特許第5674324号(P5674324)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5674324スリーブ印刷版の製造方法及びスリーブ印刷版の製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5674324
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月25日
(54)【発明の名称】スリーブ印刷版の製造方法及びスリーブ印刷版の製造装置
(51)【国際特許分類】
   B41C 1/05 20060101AFI20150205BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20150205BHJP
【FI】
   B41C1/05
   G03F7/20 511
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2010-31810(P2010-31810)
(22)【出願日】2010年2月16日
(65)【公開番号】特開2010-214943(P2010-214943A)
(43)【公開日】2010年9月30日
【審査請求日】2012年2月8日
(31)【優先権主張番号】特願2009-37863(P2009-37863)
(32)【優先日】2009年2月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】305060154
【氏名又は名称】ユニバーサル製缶株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100146835
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 義文
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100107836
【弁理士】
【氏名又は名称】西 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100126893
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(72)【発明者】
【氏名】花房 達也
(72)【発明者】
【氏名】橋本 浩明
(72)【発明者】
【氏名】本多 直人
【審査官】 藏田 敦之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/151126(WO,A1)
【文献】 特開2006−239948(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/153877(WO,A1)
【文献】 特開2007−021898(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/014619(WO,A1)
【文献】 特開2006−272682(JP,A)
【文献】 特開2007−160788(JP,A)
【文献】 特開平02−243344(JP,A)
【文献】 特表2010−534150(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41C 1/05
B41N 1/06
G03F 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷装置のシリンダに装着されて使用され、被印刷物に印刷される画像パターンと、前記シリンダに立設されたガイドピンに係合される位置決め用切欠部と、を備えたスリーブ印刷版の製造方法であって、
円筒状をなすスリーブ素体に前記位置決め用切欠部を形成する位置決め切欠部形成工程と、前記スリーブ素体に前記画像パターンを形成する画像パターン形成工程と、前記スリーブ素体が複数の前記スリーブ印刷版を製造可能な長尺スリーブ素体とされ、このスリーブ素体を所定の軸線方向長さに切断する切断工程と、を有し、
外周面に前記スリーブ素体が装着可能な回転ドラム及びこの回転ドラムを回転可能に支持する軸支部を有するスリーブ素体支持部と、前記回転ドラムに装着された前記スリーブ素体に対してレーザ光を照射するレーザ光照射部と、を備えたレーザ加工機を用いて、前記切断工程、前記位置決め用切欠部形成工程及び前記画像パターン形成工程を、同一の前記スリーブ素体支持部に前記スリーブ素体を装着した状態で行う構成とされており、
