特許第5674517号(P5674517)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5674517
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月25日
(54)【発明の名称】石炭ガス化方法
(51)【国際特許分類】
   C10J 3/46 20060101AFI20150205BHJP
【FI】
   C10J3/46 K
   C10J3/46 L
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-56945(P2011-56945)
(22)【出願日】2011年3月15日
(65)【公開番号】特開2012-193247(P2012-193247A)
(43)【公開日】2012年10月11日
【審査請求日】2013年11月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】新日鉄住金エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100129403
【弁理士】
【氏名又は名称】増井 裕士
(72)【発明者】
【氏名】糸永 眞須美
(72)【発明者】
【氏名】小菅 克志
(72)【発明者】
【氏名】並木 泰樹
(72)【発明者】
【氏名】武田 卓
(72)【発明者】
【氏名】幸 良之
(72)【発明者】
【氏名】小水流 広行
(72)【発明者】
【氏名】矢部 英昭
【審査官】 森 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−232173(JP,A)
【文献】 特開平10−306285(JP,A)
【文献】 特開平09−111256(JP,A)
【文献】 特公平04−027279(JP,B2)
【文献】 特公平04−014157(JP,B2)
【文献】 特公昭36−001260(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10J 3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭を部分酸化してガス化するガス化炉を有する石炭ガス化装置における石炭ガス化方法であって、
所定の成分からなる石炭を前記ガス化炉内に投入したときに生成される溶融スラグの温度と、この溶融スラグの液相/固相率と、の相関関係を、予め求めておき、
前記ガス化炉で形成される溶融スラグの固相比率が35vol%以下となる範囲で固相分が含まれるように前記ガス化炉内の温度を調整することにより、前記溶融スラグの一部で前記ガス化炉の炉壁にスラグコーティングを形成することを特徴とする石炭ガス化方法。
【請求項2】
前記溶融スラグの固相比率が、20vol%以下となるように前記温度を調整することを特徴とする請求項1に記載の石炭ガス化方法。
【請求項3】
前記溶融スラグの固相比率が、15vol%以下となるように前記温度を調整することを特徴とする請求項1に記載の石炭ガス化方法。
【請求項4】
前記ガス化炉で形成される溶融スラグの塩基度を上昇させるように、前記ガス化炉に投入する石炭の成分調整を行うことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の石炭ガス化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭を部分酸化してガス化するガス化炉を有する石炭ガス化装置に係り、ガス化炉内のスラグコーティングを運転効率が最大となる適正量に維持することができる石炭ガス化方法に関する技術である。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の石炭ガス化装置として、例えば、特許文献1〜3に示される技術が知られている。
特許公報1及び2に示される石炭ガス化装置では、下段のガス化炉において、酸素、又は、酸素及び水蒸気と、石炭を投入して部分酸化によりガス化ガスを生成し、上段の改質炉において、前記生成したガス化ガス中に石炭及び水素を投入して水素化熱分解によりガス、オイル、及びチャーを生成する、上下二室二段の反応器を用いた方式が示されている。そして、このように反応器を二室二段とすることで、石炭のガス化を行う部分と水素化熱分解を行う部分を分離し、各部分の操作条件を自由に設定することが可能となる。
【0003】
特許公報3に示される石炭ガス化装置では、微粉炭及びガス化剤(酸素含有ガス等)を、高温加圧されたガス化炉内に噴入して内部のガス化部で部分酸化させる構成であり、これにより生成ガスを得るものである。
また、特許公報4に示される石油コークス供給原料のガス化方法では、X(CaO、CaCO、MgO、MgCO、酸化鉄、酸化ホウ素、酸化ナトリウム、酸化カリウム及びその混合物から構成される群から選択される塩基性灰成分)、Al及びSiOから構成される三成分系状態から、最適な組成を判定することにより、スラグ粘度の適正化を図る技術が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008‐174583号公報
【特許文献2】特開2005‐162896号公報
【特許文献3】特開平11‐140464号公報
【特許文献4】特表平9‐505092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許公報1〜4に示される石炭ガス化装置のガス化炉では、副産物として石炭中の灰分は溶融スラグとなって炉内の壁面がスラグコーティングされ、かつそのスラグコーティングの一部の溶融スラグが、該ガス化炉下部のスラグタップ排出孔を経由して下方に位置する水槽(水砕部)に案内される。
