特許第5674789号(P5674789)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5674789gntRを破壊することによって生産性が向上したイソプロピルアルコール生産細菌
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5674789
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月25日
(54)【発明の名称】gntRを破壊することによって生産性が向上したイソプロピルアルコール生産細菌
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20150205BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20150205BHJP
   C12P 7/04 20060101ALI20150205BHJP
   C07C 49/08 20060101ALI20150205BHJP
   C07C 45/29 20060101ALI20150205BHJP
   C07C 11/06 20060101ALI20150205BHJP
   C07C 1/24 20060101ALI20150205BHJP
   C07C 1/207 20060101ALI20150205BHJP
   C07B 61/00 20060101ALI20150205BHJP
   C12R 1/19 20060101ALN20150205BHJP
【FI】
   C12N1/21ZNA
   C12N15/00 A
   C12P7/04
   C07C49/08 A
   C07C45/29
   C07C11/06
   C07C1/24
   C07C1/207
   C07B61/00 300
   C12N1/21ZNA
   C12R1:19
   C12P7/04
   C12R1:19
【請求項の数】13
【全頁数】49
(21)【出願番号】特願2012-528714(P2012-528714)
(86)(22)【出願日】2011年8月11日
(86)【国際出願番号】JP2011068402
(87)【国際公開番号】WO2012020833
(87)【国際公開日】20120216
【審査請求日】2012年10月22日
(31)【優先権主張番号】特願2011-49531(P2011-49531)
(32)【優先日】2011年3月7日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2010-181150(P2010-181150)
(32)【優先日】2010年8月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】天野 仰
(72)【発明者】
【氏名】白井 智量
(72)【発明者】
【氏名】高橋 均
(72)【発明者】
【氏名】平野 淳一郎
(72)【発明者】
【氏名】松本 佳子
(72)【発明者】
【氏名】竹林 のぞみ
(72)【発明者】
【氏名】和田 光史
(72)【発明者】
【氏名】清水 浩
(72)【発明者】
【氏名】古澤 力
(72)【発明者】
【氏名】平沢 敬
【審査官】 白井 美香保
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/103026(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/008377(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/028582(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/049274(WO,A1)
【文献】 特開平05−260979(JP,A)
【文献】 特開平07−053433(JP,A)
【文献】 特開平11−035498(JP,A)
【文献】 特開平11−035497(JP,A)
【文献】 特開平11−335315(JP,A)
【文献】 BIO INDUSTRY,2013年,vol.30 no.5,pp.11-16
【文献】 日本生物工学会大会講演要旨集,2013年,vol.65,p.135, 2P-123
【文献】 日本生物工学会大会講演要旨集,2012年,vol.64,p.205, 4Da14
【文献】 J. Mol. Biol.,1993年,vol.231,pp.167-174
【文献】 JOURNAL OF BACTERIOLOGY,1998年,vol.180 no.7,pp.1777-1785
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00−7/08
C12P 1/00−41/00
CA/MEDLINE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
CiNii
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソプロピルアルコール生産系を備え、転写抑制因子GntRの活性が不活化されており、該不活化に伴うイソプロピルアルコール生産能を維持又は強化する酵素活性発現パターンとして下記(1)〜(3)のいずれかを備えたイソプロピルアルコール生産大腸菌。
(1)グルコース−6−リン酸イソメラーゼ(Pgi)活性、グルコース−6−リン酸−1−デヒドロゲナーゼ(Zwf)活性、及びホスホグルコン酸デヒドロゲナーゼ(Gnd)活性の野生型の維持。
(2)グルコース−6−リン酸イソメラーゼ(Pgi)活性の不活化と、グルコース−6−リン酸−1−デヒドロゲナーゼ(Zwf)活性の強化。
(3)グルコース−6−リン酸イソメラーゼ(Pgi)活性の不活化と、グルコース−6−リン酸−1−デヒドロゲナーゼ(Zwf)活性の強化と、ホスホグルコン酸デヒドロゲナーゼ(Gnd)活性の不活化。
【請求項2】
前記グルコース−6−リン酸−1−デヒドロゲナーゼ(Zwf)活性が、エシェリヒア属細菌由来のグルコース−6−リン酸−1−デヒドロゲナーゼ(Zwf)をコードする遺伝子に由来するものである請求項1に記載のイソプロピルアルコール生産大腸菌。
【請求項3】
前記イソプロピルアルコール生産系が、アセト酢酸デカルボキシラーゼ、イソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼ、CoAトランスフェラーゼ及びチオラーゼの各酵素遺伝子により構築されたものである請求項1又は請求項2に記載のイソプロピルアルコール生産大腸菌。
【請求項4】
前記イソプロピルアルコール生産系が、アセト酢酸デカルボキシラーゼ、イソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼ、CoAトランスフェラーゼ及びチオラーゼの各酵素遺伝子により構築されたものであり、かつ各酵素遺伝子が、それぞれ独立に、クロストリジウム属細菌、バチルス属細菌及びエシェリヒア属細菌からなる群より選択された少なくとも1種の原核生物に由来するものである請求項1〜請求項3のいずれか1項記載のイソプロピルアルコール生産大腸菌。
【請求項5】
前記アセト酢酸デカルボキシラーゼ活性が、クロストリジウム・アセトブチリカム由来の酵素をコードする遺伝子に由来するものであり、前記イソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼ活性がクロストリジウム・ベイジェリンキ由来の酵素をコードする遺伝子に由来するものであり、前記CoAトランスフェラーゼ活性及びチオラーゼ活性がエシェリヒア・コリ由来の各酵素をコードする遺伝子に由来するものである請求項3又は請求項4に記載のイソプロピルアルコール生産大腸菌。
【請求項6】
前記イソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼ及び前記アセト酢酸デカルボキシラーゼの少なくとも1つの活性が、遺伝子改変体として導入された遺伝子に由来する請求項3〜請求項5のいずれか1項に記載のイソプロピルアルコール生産大腸菌。
【請求項7】
前記イソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼの遺伝子改変体が配列番号40で表される塩基配列であり、前記アセト酢酸デカルボキシラーゼの遺伝子改変体が配列番号43で表される塩基配列である請求項6に記載のイソプロピルアルコール生産大腸菌。
【請求項8】
さらに、スクロース非PTS遺伝子群のうちスクロース加水分解酵素遺伝子を少なくとも有する請求項1請求項7のいずれか1項記載のイソプロピルアルコール生産大腸菌。
【請求項9】
請求項1〜請求項8のいずれか1項記載のイソプロピルアルコール生産大腸菌を用いて植物由来原料からイソプロピルアルコールを生産することを含むイソプロピルアルコール生産方法。
【請求項10】
請求項1〜請求項8のいずれか1項記載のイソプロピルアルコール生産大腸菌を用いて植物由来原料からイソプロピルアルコールを得ること、及び
得られたイソプロピルアルコールに、触媒として、酸化亜鉛と、第4族の元素を含む少なくとも1種の酸化物とを含有し且つ共沈法で調製された複合酸化物を接触させることを含む、アセトン生産方法。
【請求項11】
請求項1〜請求項8のいずれか1項記載のイソプロピルアルコール生産大腸菌を用いて植物由来原料から得られ且つアセトンを含有するイソプロピルアルコールに、反応温度50〜300℃の範囲で、触媒として固体酸物質およびCuを含む水添触媒を接触させることを含む、プロピレンの製造方法。
【請求項12】
前記Cuを含む水添触媒が、さらに第6族、第12族、および第13族のうち少なくとも一つの元素を含む触媒である請求項11に記載のプロピレンの製造方法。
【請求項13】
前記固体酸物質がゼオライトである請求項11又は請求項12に記載のプロピレンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イソプロピルアルコール生産細菌及びこれを用いたイソプロピルアルコール生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレンは、ポリプロピレンなどの合成樹脂や石油化学製品の重要な基礎原料であり、自動車用バンパーや食品容器、フィルム、医療機器などに幅広く使われている。
植物由来原料から製造されたイソプロピルアルコールは、脱水工程を経てプロピレンに変換できることから、カーボンニュートラルなプロピレンの原料として有望である。またアセトンも溶剤、プラスチックの原料として幅広く使われている。京都議定書によって2008年から2012年の間に先進国全体で二酸化炭素排出量を1990年比で5%削減することが義務付けられている現在、カーボンニュートラルなプロピレンはその汎用性から地球環境上極めて重要である。
【0003】
植物由来原料を資化してイソプロピルアルコールを生産する細菌は既に知られている。例えば国際公開2009/008377号には、グルコースを原料としてイソプロピルアルコールを生産するように改変された細菌が開示されており、イソプロピルアルコールの選択性が高いことから工業生産用生体触媒として優れた性質を持つと記載されている。
【0004】
イソプロピルアルコール製造大腸菌においては、イソプロピルアルコールの原料がグルコースであるため、解糖および異化によって得られる夥しい数の化合物全てが副生成物となり得る。一方これらの化合物は大腸菌が生育するために必須な物質となっている場合があるため、これらの副反応で消費されるグルコースの量を完全に抑制することはできない。このため、副生成物を最小化し且つイソプロピルアルコールの生産量を上げるために、種々の検討が為されている。
【0005】
例えば、国際公開2009/008377号パンフレットには、アセト酢酸デカルボキシラーゼ、イソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼ、CoAトランスフェラーゼ及びチオラーゼの各遺伝子が導入され、植物由来原料からイソプロピルアルコールを生成しうるイソプロピルアルコール生成細菌が開示されている。このイソプロピルアルコール生産細菌の能力は、生産速度0.6g/L/hr、蓄積量28.4g/Lであると記載されている。
【0006】
国際公開2009/049274号及びAppl.Environ.Biotechnol.,73(24),pp.7814−7818,(2007)には、アセチルCoAアセチルトランスフェラーゼ、アセトアセチルCoAトランスフェラーゼ、アセト酢酸デカルボキシラーゼ及び、セカンダリーアルコールデヒドロゲナーゼの各遺伝子が導入され、イソプロピルアルコールを製造する大腸菌が開示されている。これらの細菌の能力は生産速度0.4g/L/hr、収率43.5%、蓄積量4.9g/Lであると記載されている。
【0007】
国際公開2009/028582号には、アセト酢酸デカルボキシラーゼ、イソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼ、アセチルCoA:アセテートCoA−トランスフェラーゼ及びアセチルCoAアセチルトランスフェラーゼの各遺伝子が導入され、イソプロピルアルコールを製造する大腸菌が開示されている。この細菌の能力は、蓄積量9.7g/Lであると記載されている。
【0008】
Appl.Microbiol.Biotechnol.,77(6),pp.1219−1224,(2008)には、チオラーゼ、CoA−トランスフェラーゼ、アセトアセテートデカルボキシラーゼ、プライマリー−セカンダリーアルコールデヒドロゲナーゼの各遺伝子が導入され、イソプロピルアルコールを製造する大腸菌が開示されている。この細菌の能力は生産速度0.6g/L/hr、収率51%、蓄積量13.6g/Lであると記載されている。
【0009】
国際公開2009/103026号には、アセト酢酸デカルボキシラーゼ、アセチルCoA:アセテートCoA−トランスフェラーゼ及びアセチルCoAアセチルトランスフェラーゼ及びイソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼの各遺伝子が導入され、イソプロピルアルコールを製造し得る大腸菌が開示されている。この細菌の能力は、収率50%、生産速度0.4g/L/hr、最終生産量14g/Lと期待されると記載されている。
【0010】
国際公開2009/247217号には、アセトアセテートデカルボキシラーゼ、CoAトランスフェラーゼ、チオラーゼ及び2−プロピルアルコールデヒドロゲナーゼの各遺伝子が導入され、イソプロピルアルコールを製造し得る大腸菌が開示されている。この細菌の能力は、最終生産量2g/Lと記載されている。
【0011】
ここで、イソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼ、セカンダリーアルコールデヒドロゲナーゼ、プライマリー−セカンダリーアルコールデヒドロゲナーゼ及び2−プロピルアルコールデヒドロゲナーゼは、名称が異なるものの同じ反応を触媒する酵素であり、CoAトランスフェラーゼ、アセトアセチルCoAトランスフェラーゼ、アセチルCoA:アセテートCoA−トランスフェラーゼ及びCoA−トランスフェラーゼは、名称が異なるものの同じ反応を触媒する酵素である。また、アセト酢酸デカルボキシラーゼとアセトアセテートデカルボキシラーゼは名称が異なるものの同じ反応を触媒する酵素であり、チオラーゼとアセチルCoAアセチルトランスフェラーゼも名称が異なるものの同じ反応を触媒する酵素である。従って、これらの文献によるイソプロピルアルコール生産大腸菌は、生産性に種々違いはあるもののイソプロピルアルコールを製造するために利用している酵素は、国際公開第2009/008377号に記載されている、アセト酢酸デカルボキシラーゼ、イソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼ、CoAトランスフェラーゼ及びチオラーゼの4種と同様のものであり、生産性や収率を向上させるなどを目的とする場合、従来は、これら4種の酵素を検討していた。
【0012】
特開平5−260979号には、Bacillus subtillisにおいて、該大腸菌が保有するGntR遺伝子を破壊するとD−リボースの生産性が上がると記載されている。
【0013】
またイソプロピルアルコールをアセトンに変換する方法としては、特開平7−53433号及び特開平11−335315号に、イソプロピルアルコールを脱水素によりアセトンを製造する固体触媒として銅系の触媒が使用されている。また英国特許第665376号には酸化亜鉛微粒子と酸化ジルコニウム微粒子を物理的に混ぜ合わせた触媒が使用されている。一般に微生物を用いて物質を生産すると不純物が含まれることが知られている。この点で、これらの技術はいずれも、微生物を用いた製造方法ではないので、不純物を含むイソプロパノールを原料として用いたとの記載はない。
【0014】
アセトンは、水添することにより容易にイソプロパノールへ変換でき、このイソプロパノールをさらに脱水反応によりプロピレンとした後にベンゼンと反応させクメンを得るプロセス。すなわち、アセトンを二段階の反応により、プロピレンへと変換することにより、クメン法の原料として再使用するプロセスが提案されている(例えば、特開平2−174737号公報参照)。
上記のような再使用においては、アセトンから高選択的にプロピレンを製造する方法を工業上、実用的に確立することが必要とされている。また、Cu(25%)−酸化亜鉛(35%)−酸化アルミニウム(40%)触媒の存在下、400℃でアセトンの水素化反応を行い、プロピレンを得る方法も知られている(例えば、東ドイツ特許 DD84378号公報参照)。しかし、この方法では、反応温度が400℃と高温であるにも関わらず、アセトン転化率が89%と低い。また該方法ではプロピレンが水添されることによりプロパンが生成する副反応のため、プロピレン選択性も89%と不充分である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、イソプロピルアルコールを生産可能な上記大腸菌のいずれも、充分な生産能力を有しているとは言い難く、イソプロピルアルコール生産大腸菌においてイソプロピルアルコールの生産性を向上させることは、解決すべき大きな課題であった。また、得られたイソプロピルアルコールを効果的に利用する方法を提供することも求められていた。
本発明は、イソプロピルアルコールの生産性を大幅に向上させた大腸菌、該大腸菌を用いたイソプロピルアルコール生産方法及びアセトン生産方法、更には該大腸菌を用いて得られたアセトンを含有するイソプロピルアルコールから、プロピレンを生産する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は上記状況を鑑みてなされたものであり、本発明のイソプロピルアルコール生産大腸菌、イソプロピルアルコール生産方法及びアセトン生産方法は、以下のとおりである。
〔1〕イソプロピルアルコール生産系を備え、転写抑制因子GntRの活性が不活化されており、該不活化に伴うイソプロピルアルコール生産能を維持又は強化する酵素活性パターンとして下記(1)〜(3)のいずれかを備えたイソプロピルアルコール生産大腸菌。
(1)グルコース−6−リン酸イソメラーゼ(Pgi)活性、グルコース−6−リン酸−1−デヒドロゲナーゼ(Zwf)活性、及びホスホグルコン酸デヒドロゲナーゼ(Gnd)活性の野生型の維持。
(2)グルコース−6−リン酸イソメラーゼ(Pgi)活性の不活化と、グルコース−6−リン酸−1−デヒドロゲナーゼ(Zwf)活性の強化。
(3)グルコース−6−リン酸イソメラーゼ(Pgi)活性の不活化と、グルコース−6−リン酸−1−デヒドロゲナーゼ(Zwf)活性の強化と、ホスホグルコン酸デヒドロゲナーゼ(Gnd)活性の不活化。
〕 前記グルコース−6−リン酸−1−デヒドロゲナーゼ(Zwf)活性が、エシェリヒア属細菌由来のグルコース−6−リン酸−1−デヒドロゲナーゼ(Zwf)をコードする遺伝子に由来するものである[]に記載のイソプロピルアルコール生産大腸菌。
〕 前記イソプロピルアルコール生産系が、アセト酢酸デカルボキシラーゼ、イソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼ、CoAトランスフェラーゼ及びチオラーゼの各酵素遺伝子により構築されたものである[1]又は[2]に記載のイソプロピルアルコール生産大腸菌。
〕 前記イソプロピルアルコール生産系が、アセト酢酸デカルボキシラーゼ、イソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼ、CoAトランスフェラーゼ及びチオラーゼの各酵素遺伝子により構築されたものであり、かつ各酵素遺伝子が、それぞれ独立に、クロストリジウム属細菌、バチルス属細菌及びエシェリヒア属細菌からなる群より選択された少なくとも1種の原核生物に由来するものである[1]〜[]のいずれかに記載のイソプロピルアルコール生産大腸菌。