前記切断工程及び前記位置決め用切欠部形成工程では、切断位置及び形状と位置決め用切欠部形成位置及び形状とを示す第1画像データに基づいて前記回転ドラム及び前記レーザ照射部の動作を制御することによって、前記スリーブ素体の肉厚全体を除去して前記スリーブ素体の切断及び前記位置決め用切欠部の形成を行い、
前記画像パターン形成工程では、前記画像パターンの位置及び形状を示す第2画像データに基づいて前記回転ドラム及び前記レーザ照射部の動作を制御することによって前記画像パターンを形成する構成とされ、
前記レーザ加工機が、前記スリーブ素体に照射されるレーザ光のエネルギー密度を制御するエネルギー密度調整部を有し、
前記レーザ光照射部が、前記スリーブ素体の外周面を1回走査することによって、前記切断工程、前記位置決め用切欠部形成工程及び前記画像パターン形成工程が行われることを特徴とするスリーブ印刷版の製造方法。
【請求項2】
前記スリーブ素体の肉厚が、0.1mm以上1.0mm以下とされていることを特徴とする請求項1に記載のスリーブ印刷版の製造方法。
【請求項3】
前記レーザ光照射部が、炭酸ガスレーザを照射する構成とされていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のスリーブ印刷版の製造方法。
【請求項4】
印刷装置のシリンダに装着されて使用され、被印刷物に印刷される画像パターンと、前記シリンダに立設されたガイドピンに係合される位置決め用切欠部と、を備えたスリーブ印刷版の製造装置であって、
円筒状をなすスリーブ素体を装着可能な回転ドラム及びこの回転ドラムを回転可能に支持する軸支部を有するスリーブ素体支持部と、
前記回転ドラムに装着された前記スリーブ素体に対してレーザ光を照射するレーザ光照射部と、
前記回転ドラム及び前記レーザ光照射部の動作を制御する制御部と、を備えており、
この制御部には、切断位置及び形状と位置決め用切欠部形成位置及び形状を示す第1画像データ並びに前記画像パターンの位置及び形状を示す第2画像データを記憶する記憶手段と、前記第1画像データに基づいて前記位置決め用切欠部を形成する際のレーザ光のエネルギー密度と前記第2画像データに基づいて前記画像パターンを形成する際のレーザ光のエネルギー密度とをそれぞれ調整するエネルギー密度調整部と、が設けられており、
前記レーザ光照射部が、前記スリーブ素体の外周面を1回走査することによって、切断、前記位置決め用切欠部の形成、及び前記画像パターンの形成を行うように制御されることを特徴とするスリーブ印刷版の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷装置のシリンダに装着されて使用され、被印刷物に印刷される画像パターンと、前記シリンダに立設されたガイドピンに係合される位置決め用切欠部と、を備えたスリーブ印刷版の製造方法及びスリーブ印刷版の製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
前述のスリーブ印刷版は、例えば特許文献1に記載されているように、フレキソ印刷、凸版印刷の分野において広く使用されている。また、特許文献2に記載されているように、缶等の円筒物に対するオフセット印刷の分野においても、スリーブ印刷版が適用されている。
このスリーブ印刷版では、画像パターンの周方向位置がスリーブ支持体上で予め設定されているので、スリーブ支持体とシリンダとの位置合わせを行うことで画像パターンの見当合わせを行うことができ、画像パターンの交換作業に掛かる時間と労力を大幅に削減することが可能となる。
【0003】
ここで、前述のスリーブ印刷版においては、スリーブ支持体の一部に前記軸線方向端部に向けて開口した位置決め用切欠部が設けられており、この位置決め用切欠部が前記シリンダに立設されたガイドピンと係合することによって、スリーブ印刷版とシリンダとの周方向の相対位置及び軸線方向の相対位置が決定される構成とされている。
このような従来のスリーブ印刷版は、通常、繊維強化プラスチック(FRP)製のスリーブ支持体と、このスリーブ支持体の外周面に配設され、例えばレーザー光による彫刻が可能な感光性樹脂からなり画像パターンが形成された版本体と、で構成されている。ここで、スリーブ支持体の肉厚は約1mm程度とされており、円筒形状を保持する構成とされている。
【0004】
このようなスリーブ印刷版は、以下のようにして製造される。まず、円筒面を有する固定台に強化繊維を巻き付けて、溶融したプラスチック樹脂を塗布して硬化させることを繰り返し行うことによって、繊維強化プラスチック(FRP)製のスリーブ支持体を製出する。次に、このスリーブ支持体の外周面全体に版材を配設してスリーブ素体を製出する。このスリーブ素体の軸線方向端部に位置決め用切欠部を機械加工によって形成する。そして、この切欠部を基準として、レーザ加工機や露光装置等を用いて、版材の外周面に画像パターンを形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−326938号公報
