称】三菱樹脂株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西河 博以
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 裕司
【審査官】
河原 肇
(56)【参考文献】
【文献】
特開平04−110147(JP,A)
【文献】
特開2008−279705(JP,A)
【文献】
特開2006−264136(JP,A)
【文献】
特開2007−181950(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00− 43/00
B29C 45/00− 45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのベース層Bと、B層に隣接し、平均粒径3〜8μmの粒子を0.05〜3重量%含有する外層Aを少なくとも1層有する、延伸されたポリエステルフィルムであって、ベース層Bと外層Aの融点の差△Tmが5℃以上15℃以下であり、外層A表面の平均粗さRaが0.30〜1.00μmの範囲であることを特徴とするインモールド転写用ポリエステルフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は浅絞りから絞り用途の印刷工程において、熱寸法変化が良好で印刷性に優れ、低応力で容易に伸び、成形性が良好であり、また低光沢感に優れた成形品を得ることができるインモールド転写用ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
印刷および成形加工して用いる転写箔の基材フィルムには、従来、ポリエステル二軸延伸フィルムが用いられている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。また、極限粘度と密度が特定範囲内にあるポリエステル二軸延伸フィルムをスクラッチ加工して艶消し転写箔用フィルムとして用いることが提案されている(特許文献3参照)。
【0003】
また、深絞り成形用フィルムとしては、成形応力が特定範囲内のポリエステルフィルムを用いること、すなわち、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートに比べて成形応力の低い共重合ポリエステルのフィルムを用いることが提案されている(特許文献4参照)。
【0004】
また、成形等の工程用フィルムとして、ブタンジオール等から選択される2種以上のグリコール成分を含有するモノマー組成から重合されたポリエステルのフィルムを用いることが提案されている。
【0005】
一方、成形用途においては、携帯電話や電気製品など、成形時の絞りが浅いものから自動車用など成形時の絞りが深いものまで各種用途により成形加工での絞りが大きく異なる。この成形加工における絞りを分類すると、浅絞り、中絞り、深絞りに大別され、目的の用途に応じて好適な基材フィルムを選び用いられている。
【0006】
離型層、図柄印刷および接着層など、コート加工や印刷加工で乾燥温度と張力の影響を受けて基材フィルムに伸び変形や幅収縮による熱寸法変化が生じて印刷ズレや有害な平面性悪化が発生する問題があるため、基材フィルムの特性は、ある一定の熱寸法安定性と機械的特性が求められる。しかしながら、この基材フィルムを用いて積層加工された転写箔は機械的強度も保持されているためインモールト成形時においては変形応力も高く、金型との追随性が悪く、印刷の鮮明さに欠ける現象や成形破れが発生しやすい問題がある。
【0007】
深絞り用の基材フィルムにおいては、基材そのものがフィルム設計上、柔らかい特性を有するため、この点を考慮して伸び変形に支障のない80〜100℃などの低温で加工されている。また絵付けする図柄が例えば木目調など、1工程の全面印刷である場合が多く、多少の熱寸法変化や伸び変形が生じても絵柄の品質上に支障をきたさない転写箔用に使用されている。
【0008】
しかし、浅絞りから中絞りの多くの用途においては、絵付けする図柄が3色〜7色など、多色印刷される場合が多く、かかる高温による乾燥温度と加工張力の影響を受けて伸び変形や幅縮みが生じて印刷ズレや平面性(片タルミなど)悪化が発生し、転写箔の品質上、致命的欠陥となる。
