特許第5674810号(P5674810)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5674810液体酸化剤と固体化合物を用いて生成した水素との燃焼工程を含む推進方法、推進デバイスおよび推進ユニット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5674810
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月25日
(54)【発明の名称】液体酸化剤と固体化合物を用いて生成した水素との燃焼工程を含む推進方法、推進デバイスおよび推進ユニット
(51)【国際特許分類】
   F02K 9/42 20060101AFI20150205BHJP
【FI】
   F02K9/42
【請求項の数】11
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-545384(P2012-545384)
(86)(22)【出願日】2010年12月21日
(65)【公表番号】特表2013-515196(P2013-515196A)
(43)【公表日】2013年5月2日
(86)【国際出願番号】FR2010052848
(87)【国際公開番号】WO2011083252
(87)【国際公開日】20110714
【審査請求日】2013年4月9日
(31)【優先権主張番号】0959314
(32)【優先日】2009年12月21日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】512162432
【氏名又は名称】エラクレス
【氏名又は名称原語表記】HERAKLES
(74)【代理人】
【識別番号】100089196
【弁理士】
【氏名又は名称】梶 良之
(74)【代理人】
【識別番号】100104226
【弁理士】
【氏名又は名称】須原 誠
(72)【発明者】
【氏名】イヴァート ピエール
(72)【発明者】
【氏名】アマン ピエール−ギー
【審査官】 米澤 篤
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第3350887(US,A)
【文献】 特開2003−89590(JP,A)
【文献】 特開2007−137707(JP,A)
【文献】 特開2007−137708(JP,A)
【文献】 特開2007−23135(JP,A)
【文献】 特開平11−314992(JP,A)
【文献】 特開2004−44480(JP,A)
【文献】 特開平6−26403(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02K 9/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属ボロヒドリド、アルカリ土類金属ボロヒドリド、ボラザン、ポリアミノボランおよびこれらの混合物から選択される少なくとも1つの固体化合物(5')と酸化薬(5")との自動燃焼反応により水素(H2)を発生させる、第1燃焼工程と;
少なくとも1つの燃焼室(1)に、少なくとも1つの液体酸化剤(OX)と前記第1燃焼工程で発生した前記水素(H2)とを注入する、注入工程と;
前記注入工程で注入した前記少なくとも1つの液体酸化剤(OX)と前記水素(H2とを前記少なくとも1つの燃焼室(1)中で燃焼させて燃焼ガスを発生させ、第2燃焼工程と;
前記第2燃焼工程で発生した前記燃焼ガスを前記少なくとも1つの燃焼室(1)から放出する、放出工程とを含む、推進方法。
【請求項2】
前記酸化薬が、Sr(NO32、アンモニウムジニトラミド、NH4ClO4、NH4NO3およびこれらの混合物から選択される、請求項1に記載の推進方法。
【請求項3】
前記第1燃焼工程において前記水素(H2)とともに前記少なくとも1つの固体化合物から発生した固体生成物が、前記注入工程において前記水素(H2)とともに前記燃焼室(1)に注入され、前記放出工程において前記燃焼室(1)から前記燃焼ガスとともに放出される、請求項1または2に記載の推進方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つの液体酸化剤(OX)が、硝酸、過酸化水素、過酸化窒素、硝酸ヒドロキシルアンモニウム、アンモニウムジニトラミド、アンモニウムニトロホルマートおよびこれらの混合物の水溶液から選択される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の推進方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つの液体酸化剤(OX)が、過酸化水素溶液であり、
