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特許5674893クランク軸,軸受アセンブリ,および大型多気筒2ストロークディーゼルエンジン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5674893
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月25日
(54)【発明の名称】クランク軸,軸受アセンブリ,および大型多気筒2ストロークディーゼルエンジン
(51)【国際特許分類】
   F16C 3/10 20060101AFI20150205BHJP
   F16C 9/02 20060101ALI20150205BHJP
   F02F 7/00 20060101ALI20150205BHJP
   F02B 77/00 20060101ALI20150205BHJP
   F01M 1/06 20060101ALI20150205BHJP
【FI】
   F16C3/10
   F16C9/02
   F02F7/00 301F
   F02F7/00 B
   F02B77/00 Q
   F01M1/06 D
【請求項の数】8
【外国語出願】
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-211516(P2013-211516)
(22)【出願日】2013年10月9日
(65)【公開番号】特開2014-95470(P2014-95470A)
(43)【公開日】2014年5月22日
【審査請求日】2014年3月10日
(31)【優先権主張番号】PA 2012 00704
(32)【優先日】2012年11月9日
(33)【優先権主張国】DK
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】597061332
【氏名又は名称】エムエーエヌ・ディーゼル・アンド・ターボ・フィリアル・アフ・エムエーエヌ・ディーゼル・アンド・ターボ・エスイー・ティスクランド
(74)【代理人】
【識別番号】100127188
【弁理士】
【氏名又は名称】川守田 光紀
(72)【発明者】
【氏名】オルソン マルティン
【審査官】 久島 弘太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−336810(JP,A)
【文献】 特開2007−146909(JP,A)
【文献】 特開2007−170675(JP,A)
【文献】 実開昭63−133630(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 3/10
F01M 1/06
F02B 77/00
F02F 7/00
F16C 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロスヘッド式大型低速ディーゼルエンジン(10)のための組立式クランク軸(1)であって、
主ジャーナル(5)により互いに接続される複数のスロー(2)を備え、
前記主ジャーナルは主ジャーナル軸受面(40)を有し、前記主ジャーナル軸受面はその2つの軸方向端部(42,43)の間の軸方向の幅(W)を有し、
少なくとも一つの前記主ジャーナルの前記主ジャーナル軸受面には少なくとも一つの減少領域(45)が設けられ、
前記少なくとも一つの減少領域は、前記2つの軸方向端部の一方に隣接し、前記2つの軸方向端部の前記一方から遠ざかる方向に浅くなる深さ(y)を有し、該減少領域は、前記主ジャーナルのその軸受に対する傾きに対処するように構成され
前記少なくとも一つの減少領域は更に、対応する前記主ジャーナルのその軸受に対する傾きに対処するために、該主ジャーナルの円周全体の選択された一部をカバーする、角方向の特定の位置及び角方向の特定の広がり(δ1,δ2)を有する、
クランク軸。
【請求項2】
選択された主ジャーナルに複数の減少領域(45)が設けられる、請求項1に記載のクランク軸。
【請求項3】
前記複数の減少領域の各々は、関連する主ジャーナルにおける必要性に応じて個別に最適化される、請求項に記載のクランク軸。
【請求項4】
前記少なくとも一つの減少領域の前記深さ(y)は、該減少領域が隣接する前記軸方向端部に向けて、軸方向に、徐々にその深さを増大させる、請求項1に記載のクランク軸。
【請求項5】
前記少なくとも一つの減少領域の前記角方向の広がり(δ1,δ2)は、前記主ジャーナルの円周領域全体にまで広がる、請求項1に記載のクランク軸。
【請求項6】
複数の主軸受(62,80,86,87)及び、請求項1からのいずれかに記載のクランク軸を備える、軸受アセンブリ。
【請求項7】