【0009】
このため、浅絞りから中絞り用の基材フィルムは、コート加工や印刷加工において縦方向に伸び変形を抑えるよう機械的強度が与えられている。しかしながら、このような基材フィルムを用いて得られた転写箔は機械的強度も保持されているためインモールト成形時においては変形応力も高く、金型との追随性が悪く、印刷の鮮明さに欠ける現象や成形破れが発生しやすい問題がある。
【0010】
また、成形品に低光沢感を与える手段としてはその加工工程を少なくすることができる、あらかじめ艶消し樹脂層を形成した転写箔を用いる方法が望ましく、その中でもあらかじめ基材フィルム中に艶消し剤を配合することができれば加工工程をさらに少なくすることができると考えられていた。しかし、基材フィルムに艶消し剤を配合する場合、フィルム製膜の際の連続性が悪いという問題や転写箔として使用する際に生じる成形破れが発生するという問題があり、実現は困難である。
【0011】
また、フィルムを生産する工程において、フィルムの破断などにより安定生産が困難であることや艶消し剤を高濃度で配合するためには原料費が高くなるという理由のために本ポリエステルフィルムは非常に高価なものになってしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平7−196821号公報
【特許文献2】特開平7−237283号公報
【特許文献3】特開2007−181978号公報
【特許文献4】特開2004−9596号公報
【特許文献5】特開平6−210799号公報
【特許文献6】特開2000−344909号公報
【特許文献7】特公昭60−11628号公報
【特許文献8】特許第3090911号公報
【特許文献9】特開2002−97261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであって、その解決課題は、浅絞りから中絞り用途の印刷工程において、熱寸法変化が良好で印刷性に優れ、低応力で容易に伸び、成形性良好であり、また低光沢感に優れた成形品を得ることができるポリエステルフィルムを安価に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、特定の構成を有するフィルムによれば、上記課題を容易に解決できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明の要旨は、少なくとも1つのベース層Bと、B層に隣接し
、平均粒径3〜8μmの粒子を0.05〜3重量%含有する外層Aを少なくとも1層有する
、延伸されたポリエステルフィルムであって、ベース層Bと外層Aの融点の差△Tmが5℃以上15℃以下であり、外層A表面の平均粗さRaが0.30〜1.00μmの範囲であることを特徴とするインモールド転写用ポリエステルフィルムに存する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、浅絞りから中絞り用途の印刷工程において、熱寸法変化が良好で印刷性に優れ、低応力で容易に伸び、成形性が良好であり、また低光沢感に優れた成形品を得ることができるポリエステルフィルムを安価に提供することができ、本発明の工業的価値は高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、さらに詳細に本発明を説明する。
本発明で用いられるポリエステルフィルムとは、芳香族ジカルボン酸またはそのエステルとグリコ−ルとを主たる出発原料として得られるポリエステルであり、繰り返し構造単位の80%以上がエチレンテレフタレ−ト単位またはエチレン−2,6−ナフタレ−ト単位を有するポリエステルを指す。そして、上記の範囲を逸脱しない条件下に他の第三成分を含有することが望ましい。芳香族ジカルボン酸成分としては、例えば、テレフタル酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸以外に、例えば、イソフタル酸、フタル酸、アジピン酸、セバシン酸、オキシカルボン酸(例えば、p−オキシエトキシ安息香酸等)等を用いることができる。グリコ−ル成分としては、エチレングリコ−ル以外に、例えば、ジエチレングリコ−ル、プロピレングリコール、ブタンジオ−ル、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル、ネオペンチルグリコ−ル等の一種または二種以上を用いることができる。
