特許第5674329号(P5674329)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5674329食品用品質改良剤、その製造方法および加熱用食品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5674329
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月25日
(54)【発明の名称】食品用品質改良剤、その製造方法および加熱用食品
(51)【国際特許分類】
   A23L 1/03 20060101AFI20150205BHJP
【FI】
   A23L1/03
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2010-66428(P2010-66428)
(22)【出願日】2010年3月23日
(65)【公開番号】特開2011-193842(P2011-193842A)
(43)【公開日】2011年10月6日
【審査請求日】2013年2月26日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591219566
【氏名又は名称】青葉化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095359
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【弁理士】
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】阿久津 光紹
(72)【発明者】
【氏名】松本 俊介
(72)【発明者】
【氏名】千葉 克則
(72)【発明者】
【氏名】下村 武生
【審査官】 小暮 道明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−149045(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/028274(WO,A1)
【文献】 特開平07−227228(JP,A)
【文献】 特開平02−086743(JP,A)
【文献】 特開2009−106271(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
C12N9/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸処理ゼラチンとアルカリ処理ゼラチンとを混合したゼラチンとトランスグルタミナーゼとアンモニウム塩とを含み、所定量の水に分散させたとき、全体量に対し、前記ゼラチンを3乃至7質量%、前記トランスグルタミナーゼを0.001乃至0.020質量%、前記アンモニウム塩を0.005乃至0.10質量%含むゲルになることを、特徴とする食品用品質改良剤。
【請求項2】
前記アンモニウム塩はリン酸二水素アンモニウム、塩化アンモニウム、硫酸アルミニウムアンモニウム、炭酸水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、炭酸アンモニウム、過硫酸アンモニウムおよび硫酸アンモニウムのうちの1種または2種以上の組み合わせから成ることを、特徴とする請求項1記載の食品用品質改良剤。
【請求項3】
酸処理ゼラチンとアルカリ処理ゼラチンとを混合したゼラチンとトランスグルタミナーゼとアンモニウム塩と水とを含み、全体量に対し、前記ゼラチンを3乃至7質量%、前記トランスグルタミナーゼを0.001乃至0.020質量%、前記アンモニウム塩を0.005乃至0.10質量%含むゲルから成ることを、特徴とする食品用品質改良剤。
【請求項4】
