特許第5674480号(P5674480)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5674480
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月25日
(54)【発明の名称】口腔内フィルム状基剤及び製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/70 20060101AFI20150205BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20150205BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20150205BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20150205BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20150205BHJP
【FI】
   A61K9/70
   A61K47/10
   A61K47/26
   A61K47/32
   A61K47/38
【請求項の数】10
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2010-548356(P2010-548356)
(86)(22)【出願日】2009年3月6日
(86)【国際出願番号】JP2009054335
(87)【国際公開番号】WO2010087032
(87)【国際公開日】20100805
【審査請求日】2011年12月5日
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2009/051511
(32)【優先日】2009年1月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅利 大介
(72)【発明者】
【氏名】堀 光彦
(72)【発明者】
【氏名】小川 景子
【審査官】 高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−342154(JP,A)
【文献】 特開平11−116469(JP,A)
【文献】 特開2004−043450(JP,A)
【文献】 特表2001−504106(JP,A)
【文献】 特表2007−509172(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00− 9/72
A61K 47/00−47/48
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水及び溶解パラメーターが9.7以上の有機溶媒に可溶性である可食性高分子の1種又は2種以上と、平均粒子径が0.1μm〜60μmである単糖〜六糖の糖及びこれらの糖アルコールよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の粒子を含有し、
前記水及び溶解パラメーターが9.7以上の有機溶媒に可溶性である可食性高分子が、ポリビニルピロリドン及びヒドロキシプロピルセルロースよりなる群から選ばれる1種又は2種以上である、口腔内フィルム状基剤。
【請求項2】
糖及びこれらの糖アルコールよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の粒子の平均粒子径が、0.1μm〜30μmである、請求項1に記載の口腔内フィルム状基剤。
【請求項3】
ポリビニルピロリドンの重量平均分子量が、2,500〜3,000,000である、請求項1又は2に記載の口腔内フィルム状基剤。
【請求項4】
ヒドロキシプロピルセルロースの重量平均分子量が、10,000〜1,200,000である、請求項1又は2に記載の口腔内フィルム状基剤。
【請求項5】
ヒドロキシプロピルセルロースのヒドロキシプロポキシ基置換度が、50%〜100%である、請求項1、2又は4に記載の口腔内フィルム状基剤。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載した口腔内フィルム状基剤に、薬物を含有させてなる、口腔内フィルム状製剤。
【請求項7】
請求項1記載の口腔内フィルム状基剤の製造方法であって、
溶解パラメーターが9.7以上の有機溶媒に、水及び該有機溶媒に可溶性である可食性高分子の1種又は2種以上を溶解させるとともに、平均粒子径が0.1μm〜60μmである単糖〜六糖の糖及びこれらの糖アルコールよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の粒子を分散させ、得られた分散液の薄層を形成させて乾燥させ、
前記水及び溶解パラメーターが9.7以上の有機溶媒に可溶性である可食性高分子が、ポリビニルピロリドン及びヒドロキシプロピルセルロースよりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする、口腔内フィルム状基剤の製造方法。
【請求項8】
請求項6記載の口腔内フィルム状製剤の製造方法であって、
溶解パラメーターが9.7以上の有機溶媒に、薬物、水及び該有機溶媒に可溶性である可食性高分子の1種又は2種以上を溶解させるとともに、平均粒子径が0.1μm〜60μmである単糖〜六糖の糖及びこれらの糖アルコールよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の粒子を分散させ、得られた分散液の薄層を形成させて乾燥させ、
前記水及び溶解パラメーターが9.7以上の有機溶媒に可溶性である可食性高分子が、ポリビニルピロリドン及びヒドロキシプロピルセルロースよりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする、口腔内フィルム状製剤の製造方法。
【請求項9】
溶解パラメーターが9.7以上の有機溶媒の一部に、水及び該有機溶媒に可溶性である可食性高分子の1種又は2種以上を溶解させ、該溶液を、平均粒子径が0.1μm〜60μmである単糖〜六糖の糖及びこれらの糖アルコールよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の粒子を溶解パラメーターが9.7以上の有機溶媒の残部に分散させたものに加えて混合し、得られた分散液の薄層を形成させて乾燥させ、