【0018】
本発明においてフィルム各層の融点を指定範囲に収めるためには上記第三成分の量を調整することが有効である。
【0019】
重合触媒としては、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン等のアンチモン化合物やゲルマニウム化合物やチタン化合物があげられる。チタン化合物では、例えばテトラアルキルチタネート、テトラアリールチタネート、シュウ酸チタニル塩類、シュウ酸チタニル、チタンを含むキレート化合物、チタンのテトラカルボキシレート等であり、具体的にはテトラエチルチタネート、テトラプロピルチタネート、テトラフェニルチタネートまたはこれらの部分加水分解物、シュウ酸チタニルアンモニウム、シュウ酸チタニルカリウム、チタントリアセチルアセトネート等が挙げられる。
【0020】
また、本発明のポリエステルフィルムには、無機粒子、有機塩粒子や架橋高分子粒子を添加することが好ましい。用いることのできる無機粒子としては、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、リン酸リチウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、フッ化リチウム等が挙げられる。一方、有機塩粒子としては、蓚酸カルシウムやカルシウム、バリウム、亜鉛、マンガン、マグネシウム等のテレフタル酸塩等が挙げられる。また、架橋高分子粒子としては、ジビニルベンゼン、スチレン、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸またはメタクリル酸のビニル系モノマーの単独または共重合体が挙げられる。その他ポリテトラフルオロエチレン、ベンゾグアナミン樹脂、熱硬化エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、熱硬化性尿素樹脂、熱硬化性フェノール樹脂などの有機粒子を用いてもよい。
【0021】
使用する粒子の形状に関しても特に限定されるわけではなく、球状、塊状、棒状、扁平状等のいずれを用いてもよい。また、その硬度、比重、色等についても特に制限はない。これら一連の粒子は、必要に応じて2種類以上を併用してもよい。
【0022】
また、本発明において用いる粒子の平均粒径は、通常3〜8μmが好ましい。平均粒径が3μm未満の場合には、表面への突起形成能が不十分な場合があり、一方、8μmを超える場合には、フィルムを延伸する際に破断等が多発し、安定的に製品を採取することができないことがある。
【0023】
さらに、ポリエステル中の粒子含有量は、通常0.05〜3重量%、好ましくは0.1〜1重量%の範囲である。粒子含有量が0.05重量%未満の場合には、フィルム上の突起数が十分でなくいため、低光沢のある成形品の外観のきめが粗くなってしまうことあり、一方、3重量%を超えて添加する場合には、フィルムを延伸する際に破断等が多発し、安定的に製品を採取することができたり、フィルムのコストが高くなったりしてしまう場合がある。
【0024】
ポリエステル中に粒子を添加する方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を採用しうる。例えば、ポリエステルを製造する任意の段階において添加することができるが、好ましくはエステル化の段階、もしくはエステル交換反応終了後、重縮合反応を進めてもよい。また、ベント付き混練押出機を用い、エチレングリコールまたは水などに分散させた粒子のスラリーとポリエステル原料とをブレンドする方法、または、混練押出機を用い、乾燥させた粒子とポリエステル原料とをブレンドする方法などによって行われる。
【0025】
なお、本発明におけるポリエステルフィルム中には、上述の粒子以外に必要に応じて従来公知の酸化防止剤、熱安定剤、潤滑剤、帯電防止剤、蛍光増白剤、染料、顔料等を添加することができる。また用途によっては、紫外線吸収剤特にベンゾオキサジノン系紫外線吸収剤等を含有させてもよい。
【0026】