請求項1または2記載の食品用品質改良剤を、水を含む全体量に対し、前記ゼラチンは3乃至7質量%、前記トランスグルタミナーゼは0.001乃至0.020質量%、前記アンモニウム塩は0.005乃至0.10質量%となるよう前記水に加え、撹拌しながら加熱して溶解させた後、冷ましてゲル化させることを、特徴とする食品用品質改良剤の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至のいずれか1項記載の食品用品質改良剤を配合して成る加熱用食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品用品質改良剤、その製造方法および加熱用食品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の食品用品質改良剤として、ゼラチンにトランスグルタミナーゼを作用させて製造される、耐熱性に優れたゲルがある(例えば、特許文献1、2、3または4参照)。この耐熱性ゲルは、食品に使用するのに優れたテクスチャーを有しており、その耐熱性を活かして加熱調理品に応用することができる。この耐熱性ゲルの応用例として、フカヒレ様食品(例えば、特許文献5参照)や、ソーセージ等の食肉製品用野菜シート(例えば、特許文献6参照)、練り製品に包餡するゲル状調味液(例えば、特許文献7または8参照)がある。
【0003】
なお、従来、タンパク質とトランスグルタミナーゼとの反応を抑制する方法として、アンモニウム塩を併用する方法がある(例えば、特許文献9参照)が、食品加工用塩漬剤の粘度上昇を抑制するものであり、耐熱性を有するゲルに関するものではない。また、あらかじめトランスグルタミナーゼで架橋された高重合度ゼラチンも存在する(例えば、特許文献10参照)が、その製法上、酵素が失活する65℃以上の耐熱性をゲルに付与することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭58−149645号公報
【特許文献2】特開2009−106271号公報
【特許文献3】特開平7−227228号公報
【特許文献4】特開平6−98743号公報
【特許文献5】特開平2−171160号公報
【特許文献6】特開2007−20417号公報
【特許文献7】特開2002−17305号公報
【特許文献8】特開2002−238491号公報
【特許文献9】特開2001−149045号公報
【特許文献10】特開平2−86743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1および3の食品用品質改良剤では、ゼラチンとトランスグルタミナーゼとの反応を制御することが困難であるという課題があった。また、特許文献2の食品用品質改良剤では、ゼラチンやトランスグルタミナーゼの配合量の調整、pHや温度の調整によって、ある程度、反応の制御は可能であるが、15分以内の短時間でゲル化するため、特殊な設備が必要になるという課題があった。特許文献4では、ゼラチンゲルを形成した後に、トランスグルタミナーゼ溶液に浸漬することにより、反応を制御しているが、工程が煩雑であり、特殊な設備も必要であるという課題があった。
【0006】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、特殊な設備を必要とせず、原料の反応を容易に制御することができる耐熱性の食品用品質改良剤、その製造方法およびそれを用いた加熱用食品を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記目的を達成するために研究を重ねた結果、ゼラチン、トランスグルタミナーゼ、アンモニウム塩の配合を調整することで、ゲルのセット時間を調整できること、また、特にアンモニウム塩の配合比と、使用するゼラチンの酸処理ゼラチンおよびアルカリ処理ゼラチンの配合比とを変えることで、耐熱性を有するゼラチンゲルの物性を調整できることを見いだし、本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明に係る食品用品質改良剤は、酸処理ゼラチンとアルカリ処理ゼラチンとを混合したゼラチンとトランスグルタミナーゼとアンモニウム塩とを含み、所定量の水に分散させたとき、全体量に対し、前記ゼラチンを3乃至7質量%、前記トランスグルタミナーゼを0.001乃至0.020質量%、前記アンモニウム塩を0.005乃至0.10質量%含むゲルになることを、特徴とする。