軸受シェル(86,87)が、完全な円筒形を有する軸受面を持つ平たんな軸受シェルである、請求項に記載の軸受アセンブリ。
【請求項8】
請求項1からのいずれかに記載のクランク軸または請求項及びのいずれかに記載の軸受アセンブリを備える、クロスヘッド式大型多気筒2ストロークディーゼルエンジン(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランク軸,軸受アセンブリ,および大型多気筒2ストロークディーゼルエンジンに関する。特に本発明は、主ジャーナルにより相互に接続されるスローや、クランク軸の主ジャーナルのための軸受シェルを有する軸受アセンブリや、このようなクランク軸及び軸受アセンブリを備えるクロスヘッド式大型多気筒2ストロークディーゼルエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
クロスヘッド式大型低速ディーゼルエンジンは巨大であり、非常に効率の高い出力発生機械である。このようなタイプのエンジンで最大のものは、94rpmでおよそ120,000kWもの出力を有し、全長は36メートル、重量はほぼ3800トンにも達する。
【0003】
このタイプのエンジンはシリンダセクションに分割されるが、これは、ベッドプレートにおいては隣接する横桁(cross girder)に対応し、A形のクランクケースフレームにおいては横補剛材(transverse stiffener)に、シリンダフレームにおいてはシリンダピッチ(シリンダ間距離;cylinder pitch)に対応する。
【0004】
これらのエンジンはクランク軸を有する。クランク軸は、主ジャーナルにより相互に接続されたスローにより組み立てられる。主ジャーナルは主軸受により支持される。各クランクスローはクランクピンにより相互に接続される二つのアームを有する。これらのアームは、関連する主ジャーナルと焼き嵌めの手法を用いて連結される。主ジャーナルの端部をアームの孔に焼き嵌めする。各スローは一体的に製造されるか、または、二つのアームとクランクピンにより組み立てられる。
【0005】
最も重いタイプのエンジンのスローはおよそ25トンもの重量を有し、クランク軸の重量はおよそ400トンにも達する。このようなクランク軸は、最大でおよそ12,000,000Nmにも達するトルクを伝達しなければならず、また、クランク軸に作用するピストンの力も同じように巨大である。クランク軸の部品の寸法は、極めて多くの構造上の観点から決定される。特に、伝達されるべき力や、クランク軸が震えることにより生成される力は、各部品の寸法に影響を与える。また、接続部分や部品の寸法には安全面の因子もあり、それは各船級協会の要請によって規制されている。
【0006】
クロスヘッド式大型多気筒2ストロークディーゼルエンジンの主ジャーナルは、ピストンからクランク軸に印加される巨大な力に耐えることができなければならず、また、クランク軸の振動挙動により作られる力にも耐えなければならない。
【0007】
大型2ストロークディーゼルエンジンの主軸受は滑り軸受(slide bearing)である。このタイプの軸受では、ジャーナルの回転運動の流体力学的効果が圧力を生じるが、この圧力が、軸受シェルの軸受面とジャーナルの軸受面との間の油膜に積み上がり、これがジャーナルを軸受面から浮き上がらせる。軸受面の摩耗を防ぐには、一定以上の油膜厚が維持されなければならない。クロスヘッド式大型多気筒2ストロークディーゼルエンジンの複数の主軸受にかかる負荷は、一様に分散するのではなく、軸受毎に異なっている。負荷が軸受毎に異なるのは、クランク軸が回転し、その結果クランク軸が振動する場合に生じる動質量(dynamic mass)の力によるものである。燃焼圧力に起因してスローがたわむことや、伝達される変動トルクに起因して、中央部以外のスローがねじれることは、エンジンの運転中に中心軸にオフセットを生じ、各主軸受の間でずれを生じる。これが各主軸受の間で負荷が異なる原因となる。燃焼圧力により生じるクランク軸のたわみ及びねじれや、運転中に伝達される変動トルクに起因する両端側スローのねじれは、ジャーナル軸と軸受軸との間に傾きを生じ、これはエンジンサイクルの間に変化する。
【0008】
さらに、クランク軸に作用する力はクランク軸にたわみを生じ、特にスローにたわみを生じる。これは、主軸受に対して主ジャーナルに傾きを生じる。クランク軸において、主ジャーナルの傾きは、主ジャーナル毎に異なるが、これは高いエッジ圧を生じ、軸受の部材の疲労破損の原因となる。高いエッジ圧は油膜厚の薄さにも関係する。上述のタイプの軸受けにおいて一般的な、油膜における高い圧力の別の問題は、ずれや傾きに関係するものではなく、主軸受の軸に沿った方向における油膜圧のプロファイル(形状)に関係している。