前記少なくとも1つの固体化合物(5')ボラザンであり、
前記酸化薬(5")、Sr(NO32から構成される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の推進方法。
【請求項6】
推力を調整しつつ実施される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の推進方法。
【請求項7】
前記推力の調整が、前記少なくとも1つの液体酸化剤(OX)を前記燃焼室(1)に注入する速度、および、前記少なくとも1つの固体化合物(5')から発生した前記水素(H2)を前記燃焼室(1)に注入する速度の少なくともいずれか一方を制御することによって得られる、請求項6に記載の推進方法。
【請求項8】
なくとも1つのノズル(2)が備わった少なくとも1つの燃焼室(1)と、
記少なくとも1つの燃焼室(1)に少なくとも1つの液体酸化剤(OX)を供給するためのデバイス(30;30')と、
前記少なくとも1つの燃焼室(1)に水素(H2)を供給するためのデバイス(20)とを備え、
前記少なくとも1つの液体酸化剤(OX)と前記水素(H2)とが前記少なくとも1つの燃焼室(1)の中で燃焼することで燃焼ガスが発生し、発生した前記燃焼ガスが前記少なくとも1つの燃焼室(1)から前記ノズルを介して放出されるように、構成されており、
前記少なくとも1つの燃焼室(1)に水素(H2)を供給するための前記デバイス(20)が、アルカリ金属ボロヒドリド、アルカリ土類金属ボロヒドリド、ボラザン、ポリアミノボランおよびこれらの混合物から選択される少なくとも1つの固体化合物(5')と、前記固体化合物(5')を燃焼させるのに適した酸化薬(5")との自動燃焼反応により前記水素(H2)を発生させる、少なくとも1つの水素発生器(4)を備え、
前記水素発生器(4)が、一方で、弁(7)を介して前記少なくとも1つの燃焼室(1)に接続され、他方で、制御された漏れ手段(7')を介して、外に接続されている、推進デバイス(50;50')。
【請求項9】
前記少なくとも1つの燃焼室(1)に少なくとも1つの液体酸化剤(OX)を供給するための前記デバイス(30;30')が、弁(13)を介して排出する少なくとも1つの加圧タンク(9)を備えている、請求項8に記載の推進デバイス(50;50')。
【請求項10】
前記少なくとも1つの水素発生器(4)が、弁(16)を介して前記少なくとも1つの加圧タンク(9)に接続され、その結果、前記少なくとも1つの加圧タンク(9)の加圧状態が、前記少なくとも1つの水素発生器(4)で発生した前記水素(H2)の一部によって与えられる、請求項9に記載の推進デバイス(50')。
【請求項11】
請求項8〜10のいずれか1項に記載の少なくとも1つの推進デバイス(50;50')を備える、推進ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主題のひとつは、一般的に推力を調整しつつ実施される推進方法である。この方法は、燃焼室に液体酸化剤および水素を注入することと、この液体酸化剤および水素を燃焼することとに基づき、この燃焼によって噴射ガスが発生する。
【0002】
本発明の別の主題は、推進デバイスである。このデバイスは、上の方法を実施するのに特に適している。このデバイスは、いくつかの実施形態の実施例中に存在することが可能である。
【0003】
本発明の技術分野は、ロケットおよびミサイルを推進するためのモーターの分野、軌道修正のための推進モジュールの分野、および/またはミサイルまたはロケットの主要な推力を調整する分野である。また、本発明は、無人機および小型無人機の推進にも関する。一般的に、これらのシステムでは、固体噴射剤(過塩素酸アンモニウム/金属薬/バインダー型)の噴射剤装填物が使用される。
【背景技術】
【0004】
推力を調整するモーターは、広く研究されており、いくつかの形態で存在している。
【0005】
固体噴射モーターは、小さな寸法で高い推力をもつ。固体噴射モーターは、設計が単純であり、使用しやすいことも利点である。したがって、当業者は、ノズルのスロートに弁を付けることによって推力を調整する、固体噴射モーターを用いた優れた起爆推進デバイスを開発した。このデバイスは、米国特許第3,948,042号に記載されているように、制御された可変区画をもつノズルを用いて放出する固体噴射剤装填物を使用する。ノズルスロートの面積が変わると、推進ユニットの燃焼室の内圧が変わり、その結果、噴射剤の流れとモーターの推力が変わる。
【0006】
