(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5674316
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月25日
(54)【発明の名称】構造体のたわみ抑制方法
(51)【国際特許分類】
B23Q 1/72 20060101AFI20150205BHJP
B23Q 11/00 20060101ALI20150205BHJP
【FI】
B23Q1/72 B
B23Q11/00 Z
【請求項の数】3
【全頁数】5
(21)【出願番号】特願2010-1465(P2010-1465)
(22)【出願日】2010年1月6日
(65)【公開番号】特開2011-140083(P2011-140083A)
(43)【公開日】2011年7月21日
【審査請求日】2012年8月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 孝男
(72)【発明者】
【氏名】則久 孝志
【審査官】
山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−216319(JP,A)
【文献】
特開平05−077075(JP,A)
【文献】
実開平01−114241(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 1/00−1/76,9/00−9/02,11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下端が固定されて上下方向に立設され、前記下端から上方へ所定距離離れた位置に案内部材を水平に備えると共に、前記案内部材に、水平移動可能な移動体を設けた構造体において、前記移動体を所定の加速度で移動させたときに前記構造体に加わる前記移動体の移動方向の力によって前記構造体に発生するたわみを抑制する方法であって、
前記構造体に、前記構造体に加わる前記移動体の移動方向の力を打ち消す方向に回転トルクを発生させることを特徴とする構造体のたわみ抑制方法。
【請求項2】
前記回転トルクを、前記構造体にステータを連結したモータと、そのモータのロータに負荷イナーシャを与える負荷イナーシャ付与手段とによって発生させることを特徴とする請求項1に記載の構造体のたわみ抑制方法。
【請求項3】
前記負荷イナーシャ付与手段を、前記ロータに連結した円盤としたことを特徴とする請求項2に記載の構造体のたわみ抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械等の各種機械の構造体において生じるたわみを抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械等の各種機械において、構造体に沿って移動する移動体を設けた場合、当該移動体が加減速する際の反力等によって構造体にたわみが発生することがある。例えば工作機械の一例である門型マシニングセンタにおいては、ベッドに立設された構造体としてのコラムの前面に、水平なクロスレールを上下移動可能に設け、そのクロスレールの前面に、主軸頭を備えたサドルを移動体として水平移動可能に設けているが、このサドルが水平移動する際の反力によってコラムにたわみが発生する。この反力により、振動が発生して機械の精度が損なわれることになる。また、このようなたわみは、移動体の移動に伴う反力に限らず、外部からの力によっても生じることがある。
【0003】
構造体のたわみを抑制するには、構造体自体の断面二次モーメントを高めることで解決できるが、機械の大型化やコストアップを招く。そこで、特許文献1には、移動体を備えるものにおいて、移動体の運動方向と平行で移動体の重心を通る軸に沿って反作用相殺力ベクトル(移動体の質量とその直線加速度との積に等しい大きさを持つベクトル)を構造体に加えるアクチュエータを設置する発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−329962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の発明においては、横向きに設置されるベース上をステージ(移動体)が水平移動する場合において、構造体の外部で固定されるアクチュエータによってベースの側面から反作用相殺力ベクトルを加えるようになっている。このため、コラムに設けたクロスレールに沿ってサドルが水平移動する工作機械のように、重量の大きい移動体が水平移動する場合では、移動体に対して絶対的な固定物(例えば数百トンの塊)を隣設する必要があって実現は難しく、たとえ可能であったとしても機械全体の大型化やコストアップに繋がってしまう。従って、工作機械のように空間的に制約がある機械への設置は困難となっている。
【0006】
そこで、本発明は、大型化やコストアップを招かないコンパクトな構成で効果的にたわみの抑制が可能となる構造体のたわみ抑制方法を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、