しかしながら、上記特許公報1〜4に示される石炭ガス化炉では、スラグコーティングを運転効率が最大となる適正量に維持することが困難であった。なお、スラグコーティングが適正量に維持されないと、例えば、その量が不十分の場合、水壁炉からの抜熱が大きくなり、適正なガス化温度を維持するための酸素ガスの供給量が増加し、ガス化炉を運転するためのコストが増大するという問題などがあった。
【0006】
この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、炉壁の溶融スラグコーティングを適正量に維持することができる石炭ガス化装置における石炭ガス化方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
すなわち、本願の請求項1は、石炭を部分酸化してガス化するガス化炉を有する石炭ガス化装置における石炭ガス化方法であって、所定の成分からなる石炭を前記ガス化炉内に投入したときに生成される溶融スラグの温度と、この溶融スラグの液相/固相率と、の相関関係を、予め求めておき、前記ガス化炉で形成される溶融スラグの固相比率が35vol%以下となる範囲で固相分が含まれるように前記ガス化炉内の温度を調整することにより、前記溶融スラグの一部で前記ガス化炉の炉壁にスラグコーティングを形成することを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、石炭ガス化装置のガス化炉で形成される溶融スラグの固相比率を35vol%以下となる範囲で固相分が含まれるようにガス化炉内の温度を調整することにより、固相比率の上昇に伴って溶融スラグの粘度が緩やかに上昇し、これにより炉壁のスラグコーティングを適正量に維持することができる。
すなわち、溶融スラグに固相分が含まれていないと、溶融スラグの粘度が低く、スラグコーティングを適正量に維持することができないおそれがある。一方、溶融スラグの固相比率が35vol%を超えると、少しの温度低下で溶融スラグが急激に固化し、ガス化炉の運転に影響を与えるおそれがある。
【0009】
また、本願の請求項2に係る石炭ガス化方法は、前記溶融スラグの固相比率が、20vol%以下となるように前記温度を調整することを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、石炭ガス化装置のガス化炉で形成される溶融スラグの固相比率を、好ましくは20vol%以下の範囲でガス化炉内の温度を調整することにより、炉壁のスラグコーティングを最適量に維持することができる。
なお、本願の請求項3に係る石炭ガス化方法は、前記溶融スラグの固相比率が、15vol%以下となるように前記温度を調整することを特徴とする。
さらに、本願の請求項4に係る石炭ガス化方法は、前記ガス化炉で形成される溶融スラグの塩基度を上昇させるように、前記ガス化炉に投入する石炭の成分調整を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本願の請求項1に係る石炭ガス化方法によれば、石炭ガス化装置のガス化炉で形成される溶融スラグの固相比率を35vol%以下となる範囲で固相分が含まれるようにガス化炉内の温度を調整することにより、溶融スラグの温度が低下する一方で、固相比率の上昇に伴って溶融スラグの粘度が緩やかに上昇し、これにより炉壁のスラグコーティングを適正量に維持することができる。
【0012】
また、本願の請求項2に係る石炭ガス化方法によれば、石炭ガス化装置のガス化炉で形成される溶融スラグの固相比率を、好ましくは20vol%以下の範囲でガス化炉内の温度を調整することにより、炉壁のスラグコーティングを最適量に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明が適用される石炭ガス化装置の概略構成図である。
図2】溶融スラグの温度と溶融スラグの液相率との関係を示すグラフである。
図3】溶融スラグの固相率と相対粘度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態について図1図3を参照して説明する。
図1は、本実施形態として示される一般的な石炭ガス化装置100であって、ライン(図示略)より微粉炭(石炭)を搬送し、ライン1を用いてガス化剤(酸素含有ガス等)をバーナ2より高温の加圧されたガス化炉3内に噴入して部分酸化させる構成であり、このガス化炉3で生じる生成ガスGを上部開口3Aから排出する。
なお、ガス化炉3の上部開口3Aの上方には、該ガス化炉3内で生成したガス化ガス中に水素を投入して水素化熱分解によりガス、オイル、及びチャーを生成する図示しない改質炉が連設されている。
【0015】
また、ガス化炉3での部分酸化に伴い、副産物として石炭中の灰分がスラグとなってガス化炉3の内壁にスラグコーティング(符号Sで示す)されるとともに、その一部は溶融スラグS1になって排出される。
ここで、スラグコーティングSを形成する溶融スラグS1は、100vol%液相である場合もあるし、固相が混ざって液相比率が低下する場合もあるが、以下、100vol%液相である場合の他、固相が混ざって液相比率が100%以下となる場合も「溶融スラグS1」として説明する。
【0016】
前記ガス化炉3は、その下部に設けられたスラグタップ排出孔3Bを経由して、内部で形成される溶融スラグS1が排出かつ滴下されるものであって、スラグタップ排出孔3Bから排出された溶融スラグS1は、スラグ冷却部4を滴下する間に冷却された後、スラグ水砕部5に貯留される。
