特許第5674449号(P5674449)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5674449
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月25日
(54)【発明の名称】工作機械
(51)【国際特許分類】
   B23Q 15/12 20060101AFI20150205BHJP
   G05B 19/18 20060101ALI20150205BHJP
【FI】
   B23Q15/12 A
   G05B19/18 T
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2010-284815(P2010-284815)
(22)【出願日】2010年12月21日
(65)【公開番号】特開2012-130983(P2012-130983A)
(43)【公開日】2012年7月12日
【審査請求日】2013年8月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】吉野 清
(72)【発明者】
【氏名】石井 肇
(72)【発明者】
【氏名】西村 浩平
【審査官】 杉山 悟史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−091283(JP,A)
【文献】 特開2012−088968(JP,A)
【文献】 特開2000−126991(JP,A)
【文献】 特開2005−144580(JP,A)
【文献】 特開平11−129144(JP,A)
【文献】 特開昭58−165951(JP,A)
【文献】 特開昭49−105277(JP,A)
【文献】 実公昭61−003522(JP,Y2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 15/00 − 15/28
G05B 19/18 − 19/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具又はワークを装着してモータ駆動する回転軸と、その回転軸の回転速度の変動振幅と変動周期とを設定する変動値設定手段と、その変動値設定手段で設定された変動振幅及び変動周期に基づいて前記回転軸の回転速度を制御する回転軸制御手段とを備えた工作機械であって、
前記変動値設定手段は、前記モータの定格出力と、切削出力と、前記モータの定格出力に対する使用割合と、前記回転速度の平均値と、前記回転軸のイナーシャとに基づいて前記変動振幅と変動周期との比率を設定し、当該比率に基づいて前記変動振幅と変動周期とを同時に設定することを特徴とする工作機械。
【請求項2】
前記変動値設定手段は、以下の式(1)に基づいて前記変動振幅と変動周期との比率を設定することを特徴とする請求項に記載の工作機械。
【数1】
【請求項3】
工具又はワークを装着してモータ駆動する回転軸と、その回転軸の回転速度の変動振幅と変動周期とを設定する変動値設定手段と、その変動値設定手段で設定された変動振幅及び変動周期に基づいて前記回転軸の回転速度を制御する回転軸制御手段とを備えた工作機械であって、
前記変動値設定手段は、前記変動振幅と変動周期との比率を設定し、当該比率に基づいて前記変動振幅と変動周期とを同時に設定すると共に、前記変動振幅と変動周期との関係を示すグラフを表示する表示手段を備え、前記グラフに、現在の前記変動振幅と変動周期との位置と、前記変動振幅と変動周期との比率に係る直線とをそれぞれ表示し、前記表示手段に設けたボタンの押し操作により、前記比率を保ったまま前記変動振幅及び変動周期を同時に変更可能としたことを特徴とする工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具又はワークを装着してモータ駆動する回転軸を備え、回転軸の回転速度を変動させて切削加工を行うことができる工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
工具又はワークを装着してモータ駆動する回転軸を備えた工作機械により切削加工を行った場合に、工具またはワークの剛性が低いといわゆる「びびり振動」が発生することがある。びびり振動が発生すると、工具が欠損したり、ワークの表面精度を悪化させるなどの問題が生じる。このびびり振動は加工面に生じた1回転前の起伏と、現在の切削による振動との間に位相遅れが生じることにより、ワークの切取り厚さが変動し振動が拡大していくものである。