下端が固定されて上下方向に立設され、下端から上方へ所定距離離れた位置に案内部材を水平に備えると共に、案内部材に、水平移動可能な移動体を設けた構造体において、移動体を所定の加速度で移動させたときに構造体に加わる移動体の移動方向の力によって構造体に発生するたわみを抑制する方法であって、構造体に、構造体に加わる移動体の移動方向の力を打ち消す方向に回転トルクを発生させることを特徴とするものである。
請求項2に記載の発明は、請求項1の構成において、回転トルクを、構造体にステータを連結したモータと、そのモータのロータに負荷イナーシャを与える負荷イナーシャ付与手段とによって発生させることを特徴とするものである。
請求項3に記載の発明は、請求項2の構成において、負荷イナーシャ付与手段を、ロータに連結した円盤としたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、構造体に発生させる回転トルクによって構造体に加わる力を打ち消し、たわみを効果的に抑制することができる。特に、構造体の外部に重量の大きい固定物等を設置する必要がないため、大型化やコストアップを抑えたコンパクトな構成でたわみ抑制が実現可能となる。
請求項2に記載の発明によれば、請求項1の効果に加えて、省スペース且つ簡単に回転トルクの付与が可能となる。
請求項3に記載の発明によれば、請求項2の効果に加えて、構造体内でのロータへの負荷イナーシャの付与が容易に行える。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1において、1は機械に設けられる柱状の構造体で、その上部には案内部材2が水平に設けられて、案内部材2に、移動体3が水平移動可能に設けられている。このような機械としては、門型マシニングセンタが一例としてあげられる。その場合、構造体1がコラム、案内部材2がクロスレール、移動体3がサドルに夫々相当する。
そして、案内部材2の下方で構造体1の内部には、モータ4が組み込まれて、そのステータ5が構造体1に連結される一方、ロータ6には、負荷イナーシャ
付与手段として質量のある円盤7が連結されている。よって、モータ4が駆動すると、ステータ5を介してロータ6及び円盤7の回転方向と反対方向で構造体1に回転トルクを印加可能となる。
【0011】
ここで、構造体1の固定端から距離Lだけ離れた位置に設置した質量Mの移動体3を、加速度αで移動させたとき、構造体1に加わる力Fは、
F=M*α
となる。
このときの構造体1のたわみδ1は、
δ1=F*L
3/3EI
となる。Eは構造体1の縦弾性係数、Iは断面二次モーメントである。
【0012】
一方、モータ4による回転トルクTで構造体1に発生するたわみδ2は、
δ2=
T*L
2/2EI
となる。
よって、たわみδ1=δ2とおくと、
T=2/3*F*L
=(2/3*M*L)*α
となる。
従って、加速度に比例したトルクTを発生するようにモータ4を制御すれば、移動体3の移動に伴って構造体1に発生するたわみを打ち消すことができる。
【0013】
このように、上記形態のたわみ抑制方法によれば、構造体1に、移動体3の移動に伴って構造体1に加わる力を打ち消す方向に回転トルクを発生させるようにしたことで、構造体1に発生させるモーメントによって構造体1に加わる力を打ち消し、たわみを効果的に抑制することができる。特に、構造体1の内部に組み込んだモータ4の制御によってたわみの抑制が可能となるため、構造体1の外部に重量の大きい固定物等を設置する必要がなく、大型化やコストアップを抑えたコンパクトな構成でたわみ抑制が実施できる。
【0014】
特にここでは、回転トルクを、構造体1にステータ5を連結したモータ4と、そのモータ4のロータ6に負荷イナーシャを与える負荷イナーシャ付与手段とによって発生させるようにしているため、省スペース且つ簡単に回転トルクの付与が可能となる。
また、負荷イナーシャ
付与手段を、ロータ6に連結した円盤7によって行うことで、ロータ6への負荷イナーシャの付与が容易に行える。
【0015】
なお、上記形態では、負荷イナーシャ
付与手段としてロータに連結した円盤を挙げているが、ロータに錘を連結する等の他の手段によっても差し支えない。
また、構造体への回転トルクの付与はモータに限らず、例えば構造体内部で一対のアクチュエータを別体で立設し、各アクチュエータの上端を夫々構造体に軸着して、両アクチュエータを互いに逆に伸縮動作させるようにしても回転トルクの付与は可能である。
【産業上の利用可能性】
【0016】
構造体の態様としては、上記形態のように下端が固定される柱状の構造体に限らず、両端や中央が固定された構造体であっても、回転トルクの発生によるたわみの抑制は可能である。従って、本発明は、工作機械に限らず、測定機や先行技術文献で挙げた投影露光装置等の各種機械に適用可能となる。
【符号の説明】
【0017】
1・・構造体、2・・案内部材、3・・移動体、4・・モータ、5・・ステータ、6・・ロータ、7・・円盤。