酸化剤(例えば、酸素、過酸化窒素、過酸化水素水溶液またはもっと一般的な液体または気体の窒素第一酸化物)を、固体燃料、通常は炭化水素系ポリマー(例えば、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエーテルまたはポリウレタン)が入った燃焼室に注入することを含むハイブリッド推進方法がさらに記載されている。したがって、米国特許出願第2005/0034447号は、固体燃料としてのポリオキシメチレンの使用を記載している。特許出願第WO 00/09880号は、金属ヒドリドとこのヒドリド特有のポリマーバインダー(「ROMP系ポリマー」)とを含む別の種類の固体燃料を記載している。この固体燃料の燃焼は、酸素存在下、PBHT系バインダーを組み込んだ金属ヒドリドと比較して試験される。
【0007】
また、米国特許第6,250,072号および米国特許出願第2003/0136110号は、ポリマー固体燃料を含有するハイブリッド推進デバイスのチャンバに液体酸化剤を注入することを記載している。
【0008】
米国特許第4,835,959号自体は、ハイブリッドモーターの液体酸化剤注入器の構造に関するものである。
【0009】
また、貯蔵可能な二液法およびデバイスも存在し、液体は、例えば、MMH(モノメチルヒドラジン)/N(四酸化二窒素)またはH/炭化水素(例えば、ケロシンまたはメタン)であり、比推力値が大きく、推力調整能をもつ。これらのデバイスは、2種類の従来型(ノズルスロートに弁を付けた固体噴射モーター、ハイブリッド推進デバイス)よりも、推力を調整しつつ推進する用途にとって好ましいことが多い。
【0010】
先行技術のハイブリッド法または二液法を実施(上のデバイスを使用)すると、比較的有害な燃焼生成物が生じてしまう(HCl、NOx、CO、NH、粒子)。このような生成物が生じないデバイスを得ることが望まれているだろう。さらに、ハイブリッド法は、固体燃料(例えば、炭化水素系ポリマー)を使用し、この方法に関連するデバイス(使用していない)は、寿命が終わると分解され、再利用が困難であり、二液法は、還元性化合物(例えば、MMHまたは炭化水素)を使用し、ヒトや環境に対して危険なことがある。
【0011】
もちろん、当業者は、水素を(毒性のない)還元剤として推進用途に使用可能であることも知っている。実際に、水素は、毒性がなく、環境にとって安全であるという利点がある。したがって、低温推進(H/O)は、よく知られた代替法であり、高レベルの比推力を得ることができる。しかしながら、低温にするには重い冷蔵デバイスが必要であり、本発明で問題としているほとんどの用途には適さない。さらに、加圧水素を金属タンクに貯蔵すること、またはもっと最近だと、炭素繊維で作られたタンクに貯蔵することは、構造指数(structural index)が低く、危険であり、そのため、貯蔵可能な推進システムに使用することは合理的に考えれば除外される。
【0012】
水素を発生する固体化合物を用いた推進デバイスは、米国特許第3,350,887号に記載されている。このデバイスは、一方に液体酸化剤タンクを備え、他方に固体水素発生器を備え、それぞれ第1のラインおよびノズルを介して燃焼室に流れ出るような、燃焼室から構成されるロケットモーターである。この固体水素発生器は、第1のラインを介して燃焼室に液体酸化剤を流す目的のために、第2のラインを介してタンクに直接(弁手段を備えずに)流れ出し、タンクを加圧することができる。この固体水素発生器は、金属ヒドリドの中央経路とともに円筒形の装填物を含んでいる。固体噴射薬は、この装填物の経路の内側に配置されている。固体噴射薬の役割は、タンクおよび固体水素発生器によって燃焼室に注入される混合物に着火するために、装填物の吸熱分解、液体酸化剤タンクの加圧を開始させることであり、また、燃焼室に熱いガスを導入することである。次いで、注入された混合物の燃焼によって作られる熱は、固体装填物(この固体装填物は、自動燃焼反応には適していない)の吸熱分解に必要な熱を与える(発生器の壁を伝う熱伝導によって)。当業者にとって、このようなデバイスの操作は制御が難しいことは明らかである。さらに、この操作は、デバイスのさまざまな暴走を引き起こすことがある。さらに、このデバイスは、推力を調整する操作には適していない。第1に、存在する流体の流速を制御することが可能な弁が備わっていない。第2に、固体噴射(開始)薬の燃焼後、ヒドリド装填物の吸熱分解を確実にするのは、燃焼室によって作られる熱である。これらの条件では、燃焼室の温度が下がると、推力調整段階が低下することと結びつき、装填物の吸熱分解の停止を誘発し、その後、装填物を再開始させることが不可能になり、噴射薬が消費される。このモーターの消火事象は、モーターが推力ゼロで消火し、燃焼室の温度がすばやく下がってしまうとき、可能な再着火がなく、避けることもできないことは明らかである。最後に、このデバイスは、例えば、推力に寄与する熱い水素(hot hydrogen)の製造を継続しつつ、液体酸化剤の供給を止めることによって低い推力を与えることは可能ではない。