【特許文献2】特開2006−272682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前述のスリーブ印刷版の製造方法においては、位置決め用切欠部を機械的加工によって形成した後に、この位置決め用切欠部を基準として、他の加工装置を用いて画像パターンを形成していることから、画像パターンを形成する際の位置決め精度によっては画像パターンと位置決め用切欠部との相対位置に狂いが生じてしまい、高品質な印刷を行うことができないおそれがあった。したがって、スリーブ印刷版毎に位置合わせを精度良く行う必要があり、せっかくスリーブ印刷版を用いたにもかかわらず、画像パターンの交換作業に掛かる時間と労力を削減することができなくなってしまうことになる。
【0007】
本発明は、前述の事情に鑑みてなされたものであって、位置決め用切欠部と画像パターンとを、互いの相対位置が一致するように精度良く形成することが可能なスリーブ印刷版の製造方法及びスリーブ印刷版の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述の課題を解決するために、本発明に係るスリーブ印刷版の製造方法は、印刷装置のシリンダに装着されて使用され、被印刷物に印刷される画像パターンと、前記シリンダに立設されたガイドピンに係合される位置決め用切欠部と、を備えたスリーブ印刷版の製造方法であって、円筒状をなすスリーブ素体に前記位置決め用切欠部を形成する位置決め切欠部形成工程と、前記スリーブ素体に前記画像パターンを形成する画像パターン形成工程と、前記スリーブ素体が複数の前記スリーブ印刷版を製造可能な長尺スリーブ素体とされ、このスリーブ素体を所定の軸線方向長さに切断する切断工程と、を有し、外周面に前記スリーブ素体が装着可能な回転ドラム及びこの回転ドラムを回転可能に支持する軸支部を有するスリーブ素体支持部と、前記回転ドラムに装着された前記スリーブ素体に対してレーザ光を照射するレーザ光照射部と、を備えたレーザ加工機を用いて、前記切断工程、前記位置決め用切欠部形成工程及び前記画像パターン形成工程を、同一の前記スリーブ素体支持部に前記スリーブ素体を装着した状態で行う構成とされており、前記切断工程及び前記位置決め用切欠部形成工程では、切断位置及び形状と位置決め用切欠部形成位置及び形状とを示す第1画像データに基づいて前記回転ドラム及び前記レーザ照射部の動作を制御することによって、前記スリーブ素体の肉厚全体を除去して前記スリーブ素体の切断及び前記位置決め用切欠部の形成を行い、前記画像パターン形成工程では、前記画像パターンの位置及び形状を示す第2画像データに基づいて前記回転ドラム及び前記レーザ照射部の動作を制御することによって前記画像パターンを形成する構成とされ、前記レーザ加工機が、前記スリーブ素体に照射されるレーザ光のエネルギー密度を制御するエネルギー密度調整部を有し、前記レーザ光照射部が、前記スリーブ素体の外周面を1回走査することによって、前記切断工程、前記位置決め用切欠部形成工程及び前記画像パターン形成工程が行われることを特徴としている。
【0009】
この構成のスリーブ印刷版の製造方法によれば、スリーブ素体を同一の前記スリーブ素体支持部の回転ドラムに装着した状態で、位置決め切欠部形成工程と画像パターン形成工程とが行われるので、位置決め用切欠部と画像パターンとの相対位置にズレが生じるおそれがなく、高品位な印刷が可能なスリーブ印刷版を製造することが可能となる。
さらに、レーザ加工機によって、位置決め用切欠部及び画像パターンを形成しているので、加工に伴う熱が局所的に作用することにより、スリーブ印刷版の変形を抑制することができる。
【0011】
さらに、前記スリーブ素体が複数の前記スリーブ印刷版を製造可能な長尺スリーブ素体とされ、このスリーブ素体を所定の前記軸線方向長さに切断する切断工程を備えており、 前記レーザ加工機を用いて、前記切断工程、前記位置決め用切欠部形成工程及び前記画像パターン形成工程を、同一の前記スリーブ素体支持部に前記スリーブ素体を装着した状態で行う構成とされているので、一つのスリーブ素体から複数のスリーブ印刷版を製造することが可能となる。よって、スリーブ印刷版を効率良く製造することができる。また、この切断工程、前記位置決め用切欠部形成工程及び前記画像パターン形成工程が、同一の前記スリーブ素体支持部に装着した状態で行われるので、スリーブ印刷版の軸線方向長さ、位置決め用切欠部及び画像パターンとの相対位置精度が向上することになる。