このびびり振動を抑制する技術として、特許文献1及び特許文献2の対策が提案されている。特許文献1及び特許文献2に記載の技術は、回転軸の回転速度を所定の変動振幅と変動周期とで変動させて、切り取り厚さの変動による力の入力を不規則にしてびびり振動を抑制しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭49−105277号公報
【特許文献2】実公昭61−3522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載の方法は、回転速度を変動させるために変動振幅と変動周期との2つのパラメータ(以下両パラメータを区別しない場合はまとめて「変動値」という。)を設定する必要があるため、どちらのパラメータを変えたらよいかが不明であり、経験の浅いオペレータには判断が難しいという問題を有していた。
【0005】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みなされたものであって、オペレータの経験の深浅にかかわらず、回転軸の回転速度を変動させるための変動値が容易に設定できる工作機械を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、工具又はワークを装着してモータ駆動する回転軸と、その回転軸の回転速度の変動振幅と変動周期とを設定する変動値設定手段と、その変動値設定手段で設定された変動振幅及び変動周期に基づいて前記回転軸の回転速度を制御する回転軸制御手段とを備えた工作機械であって、前記変動値設定手段は、前記モータの定格出力と、切削出力と、前記モータの定格出力に対する使用割合と、前記回転速度の平均値と、前記回転軸のイナーシャとに基づいて前記変動振幅と変動周期との比率を設定し、当該比率に基づいて前記変動振幅と変動周期とを同時に設定することを特徴とするものである。
請求項に記載の発明は、請求項の構成において、前記変動値設定手段は、以下の式(1)に基づいて前記変動振幅と変動周期との比率を設定することを特徴とするものである。
【0007】
【数1】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項に記載の発明は、工具又はワークを装着してモータ駆動する回転軸と、その回転軸の回転速度の変動振幅と変動周期とを設定する変動値設定手段と、その変動値設定手段で設定された変動振幅及び変動周期に基づいて前記回転軸の回転速度を制御する回転軸制御手段とを備えた工作機械であって、
前記変動値設定手段は、前記変動振幅と変動周期との比率を設定し、当該比率に基づいて前記変動振幅と変動周期とを同時に設定すると共に、前記変動振幅と変動周期との関係を示すグラフを表示する表示手段を備え、前記グラフに、現在の前記変動振幅と変動周期との位置と、前記変動振幅と変動周期との比率に係る直線とをそれぞれ表示し、前記表示手段に設けたボタンの押し操作により、前記比率を保ったまま前記変動振幅及び変動周期を同時に変更可能としたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、1回の動作で変動振幅と変動周期との2つのパラメータを同時に設定できる。よって、経験の深浅にかかわらず、オペレータは回転軸の回転速度を変動させるための変動値を容易に設定することができる。
また、モータに流れる電流が過大とならない状況で変動値が設定でき、モータの発熱に伴う熱変位の発生が抑制される。
請求項に記載の発明によれば、グラフによって現在の変動値と変更後の変動値とが容易に認識でき、変動値の設定をより簡単に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】NC旋盤の概略構成図である。
図2】回転速度及び主軸トルクの変動状態を示す説明図である。
図3】モニタの表示を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、工作機械の一例であるNC旋盤1の概略構成図である。NC旋盤1において、主軸台2には、チャック4と爪5とを介してワークWを把握する回転軸としての主軸3が回転自在に軸支され、主軸台2の内部には、主軸3を回転駆動させるモータ6と、主軸台2に固定されて主軸3の回転速度を検出するエンコーダ7とが内蔵されている。