本発明のポリエステルフィルムは、表面オリゴマーを抑止する方法として、オリゴマー含有量の少ないポリエステル原料を用いることができる。このような原料は、通常の溶融重縮合反応で得たポリエステルのチップを減圧下あるいは不活性ガスの流通下で180℃から240℃にて 1時間から20時間程度保つという固相重合によって得ることができる。この原料のみまたはこの原料と通常の原料を混合して単層のポリエステルフィルムを製膜してもよく、また2層以上の多層構成とし、転写層と反対側の表面層にのみこの原料を用いてもよい。多層構成の場合、内層には通常のポリエチレンテレフタレートを用いてもよく、また成型同時転写用では、成形性を向上する目的で、イソフタル酸、テレフタル酸を共重合成分とした共重合ポリエステルやポリブチレンテレフタレートを用いてもよい。
【0027】
本発明の基材として用いられるポリエステルフィルムは、多層構成が必要である。少なくとも1方の外層を艶消し層とすることで製造コストの削減が図れるので好ましい。
【0028】
本発明の転写用ポリエステルフィルムの総厚みは、本発明の転写用ポリエステルフィルムが使用される用途に応じ適宜選択されるため、特に限定されないが、機械的強度、ハンドリング性および生産性などの点から、好ましくは12〜100μmである。
【0029】
本発明において、耐熱性、成形加工性、寸法安定性の観点から、示差走査熱量計で測定される融解ピーク温度Tmが220〜260℃の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは230〜255℃の範囲である。Tmが220℃未満である場合は、耐熱性、寸法安定性に劣る傾向があるため、印刷工程でシワが発生したり、成形加工後のフィルム表面が膨れ上がったり、絵柄模様の意匠性が損ねられたりする等の問題が発生することがある。一方、Tmが260℃を超える場合は、成形性、生産性が悪くなる傾向がある。
【0030】
本発明のフィルムは、層Bと、層Bに隣接して粒子を含有する層Aを有するポリエステルフィルムであって、層Bと層Aの融点の差△Tm(層Bの融点−層Aの融点)が5〜15℃の範囲であることが必要である。層Bと層Aの融点の差が当該範囲にあれば、延伸時に粒子による突起の形成が予想以上に大きくなり、生産時に破断の原因となる高価な艶消し剤の添加量を減らすことができ、製造コストを劇的に減らすことができる。層Bと層Aの融点の差△Tmが5℃未満の場合、艶消し剤の添加量を減らすことができる量が十分でなく、また層Bと層Aの融点の差△Tmが15℃より大きい場合、成形加工時に界面剥離などの現象が起こる。
【0031】
また、本発明において、示差走査熱量計より得られる二次転移温度Tgは、好ましくは50〜90℃、さらに好ましくは55〜80℃である。Tgが50℃未満では、耐熱性に劣る傾向があり、90℃を超えると、成形性に劣る傾向がある。
【0032】
本発明のポリエステルフィルムの平均粗さRaは、0.30〜1.00μmの範囲であることが好ましい。Raが0.30μm未満では、成形品の低光沢感が不十分であることがあり、低光沢感に優れたフィルムを得ることができないおそれがある。また、1.00μmより大きくした場合でも成形品の低光沢感にはあまり影響しない領域となるため、製造コスト等を考えた場合は、メリットは少ない。
【0033】
本発明においては、180℃で5分間熱処理後のフィルム縦方向の熱収縮率が3.0%以下であり、横方向のそれが0.5%以下であることがそれぞれ好ましく、さらに好ましくは、縦方向が2.5%以下、横方向が0.3%以下である。縦方向の熱収縮率が3.0%より大きい場合は、幅方向の熱収縮差が影響すると考えられる平面性(片タルミ)が悪化する傾向がある。一方、横方向の熱収縮率が0.5%を超えると、幅縮みが大きくなり、幅方向に印刷ズレ問題が発生することがある。
【0034】
本発明のフィルムは、転写箔への加工性の観点から、25℃での縦方向の引張試験において5%伸び応力が90〜120MPaの範囲であることが好ましく、さらに好ましくは95〜115の範囲である。縦方向の引張試験で5%伸び応力が90MPaより低いと、印刷時等の加工工程でフィルム伸びが生じて長手方向に印刷ズレ等の問題が発生することがある。一方、縦方向に5%伸び応力が120MPaを越えると、転写箔に仕上がった基材フィルムの機械的強度も保持されているためインモールト成形時の変形応力も高くなり、良好な成形性を確保することが困難となることがある。