前記水及び溶解パラメーターが9.7以上の有機溶媒に可溶性である可食性高分子が、ポリビニルピロリドン及びヒドロキシプロピルセルロースよりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする、口腔内フィルム状基剤の製造方法。
【請求項10】
溶解パラメーターが9.7以上の有機溶媒の一部に、水及び該有機溶媒に可溶性である可食性高分子の1種又は2種以上を溶解させ、該溶液を、溶解パラメーターが9.7以上の有機溶媒の残部に、薬物を溶解又は分散させるとともに、平均粒子径が0.1μm〜60μmである単糖〜六糖の糖及びこれらの糖アルコールよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の粒子を分散させたものに加えて混合し、得られた分散液の薄層を形成させて乾燥させ、
前記水及び溶解パラメーターが9.7以上の有機溶媒に可溶性である可食性高分子が、ポリビニルピロリドン及びヒドロキシプロピルセルロースよりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする、口腔内フィルム状製剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔内において速やかに溶解する口腔内フィルム状基剤、及び該基剤に薬物を含有させた製剤に関し、さらに詳しくは、糖や糖アルコールの微粒子が基剤中に分散されてなり、口腔内において速やかに溶解することによって、薬物が消化器官又は口腔粘膜により良好に吸収される口腔内フィルム状基剤及び製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
現在経口的に適用される薬剤として、裸錠剤、被覆錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤等の固形製剤、液剤、乳剤等の液状製剤などが市場に出されている。口腔内で崩壊し、消化管で吸収される製剤としては、口腔内崩壊錠や速溶解型口腔内フィルム状製剤が既に上市されている。
【0003】
口腔内に適用し、噛まずに唾液で崩壊又は溶解させて服用するフィルム状、テープ状或いはシート状の製剤は、海外においては既に一般用医薬品(OTC医薬品)として10製品以上が販売されており、日本においても医療用医薬品として1製品が販売されている他、一般用医薬品としても販売されている。
【0004】
かかるフィルム状製剤に関しては、ヒドロキシプロピルセルロース、又はヒドロキシプロピルセルロースとポリビニルピロリドンの混合物と、タンニン物質を溶媒に溶解し、次いで溶媒を除去して得られる製剤用基剤(特許文献1)、水溶性且つ非吸水性の多糖類及び軟化剤からなるコーティング層(a)、薬物及び可食性水溶性高分子からなる薬物層(b)、薬物、可食性水溶性高分子及びタンニン物質からなる薬物層(c)を、a、b、c、b、aの順に積層してなるフィルム状トローチ(特許文献2)、薬物及び可食性高分子物質を含有し、そのフィルムの破断強度が200〜3000g/φ7mm、フィルムの引張強度が200〜3000g/15mmであり、かつ口腔内において60秒以内で溶ける速溶性フィルム状製剤(特許文献3)、α化澱粉及び/又はプルランのいずれか一方、酵素変性澱粉及び可塑剤を配合してなることを特徴とする口腔用フィルム製剤(特許文献4)、室温において約1g/4mL未満の水溶性を有する活性成分を含み、含水率が約15重量%未満である可溶性フィルム製剤(特許文献5)、及び、薬剤と、可食性の水溶性フィルム形成剤と、モル置換度が0.05から1.0の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースとを含有することを特徴とするフィルム状製剤(特許文献6)といった技術が開示されている。また、口腔内等において迅速に崩壊し溶解する迅速溶解性製剤として、薬物、糖類及びポリビニルピロリドンを有機溶媒に溶解もしくは分散した後、有機溶媒を除去することにより調製する技術が開示されている(特許文献7)。
【0005】
しかし、これまでに開示されているフィルム状の基剤や製剤は、水溶性高分子中に薬剤を分散又は溶解したものであり、糖や糖アルコールの配合も報告されている(特許文献3、特許文献4)が、それらにおいては、糖や糖アルコールは溶媒に溶解させ、もしくは再結晶した状態で使用されている。それゆえ、従来の口腔内フィルム状基剤もしくは製剤は、口腔内に適用した際に水溶性高分子に起因するネバネバ感を呈し、また手指に取った際の触感においても、べたつき感が問題となっていた。また、迅速溶解性製剤に関する特許文献7においても、糖類の微粒子を分散する技術は示されておらず、さらにフィルム状の製剤とすることも示されていない。
【特許文献1】特開平7−187993号公報
【特許文献2】特開2001−288074号公報
【特許文献3】特開2004−43450号公報
【特許文献4】特開2005−21124号公報
【特許文献5】特表2007−528876号公報
【特許文献6】特開2008−169138号公報
【特許文献7】特開平11−116465号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明においては、口腔内における迅速な溶解プロファイルと十分なフィルム強度を有し、さらに、口腔内における水溶性高分子に起因するネバネバ感が低減され、手指に取った際の触感も向上した口腔内フィルム状基剤及び製剤を得ることを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、本発明者らは、水及び溶解パラメーターが9.7以上の有機溶媒に可溶な可食性高分子と、該有機溶媒に溶解しない糖及び糖アルコールの1種以上を用い、該有機溶媒下に、糖及び糖アルコールの1種以上が微粒子のまま分散したフィルム状基剤を得、それを用いた製剤が、口腔内において迅速な溶解プロファイルと十分なフィルム強度を有し、且つ口腔内に適用した際の感触及び手指に取った際の触感が向上していることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、次の[1]〜[10]に関する。
[1]水及び溶解パラメーターが9.7以上の有機溶媒に可溶性である可食性高分子の1種又は2種以上と、平均粒子径が0.1μm〜60μmである単糖〜六糖の糖及びこれらの糖アルコールよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の粒子を含有し、上記水及び溶解パラメーターが9.7以上の有機溶媒に可溶性である可食性高分子が、ポリビニルピロリドン及びヒドロキシプロピルセルロースよりなる群から選ばれる1種又は2種以上である、口腔内フィルム状基剤。