【0013】
電力生産に関する完全に異なる観点で、当業者は、燃料電池を供給するための水素源として使用する固体化合物を知っている。この固体化合物は、燃料電池を供給することが可能であり、水素の含有量が高く(ボロヒドリド、ボラザンなど)、加水分解、熱分解または燃焼反応によって水素を放出する化合物である。これらの固体化合物を使用する水素発生器は、水素製造に関して加圧水素タンクよりも優れた構造指数をもっている。このような固体化合物は、特に、特許出願第WO 2009/138629号(燃焼または熱分解によって水素を発生させることが可能なボラザンおよびポリアミノボラン)、特許出願第EP 1 249 427号、第EP 1 405 824号、第EP 1 496 035号、第EP 2 014 631号(無機酸化剤とともに燃焼させて水素を発生させることが可能なアルカリ金属およびアルカリ土類金属のボロヒドリド)、米国特許出願第2007/0189960号、米国第2008/216906号、米国特許第6,746,496号(加水分解によって水素を発生させることが可能なアルカリ金属およびアルカリ土類金属のボロヒドリド)に記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
当業者は、特に、貯蔵可能な燃料/酸化剤化合物を用い、推力を高い許容度で調節することができ、構造指数が高く、ヒトおよび環境にとって安全でそれほど毒性がないか、まったく毒性がないような、推力操作に適した推進方法およびデバイスを探し求めている。
【0015】
これらの明細書を参照し、本発明の第1の主題によれば、本発明は、まったく新しい推進方法に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の第1の主題によれば、本発明に係る推進方法は、アルカリ金属ボロヒドリド、アルカリ土類金属ボロヒドリド、ボラザン、ポリアミノボランおよびこれらの混合物から選択される少なくとも1つの固体化合物と酸化薬との自動燃焼反応により水素を発生させる、第1燃焼工程と;少なくとも1つの燃焼室に少なくとも1つの液体酸化剤と前記第1燃焼工程で発生した前記水素とを注入する、注入工程;前記注入工程で注入した前記少なくとも1つの液体酸化剤と前記水素とを前記少なくとも1つの燃焼室の中で燃焼させて燃焼ガスを発生させ、第2燃焼工程と;前記第2燃焼工程で発生した前記燃焼ガスを前記少なくとも1つの燃焼室から放出する、放出工程とを含む。
【0018】
少なくとも1つの固体化合物と酸化薬との燃焼反応は、自動燃焼反応(すなわち、一旦開始すると、外から熱を加えることなく、また、酸化剤および/または燃料を加えることなく、自動的に燃焼が可能な、酸化要素および還元要素を含む標準的な固体噴射剤で得られる反応と同様反応である。
【0019】
この酸化薬は、有利には、硝酸ストロンチウム(Sr(NO)、アンモニウムジニトラミド(ADN:NHN(NO過塩素酸アンモニウム(NHClO)、硝酸アンモニウム(NHNO)およびこれらの混合物から選択される。
【0020】
本発明の方法は、水素源のうち少なくとも1つ、有利には、唯一の水素源(単独の水素源)によって特徴づけられる。水素は、少なくとも部分的に、有利には、完全に少なくとも1つの固体化合物から発生する。したがって、水素は、少なくとも部分的に、有利には完全に固体形態で、もっと具体的には、少なくとも1つの固体前駆体(solid precursor)の形態で貯蔵される。この固体前駆体は、水素を発生させるのに適している。固体前駆体は、一般的に気体状の還元液(大部分は(容積で)水素から構成される)を発生させるのに適している。したがって、唯一の固体化合物(同じ性質または異なる性質をもついくつかの固体化合物)は、水素前駆体として働くことができる。
【0021】
本願発明者らは、推進という観点から、水素源となる固体化合物として、完全に異なる観点(電気を生産する燃料電池を供給する(上述))で既に水素源として使用されている固体化合物を提案する。これらから得られる新しい推進方法は、高性能である。この方法は、所望の基準を満たしており、したがって、先行技術の推進方法、特に推力を調整しつつ推進する方法に匹敵するものである。
【0022】
もっと具体的には、本願発明者らは、水素源として、酸化薬との自動燃焼反応により高温ガスを発生する固体化合物(アルカリ金属ボロヒドリド、アルカリ土類金属ボロヒドリド、ボラザン、ポリアミノボランおよびこれらの混合物から選択される)を提案する。燃焼室においてこの高温ガスと液体酸化剤とが自然発火的に燃焼することで、自由に消火および再点火することができ、したがって、推力調整(以下を参照)を簡単に管理することができる。