【0035】
本発明のフィルムは、成形性の観点から上記引張試験において25℃での縦横の両方向に100%伸び応力が200MPa以下であることが好ましく、さらに好ましくは180MPa以下である。25℃での縦方向および横方向に100%伸び応力が200MPaを超えると、インモールト成形時においては変形応力も高くなり、いわゆる金型との追随性が悪くなって加飾印刷面の鮮明さに欠ける現象や成形破れが発生しやすくなる傾向がある。
【0036】
なお、5%伸び応力を特定した根拠は、コート加工や印刷加工で起きる長手方向の伸び変形率は実質的には3%未満であるが、測定上のバラツキを考慮して5%伸び応力としたものである。また、100%伸び応力では、浅絞りから中絞り成形後の厚さ変化から成形伸び率を換算すると、70〜130%範囲の変形率であったため、成形加工の尺度となる100%伸び応力で特定したものである。また、これらの測定温度においては用途に応じ異なるが、一般にはコート加工や印刷加工での乾燥温度(80〜180℃)および成形温度(120〜160℃)等でのフィルム温度を考慮した高温試験法が考えられる。しかし、この方法ではフィルム昇温過程で結晶化が進行し、転写箔用ポリエステルフィルムの正確な機械的特性を知ることが困難となるため測定温度は常温での機械的特性で測定(JIS C 2318に準拠)したものである。
【0037】
本発明のフィルムにおいて本発明の主旨を損なわない範囲において、帯電防止層、接着層、オリゴマー析出防止層等の塗布層を設けてもよい。
【0038】
塗布層を設ける場合は、インラインコーティングにより設けられるのが好ましい。インラインコーティングは、ポリステルフイルム製造の工程内で塗布を行う方法であり、具体的には、ポリエステルを溶融押出ししてから二軸延伸後熱固定して巻き上げるまでの任意の段階で塗布を行う方法である。通常は、溶融・急冷して得られる実質的に非晶状態の未延伸シート、その後に長手方向(縦方向)に延伸された一軸延伸フィルム、熱固定前の二軸延伸フィルムの何れかに塗布する。これらの中では、一軸延伸フィルムに塗布した後に横方向に延伸する方法が優れている。斯かる方法によれば、製膜と塗布乾燥を同時に行うことができるために製造コスト上のメリットがあり、塗布後に延伸を行うために薄膜塗布が容易であり、塗布後に施される熱処理が他の方法では達成されない高温であるために塗膜とポリエステルフィルムが強固に密着する。
【0039】
塗布層の厚さは、乾燥後の厚さとして、通常0.001〜10μm、好ましくは0.010〜5μm、さらに好ましくは0.015〜2μmである。塗布層の厚さが0.001μm未満の場合は、帯電防止効果が十分に改良されない場合がある。塗布層の厚さが10μmを超える場合は、塗布層が粘着剤のような作用してロールに巻き上げたフィルム同士が相互に接着する、いわゆるブロッキングを生じることがある。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
(1)融解ピーク温度(Tm)
ティーエーイインスツルメント社製の示差走査熱良計「MDSC2920型」を使用し、ポリエステル樹脂約5mgを0℃から300℃まで20℃/分の速度で昇温させた際に得られる融解に伴う吸熱ピークの温度をTmとした。上述の方法により得た融解ピーク温度の内、製膜したフィルムの外層(A層)のみをサンプリングし測定したものの融解ピーク温度を艶消し性外層AのTmとし、製膜したフィルムの外層(A層)を除去したフィルムから得られた融解ピーク温度をベース層Bの融点とし、下記式により△Tm(℃)を求めた。
△Tm=(層AのTm)−(層BのTm)
【0042】
(2)二次転移温度(Tg)
ティーエーイインスツルメント社製の示差走査熱良計「MDSC2920型」を使用し、ポリエステル樹脂約5mgを0℃から300℃まで20℃/分の速度で昇温させ、300℃で5分間溶融保持した後に0℃以下まで急冷し、次いで0〜300℃まで20℃/分で300℃まで昇温させた際に観測されるガラス転移に伴う転移点をTgとした。
【0043】
(3)平均粗さ(Ra)