〕 前記アセト酢酸デカルボキシラーゼ活性が、クロストリジウム・アセトブチリカム由来の酵素をコードする遺伝子に由来するものであり、前記イソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼ活性がクロストリジウム・ベイジェリンキ由来の酵素をコードする遺伝子に由来するものであり、前記CoAトランスフェラーゼ活性及びチオラーゼ活性がエシェリヒア・コリ由来の各酵素をコードする遺伝子に由来するものである[]又は[]記載のイソプロピルアルコール生産大腸菌。
〕 前記イソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼ及び前記アセト酢酸デカルボキシラーゼの少なくとも1つの活性が遺伝子改変体として導入された遺伝子に由来する[〜[5]のいずれかに記載のイソプロピルアルコール生産大腸菌。
〕 前記イソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼの遺伝子改変体が配列番号40で表される塩基配列であり、前記アセト酢酸デカルボキシラーゼの遺伝子改変体が配列番号43で表される塩基配列である[]に記載のイソプロピルアルコール生産大腸菌。
〕 さらに、スクロース非PTS遺伝子群のうちスクロース加水分解酵素遺伝子を少なくとも有する[]〜[]のいずれかに記載のイソプロピルアルコール生産大腸菌。
〕 [1]〜[]のいずれかに記載のイソプロピルアルコール生産大腸菌を用いて植物由来原料からイソプロピルアルコールを生産することを含むイソプロピルアルコール生産方法。
10〕 [1]〜[]のいずれかに記載のイソプロピルアルコール生産大腸菌を用いて植物由来原料からイソプロピルアルコールを得ること、及び
得られたイソプロピルアルコールに、触媒として、酸化亜鉛と、第4族の元素を含む少なくとも1種の酸化物とを含有し且つ共沈法で調製された複合酸化物を接触させることを含む、アセトン生産方法。
11〕 [1]〜[]のいずれかに記載のイソプロピルアルコール生産大腸菌を用いて植物由来原料から得られ且つアセトンを含有するイソプロピルアルコールに、反応温度50〜300℃の範囲で、触媒として固体酸物質およびCuを含む水添触媒を接触させることを含む、プロピレンの製造方法。
12〕 前記Cuを含む水添触媒が、さらに第6族、第12族、および第13族のうち少なくとも一つの元素を含む触媒である[11]に記載のプロピレンの製造方法。
13〕 前記固体酸物質がゼオライトである[11]又は[12]に記載のプロピレンの製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、イソプロピルアルコールを高生産できる大腸菌、該大腸菌を用いたイソプロピルアルコール生産方法及びアセトン生産方法、更には該大腸菌を用いて得られたアセトンを含有するイソプロピルアルコールから、プロピレンを生産する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のイソプロピルアルコール生産大腸菌は、転写抑制因子GntRの活性が不活化されていると共に、イソプロピルアルコール生産系と、該GntRの活性の不活化に伴うイソプロピルアルコール生産能を維持又は強化する酵素活性パターンの補助酵素群とを備えたイソプロピルアルコール生産大腸菌である。
本発明のイソプロピルアルコール生産大腸菌では、GntR活性が不活化されていると共に、上記所定の酵素活性パターンの補助酵素群を備えているため、イソプロピルアルコールを高生産することができる。
【0019】
即ち本発明は、イソプロピルアルコールの生産性を高めるために種々検討した結果、グルコン酸代謝の負の制御因子であるGntRの活性を不活化することによって、該大腸菌による生成物であるイソプロピルアルコールの生産性が上がることを見出したものである。
また、この際、GntRの活性の不活化により向上したイソプロピルアルコール生産能に影響する酵素が存在することが見出された。これらの酵素の活性のパターンによって、GntRの活性の不活化により向上したイソプロピルアルコール生産能が維持又は強化される。
【0020】
本発明における「補助酵素群」とは、このようなイソプロピルアルコール生産能に影響する1つ又は2つ以上の酵素を指す。また、補助酵素群のそれぞれの酵素活性は、不活化、活性化又は強化されており、本発明における「補助酵素群の酵素活性パターン」とは、GntRの活性を不活化したことのみによって得られる向上したイソプロピルアルコール生産量が、維持又は増加し得る各酵素の酵素活性パターンを指し、1つ又は2つ以上の酵素の組み合わせを包含する。
【0021】
前記補助酵素群は、イソプロピルアルコール生産系を備え且つGntR活性を不活化した以外は生来の酵素(本発明では、除外することを特に断らない限り「酵素」には単独では酵素活性を示さない「因子」も含まれる)のみで構成された酵素群であってもよい。
例えば、所定のイソプロピルアルコール生産能を発揮するイソプロピルアルコール生産系を備え、且つ遺伝子組み換え技術によりGntRを不活化した以外は、何ら人為的に変更していないイソプロピルアルコール生産大腸菌、及び、イソプロピルアルコールの生産能を高めるための改変が付与されたイソプロピルアルコール生産系を備え、且つ、遺伝子組み換え技術によりGntRを不活化した以外は、何ら人為的に変更していないイソプロピルアルコール生産大腸菌は、前記イソプロピルアルコール生産大腸菌に包含される。
【0022】
補助酵素群の酵素活性パターンとしては、好ましくは、以下のパターンを挙げることができる:
(1)グルコース−6−リン酸イソメラーゼ(Pgi)活性、グルコース−6−リン酸−1−デヒドロゲナーゼ(Zwf)活性及びホスホグルコン酸デヒドロゲナーゼ(Gnd)活性の野生型の維持、
(2)グルコース−6−リン酸イソメラーゼ(Pgi)活性の不活化と、グルコース−6−リン酸−1−デヒドロゲナーゼ(Zwf)活性の強化、
(3)グルコース−6−リン酸イソメラーゼ(Pgi)活性の不活化と、グルコース−6−リン酸−1−デヒドロゲナーゼ(Zwf)活性の強化と、ホスホグルコン酸デヒドロゲナーゼ(Gnd)活性の不活化。
なかでも、上記(3)の補助酵素群の酵素活性パターンがイソプロピルアルコール生産能の観点からより好ましい。
【0023】
なお、本発明にかかる補助酵素群及びその酵素活性パターンは、これらに限定されず、GntRの活性の不活化を含み、イソプロピルアルコール生産大腸菌におけるイソプロピルアルコール生産量が増加し得る補助酵素群及びその酵素活性パターンであれば、いずれも本発明に包含される。また、補助酵素群は、必ずしも複数の酵素で構成されている必要はなく、1の酵素で構成していてもよい。
【0024】
なお、本発明における「不活化」とは、既存のあらゆる測定系によっても測定された当該因子又は酵素の活性が、不活化前の大腸菌での活性を100としたとき、その1/10以下の状態を指す。
本発明における「遺伝子組換え技術により」との文言は、生来の遺伝子の塩基配列に対する別のDNAの挿入、あるいは遺伝子のある部分の置換、欠失又はこれらの組み合わせによって塩基配列上の変更が生じているものであれば全て包含し、例えば、突然変異が生じた結果得られたものであってもよい。
【0025】
本発明において因子又は酵素の活性が不活化された大腸菌とは、菌体外から菌体内への何らかの方法によって、生来の活性が損なわれた細菌を指す。これらの細菌は、例えば該蛋白質又は酵素をコードする遺伝子を破壊すること(遺伝子破壊)により作出することができる。
【0026】
本発明における遺伝子破壊としては、ある遺伝子の機能が発揮できないようにするために、その遺伝子の塩基配列に変異を入れる、別のDNAを挿入する、及び、遺伝子のある部分を欠失させることを挙げることができる。遺伝子破壊の結果、例えばその遺伝子がmRNAへ転写できなくなり、構造遺伝子が翻訳されなくなる。あるいは、転写されたmRNAが不完全なために翻訳された構造蛋白質のアミノ酸配列に変異又は欠失が生じて本来の機能の発揮が不可能になる。
【0027】
遺伝子破壊株の作製は、当該酵素又は蛋白質が発現しない破壊株が得られればいかなる方法も用いることが可能である。遺伝子破壊の方法は種々の方法(自然育種、変異剤添加、紫外線照射、放射線照射、ランダム突然変異、トランスポゾン、部位特異的遺伝子破壊)が報告されているが、ある特定の遺伝子のみ破壊できるという点で、相同組換えによる遺伝子破壊が好ましい。相同組換えによる手法はJ.Bacteriol.,161,1219-1221(1985)やJ.Bacteriol.,177,1511-1519(1995)やProc.Natl.Acad.Sci.U.S.A,97,6640-6645(2000)に記載されており、これらの方法及びその応用によって同業技術者であれば容易に実施可能である。
【0028】
本発明における「活性」の「強化」とは、強化前のイソプロピルアルコール生産大腸菌での各種酵素活性が強化後に高まることを広く意味する。
強化の方法としては、イソプロピルアルコール生産大腸菌が有している各種酵素の活性が高まれば、特に制限はなく、菌体外から導入された酵素遺伝子による強化、菌体内の酵素遺伝子の発現増強による強化、及びこれらの組み合わせを挙げることができる。
【0029】
菌体外から導入された酵素遺伝子による強化としては、具体的には、宿主由来の酵素よりも高活性の酵素をコードする遺伝子を宿主細菌の菌体外から菌体内に導入して、導入された酵素遺伝子による酵素活性を追加するあるいはこの酵素活性に宿主が本来有する酵素活性と置換すること、更には宿主由来の酵素遺伝子又は菌体外からの酵素遺伝子の数を2以上に増加させること、又はこれらの組み合わせを挙げることができる。
【0030】
菌体内の酵素遺伝子の発現増強による強化としては、具体的には、酵素遺伝子の発現を増強する塩基配列を宿主細菌の菌体外から菌体内に導入すること、宿主細菌がゲノム上に保有する酵素遺伝子のプロモーターを他のプロモーターと置換することによって酵素遺伝子の発現を強化させること、及びこれらの組み合わせを挙げることができる。
本発明において「宿主」とは、ひとつ以上の遺伝子を菌体外から導入された結果、本発明のイソプロピルアルコール生産大腸菌となる当該大腸菌を意味する。
以下に、本発明について説明する。
【0031】
本発明におけるGntRとは、エントナードウドロフ経路を経由したグルコン酸代謝に関与するオペロンを負に制御する転写因子を指す。グルコン酸の取り込みと代謝を担う二つの遺伝子群(GntIとGntII)の働きを抑制するGntR転写抑制因子の総称を指す。
本発明におけるグルコース−6−リン酸イソメラーゼ(Pgi)とは、国際生化学連合(I.U.B.)酵素委員会報告に準拠した酵素番号5.3.1.9に分類され、D−グルコース−6−リン酸からD−フルクトース−6−リン酸を生成する反応を触媒する酵素の総称を指す。
【0032】
本発明におけるグルコース−6−リン酸−1−デヒドロゲナーゼ(Zwf)とは、国際生化学連合(I.U.B.)酵素委員会報告に準拠した酵素番号1.1.1.49に分類され、D−グルコース−6−リン酸からD−グルコノ−1,5−ラクトン−6−リン酸を生成する反応を触媒する酵素の総称を指す。
そのようなものとしては、例えば、Deinococcus radiophilus等のDeinococcus属菌、Aspergillus niger、Aspergillus aculeatus等のAspergillus属菌 、Acetobacter hansenii等のAcetobacter属菌、Thermotoga maritima等のThermotoga属菌、Cryptococcus neoformans等のCryptococcus属菌、Dictyostelium discoideum等のDictyostelium属菌、Pseudomonas fluorescens、Pseudomonas aeruginosa等のPseudomonas属、Saccharomyces cerevisiae等のSaccharomyces属、Bacillus megaterium等のBacillus属菌、Escherichia coli等のEscherichia属菌由来のものが挙げられる。
【0033】
本発明において用いられるグルコース−6−リン酸−1−デヒドロゲナーゼ(Zwf)の遺伝子としては、上述した各由来生物から得られるグルコース−6−リン酸−1−デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の塩基配列を有するDNA又はその公知の塩基配列に基づいて合成された合成DNA配列を利用することができる。好適なものとしては、Deinococcus radiophilus等のDeinococcus属菌、Aspergillus niger、Aspergillus aculeatus等のAspergillus属菌 、Acetobacter hansenii等のAcetobacter属菌、Thermotoga maritima等のThermotoga属菌、Cryptococcus neoformans等のCryptococcus属菌、Dictyostelium discoideum等のDictyostelium属菌、Pseudomonas fluorescens、Pseudomonas aeruginosa等のPseudomonas属、Saccharomyces cerevisiae等のSaccharomyces属、Bacillus megaterium等のBacillus属菌、Escherichia coli等のEscherichia属菌由来の遺伝子の塩基配列を有するDNAが例示される。より好適なものとしては、Deinococcus属菌、Aspergillus属菌 、Acetobacter属菌、Thermotoga属菌、Pseudomonas属、Bacillus属菌、Escherichia属などの原核生物に由来するものを挙げることができ、特に好ましくは、Escherichia coli由来の遺伝子の塩基配列を有するDNAである。
【0034】
本発明におけるホスホグルコン酸デヒドロゲナーゼ(Gnd)とは、国際生化学連合(I.U.B.)酵素委員会報告に準拠した酵素番号1.1.1.44に分類され、6−ホスホ−D−グルコン酸からD−リブロース−5−リン酸とCOを生成する反応を触媒する酵素の総称を指す。
【0035】
本発明におけるイソプロピルアルコール生産大腸菌は、イソプロピルアルコール生産系を備えた大腸菌であり、遺伝子組換え技術により導入又は改変されたイソプロピルアルコール生産能力を保有する大腸菌をいう。このようなイソプロピルアルコール生産系は、対象となる大腸菌にイソプロピルアルコールを生産させるものであればいずれのものであってもよい。
好ましくは、イソプロピルアルコールの生産に関与する酵素活性の強化を挙げることができる。本発明におけるイソプロピルアルコール生産大腸菌は、アセト酢酸デカルボキシラーゼ活性、イソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼ活性、CoAトランスフェラーゼ活性及び前述したチオラーゼ活性の4種類の酵素活性が、菌体外から付与され若しくは菌体内において発現増強され、又はこれら双方がなされていることが更に好ましい。
【0036】
本発明におけるチオラーゼとは、国際生化学連合(I.U.B.)酵素委員会報告に準拠した酵素番号2.3.1.9に分類され、アセチルCoAからアセトアセチルCoAを生成する反応を触媒する酵素の総称を指す。
そのようなものとしては、例えば、クロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)、クロストリジウム・ベイジェリンキ(Clostridium beijerinckii)等のクロストリジウム属細菌、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)等のエシェリヒア属細菌、ハロバクテリウム種(Halobacterium sp.)細菌、ズーグロア・ラミゲラ(Zoogloea ramigera)等のズーグロア属細菌、リゾビウム種(Rhizobium sp.)細菌、ブラディリゾビウム・ジャポニカム(Bradyrhizobium japonicum)等のブラディリゾビウム属細菌、カンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)等のカンジダ属細菌、カウロバクター・クレセンタス(Caulobacter crescentus)等のカウロバクター属細菌、ストレプトマイセス・コリナス(Streptomyces collinus)等のストレプトマイセス属細菌、エンテロコッカス・ファカリス(Enterococcus faecalis)等のエンテロコッカス属細菌由来のものが挙げられる。
【0037】
本発明において用いられるチオラーゼの遺伝子としては、上述した各由来生物から得られるチオラーゼをコードする遺伝子の塩基配列を有するDNA又はその公知の塩基配列に基づいて合成された合成DNA配列を利用することができる。好適なものとしては、クロストリジウム・アセトブチリカム、クロストリジウム・ベイジェリンキ等のクロストリジウム属細菌、エシェリヒア・コリ等のエシェリヒア属細菌、ハロバクテリウム種の細菌、ズーグロア・ラミゲラ等のズーグロア属細菌、リゾビウム種の細菌、ブラディリゾビウム・ジャポニカム等のブラディリゾビウム属細菌、カンジダ・トロピカリス等のカンジダ属細菌、カウロバクター・クレセンタス等のカウロバクター属細菌、ストレプトマイセス・コリナス等のストレプトマイセス属細菌、エンテロコッカス・ファカリス等のエンテロコッカス属細菌由来の遺伝子の塩基配列を有するDNAが例示される。より好適なものとしては、クロストリジウム属細菌又はエシェリヒア属細菌などの原核生物に由来するものを挙げることができ、特に好ましくは、クロストリジウム・アセトブチリカム又はエシェリヒア・コリ由来の遺伝子の塩基配列を有するDNAである。
【0038】
本発明におけるアセト酢酸デカルボキシラーゼとは、国際生化学連合(I.U.B.)酵素委員会報告に準拠した酵素番号4.1.1.4に分類され、アセト酢酸からアセトンを生成する反応を触媒する酵素の総称を指す。
そのようなものとしては、例えば、クロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)、クロストリジウム・ベイジェリンキ(Clostridium beijerinckii)等のクロストリジウム属細菌、バチルス・ポリミクサ(Bacillus polymyxa)等のバチルス属細菌由来のものが挙げられる。
【0039】
本発明の宿主細菌に導入されるアセト酢酸デカルボキシラーゼの遺伝子としては、上述した各由来生物から得られるアセト酢酸デカルボキシラーゼをコードする遺伝子の塩基配列を有するDNA又はその公知の塩基配列に基づいて合成された合成DNA配列を利用することができる。好適なものとしては、クロストリジウム属細菌又はバチルス属細菌に由来するものを挙げることができ、例えばクロストリジウム・アセトブチリカム、バチルス・ポリミクサ由来の遺伝子の塩基配列を有するDNAが例示される。特に好ましくは、クロストリジウム・アセトブチリカム由来の遺伝子の塩基配列を有するDNAである。
【0040】
本発明におけるイソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼとは、国際生化学連合(I.U.B.)酵素委員会報告に準拠した酵素番号1.1.1.80に分類され、アセトンからイソプロピルアルコールを生成する反応を触媒する酵素の総称を指す。
そのようなものとしては、例えば、クロストリジウム・ベイジェリンキ(Clostridium beijerinckii)等のクロストリジウム属細菌由来のものが挙げられる。
【0041】
本発明の宿主細菌に導入されるイソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼの遺伝子としては、上述した各由来生物から得られるイソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の塩基配列を有するDNA又はその公知の塩基配列に基づいて合成された合成DNA配列を利用することができる。好適なものとしては、クロストリジウム属細菌に由来するものを挙げることができ、例えばクロストリジウム・ベイジェリンキ由来の遺伝子の塩基配列を有するDNAである。
【0042】
本発明におけるCoAトランスフェラーゼとは、国際生化学連合(I.U.B.)酵素委員会報告に準拠した酵素番号2.8.3.8に分類され、アセトアセチルCoAからアセト酢酸を生成する反応を触媒する酵素の総称を指す。