10はNC旋盤1の制御部で、この制御部10には、モータ6とエンコーダ7とに接続される主軸制御部11と、主軸制御部11に回転速度を指令するNC装置12とが設けられて、主軸制御部11は、エンコーダ7から検出される主軸3の回転速度を常時監視しながら、NC装置12から指令された回転速度で主軸3を回転させるようモータ6に供給する入力電力を調整している。
【0012】
また、制御部10において、NC装置12には、加工プログラム等を記憶する記憶部13と、表示手段としてのモニタ15を備えた変動値設定手段としての変動値設定部14が接続されている。NC装置12は、記憶部13に記憶された加工プログラムに従い、主軸3を回転させながら図示しない工具をワークWの回転軸方向及び半径方向に送り移動させることで、切削加工を行なう。
さらに、ここでは入力手段を備えるモニタ15から変動値設定部14に主軸3の回転速度とその変動振幅及び変動周期とを入力することにより、回転軸制御手段としてのNC装置12及び主軸制御部11を介して、図2に示すように主軸3の回転速度を指定した変動振幅及び変動周期で変動させることができるようになっている。
【0013】
そして、変動値設定部14は、変動振幅及び変動周期が入力されると、図3に示すように、モニタ15に、変動振幅を縦軸にとり、変動周期を横軸にとった変動振幅−変動周期のグラフ16を表示すると共に、現在の変動振幅−変動周期の設定値(現在の変動値)を黒丸のマーカーMで表示する。
また、モニタ15には、左下向き矢印ボタン17と右上向き矢印ボタン18とが表示されており、オペレータが何れかのボタンを押し操作すると、マーカーMの位置が当該ボタンの矢印方向に移動するようになっている。19,19は、マーカーMの位置での変動振幅と変動周期との数値をそれぞれ表示する窓である。
【0014】
但し、変動値設定部14は、回転速度の変動振幅と変動周期との比率を設定し、当該比率に基づいて変動振幅と変動周期とを同時に設定するようになっている。具体的には、変動振幅と変動周期との比率を、モータ6の定格出力と、切削出力と、モータ6の定格出力に対する使用割合と、回転速度の平均値と、主軸3のイナーシャとから求めた値とするもので、例えば以下の式(1)を満たすような値が考えられる。なお、ここでモータ6の出力を定格出力に対する割合で規定して変動させるのは、回転速度を変動させると、モータ6に流れる電流が多くなってモータ6の発熱が大きくなり、熱変位が発生するおそれがあるからである。
【0015】
【数1】
【0016】
このうち切削出力Pcは、一旦変動を開始すれば変動中の主軸トルクから算出できる。回転速度を変動させる際の時間と回転速度との関係及び、時間と主軸トルクとの関係は図2から明らかで、主軸3の回転速度の加速中及び減速中に大きなトルクが必要なことがわかる。加速中と減速中との主軸トルクは、切削トルクを中心として上下の幅が等しくなっている。このことから、切削トルクは加速中における主軸トルクと、減速中にける主軸トルクとの中央値(平均値)として求めることができる。トルクと出力の間には、以下の式(2)の関係があるため切削トルクを切削出力に換算できる。なお、求めた値には主軸3の回転による摩擦損失分が含まれるが、摩擦損失は小さな値であり、ここでは省略している。
【0017】
【数2】
【0018】
このようにして求めた切削出力を例えば2kWとし、定格出力8kW、イナーシャ0.5k・m、回転速度1500min−1、変動中の出力を定格出力の80%とした時、変動振幅を20%とすると、式(1)を満たす変動周期は1.1sとなる。
そして、グラフ16には、式(1)の比率を表す直線L1が表示されるようになっており、例えば右上向き矢印ボタン18を押すと、周期が長く且つ振幅が大きくなる方向へ、予め指定した変動振幅分だけ直線L1に沿ってマーカーMが移動し、窓19に変動値が表示される。例えば、予め指定した変動振幅を5%として、右上向き矢印ボタン18を一回押すと変動振幅は25%になり、変動周期は式(1)から1.4sとなる。ここで図示しない決定ボタンを押すと、NC装置12に変動値が出力され、主軸3の回転速度が窓19に表示された変動値で変動することになる。
【0019】