[2]糖及びこれらの糖アルコールよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の粒子の平均粒子径が、0.1μm〜30μmである、上記[1]に記載の口腔内フィルム状基剤。
[3]ポリビニルピロリドンの重量平均分子量が、2,500〜3,000,000である、上記[1]又は[2]に記載の口腔内フィルム状基剤。
[4]ヒドロキシプロピルセルロースの重量平均分子量が、10,000〜1,200,000である、上記[1]又は[2]に記載の口腔内フィルム状基剤。
[5]ヒドロキシプロピルセルロースのヒドロキシプロポキシ基置換度が、50%〜100%である、上記[1]、[2]又は[4]に記載の口腔内フィルム状基剤。
[6]上記[1]〜[5]のいずれか1項に記載したフィルム状基剤に、薬物を含有させてなる、口腔内フィルム状製剤。
[7]上記[1]記載の口腔内フィルム状基剤の製造方法であって、溶解パラメーターが9.7以上の有機溶媒に、水及び該有機溶媒に可溶性である可食性高分子の1種又は2種以上を溶解させるとともに、平均粒子径が0.1μm〜60μmである単糖〜六糖の糖及びこれらの糖アルコールよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の粒子を分散させ、得られた分散液の薄層を形成させて乾燥させ、上記水及び溶解パラメーターが9.7以上の有機溶媒に可溶性である可食性高分子が、ポリビニルピロリドン及びヒドロキシプロピルセルロースよりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする、口腔内フィルム状基剤の製造方法。
[8]上記[6]記載の口腔内フィルム状製剤の製造方法であって、溶解パラメーターが9.7以上の有機溶媒に、薬物、水及び該有機溶媒に可溶性である可食性高分子の1種又は2種以上を溶解させるとともに、平均粒子径が0.1μm〜60μmである単糖〜六糖の糖及びこれらの糖アルコールよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の粒子を分散させ、得られた分散液の薄層を形成させて乾燥させ、上記水及び溶解パラメーターが9.7以上の有機溶媒に可溶性である可食性高分子が、ポリビニルピロリドン及びヒドロキシプロピルセルロースよりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする、口腔内フィルム状製剤の製造方法。
[9]溶解パラメーターが9.7以上の有機溶媒の一部に、水及び該有機溶媒に可溶性である可食性高分子の1種又は2種以上を溶解させ、該溶液を、平均粒子径が0.1μm〜60μmである単糖〜六糖の糖及びこれらの糖アルコールよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の粒子を溶解パラメーターが9.7以上の有機溶媒の残部に分散させたものに加えて混合し、得られた分散液の薄層を形成させて乾燥させ、上記水及び溶解パラメーターが9.7以上の有機溶媒に可溶性である可食性高分子が、ポリビニルピロリドン及びヒドロキシプロピルセルロースよりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする、口腔内フィルム状基剤の製造方法。
[10]溶解パラメーターが9.7以上の有機溶媒の一部に、水及び該有機溶媒に可溶性である可食性高分子の1種又は2種以上を溶解させ、該溶液を、溶解パラメーターが9.7以上の有機溶媒の残部に、薬物を溶解又は分散させるとともに、平均粒子径が0.1μm〜60μmである単糖〜六糖の糖及びこれらの糖アルコールよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の粒子を分散させたものに加えて混合し、得られた分散液の薄層を形成させて乾燥させ、上記水及び溶解パラメーターが9.7以上の有機溶媒に可溶性である可食性高分子が、ポリビニルピロリドン及びヒドロキシプロピルセルロースよりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする、口腔内フィルム状製剤の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る口腔内フィルム状基剤及び製剤は、糖及び糖アルコールより選ばれた1種又は2種以上が粒子の状態で分散されており、口腔内における迅速な溶解プロファイル及び十分なフィルム強度を有する。また、口腔内に適用した際の水溶性高分子に起因するネバネバ感が低減され、手指に取った際の触感等、その特性が従来品と比較して明らかに向上している。すなわち、糖及び糖アルコールより選ばれた1種又は2種以上を、粒子の状態でフィルム中に均一に分散させることにより、基剤及び製剤として必要な引張強度や剛軟度等のフィルム物性を損なうことなく、口腔内崩壊性、口腔内に適用した際の感触、フィルムの触感等、製剤の服用上改善の必要な特性のみを明らかに向上させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明に係る口腔内フィルム状基剤及び製剤の態様を示す模式図である。
図2図2は、タック持続時間の測定のようすを示す模式図である。
図3図3は、本発明の実施例21の口腔内フィルム状基剤の表面を示す図(倍率:1000倍)である。
図4図4は、本発明の実施例22の口腔内フィルム状基剤の表面を示す図(倍率:1000倍)である。
図5図5は、本発明の実施例23の口腔内フィルム状基剤の表面を示す図(倍率:500倍)である。
【符号の説明】
【0011】
1a 単糖〜六糖の糖及びこれらの糖アルコールよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の粒子
1b 可食性高分子、又は可食性高分子と薬物を含有するフィルム
2a プローブ
2b 両面テープ
2c 試験片
2d コラーゲンフィルム
2e ゴム
2f 試験台
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る口腔内フィルム状基剤は、水及び溶解パラメーターが9.7以上の有機溶媒に可溶性である可食性高分子の1種又は2種以上と、平均粒子径が0.1μm〜60μmである単糖〜六糖の糖及びこれらの糖アルコールよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の粒子を含有してなる。図1は、該基剤の態様を模式的に示したもので、前記糖及び糖アルコールの1種又は2種以上の粒子(1a)が、前記可食性高分子を含有するフィルム(1b)中に均一に分散している状態にあると考えられる。本発明に係る口腔内フィルム状製剤の場合は、糖及び糖アルコールの1種又は2種以上の粒子(1a)が、可食性高分子と薬剤を含有するフィルム(1b)中に均一に分散しているものと考えられる。