そのようなものとしては、例えば、クロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)、クロストリジウム・ベイジェリンキ(Clostridium beijerinckii)等のクロストリジウム属細菌、ローセブリア・インテスチナリス(Roseburia intestinalis)等のローセブリア属細菌、ファカリバクテリウム・プラウセンツ(Faecalibacterium prausnitzii)等ファカリバクテリウム属細菌、コプロコッカス(Coprococcus)属細菌、トリパノソーマ・ブルセイ(Trypanosoma brucei)等のトリパノソーマ、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli:大腸菌)等エシェリヒア属細菌由来のものが挙げられる。
【0043】
本発明において用いられるCoAトランスフェラーゼの遺伝子としては、上述した各由来生物から得られるCoAトランスフェラーゼをコードする遺伝子の塩基配列を有するDNA又はその公知の塩基配列に基づいて合成された合成DNA配列を利用することができる。好適なものとしては、クロストリジウム・アセトブチリカム等のクロストリジウム属細菌、ローセブリア・インテスチナリス等のローセブリア属細菌、ファカリバクテリウム・プラウセンツ等のファカリバクテリウム属細菌、コプロコッカス属細菌、トリパノソーマ・ブルセイ等のトリパノソーマ、エシェリヒア・コリ等のエシェリヒア属細菌由来の遺伝子の塩基配列を有するDNAが例示される。より好適なものとしては、クロストリジウム属細菌又はエシェリヒア属細菌に由来するものを挙げることができ、特に好ましくは、クロストリジウム・アセトブチリカム又はエシェリヒア・コリ由来の遺伝子の塩基配列を有するDNAである。
【0044】
上記4種類の酵素はそれぞれ、クロストリジウム属細菌、バチルス属細菌及びエシェリヒア属細菌からなる群より選択された少なくとも1種由来のものであることが酵素活性の観点から好ましく、なかでも、アセト酢酸デカルボキシラーゼ及びイソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼがクロストリジウム属細菌由来であり、CoAトランスフェラーゼ活性及びチオラーゼ活性がエシェリヒア属細菌由来である場合が更に好ましい。
【0045】
なかでも本発明にかかる4種類の酵素はそれぞれ、クロストリジウム・アセトブチリカム、クロストリジウム・ベイジュリンキ又はエシェリヒア・コリのいずれか由来のものであることが酵素活性の観点から好ましく、アセト酢酸デカルボキシラーゼがクロストリジウム・アセトブチリカム由来の酵素であり、CoAトランスフェラーゼ及びチオラーゼが、それぞれクロストリジウム・アセトブチリカム又はエシェリヒア・コリ由来の酵素であり、イソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼが、クロストリジウム・ベイジェリンキ由来の酵素であることがより好ましく、上記4種類の酵素は、酵素活性の観点から、アセト酢酸デカルボキシラーゼ活性がクロストリジウム・アセトブチリカム由来であり、前記イソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼ活性がクロストリジウム・ベイジェリンキ由来であり、CoAトランスフェラーゼ活性及びチオラーゼ活性がエシェリヒア・コリ由来であることが特に好ましい。
【0046】
本発明におけるこれらの酵素の活性は、菌体外から菌体内へ導入されたもの又は、宿主細菌がゲノム上に保有する酵素遺伝子のプロモーター活性を強化又は他のプロモーターと置換することによって酵素遺伝子を強発現させたものとすることができる。
酵素活性の導入は、例えば酵素をコードする遺伝子を遺伝子組換え技術を用いて宿主細菌の菌体外から菌体内に導入することにより行うことができる。このとき、導入される酵素遺伝子は、宿主細胞に対して同種又は異種のいずれであってもよい。菌体外から菌体内へ遺伝子を導入する際に必要なゲノムDNAの調製、DNAの切断及び連結、形質転換、PCR(Polymerase Chain Reaction)、プライマーとして用いるオリゴヌクレオチドの設計、合成等の方法は、当業者によく知られている通常の方法で行うことができる。これらの方法は、Sambrook, J., et al., ”Molecular Cloning A Laboratory Manual, Second Edition”, Cold Spring Harbor Laboratory Press,(1989)などに記載されている。
【0047】
本発明において酵素の活性を強化した大腸菌とは、何らかの方法によって該酵素活性が強化された大腸菌を指す。これらの大腸菌は、例えば該酵素及び蛋白質をコードする遺伝子を、前述したものと同様の遺伝子組換え技術を用いて菌体外から菌体内にプラスミドを用いて導入する又は、宿主大腸菌がゲノム上に保有する酵素遺伝子のプロモーター活性を強化又は他のプロモーターと置換することによって酵素遺伝子を強発現させる、等の方法を用いて作出することができる。
【0048】
本発明における遺伝子のプロモーターとは、上記いずれかの遺伝子の発現を制御可能なものであればよいが、恒常的に微生物内で機能する強力なプロモーターで、かつグルコース存在下でも発現の抑制を受けにくいプロモーターがよい。具体的にはグリセルアルデヒド3−リン酸デヒドロゲナーゼ(以下GAPDHと呼ぶことがある)のプロモーターやセリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼのプロモーターを例示することができる。
本発明におけるプロモーターとはシグマ因子を有するRNAポリメラーゼが結合し、転写を開始する部位を意味する。例えばエシェリヒア・コリ由来のGAPDHプロモーターはGenBank accession number X02662の塩基配列情報において、塩基番号397−440に記されている。
【0049】
大腸菌由来のCoAトランスフェラーゼ遺伝子(atoD及びatoA)とチオラーゼ遺伝子(atoB)は、atoD、atoA、atoBの順番で大腸菌ゲノム上でオペロンを形成しているため(Journal of Baceteriology Vol.169 pp 42-52 Lauren Sallus Jenkinsら)、atoDのプロモーターを改変することによって、CoAトランスフェラーゼ遺伝子とチオラーゼ遺伝子の発現を同時に制御することが可能である。
このことから、CoAトランスフェラーゼ活性及びチオラーゼ活性が宿主大腸菌のゲノム遺伝子より得られたものである場合、充分なイソプロピルアルコール生産能力を獲得する観点から、両酵素遺伝子の発現を担うプロモーターを他のプロモーターと置換する等によって両酵素遺伝子の発現を増強することが好ましい。CoAトランスフェラーゼ活性及びチオラーゼ活性の発現を増強するために用いられるプロモーターとしては、前述のエシェリヒア・コリ由来GAPDHプロモーター等を挙げることができる。
【0050】
本発明において、イソプロピルアルコール生産系を備えているイソプロピルアルコール生産大腸菌の例として、WO2009/008377号に記載のpIPA/B株又はpIaaa/B株を例示できる。また、該大腸菌には、イソプロピルアルコールの生産に関与する酵素のうち、CoAトランスフェラーゼ活性とチオラーゼ活性の増強は該大腸菌のゲノム上の各遺伝子の発現を強化することで行い、イソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼ活性とアセト酢酸デカルボキシラーゼ活性の増強は各遺伝子の発現をプラスミドで強化した株(pIa/B::atoDAB株と呼ぶことがある)を含む。
【0051】
本発明では、イソプロピルアルコール生産性をより効果的に向上させる観点から、不活化されたGntR活性が含まれることが好ましい。不活化されたGntRと共に不活化されたグルコース−6−リン酸イソメラーゼ(Pgi)活性と強化されたグルコース−6−リン酸−1−デヒドロゲナーゼ(Zwf)活性が含まれることが更に好ましく、不活化されたGntR活性、不活化されたグルコース−6−リン酸イソメラーゼ(Pgi)活性、不活化されたホスホグルコン酸デヒドロゲナーゼ(Gnd)活性と強化されたグルコース−6−リン酸−1−デヒドロゲナーゼ(Zwf)活性が含まれることが最も好ましい。これらの組み合わせにより、これ以外の各因子又は酵素の組み合わせと比してイソプロピルアルコールの生産性を驚異的に向上させることできる。
【0052】
本発明におけるイソプロピルアルコール生産大腸菌の好ましい態様としては、上記pIPA/B株、pIaaa/B株又はpIa/B::atoDAB株のGntR活性を不活化した株である。
更に好ましい態様としては、上記pIPA/B株、pIaaa/B株又はpIa/B::atoDAB株のGntR活性とグルコース−6−リン酸イソメラーゼ(Pgi)活性を不活化し、グルコース−6−リン酸−1−デヒドロゲナーゼ(Zwf)活性を強化した株である。
【0053】
特に好ましい態様としては、上記pIPA/B株、pIaaa/B株又はpIa/B::atoDAB株のGntR活性とグルコース−6−リン酸イソメラーゼ(Pgi)活性とホスホグルコン酸デヒドロゲナーゼ(Gnd)活性を不活化し、グルコース−6−リン酸−1−デヒドロゲナーゼ(Zwf)活性を強化した株である。
【0054】
更に本発明におけるイソプロピルアルコール生産大腸菌は、にスクロース資化酵素をコードする遺伝子群を導入することができる。これにより、スクロースからイソプロピルアルコールを生産することが可能となる。
スクロース資化酵素をコードする遺伝子としては、微生物のスクロース資化経路のうち、PTS系と非PTS系に関与する酵素群をコードする遺伝子が含まれる。
具体的にスクロースPTSに関与する酵素群をコードする遺伝子としては、ScrA(スクロースの取り込みを行う)、ScrY(スクロースのリン酸化を行う)、ScrB(微生物内部でスクロースの分解を行う)、ScrR(ScrA,Y,Bをコードする遺伝子の発現を制御する)、ScrK(フルクトースのリン酸化を行う)をコードする遺伝子が挙げられる。
【0055】
また、具体的にスクロース非PTSに関与する酵素群をコードするスクロース非PTS遺伝子群は、CscB(スクロース透過酵素:スクロースの取り込みを行う)、CscA(スクロース加水分解酵素:微生物内部でスクロースの分解を行う)、CscK(フルクトキナーゼ:フルクトースのリン酸化を行う)、CscR(リプレッサー蛋白質:CscB、A、及びKをコードする遺伝子の発現を制御する)をコードする遺伝子で構成される遺伝子群である。
【0056】
本発明におけるイソプロピルアルコール生産大腸菌に導入するスクロース資化酵素遺伝子としては、このうち非PTS系に関与する酵素群をコードする遺伝子を挙げることができ、中でもCscAを少なくとも含む一種以上の酵素の組み合わせの遺伝子を挙げることができる。例えば、cscAのみ、cscA及びcscKの組み合わせ、cscA及びcscBの組み合わせ、cscA及びcscRの組み合わせ、cscA、cscR及びcscKの組み合わせ、cscA、cscR及びcscBの組み合わせ等が挙げられる。中でも、イソプロピルアルコールを効率よく生産する観点から、CscAをコードする遺伝子のみを導入することも選択できる。
【0057】
前記スクロース加水分解酵素(インベルターゼ、CscA)の遺伝子としては、この酵素を保有する生物から得られるスクロース加水分解酵素(インベルターゼ、CscA)をコードする遺伝子の塩基配列を有するDNA、又はその公知の塩基配列に基づいて合成された合成DNA配列を利用することができる。好適なものとしては、アーウィニア属菌(Erwinia)、ポルテウス属菌(Proteus)、ビブリオ属菌(Vibrio)、アグロバクテリウム属菌(Agrobacterium)、リヒゾビウム属菌(Rhizobium)、スタフィロコッカス属菌(Staphylococcus),ビフィドバクテリウム属菌(Bifidobacterium)、エシェリヒア属菌(Escherichia)に由来するものを挙げることができ、例えばエシェリヒア・コリO157株由来の遺伝子の塩基配列を有するDNAが例示される。特に好ましくは、エシェリヒア・コリO157株由来の遺伝子の塩基配列を有するDNAである。またcscAには、cscAを菌体のペリプラズムへ移行させるためのシグナル配列が付加されていることが好ましい。
【0058】
前記リプレッサー蛋白質(CscR)の遺伝子としては、この酵素を保有する生物から得られるリプレッサータンパク質(CscR)をコードする遺伝子の塩基配列を有するDNA、又はその公知の塩基配列に基づいて合成された合成DNA配列を利用することができる。好適なものとしては、アーウィニア属菌(Erwinia)、ポルテウス属菌(Proteus)、ビブリオ属菌(Vibrio)、アグロバクテリウム属菌(Agrobacterium)、リヒゾビウム属菌(Rhizobium)、スタフィロコッカス属菌(Staphylococcus),ビフィドバクテリウム属菌(Bifidobacterium)、エシェリヒア属菌(Escherichia)に由来するものを挙げることができ、例えばエシェリヒア・コリO157株由来の遺伝子の塩基配列を有するDNAが例示される。特に好ましくは、エシェリヒア・コリO157株由来の遺伝子の塩基配列を有するDNAである。
【0059】
前記フルクトキナーゼ(CscK)の遺伝子としては、この酵素を保有する生物から得られるフルクトキナーゼ(CscK)をコードする遺伝子の塩基配列を有するDNA、又はその公知の塩基配列に基づいて合成された合成DNA配列を利用することができる。好適なものとしては、アーウィニア属菌(Erwinia)、ポルテウス属菌(Proteus)、ビブリオ属菌(Vibrio)、アグロバクテリウム属菌(Agrobacterium)、リヒゾビウム属菌(Rhizobium)、スタフィロコッカス属菌(Staphylococcus),ビフィドバクテリウム属菌(Bifidobacterium)、エシェリヒア属菌(Escherichia)に由来するものを挙げることができ、例えばエシェリヒア・コリO157株由来の遺伝子の塩基配列を有するDNAが例示される。特に好ましくは、エシェリヒア・コリO157株由来の遺伝子の塩基配列を有するDNAである。
【0060】
前記スクロース透過酵素(CscB)の遺伝子としては、この酵素を保有する生物から得られる、スクロース透過酵素(CscB)をコードする遺伝子の塩基配列を有するDNA、又はその公知の塩基配列に基づいて合成された合成DNA配列を利用することができる。好適なものとしては、アーウィニア属菌(Erwinia)、ポルテウス属菌(Proteus)、ビブリオ属菌(Vibrio)、アグロバクテリウム属菌(Agrobacterium)、リヒゾビウム属菌(Rhizobium)、スタフィロコッカス属菌(Staphylococcus),ビフィドバクテリウム属菌(Bifidobacterium)、エシェリヒア属菌(Escherichia)に由来するものを挙げることができ、例えばエシェリヒア・コリO157株由来の遺伝子の塩基配列を有するDNAが例示される。特に好ましくは、エシェリヒア・コリO157株由来の遺伝子の塩基配列を有するDNAである。
【0061】
本発明にかかるイソプロピルアルコール生産大腸菌では、前記イソプロピルアルコール生産系にかかる各酵素、好ましくは上記イソプロピルアルコール生産系の酵素のうち、イソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼ及びアセト酢酸デヒドロゲナーゼの少なくとも一方の酵素の活性が、遺伝子改変体として導入された導入遺伝子に由来してもよい。
本発明において「遺伝子改変体」とは、当該酵素遺伝子の塩基配列に、欠失、置換、付加等の改変を加えたものすべてが含まれる。具体的には、当該酵素遺伝子の塩基配列のうち、コドンのみに変更を加え、当該コドンのみに変更を加えた塩基配列を基に合成されるアミノ酸配列には変更がないものや、当該酵素遺伝子のプロモーター領域のみに変更を加え、当該プロモーター領域のみに変更を加えた塩基配列を基に合成されるアミノ酸配列には変更がないものなどが挙げられる。
改変される酵素遺伝子は、宿主本来の遺伝子であってもよく、他種の微生物由来の酵素遺伝子であってもよい。
またイソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼをコードする酵素遺伝子のみ又はアセト酢酸デヒドロゲナーゼ酵素遺伝子のみが、遺伝子改変されていてもよく、これらが同時に遺伝子改変されていてもよい。
【0062】
遺伝子改変体としては、遺伝子改変の上記いずれかの酵素遺伝子に対する変更の結果、宿主に対して対応する酵素の酵素活性が付与され又は強化されて、目的の物質生産能が増強するものであれば、どのような改変を加えてもよい。
好ましくは、遺伝子改変体は、大腸菌のコドン使用頻度に基づいて使用コドンを改変した改変体遺伝子である。このような遺伝子改変体とすることにより、イソプロピルアルコールの生産性を上げることができる。
【0063】
本発明において「使用コドンを改変する」とは、アミノ酸配列をコード規定する塩基配列上において、各アミノ酸に対応する3塩基の並びであるコドンを改変することを意味する。本発明において「コドン改変」とは、アミノ酸配列を変えずに塩基配列のみを改変することを意味している。
【0064】
前記イソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼの遺伝子改変体としては、好ましくは、配列番号40で示される塩基配列を有する。また、前記アセト酢酸デヒドロゲナーゼの遺伝子改変体としては、好ましくは、配列番号43で示される塩基配列を有する。これらの遺伝子改変体を用いることにより、イソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼ及びアセト酢酸デヒドロゲナーゼの各酵素活性をそれぞれ好ましく増強することができる。
【0065】
本発明において大腸菌とは、本来、植物由来原料からイソプロピルアルコールを生産する能力を有するか否かに関わらず、何らかの手段を用いることにより植物由来原料からイソプロピルアルコールを生産する能力を有し得る大腸菌を意味する。
【0066】
ここで上記の遺伝子組換えの対象となる大腸菌としては、イソプロピルアルコール生産能を有しないものであってもよく、上記の各遺伝子の導入及び変更が可能であればいずれの大腸菌であってもよい。
より好ましくは、イソプロピルアルコール生産能が予め付与された大腸菌であることができ、これにより、より効率よくイソプロピルアルコールを生産させることができる。
【0067】
このようなイソプロピルアルコール生産大腸菌としては、例えばWO2009/008377号パンフレットに記載されているアセト酢酸デカルボキシラーゼ活性、イソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼ活性、CoAトランスフェラーゼ活性、及びチオラーゼ活性を付与され、植物由来原料からイソプロピルアルコールを生成しうるイソプロピルアルコール生成大腸菌などを挙げることができる。
【0068】
本発明のイソプロピルアルコール生産方法は、上記イソプロピルアルコール生産大腸菌を用いて植物由来原料からイソプロピルアルコールを生産させることを含むものであり、即ち、上記イソプロピルアルコール生産大腸菌と植物由来原料とを接触させて、培養すること(以下、培養工程)と、接触により得られたイソプロピルアルコールを回収すること(以下、回収工程)とを含むものである。
【0069】
上記イソプロピルアルコール生産方法に用いられる植物由来原料は、植物から得られる炭素源であり、植物由来原料であれば特に制限されない。本発明においては、植物由来原料とは、根、茎、幹、枝、葉、花、種子等の器官、それらを含む植物体、及びそれら植物器官の分解産物を指し、更に植物体、植物器官、及びそれらの分解産物から得られる炭素源のうち、微生物が培養において炭素源として利用し得るものも、植物由来原料に包含される。
【0070】
このような植物由来原料に包含される炭素源には、一般的なものとしてデンプン、スクロース、グルコース、フルクトース、キシロース、アラビノース等の糖類、及びこれら成分を多く含む草木質分解産物、セルロース加水分解物など、並びにこれらの組み合わせを挙げることができ、更には植物油由来のグリセリン又は脂肪酸も、本発明における炭素源に含んでもよい。
【0071】
本発明における植物由来原料の例示としては、穀物等の農作物、トウモロコシ、米、小麦、大豆、サトウキビ、ビート、綿等、及びこれらの組み合わせを好ましく挙げることができ、その原料としての使用形態は、未加工品、絞り汁、粉砕物等、特に限定されない。また、上記の炭素源のみの形態であってもよい。
【0072】
培養工程におけるイソプロピルアルコール生産大腸菌と植物由来原料との接触は、一般に、植物由来原料を含む培地でイソプロピルアルコール生産大腸菌を培養することにより行われる。
【0073】