このスラグ水砕部5は内部にスラグ冷却水6が貯留されるものであって、溶融スラグS1を水砕・急冷却して水砕スラグS2とした後、下部のスラグ排出孔5Aより排出する。
【0017】
前記スラグ水砕部5の下部に位置するスラグ排出孔5Aには、弁7を有する連結管8が接続されており、該連結管8を通じて、スラグ水砕部5から排出された水砕スラグS2がスラグロックホッパ10に送られる。
このスラグロックホッパ10は、例えば、水砕スラグS2を一定時間貯留して、スラグ沈殿させるものであって、一定時間が経過した後に、弁11を有する連結管12を経由して水砕スラグS2を系外に取り出すようにしている。
【0018】
次に、炉壁のスラグコーティングSを適正量に維持することが可能なスラグ組成について説明する。
石炭ガス化装置100に使用する原炭は、その組成により決定される溶融温度(三成分系状態図により示される)に基づき100vol%液相となるものであるが、このとき、炉壁のスラグコーティングSを適正量に維持するという観点からすれば、液相率が100vol%である必要がない。
ここで、図2の溶融スラグの温度と溶融スラグの液相率との関係を示すグラフを参照して分かるように、「○」「△」で示される「A炭」、「◆」「◇」で示される「B炭」(A炭とは種類が異なる)の全てが、石炭の種類によらず溶融スラグの温度を上昇させることで、液相率が100vol%となる。なお上記「A炭」はアダロ炭であり、「B炭」はタニトハルム炭である。
【0019】
図2より、溶融スラグの液相率が65vol%以上(固相率が35vol%以下)の場合は、温度と液相率の関係が緩やかに変化するが、液相率が65vol%より小さくなる(固相率が35vol%を超える)場合は、温度と液相率の関係が急激に変化し、少しの温度低下で急激に固化し、石炭ガス化運転が困難となる。
【0020】
この点を示したのが、溶融スラグの固相率と粘度との関係を示した図3であり、森−乙竹の式による相対粘度がよく当てはまる。この図を参照して分かるように、溶融スラグの固相率が上昇すると、スラグの相対粘度も上昇する関係があることが示されている。そして、図3のグラフに示すように、溶融スラグの固相率が35vol%を超えると相対粘度が4を超えるようになり(元の粘度の4倍)、急激に流動性が悪くなることが確認される。なお、液相率100vol%の溶融スラグにおける固有粘度は、組成にもよるが、例えば1450℃において1.68〜22.7Pa・s、1500℃において1.15〜13.1Pa・sとなっている。
このことから、温度と液相率の関係が緩やかに変化する、溶融スラグの液相率が65vol%以上の範囲(固相率が35vol%以下)に保つことにより、炉壁のスラグコーティングSを適正量に維持して、石炭ガス化運転を良好に行うことができると判断される。さらに、石炭ガス化運転を更に良好に行うためには、液相率65vol%以上の範囲において、粘度の変化の少ない液相率を80vol%以上に(固相率を20vol%以下に)することがさらに適当であると、判断される。さらにまた、固相率は15vol%以下であることが一層好ましい。
【0021】
なお、溶融スラグの固相率の制御は、例えばガス化炉3内の温度を制御することにより行うことができる。
すなわち溶融スラグの組成は、ガス化炉3内に投入する石炭の成分に依存することから、所定の成分からなる石炭をガス化炉3内に投入したときに生成される溶融スラグの温度と、この溶融スラグの液相/固相率と、の相関関係は、例えば検証試験などを行うことにより、図2に示すグラフのように予め求めておくことができる。そして、この相関関係に基づき、ガス化炉3内の温度を、例えば溶融スラグの固相率が35vol%以下になるような範囲(例えば、図2に示す「△」のA端では、およそ1240℃以上の範囲)にすることにより、溶融スラグの固相率を制御することができる。
【0022】
また、ガス化炉3内の溶融スラグにおける固相比率は、公知の方法を用いて算出することが可能であり、例えば溶融スラグのスラグ組成(灰組成)、および液相の生成自由エネルギーの推定と化合物の熱力学データ基づいて、平衡状態図を作成可能なソフトウェアにより算出すること等ができる。
【0023】
以上詳細に説明したように本発明の本実施形態に係る石炭ガス化方法によれば、ガス化炉3で形成される溶融スラグの固相比率を35vol%、好ましくは20vol%以下となる範囲で固相分が含まれるようにガス化炉3内の温度を調整することにより、固相比率の上昇に伴って溶融スラグの粘度が緩やかに上昇し、これにより炉壁のスラグコーティングを適正量に維持することができる。
【0024】
なお、上記実施形態では、ガス化炉3で形成される溶融スラグの固相比率を35vol%以下となる範囲で固相分が含まれるようにガス化炉3内の温度を調整することを必須とするが、これに加えて、繊維状スラグの発生割合を低く抑えるために、スラグの塩基度を上昇させる原炭の成分調整を行っても良い。
【0025】
また、上記実施形態では、ガス化炉3及び改質炉からなる二室二段炉を使用したが、これに限定されず、例えば1つの炉において、ガス化ガスを生成と、水素化熱分解とを共に行うガス化炉を有する石炭ガス化装置などにおいて、ガス化炉で形成される溶融スラグの固相比率が35vol%以下となるようにガス化炉内の温度を調整しても良い。
【0026】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、石炭を部分酸化してガス化するガス化炉を有する石炭ガス化装置における石炭ガス化方法に関する。
【符号の説明】
【0028】
3 ガス化炉
100 石炭ガス化装置
S スラグコーティング
図1
図2
図3