【0009】
本発明に係る食品用品質改良剤は、粉状、液状、ゲル状など性状を問わない。
本発明に係る食品用品質改良剤の製造方法は、本発明に係る食品用品質改良剤を、水を含む全体量に対し、前記ゼラチンは3乃至7質量%、前記トランスグルタミナーゼは0.001乃至0.020質量%、前記アンモニウム塩は0.005乃至0.10質量%となるよう前記水に加え、撹拌しながら加熱して溶解させた後、冷ましてゲル化させることを、特徴とする。このゲル状の場合、本発明に係る食品用品質改良剤を、酸処理ゼラチンとアルカリ処理ゼラチンとを混合したゼラチンとトランスグルタミナーゼとアンモニウム塩と水とを含み、全体量に対し、前記ゼラチンを3乃至7質量%、前記トランスグルタミナーゼを0.001乃至0.020質量%、前記アンモニウム塩を0.005乃至0.10質量%含むゲルから成るものとしてもよい。
【0010】
本発明に係る食品用品質改良剤の製造方法によれば、ゲル状の本発明に係る食品用品質改良剤を容易に製造することができる。本発明に係る食品用品質改良剤および食品用品質改良剤の製造方法では、ゼラチンとトランスグルタミナーゼの架橋反応に対し、原料としてアンモニウム塩を添加して製造することにより、耐熱性を維持したまま、ゲル化までの時間を遅らせることができる。このため、アンモニウム塩の添加量を調整するだけで、ゲル化までの時間を調整することができ、特殊な設備を必要とせず、原料の反応を容易に制御することができる。特殊な設備を必要としないため、工業的に利用することができ、安定した品質で量産することができる。
【0011】
また、アンモニウム塩を添加することにより、加熱時のゲル強度を下げることができる。このため、例えば、ゲルをカットして成型するときの強度や、加熱調理時の耐熱性を保ちながらの喫食時の食感を、任意に調整することができる。本発明に係る食品用品質改良剤および食品用品質改良剤の製造方法によれば、様々なゲル化時間および物性を有する耐熱性のゲルを容易に調整することができる。なお、トランスグルタミナーゼの配合量によっても、ゲル化までの時間を調整することができ、原料の反応を容易に制御することができる。
【0012】
本発明に係る食品用品質改良剤および本発明に係る食品用品質改良剤の製造方法において、前記アンモニウム塩はリン酸二水素アンモニウム、塩化アンモニウム、硫酸アルミニウムアンモニウム、炭酸水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、炭酸アンモニウム、過硫酸アンモニウムおよび硫酸アンモニウムのうちの1種または2種以上の組み合わせから成ることが好ましい。この場合、アンモニウム塩の入手が容易かつ安価である。
【0014】
本発明に係る食品用品質改良剤および本発明に係る食品用品質改良剤の製造方法は、アンモニウム塩の添加量だけでなく、ゼラチンの種類や、各種のゼラチンの配合量によっても、ゲル化までの時間を調整することができ、原料の反応を容易に制御することができる。また、酸処理ゼラチンを使用することにより、脆く砕けやすいゲルを、アルカリ処理ゼラチンを使用することにより弾力の強いゲルを得ることができるため、これらを混合したゼラチンを使用することにより中間の物性のゲルを得ることができる。このように、本発明に係る食品用品質改良剤を使用することにより、様々なテクスチャーの食品を得ることができる。食品においては、食感は美味しさの重要な要素の一つであることから、ゲルの食感を調整できるということは大変有意義である。
本発明に係る加熱用食品は、本発明に係る食品用品質改良剤を配合して成ることを特徴とする。本発明に係る加熱用食品の例としては、ハンバーグ、メンチカツなどの畜肉練り製品、肉まんの餡、和菓子の餡、コーヒーその他の飲料などが挙げられる。
【0015】
本明細書において、ゼラチンの質量%は、乾燥状態での質量%である。また、本明細書において、単に「%」で示すときは質量%を意味する。