植物由来原料とイソプロピルアルコール生産大腸菌との接触密度は、イソプロピルアルコール生産大腸菌の活性によって異なるが、一般に、培地中の植物由来原料の濃度として、グルコース換算で初発の糖濃度を混合物の全質量に対して20質量%以下とすることができ、大腸菌の耐糖性の観点から好ましくは、初発の糖濃度を15質量%以下とすることができる。この他の各成分は、微生物の培地に通常添加される量で添加されればよく、特に制限されない。
【0074】
また培地中のイソプロピルアルコール生産大腸菌の含有量としては、大腸菌の種類及び活性によって異なるが一般に、培養開始時に投入する前培養の菌液(OD660nm=4〜8)の量を培養液に対して0.1質量%〜30質量%、培養条件制御の観点から好ましくは1質量%〜10質量%とすることができる。
【0075】
イソプロピルアルコール生産大腸菌の培養に用いられる培地としては、炭素源、窒素源、無機イオン、及び乳酸を生産するために微生物が要求する有機微量元素、核酸、ビタミン類等が含まれた通常用いられる培地であれば特に制限はない。
【0076】
本発明の培養に際して、培養条件は特別の制限はなく、例えば好気条件下でpH4〜9、好ましくはpH6〜8、温度20℃〜50℃、好ましくは25℃〜42℃の範囲内でpHと温度を適切に制御しながら培養することができる。
【0077】
前記混合物中への気体の通気量は、特に制限はないが、気体として空気のみを用いる場合には、一般的に0.02vvm〜2.0vvm(vvm;通気容量〔mL〕/液容量〔mL〕/時間〔分〕)であり、大腸菌への物理的ダメージを抑制する観点から0.1vvm〜1.5vvmで行うことが好ましい。
【0078】
培養工程は、培養開始から混合物中の植物由来原料が消費されるまで、又はイソプロピルアルコール生産大腸菌の活性がなくなるまで継続させることができる。培養工程の期間は、混合物中のイソプロピルアルコール生産大腸菌の数及び活性並びに、植物由来原料の量により異なるが、一般に、1時間以上、好ましくは4時間以上であればよい。一方、植物由来原料又はイソプロピルアルコール生産大腸菌の再投入を行うことによって、培養期間は無制限に連続することができるが、処理効率の観点から、一般に5日間以下、好ましくは72時間以下とすることができる。その他の条件は、通常の培養に用いられる条件をそのまま適用すればよい。
【0079】
培養液中に蓄積したイソプロピルアルコールを回収する方法としては、特に制限はないが、例えば培養液から菌体を遠心分離などで除去した後、蒸留や膜分離等通常の分離方法でイソプロピルアルコールを分離する方法が採用できる。
【0080】
なお、本発明のイソプロピルアルコールの生産方法は、イソプロピルアルコール生産のための培養工程の前に、使用するイソプロピルアルコール生産大腸菌を適切な菌数又は適度な活性状態とするための前培養工程を含んでいてもよい。前培養工程は、イソプロピルアルコール生産細菌の種類に応じた通常用いられる培養条件による培養であればよい。
【0081】
本発明のイソプロピルアルコールの生産方法は、好ましくは、前記イソプロピルアルコール生産細菌及び植物由来原料を含む混合物中に気体を供給しながら、該イソプロピルアルコール生産大腸菌を培養する培養工程と、前記培養により生成したイソプロピルアルコールを混合物から分離し回収する回収工程とを含む。
【0082】
この方法によれば、混合物に気体を供給しながら生産大腸菌を培養する(通気培養)。この通気培養により、生産されたイソプロピルアルコールは混合物中に放出されると共に、混合物から蒸散し、この結果、生成したイソプロピルアルコールを混合物から容易に分離することができる。また、生成したイソプロピルアルコールが混合物から連続的に分離するため、混合物中のイソプロピルアルコールの濃度の上昇を抑制することができる。これにより、イソプロピルアルコール生産大腸菌のイソプロピルアルコールに対する耐性を特に考慮する必要がない。
なお、本方法における混合物とは、大腸菌の培養に一般的に用いられる基本培地を主体とすればよい。培養条件については、前述した事項がそのまま適用される。
【0083】
回収工程では、培養工程で生成され、混合物から分離したイソプロピルアルコールを回収する。この回収方法としては、通常培養により混合物から蒸散したガス状又は飛沫状のイソプロピルアルコールを収集することができるものであればよい。このような方法としては、一般に用いられる密閉容器等の収集部材へ収容すること等を挙げることができるが、なかでも、イソプロピルアルコールのみを純度高く回収できる観点から、イソプロピルアルコールを捕捉するための捕捉液と、混合物から分離したイソプロピルアルコールとを接触することを含むものであることが好ましい。
【0084】
本方法では、イソプロピルアルコールは、捕捉液又は混合物に溶解した態様として回収することができる。そのような回収方法としては、例えば国際公開2009/008377号パンフレットに記載された方法などが挙げられる。回収されたイソプロピルアルコールは、HPLC等の通常の検出手段を用いて確認することができる。回収されたイソプロピルアルコールは、必要に応じて更に精製することができる。このような精製方法としては、蒸留等をあげることができる。
回収されたイソプロピルアルコールが水溶液の状態である場合には、本イソプロピルアルコールの生産方法は、回収工程に加えて、脱水工程を更に含んでいてもよい。イソプロピルアルコールの脱水は、常法により行なうことができる。
【0085】
捕捉液又は混合物に溶解した態様として回収可能なイソプロピルアルコールの生産方法に適用可能な装置としては、例えば、国際公開2009/008377号パンフレットの図1に示される生産装置を挙げることができる。
この生産装置では、イソプロピルアルコール生産細菌と植物由来原料とを含む培地が収容された培養槽に、装置外部から気体を注入するための注入管が連結され、培地に対してエアレーションが可能となっている。
また、培養槽には、連結管を介して、捕捉液としてのトラップ液が収容されたトラップ槽が連結されている。このとき、トラップ槽へ移動した気体又は液体がトラップ液と接触してバブリングが生じる。
これにより、培養槽で通気培養により生成したイソプロピルアルコールは、エアレーションによって蒸散して培地から容易に分離される共に、トラップ槽においてトラップ液に補足される。この結果、イソプロピルアルコールを、より精製された形態で連続的に且つ簡便に生産することができる。
【0086】
本発明のイソプロピルアルコールの生産方法では、イソプロピルアルコールを高生産することができ、同様の方法で通常得られる生産量は本発明を適用しない場合と比較して多い。生産方法の条件や用いられるイソプロピルアルコール生産大腸菌の状態によって異なるが、生産性が50〜100g/L/72hr、好ましくは55〜80g/L/72hrとすることができる。
【0087】
このように本発明のイソプロピルアルコール生産大腸菌は、イソプロピルアルコールを高生産することができるため、例えば、本発明の大腸菌触媒を用いてイソプロピルアルコールの製造を行った場合、培養72時間で75g/L以上のイソプロピルアルコールを蓄積することができ、従来触媒と比較してはるかに高い生産性を獲得することができる。
【0088】
また、本発明のイソプロピルアルコール生産大腸菌では、イソプロピルアルコールの前駆体であるアセトンも同時に生産される。得られたアセトンは、公知の方法で精製後に、公知の方法(例えば特許第2786272号公報記載の方法)を用いることによって、イソプロピルアルコールに変換することが好ましい。これにより、糖原料からイソプロピルアルコールへの変換効率を更に高めることができる。
【0089】
本発明に係るアセトン生産方法は、前記イソプロピルアルコール生産大腸菌を用いて植物由来原料からイソプロピルアルコールを得ること(以下、イソプロピルアルコール生産工程という)、及び、得られたイソプロピルアルコールに、触媒として、酸化亜鉛と、第4族の元素を含む少なくとも1種の酸化物とを含有し且つ共沈法で調製された複合酸化物を接触させること(以下、アセトン生産工程という)を含むアセトン生産方法である。
前記イソプロピルアルコール生産大腸菌を用いて得られたイソプロピルアルコールに、共沈法で調製された前記複合酸化物を接触させることにより、脱水素反応が生じて、イソプロピルアルコールからアセトンが生産できる。これにより、前記イソプロピルアルコール生産大腸菌を用いて生産されたイソプロピルアルコールを効果的に利用して、効率よく物質生産を行うことができる。
【0090】
イソプロピルアルコール生産工程で用いられるイソプロピルアルコール生産大腸菌及び植物由来原料並びに、イソプロピルアルコール生産の条件等については、イソプロピルアルコールの生産に関して前述した事項がそのまま適用できる。
【0091】
アセトン生産工程では、酸化亜鉛と、第4族の元素を含む少なくとも1種の酸化物とを含有し且つ共沈法で調製された複合酸化物を触媒として使用する。
第4族の元素とは、周期律表の第4族の元素を意味し、チタン、ジルコニウム及びハフハニウム等を挙げることができる。アセトンを高選択的に生産するとの点で、ジルコニウムであることが好ましい。
【0092】
触媒として用いられ得る複合酸化物としては、ZnO:ZrO、ZnO:TiO、CuO:ZnO:Al等を挙げることができ、触媒活性、及びアセトンの選択性の点で、ZnO:ZrOが好ましい。
酸化亜鉛と、第4族元素を含む少なくとも1種の酸化物との比率については、特に制限はないが、50:50〜99:1とすることが、触媒活性及びアセトン選択性の点で好ましく、65:35〜95:5とすることがより好ましい。酸化亜鉛の比率が50以上であればより高い触媒活性を示すことができ、99以下であればより高いアセトン選択性を示すことができるため好ましい。
【0093】
複合酸化物は、共沈法で調製されたものである。触媒として用いうる複合酸化物は、共沈法で調製されたものであるため、触媒組成の均一性、触媒調製のコントロールのし易さ等の利点を有する。
共沈共沈法とは、多成分系の複合酸化物を製造する方法として一般的に用いられる調製法であり、2種類以上の金属塩の混合水溶液にアルカリ水溶液のような沈殿剤を加えることで、固体として均一に沈殿させることができる。
【0094】
具体的な触媒の調製方法としては、硝酸亜鉛等の水溶性の亜鉛塩水溶液と、硝酸ジルコニウム等の水溶性のジルコニウム塩水溶液とを、所望の金属酸化物の組成となるように混合し、この水溶液を炭酸ナトリウム等のアルカリ水溶液中に滴下しアルカリ性にすることで水酸化物として固体が沈殿する。この生成した沈殿物をろ別し、水洗、乾燥した後、焼成することで製造できる。
【0095】
また本発明を実施するに際し、使用する触媒量は特に限定されないが、例えば、固定床流通装置を用いて反応を行う場合、原料(イソプロピルアルコール)の時間あたりの供給量(質量)を触媒の質量で割った値、即ちWHSVで示すと、0.01〜200/hの範囲であることが望ましく、より好ましくは0.02〜100/hの範囲が好適である。
【0096】
本発明における脱水素の反応は、回分式や連続式等の反応形式で行うことができる。連続式の場合、例えば触媒を充填した管状の反応器に原料を流通させ反応器から出てきた反応生成物を回収する。
脱水素反応を行う際の反応温度は通常100℃〜500℃、好ましくは150℃〜450℃、さらに好ましくは200℃〜400℃とすることができる。アセトンとイソプロピルアルコール、水素には平衡関係があり、反応温度が高いほうがアセトンの平衡組成が高くなる。このため、反応温度が100℃以上であればイソプロピルアルコールが大量に残存することなく、好ましい。また500℃以下であれば、望ましくない副反応の増大を招くことがなく好ましい。反応圧力には特に限定はなく、反応温度にも依存するが、好ましくは0.1MPa〜1.0MPaとすることができる。
反応生成物の回収後には、必要に応じて、適宜、精製等を追加的に行ってもよい。アセトンの精製方法等については、当業界で周知又は公知の精製方法を適用することができる。
【0097】
本発明にかかるプロピレン生産方法は、前記イソプロピルアルコール生産大腸菌を用いて植物由来原料からアセトンを含むイソプロピルアルコールを得ること(以下、イソプロピルアルコール生産工程という)、及び、得られたアセトンを含むイソプロピルアルコールに、触媒として、Cuを含む水添触媒および固体酸物質の存在下で、反応温度50〜300℃の範囲でアセトンと水素とを反応させること(以下、触媒反応工程という)を含む。なお、Cuを含む水添触媒を、明細書において以下、単に「水添触媒」とも記す。
前記プロピレン生産方法では、前記イソプロピルアルコール生産大腸菌により得られたイソプロピルアルコールが、前記固体酸物質により、イソプロピルアルコールが脱水されてプロピレンおよび水が生成する。
【0098】
イソプロピルアルコール生産工程で用いられるイソプロピルアルコール生産大腸菌及び植物由来原料並びに、イソプロピルアルコール生産の条件等については、イソプロピルアルコールの生産に関して前述した事項がそのまま適用できる。
前記触媒反応工程では、イソプロピルアルコール生産工程で得られたアセトンを含むイソプロピルアルコールを原料として、Cuを含む水添触媒および固体酸物質を用いて所定の条件下で、アセトンと水素を反応させる。
【0099】
前記触媒反応工程で使用される水素としては、分子状の水素ガスを用いてもよく、反応条件により水素を発生するシクロヘキサン等の炭化水素に由来する水素であってもよい。水素は原理的にはアセトンに対して等モル以上あればよく、分離回収の点からはアセトンに対して好ましくは1〜10倍モル、より好ましくは1〜5倍モルあればよい。例えば、アセトンの時間あたりの供給量に対する水素の時間当たりの供給量を前記範囲に設定すればよい。アセトンの転化率を100%以下に抑えたい場合は、水素の量をアセトンの量に対して1倍モルから低減させることで対応できる。
【0100】
前記触媒反応工程において、供給された水素は、アセトンの酸素原子と結合して水となり、反応器出口から取り出すことが可能である。またアセトンの当量以上の水素は、予想外の副反応が進行しない限り、本質的には消費されないことになる。
反応器へ水素ガスを供給する場合には、通常は連続的に供給するが、この方法に特に限定されるものではない。水素の供給の形態としては、反応開始時に水素ガスを供給した後、反応中供給を停止し、ある一定時間経過後に再度供給する間欠的な供給でもよいし、液相反応の場合には溶媒に水素ガスを溶解させて供給してもかまわない。
【0101】
また、水素は、水素を反応器から取り出して再利用することができる。このような水素のリサイクルプロセスとしては、例えば、反応器後部で気液分離器により反応液と反応ガスに分離し、反応ガスから分離膜等で水素ガスを分離し、反応器の入り口に再度供給してもよい。このリサイクルプロセスの場合では、軽沸留分とともに塔頂から回収される水素ガスを、反応器に供給することができる。供給される水素の圧力は、反応器の圧力と同等であることが一般的であるが、水素の供給方法に応じて適宜変更すればよい。
【0102】
本発明を実施する際には、反応系内に触媒および出発物質(アセトン、イソプロピルアルコール、および水素)に対して不活性な溶媒または気体を供給して、前記反応を希釈した状態で行うことも可能である。
前記触媒反応工程に適用される反応温度は、50℃〜300℃である。50℃未満では、充分なアセトン、又はイソプロピルアルコールの転化率が得られず、また300℃を超えると予想外の副反応やプロピレンの重合等が生じて充分なプロピレンの選択率が維持できない。経済性の点で、反応温度は、好ましくは150℃〜250℃、より好ましくは150〜200℃の範囲である。
【0103】
前記反応を行う場合、その他の方法および条件としては特に制限はなく、例えば、以下に示すような条件および方法が採用できる。出発物質であるアセトン、イソプロピルアルコールと水素との接触や、水素の供給方法は、気液向流および気液併流の何れでもよく、また液およびガスの方向として、液下降−ガス上昇、液上昇−ガス下降、液ガス上昇、液ガス下降の何れでもよい。また実施圧力は、好ましくは0.1気圧〜500気圧、更に好ましくは0.5気圧〜100気圧である。
【0104】
前記固体酸物質としては、通常の固体酸である、ゼオライト、シリカ、アルミナ、シリカアルミナ、γアルミナ、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウムなどの金属酸化物などが挙げられる。これらの中では、高い触媒活性、及び高いプロピレン選択性の点でゼオライトが好ましい。
【0105】
ゼオライトとしては、前記反応において原料および中間体として存在すると考えられるイソプロピルアルコールおよび目的とするプロピレンの分子径により、好適なゼオライトを選択すればよい。
特にゼオライトとしては、イソプロピルアルコールやプロピレンの分子径に近いことから、酸素10〜12員環の細孔を有するゼオライトが好ましい。酸素10〜12員環を有するゼオライトとしては、フェリエライト、ヒューランダイト、ZSM−5、ZSM−11、ZSM−12、NU−87、シーター1、ウェイネベアイト、X型ゼオライト、Y型ゼオライト、USY型ゼオライト、モルデナイト、脱アルミニウムモルデナイト、β−ゼオライト、MCM−22、MCM−56などが挙げられる。これらの中でもβ−ゼオライトが好ましい。
【0106】
ゼオライトにおけるケイ素とアルミニウムとの組成比(ケイ素/アルミニウム)は、高い活性を得るため、2/1〜200/1の範囲にあることが好ましく、活性および熱安定性の面から5/1〜100/1の範囲にあることが特に好ましい。さらにゼオライト骨格に含まれるアルミニウムを、Ga、Ti、Fe、Mn、Bなどのアルミニウム以外の金属で置換した、いわゆる同型置換したゼオライトを用いることもできる。また、ゼオライトとしては、自身を金属イオンで修飾したものも用いることができる。
【0107】
固体酸物質の形状は特に制限は無く、球状、円柱状、押し出し状、破砕状の何れでもよい。また、その粒子の大きさも特に制限は無く、通常は0.01mm〜100mmの範囲のものを反応器の大きさに応じて選択すればよい。固体酸物質は、一種単独で用いてもよく、二種以上を用いてもよい。
【0108】
前記Cuを含む水添触媒としては、Cuを金属そのものとして含むもの、金属化合物の形で含むものなどが挙げられる。前記金属化合物としては、例えば、CuO、CuOなどの金属酸化物;及び、CuClなどの金属塩化物などが挙げられる。また、これらの触媒を担体に担持させてもよい。
【0109】
前記Cuを含む水添触媒は、さらに周期律表の第6族、第12族および第13族のうち少なくとも一つの元素を含むことが、より高い選択性、又はより長い触媒ライフを得る点で、好ましい。第6族としてはCr、Moなど;第12族としてはZnなど;第13族としてはAl、Inなどが好ましい元素として挙げられる。このような水添触媒としては、銅−クロム、ラネー銅、銅−亜鉛などの銅系の触媒が挙げられる。
また、前記Cuを含む水添触媒には、PbSO、FeCl、SnClなどの金属塩;K、Naなどのアルカリ金属やアルカリ金属塩;BaSO;などを添加してもよく、これにより、前記Cuを含む水添触媒の活性やプロピレンの選択率が向上する場合がある。前記金属塩、アルカリ金属又はアルカリ金属塩の前記水添触媒への添加量としては、特に制限はないが、主に選択性の点で、0.01質量%〜10.00質量%であることが好ましい。
市場で入手できるCuを含む水添触媒としては、例えば、CuO−ZnO−Al、CuO−Cr−BaOなどが挙げられる。
【0110】
水添触媒の形状は特に制限は無く、球状、円柱状、押し出し状、破砕状の何れでもよい。また、その粒子の大きさも特に制限は無く、通常は0.01mm〜100mmの範囲のものを反応器の大きさに応じて選択すればよい。
【0111】
本発明にかかるプロピレンの製造方法では、前記水添触媒および固体酸物質が充填された反応器に、前記アセトンおよび水素を供給し、アセトンと水素とを反応させることができる。反応器に充填された水添触媒および固体酸物質の合計量(以下「触媒量」とも記す)は特に限定されないが、例えば、固定床反応器を備えた固定床流通装置を用いて反応を行う場合、出発物質であるアセトンの時間あたりの供給量(質量)を触媒量(重量)で割った値、すなわちWHSVで示すと、好ましくは0.1〜200/h、更に好ましくは0.2〜100/hの範囲である。
固体酸物質と水添触媒との量比は特に限定されないが、固体酸物質:水添触媒(質量比)が、通常は1:0.01〜1:100、好ましくは1:0.05〜1:50であることが好ましい。固体酸物質:水添触媒の量比が1:0.01以上であれば、十分なアセトンの転化率となる傾向があり、また固体酸物質:水添触媒の量比が1:100以内であれば、脱水反応が十分に行われてプロピレンの収率が十分となる傾向がある。
【0112】
前記反応がある時間経過した後において触媒の活性が低下する場合には、公知の方法で再生を行い、水添触媒および固体酸物質の活性を回復することができる。