【0012】
また、レーザ光のエネルギー密度を制御するエネルギー密度調整部を備えているので、位置決め用切欠部を形成する際及びスリーブ素体を切断する際には、エネルギー密度を比較的高くしてスリーブ素体の厚さ方向全体を除去し、画像パターンを形成する際には、エネルギー密度を比較的低くして、スリーブ素体の肉厚の一部のみを除去することが可能となる。よって、レーザ光照射部を1回走査させることで、スリーブ素体の切断、位置決め用切欠部の形成および画像パターンの形成を行うことができ、スリーブ印刷版をさらに効率良く製造することができる。また、スリーブ印刷版の軸線方向長さ、位置決め用切欠部と画像パターンとの相対位置の精度をさらに向上させることができる。
【0013】
さらに、前記スリーブ素体の肉厚が、0.1mm以上1.0mm以下とされていることが好ましい。
この場合、スリーブ素体の肉厚が0.1mm以上とされているので、スリーブ印刷版としての剛性が確保され、伸び等による画像パターンの変形や位置決め用切欠部の変形を抑制することができる。また、スリーブ素体の肉厚が1.0mm以下とされているので、レーザ加工によって確実にスリーブ素体の厚さ方向全体を除去することができ、効率的に位置決め用切欠部を形成することができる。
【0014】
また、前記レーザ光照射部が、炭酸ガスレーザを照射する構成とされていることが好ましい。
この場合、レーザの出力が比較的高くなるので、スリーブ素体の厚さ方向全体を除去することができ、位置決め用切欠部を効率的に、かつ、確実に形成することができる。
【0015】
また、本発明のスリーブ印刷版の製造装置は、印刷装置のシリンダに装着されて使用され、被印刷物に印刷される画像パターンと、前記シリンダに立設されたガイドピンに係合される位置決め用切欠部と、を備えたスリーブ印刷版の製造装置であって、円筒状をなすスリーブ素体を装着可能な回転ドラム及びこの回転ドラムを回転可能に支持する軸支部を有するスリーブ素体支持部と、前記回転ドラムに装着された前記スリーブ素体に対してレーザ光を照射するレーザ光照射部と、前記回転ドラム及び前記レーザ光照射部の動作を制御する制御部と、を備えており、この制御部には、切断位置及び形状と位置決め用切欠部形成位置及び形状を示す第1画像データ並びに前記画像パターンの位置及び形状を示す第2画像データを記憶する記憶手段と、前記第1画像データに基づいて前記位置決め用切欠部を形成する際のレーザ光のエネルギー密度と前記第2画像データに基づいて前記画像パターンを形成する際のレーザ光のエネルギー密度とをそれぞれ調整するエネルギー密度調整部と、が設けられており、前記レーザ光照射部が、前記スリーブ素体の外周面を1回走査することによって、切断、前記位置決め用切欠部の形成、及び前記画像パターンの形成を行うように制御されることを特徴としている。
【0016】
この構成のスリーブ印刷版の製造装置によれば、位置決め用切欠部形成位置及び形状を示す第1画像データ及び前記画像パターンの位置及び形状を示す第2画像データを記憶する記憶手段を備えているので、この第1画像データ及び第2画像データに基づいて位置決め用切欠部及び画像パターンを形成することができる。また、前記第1画像データに基づいて前記位置決め用切欠部を形成する際のレーザ光のエネルギー密度と前記第2画像データに基づいて前記画像パターンを形成する際のレーザ光のエネルギー密度とを、それぞれ調整するエネルギー密度調整部を備えているので、スリーブ素体へのレーザ加工深さをそれぞれ調整することができ、位置決め用切欠部及び画像パターンを好適に形成することができる。
【0017】
また、前記第1画像データが、切断位置及び形状と前記位置決め用切欠部形成位置及び形状とを示すものであることから、第1画像データに基づいてレーザ光を照射することで、スリーブ素体の切断と位置決め用切欠部の形成を行うことができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、位置決め用切欠部と画像パターンとを、互いの相対位置が一致するように精度良く形成することが可能なスリーブ印刷版の製造方法及びスリーブ印刷版の製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態であるスリーブ印刷版の製造方法および製造装置によって製造されるスリーブ印刷版の斜視図である。
図2図1のスリーブ印刷版を軸線方向から見た図である。
図3】本実施形態であるスリーブ印刷版の製造装置の概略図である。