【0009】
大型2ストロークディーゼルエンジンのための既知の軸受は、軸受毎に異なる傾きの度合いに対処するために、ブレンデッドエッジ軸受シェル(blended edge bearing shell)と呼ばれる軸受シェルを備えている。
【0010】
ブレンデッドエッジ(blended edge)と呼ばれるデザイン(設計)は、主軸受の薄いホワイトメタルに適用されるもので、クランク軸の傾きによく耐えることができ、従って、エッジ疲労破損に対する耐性を高めることができる。
【0011】
ブレンデッドエッジ・デザインは、軸受シェルの端部付近の周縁領域における滑らかな径構造であり、主軸受シャフトが傾く時に、軸受シェルの端部に接触することを防いだり、軸受シェルの端部で高い油膜圧を生じたりすることを防ぐ。
【0012】
軸受のブレンデッドエッジ・デザインは、代償として、傾きが小さいが軸受にかかる力が非常に大きいときの、軸受の負荷耐性を減少させてしまう。このような状況では、平らな軸受が必要とされる。ブレンデッドエッジ・デザインの軸受は、エンジンのいずれかの場所に置かれる。エンジンは、ブレンデッドエッジ・デザインのシェルと、平らなシェルの両方をスペア部品として備えている必要がある。これは、部品の手配を複雑にする。また、外洋航行船に搭載されるエンジンが、このようなスペア部品を一緒に運ばなければならないことから、エンジンを高価にしてしまう。
【発明の開示】
【0013】
このような背景の下、本発明の目的は、上記の先行技術に関連する不利な点を克服するか、少なくとも緩和する、クランク軸を提供することである。
【0014】
この目的は、往復ピストンエンジンまたはコンプレッサのための次のようなクランクシャフトによって達成される。このクランクシャフトは、主ジャーナルにより互いに接続される複数のスローを備え、前記主ジャーナルは主ジャーナル軸受面を有し、前記主ジャーナル軸受面はその2つの軸方向端部の間の幅を有し、少なくとも一つの前記主ジャーナルの前記主ジャーナル軸受面には少なくとも一つの減少領域が設けられ、
【0015】
前記少なくとも一つの減少領域は、前記2つの軸方向端部の一方に隣接し、前記2つの軸方向端部の前記一方から遠ざかる方向に徐々に浅くなる深さを有する。
【0016】
エンジンの動作中において、主軸受の、その対応する主軸受に対する傾きは、主軸受ごとに異なる。また、エンジン動作中における主軸受の主軸受に対する傾きは、クランク軸の角度位置に応じて変わる。すなわち、主ジャーナルは、その主軸受に対して、クランク軸位置の360度の角度範囲の殆どにおいて完全に位置合わせがなされているかもしれないが、特定の角度位置において一つ又は複数の角度範囲においてはそうではないかもしれず、そのような角度範囲においては、傾きの大きさが変化する可能性がある。
【0017】
主軸受ジャーナルの軸受面の軸方向の端部に隣接して局所的に減少する領域を少なくとも一つ設けることにより、必要とされる正確な領域において、圧力を逃がす減少領域を設けることができる。
【0018】
主軸受ジャーナルの円周領域に沿った場所は、エンジンの負荷が同じであるならば、回転中にどこでも同じ負荷にさらされる。一方、主軸受シェルの各場所は、はるかに大きな負荷のスペクトルにさらされる。下部軸受シェルの全体に完全なブレンド(blend,丸みを帯びた端部)を設ける代わりに、ジャーナルの特定の部分にブレンドを適合する可能性を提供する。
【0019】
主ジャーナルに局所的に減少した領域を設けることにより、エンジンの全体において、完全に平坦な軸受シェルを用いることが可能になる。
【0020】
軸受シェルは、スペア部品として、クランク軸よりも遥かに多くの数が製造される。従って、同じ形状の軸受シェルを利用できることの利点は大きい。
【0021】
ある実施形態において、前記深さは、前記主ジャーナルの前記軸受面の略円筒状の範囲に対する深さである。
【0022】
ある実施形態において、前記少なくとも一つの減少領域は、対応する前記主ジャーナルの円周全体の選択された一部をカバーする、角方向の特定の位置及び角方向の特定の広がりを有する。
【0023】
ある実施形態において、前記クランクシャフトは、選択された主ジャーナルに複数の減少領域を有するある
【0024】
ある実施形態において、前記複数の減少領域の各々は、関連する主ジャーナルにおける必要性に応じて個別に最適化される。
【0025】
ある実施形態において、複数の減少領域を有する1本の主ジャーナルが提供され、そのうちの幾つかは前記2つの軸方向端部の各々に隣接し、また複数の減少領域は、前記2つの軸方向端部の一方に隣接する。
【0026】
ある実施形態において、少なくとも一つの減少領域45の深さyは、減少領域45が隣接する軸受面の軸方向端部42,43に向けて、軸方向に、徐々にその深さを増大させる。
