【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の第1の主題によれば、本発明に係る推進方法は、
アルカリ金属ボロヒドリド、アルカリ土類金属ボロヒドリド、ボラザン、ポリアミノボランおよびこれらの混合物から選択される少なくとも1つの固体化合物と酸化薬との自動燃焼反応により水素を発生させる、第1燃焼工程と;少なくとも1つの燃焼室に
、少なくとも1つの液体酸化剤と
前記第1燃焼工程で発生した前記水素とを注入する
、注入工程と
;前記注入工程で注入した前記少なくとも1つの液体酸化剤と
前記水素とを
前記少なくとも1つの燃焼室の中で燃焼
させて燃焼ガスを発生させる
、第2燃焼工程と;前記第2燃焼工程で発生した前記燃焼ガスを
前記少なくとも1つの燃焼室から放出する
、放出工程とを含む。
【0018】
少なくとも1つの固体化合物と酸化薬との燃焼反応は、
自動燃焼反応(すなわち、一旦開始すると、外から熱を加えることなく、また、酸化剤および/または燃料を加えることなく、自動
的に燃焼が可能
な、酸化要素および還元要素を含む標準的な固体噴射剤で得られる反応と同様
の反応
)である。
【0019】
この酸化薬は、有利には、硝酸ストロンチウム(Sr(NO
3)
2)、アンモニウムジニトラミド(ADN:NH
4N(NO
2)
2)
、過塩素酸アンモニウム(NH
4ClO
4)、硝酸アンモニウム(NH
4NO
3)およびこれらの混合物から選択される。
【0020】
本発明の方法は、水素源のうち少なくとも1つ、有利には、唯一の水素源(単独の水素源)によって特徴づけられる。水素は、少なくとも部分的に、有利には、完全に少なくとも1つの固体化合物から発生する。したがって、水素は、少なくとも部分的に、有利には完全に固体形態で、もっと具体的には、少なくとも1つの固体前駆体(solid precursor)の形態で貯蔵される。この固体前駆体は、水素を発生させるのに適している。固体前駆体は、一般的に気体状の還元液(大部分は(容積で)水素から構成される)を発生させるのに適している。したがって、唯一の固体化合物(同じ性質または異なる性質をもついくつかの固体化合物)は、水素前駆体として働くことができる。
【0021】
本願発明者
らは、推進という観点
から、水素源と
なる固体化合物
として、完全に異なる観点(電気を生産する燃料電池を供給する(上述))で既に水素源として使用されている固体化合物を提案す
る。これらから得られる新しい推進方法は、高性能である。この方法は、所望の基準を満たしており、したがって、先行技術の推進方法、特に推力を調整しつつ推進する方法に匹敵するものである。
【0022】
もっと具体的には、本願発明者
らは、水素源として、酸化薬との自動
燃焼反応により高温ガスを発生する固体化合物(アルカリ金属ボロヒドリド、アルカリ土類金属ボロヒドリド、ボラザン、ポリアミノボランおよびこれらの混合物から選択される)
を提案する。燃焼室においてこの高温ガスと液体酸化剤とが自然発火
的に燃焼
することで、自由に消火および再点火することができ、したがって、推力調整(以下を参照)を簡単に管理することができ
る。
【0023】
少なくとも1つの固体化合物から水素がすべて発生しない場合には、注入される水素の一部は、例えば、加圧した気体状水素の貯蔵源または低温液体水素の貯蔵源に由来してもよい。
【0024】
好ましく
は、本発明の方法を実施するという観点では、
少なくとも1つの固体化合物が、ボラザンであり、酸化薬
が、Sr(NO
3)
2から
構成される。
【0025】
少なくとも1つの固体化合物(水素源または水素前駆体)からの水素の発生は、一般的に、H
2O、HCl、NO
2、NH
3、N
2などのような他の気体種の発生を伴う。本発明の方法を実施するという観点で、特に、上に定義した水素前駆体からは、一般的に、少なくとも85容積%の水素と、最大で5容積%の他の気体種(例えば、H
2O、HCl、NO
2、NH
3、N
2など)を含む還元性ガス流が発生する。
【0026】
水素
および上記の還元性ガス
流ととも
に少なくとも1つの固体化合物から発生した固体生成物が
、燃焼室に注入され
、燃焼室から燃焼ガスとともに放出されることを除外しない。したがって、水素の発生から生じる固体生成物は、生成した状態のまま処理される。したがって、デバイスの不活性分は、水素が消費されるにつれて、還元される。
【0027】