【0023】
少なくとも1つの固体化合物から水素がすべて発生しない場合には、注入される水素の一部は、例えば、加圧した気体状水素の貯蔵源または低温液体水素の貯蔵源に由来してもよい。
【0024】
好ましくは、本発明の方法を実施するという観点では、少なくとも1つの固体化合物が、ボラザンであり、酸化薬が、Sr(NO32から構成される。
【0025】
少なくとも1つの固体化合物(水素源または水素前駆体)からの水素の発生は、一般的に、HO、HCl、NO、NH、Nなどのような他の気体種の発生を伴う。本発明の方法を実施するという観点で、特に、上に定義した水素前駆体からは、一般的に、少なくとも85容積%の水素と、最大で5容積%の他の気体種(例えば、HO、HCl、NO、NH、Nなど)を含む還元性ガス流が発生する。
【0026】
および上記の還元性ガス流とともに少なくとも1つの固体化合物から発生した固体生成物が燃焼室に注入され、燃焼室から燃焼ガスとともに放出されることを除外しない。したがって、水素の発生から生じる固体生成物は、生成した状態のまま処理される。したがって、デバイスの不活性分は、水素が消費されるにつれて、還元される。
【0027】
少なくとも1つの液体酸化剤は、有利には、硝酸、過酸化水素、過酸化窒素、硝酸ヒドロキシルアンモニウム(HAN)、アンモニウムジニトラミド(ADN)、アンモニウムニトロホルマートおよびこれらの混合物(化合物がお互いに相溶性である場合)の水溶液から選択され、少なくとも1つの液体酸化剤は、きわめて有利には、過酸化水素水溶液から構成される。
【0028】
少なくとも1つの液体酸化剤は、特に、ヒトや環境への安全性のため、過酸化水素水溶液から構成されることが好ましい。実際に、過酸化水素と水素が燃焼すると水を発生するため、環境への影響はない。
【0029】
過酸化水素水溶液は、有利には、過酸化水素含有量が30重量%より大きく、非常に有利には、過酸化水素含有量80重量%95重量%または98重量%を超える。本発明の推進方法において、特に好ましい実施形態は、固体化合物としてのボラザン硝酸ストロンチウムから構成される酸化とともに燃焼して、水素発生させることと、発生した水素および過酸化水素水溶液を少なくとも1つの燃焼室に注入することを含む。
【0030】
本発明の推進方法は、推力調整(thrust modulation)を実施するのに特に適している。この推力調整は、有利には、少なくとも1つの液体酸化剤を燃焼室に注入する速度、および/または少なくとも1つの固体化合物から発生する水素を(少なくとも部分的に、有利には完全に)燃焼室に注入する速度を調節することによって得られる。
【0031】
本発明の方法は、調整しつつ推進する用途で最も有利である。実際に、高温(例えば、固体化合物としてのボラザン60%と酸化薬としての硝酸ストロンチウム40%との自動燃焼反応による場合、1360K)で、固体化合物を用いて自動燃焼反応により気体(特に水素)を発生させることによって、液体酸化剤存在下、燃焼室の自然発火による燃焼操作が可能になる。したがって、燃焼室に対する液体酸化剤や水素の供給が長時間停止し、推力ゼロの段階であっても、固体化合物から発生した高温の気体と液体酸化剤とが燃焼室に再び注入され、接触すると、燃焼室での燃焼の再着火が可能である。
【0032】
さらに、燃焼室への液体酸化剤の流れを止めることによって低推力での段階を管理することも有利であり、残りの推力は、固体化合物によって水素を発生させることによって得られる。
【0033】
さらに、燃焼室が着火すると(すなわち、液体酸化剤が燃焼室に注入され、蒸気になると)、燃焼室への水素の注入が音波によるものではない場合(すなわち、水素を発生させるための自動燃焼反応が起こる圧力が、燃焼室の圧そのものである場合)、燃焼室の圧力を変えることによって、例えば、燃焼室への液体酸化剤の注入速度を変えることによって、または、燃焼室から放出される気体の速度を調製することによって、燃焼室に注入される水素の流れを管理することができる。したがって、燃焼室の内圧が増加すると、水素を発生させるための自動燃焼反応(の圧力)が増加し、固体化合物と酸化薬の燃焼速度が高まり、したがって、その結果として水素の製造量が増える(Paul Vieilleの操作法則によれば、噴射剤装填物の燃焼が、圧力によって促される)
【0034】