本発明においては、触媒として固体酸物質と、水添触媒との2成分を用いればよい。また、その触媒の使用方法としては、特に限定はなく、例えば、酸触媒成分である、固体酸物質と、水添触媒とをセンチメートルサイズの触媒粒子レベルで物理混合したものを用いてもよいし、両者を微細化し混合した後に、改めてセンチメートルサイズの触媒粒子へ成形してもよいし、固体酸物質を担体として、その上に水添触媒を担持してもよいし、水添触媒を担体として、その上に固体酸物質を担持してよい。また、水添触媒と、固体酸物質とを混合等することなく、各々を用いてもよい。
【0113】
特に、高活性、及び高選択的で工業的に入手可能なの点で、水添触媒を用い、かつ固体酸物質を構成するゼオライトとしてβ−ゼオライトを用いることが好ましい。例えば、水添触媒は、ゼオライトに担持されていてもよい。その調製方法としては、Cuの硝酸塩などの水溶液にゼオライトを含浸させ、焼成する方法;Cuを有機溶媒に可溶にするため、配位子とよばれる有機分子をCuと結合させた錯体として、有機溶媒中に添加し、溶液を調製し、該溶液にゼオライトを含浸させ、焼成する方法;さらに錯体のうちあるものは真空下で気化するため、蒸着などでゼオライトに担持させる方法などが挙げられる。
【0114】
また、水添触媒は、ゼオライト以外の担体に担持されていてもよい。水添触媒を担持しうる担体としては、シリカ、アルミナ、シリカアルミナ、チタニア、マグネシア、シリカマグネシア、ジルコニア、酸化亜鉛、カーボン(活性炭)、酸性白土、けいそう土などが挙げられる。これらの中でも、シリカ、アルミナ、シリカアルミナ、チタニア、マグネシア、シリカマグネシア、ジルコニア、酸化亜鉛、カーボン(活性炭)のうち少なくとも1つを選択することが、より高活性、及びより高選択性の点で好ましい。
【0115】
本発明において使用される反応器としては、固定床反応器、流動床反応器などが挙げられるが、触媒の磨耗や粉化を防止するという観点から、固定床反応器が好ましい。
本発明において、反応器に水添触媒および固体酸物質を充填する方法は特に限定されない。反応器として固定床反応器を用いる場合、水添触媒および固体酸物質の充填方法は反応成績に大きな影響を与えることがある。前述のように、本発明では水素化と脱水反応とが段階的に起こっていると考えられる。従って、反応の各段階に応じた適当な触媒種を順番に反応器に充填することは、触媒を効率よく使用するという意味で、また目的としない副反応を抑制するという意味で好ましい充填方法である。
【0116】
特に反応速度を上げるために水素圧や反応温度を上昇させる場合、低い水素圧や低い反応温度では見られなかった予想外の副反応が起こることは、一般的な化学反応においてよく見られる挙動である。このような場合においては、特に触媒の充填方法が反応成績に大きな影響を与える可能性がある。
【0117】
従って、反応の各段階に応じた適当な触媒種を順番に反応器に充填してもよく、水添触媒と固体酸物質との混合比に傾斜をつけて反応器に充填してもよい。水添触媒と固体酸物質とを反応器に充填する方法としては、例えば、反応器に、(1)水添触媒および固体酸物質を混合して充填する方法、(2)水添触媒からなる層(上流側即ち、入口側)と、固体酸物質からなる層(下流側即ち、出口側)とを形成するように充填する方法、(3)水添触媒を担持した固体酸物質を充填する方法、(4)水添触媒からなる層(上流側即ち、入口側)と、固体酸物質および水添触媒からなる層(下流側即ち、出口側)とを形成するように充填する方法、(5)水添触媒からなる層(上流側即ち、入口側)と、水添触媒を担持した固体酸物質からなる層(下流側即ち、出口側)とを形成するように充填する方法、(6)水添触媒および固体酸物質からなる層(上流側即ち、入口側)と、固体酸物質からなる層(下流側即ち、出口側)とを形成するように充填する方法、(7)水添触媒を担持した固体酸物質からなる層(上流側即ち、入口側)と、固体酸物質からなる層(下流側即ち、出口側)とを形成するように充填する方法が挙げられる。なお、上流側とは、反応器の入口側、すなわち出発物質が反応の前半に通過する層を示し、下流側とは、反応器の出口側、すなわち出発物質、中間体および反応生成物などが反応の後半に通過する層を示す。なお、出発物質とは、アセトンおよび水素を意味するが、気液向流でアセトンおよび水素を反応器に供給する場合には、前記上流側(入口側)とは、アセトンが反応の前半に通過する層を意味する。
【0118】
プロピレンの生産量を維持するために、反応器を2つまたは3つ並列に並べ、1つの反応器内の触媒が再生している間に、残った1つまたは2つの反応器で反応を実施するメリーゴーランド方式をとることができる。さらに反応器が3つある場合には、他の反応器2つを直列につなぎ、生産量の変動を少なくする方法をとることができる。また、流動床流通反応方式や移動床反応方式で実施する場合には、反応器から連続的または断続的に、一部または全部の触媒を抜き出して相当する分を補充することにより、一定の活性を維持することが可能である。
【実施例】
【0119】
以下に、本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらによって制限されるものではない。なお、記載中の「%」は特に断らない限り、質量基準である。
(イソプロピルアルコール生産株の作製)
本実施例で使用した大腸菌株とプラスミドの一覧表を表1及び表2に示した。
【表1】

【0120】
【表2】
【0121】
[実施例1]
<B::atoDAB株の作製>
エシェリヒア・コリMG1655株のゲノムDNAの全塩基配列は公知であり(GenBank accession number U00096)、エシェリヒア・コリMG1655株のCoAトランスフェラーゼ αサブユニットをコードする遺伝子(以下、atoDと略することがある)の塩基配列も報告されている。すなわちatoDはGenBank accession number U00096に記載のエシェリヒア・コリMG1655株ゲノム配列の2321469〜2322131に記載されている。
【0122】
上記の遺伝子を発現させるために必要なプロモーターの塩基配列として、GenBank accession number X02662の塩基配列情報において、397−440に記されているエシェリヒア・コリ由来のグリセルアルデヒド3−リン酸デヒドロゲナーゼ(以下GAPDHと呼ぶことがある)のプロモーター配列を使用することができる。GAPDHプロモーターを取得するためエシェリヒア・コリMG1655株のゲノムDNAをテンプレートに用いてcgctcaattgcaatgattgacacgattccg(配列番号1)、及びacagaattcgctatttgttagtgaataaaagg(配列番号2)によりPCR法で増幅し、得られたDNAフラグメントを制限酵素MfeI及びEcoRIで消化することで約100bpのGAPDHプロモーターをコードするDNAフラグメントを得た。得られたDNAフラグメントとプラスミドpUC19(GenBank accession number X02514)を制限酵素EcoRIで消化し、さらにアルカリフォスファターゼ処理したものとを混合し、リガーゼを用いて結合した後、エシェリヒア・コリDH5α株コンピテントセル(東洋紡績株式会社 DNA−903)に形質転換し、アンピシリン50μg/mLを含むLB寒天プレートに生育する形質転換体を得た。得られたコロニー10個をそれぞれアンピシリン50μg/mLを含むLB液体培地で37℃で一晩培養し、プラスミドを回収し、制限酵素EcoRI及びKpnIで消化した際、GAPDHプロモーターが切り出されないものを選抜し、さらに、DNA配列を確認しGAPDHプロモーターが正しく挿入されたものをpUCgapPとした。得られたpUCgapPを制限酵素EcoRI及びKpnIで消化した。
【0123】
さらにatoDを取得するために、エシェリヒア・コリMG1655株のゲノムDNAをテンプレートに用いてcgaattcgctggtggaacatatgaaaacaaaattgatgacattacaagac(配列番号3)、及びgcggtaccttatttgctctcctgtgaaacg(配列番号4)によりPCR法で増幅し、得られたDNAフラグメントを制限酵素EcoRI及びKpnIで消化することで約690bpのatoDフラグメントを得た。このDNAフラグメントを先に制限酵素EcoRI及びKpnIで消化したpUCgapPと混合し、リガーゼを用いて結合した後、エシェリヒア・コリDH5α株コンピテントセル(東洋紡績株式会社 DNA−903)に形質転換し、アンピシリン50μg/mLを含むLB寒天プレートに生育する形質転換体を得た。得られた菌体からプラスミドを回収し、atoDが正しく挿入されていることを確認し、このプラスミドをpGAPatoDと命名した。
なおエシェリヒア・コリMG1655株はアメリカンタイプカルチャーコレクションより入手することができる。
【0124】
上述した通り、エシェリヒア・コリMG1655株のゲノムDNAにおけるatoDの塩基配列も報告されている。エシェリヒア・コリMG1655株のatoDの5’近傍領域の遺伝子情報に基づいて作成された、gctctagatgctgaaatccactagtcttgtc(配列番号5)とtactgcagcgttccagcaccttatcaacc(配列番号6)を用いて、エシェリヒア・コリMG1655株のゲノムDNAを鋳型としてPCRを行うことにより約1.1kbpのDNA断片を増幅した。
【0125】
また、エシェリヒア・コリMG1655株のGAPDHプロモーターの配列情報に基づいて作製されたggtctagagcaatgattgacacgattccg(配列番号7)とエシェリヒア・コリMG1655株のatoDの配列情報に基づいて作製された配列番号4のプライマーを用いて、先に作製した発現ベクターpGAPatoDを鋳型としてPCRを行い、GAPDHプロモーターとatoDからなる約790bpのDNAフラグメントを得た。
【0126】
上記により得られたフラグメントをそれぞれ、制限酵素PstIとXbaI、XbaIとKpnIで消化し、このフラグメントを温度感受性プラスミドpTH18cs1(GenBank accession number AB019610)〔Hashimoto-Gotoh, T., Gene, 241, 185-191 (2000)〕をPstIとKpnIで消化して得られるフラグメントと混合し、リガーゼを用いて結合した後、DH5α株に形質転換し、クロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに30℃で生育する形質転換体を得た。得られたコロニーをクロラムフェニコール10μg/mlを含むLB液体培地で30℃で一晩培養し、得られた菌体からプラスミドを回収した。このプラスミドをエシェリヒア・コリB株(ATCC11303)に形質転換し、クロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに30℃で一晩培養し、形質転換体を得た。得られた形質転換体をクロラムフェニコール10μg/mlを含むLB液体培地に接種し、30℃で一晩培養した。得られた培養菌体をクロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに塗布し、42℃で培養しコロニーを得た。得られたコロニーを抗生物質を含まないLB液体培地で30℃で2時間培養し、抗生物質を含まないLB寒天プレートに塗布して42℃で生育するコロニーを得た。
【0127】
出現したコロニーの中から無作為に100コロニーをピックアップしてそれぞれを、抗生物質を含まないLB寒天プレートとクロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに生育させ、クロラムフェニコール感受性のクローンを選んだ。さらにはこれらのクローンの染色体DNAからPCRによりGAPDHプロモーターとatoDを含む約790bp断片を増幅させ、atoDプロモーター領域がGAPDHプロモーターに置換されている株を選抜し、以上を満足するクローンをエシェリヒア・コリ、B::atoDABと命名した。
なお、エシェリシア・コリB株(ATCC11303)は細胞・微生物・遺伝子バンクであるアメリカンタイプカルチャーコレクションより入手することができる。
【0128】
[実施例2]
<プラスミドpIazの作製>
クロストリジウム属細菌のアセト酢酸デカルボキシラーゼはGenBank accession number M55392に、イソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼはGenBank accession number AF157307に記載されている。
上記の遺伝子群を発現させるために必要なプロモーターの塩基配列として、GenBank accession number X02662の塩基配列情報において、397−440に記されているエシェリヒア・コリ由来のグリセルアルデヒド3−リン酸デヒドロゲナーゼ(以下GAPDHと呼ぶことがある)のプロモーター配列を使用することができる。
【0129】
GAPDHプロモーターを取得するためエシェリヒア・コリMG1655株のゲノムDNAをテンプレートに用いてcgagctacatatgcaatgattgacacgattccg(配列番号18)、及びcgcgcgcatgctatttgttagtgaataaaagg(配列番号19)によりPCR法で増幅し、得られたDNAフラグメントを制限酵素NdeI、SphIで消化することで約110bpのGAPDHプロモーターにあたるDNAフラグメントを得た。得られたDNAフラグメントとプラスミドpBR322(GenBank accession number J01749)を制限酵素NdeI及びSphIで消化することで得られるフラグメントを混合し、リガーゼを用いて結合した後、エシェリヒア・コリDH5α株コンピテントセル(東洋紡績株式会社 DNA−903)に形質転換し、アンピシリン50μg/mLを含むLB寒天プレートに生育する形質転換体を得た。得られたコロニーをアンピシリン50μg/mLを含むLB液体培地で37℃で一晩培養し、得られた菌体からプラスミドpBRgapPを回収した。
【0130】
イソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子を取得するために、Clostridium beijerinckii NRRL B−593のゲノムDNAをテンプレートに用いて、aatatgcatgctggtggaacatatgaaaggttttgcaatgctagg(配列番号8)、及びgcggatccttataatataactactgctttaattaagtc(配列番号9)によりPCR法で増幅し、得られたDNAフラグメントを制限酵素SphI、BamHIで消化することで約1.1kbpのイソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼフラグメントを得た。得られたDNAフラグメントとプラスミドpBRgapPを制限酵素SphI及びBamHIで消化することで得られるフラグメントを混合し、リガーゼを用いて結合した後、エシェリヒア・コリDH5α株コンピテントセル(東洋紡績株式会社 DNA−903)に形質転換し、アンピシリン50μg/mLを含むLB寒天プレートに生育する形質転換体を得た。得られたコロニーをアンピシリン50μg/mLを含むLB液体培地で37℃で一晩培養し、得られた菌体からプラスミドを回収しIPAdhが正しく挿入されていることを確認し、このプラスミドをpGAP-IPAdhと命名した。
【0131】
アセト酢酸デカルボキシラーゼ遺伝子を取得するために、Clostridium acetobutylicum ATCC824のゲノムDNAをテンプレートに用いて、caggatccgctggtggaacatatgttaaaggatgaagtaattaaacaaattagc(配列番号10)、及びggaattcggtaccttacttaagataatcatatataacttcagc(配列番号11)によりPCR法で増幅し、得られたDNAフラグメントを制限酵素BamHI、EcoRIで消化することで約700bpのアセト酢酸デカルボキシラーゼフラグメントを得た。得られたDNAフラグメントと先に作成したプラスミドpGAP-IPAdhを制限酵素BamHI及びEcoRIで消化することで得られるフラグメントを混合し、リガーゼを用いて結合した後、エシェリヒア・コリDH5α株コンピテントセル(東洋紡績株式会社 DNA−903)に形質転換し、アンピシリン50μg/mLを含むLB寒天プレートに生育する形質転換体を得た。得られたコロニーをアンピシリン50μg/mLを含むLB液体培地で37℃で一晩培養し、得られた菌体からプラスミドを回収し、adcが正しく挿入されていることを確認し、このプラスミドをpIaと命名した。
【0132】
グルコース6リン酸−1−デヒドロゲナーゼ遺伝子(zwf)を取得するためにエシェリヒア・コリB株のゲノムDNA(GenBank accession No. CP000819)をテンプレートに用いてPCR法で増幅し、得られたDNAフラグメントを制限酵素で消化することで約1500bpのグルコース6リン酸1−デヒドロゲナーゼフラグメントを得た。得られたDNAフラグメントと先に作成したプラスミドpIaを制限酵素消化することで得られるフラグメントを混合し、リガーゼを用いて結合した後、エシェリヒア・コリDH5α株コンピテントセル(東洋紡績株式会社 DNA−903)に形質転換し、アンピシリン50μg/mLを含むLB寒天プレートに生育する形質転換体を得た。得られたコロニーをアンピシリン50μg/mLを含むLB液体培地にて37℃で一晩培養し、得られたプラスミドをpIazとした。
【0133】
このプラスミドpIazを実施例1で作製したエシェリヒア・コリB::atoDABコンピテントセルに形質転換し、アンピシリン50μg/mLを含むLB Broth,Miller寒天プレートで37℃で一晩培養することにより、エシェリヒア・コリpIaz/B::atoDABを得た。
【0134】
[実施例3]
<エシェリヒア・コリB株Δpgi株の作製>
エシェリヒア・コリMG1655のゲノムDNAの全塩基配列は公知であり(GenBank accession number U00096)、エシェリヒア・コリのホスホグルコースイソメラーゼ(以下pgiと呼ぶことがある)をコードする遺伝子の塩基配列も報告されている(GenBank accession number X15196)。pgiをコードする遺伝子(1,650bp)の塩基配列近傍領域をクローニングするため、caggaattcgctatatctggctctgcacg(配列番号14)、cagtctagagcaatactcttctgattttgag(配列番号15)、cagtctagatcatcgtcgatatgtaggcc(配列番号16)及びgacctgcagatcatccgtcagctgtacgc(配列番号17)に示すオリゴヌクレオチドプライマーを4種合成した。配列番号14のプライマーは5’末端側にEcoRI認識部位を、配列番号15および16のプライマーは5’末端側にXbaI認識部位を、配列番号17のプライマーは5’末端側にPstI認識部位をそれぞれ有している。
【0135】
エシェリヒア・コリMG1655株(ATCC700926)のゲノムDNAを調製し、得られたゲノムDNAを鋳型とし、配列番号14と配列番号15のプライマーペアで、PCRを行うことにより約1.0kbのDNA断片を増幅した(以下pgi−L断片と呼ぶことがある)。また、配列番号16と配列番号17のプライマーペアで、PCRを行うことにより約1.0kbのDNA断片を増幅した(以下pgi−R断片と呼ぶことがある)。これらのDNA断片をアガロース電気泳動にて分離、回収し、pgi−L断片をEcoRI及びXbaIで、pgi−R断片をXbaI及びPstIでそれぞれ消化した。この消化断片2種と、温度感受性プラスミドpTH18cs1(GenBank accession number AB019610)のEcoRI及びPstI消化物とを混合し、T4DNAリガーゼで反応した後、エシェリヒア・コリDH5αコンピテントセル(東洋紡績社製)に形質転換し、クロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに30℃で生育する形質転換体を得た。得られた形質転換体からプラスミドを回収し、pgiをコードする遺伝子の5’上流近傍断片と3’下流近傍断片の2つの断片がpTH18cs1に正しく挿入されていることを確認した。得られたプラスミドをXbaIで消化した後、T4DNAポリメラーゼにより平滑末端化処理を行った。本DNA断片と、pUC4Kプラスミド(GenBank accession number X06404)(Pharmacia)をEcoRIで消化することで得られるカナマイシン耐性遺伝子をさらにT4DNAポリメラーゼにより平滑末端化処理を行ったDNA断片とをT4DNAリガーゼを用いて連結した。その後、エシェリヒア・コリDH5αコンピテントセルに形質転換し、クロラムフェニコール10μg/mlとカナマイシン50μg/mlを含むLB寒天プレートに30℃で生育する形質転換体を得た。得られた形質転換体からプラスミドを回収し、pgiをコードする遺伝子の5’上流近傍断片と3’下流近傍断片の間にカナマイシン耐性遺伝子が正しく挿入されていることを確認し、pTH18cs1−pgiとした。