図4】本実施形態であるスリーブ印刷版の製造方法に用いられるスリーブ素体、第1画像データ及び第2画像データを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の実施の形態について添付した図面を参照して説明する。
まず、本実施形態であるスリーブ印刷版の製造装置50及び製造方法によって製造されるスリーブ印刷版30について図1図2を用いて説明する。
このスリーブ印刷版30は、図1及び図2に示すように、軸線Oに沿って延びる円筒状をなすスリーブ支持体31と、スリーブ支持体31の外周側に配設された版材32と、を備えている。
【0021】
スリーブ支持体31は、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂で形成されており、外径Dが100mm≦D≦300mm、軸線O方向長さLが50mm≦L≦600mm、とされ、外径Dと軸線O方向長さLとの比L/Dが0.2≦L/D≦2に設定されている。さらに、スリーブ支持体31の肉厚tは、0.1mm≦t≦1.0mmとされている。なお、本実施形態においては、スリーブ支持体31の軸線O方向長さは、200mmとされている。
【0022】
版材32は、例えばレーザー光による彫刻が可能な感光性樹脂からなり、肉厚が0.5mm〜1.0mmの円筒状をなしている。この版材32の外周面には、画像パターンを有する凸版33が刻設されている。
そして、スリーブ印刷版の軸線O方向端部には、印刷装置のシリンダに立設されたガイドピンと係合することによって、前記シリンダとの周方向相対位置、軸線O方向相対位置を案内する位置決め用切欠部34が形成されている。
【0023】
次に、前述のスリーブ印刷版30を製造する際に用いられる本実施形態であるスリーブ印刷版の製造装置50について、図3及び図4を参照にして説明する。
【0024】
本実施形態であるスリーブ印刷版の製造装置50は、図3に示すように、円筒状をなすスリーブ素体40が装着される円筒面51Aを有する回転ドラム51及びこの回転ドラム51を回転可能に支持する軸支部52を有するスリーブ素体支持部53と、回転ドラム51を軸線Nを中心に回動させる回転駆動部55と、回転ドラム51に装着されたスリーブ素体40に対してレーザ光を照射するレーザ光照射部60と、このレーザ光照射部60を回転ドラム51の軸線Nに平行な方向に移動させる直動部65と、これら回転ドラム51、直動部65及びレーザ光照射部60の動作を制御する制御部70と、を備えている。
【0025】
ここで、回転ドラム51は、図4に示すスリーブ素体40の内径よりも僅かに大きな外径とされており、スリーブ素体40は、その収縮力によって回転ドラム51の円筒面51Aに強く押圧されて固定される構成とされている。さらに、この回転ドラム51には、円筒面51Aに開口されたエア孔(図示なし)からエアを噴出するエア噴出機構(図示なし)が設けられている。
また、スリーブ素体支持部53には、回転ドラム51の回転位置情報θを得るための回転方向位置センサ54が設けられている。
【0026】
直動部65は、回転ドラム51の軸線Nに平行な方向に延在するガイドバー66と、このガイドバー66に沿って移動する支持部材67と、支持部材67の位置情報(軸線N方向位置情報Z)を得る軸線方向位置センサ68と、を備えている。
そして、レーザ光照射部60は、直動部65の支持部材68に支持され、軸線Nに平行な方向に移動可能な構成とされている。また、このレーザ光照射部60には、レーザ光の出力を調整する出力調整器61が設けられている。なお、本実施形態においては、レーザ光照射部60は炭酸ガスレーザで構成されている。
【0027】
制御部70は、位置決め用切欠部形成位置及び形状と切断位置及び形状を示す第1画像データ41及び凸版33の画像パターンの位置及び形状を示す第2画像データ42を記憶する記憶手段71と、第1画像データ41に基づいて、切断及び位置決め用切欠部を形成する際のレーザ光のエネルギー密度と第2画像データ42に基づいて凸版33の画像パターンを形成する際のレーザ光のエネルギー密度とを、それぞれ調整するエネルギー密度調整部72と、を備えている。
そして、第1画像データ41及び第2画像データ42に基づいて、回転ドラム51、直動部65及びレーザ光照射部60の動作を制御し、スリーブ素体40の切断、位置決め用切欠部34の形成、凸版33の形成を行う。
【0028】
次に、このような構成とされた本実施形態であるスリーブ印刷版の製造装置50を用いたスリーブ印刷版の製造方法について説明する。
まず、回転ドラム51の円筒面51Aに、図4に示すスリーブ素体40を装着する。このとき、スリーブ素体40の一端を回転ドラム51に嵌め込み、この状態でエア噴出機構によってエア孔からエアを噴出する。すると、このエアによってスリーブ素体40が拡径され、回転ドラム51にスリーブ素体40が装着される。このとき、スリーブ素体40の軸線Oと回転ドラム51の軸線Nが一致することになる。