本発明に係る食品用品質改良剤は、糖類、食塩、調味料、着色料、香料、抗酸化剤などの添加物を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、特殊な設備を必要とせず、原料の反応を容易に制御することができる耐熱性の食品用品質改良剤、その製造方法およびそれを用いた加熱用食品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の形態の食品用品質改良剤の、ゼラチンの種類および配合量を変えたときの破断強度解析結果を示すグラフである。
図2】本発明の実施の形態の食品用品質改良剤の、アンモニウム塩の配合量が0%のときの動的粘弾性測定結果を示すグラフである。
図3】本発明の実施の形態の食品用品質改良剤の、アンモニウム塩の配合量が0.02%のときの動的粘弾性測定結果を示すグラフである。
図4】本発明の実施の形態の食品用品質改良剤の、アンモニウム塩の配合量が0.04%のときの動的粘弾性測定結果を示すグラフである。
図5】本発明の実施の形態の食品用品質改良剤の、アンモニウム塩の配合量が0.06%のときの動的粘弾性測定結果を示すグラフである。
図6】本発明の実施の形態の食品用品質改良剤の、アンモニウム塩の配合量を変えたときの貯蔵弾性率(G’)の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[アンモニウム塩によるゲル化速度の調整]
本発明の食品用品質改良剤において、アンモニウム塩を加えることにより、ゼラチンにトランスグルタミナーゼが作用してゲル化するときの速度が変化することを確認するとともに、アンモニウム塩の添加量によるゲル化速度の変化を調べるために、以下の試験を行った。
【0019】
アンモニウム塩として塩化アンモニウムおよびリン酸二水素アンモニウムを用い、表1に示す配合で、各試験区を調製した。各原料を混合し、水に分散させた後、50℃まで撹拌しながら加熱、昇温して溶解させた。その後、50℃に維持して3時間観察し続け、ゲル化する時間を測定した。
【0020】
【表1】
【0021】
表1に示すように、試験区1は20分、試験区2および試験区5は150分、試験区4は60分でゲル化した。また、試験区3は、3時間以内ではゲル化しなかった。このように、塩化アンモニウムまたはリン酸二水素アンモニウムを添加することにより、ゲル化速度が変化することが確認された。また、アンモニウム塩の添加量が多いほど、ゲル化までの時間が長くなることも確認された。このように、本発明の食品用品質改良剤では、アンモニウム塩の添加量により、ゲル化までの時間を調整することができる。
【0022】
このため、特殊な製造設備がなくとも、従来の加熱溶解、充填設備で耐熱性のゲルを量産することができる。従来、耐熱性を付与したゼラチンゲルは、専用の設備を有する製造所で製造され、実際の食品製造所に輸送されて使用されていたが、本発明の食品用品質改良剤を使用することにより、実際にゲルを使用する現場でゲルを調製し、そのまま食品へ使用することができる。これにより、輸送をはさむことによる衛生面のリスクを回避することができ、製造コストを下げることもできる。
【0023】
塩化アンモニウムの式量は53.49、リン酸二水素アンモニウムの式量は115.03である。同重量使用した場合、塩化アンモニウムのアンモニウムイオンの物質量は、リン酸二水素アンモニウムの約2倍となる。試験区2と試験区5のゲル化までの時間が同じことから、アンモニウム塩の種類にかかわらず、アンモニウムイオンの濃度でゲル化速度が変わると考えられる。なお、塩化アンモニウムおよびリン酸二水素アンモニウムのいずれも微量で高い効果が見られたが、計量時の作業性から、以下の試験ではアンモニウム塩として、リン酸二水素アンモニウムを用いた。
【0024】
[ゼラチンの種類および各成分の配合量の検討]
本発明の食品用品質改良剤において、ゼラチンの種類およびゼラチン、トランスグルタミナーゼ、アンモニウム塩の配合量を変えたときの、ゲル化速度の変化を調べる試験を行った。ゼラチンとして、ゲル強度が110gfの酸処理ゼラチン、ゲル強度が200gfの酸処理ゼラチンおよびアルカリ処理ゼラチン、ゲル強度が300gfの酸処理ゼラチンを用いた。また、アンモニウム塩として、リン酸二水素アンモニウムを用いた。