少なくとも1つの液体酸化剤は、有利には、硝酸、過酸化水素、過酸化窒素、硝酸ヒドロキシルアンモニウム(HAN)、アンモニウムジニトラミド(ADN)、アンモニウムニトロホルマートおよびこれらの混合物(化合物がお互いに相溶性である場合)の水溶液から選択され、少なくとも1つの液体酸化剤は、きわめて有利には、過酸化水素水溶液から構成される。
【0028】
少なくとも1つの液体酸化剤は、特に、ヒトや環境への安全性のため、過酸化水素水溶液
から構成されることが好ましい。実際に、過酸化水素と水素
とが燃焼すると
、水を発生するため、環境への影響はない。
【0029】
過酸化水素水溶液は、有利には、過酸化水素含有量が30重量%より大きく、非常に有利には、
過酸化水素含有量
が80重量%
、95重量%または98重量%を超え
る。本発明の推進方法において、特に好ましい実施形態
では、
固体化合物としてのボラザン
が、
硝酸ストロンチウムから構成される酸化
薬とともに燃焼し
て、水素
を発生
させることと、発生した水素および過酸化水素水溶液を少なくとも1つの燃焼室に注入すること
とを含む。
【0030】
本発明の推進方法は、推力調整(thrust modulation)を実施するのに特に適している。この推力調整は、有利には、少なくとも1つの液体酸化剤を燃焼室に注入する速度、および/または少なくとも1つの固体化合物から発生する水素を(少なくとも部分的に、有利には完全に)燃焼室に注入する速度を調節することによって得られる。
【0031】
本発明の方法は、調整しつつ推進する用途で最も有利である。実際に、高温(例えば、
固体化合物としてのボラザン60%と
酸化薬としての硝酸ストロンチウム40%と
の自動燃焼反応による場合、1360K)で、固体化合物
を用いて自動
燃焼反応により気体(特に水素
)を発生させることによって、液体酸化剤存在下、燃焼室の自然発火による燃焼操作が可能になる。したがって、燃焼室
に対する液体酸化剤や水素の供給が長時間停止
し、推力
ゼロの段階
であっても、固体化合物
から発生した高温の気体と液体酸化剤とが燃焼室に再び注入され、接触すると、燃焼室での燃焼の再着火が可能である。
【0032】
さらに、燃焼室への液体酸化剤の流れを止めることによって低推力での段階を管理することも有利であり、残りの推力は、固体化合物によって水素を発生させることによって得られる。
【0033】
さらに、燃焼室が着火すると(すなわち、液体酸化剤が燃焼室に注入され、蒸気になると)、燃焼室への水素の注入が音波によるものではない場合(すなわち、水素を発生させるための自動
燃焼反応が起こる圧力が、燃焼室の圧そのものである場合)、燃焼室の圧力を変えることによって、例えば、燃焼室への液体酸化剤の注入速度を変えることによって、または、燃焼室から放出される気体の速度を調製することによって、燃焼室に注入される水素の流れを管理することができる。したがって、燃焼室の内圧が増加すると、水素を発生させるための自動
燃焼反応(の圧力)が増加し、固体化合物と酸化薬の燃焼速度が高まり、したがって、その結果として水素の製造量が増える(Paul Vieilleの操作法則によれば、噴射剤装填物の燃焼が、圧力によって促される)
。
【0034】
本発明の第2の主題によれば、本発明に係る推進デバイスは、少なくとも1つのノズルを有する少なくとも1つの燃焼室と、前記少なくとも1つの燃焼室に少なくとも1つの液体酸化剤を供給するためのデバイスと、前記少なくとも1つの燃焼室に水素を供給するためのデバイスとを備え、前記少なくとも1つの液体酸化剤と前記水素とが前記少なくとも1つの燃焼室の中で燃焼することで燃焼ガスが発生し、発生した前記燃焼ガスが前記少なくとも1つの燃焼室から前記ノズルを介して放出されるように、構成されており、
前記少なくとも1つの燃焼室に水素を供給するためのデバイスは、アルカリ金属ボロヒドリド、アルカリ土類金属ボロヒドリド、ボラザン、ポリアミノボランおよびこれらの混合物から選択される少なくとも1つの固体化合物と、
前記固体化合物を燃焼する(したがって、水素を発生する)のに適した酸化薬
との自動燃焼反応により前記水素を発生させる、少なくとも1つの水素発生器を備えており、この水素発生器は、一方で、弁を介して少なくとも1つの燃焼室に接続しており、他方で
、制御された漏れ手段を介して、外に接続している。
【0035】
したがって、少なくとも1つの燃焼室に水素を供給するためのデバイスは、自動
燃焼反応(アルカリ金属ボロヒドリド、アルカリ土類金属ボロヒドリド、ボラザン、ポリアミノボランおよびこれらの混合物から選択される少なくとも1つの固体化合物と、酸化薬との反応)によって水素を発生させることが可能な少なくとも1つの固体化合物を含む少なくとも1つの水素発生器を備えている。少なくとも1つの水素発生器は、弁を介し、少なくとも1つの燃焼室に排出する(ラインによって接続している)。水素を外に漏れさせる有利な制御手段は、少なくとも1つ