中心線平均粗さRa(nm)をもって表面粗さとする。(株)小坂研究所社製表面粗さ測定機(SE−3F)を用いて次のようにして求めた。すなわち、フィルム断面曲線からその中心線の方向に基準長さL(2.5mm)の部分を抜き取り、この抜き取り部分の中心線をx軸、縦倍率の方向をy軸として粗さ曲線 y=f(x)で表わしたとき、次の式で与えられた値を〔nm〕で表わす。中心線平均粗さは、試料フィルム表面から10本の断面曲線を求め、これらの断面曲線から求めた抜き取り部分の中心線平均粗さの平均値で表わした。なお、触針の先端半径は2μm、荷重は30mgとし、カットオフ値は0.08mmとした。
【0044】
Ra=(1/L)∫
L0|f(x)|dx
【0045】
(4)5%伸び応力
(株)インテスコ製引張試験機インテスコモデル2001型を用いて、温度25℃において長さ50mm,幅15mmの試料フィルムを、200mm/分の速度で引張試験を行い、縦方向の5%伸び時の応力を求めた。
【0046】
(5)100%伸び応力
上記(5)の測定方法により、試料片を縦方向および横方向に引張り、100%伸び時の応力を求めた。
【0047】
(6)破断伸度
上記(5)の測定方法により、試料片を縦方向および横方向に引張り、試料片の破断伸度を求めた。
【0048】
(7)180℃の熱収縮率
熱風循環炉(田葉井製作所製)を使用し、無張力状態のフィルムを180℃の雰囲気中で5分間熱処理し、フィルムの縦方向および横方向の熱処理前後の長さを測定し、下記式にて計算し、5本ずつの試料についての平均値で表した。
【0049】
熱収縮率(%)=(L
0−L
1)×100/L
0
なお、上記式中、L
0は熱処理前のサンプル長さ(mm)、L
1は熱処理後のサンプル長さ(mm)を表す。ただし、L
0がL
1よりも小さくなる場合(フィルムが膨張する場合)は、熱収縮率の値を−(マイナス)で表した。
【0050】
(8)印刷性
<印刷ズレ>
ロール状のフィルムサンプルを8MPaのテンションで巻出し、4色のグラビア印刷を施したあと、180℃にて30秒間乾燥することにより、絵柄印刷のフィルムを作成した。得られた絵柄印刷フィルムの印刷ズレを目視観察し、以下の基準にて判定した。
◎:印刷ズレ(フィルムの伸びと縮み)の発生が観察されない
○:僅かに印刷ズレが観察されるが実用上使用可能なレベルである
×:印刷ズレが観察され実用上使用不可のレベルにある不合格)
【0051】
<平面性(片タルミ)>
上記要領で作成した絵柄印刷フィルムをロール状から2m長さに引き出し、片タルミの平面性について目視観察し、以下の基準にて判定した。
◎:絵柄印刷フィルムには片タルミの平面性はほとんど観察されない
○:僅かに片タルミが観察されるが実用上使用可能なレベルである
×:片タルミがやや目立ち、シート状での外観も悪い(不合格)
【0052】
(9)成形性
上記(8)にて作成した絵柄印刷フィルムを、オスメス金型を用いて、底面直径50mm、深さ5mmの円筒状に100個/分の速度で連続成形した。得られたサンプルの状態を目視観察し、以下の基準にて判定した。
◎:100個中95個以上がフィルム破れの発生がなく、均一に成形されている
○:100個中80個以上がフィルム破れの発生がなく、均一に成形されている
×:100個中21個以上にフィルム破れが発生し、不良個所が多く観察される(不合格)
【0053】
(10)転写成形品の低光沢感
上記(10)にて得られたフィルムの底面部分において日本電色(株)社製 グロスメ−タ− VG−107型を用いて、JIS Z−8741の方法に準じて光沢度を測定した。入射角,反射角60度に於ける黒色標準板の反射率を基準に試料の反射率を求め光沢度とし、以下の基準にて判定した。
◎:0以上20未満
○:20以上30未満
×:30以上
【0054】
(11)ポリエステルフィルム生産時の安定性
ポリエステルフィルムを生産する際に発生する破断(フィルム破れ)の回数を以下の基準で判定した。
◎:1日当たり1回未満
○:1日当たり1回以上3回未満
×:1日当たり3回以上
【0055】
次に以下の例において使用したポリエステル原料について説明する。
<ポリエステル1>