【0029】
ここで、スリーブ素体40は、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂の外周面に、レーザー光による彫刻が可能な感光性樹脂が積層されたものであり、その軸線O方向長さL0が50mm≦L0≦3000mmとされており、本実施形態では、L0=1600mmとされている。すなわち、図4に示すように、一つのスリーブ素体40から、8つのスリーブ印刷版30が製造可能とされている。
【0030】
次に、位置決め用切欠部形成位置及び形状と切断位置及び形状を示す第1画像データ41と、凸版33の画像パターンの位置及び形状を示す第2画像データ42と、を記憶手段71に記憶させる。
そして、制御部70において、これら第1画像データ41及び第2画像データ42に基づいて、回転ドラム51、直動部65及びレーザ光照射部60の動作を制御する。
【0031】
レーザ光照射部60からスリーブ素体40に向けてレーザ光を照射しながら、回転ドラム51を回転駆動部55によって回転させるとともに直動部65によって軸線N方向に移動させることにより、スリーブ素体40の外周面全体をレーザ光照射部60によって走査させる。
【0032】
ここで、第1画像データ41に該当する箇所では、エネルギー密度調整部72から出力調整器61に指令信号が発信されてレーザ光の出力が高く設定され、スリーブ素体40の肉厚全体が除去されることになる。これにより、スリーブ素体40の切断及び位置決め用切欠部34の形成が行われる。
一方、第2画像データ42に該当する箇所では、エネルギー密度調整部72から出力調整器61に指令信号が発信されてレーザ光の出力が低く設定され、スリーブ素体40の肉厚の一部が除去されることになる。これにより、スリーブ素体40に凸版33の画像パターンが形成される。
【0033】
このようにして、レーザ光の出力を調整することでレーザ光のエネルギー密度が調整され、スリーブ素体40の外周面全体をレーザ光照射部60によって1回走査させることによって、スリーブ素体40の切断、位置決め用切欠部34の形成及び凸版33の画像パターンの形成が行われ、一つのスリーブ素体40から8つのスリーブ印刷版30が製出されることになる。
【0034】
以上のような構成とされた本実施形態であるスリーブ印刷版の製造装置50及びこの製造装置50を用いたスリーブ印刷版の製造方法によれば、スリーブ素体40を同一のスリーブ素体支持部53の回転ドラム51に装着した状態で、位置決め切欠部34の形成と凸版33の画像パターンの形成とが行われるので、位置決め用切欠部34と凸版33の画像パターンとの相対位置にズレが生じるおそれがなく、高品位な印刷が可能なスリーブ印刷版30を製造することが可能となる。
また、レーザ光を照射することでスリーブ素体40を除去し、切断や、位置決め用切欠部34及び凸版33の画像パターンの形成を行っているので、加工に伴う熱が局所的に作用することになり、スリーブ印刷版30の変形を抑制することができる。
【0035】
また、切断位置及び形状並びに位置決め用切欠部形成位置及び形状を示す第1画像データ41と、凸版33の画像パターンの形成位置及び形状を示す第2画像データ42と、を記憶する記憶手段71を備えており、これら第1画像データ41及び第2画像データ42に基づいて回転ドラム51、直動部65及びレーザ光照射部60の動作を制御しているので、スリーブ印刷版30を寸法精度良く成形することが可能となる。
【0036】
また、第1画像データ41に基づいてスリーブ素体40の切断及び位置決め用切欠部34の形成を行う際のレーザ光のエネルギー密度と第2画像データ42に基づいて凸版33の画像パターンを形成する際のレーザ光のエネルギー密度とを、それぞれ調整するエネルギー密度調整部72を備えているので、スリーブ素体40へのレーザ加工深さをそれぞれ調整することができ、レーザ光照射部60がスリーブ素体40の外周面を1回走査することによって、スリーブ印刷版30を形成することが可能となる。よって、スリーブ印刷版30を効率良く製造することができるとともに、位置決め用切欠部34と凸版33の画像パターンとの相対位置の精度をさらに向上させることができる。
【0037】
また、本実施形態では、スリーブ素体40の肉厚が、0.1mm以上1.0mm以下とされているので、スリーブ印刷版30としての剛性が確保され、伸び等による画像パターンの変形や位置決め用切欠部34の変形を抑制することができるとともに、レーザ加工によって効率的に切断及び位置決め用切欠部34の形成を行うことができる。