本発明の第2の主題によれば、本発明に係る推進デバイスは、少なくとも1つのノズルを有する少なくとも1つの燃焼室と、前記少なくとも1つの燃焼室に少なくとも1つの液体酸化剤を供給するためのデバイスと、前記少なくとも1つの燃焼室に水素を供給するためのデバイスとを備え、前記少なくとも1つの液体酸化剤と前記水素とが前記少なくとも1つの燃焼室の中で燃焼することで燃焼ガスが発生し、発生した前記燃焼ガスが前記少なくとも1つの燃焼室から前記ノズルを介して放出されるように、構成されており前記少なくとも1つの燃焼室に水素を供給するためのデバイスは、アルカリ金属ボロヒドリド、アルカリ土類金属ボロヒドリド、ボラザン、ポリアミノボランおよびこれらの混合物から選択される少なくとも1つの固体化合物と、前記固体化合物を燃焼する(したがって、水素を発生する)のに適した酸化薬との自動燃焼反応により前記水素を発生させる、少なくとも1つの水素発生器を備えており、この水素発生器は、一方で、弁を介して少なくとも1つの燃焼室に接続しており、他方で、制御された漏れ手段を介して、外に接続している。
【0035】
したがって、少なくとも1つの燃焼室に水素を供給するためのデバイスは、自動燃焼反応(アルカリ金属ボロヒドリド、アルカリ土類金属ボロヒドリド、ボラザン、ポリアミノボランおよびこれらの混合物から選択される少なくとも1つの固体化合物と、酸化薬との反応)によって水素を発生させることが可能な少なくとも1つの固体化合物を含む少なくとも1つの水素発生器を備えている。少なくとも1つの水素発生器は、弁を介し、少なくとも1つの燃焼室に排出する(ラインによって接続している)。水素を外に漏れさせる有利な制御手段は、少なくとも1つの水素発生器と関連している。この制御手段は、水素発生器を燃焼室に接続するラインの上に並んでいてもよい。この制御手段は、上述の弁の構造の中に与えられている補助部材であってもよい。また、この制御手段は、水素発生器に、または水素発生器が排出するラインに並んだ安全弁であってもよい。この実際の実施形態に関わりなく、気体(主にH2)の漏れ手段は、少なくとも1つの水素発生器の内圧を制御することができるように与えられ、弁(少なくとも1つの水素発生器から燃焼室に運ぶための弁)が部分的または完全に締まっている場合、調整段階では、自動燃焼反応によって固体化合物から発生した水素をすべて燃焼室に流すことはできない。
【0036】
本発明の推進デバイスは、上記のように、推力を調整しつつ推進する方法の実施に適していることが理解される。
【0037】
少なくとも1つの燃焼室に水素を供給するためのデバイスは、1種類の固体化合物、水素源が入った1個の発生器、固体化合物の混合物、水素源が入った1個の発生器、同じ固体、化合物が入った数個の発生器、異なる固体化合物が入った数個の発生器など、多くの実施形態で存在することができる。このデバイスは、注入ポンプが取り付けられ、場合により、弁を介して少なくとも1つの燃焼室に排出する少なくとも1つの加圧気体水素タンクおよび/または少なくとも1つの低温液体水素タンクを備えていてもよい。
【0038】
少なくとも1つの水素発生器は、粒子フィルターを備えていてもよく、備えていなくてもよい。このようなフィルターは、固体反応生成物が少なくとも1つの発生器から燃焼室に流れるのを防ぐ目的がある。
【0039】
少なくとも1つの燃焼室に少なくとも1つの液体酸化剤を供給するためのデバイスは、一般的に、弁を介して少なくとも1つの燃焼室に排出する1つ以上の加圧タンクから構成されている。酸化剤または酸化剤混合物を含む1個のタンク、同じ酸化剤または異なる性質をもつ酸化剤を含む数個のタンクのようないくつかの実施形態でも、このデバイスが存在していてもよい。
【0040】
ある有利な実施例によれば、少なくとも1つの液体酸化剤タンクの加圧状態は、少なくとも1つの水素発生器で製造された気体の一部(大部分は水素)によって与えられ、次いで、弁を介し、少なくとも1つのタンクに接続している。この観点で、あるタンクは、有利には、少なくとも1つの水素発生器で製造された気体(大部分は水素)の注入容積と、酸化剤を含む容積とを分離する拡張可能な膜を液体酸化剤タンクに備えている。この拡張可能な膜は、液体酸化剤タンク内で、少なくとも1つの水素発生器で製造した気体(大部分は水素)の一部と、液体酸化剤とを物理的に分離し、タンク内でこの気体と液体酸化剤とが早めに反応してしまうことを避けることができる。
【0041】
本発明の推進デバイスは、基本的に、燃焼室と、燃焼室と接続している水素発生器および液体酸化剤タンクとを備えている。水素発生器は、第1の実施例では、燃焼室のみに接続している(のみに排出している)。第2の実施例によれば、水素発生器は、燃焼室と液体酸化剤タンクの両方に接続している(排出している)。
【0042】