【0013】
本発明において、水及び溶解パラメーターが9.7以上の有機溶媒の双方に可溶性である可食性高分子としては、フィルム形成能を有し且つ可食性であり、糖及び糖アルコールが溶解しない前記有機溶媒に溶解するものであれば、特に制限はなく用いることができる。また本発明において、「可食性」とは、経口的に投与可能であり、製剤学的に許容されるものであることを意味する。
【0014】
なかでも、水及び溶解パラメーターが9.7以上の有機溶媒に十分に可溶であり、口腔内において迅速に溶解すること、及び製造時に前記有機溶媒を用いることが可能であることから、ポリビニルピロリドン(以下「PVP」と表す)及びヒドロキシプロピルセルロース(以下「HPC」と表す)が好ましいものとして挙げられる。なお、相対湿度に対する吸湿性がPVPよりHPCの方が低く、実用上の観点から好ましいため、HPCがより好ましい。
【0015】
本発明においては、可食性高分子として用いるPVPとしては、重量平均分子量が2,500〜3,000,000であるものが好ましく、2,500〜1,200,000であるものがさらに好ましい。重量平均分子量が2,500未満であると、得られる基剤及び製剤の安定性及び吸湿性が低下するおそれがあり、逆に3,000,000を超えると、溶解パラメーターが9.7以上の有機溶媒への溶解性が低下するおそれがある。
【0016】
また、本発明において可食性高分子として用いるHPCとしては、重量平均分子量が10,000〜1,200,000であるものが好ましく、10,000〜370,000であるものがさらに好ましい。重量平均分子量が10,000未満であると、得られる基剤及び製剤の安定性及び吸湿性が低下するおそれがあり、逆に1,200,000を超えると、溶解パラメーターが9.7以上の有機溶媒への溶解性が低下するおそれがある。
【0017】
なお、上記PVP及びHPCの重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー分析により求めることができる。
【0018】
本発明において可食性高分子として用いるHPCとしては、ヒドロキシプロポキシ基の置換度が50%〜100%のものが好ましい。ここで、ヒドロキシプロポキシ基の置換度は、第十五改正日本薬局方・医薬品各条の「ヒドロキシプロピルセルロース」の項に記載された定量法によって定量される値である。さらには、前記ヒドロキシプロポキシ基の置換度が53.4%以上であるものが好ましい。ヒドロキシプロポキシ基の置換度が53.4%未満である場合は、水及び溶解パラメーターが9.7以上の有機溶媒への溶解性が悪くなるおそれがあるからである。また、本発明において用いるHPCのヒドロキシプロポキシ置換度の上限は、第十五改正日本薬局方・医薬品各条に規定される77.5%程度とするのがさらに好ましい。
【0019】
これらの可食性高分子は、単独で用いてもよく、2種以上を選択し、組み合わせて用いてもよい。可食性高分子としては、医薬品用として提供されている市販品を利用するのが便利である。これら可食性高分子の1種又は2種以上の配合量は、本発明に係る口腔内フィルム状基剤又は製剤の全重量に対して、10〜80重量%とするのが適切であり、20〜70重量%とするのがより好ましい。可食性高分子の配合量が10重量%未満であると、フィルムがもろくなり、十分な強度を示さず、また80重量%を超えると、口腔内における高分子由来のネバネバ感が生じる傾向にあるからである。
【0020】
また、上記の水及び溶解パラメーターが9.7以上の有機溶媒の双方に可溶性である可食性高分子に加えて、水のみに可溶である可食性高分子や、水にも有機溶媒にも溶解しない可食性高分子を適量組み合わせて用いることもできる。かかる可食性高分子としては、アカシアガム、アラビアガム、アルギン酸ナトリウム、カゼイン、キサンタンガム、グァーガム、デキストラン、トラガカントガム、デンプン、プルラン、ペクチン等の天然物由来の高分子化合物や、結晶セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等の半合成高分子化合物、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー等の合成高分子化合物などが挙げられ、医薬品用として提供されている市販品を利用することができる。
【0021】
本発明においては、上記の水及び溶解パラメーターが9.7以上の有機溶媒の双方に可溶性である可食性高分子とともに、以下に示すような単糖〜六糖の糖及びこれらの糖アルコールの粒子を用いる。
【0022】
単糖類としては、エリスロース、スレオース等のアルドテトロース、リボース、リキソース、キシロース、アラビノース等のアルドペントース、アロース、タロース、グロース、グルコース、アルトロース、マンノース、ガラクトース、イドース等のアルドヘキソース、エリスルロース等のケトテトロース、キシルロース、リブロース等のケトペントース、プシコース、フルクトース、ソルボース、タガトース等のケトヘキソースなどが挙げられる。二糖類としては、トレハロース、コージビオース、ニゲロース、マルトース、イソマルトース等のα−ジグルコシド、イソトレハロース、ソホロース、ラミナリビオース、セロビオース、ゲンチオビオース等のβ−ジグルコシド、ネオトレハロース等のα,β−ジグルコシドの他、ラクトース、スクロース、イソマルツロース(パラチノース)などが挙げられる。三糖類としては、ラフィノースを挙げることができ、三糖〜六糖のオリゴ糖としては、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、キチンオリゴ糖、キトサンオリゴ糖、オリゴグルコサミン、シクロデキストリン等の環状オリゴ糖などが挙げられる。
【0023】
単糖の糖アルコールとしては、エリスリトール、D−スレイトール、L−スレイトール等のテトリトール、D−アラビニトール、キシリトール等のペンチトール、D−イジノール、ガラクチトール(ダルシトール)、D−グルシトール(ソルビトール)、マンニトール等のヘキシトール、イノシトール等のシクリトールなどが挙げられる。二糖の糖アルコールとしては、マルチトール、ラクチトール、還元パラチノース(イソマルト)などが挙げられ、オリゴ糖としては、ペンタエリスリトール、還元麦芽糖水飴などが挙げられる。
【0024】