さらに、本実施形態では、レーザ光照射部60が、炭酸ガスレーザとされているので、レーザの出力が比較的高くなり、切断や位置決め用切欠部34の形成を効率的に、かつ、確実に行うことができる。
【0038】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、レーザ光照射部の出力を調整することでレーザ光のエネルギー密度を調整するものとして説明したが、これに限定されることはなく、回転ドラムの回転速度や直動部の移動速度を低速にして当該箇所におけるレーザ光のエネルギー密度を高くし、回転ドラムの回転速度や直動部の移動速度を高速にして当該箇所におけるレーザ光のエネルギー密度を低くしてもよい。
【0039】
また、レーザ光照射部がスリーブ素体の外周面を1回走査することで、切断、位置決め用切欠部の形成及び凸版の画像パターンの形成を行う構成として説明したが、これに限定されることはなく、レーザ光照射部を2回以上走査させてスリーブ印刷版を製出してもよい。
さらに、スリーブ素体の切断を、位置決め用切欠部及び凸版の画像パターンの形成とともに行うものとして説明したが、これに限定されることはなく、切断工程を別途実施してもよい。
【0040】
また、回転ドラムを回転させる回転駆動部の構成は、図示されたものに限定されることはなく、回転ドラムを軸線N中心に回転可能なものであれば特に制限はない。
さらに、直動部の構成についても、図示されたものに限定されることはなく、レーザ光照射部を軸線N方向に移動可能であればよい。
【0041】
また、製造されるスリーブ印刷版30は、本実施形態に記載されたものに限定されることはない。例えば、スリーブ支持体が繊維強化プラスチック(FRP)で構成されたものであってもよいし、スリーブ支持体を有さないものであってもよい。
【実施例】
【0042】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験結果を示す。
凸版を形成するスリーブ素体として、FRP(繊維強化プラスチック)製の基材(厚さ0.45mm)の表面に、レーザー光による彫刻が可能な感光性樹脂からなる版材(厚さ0.6mm)が積層され、最外径が218mm、軸線方向長さ2000mmのものを準備した。
このスリーブ素体を、回転ドラム51に装着し、レーザ光照射部60からレーザ光を照射して、切断及び彫刻を行った。
【0043】
レーザ光の出力を150Wとし、スリーブ素体を加工する箇所における集光径を0.01mmとした。
ここで、回転数200rpm(周速度2.3m/sec)でスリーブ素体を回転させた場合、レーザ光によってスリーブ素体の厚さ方向全体が除去され、スリーブ素体を切断することが可能であった。
一方、回転数500rpm(周速度5.7m/sec)でスリーブ素体を回転させた場合、レーザ光によってスリーブ素体の厚さ方向の一部が除去されるのみであり、スリーブ素体に彫刻を行うことが可能であった。なお、彫刻深さは、0.5mmであった。
【0044】
次に、スリーブ素体を加工する箇所におけるレーザ光の集光径を0.01mmとし、回転ドラムの回転数を200rpmとした。
ここで、出力調整器により、レーザ光の出力を調整した。なお、この実施例では、出力調整器としてAOM(ACOUSTIC OPTICAL MODULATOR)を備えたものを使用した。
レーザ光の出力を150Wとした場合には、レーザ光によってスリーブ素体の厚さ方向全体が除去され、スリーブ素体を切断することが可能であった。
一方、レーザ光の出力を60Wとした場合には、レーザ光によってスリーブ素体の厚さ方向の一部が除去されるのみであり、スリーブ素体に彫刻を行うことが可能であった。なお、彫刻深さは、0.5mmであった。
【0045】
この実施例から、スリーブ素体(回転ドラム)の回転数を調整することで、レーザ光のエネルギー密度が制御でき、レーザ光による彫刻と切断とを同一の装置で行うことが可能であることが確認された。
また、スリーブ素体を加工する箇所におけるレーザ光の出力を調整することで、回転ドラムの回転数が一定の場合であっても、切断と彫刻とを行うことが可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0046】
30 スリーブ印刷版
31 スリーブ版材
33 凸版
40 スリーブ素体
41 第1画像データ
42 第2画像データ
50 スリーブ印刷版の製造装置
51 回転ドラム
52 軸支部
53 スリーブ素体支持部
60 レーザ光照射部
61 出力調整部
65 直動部
70 制御部
71 記憶手段
72 エネルギー密度調整部
図1
図2
図3
図4