【0025】
表2に示す配合で、各試験区を調製した。各原料を混合し、水に分散させた後、50℃まで撹拌しながら加熱、昇温して溶解させた。その後、50℃に維持して5時間観察し続け、ゲル化する時間を測定した。
【0026】
【表2】
【0027】
表2に示すように、使用した全ての種類のゼラチンにおいて、ゼラチンおよびトランスグルタミナーゼの配合量が多いほどゲル化速度が速く、リン酸二水素アンモニウムの配合量が多いほどゲル化速度が遅くなることが確認された。また、酸処理ゼラチンでは、ゲル強度の高いゼラチンほどゲル化速度が速いことが確認された。同じゲル強度では、アルカリ処理ゼラチンよりも酸処理ゼラチンのほうが、全体的にゲル化速度が速いことが確認された。
【0028】
この結果から、本発明の食品用品質改良剤では、酸処理ゼラチンを使用すること、ゲル強度の高いゼラチンを使用すること、ゼラチンの配合量を多くすること、トランスグルタミナーゼを多く使用することにより、ゲル化速度を速くすることができる。また、アンモニウム塩を多く配合することにより、ゲル化速度を遅くすることができる。このように、アンモニウム塩の添加量だけでなく、ゼラチンの種類や、ゼラチンおよびトランスグルタミナーゼの配合量によっても、ゲル化までの時間を調整することができる。
【0029】
このため、例えば、ゲル強度が300gfの酸処理ゼラチンのような、ゲル化速度の速いものを使用して固いゲルを製造する場合、アンモニウム塩の配合を増やすことにより、原料の溶解から容器への充填までの間にゲル化するのを防ぐことができる。
【0030】
[ゼラチンの種類によるゲル物性の調整]
本発明の食品用品質改良剤において、ゼラチンとしての酸処理ゼラチンおよびアルカリ処理ゼラチンの配合量を変えたときの、ゲル物性の変化を調べる試験を行った。ゼラチンとして、ゲル強度が250gfの酸処理ゼラチンおよびアルカリ処理ゼラチンを用いた。また、アンモニウム塩として、リン酸二水素アンモニウムを用いた。
【0031】
表3に示す配合で、各試験区を調製した。各原料を混合し、水に分散させた後、50℃まで撹拌しながら加熱、昇温して溶解させた。その後、50℃で5分間維持してから容器に充填し、シールして10℃で一晩置いた。こうして形成された各試験区のゲルに対し、破断強度解析を行い、その結果を図1に示す。
【0032】
【表3】
【0033】
図1(a)に示すように、試験区1〜5では、荷重−歪み曲線に、互いに変化は認められなかった。また、図1(b)に示すように、試験区6は、破断点、破断強度ともに低く、脆いゲルを形成しており、試験区7〜10では、その順に破断点、破断強度ともに徐々に高くなっていき、弾力の強いゲルを形成していることが確認された。
【0034】
試験結果から、トランスグルタミナーゼを作用させない場合(試験区1〜5)、酸処理ゼラチンのゲル物性とアルカリ処理ゼラチンのゲル物性とには、ほとんど差がないが、トランスグルタミナーゼを作用させた場合(試験区6〜10)、酸処理ゼラチンとアルカリ処理ゼラチンとでゲル物性が異なることが確認された。また、酸処理ゼラチンは、脆く砕けやすいゲルを形成し、アルカリ処理ゼラチンは弾力の強いゲルを形成し、さらにこれらを混合することで中間の物性が得られることが確認された。
【0035】
この違いは、トランスグルタミナーゼの基質となるグルタミンの含量、また、ゼラチンの分子量分布の違いによるものであると考えられる。酸処理ゼラチンは、グルタミンを多く含み、架橋部分が多く形成されること、および、酸処理で主鎖が分解されて分子量の低い分子も含まれることから、トランスグルタミナーゼを作用させると脆く砕けやすいゲルを形成すると考えられる。一方、アルカリ処理ゼラチンは、アルカリ処理により多くのグルタミンがグルタミン酸になり、架橋部分が少ないが、主鎖が分解されず分子量の高い分子が多く含まれるため、ゼラチン本来のゲル強度を高めたような弾力の強いゲルを形成すると考えられる。
【0036】
[アンモニウム塩によるゲル物性の調整]