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸、多価アルコール成分としてエチレングリコールを使用し、定法の溶融重合法にて極限粘度が0.66dl/gとする滑剤粒径を含有しないポリエステルチップを製造した。
【0056】
<ポリエステル2>
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸、多価アルコール成分としてエチレングリコールを使用し、定法の溶融重合法にて極限粘度が0.66dl/gとし平均粒径4.5μmのメタクリル酸アルキル−スチレン共重合体による有機粒子を10部含有させたポリエステルチップを製造した。
【0057】
<ポリエステル3>
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸、多価アルコール成分としてエチレングリコールを使用し、定法の溶融重合法にて極限粘度が0.66dl/gとし平均粒径2.5μmの非晶質シリカを0.60部含有してポリエステルチップを製造した。
【0058】
<ポリエステル4>
ジカルボン酸成分としてイソフタル酸およびテレフタル酸、多価アルコール成分としてエチレングリコールをそれぞれ使用し、常法の溶融重縮合法で重合した原料チップを製造した。この原料のジカルボン酸成分中のイソフタル酸含量は22モル%であった。
【0059】
実施例1:
ポリエステル1とポリエステル2とポリエステル4を40:40:20の重量比率で配合し、押出機にて溶融させて、積層ダイの外層Aに供給し、積層ダイの内層Bにはポリエステル1を供給し、積層ダイの他方の外層Cにはポリエステル1とポリエステル3を75:25の重量比率で配合し、それぞれの押出機にて外層Aと内層Bと外層Cの押出量比率を7:36:7の割合で供給し、外層A/内層B/外層Cの構成からなる3種3層の積層ポリエステル樹脂をフィルム状に押出して、35℃の冷却ドラム上にキャストして急冷固化した未延伸フィルムを作製した。次いで80℃の加熱ロールで予熱した後、赤外線加熱ヒーターと加熱ロールを併用して95℃のロール間で縦方向に3.2倍延伸した後、次いでフィルム端部をクリップで把持してテンター内に導き、110℃の温度で加熱しつつ横方向に4.2倍延伸し、250℃で10秒間の熱処理を行うと同時に幅方向に10%弛緩を施して厚み50μmのポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性は下記表1に示すとおりであった。この結果より、印刷ズレ、平面性共に良好であり、成形性も問題なく、かつ低光沢感に優れる結果が得られた。フィルムを生産する際の安定性も非常に優れたものであった。
【0060】
実施例2:
実施例1において、外層Aに供給する原料配合をポリエステル1、2、4の重量比率を45:40:10にした以外は、実施例1と同様にして厚み50μmのポリエステルフィルムを得た。
【0061】
実施例3:
実施例1において、外層Aに供給する原料配合をポリエステル1、2、4の重量比率を30:60:10にした以外は、実施例1と同様にして厚み50μmのポリエステルフィルムを得た。実施例2と比較し、低光沢感には優れるものであったが、フィルム生産の際、破断が発生した。
【0062】
比較例1:実施例1において外層Aに供給する原料配合をポリエステル1、2の重量比率を10:90にした以外は、実施例1と同様にして厚み50μmのポリエステルフィルムを得た。低光沢感には優れるものであったが、フィルム生産の際、破断が多発した。
【0063】
比較例2:実施例1において外層Aに供給する原料配合をポリエステル1、2の重量比率を60:40にした以外は、実施例1と同様にして厚み50μmのポリエステルフィルムを得た。実施例1と同じ粒子数にもかかわらず、低光沢感に劣るものであった。
【0064】
比較例3:実施例1において外層Aに供給する原料配合をポリエステル1、2、3の重量比率を20:40:40にした以外は、実施例1と同様にして厚み50μmのポリエステルフィルムを得た。成形時に外層Aと内層Bの物性差が原因と考えられる界面剥離によるフィルム破れが発生した。
【0065】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明のフィルムは、インモールド転写用のフィルムとして好適に利用することができる。