基剤及び製剤に口腔内における易溶解性を付与する観点からは、単糖類〜三糖類、及びそれらの糖アルコールが好ましく用いられる。さらには、吸湿性の低いラクトース、エリスリトール、キシリトール、マンニトール、還元パラチノース(イソマルト)がより好ましい。本発明においては、上記の単糖〜六糖の糖及びこれらの糖アルコールから、1種又は2種以上を選択して用いる。
【0025】
本発明においては、上記の単糖〜六糖の糖及びこれらの糖アルコールから選択した1種又は2種以上として、0.1μm〜60μmの平均粒子径を有する粒子を含むものを用いる。前記糖及び糖アルコールとしては、基剤又は製剤中の糖及び糖アルコールの全含量に対し、前記の平均粒子径を有する粒子を30〜80重量%含むものが好ましい。糖及び糖アルコールから選択した1種又は2種以上の平均粒子径が0.1μm未満であると、各粒子が凝集する可能性があり、フィルム状基剤又は製剤の柔軟性が部位により不均一となる可能性がある。また、平均粒子径が60μmを超えると、実用的な厚さのフィルム状基剤又は製剤に含有させた際、製剤の柔軟性がやはり部位により不均一となる可能性がある。さらに、糖及び糖アルコールから選択した1種又は2種以上は、0.1〜30μmの平均粒子径を有する粒子を含むものがより好ましい。
【0026】
ここで、糖及び糖アルコールから選択した1種又は2種以上の粒子の平均粒子径は、以下のように、レーザー散乱式粒度分布測定装置により測定した50容量%平均粒子径をいう。
すなわち、0.2重量%のポリオキシエチレンモノラウリン酸エステルのクロロホルム溶液3mL中に、10mgの糖又は糖アルコール粒子を添加し、超音波により十分に分散させた。この分散液を、レーザー散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所製、LA−950)における透過率が75%〜85%を示すようにクロロホルムに添加し、湿式法により50容量%平均粒子径を測定した。
【0027】
単糖〜六糖の糖及びこれらの糖アルコールから選択した1種又は2種以上の粒子は、基剤又は製剤の全重量に対して1〜80重量%配合するのが適切であり、さらには10〜60重量%配合するのがより好ましい。前記糖及び糖アルコールから選択した1種又は2種以上の粒子の配合量が1重量%未満であれば、実用的な厚さの基剤又は製剤において、口腔内における溶解プロファイル、フィルム強度、口腔内における水溶性高分子に由来するネバネバ感、手指に取った際の触感において十分な改善が見られず、80重量%を超えると、糖及び糖アルコール粒子の平均粒子径をかなり小さくしない限り、基剤又は製剤の保型性等が低下するおそれがある。なお、本発明の目的には、上記糖及び糖アルコールとして、医薬品用として提供されている市販品を利用するのが便利であり、平均粒子径を上記の範囲となるように整粒したものを利用することもでき、また市販品を平均粒子径が上記の範囲となるように整粒して用いることもできる。なお、平均粒子径の調整は、粉砕、乾式造粒法、湿式造粒法等による造粒、篩や分級機等を用いた分級などにより、行うことができる。
【0028】
本発明に用いる可食性高分子並びに糖及び糖アルコールの水又は溶解パラメーターが9.7以上の有機溶媒に対する溶解性に関して、本明細書においては、20℃にて1gの溶質を溶解するのに必要な水又は前記有機溶媒が100mL以上である場合に「溶解しない」という表現を用い、1gの溶質を溶解するのに必要な水又は前記有機溶媒が5mL未満である場合に「可溶性である」という表現を用いている。また、1gの溶質を溶解するのに必要な水又は前記有機溶媒が3mL未満である場合に「易溶性である」との表現を用いる。本発明において用いる糖及び糖アルコールは、前記有機溶媒に対する溶解性は低いが、該有機溶媒の温度が高くなるほど溶解性は低下することが知られているため、該有機溶媒の温度を上げて溶解性を低下させ、糖及び糖アルコールの粒子状態の安定化を図ることができる。
【0029】
本発明に係る口腔内フィルム状基剤及び製剤には、上記可食性高分子並びに糖及び糖アルコールよりなる群から選択した1種又は2種以上の他に、所望によりポリエチレングリコール等の可塑剤、界面活性剤、安定化剤、防腐剤、抗酸化剤、香料、嬌味剤、甘味剤、着色剤等を適宜配合することができる。
【0030】
本発明に係る口腔内フィルム状製剤に配合し得る薬物としては、経口投与可能なものであれば特に制限されず、たとえば、抗悪性腫瘍薬、抗炎症薬、抗アレルギー薬、糖尿病治療薬、高脂血症治療薬、骨・カルシウム代謝薬、降圧薬、狭心症治療薬、抗不整脈薬、血管拡張薬、利尿薬、気管支拡張薬、気管支喘息治療薬、鎮咳薬、去痰薬、健胃消化薬、胃腸機能調整薬、消化性潰瘍治療薬、腸疾患治療薬、瀉下薬、抗精神病薬、抗うつ薬、気分安定薬、精神刺激薬、睡眠薬、抗不安薬、抗てんかん薬、片頭痛治療薬、制吐薬、鎮暈薬、パーキンソン病治療薬、脳循環・代謝改善薬、抗認知症薬、抗菌薬、抗ウイルス薬、抗真菌薬、頻尿・排尿障害治療薬、尿失禁治療薬などが挙げられる。これら薬物の配合量としては、薬物の種類や力価、適用すべき患者の症状等によって異なるが、必要な服用量等を考慮すると、製剤全重量に対して通常は0.1〜60重量%である。
【0031】
上記した薬物の具体的な例としては、ゾルミトリプタン、ジフェンヒドラミン、タムスロシン、グラニセトロン、トルテロジン、スコポラミン、ファモチジン、カンデサルタンシレキセチル、ピオグリタゾン、アムロジピン、ドネペジル、及びこれらの塩などが挙げられる。
【0032】
本発明に係るフィルム状製剤は口腔内に適用されるものであるため、本発明で用いる薬物としては苦味のないものが好適であるが、苦味のある薬物であっても、マイクロカプセル化等の苦味マスキング技術や、苦味遮蔽剤、甘味剤、嬌味剤及び芳香剤の添加などによって使用することができる。また、本発明において用いる糖や糖アルコールは、甘味を呈するものが多いため、薬物の苦味のマスキング効果を期待することができる。
【0033】
本発明に係るフィルム状基剤及び製剤の厚さは特に限定されないが、30〜300μmが好ましい。30μm未満であると、フィルム強度が低下し、製剤の取り扱いが悪くなるおそれがあり、300μmを超えると、口腔内での溶解に時間がかかり、容易に溶解しないおそれがある。フィルム状基剤及び製剤の平面形状としては通常の形態を採用することができ、長方形、正方形、円形、楕円形等が挙げられる。
【0034】