本発明の食品用品質改良剤において、アンモニウム塩の配合量を変えたときの、ゲル物性の変化を調べる試験を行った。ゼラチンとして、ゲル強度が150gfのアルカリ処理ゼラチンを用いた。また、アンモニウム塩として、リン酸二水素アンモニウムを用いた。
【0037】
表4に示す配合で、各試験区を調製した。各原料を混合し、水に分散させた後、50℃まで撹拌しながら加熱、昇温して溶解させた。その後、50℃で5分間維持してから容器に充填し、シールして10℃で一晩置いた。こうして形成された各試験区のゲルに対し、動的粘弾性測定を行った。測定は、レオストレス600(HAAKE社製)を使用し、25℃から100℃の範囲で10Pa、1Hzの一定応力振幅で測定を行った。その測定結果を、図2〜6に示す。また、各試験区のゲルを20mm角にダイスカットし、湯煎で50℃に加温して、保形性および食感の確認を行い、その結果を表5に示す。
【0038】
【表4】
【0039】
【表5】
【0040】
図2〜5に示すように、動的粘弾性測定の結果、試験区1〜4のすべてにおいて、50℃付近で貯蔵弾性率(G’)、損失弾性率(G”)が共に下がった。また、70℃以上になると、水分の蒸発によりG’、G”が共に緩やかに上昇した。試験区4では、95℃付近で損失正接(tanδ)の大きなピークが現れたが、100℃になってもゲルは溶解しなかった。また、図6に示すとおり、50℃以上に加温したときのG’は、低い順に、試験区4、3、2、1であった。
【0041】
表5に示すように、試験区1〜4の全てで、50℃まで加温してもゲルが保形性を保っていた。官能検査の結果、試験区1のゲルは弾力が強く残り、試験区2では弾力が弱くなり、試験区3および4では弾力が感じられなくなっていた。
【0042】
試験結果から、アンモニウム塩の添加量を増やすと、加熱前のゲルのG’はほとんど変化しないが、ゲルを加熱したときのG’が低下することから、アンモニウム塩の添加で加熱時のゲル強度を下げられることが確認された。これは、酵素による架橋反応が進むにつれて基質が減少し、相対的に阻害剤であるアンモニウムイオンの濃度比率が高まり、ある時点で架橋反応がほとんど進まなくなることに起因すると考えられる。図6に示すように、アンモニウム塩の有無にかかわらず、加熱により最初にゼラチン分子の本来の構造がほどけてG’が下がるが、架橋による共有結合が残ってG’が安定することがわかる。そして、そのときのG’、即ちゲル強度は、アンモニウム塩の添加量が多いほど低くなっており、架橋点の数に応じて変化すると推測される。この変化は、表5に示す官能試験においても感じられるレベルである。
【0043】
これを食品に応用すると、例えば、ゲルをカットして成型するときの強度、および、加熱調理時の耐熱性を保ちながらの喫食時の食感を、任意に調整できると考えられる。喫食時の温度でゲルの食感を残したり、半分溶けたような状態にしたり、温度や用途に応じて物性を変ることができる。例えば、ハンバーグに使用する場合、焼成時にゲルが溶けず、喫食時に加温するとゲルは残るものの食感が残らず肉汁のように感じさせることができる。逆に、ゲルの食感を残してアクセントにすることもできる。
【実施例1】
【0044】
本発明の食品用品質改良剤(ゼラチン83.4%、トランスグルタミナーゼ0.00084%、アンモニウム塩0.005%、残りはぶどう糖)を使用して、表6に示す配合で、畜肉加工品向けの耐熱性ゲルを製造した。まず、各原料を計量して、ジャケット付きタンクに水と食品用品質改良剤とを入れ、撹拌して50℃で加熱溶解した。これにブイヨンベース(野菜エキス)を添加し、撹拌溶解した後、所定容器に充填した。充填後、粗熱をとり、10℃以下の冷蔵庫内で一晩あん蒸させてから冷凍した。なお、充填段階では架橋・ゲル化がみられず、充填に支障なく製造することができた。製造された耐熱性ゲルは、加熱加工品の加熱条件下でも溶解せずにゲル状を保ち、ハンバーグ、肉まん等に使用するのに適している。
【0045】
【表6】
【実施例2】
【0046】
[ハンバーグの食感改良・歩留向上効果]