本発明の推進デバイスは、上述の推進方法(自然発火による燃焼)の実施に適しており、したがって、少なくとも1つの燃焼室に取り付ける着火手段を必要としない。しかし、例えば、本発明の推進デバイスを取り付けた乗り物が離陸する間、非常に短時間で完璧に同調した時間に最大推力を得ることが必要なとき、少なくとも1つの迅速な着火を可能にするように制御するために、少なくとも1つの着火手段が燃焼室に含まれることを除外しない。
【0043】
本発明の推進のデバイスは、少なくとも1つの水素発生器での反応を開始させるために、1つ以上の着火手段を備えている。
【0044】
存在する弁は、有利には、本発明の推進デバイスが取り付けられた乗り物(ロケット、ミサイルなど)の中央制御ユニットによって制御される。この弁によって、推力を調整しつつ推進を実施することができる。弁は、推力の大きさまたは必要な方向によって、さまざまに開かれている。
【0045】
本発明の第3の主題によれば、本発明は、推進ユニットに関し、推進ユニットの構造は、本発明の少なくとも1つの推進デバイスを備えている。
【0046】
ここで、いかなる様式にも限定されないが、本発明は、添付の図面および以下の実施例によるデバイスおよび方法の態様を説明する。本発明の方法の2種類の例示的な実施形態を、図3および図4を参照してさらに具体的に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1】本発明の推進デバイス(第1の実施例)を模式的に示す。
図2】本発明の推進デバイス(第2の実施例)を模式的に示す。
図3】算出した比推力の曲線を、燃焼室に注入された混合比の関数として示す。先行技術のMMH/N混合物(記号なしの曲線)、固体化合物(ボラザン(NHBH))とSr(NO/Nの燃焼によって製造された気体混合物(大部分はH)(三角の記号がついた曲線(実施例2))、および固体化合物(ボラザン(NHBH))とSr(NO/過酸化水素水溶液(H/HO、85重量%のH)との燃焼によって製造された気体混合物(大部分はH)(黒丸の記号がついた曲線(実施例1))。
図4図1に示したのと同じ混合物の燃焼温度の曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0048】
本発明の推進デバイス50は、図1に示される好ましい基本的な実施例で、ノズル2が備わった燃焼室1と、燃焼室1に水素を供給するためのデバイス20(水素発生器4を備える)と、燃焼室1に液体酸化剤OXを供給するためのデバイス30(液体酸化剤OXのタンク9を備える)とを備えている。
【0049】
水素発生器4は、固体ブロック5を備えており、固体ブロック5は、酸化薬5"との混合物中、水素を発生させることが可能な固体化合物5'で構成され(5=5'+5")、ブロック5の燃焼(固体化合物5'と酸化薬5"との燃焼)によって水素が発生する。水素発生器4は、弁7を備えるライン6によって燃焼室1に接続しており、それによって、発生した水素を燃焼室1に注入することができる。また、ライン6は、水素発生器4によって製造された水素を外側に漏れさせるための制御手段7'(示されている実施例では、別の弁)を備えており、これによって、弁7が部分的または完全に閉じているとき、水素発生器4の内圧を制御することができる。水素発生器4は、ブロック5の燃焼を着火するためのデバイス8が備わっている。
【0050】
示されている実施例によれば、水素発生器4およびライン6には、ノズルまたはその等価物が備わっておらず、水素発生器4の操作圧は、燃焼室1の圧力そのものである(弁7が開いているとき)。次いで、燃焼室1に注入される液体酸化剤OXの流れを変えることによって、水素発生器4の操作を制御することができる。示されていない別の実施例によれば、水素発生器またはそのラインには、ノズルまたはその等価物が備わっており、つまり、水素発生器の操作が、燃焼室の圧力条件とは独立している。
【0051】
液体酸化剤OXのタンク9は、アレージ空間11(例えば、窒素またはヘリウムのアレージ空間)を備えている。このタンクは、加圧状態が保たれている。このタンクは、ライン12および弁13によって燃焼室1に接続しており、それによって、液体酸化剤OXを燃焼室1に注入することができる。
【0052】
図2は、本発明の別の推進デバイスを示す。この推進デバイスにおいて、図1推進デバイスの全要素が存在しているが、但し、アレージ空間11が拡張可能な膜14と置き換わっている。さらに、弁16が取り付けられたさらなるライン15によって、水素発生器4によって製造された気体(大部分は水素)の一部を、拡張可能な膜14によってタンク9に含まれる液体酸化剤OXと分離された空間に注入することができる(この空間は、作られ、膨張することが予定されている)。弁16を介して注入された気体の加圧状態の影響によって膜14が拡張することで、液体酸化剤OXが確実に燃焼室1に注入される。
【0053】