【0136】
こうして得られたプラスミドpTH18cs1−pgiをエシェリヒア・コリB株(ATCC11303)に形質転換し、クロラムフェニコール10μg/mlとカナマイシン50μg/mlを含むLB寒天プレートに30℃で一晩培養し、形質転換体を得た。得られた形質転換体をカナマイシン50μg/mlを含むLB液体培地に接種し、30℃で一晩培養した。次にこの培養液の一部をカナマイシン50μg/mlを含むLB寒天プレートに塗布し、42℃で生育するコロニーを得た。得られたコロニーをカナマイシン50μg/mlを含むLB液体培地で、30℃で24時間培養し、更にカナマイシン50μg/mlを含むLB寒天プレートに塗布して42℃で生育するコロニーを得た。
【0137】
出現したコロニーの中から無作為に100コロニーをピックアップして、それぞれをカナマイシン50μg/mlを含むLB寒天プレートと、クロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに生育させ、カナマイシンを含むLB寒天プレートにのみ生育するクロラムフェニコール感受性のクローンを選んだ。更にこれらの目的クローンの染色体DNAからPCRにより、pgi遺伝子がカナマイシン耐性遺伝子に置換されていることで約3.3kbp断片の増幅がえられる株を選抜し、得られた株をB株pgi遺伝子欠失株(以下B△pgi株と略することがある)と命名した。
【0138】
なおエシェリヒア・コリMG1655株およびエシェリヒア・コリB株はアメリカンタイプカルチャーコレクションより入手することができる。
【0139】
[実施例4]
<pIaaa/BΔpgi株の作製>
エシェリヒア・コリのチオラーゼおよびエシェリヒア・コリのCoAトランスフェラーゼのアミノ酸配列と遺伝子の塩基配列は既に報告されている。すなわち、チオラーゼをコードする遺伝子はGenBank accession number U00096に記載のエシェリヒア・コリMG1655株ゲノム配列の2324131〜2325315に記載されている。またCoAトランスフェラーゼをコードする遺伝子は上記エシェリヒア・コリMG1655株ゲノム配列の2321469〜2322781に記載されている。これらと共に、後述するクロストリジウム属細菌由来のアセト酢酸デカルボキシラーゼ遺伝子、イソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子を発現させることでイソプロピルアルコールの生産が可能である。
【0140】
イソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子を取得するために、Clostridium beijerinckii NRRL B−593のゲノムDNAをテンプレートに用いて、aatatgcatgctggtggaacatatgaaaggttttgcaatgctagg(配列番号20)、及びgcggatccggtaccttataatataactactgctttaattaagtc(配列番号21)によりPCR法で増幅し、得られたDNAフラグメントを制限酵素SphI、BamHIで消化することで約1.1kbpのイソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼフラグメントを得た。得られたDNAフラグメントと実施例2で作製したプラスミドpBRgapPを制限酵素SphI及びBamHIで消化することで得られるフラグメントを混合し、リガーゼを用いて結合した後、エシェリヒア・コリDH5α株コンピテントセル(東洋紡績株式会社 DNA−903)に形質転換し、アンピシリン50μg/mLを含むLB寒天プレートに生育する形質転換体を得た。得られたコロニーをアンピシリン50μg/mLを含むLB液体培地で37℃で一晩培養し、得られた菌体からプラスミドpGAP-IPAdhを回収した。
【0141】
エシェリヒア・コリ由来のチオラーゼ遺伝子を取得するためエシェリヒア・コリMG1655株のゲノムDNAをテンプレートに用いてPCR法で増幅し、得られたDNAフラグメントを制限酵素で消化することで約1.2kbpのチオラーゼフラグメントを得た。得られたDNAフラグメントと先に作成したプラスミドpGAP-IPAdhを制限酵素で消化することで得られるフラグメントを混合し、リガーゼを用いて結合した後、エシェリヒア・コリDH5α株コンピテントセル(東洋紡績株式会社 DNA−903)に形質転換し、アンピシリン50μg/mLを含むLB寒天プレートに生育する形質転換体を得た。得られたコロニーをアンピシリン50μg/mLを含むLB液体培地で37℃で一晩培養し、得られた菌体からプラスミドpGAP-IPAdh-atoBを回収した。
【0142】
エシェリヒア・コリ由来のCoAトランスフェラーゼ遺伝子を取得するためエシェリヒア・コリMG1655株のゲノムDNAをテンプレートに用いてPCR法で増幅し、得られたDNAフラグメントを制限酵素で消化することで約600bpのCoAトランスフェラーゼαサブユニットフラグメントを得た。得られたDNAフラグメントと先に作成したプラスミドpGAP-IPAdh-atoBを制限酵素で消化することで得られるフラグメントを混合し、リガーゼを用いて結合した後、エシェリヒア・コリDH5α株コンピテントセル(東洋紡績株式会社 DNA−903)に形質転換し、アンピシリン50μg/mLを含むLB寒天プレートに生育する形質転換体を得た。得られたコロニーをアンピシリン50μg/mLを含むLB液体培地で37℃で一晩培養し、得られた菌体からプラスミドpGAP-IPAdh-atoB−atoDを回収した。
【0143】
さらにエシェリヒア・コリMG1655株のゲノムDNAをテンプレートに用いてPCR法で増幅し、得られたDNAフラグメントを制限酵素で消化することで約600bpのCoAトランスフェラーゼβサブユニットフラグメントを得た。得られたDNAフラグメントと先に作成したプラスミドpGAP-IPAdh-atoB−atoDを制限酵素で消化することで得られるフラグメントを混合し、リガーゼを用いて結合した後、エシェリヒア・コリDH5α株コンピテントセル(東洋紡績株式会社 DNA−903)に形質転換し、アンピシリン50μg/mLを含むLB寒天プレートに生育する形質転換体を得た。得られたコロニーをアンピシリン50μg/mLを含むLB液体培地で37℃で一晩培養し、得られた菌体からプラスミドpGAP−IPAdh−atoB−atoD−atoAを回収した。
【0144】
アセト酢酸デカルボキシラーゼ遺伝子を取得するために、Clostridium acetobutylicum ATCC824のゲノムDNAをテンプレートに用いてPCR法で増幅し、得られたDNAフラグメントを制限酵素で消化することで約700bpのアセト酢酸デカルボキシラーゼフラグメントを得た。得られたDNAフラグメントと先に作成したプラスミドpGAP-IPAdh-atoB−atoD−atoAを制限酵素で消化することで得られるフラグメントを混合し、リガーゼを用いて結合した後、エシェリヒア・コリDH5α株コンピテントセル(東洋紡績株式会社 DNA−903)に形質転換し、アンピシリン50μg/mLを含むLB寒天プレートに生育する形質転換体を得た。得られたコロニーをアンピシリン50μg/mLを含むLB液体培地で37℃で一晩培養し、得られた菌体からプラスミドpGAP−IPAdh-Adc−atoB−atoD−atoAを回収し、pIaaaとした。
【0145】
このプラスミドpIaaaを実施例3で作製したエシェリヒア・コリBΔpgiコンピテントセルに形質転換し、アンピシリン50μg/mLを含むLB Broth,Miller寒天プレートで37℃で一晩培養することにより、エシェリヒア・コリpIaaa/B△pgi株を得た。
【0146】
[実施例5]
<B::atoDABΔpgi株の作製>
実施例1で作製したB::atoDABに実施例3で作製したpTH18cs1−pgiを形質転換し、クロラムフェニコール10μg/mlとカナマイシン50μg/mlを含むLB寒天プレートに30℃で一晩培養し、形質転換体を得た。得られた形質転換体をカナマイシン50μg/mlを含むLB液体培地に接種し、30℃で一晩培養した。次にこの培養液の一部をカナマイシン50μg/mlを含むLB寒天プレートに塗布し、42℃で生育するコロニーを得た。得られたコロニーをカナマイシン50μg/mlを含むLB液体培地で、30℃で24時間培養し、更にカナマイシン50μg/mlを含むLB寒天プレートに塗布して42℃で生育するコロニーを得た。
【0147】
出現したコロニーの中から無作為に100コロニーをピックアップして、それぞれをカナマイシン50μg/mlを含むLB寒天プレートと、クロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに生育させ、カナマイシンを含むLB寒天プレートにのみ生育するクロラムフェニコール感受性のクローンを選んだ。更にこれらの目的クローンの染色体DNAからPCRにより、pgi遺伝子がカナマイシン耐性遺伝子に置換されていることで約3.3kbp断片の増幅がえられる株を選抜し、得られた株をB株atoDゲノム強化、pgi遺伝子欠失株(以下B::atoDAB△pgi株と略することがある)と命名した。
【0148】
なおエシェリヒア・コリMG1655株およびエシェリヒア・コリB株はアメリカンタイプカルチャーコレクションより入手することができる。
【0149】
[実施例6]
<B::atoDAB△gntR株の作製>
エシェリヒア・コリB株のゲノムDNAの全塩基配列は公知であり(GenBank accession No.CP000819)、GntRをコードする塩基配列はGenBank accession No.CP000819に記載のエシェリヒア・コリB株ゲノム配列の3509184〜3510179に記載されている。GntRをコードする塩基配列(gntR)の近傍領域をクローニングするため、ggaattcgggtcaattttcaccctctatc(配列番号30)、gtgggccgtcctgaaggtacaaaagagatagattctc(配列番号31)、ctcttttgtaccttcaggacggcccacaaatttgaag(配列番号32)、ggaattcccagccccgcaaggccgatggc(配列番号33)に示すオリゴヌクレオチドプライマーを4種合成した。配列番号30および33のプライマーは5’末端側にEcoRI認識部位をそれぞれ有している。
【0150】
エシェリヒア・コリB株のゲノムDNA(GenBank accession No.CP000819)を調製し、得られたゲノムDNAを鋳型とし、配列番号30と配列番号31のプライマーペアで、PCRを行うことにより約1.0kbのDNA断片を増幅した(以下gntR−L断片と呼ぶことがある)。また、配列番号32と配列番号33のプライマーペアで、PCRを行うことにより約1.0kbのDNA断片を増幅した(以下gntR−R断片と呼ぶことがある)。これらのDNA断片をアガロース電気泳動にて分離、回収し、gntR−LとgntR−R断片を鋳型に配列番号30と配列番号33のプライマーペアで、PCRを行うことにより約2.0kbのDNA断片を増幅した(以下gntR−LR断片と呼ぶことがある)。このgntR−LR断片をアガロース電気泳動にて分離、回収し、EcoRIで消化し、温度感受性プラスミドpTH18cs1(GenBank accession number AB019610)のEcoRI消化物とを混合し、T4DNAリガーゼで反応した後、エシェリヒア・コリDH5αコンピテントセル(東洋紡績社製)に形質転換し、クロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに30℃で生育する形質転換体を得た。得られた形質転換体からプラスミドを回収し、gntLR断片がpTH18cs1に正しく挿入されていることを確認し、このプラスミドをpTH18cs1−gntRとした。
【0151】
こうして得られたプラスミドpTH18cs1−gntRを実施例1で作製したエシェリヒア・コリ、B::atoDAB株に形質転換し、クロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに30℃で一晩培養し、形質転換体を得た。得られた形質転換体をクロラムフェニコール10μg/mlを含むLB液体培地に接種し、30℃で一晩培養した。次にこの培養液の一部をカナマイシンクロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに塗布し、42℃で生育するコロニーを得た。得られたコロニーをLB液体培地で、30℃で24時間培養し、更にLB寒天プレートに塗布して42℃で生育するコロニーを得た。
【0152】
出現したコロニーの中から無作為に100コロニーをピックアップして、それぞれをLB寒天プレートと、クロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに生育させ、クロラムフェニコール感受性のクローンを選んだ。更にこれらの目的クローンの染色体DNAからPCRにより、gntR遺伝子が欠失していることで約2.0kbp断片の増幅がえられる株を選抜し、得られた株をB株atoDゲノム強化、gntR遺伝子欠失株(以下B::atoDAB△gntR株と略することがある)と命名した。
【0153】
[実施例7]
<pGAP−Ia/B::atoDAB△gntR株の作成>
実施例6で作製したエシェリヒア・コリ、B::atoDAB△gntR株コンピテントセルに実施例2で作製したプラスミドpIaを形質転換し、アンピシリン50μg/mLを含むLB Broth,Miller寒天プレートで37℃で一晩培養することにより、エシェリヒア・コリpIa/B::atoDAB△gntR株を得た。
【0154】
[実施例8]
<pIaz/B::atoDAB△gntR株の作成>
実施例6で作製したエシェリヒア・コリ、B::atoDAB△gntR株コンピテントセルに実施例2で作製したプラスミドpIazを形質転換し、アンピシリン50μg/mLを含むLB Broth,Miller寒天プレートで37℃で一晩培養することにより、エシェリヒア・コリpIaz/B::atoDAB△gntR株を得た。
【0155】
[実施例9]
<B::atoDAB△pgi△gntR株の作製>
実施例5で作製したエシェリヒア・コリB::atoDAB△pgi株に実施例6で作製したプラスミドpTH18cs1−gntRを形質転換し、クロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに30℃で一晩培養し、形質転換体を得た。得られた形質転換体をクロラムフェニコール10μg/mlを含むLB液体培地に接種し、30℃で一晩培養した。次にこの培養液の一部をカナマイシンクロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに塗布し、42℃で生育するコロニーを得た。得られたコロニーをLB液体培地で、30℃で24時間培養し、更にLB寒天プレートに塗布して42℃で生育するコロニーを得た。
【0156】
出現したコロニーの中から無作為に100コロニーをピックアップして、それぞれをLB寒天プレートと、クロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに生育させ、クロラムフェニコール感受性のクローンを選んだ。更にこれらの目的クローンの染色体DNAからPCRにより、gntR遺伝子が欠失していることで約2.0kbp断片の増幅がえられる株を選抜し、得られた株をB株atoDゲノム強化、pgi遺伝子欠失、gntR遺伝子欠失株(以下B::atoDAB△pgi△gntR株と略することがある)と命名した。
【0157】
なおエシェリヒア・コリMG1655株およびエシェリヒア・コリB株はアメリカンタイプカルチャーコレクションより入手することができる。
【0158】
[実施例10]
<pIa/B::atoDAB△pgi△gntR株の作成>
実施例9で作製したエシェリヒア・コリ、B::atoDAB△pgi△gntR株コンピテントセルに実施例2で作製したプラスミドpIaを形質転換し、アンピシリン50μg/mLを含むLB Broth,Miller寒天プレートで37℃で一晩培養することにより、エシェリヒア・コリpIa/B::atoDAB△pgi△gntRを得た。
【0159】
[実施例11]
<pIaz/B::atoDAB△pgi△gntR株の作成>
実施例9で作製したエシェリヒア・コリ、B::atoDAB△pgi△gntR株コンピテントセルに実施例2で作製したプラスミドpIazを形質転換し、アンピシリン50μg/mLを含むLB Broth,Miller寒天プレートで37℃で一晩培養することにより、エシェリヒア・コリpIaz/B::atoDAB△pgi△gntR株を得た。
【0160】
[実施例12]
<B::atoDAB△gnd株の作製>
ホスホグルコン酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子(gnd)の塩基配列近傍領域をクローニングするため、cgccatatgaatggcgcggcggggccggtgg(配列番号34)、tggagctctgtttactcctgtcaggggg(配列番号35)、tggagctctctgatttaatcaacaataaaattg(配列番号36)、cgggatccaccaccataaccaaacgacgg(配列番号37)に示すオリゴヌクレオチドプライマーを4種合成した。配列番号34のプライマーは5’末端側にNdeI認識部位を有し、配列番号35および配列番号36のプライマーは5’末端側にSacI認識部位を有している。また、配列番号37のプライマーは5’末端側にBamHI認識部位を有している。
【0161】
エシェリヒア・コリB株のゲノムDNA(GenBank accession No.CP000819)を調製し、配列番号34と配列番号35のプライマーペアで、PCRを行うことにより約1.0kbのDNA断片を増幅した(以下gnd−L断片と呼ぶことがある)。また、配列番号36と配列番号37のプライマーペアで、PCRを行うことにより約1.0kbのDNA断片を増幅した(以下gnd−R断片と呼ぶことがある)。これらのDNA断片をアガロース電気泳動にて分離、回収し、gnd−L断片をNdeI及びSacIで、gnd−R断片をSacI及びBamHIでそれぞれ消化した。この消化断片2種と、温度感受性プラスミドpTH18cs1(GenBank accession number AB019610)のNdeI及びBamHI消化物とを混合し、T4DNAリガーゼで反応した後、エシェリヒア・コリDH5αコンピテントセル(東洋紡績社製)に形質転換し、クロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに30℃で生育する形質転換体を得た。得られた形質転換体からプラスミドを回収し、gndをコードする遺伝子の5’上流近傍断片と3’下流近傍断片の2つの断片がpTH18cs1に正しく挿入されていることを確認し、pTH18cs1−gndとした。
【0162】
こうして得られたプラスミドpTH18cs1−gndを実施例1で作製したエシェリヒア・コリ、B::atoDAB株に形質転換し、クロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに30℃で一晩培養し、形質転換体を得た。得られた形質転換体をクロラムフェニコール10μg/mlを含むLB液体培地に接種し、30℃で一晩培養した。次にこの培養液の一部をカナマイシンクロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに塗布し、42℃で生育するコロニーを得た。得られたコロニーをLB液体培地で、30℃で24時間培養し、更にLB寒天プレートに塗布して42℃で生育するコロニーを得た。
【0163】
出現したコロニーの中から無作為に100コロニーをピックアップして、それぞれをLB寒天プレートと、クロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに生育させ、クロラムフェニコール感受性のクローンを選んだ。更にこれらの目的クローンの染色体DNAからPCRにより、gnd遺伝子が欠失していることで約2.0kbp断片の増幅がえられる株を選抜し、得られた株をB::atoDAB△gnd株と命名した。
【0164】
なおエシェリヒア・コリB株はアメリカンタイプカルチャーコレクションより入手することができる。
【0165】
[実施例13]
<pIa/B::atoDAB△gnd株の作製>