実施例1で製造した畜肉加工品向けの耐熱性ゲル(耐熱性ブイヨンベースゲル)を、φ2mmでチョッピングし、表7に示す配合にて、冷凍食品のハンバーグ(以下、「テスト区」とする)を製造した。また、比較例として、一般的な冷凍食品のハンバーグ(以下、「コントロール」とする)を製造した。
【0047】
【表7】
【0048】
製造したハンバーグを比較すると、コントロールは、ボソボソした食感であるのに対して、テスト区は、粗挽き感があり、食感が良いことが確認された。また、テスト区は、コントロールに比べて、レンジアップ後の加熱により、ジューシー感が向上しかつ継続されることが確認された。このように、本発明の食品用品質改良剤を使用することにより、加熱処理による食感の低下や、ジューシー感の低下を抑制することができ、耐熱性に優れることが確認された。また、本発明の食品用品質改良剤を使用しない場合に比べて、製品の歩留が向上することも確認された。なお、一般的なレトルト加熱ハンバーグと比較しても、同様の効果が観られた。
【実施例3】
【0049】
[肉まん中具の食感改良]
実施例1で製造した畜肉加工品向けの耐熱性ゲルを、φ2mmでチョッピングし、表8に示す配合にて、ホットベンダー向け肉まん(以下、「テスト区」とする)を製造した。また、比較例として、一般的な肉まん(以下、「コントロール」とする)を製造した。
【0050】
【表8】
【0051】
また、表9に示す配合にて、肉まんの生地を製造した。生地は、まず、表9の配合通りに原料を10分間混合し、30℃で40分間発酵させた後、70gを計量して、25℃で20分間二次発酵させて製造した。また、肉まんは、45gの中具を生地に包餡して、95℃で15分間蒸し、常温にて冷却した後、冷凍し、80℃、湿度90%で温めて製造した。
【0052】
【表9】
【0053】
コントロールとテスト区とで、80℃、湿度90%の恒温器に8時間保管した後、食感や、中具の生地への染みこみ具合等を確認した。その結果、コントロールは中具から生地への染みこみが多く、食感が悪いのに対し、テスト区は染みこみが少なく、ジューシー感が維持されていることが確認された。このように、本発明の食品用品質改良剤を使用することにより、加熱処理による食感の低下や、ジューシー感の低下を抑制することができ、耐熱性に優れることが確認された。
【実施例4】
【0054】
[メンチカツの食感改良]
実施例1で製造した畜肉加工品向けの耐熱性ゲルを、φ2mmでチョッピングし、表10に示す配合にて、冷凍食品向けメンチカツ(以下、「テスト区」とする)を製造した。また、比較例として、一般的なメンチカツ(以下、「コントロール」とする)を製造した。
【0055】
【表10】
【0056】
メンチカツは、まず、作製された中具を成型し、打ち粉をまぶしてバッタリング、ブレッドリングした後、180℃で8分間油ちょうし、その後、冷凍して、500Wで5分間レンジアップして製造した。
【0057】
製造したメンチカツを比較すると、コントロールは、ジューシー感が無く、食感が悪いのに対して、テスト区はジューシー感が向上しており、食感が良好であることが確認された。このように、本発明の食品用品質改良剤を使用することにより、加熱処理による食感の低下や、ジューシー感の低下を抑制することができ、耐熱性に優れることが確認された。
【実施例5】
【0058】
本発明の食品用品質改良剤(ゼラチン83.4%、トランスグルタミナーゼ0.00084%、アンモニウム塩0.01%、残りはブドウ糖)を使用して、表11に示す配合で、菓子加工品向けの耐熱性ゲルを製造した。まず、各原料を計量して、タンクに水をはり、グラニュー糖と事前に粉体混合した食品用品質改良剤を入れ、撹拌して50℃で加熱溶解した。これに事前に加熱した加糖練乳を添加し、撹拌溶解した後、所定容器に充填した。充填後、粗熱をとり、10℃以下の冷蔵庫内で一晩あん蒸させてから冷凍した。なお、充填時間が110分以内であれば、架橋・ゲル化がみられず、支障なく充填することができた。
【0059】
【表11】
【実施例6】
【0060】
[菓子等の具材の食感改良]
実施例5で作製した菓子加工品向けの耐熱性ゲルをカッティングし、あんこ100質量部に対して、耐熱性ゲル30質量部を配合して、大判焼き餡を製造した。