本発明に係る口腔内フィルム状基剤は、溶解パラメーターが9.7以上の有機溶媒に、水及び該有機溶媒に可溶性である可食性高分子の1種又は2種以上、及び平均粒子径が0.1μm〜60μmである単糖〜六糖の糖及びこれらの糖アルコールよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の粒子を溶解又は分散させ、得られた分散液の薄層を形成させて乾燥することにより、製造することができる。口腔内フィルム状製剤を得る場合は、溶解パラメーターが9.7以上の有機溶媒に、薬物、水及び該有機溶媒に可溶性である可食性高分子の1種又は2種以上、及び平均粒子径が0.1μm〜60μmである単糖〜六糖の糖及びこれらの糖アルコールよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の粒子を溶解又は分散させ、前記と同様に製造することができる。
【0035】
より好ましくは、次のようにして製造する。まず所定量の可食性高分子を、該高分子が可溶な溶解パラメーターが9.7以上の有機溶媒の一部に溶解する。別途、該有機溶媒の残部に、糖及び糖アルコールよりなる群から選択した1種又は2種以上の粒子を、あらかじめ粉砕、造粒、分級等の処理により平均粒子径を調整して、均一に分散させる。これに、前記の可食性高分子の該有機溶媒の溶液を、必要により可塑剤等の他の添加成分とともに添加して混合し、ポリスチレン製や、ポリエチレンテレフタレート製の剥離フィルム上に適当量展延乾燥してフィルム状基剤を得る。なお前記において、可食性高分子を溶解させる有機溶媒は、可食性高分子の1重量倍〜2重量倍くらいの量とするのが好ましい。口腔内フィルム状製剤とする場合は、溶解パラメーターが9.7以上の有機溶媒の残部に薬物を溶解又は分散させ、さらに糖及び糖アルコールより選択した1種又は2種以上の粒子を分散させた後、これに可食性高分子を該有機溶媒の一部に溶解させた溶液を、必要により可塑剤等の他の添加成分とともに加える。この液を前記と同様に剥離フィルム上に適当量展延乾燥し、所望の形状及び大きさに裁断し、必要により密封包装して、口腔内フィルム状製剤とする。
【0036】
本発明に係る口腔内フィルム状製剤の製造に用いる前記溶解パラメーターが9.7以上の有機溶媒としては、糖又は糖アルコールは溶解しないが、可食性高分子は溶解するものであればよく、たとえばメタノール、エタノール、イソプロパノール、プロピレングリコール、塩化メチレン及びアセトン等が挙げられ、これらより選択した1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。さらにはメタノール、エタノール、イソプロパノール等の低級アルコール類、塩化メチレン及びアセトンが好ましく用いられ、微量であれば精製水を加えることもできる。また、調製時に溶液中に泡が発生した場合には、一夜静置したり、真空脱泡を行って脱泡する。
【0037】
なお本発明において、「溶解パラメーター」とは、1mol容量の液体が蒸発するために必要な蒸発熱(cal/cm)の平方根(SP値)をいう。本発明において用い得る有機溶媒及び水の溶解パラメーター値を表1に示した。なお、本発明において用いる有機溶媒の溶解パラメーターは、9.7以上20以下であることが好ましく、9.7〜15であることがより好ましい。溶解パラメーターが20を超えると、糖又は糖アルコールまでも溶解するおそれがあるため、本発明の目的には好ましくない。
【0038】
【表1】
【実施例】
【0039】
以下の実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
実施例及び比較例において用いた糖及び糖アルコール粒子は、粉砕した後、32μm、50μm又は90μmの篩を篩過し、レーザー散乱式粒度分布測定装置により50容量%平均粒子径を測定し、各微粒子の粒子径の指標として用いた。用いた糖及び糖アルコール粒子の50容量%平均粒子径を表2に示す。
【0041】
【表2】
【0042】
[実施例1、2]
本発明に係る口腔内フィルム状製剤について、実施例1及び2の組成を、比較例1及び2の組成とともに表3に示す。
【0043】
【表3】
【0044】
実施例1及び2の口腔内フィルム状製剤は次のようにして調製した。表3中、エタノール70.5重量部に、HPC(重量平均分子量=約30,000、ヒドロキシプロポキシ基の置換度=53.4〜77.5%)又はPVP K−30(重量平均分子量=約40,000)47.0重量部を加えて攪拌溶解し、HPC又はPVP K−30のエタノール溶液を調製した。残部のエタノールにゾルミトリプタン9.0重量部を加えて攪拌溶解し、予め32μmの篩を篩過したD−マンニトール微粒子40.0重量部を加えて超音波攪拌した。これにHPC又はPVP K−30のエタノール溶液及びポリエチレングリコール4.0重量部を撹拌混合し、十分に脱泡後、これをポリエチレンテレフタレート製剥離フィルム上に延伸乾燥して、厚さ約100μmのフィルムを製造した。得られたフィルムを3cmの長方形に裁断し、フィルム状製剤とした。
【0045】
また、比較例1及び2の口腔内フィルム状製剤は次のようにして調製した。表3中、エタノール33.3重量部にゾルミトリプタン9.0重量部を加えて加温溶解した。精製水に、プルラン又はヒドロキシプロピルメチルセルロース47.0重量部、ポリエチレングリコール4.0重量部、及び予め32μmの篩を篩過したD−マンニトール微粒子40.0重量部を加えて攪拌溶解し、先に調製したゾルミトリプタンのエタノール溶液を加え、45℃で加温しながら攪拌溶解した。この溶液を十分に脱泡後、これをポリエチレンテレフタレート製剥離フィルム上に延伸乾燥して厚さ約100μmのフィルムを製造した。得られたフィルムを3cmの長方形に裁断し、フィルム状製剤とした。
【0046】
[実施例3〜10]
続いて、本発明の口腔内フィルム状製剤についての実施例3〜10の組成を表4に示した。これらは実施例1及び2の口腔内フィルム状製剤と同様に、ゾルミトリプタンをエタノールに溶解し、次いで予め32μmの篩を篩過した糖又は糖アルコールの微粒子を加えて分散し、次いで、エタノール70.5重量部にHPCを加えて調製した溶液、及びポリエチレングリコールを加えて撹拌混合し、十分に脱泡後、これをポリエチレンテレフタレート製剥離フィルム上に延伸乾燥して、厚さ約100μmのフィルムを製造し、得られたフィルムを3cmの長方形に裁断して調製した。
【0047】
【表4】
【0048】
[比較例3〜13]
比較例3〜13についての組成を表5に示した。
【0049】
【表5】
【0050】
比較例3の口腔内フィルム状製剤については、表5中、ゾルミトリプタン及びポリエチレングリコールをエタノールに溶解し、これにHPCのエタノール溶液を加え、実施例1と同様にフィルム状製剤とした。
【0051】