実施例12で作製したエシェリヒア・コリ、B::atoDABΔgnd株コンピテントセルに実施例2で作製したプラスミドpIaを形質転換し、アンピシリン50μg/mLを含むLB Broth,Miller寒天プレートで37℃で一晩培養することにより、エシェリヒア・コリpIa/B::atoDAB△gnd株を得た。
【0166】
[実施例14]
<pIaz/B::atoDAB△gnd株の作製>
実施例12で作製したエシェリヒア・コリ、B::atoDAB△gnd株コンピテントセルに実施例2で作製したプラスミドpIazを形質転換し、アンピシリン50μg/mLを含むLB Broth,Miller寒天プレートで37℃で一晩培養することにより、エシェリヒア・コリpIaz/B::atoDAB△gndを得た。
【0167】
[実施例15]
<B::atoDAB△pgi△gnd株の作製>
実施例5で作製したエシェリヒア・コリB株、B::atoDAB△pgi株に実施例12で作製したプラスミドpTH18cs1−gndを形質転換し、クロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに30℃で一晩培養し、形質転換体を得た。得られた形質転換体をクロラムフェニコール10μg/mlを含むLB液体培地に接種し、30℃で一晩培養した。次にこの培養液の一部をカナマイシンクロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに塗布し、42℃で生育するコロニーを得た。得られたコロニーをLB液体培地で、30℃で24時間培養し、更にLB寒天プレートに塗布して42℃で生育するコロニーを得た。
【0168】
出現したコロニーの中から無作為に100コロニーをピックアップして、それぞれをLB寒天プレートと、クロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに生育させ、クロラムフェニコール感受性のクローンを選んだ。更にこれらの目的クローンの染色体DNAからPCRにより、gnd遺伝子が欠失していることで約2.0kbp断片の増幅がえられる株を選抜し、得られた株をB::atoDAB△pgi△gnd株と命名した。
【0169】
[実施例16]
<pIa/B::atoDAB△pgi△gnd株の作製>
実施例15で作製したエシェリヒア・コリ、B::atoDAB△pgi△gnd株コンピテントセルに実施例2で作製したプラスミドpIaを形質転換し、アンピシリン50μg/mLを含むLB Broth,Miller寒天プレートで37℃で一晩培養することにより、エシェリヒア・コリpIa/B::atoDAB△pgi△gndを得た。
【0170】
[実施例17]
<pIaz/B::atoDAB△pgi,△gnd株の作製>
実施例15で作製したエシェリヒア・コリ、B::atoDAB△pgi△gnd株コンピテントセルに実施例2で作製したプラスミドpIazを形質転換し、アンピシリン50μg/mLを含むLB Broth,Miller寒天プレートで37℃で一晩培養することにより、エシェリヒア・コリpIaz/B::atoDAB△pgi△gnd株を得た。
【0171】
[実施例18]
<B::atoDAB△gnd△gntR株の作製>
実施例12で作製したエシェリヒア・コリ、B::atoDAB△gnd株コンピテントセルに実施例6で作製したプラスミドpTH18cs1−gntRを形質転換し、クロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに30℃で一晩培養し、形質転換体を得た。得られた形質転換体をクロラムフェニコール10μg/mlを含むLB液体培地に接種し、30℃で一晩培養した。次にこの培養液の一部をカナマイシンクロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに塗布し、42℃で生育するコロニーを得た。得られたコロニーをLB液体培地で、30℃で24時間培養し、更にLB寒天プレートに塗布して42℃で生育するコロニーを得た。
【0172】
出現したコロニーの中から無作為に100コロニーをピックアップして、それぞれをLB寒天プレートと、クロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに生育させ、クロラムフェニコール感受性のクローンを選んだ。更にこれらの目的クローンの染色体DNAからPCRにより、gntR遺伝子が欠失していることで約2.0kbp断片の増幅がえられる株を選抜し、得られた株をB::atoDAB△gnd△gntR株と命名した。
【0173】
[実施例19]
<pIa/B::atoDAB△gnd△gntR株の作製>
実施例18で作製したエシェリヒア・コリ、B::atoDAB△gnd△gntR株コンピテントセルに実施例2で作製したプラスミドpIaを形質転換し、アンピシリン50μg/mLを含むLB Broth,Miller寒天プレートで37℃で一晩培養することにより、エシェリヒア・コリpIa/B::atoDAB△gnd△gntR株を得た。
【0174】
[実施例20]
<pIaz/B::atoDAB△gnd△gntR株の作成>
実施例18で作製したエシェリヒア・コリ、B::atoDAB△gnd△gntR株コンピテントセルに実施例2で作製したプラスミドpIazを形質転換し、アンピシリン50μg/mLを含むLB Broth,Miller寒天プレートで37℃で一晩培養することにより、エシェリヒア・コリpIaz/B::atoDAB△gnd△gntR株を得た。
【0175】
[実施例21]
<B::atoDAB△pgi△gnd△gntR株の作製>
実施例15で作製したエシェリヒア・コリ、B::atoDAB△pgi△gnd株コンピテントセルに実施例6で作製したプラスミドpTH18cs1−gntRを形質転換し、クロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに30℃で一晩培養し、形質転換体を得た。得られた形質転換体をクロラムフェニコール10μg/mlを含むLB液体培地に接種し、30℃で一晩培養した。次にこの培養液の一部をカナマイシンクロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに塗布し、42℃で生育するコロニーを得た。得られたコロニーをLB液体培地で、30℃で24時間培養し、更にLB寒天プレートに塗布して42℃で生育するコロニーを得た。
【0176】
出現したコロニーの中から無作為に100コロニーをピックアップして、それぞれをLB寒天プレートと、クロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレートに生育させ、クロラムフェニコール感受性のクローンを選んだ。更にこれらの目的クローンの染色体DNAからPCRにより、gntR遺伝子が欠失していることで約2.0kbp断片の増幅がえられる株を選抜し、得られた株をB::atoDAB△pgi△gnd△gntR株と命名した。
【0177】
[実施例22]
<pIa/B::atoDAB△pgi△gnd△gntR株の作製>
実施例21で作製したエシェリヒア・コリ、B::atoDAB△pgi△gnd△gntR株コンピテントセルに実施例2で作製したプラスミドpIaを形質転換し、アンピシリン50μg/mLを含むLB Broth,Miller寒天プレートで37℃で一晩培養することにより、エシェリヒア・コリpIa/B::atoDAB△pgi△gnd△gntR株を得た。
【0178】
[実施例23]
<pIaz/B::atoDAB△pgi△gnd△gntR株の作製>
実施例21で作製したエシェリヒア・コリ、B::atoDAB△pgi△gnd△gntR株コンピテントセルに実施例2で作製したプラスミドpIazを形質転換し、アンピシリン50μg/mLを含むLB Broth,Miller寒天プレートで37℃で一晩培養することにより、エシェリヒア・コリpIaz/B::atoDAB△pgi△gnd△gntR株を得た。
【0179】
[実施例24]
<pIa/B::atoDAB株の作製>
実施例1で作製したエシェリヒア・コリ、B::atoDAB株コンピテントセルに実施例2で作製したプラスミドpIaを形質転換し、アンピシリン50μg/mLを含むLB Broth,Miller寒天プレートで37℃で一晩培養することにより、エシェリヒア・コリpIa/B::atoDAB株を得た。
【0180】
[実施例25]
<pIaz/B::atoDAB△pgi株の作製>
実施例5で作製したエシェリヒア・コリ、B::atoDAB株△pgiコンピテントセルに実施例2で作製したプラスミドpIazを形質転換し、アンピシリン50μg/mLを含むLB Broth,Miller寒天プレートで37℃で一晩培養することにより、エシェリヒア・コリpIaz/B::atoDAB△pgi株を得た。
【0181】
[試験例1]
(イソプロピルアルコールの生産)
本実施例では、WO2009/008377号パンフレット図1に示される生産装置を用いてイソプロピルアルコールの生産を行った。培養槽は3リットル容のガラス製のものを使用し、トラップ槽は10L容のポリプロピレン製のものを使用した。トラップ槽には、トラップ液としての水(トラップ水)を1槽あたり9Lの量で注入し、2台連結して使用した。なお、培養槽には廃液管を設置して、糖や中和剤の流加により増量した培養液を適宜培養槽外に排出した。
イソプロピルアルコール生産評価に用いた株の一覧を表3として示した。
【0182】
【表3】

【0183】
前培養としてアンピシリン50μg/mLを含むLB Broth, Miller培養液(Difco244620)50mLを入れた500mL容三角フラスコに各評価株を植菌し、一晩、培養温度30℃、120rpmで攪拌培養を行った。前培養45mLを、以下に示す組成の培地855gの入った3L容の培養槽(ABLE社製培養装置BMS−PI)に移し、培養を行った。培養は大気圧下、通気量0.9L/min、撹拌速度550rpm、培養温度30℃、pH7.0(NH水溶液で調整)で行った。培養開始から8時間後までの間、50wt/wt%のグルコース水溶液を10g/L/時間の流速で添加した。その後は50wt/wt%のグルコース水溶液を20g/L/時間の流速で、培養槽内にグルコースがなるべく残存しないように適宜添加した。培養開始から72時間までに数回、菌体培養液をサンプリングし、遠心操作によって菌体を除いた後、得られた培養上清中及びトラップ水中のイソプロピルアルコールおよびアセトンの蓄積量をHPLCで定法に従って測定した。なお、測定値は、培養後の培養液とトラップ槽2台中の合算値である。結果を表4に示した。
<培地組成>
コーンスティープリカー(日本食品化工製):20g/L
FeSO・7HO:0.1g/L
HPO:2g/L
KHPO:2g/L
MgSO・7HO:2g/L
(NHSO:2g/L
アデカノールLG126(株式会社ADEKA)0.1g/L
(残部:水)
【0184】
【表4】
【0185】
評価の結果、陰性対照(pla/B::atoDAB)のイソプロピルアルコール生産量は48.7g/L/72hであり、gntRを破壊した株(pla/B::atoDABΔgntR)の生産量は57.3g/L/72hであった。これにより、gntRを破壊すると陰性対照と比較して生産性が約1.2倍に向上することが分かった。
また、gntRとpgiを破壊し且つzwfの発現を強化した株(pIaz/B::atoDABΔpgiΔgntR)の生産量は70.2g/L/72hであり陰性対照と比較して生産性が約1.4倍となった。このことから、gntRのみを破壊したときよりもgntRとpgiを両方破壊し且つzwfの発現を強化した方が生産性が更に向上することが分かった。
【0186】
一方、pgiのみを破壊した場合(pIaaa/BΔpgi)ではイソプロピルアルコールは全く生産されず、zwfを強化しただけの場合(pIaz/B::atoDAB)は生産量が39.4g/L/72hであって、生産性は増加せずにむしろ低下した。
gntRを破壊し且つzwfを強発現した場合(pIaz/B::atoDABΔgntR)、pgiを破壊し且つzwfを強発現した場合(pIaz/B::atoDABΔpgi)及びpgiとgntRを両方破壊した場合(pIa/B::atoDABΔpgiΔgntR)でも生産量が各々33.3g/L/72h、41.1g/L/72h、9.6g/L/72hとなり、イソプロピルアルコールの生産性は増加せずにむしろ低下した。
【0187】
従って、gntRの破壊に加えて他の因子の破壊又は強発現を行う場合、pIaz/B::atoDABΔpgiΔgntR株においてみられる生産性向上の効果は、gntRとpgiを両方破壊し且つzwfを強発現させたときに得られるといえる。
また、生産性の向上が見られたpIaz/B::atoDABΔpgiΔgntR株に更にgnd破壊を施した場合、即ちpgiとgntRとgndを破壊し且つzwfを強発現させた場合(pIaz/B::atoDABΔpgiΔgndΔgntR)のイソプロピルアルコール生産量は75.6g/L/72hとなり、pIaz/B::atoDABΔpgiΔgntR株を上回る高い生産性を示した。
【0188】
一方で、gndのみを破壊した場合ではイソプロピルアルコール生産量は陰性対照より低い45.5g/L/72hであり、gnd破壊のみではイソプロピルアルコール生産性向上の効果はみられなかった。また、gntRとgndを破壊した場合(pIa/B::atoDABΔgndΔgntR)、pgiとgndを破壊した場合(pIa/B::atoDABΔpgiΔgnd)及びpgiとgntRとgndを破壊した場合(pIa/B::atoDABΔpgiΔgndΔgntR)の生産量は各々28.6g/L/72h、2.6g/L/72h、0.8g/L/72hであり、これらの株ではイソプロピルアルコールの生産性が増加せずにむしろ低下した。更にはgndを破壊し且つzwfを強発現させた場合(pIaz/B::atoDABΔgnd)、gntRとgndを破壊し且つzwfを強発現させた場合(pIaz/B::atoDABΔgndΔgntR)及びpgiとgndを破壊し且つzwfを強発現させた場合(pIaz/B::atoDABΔpgiΔgnd)においてもイソプロピルアルコールの生産性は増加せずにむしろ低下していた(生産性は各々、40.7g/L/72h、33.9g/L/72h、34.9g/L/72hであった)。
従って、pIaz/B::atoDABΔpgiΔgndΔgntR株においてみられる生産性向上の効果は、gntRとpgiとgndを同時に破壊しかつzwfを強発現させたときのみに得られるといえる。
また、得られたアセトンは、精製した後に、イソプロピルアルコール生産の原料として用いることができる。
【0189】
(アセトンの製造)
[実施例26]
<イソプロピルアルコール、アセトンの取り出し>
上記pIaz/B::atoDABΔpgiΔgndΔgntR株(実施例23)の培養評価時のトラップ水をGC分析した結果、アセトンが1.2g/L、イソプロピルアルコールは4.3g/L含有されていることがわかった。上記イソプロピルアルコールおよびアセトンを含む水溶液(培養開始72時間後のトラップ水)から蒸留により、イソプロピルアルコール及びアセトンを高濃度化し取り出した。
具体的には最初に上記水溶液2Lを、陽イオン交換樹脂(オルガノ製、アンバーリスト31WET)250mlを充填したカラムに流速500ml/hで通液し、残存するアンモニア等を除去した。この処理液を常圧下蒸留した。沸点53〜81.6℃の留分を取り出し、GC分析した結果、アセトン18.7質量%、イソプロピルアルコール62.6質量%、不明成分が0.2質量%、残りは水であった。これを以下の脱水素反応の原料として用いた。
【0190】
<脱水素触媒ZnO:ZrO(94:6)の調製>
500mlの攪拌羽付き丸底フラスコに、炭酸ナトリウム15.94g(0.15mol)及び水130mlを入れ溶解させた。得られた水溶液に、硝酸亜鉛六水和物34.36g(0.11mol)及び酸化二硝酸ジルコニウム二水和物1.30g(0.05mol)を150mlの水に溶解させた水溶液を、1時間半かけて滴下した。そのまま5日間熟成させた後、ろ過し、よく水洗した。得られた白色物を120℃で2時間、400℃で1時間乾燥し、最後に600℃で2時間焼成した。複合酸化物触媒ZnO:ZrO(94:6)を白色の粉末として9.50gを得た。
【0191】
<アセトンの生産>
直径1cm、長さ40cmのSUS製反応器に、前記の複合酸化物触媒ZnO:ZrO(94:6)1.0g(20MPaで圧縮成型後、250〜500μmへ分級したもの)を充填し、10ml/minの窒素気流下、350℃で上記蒸留液(アセトン18.7質量%、イソプロピルアルコール62.6質量%、不明成分0.2質量%、残りは水)を1.50g/hrの割合で流通させた。反応器の出口を冷却し反応液と反応ガスとを捕集した。反応開始5時間後の生成物をガスクロマトグラフィーで分析した結果、表5に示したように高濃度でアセトンが生成していた。なお、表5中「IPA」はイソプロピルアルコールを表す(以下、同様)。
【0192】
[実施例27]
反応温度を400℃とした以外は実施例26と同様に行った。結果は表5に示した。表5に示したように高濃度でアセトンが生成していた。
【0193】
[実施例28]
<脱水素触媒ZnO:ZrO(88:12)の調製>
500mlの攪拌羽付き丸底フラスコに、炭酸ナトリウム15.94g(0.15mol)及び水130mlを入れ溶解させた。得られた水溶液に、硝酸亜鉛六水和物32.86g(0.11mol)及び酸化二硝酸ジルコニウム二水和物2.66g(0.10mol)を150mlの水に溶解させた水溶液を、1時間半かけて滴下した。そのまま5日間熟成させた後、ろ過し、よく水洗した。得られた白色物を120℃で2時間、400℃で1時間乾燥し、最後に600℃で2時間焼成した。複合酸化物触媒ZnO:ZrO(88:12)を白色の粉末として9.94gを得た。
【0194】
<アセトンの生産>
直径1cm、長さ40cmのSUS製反応器に、前記の複合酸化物触媒ZnO:ZrO(88:12)1.0g(20MPaで圧縮成型後、250〜500μmへ分級したもの)を充填し、10ml/minの窒素気流下、350℃で上記蒸留液(アセトン18.7質量%、イソプロピルアルコール62.6質量%、不明成分0.2質量%、残りは水)を1.50g/hrの割合で流通させた。反応器の出口を冷却し反応液と反応ガスとを捕集した。反応開始5時間後の生成物をガスクロマトグラフィーで分析した結果、表5に示したように高濃度でアセトンが生成していた。
【0195】
[実施例29]
反応温度を400℃とした以外は実施例28と同様に行った。結果は表5に示した。表5に示したように高濃度でアセトンが生成していた。
【0196】
【表5】

【0197】
(イソプロピルアルコール生産大腸菌に含まれる遺伝子のコドン改変)
本発明のイソプロピルアルコール生産大腸菌に含まれるイソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子とアセト酢酸デヒドロゲナーゼ遺伝子のコドン配列を変更して、イソプロピルアルコール及びアセトンの生産性を以下に示すとおりに確認した。
[実施例30]
<プラスミドpIzの作製>
クロストリジウム属細菌のアセト酢酸デカルボキシラーゼ遺伝子(adc)はGenBank accession number M55392に、イソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子(IPAdh)はGenBank accession number AF157307に記載されている。
上記の遺伝子群を発現させるために必要なプロモーターの塩基配列として、GenBank accession number X02662の塩基配列情報において、397−440に記されているエシェリヒア・コリ由来のグリセルアルデヒド3−リン酸デヒドロゲナーゼ(以下GAPDHと呼ぶことがある)のプロモーター配列を使用することができる。
【0198】
GAPDHプロモーターを取得するためエシェリヒア・コリMG1655株のゲノムDNAをテンプレートに用いてcgagctacatatgcaatgattgacacgattccg(配列番号38)、及びcgcgcgcatgctatttgttagtgaataaaagg(配列番号39)によりPCR法で増幅し、得られたDNAフラグメントを制限酵素NdeI、SphIで消化することで約110bpのGAPDHプロモーターにあたるDNAフラグメントを得た。得られたDNAフラグメントとプラスミドpBR322(GenBank accession number J01749)を制限酵素NdeI及びSphIで消化することで得られるフラグメントを混合し、リガーゼを用いて結合した後、エシェリヒア・コリDH5α株コンピテントセル(東洋紡績株式会社 DNA−903)に形質転換し、アンピシリン50μg/mLを含むLB寒天プレートに生育する形質転換体を得た。得られたコロニーをアンピシリン50μg/mLを含むLB液体培地で37℃で一晩培養し、得られた菌体からプラスミドpBRgapPを回収した。