【0027】
ある実施形態において、前記少なくとも一つの減少領域の前記角方向の広がりは、前記主ジャーナルの円周領域全体にまで広がる。
【0028】
前述の目的はまた、複数の主軸受及び上述のクランク軸を有する軸受アセンブリによっても達成される。
【0029】
ある実施形態において、前記軸受アセンブリが有する軸受シェルは全て平坦な軸受シェルであって、完全な円筒形を有する軸受面を持つ。
【0030】
前述の目的はまた、上記クランク軸または上記軸受アセンブリを備える、クロスヘッド式大型多気筒2ストロークディーゼルエンジンまたはコンプレッサによっても達成される。
【0031】
本明細書の開示に従うクランク軸や軸受アセンブリ、エンジン、コンプレッサの更なる目的や特徴、利点、性質は、以下の詳細説明により明らかになるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0032】
本明細書の以下の詳細説明部分においては、図面に示される例示的な実施形態を参照して発明がより詳細に説明される。
図1】従来型の8気筒2ストロークディーゼルエンジンの側面図である。9気筒から12気筒のエンジンの長さも示している。
図2図1のエンジンの正面図である。
図3】本発明の例示的実施形態に従うクランク軸の側面図である。
図4図3のクランク軸の一部分の詳細図である。
図5A】本発明の例示的実施形態に従うエンジンのベッドプレートの横桁(cross girder)を、主軸受サポートと共に描いたものである。
図5B図5Aの軸受サポートを詳細に描いたものであり、軸受キャップと軸受シェルを示している。
図6図3のクランク軸の主軸受及びクランクスローの詳細図であり、長手方向の一部の断面図である。
図7】本発明の例示的実施形態に従う主軸受上の"reducing area"の位置を示す図である。
【詳細な説明】
【0033】
以下の詳細説明において、クランク軸、軸受アセンブリ、クロスヘッド式の大型2ストロークディーゼルエンジンまたはコンプレッサが、好適な実施形態を用いて説明される。
【0034】
図1及び2は、クロスヘッド式の大型低速2ストローク直列エンジン10を描いたものであり、直径98cmのピストンを備えている。このエンジンは、船舶の推進機関や発電所の主機関として用いられうる。このようなエンジンは、通常、6本から16本のシリンダを直列に備えている。図1には、8気筒のエンジン10が側面図で描かれている。この図には、同じタイプのエンジンが9気筒、10気筒、11気筒、12気筒である場合の外形を示す追加の線が描かれている。エンジン10の下には、縮尺がメートル単位で示されている。これは、この機械の本当の大きさを知ってもらうためである。8気筒のモデルの場合、全長はおよそ18mとなり、16気筒のモデルの場合はおよそ34メートルにもなる。
【0035】
エンジンは、クランク軸1のための主軸受を備えるベッドプレート11から組み立てられる。ベッドプレート11は、製造施設の能力に応じて複数の部分に分けて作られる。ベッドプレートは、溶接設計による長手桁(longitudinal girder)と、溶接設計による横桁(cross girder)60から構成される。横桁には鋼鉄製の軸受サポート62が設けられる(図5)。
【0036】
エンジンは、ピストンロッド29によりクロスヘッド24に接続されるピストン28を有する。図2において破線で示される要素を参照されたい。クロスヘッド24は縦案内版23によって案内される。連接棒30が、クロスヘッド24をクランク軸1のクランクピン4に接続する。
【0037】
ベッドプレート11の上には、溶接設計によるA型のクランクケースフレーム12が設置される。クランクケースフレーム12の上部には、シリンダフレーム13が設置される。ベッドプレート11をシリンダフレーム13を連結し一体化するには、ステーボルト26(図示されていない)が用いられる。シリンダ14はシリンダフレーム13によって担持される。各シリンダ14の上部には、排気弁アセンブリ15が設置される。シリンダフレーム13にはまた、燃料噴射システム19、排気受け16、ターボ過給機17、掃気受け18も設置される。
【0038】