また、比較例4〜13の口腔内フィルム状製剤については、次のようにして調製した。エタノールにゾルミトリプタンを加えて加温溶解した。精製水に、HPC(重量平均分子量=約30,000、ヒドロキシプロポキシ基の置換度=53.4〜77.5%)、ポリエチレングリコール、及び予め32μmの篩を篩過した糖又は糖アルコール微粒子を加えて攪拌溶解し、先に調製したゾルミトリプタンのエタノール溶液を加え、45℃で加温しながら攪拌溶解した。この溶液を十分に脱泡後、これをポリエチレンテレフタレート製剥離フィルム上にて延伸乾燥した。
【0052】
上記の方法により調製したところ、比較例3、5、7、12及び13以外は、生成したフィルムが脆く柔らか過ぎるため、ポリエチレンテレフタレート製剥離フィルムから剥離することができず、フィルム状製剤を得ることができなかった。比較例3、5、7、12及び13については、得られたフィルムを3cmの長方形に裁断してフィルム状製剤とした。
【0053】
[実施例11〜20]
本発明に係る口腔内フィルム状製剤についての実施例11〜20の組成を表6に示した。
【0054】
【表6】
【0055】
実施例11〜16の口腔内フィルム状製剤は次のようにして調製した。すなわち、表6中、HPC(重量平均分子量=約30,000、ヒドロキシプロポキシ基の置換度=53.4〜77.5%)を1.5重量倍のエタノールに加えて撹拌溶解し、HPCのエタノール溶液を調製した。残部のエタノールに薬物を加えて撹拌溶解し、D−マンニトール微粒子、前記HPCのエタノール溶液及びポリエチレングリコールを加えて撹拌混合し、これをポリエチレンテレフタレート製剥離フィルム上に延伸乾燥して、厚さ約100μmのフィルムを製造し、得られたフィルムを3cmの長方形に裁断してフィルム状製剤とした。
【0056】
また、実施例17〜20の口腔内フィルム状製剤は、次のようにして調製した。すなわち、表6中の薬物、D−マンニトール微粒子及びポリエチレングリコールをエタノールに添加して10分間超音波処理して分散し、次いでHPC(重量平均分子量=約30,000、ヒドロキシプロポキシ基の置換度=53.4〜77.5%)を加えて撹拌溶解した。この溶液をポリエチレンテレフタレート製剥離フィルム上に延伸乾燥して、厚さ約70μmのフィルムを製造し、得られたフィルムを3cmの長方形に裁断してフィルム状製剤とした。
【0057】
[実施例21〜26]
本発明に係る口腔内フィルム状基剤についての実施例21〜26の組成を表7に示した。
【0058】
【表7】
【0059】
これらは次のようにして調製した。すなわち、表7中、HPC(重量平均分子量=約30,000、ヒドロキシプロポキシ基の置換度=53.4〜77.5%)を、実施例21〜23及び26については1.5重量倍、実施例24及び25については1重量倍のエタノールに加えて撹拌溶解し、HPCのエタノール溶液を調製した。残部のエタノールにD−マンニトール微粒子を加えて超音波処理して分散させた後、前記HPCのエタノール溶液及びポリエチレングリコールを加えて撹拌混合し、これをポリエチレンテレフタレート製剥離フィルム上に延伸乾燥して、厚さ約100μmのフィルムを製造し、得られたフィルムを3cmの長方形に裁断してフィルム状基剤とした。
【0060】
本発明の実施例及び比較例の口腔内フィルム状製剤及び基剤について、フィルム強度、口腔内におけるネバネバ感、口腔内における溶解プロファイル、手指に取ったときの感触に関して、それぞれ剥離性試験、剛軟度試験、引張強度試験、タック持続試験、口腔内崩壊性試験及び官能評価(触感)を行うことにより測定及び評価を行った。また、フィルム状基剤中に分散された糖及び糖アルコール微粒子について、マイクロスコープを用いて平均粒子径を測定した。それぞれの試験方法を次に示す。
【0061】
(1)剥離性評価
フィルム状製剤又は基剤を調製する際、ポリエチレンテレフタレート製剥離フィルムからの剥離性を評価し、次の評価基準に従ってスコア化した。
【0062】
[評価基準]
容易に剥離できる;4点
剥離できる;3点
剥離できるが、剥がしづらい;2点
剥離はできるが、フィルムが破損した;1点
全く剥離できない;0点
【0063】
(2)剛軟度試験
本試験は、「日本工業規格(JIS)L1096 一般織物試験法,8.19剛軟性, 8.19.1A法(45°カンチレバー法)」に準拠して行った。まず実施例及び比較例の各試料より、20mmx150mmの試験片を5枚採取し、一端が45°の斜面を有し、表面が滑らかな水平台の上に、試験片の短辺をスケールの基線に合わせて置く。次に、適当な方法により試験片を斜面の方向に緩やかに滑らせて、試験片の一端の中央点が斜面Aと接したときの他端の位置をスケールによって読む。剛軟度は試験片が移動した時の長さ(mm)で示され、5枚の試験片の表裏、前後をそれぞれ逆にして測定し、それぞれの平均値を算出して剛軟度として求めた。評価基準は、糖を添加しない場合のフィルム状製剤(比較例3)の剛軟度(約60mm)を基準として考え、次のように設定した。なお、調製した試料の物性上、剥離フィルムから剥離することができず、フィルム状製剤を得ることができなかったものについては、0点とした。
【0064】
[評価基準]
60±10mm以上20mm未満;4点
60±20mm以上30mm未満;3点
60±30mm以上40mm未満;2点
60±40mm以上;1点
【0065】
(3)引張強度試験
本試験は、「日本工業規格(JIS)K7127 プラスチックフィルム及びシートの引張試験方法」に準拠して行った。各フィルム状製剤又は基剤を12mmx50mmに裁断して試験片とし、デシケーター中で十分に乾燥させた後、試験に供した。試験は、小型卓上引張試験機(島津製作所製、EZ TEST−100M)を用い、試験速度として毎分60mmを用いて行った。試験に供した試験片についてほとんど伸びが見られなかったため、測定により得られた引張降伏強さを引張強度として求めた。各試料について3回繰り返し測定し、その平均値を求めて引張強度とした。求めた引張強度は、次の評価基準に従ってスコア化した。なお、調製した試料の物性上、剥離フィルムから剥離することができず、フィルム状製剤を得ることができなかったものについては、0点とした。
【0066】
[評価基準]
引張強度=10N以上20N未満;4点
引張強度=5N以上10N未満;3点
引張強度=2N以上5N未満;2点
引張強度=2N未満;1点
【0067】
(4)タック持続試験