コドン改変したイソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子(IPAdh)を取得するために、Clostridium beijerinckii NRRL B−593のイソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子のアミノ酸配列をもとにコドン改変したイソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子を設計し、DNA合成により以下のDNAフラグメント(配列番号40)を作成した。配列を以下に記す。
ATGAAAGGTTTTGCAATGCTGGGTATTAATAAGCTGGGCTGGATCGAAAAAGAGCGCCCGGTTGCGGGTTCGTATGATGCGATTGTGCGCCCACTGGCCGTATCTCCGTGTACCTCAGATATCCATACCGTTTTTGAGGGAGCTCTTGGCGACCGCAAGAATATGATTTTAGGGCATGAAGCGGTGGGTGAAGTTGTGGAGGTAGGCAGTGAAGTGAAGGATTTCAAACCTGGTGACCGTGTTATCGTCCCTTGCACAACCCCGGATTGGCGGTCTTTGGAAGTTCAGGCTGGTTTTCAACAGCACTCAAACGGTATGCTCGCAGGATGGAAATTTTCCAACTTCAAGGATGGCGTCTTTGGTGAGTATTTTCATGTGAATGATGCGGATATGAATCTTGCGATTCTGCCTAAAGACATGCCCCTGGAAAACGCTGTTATGATCACAGATATGATGACTACGGGCTTCCACGGAGCCGAACTTGCAGATATTCAGATGGGTTCAAGTGTAGTGGTCATTGGCATTGGCGCGGTTGGCCTGATGGGGATAGCCGGTGCTAAATTACGTGGAGCAGGTCGGATCATTGGCGTGGGGAGCCGCCCGATTTGTGTCGAGGCTGCCAAATTTTACGGGGCCACCGACATTTTGAATTATAAAAATGGTCATATCGTTGATCAAGTCATGAAACTGACGAACGGAAAAGGCGTTGACCGCGTGATTATGGCAGGCGGTGGTAGCGAAACACTGTCCCAGGCCGTATCTATGGTCAAACCAGGCGGGATCATTTCGAATATAAATTATCATGGAAGTGGCGATGCGTTATTGATCCCGCGTGTGGAATGGGGGTGCGGAATGGCTCACAAGACTATCAAAGGCGGTCTTTGTCCCGGGGGACGTTTGAGAGCAGAGATGCTGCGAGATATGGTAGTGTACAACCGTGTTGATCTCAGCAAACTGGTCACGCATGTATATCATGGGTTCGATCACATCGAAGAAGCCCTGTTACTGATGAAAGACAAGCCAAAAGACCTGATTAAAGCAGTAGTTATATTATAA
【0199】
作成したDNAフラグメントをテンプレートに用いて、acatgcatgcatgaaaggttttgcaatgctg(配列番号41)、及びacgcgtcgacttataatataactactgctttaa(配列番号42)によりPCR法で増幅し、得られたDNAフラグメントを制限酵素SphI、SalIで消化することで約1.1kbpのコドン改変イソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼフラグメントを得た。得られたDNAフラグメントとプラスミドpUC119を制限酵素SphI及びSalIで消化することで得られるフラグメントを混合し、リガーゼを用いて結合した後、エシェリヒア・コリDH5α株コンピテントセル(東洋紡績株式会社 DNA−903)に形質転換し、アンピシリン50μg/mLを含むLB寒天プレートに生育する形質転換体を得た。得られたコロニーをアンピシリン50μg/mLを含むLB液体培地で37℃で一晩培養し、得られた菌体からプラスミドを回収してコドン改変したIPAdhが正しく挿入されていることを確認し、このプラスミドをpUC−Iと命名した。
【0200】
プラスミドpUC−Iを制限酵素SphI及びEcoRIで消化することで得られるIPAdhを含むフラグメント、とプラスミドpBRgapPを制限酵素SphI及びEcoRIで消化することで得られるフラグメントを混合し、リガーゼを用いて結合した後、エシェリヒア・コリDH5α株コンピテントセル(東洋紡績株式会社 DNA−903)に形質転換し、アンピシリン50μg/mLを含むLB寒天プレートに生育する形質転換体を得た。得られたコロニーをアンピシリン50μg/mLを含むLB液体培地で37℃で一晩培養し、得られた菌体からプラスミドを回収しコドン改変したIPAdhが正しく挿入されていることを確認し、このプラスミドをpGAP-Iと命名した。
【0201】
コドン改変したアセト酢酸デカルボキシラーゼ遺伝子(adc)を取得するために、Clostridium acetobutylicum ATCC824のアセト酢酸デカルボキシラーゼ遺伝子のアミノ酸配列をもとにコドン改変したアセト酢酸デカルボキシラーゼ遺伝子を設計し、DNA合成により以下のDNAフラグメント(配列番号43)を作成した。配列を以下に記す。
ATGCTGAAAGATGAAGTGATTAAACAGATTAGCACGCCATTAACTTCGCCTGCATTTCCGCGCGGTCCGTATAAATTTCATAATCGTGAATATTTTAACATTGTATACCGTACCGATATGGACGCCCTGCGTAAAGTTGTGCCAGAGCCTCTGGAAATTGATGAGCCCTTAGTCCGGTTCGAAATCATGGCAATGCATGATACGAGTGGCCTGGGTTGCTATACAGAATCAGGTCAGGCTATTCCCGTGAGCTTTAATGGTGTTAAGGGCGACTACCTTCACATGATGTATCTGGATAACGAGCCGGCAATTGCCGTAGGTCGGGAATTAAGTGCATACCCTAAAAAGCTCGGGTATCCAAAGCTGTTTGTGGATTCAGACACTCTGGTGGGCACGTTAGACTATGGAAAACTGCGTGTTGCGACCGCGACAATGGGGTACAAACATAAAGCCCTGGATGCTAATGAAGCAAAGGATCAAATTTGTCGCCCGAACTATATGTTGAAAATCATCCCCAATTATGACGGCTCCCCTCGCATATGCGAGCTTATCAACGCGAAAATCACCGATGTTACCGTACATGAAGCTTGGACAGGACCGACTCGACTGCAGTTATTCGATCACGCTATGGCGCCACTGAATGACTTGCCGGTCAAAGAGATTGTTTCTAGCTCTCACATTCTTGCCGATATAATCTTGCCGCGCGCGGAAGTCATATACGATTATCTCAAGTAA
【0202】
作成したDNAフラグメントをテンプレートに用いて、acgcgtcgacgctggttggtggaacatatgctgaaagatgaagtgatta(配列番号44)、及びgctctagattacttgagataatcgtatatga(配列番号45)によりPCR法で増幅し、得られたDNAフラグメントを制限酵素SalI、XbaIで消化することで約700bpのコドン改変したアセト酢酸デカルボキシラーゼフラグメントを得た。得られたDNAフラグメントと先に作成したプラスミドpGAP−Iを制限酵素SalI及びXbaIで消化することで得られるフラグメントを混合し、リガーゼを用いて結合した後、エシェリヒア・コリDH5α株コンピテントセル(東洋紡績株式会社 DNA−903)に形質転換し、アンピシリン50μg/mLを含むLB寒天プレートに生育する形質転換体を得た。得られたコロニーをアンピシリン50μg/mLを含むLB液体培地で37℃で一晩培養し、得られた菌体からプラスミドを回収し、adcが正しく挿入されていることを確認し、このプラスミドをpIと命名した。
【0203】
グルコース6リン酸−1−デヒドロゲナーゼ遺伝子(zwf)を取得するためにエシェリヒア・コリB株のゲノムDNA(GenBank accession No.CP000819)をテンプレートに用いてgctctagacggagaaagtcttatggcggtaacgcaaacagcccagg(配列番号46)、及びcgggatccttactcaaactcattccaggaacgac(配列番号47)を用いてPCR法で増幅し、得られたDNAフラグメントを制限酵素BamHI、XbaIで消化することで約1500bpのグルコース6リン酸1−デヒドロゲナーゼフラグメントを得た。得られたDNAフラグメントと先に作成したプラスミドpIを制限酵素XbaI及びBamHI消化することで得られるフラグメントを混合し、リガーゼを用いて結合した後、エシェリヒア・コリDH5α株コンピテントセル(東洋紡績株式会社 DNA−903)に形質転換し、アンピシリン50μg/mLを含むLB寒天プレートに生育する形質転換体を得た。得られたコロニーをアンピシリン50μg/mLを含むLB液体培地にて37℃で一晩培養し、得られた菌体からプラスミドpIzを回収した。
【0204】
[実施例31]
<pI/B::atoDAB△gntR株の作成>
実施例6で作製したエシェリヒア・コリ、B::atoDAB△gntR株コンピテントセルに実施例30で作製したプラスミドpIを形質転換し、アンピシリン50μg/mLを含むLB Broth,Miller寒天プレートで37℃で一晩培養することにより、エシェリヒア・コリpI/B::atoDAB△gntR株を得た。
【0205】
[実施例32]
<pIz/B::atoDAB△pgi△gntR株の作成>
実施例9で作製したエシェリヒア・コリ、B::atoDAB△pgi△gntR株コンピテントセルに実施例30で作製したプラスミドpIaを形質転換し、アンピシリン50μg/mLを含むLB Broth,Miller寒天プレートで37℃で一晩培養することにより、エシェリヒア・コリpIz/B::atoDAB△pgi△gntRを得た。
【0206】
[実施例33]
<pIz/B::atoDAB△pgi△gnd△gntR株の作製>
実施例21で作製したエシェリヒア・コリ、B::atoDAB△pgi△gnd△gntR株コンピテントセルに実施例30で作製したプラスミドpIzを形質転換し、アンピシリン50μg/mLを含むLB Broth,Miller寒天プレートで37℃で一晩培養することにより、エシェリヒア・コリpIz/B::atoDAB△pgi△gnd△gntR株を得た。
【0207】
[実施例34]
<pI/B::atoDAB株の作製>
実施例1で作製したエシェリヒア・コリ、B::atoDAB株コンピテントセルに実施例30で作製したプラスミドpIを形質転換し、アンピシリン50μg/mLを含むLB Broth,Miller寒天プレートで37℃で一晩培養することにより、エシェリヒア・コリpI/B::atoDAB株を得た。
【0208】
[試験例2]
(イソプロピルアルコールの生産)
上記[試験例1]と同様にイソプロピルアルコールの生産評価を行った。評価に用いた株の一覧を表6に示した。また、評価結果を表7に示した。
【0209】
【表6】
【0210】
【表7】
【0211】
表7の結果を表4の結果と比較したところ、イソプロピルアルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子とアセト酢酸デヒドロゲナーゼ遺伝子のコドンを改変すると、イソプロピルアルコールの生産性が大きく向上することが分かった。
【0212】
[実施例35]
(スクロースからのイソプロピルアルコール生産)
pIz/B::atoDAB△pgi△gnd△gntR株に更にスクロースを分解するための酵素インベルターゼ遺伝子(cscA)を導入し、スクロースからのイソプロピルアルコール発酵生産を行った。更に得られた発酵液からアセトン又はプロピレンを製造した。
<pIz−cscA/B::atoDAB△pgi△gnd△gntR株の作製>
エシェリヒア・コリO157株のゲノムDNAの全塩基配列は公知であり(GenBank accession number AE005174 )、エシェリヒア・コリO157株のインベルターゼをコードする遺伝子(以下、cscAと略することがある)の塩基配列も報告されている。すなわちcscAはGenBank accession number AE005174に記載のエシェリヒア・コリO157株ゲノム配列の3274383〜3275816に記載されている。
【0213】
cscAを取得するために、エシェリヒア・コリO157株のゲノムDNAをテンプレートに用いてgctggtggaacatatgacgcaatctcgattgcatg(配列番号48)、及びttaacccagttgccagagtgc(配列番号49)によりPCR法で増幅し、得られたDNAフラグメントをT4ポリヌクレオチドキナーゼで末端リン酸化することで約1470bpのcscAフラグメントを得た。このDNAフラグメントと実施例30で作成したpIzを制限酵素BamHIで消化の後、T4DNAポリメラーゼで平滑末端とし、さらにアルカリフォスファターゼで末端を脱リン酸化したものとを混合し、リガーゼを用いて結合した後、エシェリヒア・コリDH5α株コンピテントセル(東洋紡績株式会社 DNA−903)に形質転換し、アンピシリン50μg/mLを含むLB寒天プレートに生育する形質転換体を得た。得られた菌体からプラスミドを回収し、グルコース6リン酸−1−デヒドロゲナーゼ遺伝子(zwf)の3’末端側とcscAの5’末端側が連結されcscAが正しく挿入されていることが確認されたプラスミドをpIz−cscAと命名した。
なおエシェリヒア・コリO157のゲノムは標準物質及び計量技術研究所より入手することができる。
【0214】
実施例21で作製したエシェリヒア・コリ、B::atoDAB△pgi△gnd△gntR株コンピテントセルに作製したプラスミドpIz−cscAを形質転換し、アンピシリン50μg/mLを含むLB Broth,Miller寒天プレートで37℃で一晩培養することにより、エシェリヒア・コリpIz−cscA/B::atoDAB△pgi△gnd△gntR株を得た。
【0215】
[試験例3]
(イソプロピルアルコールおよびアセトンの製造)
エシェリヒア・コリpIz−cscA/B::atoDAB△pgi△gnd△gntR株を用いた以外は上記[試験例1]と同様にして、イソプロピルアルコールおよびアセトンの製造を行った。ただし培地は50wt/wt%グルコース水溶液の代わりに40wt/wt%スクロース水溶液を用いて行った。その結果、培養72時間目で82.0g/Lのイソプロピルアルコールと23.7g/Lのアセトンが生成した。1台目のトラップ水をHPLC分析した結果、アセトンが0.14質量%、イソプロピルアルコールは0.55質量%含有されていることが分かった。
【0216】
(イソプロピルアルコール、アセトンの取り出し)
上記イソプロピルアルコールおよびアセトンを含むトラップ水から蒸留により、イソプロピルアルコール及びアセトンを高濃度化し取り出した。
具体的には最初に上記水溶液9Lを、陽イオン交換樹脂(オルガノ製、アンバーリスト31WET)250mlを充填したカラムに流速500ml/hで通液し、残存するアンモニア等を除去した。この処理液を常圧下蒸留した。沸点53℃〜81.6℃の留分を取り出し、GC分析した結果、アセトン19.1質量%、イソプロピルアルコール60.5質量%、不明成分が0.5質量%、残りは水であった。これを以下の実施例36〜実施例39の脱水素反応、及び実施例40のプロピレン生産の原料として用いた。
【0217】
[実施例36]
(アセトンの製造)
<脱水素触媒ZnO:ZrO(94:6)の調製>
500mlの攪拌羽付き丸底フラスコに、炭酸ナトリウム15.94g(0.15mol)及び水130mlを入れ溶解させた。得られた水溶液に、硝酸亜鉛六水和物34.36g(0.11mol)及び酸化二硝酸ジルコニウム二水和物1.30g(0.05mol)を150mlの水に溶解させた水溶液を、1時間半かけて滴下した。そのまま5日間熟成させた後、ろ過し、よく水洗した。得られた白色物を120℃で2時間、400℃で1時間乾燥し、最後に600℃で2時間焼成した。複合酸化物触媒ZnO:ZrO(94:6)を白色の粉末として9.50gを得た。
【0218】
<アセトンの生産>
直径1cm、長さ40cmのSUS製反応器に、前記の複合酸化物触媒ZnO:ZrO2(94:6)1.0g(20MPaで圧縮成型後、250〜500μmへ分級したもの)を充填し、10ml/minの窒素気流下、350℃で上記蒸留液(アセトン19.1質量%、イソプロピルアルコール60.5質量%、不明成分0.5質量%、残りは水)を1.50g/hrの割合で流通させた。反応器の出口を冷却し反応液と反応ガスとを捕集した。反応開始5時間後の生成物をガスクロマトグラフィーで分析した結果、表8に示したように大量の水、およびバイオ由来の不純物を含んだアセトンとイソプロピルアルコールを用いた場合でも高濃度でアセトンが生成していた。なお、表8中「IPA」はイソプロピルアルコールを表す(以下、同様)。
【0219】
[実施例37]
反応温度を400℃とした以外は実施例36と同様に行った。結果は表8に示した。表8に示したように高濃度でアセトンが生成していた。
【0220】
[実施例38]
<脱水素触媒ZnO:ZrO(88:12)の調製>
500mlの攪拌羽付き丸底フラスコに、炭酸ナトリウム15.94g(0.15mol)及び水130mlを入れ溶解させた。得られた水溶液に、硝酸亜鉛六水和物32.86g(0.11mol)及び酸化二硝酸ジルコニウム二水和物2.66g(0.10mol)を150mlの水に溶解させた水溶液を、1時間半かけて滴下した。そのまま5日間熟成させた後、ろ過し、よく水洗した。得られた白色物を120℃で2時間、400℃で1時間乾燥し、最後に600℃で2時間焼成した。複合酸化物触媒ZnO:ZrO(88:12)を白色の粉末として9.94gを得た。
【0221】
<アセトンの生産>
直径1cm、長さ40cmのSUS製反応器に、前記の複合酸化物触媒ZnO:ZrO(88:12)1.0g(20MPaで圧縮成型後、250〜500μmへ分級したもの)を充填し、10ml/minの窒素気流下、350℃で上記蒸留液(アセトン19.1質量%、イソプロピルアルコール60.5質量%、不明成分0.5質量%、残りは水)を1.50g/hrの割合で流通させた。反応器の出口を冷却し反応液と反応ガスとを捕集した。反応開始5時間後の生成物をガスクロマトグラフィーで分析した結果、表8に示したように高濃度でアセトンが生成していた。
【0222】
[実施例39]
反応温度を400℃とした以外は実施例38と同様に行った。結果は表8に示した。表8に示したように高濃度でアセトンが生成していた。
【0223】
【表8】
【0224】
[実施例40]
(プロピレンの製造)
実施例35の試験例3に記載の培養液より得られた蒸留液を原料とし、高圧用フィードポンプ、高圧用水素マスフロー、高圧用窒素マスフロー、電気炉、触媒充填部分を有する反応器、背圧弁を設置した固定床反応装置を用い、ダウンフローによる加圧液相流通反応を行った。
内径1cmのSUS316製反応器に、反応器の出口側からまず、銅−亜鉛触媒(SudChemie社製、製品名ShiftMax210、元素質量%Cu 32〜35%、Zn 35〜40%、Al 6〜7%)粉末(250〜500μへ分級したもの)を上流側の触媒層として1.0g充填した。触媒層を分離するため石英ウールを詰めた後、β−ゼオライト(触媒化成社製、20MPaで圧縮成型後、250〜500μへ分級したもの)1.0gを下流側の触媒層として充填した。
【0225】
水素で2.5Mpaまで加圧した後、反応器入口側より20ml/分の水素気流下、180℃で、反応器入口側より上記蒸留液(アセトン19.1質量%、イソプロピルアルコール60.5質量%、不明成分0.5質量%、残りは水)を0.60g/Hrで流通させた。 反応器出口と背圧弁の中間に高圧窒素マスフローにより200ml/分の窒素を導入した。背圧弁直後のラインに気液分離管を設置し、採取したガス成分、液成分をそれぞれGC分析して生成物を定量した。反応結果を表9に示したように大量の水、およびバイオ由来の不純物を含んだアセトンとイソプロピルアルコールを用いた場合でも、高転化率でプロピレンが生成することがわかった。なお、表9中「DIPE」はジイソプロピルエーテルを表す。
【0226】
【表9】
【0227】
2010年8月12日に出願された日本国特許出願第2010−181150号の開示及び2011年3月7日に出願された日本国特許出願第2011−049531号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に援用されて取り込まれる。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]