以下の実施例は、熱力学的計算を用い、衝撃性能の観点で本発明の(本発明の方法の)利点を示す(先行技術の二液法と本発明の方法を比較する)。
熱力学的計算を、以下の熱力学的条件で実施した
−燃焼室の内圧:5MPa
−ノズルの膨張率:80
−外圧:0.06MPa(擬似真空)。
【実施例】
【0054】
実施例1
実施例1は、図1の種類の推進デバイスにおいて、本発明の好ましい実施例にしたがって実施する推進方法に関する。この推進デバイスは、一方に、水素発生器(この中で、NH3BH3(60重量%)(水素源である固体化合物)とSr(NO32(40重量%)(酸化剤)との燃焼によって水素が発生する)を備え、他方に、液体酸化剤タンク(液体酸化剤が、過酸化水素水溶液で構成され、85重量%のH22を含む)を備えている。したがって、この方法は、水素を発生すること(もっと正確には、大部分が水素で構成される燃焼ガスを発生すること)と、水素および液体酸化剤を注入することとを含む。
【0055】
固体ボラザン化合物とSr(NOとの燃焼によって発生した気体状生成物のみが燃焼室に導入されると考えられる。
【0056】
以下の表1は、水素発生器で製造された気体種(以下、「気体状生成物A」と呼ばれる)と、気体の分析によって、気体発生器での燃焼試験によって測定されたモル比とを示している。この表は、液体酸化剤との燃焼中に、衝撃性能の計算に導入されるこれらの種の重量%も示している(気体発生器で測定されるほとんどの少量の種は、この計算では無視されている)。
【0057】
【表1】
【0058】
図3は、気体状生成物A(大部分は水素で構成される)と、85重量%のHを含む過酸化水素水溶液で構成される液体酸化剤とを燃焼室に注入することによって得られた最大比推力が、液体酸化剤と気体状生成物Aの混合比(混合比は、図3のx軸でOX/REDと称される)が7であるとき、351sであることを示す。OX/RED混合比を3〜10まで広げたとき、最大比推力は2%以内におさまっている。このことは、得ることが可能な最大比推力の観点と、最大比推力を得るのに、混合比の感度が低いという観点は、特に有利である。したがって、最大比推力に到達するために、燃焼室の供給弁を精密に制御する必要はない。最大比推力値から出発する比推力の調整は、有利には、比推力の曲線の低下部分にしたがって、OX/RED比を減らすことによって得られてもよい。
【0059】
これに対し、MMH/N二液混合物は、狭い比推力ピークをもち、最大値は351sであり、この値は、本発明のこの実施例によって得られる値と同等であり、この最大値は、MMH/N混合比(混合比は、図1のx軸でOX/REDと称される)が2.33のときに得られる。混合比が1.83〜2.69の狭い範囲で最大比推力が2%以内におさまり、この両端では比推力が急激に低下するため、目的の比推力値を得るために、燃焼室の供給弁を精密に制御する必要がある。
【0060】
図4は、MMH/N二液混合物の場合、本発明のこの実施例によって得られた燃焼温度が2800Kを超えず、一方、3361K付近で最大比推力に達することを示している。燃焼温度が低いことによって、燃焼室およびノズルの内部の部品に耐熱性の材料を用いる制限を減らすことができる。
【0061】
本発明のこの実施例によって得られた性能を、アルミニウム処理されたコンポジット噴射剤の性能(68重量%の過塩素酸アンモニウム、20重量%のアルミニウム、12重量%のバインダーおよび添加剤)と比較することも有益である。このような噴射剤は、この実施例の燃焼室の操作条件で、比推力329sでの燃焼温度が3558Kである。
【0062】
したがって、この実施例は、先行技術(最も最近の先行技術MMH/N)によって得られる比推力と同等の最大比推力を生じ、ヒトにも環境にも無害な生成物を伴う先行技術よりも燃焼温度が低いという本発明の方法の利点を示す。
【0063】
実施例2
実施例2は、実施例1で得られたものよりも有益な性能値を示すものではないが、本発明の方法を実施するために、固体水素発生器、実施例1の化合物と組み合わせて別の液体酸化剤を用いる可能性を示すものである。実施例2で選択される液体酸化剤は、Nである。衝撃性能の熱力学的計算の条件は、特に、固体水素発生器の化合物によって発生する気体状生成物に関し(表1で「気体状生成物A」を参照)、実施例1の条件と同じである。
【0064】
図3は、固体化合物の気体状生成物Aと液体酸化剤Hとを燃焼室に注入することによって得られた最大比推力が、液体酸化剤と気体状生成物Aの混合比(混合比は、図3のx軸でOX/REDと称される)が1.78であるとき、330sであることを示す。図4は、本発明のこの実施例によって得られた燃焼温度が3271Kを超えないことを示す。
図1
図2
図3
図4