本試験は、各フィルム状製剤又は基剤を直径12mmの円形に裁断して試験片とし、レオメーター(SUN SCIENTIFIC,CR−2000)を用いて行った。ここで、「タック」とは、軽い力で短時間に被着体に接触させた際に、被着体に粘着する力をいう。試験のようすを図2に示した。すなわち、直径12mmのプローブ2a上に両面テープ2bで前記試験片2cを貼付する。別途、試験台2fの上にはゴム2eを載せ、その上に水で浸したコラーゲンフィルム2dを設置する。試験片に200μLの精製水を添加し、試験片2cが貼付されたプローブ2aを下降させてコラーゲンフィルム2dに接触させ、次いで上昇させる。その際、プローブ2aがコラーゲンフィルム2dから離れる時に得られる初期タック後のタック持続時間を、記録紙よりノギスを用いて測定した。測定結果は、次の評価基準に従ってスコア化した。なお、調製した試料の物性上、剥離フィルムから剥離することができず、フィルム状製剤を得ることができなかったものについては、剥離フィルムごと裁断し、剥離フィルム側をプローブの両面テープに貼付し、同様に測定を行った。
【0068】
[評価基準]
タック持続時間測定値=2mm未満;4点
タック持続時間測定値=2mm以上3mm未満;3点
タック持続時間測定値=3mm以上4mm未満;2点
タック持続時間測定値=4mm以上;1点
【0069】
(5)口腔内崩壊性試験
1000mLのガラスシャーレにpH6.8のリン酸塩緩衝液900mLを入れ、この中にステンレス製篩(Φ4mm)を上下反転させて沈め、スターラーで撹拌(300rpm)する。この溶液の温度は、恒温水循環装置を用いて37±2℃で管理し、この中に試験片(3cm)を沈め、同時に上から3cmx3cmのステンレス製金網(網目サイズ5mm)を重しとして載せた。試験片の崩壊のようすを目視にて観察し、試験片を沈めてから、試験片が完全に崩壊するまでの時間をストップウォッチで測定した。各試料について3回繰り返して測定し、その平均値を口腔内崩壊時間とした。この口腔内崩壊時間を次の評価基準に従ってスコア化した。なお、調製した試料の物性上、剥離フィルムから剥離することができず、フィルム状製剤を得ることができなかったものについては、0点とした。
【0070】
[評価基準]
口腔内崩壊時間=10秒未満;4点
口腔内崩壊時間=10秒以上15秒未満;3点
口腔内崩壊時間=15秒以上20秒未満;2点
口腔内崩壊時間=20秒以上;1点
【0071】
(6)官能評価(触感)
各フィルム状製剤又は基剤を裁断して試験片とし、パネラーに、試験片を指で5秒間円を描くように触らせ、表面がネバネバするかどうかの違和感を次の評価基準に従って評価させた。なお、調製した試料の物性上、剥離フィルムから剥離することができず、フィルム状製剤を得ることができなかったものについては、0点とした。
【0072】
[評価基準]
ネバネバ感を感じない;4点
気にならない程度のネバネバ感である;3点
ネバネバ感に違和感を感じる;2点
かなりネバネバしており、指にフィルムが残る;1点
【0073】
(7)フィルム状基剤中における糖アルコール微粒子の平均粒子径測定
本発明の実施例21〜23の口腔内フィルム状基剤について、添加したD−マンニトール微粒子A〜Cのフィルム状基剤中における粒子径を、マイクロスコープ(キーエンス社製、VHX−600)を用いて測定した。粒子200個について測定した結果から、50容量%平均粒子径を求めた。
【0074】
実施例1〜10の口腔内フィルム状製剤についての上記(1)〜(6)の評価及び試験の結果を、表8に示した。
【0075】
【表8】
【0076】
表8において、実施例4の口腔内フィルム状製剤についての官能評価結果がやや悪くなっている他は、いずれの口腔内フィルム状製剤についても、各評価項目において良好な評価を得ていた。すなわち、本発明の実施例1〜10の口腔内フィルム状製剤は良好な剥離性を示し、十分な強度と良好な口腔内崩壊性を有しており、ネバネバ感が少なく、触感もよいものであることが示された。
【0077】
比較例1〜13の口腔内フィルム状製剤についての上記(1)〜(6)の評価及び試験の結果を、表9に示した。
【0078】
【表9】
【0079】
表9において、水溶性であるが、エタノールにはほとんど溶解しない可食性高分子であるプルランを精製水に溶解して調製した比較例1の口腔内フィルム状製剤では、すべての項目においてよい評価は得られていなかった。また、水溶性であるが、エタノールにはほとんど溶解しない可食性高分子であるヒドロキシプロピルメチルセルロースを用いた比較例2の口腔内フィルム状製剤では、曲げ変形に対する強度が低く、ネバネバ感が認められていた。糖又は糖アルコール微粒子を配合していない比較例3の口腔内フィルム状製剤では、口腔内崩壊性が悪く、ネバネバ感も顕著であった。HPCを精製水に溶解して調製した比較例4〜12の口腔内フィルム状製剤では、十分な強度を有するフィルムが得られなかった。HPCを精製水に溶解して調製し、糖又は糖アルコールの微粒子を配合していない比較例13の口腔内フィルム状製剤では、口腔内崩壊性が悪く、ネバネバした触感も顕著であった。
【0080】
実施例11〜20の口腔内フィルム状製剤についての上記(1)〜(6)の評価及び試験の結果を、表10に示した。
【0081】
【表10】
【0082】
表10において、本発明の実施例11〜20の口腔内フィルム状製剤について、各項目で良好な評価が得られており、種々の薬物を配合した場合においても、十分なフィルム強度と良好な口腔内崩壊性及び触感を有することが示された。
【0083】
実施例21〜26の口腔内フィルム状基剤についての上記(1)〜(6)の評価及び試験の結果を、表11に示した。
【0084】
【表11】
【0085】
表11において、本発明の実施例21〜26の口腔内フィルム状基剤については、実施例24のフィルム状基剤についてのタック持続時間と実施例26のフィルム状基剤の引張強度を除いて、良好な評価が得られていた。
【0086】
実施例21〜23の口腔内フィルム状基剤についての平均粒子径測定結果を表12に示した。また、図3〜5にマイクロスコープ下の写真を示した。
【0087】
【表12】
【0088】
表12より明らかなように、本発明の実施例21〜23の口腔内フィルム状基剤においては、D−マンニトール微粒子の50容量%平均粒子径は、フィルム状基剤中においても添加前に比べてほとんど変化しておらず、D−マンニトールは、基剤中で溶解せずに微粒子の状態で分散されていることが示された。D−マンニトール微粒子の良好な分散は、図3図5に示すように、実施例21〜23の口腔内フィルム状基剤のマイクロスコープによる観察においても確かめることができた。
【産業上の利用性】
【0089】
本発明によれば、十分なフィルム強度を有し、口腔内において迅速な溶解プロファイルを示し、口腔内におけるネバネバ感が低減され、手指に取ったときの触感も改善された口腔内フィルム状基剤及び製剤を提供することができる。
【0090】
本出願は特許協力条約に従って出願された国際出願PCT/JP2009/051511を基礎としており、その内容は本明細書にすべて包含されるものである。
図1
図2
図3
図4
図5