【0061】
通常、加糖練乳をあんこに組み込むと、それぞれが混ざり合ってしまい、組成中の配合量が多いあんこに味が均一化されてしまうが、食品用品質改良剤を使用して練乳ソースをゲル化させることにより、それぞれの味が独立した味となったことが確認された。このように、本発明の食品用品質改良剤を使用することにより、味の均一化が起こりにくく、風味が独立して存在することができる。また、生地への練乳の染みこみがなく、かつ違和感のない練乳ソースゲルが得られる。加熱されることで、他の増粘多糖類では、粘着性・ネト感が残るが、本発明の食品用品質改良剤を使用することにより、ゼラチン状テクスチャーでありながら、不自然な固形感がないものとなっている。生地が加熱されることにより、練乳ソースゲルがゾル状に変化し、風味が良好な製品となった。
【実施例7】
【0062】
本発明の食品用品質改良剤(ゼラチン83.4%、トランスグルタミナーゼ0.0017%、アンモニウム塩0.005%、残りはブドウ糖)を使用して、表12に示す配合で、飲料品向けの耐熱性ゲルを製造した。まず、各原料を計量して、タンクに水をはり、コーヒー粉末、グラニュー糖と事前に粉体混合した食品用品質改良剤を入れ、撹拌して製剤を50℃で加熱溶解した。これに香料、還元水あめを添加し、撹拌溶解した後、所定容器に充填した。充填後、粗熱をとり、10℃以下の冷蔵庫内で一晩あん蒸させてから冷凍した。なお、充填段階では架橋・ゲル化がみられず、充填に支障なく製造することができた。製造された耐熱性ゲルは、飲料の加熱条件下でも溶解せずにゲル状を保ち、コーヒー飲料用の新規具材として使用するのに適している。
【0063】
【表12】
【実施例8】
【0064】
[コーヒー飲料の食感改良]
試験例7で作製した飲料品向けの耐熱性ゲルを、コーヒー飲料80質量部に対して、20質量部配合した。その結果、食感・風味が好ましい良好な飲料にすることができた。ジェランガムやペクチンなどを使用した耐熱性ゲルのテクスチャーとは異なり、本発明の食品用品質改良剤を使用することにより、レトルト加熱に耐える耐熱性がありながらも、他にはない特筆すべきテクスチャーが得られることが確認された。また、食品用品質改良剤中のゼラチンの種類を変更することで、粘弾性からさくい食感(サクサクした食感)までテクスチャーを調整できることが確認された。
【実施例9】
【0065】
本発明の食品用品質改良剤(ゼラチン83.4%、トランスグルタミナーゼ0.0017%、アンモニウム塩0.01%、残りはブドウ糖)を使用して、フカヒレ様食感ゲルを製造した。まず、タンクに水をはり、水94質量部に対して、6質量部の割合で食品用品質改良剤を入れ、撹拌して製剤を50℃で加熱溶解した後、所定容器に充填した。充填後、粗熱をとり、10℃以下の冷蔵庫内で一晩あん蒸させてから冷凍した。なお、充填時間は120分以内であれば、架橋・ゲル化がみられず、支障なく充填することができた。
【0066】
ゼラチンとして、ゲル強度が250gfのアルカリ処理ゼラチン、およびゲル強度が300gfの酸処理ゼラチンを用い、表13に示すように各ゼラチンの配合量を変化させたフカヒレ様食感ゲルを製造した。冷凍されたフカヒレ様食感ゲルを、120℃で30分間、レトルト加熱した後、その食感を調べた。試験結果を、表13に示す。
【0067】
【表13】
【0068】
製造したフカヒレ様食感ゲルは、フカヒレ様食感のテクスチャーを有していることが確認された。このことから、本発明の食品用品質改良剤を使用することにより、レトルト加熱処理による食感の低下を抑制することができ、耐熱性に優れることが確認された。表13に示すように、酸処理ゼラチンを使用することにより、さくい食感(サクサクした食感)になった。また、アルカリ処理ゼラチンを使用することにより、粘弾性の強い食感になった。このように、アルカリ処理ゼラチンおよび酸処理ゼラチンの配合割合を変えることにより、レトルト加熱に対して耐熱性を保ちつつ、食感を変えることができることが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6