一般に、モータ6の出力が同じ場合、変動振幅が大きい方がびびり振動抑制効果が大きいものの、変動振幅が大きくなると高速時と低速時との速度差が大きいため、加工面に縞模様が現れるという相反する関係がある。そのためオペレータは、びびり振動が発生している場合には右上向き矢印ボタン18を、びびり振動が発生していない場合には左下向き矢印ボタン17を押して調整するのが望ましい。
【0020】
また、変動値設定部14では、式(1)の各パラメータの変動に伴って変動振幅と変動周期との比率の再計算を行い、直線L1を変更する。例えば加工中にワークWの削り代が大きくなると切削出力が大きくなるため、直線L1は傾きが小さくなって直線L2に変更される。ここで右上向き矢印ボタン18を押すと、マーカーMは、現在の変動振幅で直線Bと交わる点(再計算した式(1)を満たす点)を起点M1として、直線L2に沿って周期が長く且つ振幅が大きくなる方向へ予め指定した変動振幅分だけ移動することになる。
【0021】
このように、上記形態のNC旋盤1によれば、変動値設定部14が、変動振幅と変動周期との比率を設定し、当該比率に基づいて変動振幅と変動周期とを同時に設定することで、1回の動作で変動振幅と変動周期との2つのパラメータを同時に設定できる。よって、経験の深浅にかかわらず、オペレータは主軸3の回転速度を変動させるための変動値を容易に設定することができる。
特にここでは、変動値設定部14は、モータ6の定格出力と、切削出力と、モータ6の定格出力に対する使用割合と、回転速度の平均値と、主軸3のイナーシャとを用いた上記式(1)に基づいて変動振幅と変動周期との比率を設定しているので、モータ6に流れる電流が過大とならない状況で変動値が設定でき、モータ6の発熱に伴う熱変位の発生が抑制される。
【0022】
また、変動値設定部14は、変動振幅と変動周期との関係を示すグラフ16を表示するモニタ15を備え、グラフ16に、現在の変動振幅と変動周期との位置(マーカーM)と、変動振幅と変動周期との比率に係る直線L1,L2をそれぞれ表示するようにしているので、現在の変動値と変更後の変動値とが容易に認識でき、変動値の設定をより簡単に行うことができる。
【0023】
なお、変動振幅と変動周期との比率は、上記式(1)による場合に限らない。例えば切削出力がほぼ一定とみなせる場合に、現在と同等のモータの出力で変動させる時には、次の式(3)を満たすように同時に変更してもよい。
【0024】
【数3】
【0025】
定数kは、現在の変動振幅と変動周期とを代入して求める。左下向き矢印ボタン17又は右上向き矢印ボタン18を1回押すと、現在の値から定数kが求められ、式(3)を満たす変動値に変更される。例えば、右上向き矢印ボタン18を押すと、変動周期が長く変動振幅が大きくなる方向で、予め指定した変動振幅分だけ移動し、かつ式(3)を満たす変動値に変更される。この場合も式(3)の直線がグラフ上に示される。
このように、切削出力がほぼ一定とみなせる場合には、変動振幅と変動周期との関係が簡単な比例式となるため、何らかの理由で切削出力がばらついた場合でも、矢印ボタンを押して安定した変動値を得ることができる。
【0026】
さらに、上記形態では、モニタにグラフが表示されると現在の変動値を示すマーカーと比率に係る直線とが自動的に算出されて表示されるようにしているが、モニタに設けた入力手段により、これらをそれぞれ任意のタイミングで表示させるようにしてもよい。勿論グラフの形態も上記内容に限らず、軸を逆にしたり三次元的に表示したり等の変更は可能である。但し、グラフやマーカー、比率に係る直線の表示は必須ではなく、現在の変動値と変更後の変動値とを数値のみで表示したりしても差し支えない。
【0027】
一方、ここではモニタにおいて変動値を選択した後、改めて決定ボタンを入力操作することによって回転軸制御手段が回転速度の変更を実行するようにしているが、変動値の選択と連動して回転速度の変更を自動的に実行させることもできる。
その他、本発明はNC旋盤に限らず、回転軸の回転速度を変動させて切削加工を行う工作機械であれば、たとえば工具を装着する主軸を備えたマシニングセンタ等も含まれる。
【符号の説明】
【0028】
1・・NC旋盤、2・・主軸台、3・・主軸、4・・チャック、5・・爪、6・・モータ、7・・エンコーダ、10・・制御部、11・・主軸制御部、12・・NC装置、13・・記憶部、14・・変動値設定部、15・・モニタ、16・・グラフ、17・・左上向き矢印ボタン、18・・右上向き矢印ボタン、19・・窓、W・・ワーク、M・・マーカー、L1,L2・・直線。
図1
図2
図3