の水素発生器と関連している。この制御手段は、
水素発生器を燃焼室に接続するラインの上に並んでいてもよい。この制御手段は、上述の弁の構造の中に与えられている補助部材であってもよい。また、この制御手段は、
水素発生器に、または
水素発生器が排出するラインに並んだ安全弁であってもよい。この実際の実施形態に関わりなく、気体(主にH
2)の漏れ手段は、少なくとも1つの
水素発生器の内圧を制御することができるように与えられ、弁(少なくとも1つの
水素発生器から燃焼室に運ぶための弁)が部分的または完全に締まっている場合、調整段階では、自動
燃焼反応によって固体化合物
から発生した水素をすべて燃焼室に流すことはできない。
【0036】
本発明の
推進デバイスは、
上記のように、推力を調整しつつ推進する方法の実施に適していることが理解される。
【0037】
少なくとも1つの燃焼室に水素を供給するためのデバイスは、1種類の固体化合物、水素源が入った1個の発生器、固体化合物の混合物、水素源が入った1個の発生器、同じ固体、化合物が入った数個の発生器、異なる固体化合物が入った数個の発生器など、多くの実施形態で存在することができる。このデバイスは、注入ポンプが取り付けられ、場合により、弁を介して少なくとも1つの燃焼室に排出する少なくとも1つの加圧気体水素タンクおよび/または少なくとも1つの低温液体水素タンクを備えていてもよい。
【0038】
少なくとも1つの水素発生器は、粒子フィルターを備えていてもよく、備えていなくてもよい。このようなフィルターは、固体反応生成物が少なくとも1つの発生器から燃焼室に流れるのを防ぐ目的がある。
【0039】
少なくとも1つの燃焼室に少なくとも1つの液体酸化剤を供給するためのデバイスは、一般的に、弁を介して少なくとも1つの燃焼室に排出する1つ以上の加圧タンクから構成されている。酸化剤または酸化剤混合物を含む1個のタンク、同じ酸化剤または異なる性質をもつ酸化剤を含む数個のタンクのようないくつかの実施形態でも、このデバイスが存在していてもよい。
【0040】
ある有利な実施例によれば、少なくとも1つの液体酸化剤タンクの加圧状態は、少なくとも1つの水素発生器で製造された気体の一部(大部分は水素)によって与えられ、次いで、弁を介し、少なくとも1つのタンクに接続している。この観点で、あるタンクは、有利には、少なくとも1つの水素発生器で製造された気体(大部分は水素)の注入容積と、酸化剤を含む容積とを分離する拡張可能な膜を液体酸化剤タンクに備えている。この拡張可能な膜は、液体酸化剤タンク内で、少なくとも1つの水素発生器で製造した気体(大部分は水素)の一部と、液体酸化剤とを物理的に分離し、タンク内でこの気体と液体酸化剤とが早めに反応してしまうことを避けることができる。
【0041】
本発明の
推進デバイスは、
基本的に、燃焼室と、燃焼室と接続している水素発生器および液体酸化剤タンクとを備えている。水素発生器は、第1の実施例では、燃焼室のみに接続している(のみに排出している)。第2の実施例によれば、水素発生器は、燃焼室と液体酸化剤タンクの両方に接続している(排出している)。
【0042】
本発明の推進デバイスは、上述の推進方法(自然発火による燃焼)の実施に適しており、したがって、少なくとも1つの燃焼室に取り付ける着火手段を必要としない。しかし、例えば、本発明の
推進デバイスを取り付けた乗り物が離陸する間、非常に短時間で完璧に同調した時間に最大推力を得ることが必要なとき、少なくとも1つの迅速な着火を可能にするように制御するために、少なくとも1つの着火手段が燃焼室に含まれることを除外しない。
【0043】
本発明の推進のデバイスは、少なくとも1つの水素発生器での反応を開始させるために、1つ以上の着火手段を備えている。
【0044】
存在する弁は、有利には、本発明の
推進デバイスが取り付けられた乗り物(ロケット、ミサイルなど)の中央制御ユニットによって制御される。この弁によって、推力を調整しつつ推進を実施することができる。弁は、推力の大きさまたは必要な方向によって、さまざまに開かれている。
【0045】
本発明の第3の主題によれば、本発明は、推進ユニットに関し、推進ユニットの構造は、本発明の少なくとも1つの推進デバイスを備えている。
【0046】
ここで、いかなる様式にも限定されないが、本発明は、添付の図面および以下の実施例によるデバイスおよび方法の態様を説明する。本発明の方法の2種類の例示的な実施形態を、
図3および
図4を参照してさらに具体的に説明する。