図3は、本発明の例示的実施形態に従う、12気筒エンジンのクランク軸1を描いたものである。クランク軸1は前端部(fore end)と後端部(aft end)とを有する。図3において、左側が前端部であり、右側が後端部である。クランク軸1の重量は、全体でおよそ400トンにも達する。エンジンの製造施設には、このような重量を持ち上げることのできるクレーンは存在しないので、クランク軸1は、前端部分1bと後端部分1aとに分けて製造され、組み立てられる。クランク軸の各部分1a,1bはそれぞれ6つのクランクスロー2を有する。すなわちクランク軸全体では12個のクランクスロー2が存在する。なお、別の構成を取ることも可能であり、例えば14気筒のエンジンにおいて、クランク軸は、4つのスローを有する二つの部分と、6の部分を有する一つの部分とに分けられてもよい。前端部分1bおよび後端部分1aは、1つずつ、主ジャーナル5の部分において対応する軸受シェル86に置かれる。そして、クランク軸の前端部分と後端部分とを、フランジ接続部37によって長手方向に結合する。クランク軸の前端部分と後端部分とがフランジ接続部37においてボルトで接合され、軸受キャップ80が載せられると、クランクケースフレーム12をベッドプレート11の上に載せることができるようになる。
【0039】
クランク軸部品1a,1bは、各々6つのクランクスロー2と7本の主ジャーナル5から組み立てられる。クランクスロー2は、二つのアーム3と一体的に形成されたクランクピン4を有する。クランクスロー2は、鋳鋼または鍛鋼の単一部品として製造される。クランク軸部品1a,1bのそれぞれの6つのクランクスロー2は、各々主ジャーナル5によって互いに接続される。主ジャーナル5は2つのスロー2の脇の間に存在することになる。本実施例におけるクランク軸全体のための主軸受の数は、14となる。
【0040】
後端部分1aはスラスト軸受39を有する。スラスト軸受39は、図示されないプロペラ推進部により中間シャフトを介して生成される力を受け止める。
【0041】
主ジャーナル5は中央軸受部分と二つの端部分とを有する。これらの端部分は、クランク軸1が組み立てられるときに、隣接するクランクスロー2のアーム3のボアに焼き嵌めされる。前端部分1bや後端部分1aの長手方向の先端部分に位置する主ジャーナルは、軸受に設置される部分を有すると共に、その一端は、対応するクランクスロー2のアームのボアに焼き嵌めされる。
【0042】
図5は、ベッドプレート11の横桁における主軸受サポート62を示している。横桁は、エンジンベッドプレートの溶接構造の一部であり、軸受サポート62を担持する2つのウェブプレート60(横桁;cross-girder)を有する。
【0043】
主軸受サポート62は、上方に面する窪みを有する。その底には、下部軸受シェル86が載置される弧状の支持面が設けれる。下部軸受シェルは、好ましくは薄いシェル状(shell type)で、その上に軸受メタルが堆積された合金で形成される。上方に面する窪みは、主軸受サポートの上面64へと開口する。上方に面する窪みはまた、軸受キャップ80を案内する案内面を有する。軸受キャップ80には、上部軸受シェル87のための弧状の支持面が設けられる。上部軸受シェルも薄いシェル状であり、軸受メタルが堆積された合金で形成される。軸受キャップ80は、油圧テンションボルト82によって所定の位置に保持される。ボルト82は、主軸受サポート62に設けられるネジ穴に固定される。
【0044】
軸受シェル86,87は、薄いシェル(thin shell)状であると呼ばれるが、これは、通常軸受シェルの厚みが、軸受によって支持されるジャーナル5の直径の1.5〜3パーセントであることを意味している。薄いシェル状の軸受の従来の特徴は、シェルが主軸受サポート62により支持されなければならず、軸受キャップ80はシェルの全体を覆わなければならないというものであった。これは、エンジン10の動作中に生じる動的な影響に対して、シェルの厚みが軸受メタル(ひいては軸受シェルの軸受面)を支持するために十分ではないためである。軸受キャップ80は、軸受スタッド82によってベッドプレート11の方へきつく締められる。軸受スタッド82は、シェル86,87をその位置に保持するための保持力を発生する。軸受シェル86,87の軸受面は完全に円筒状である。しかし、実施形態によっては、シェルの径は完全に一定ではなく、軸受の左右両端部においては、最大径を有する上部から、最小径を有する下部領域まで径が滑らかに変化している。
【0045】
エンジンの各主軸受は、それぞれ負荷および傾斜軌道(inclination orbit)にさらされる。最適なブレンデッドエッジの位置は、EHDシミュレーションによってのみ決定されうる。
【0046】
主軸受5の各々は主ジャーナル軸受面40を有し、主ジャーナル軸受面40は、その前端部42と後端部43との間に所定の軸幅Wを有する。なお、前端や後端との語句は、クランクシャフト1のどちらの側に主ジャーナル軸受面40の端部が位置しているかを表している。主ジャーナル軸受面40は、通常は完全に円筒形の面を有し、完全な円筒形である軸受シェル86,87に適合し、耐負荷能力を最大化する。しかし、円筒状の幅の全体にわたって軸受面が完全に円筒状の場合、主軸受の軸に対する主ジャーナル5の傾きは、軸受シェル86,87の端部において、許容できない圧力を生じ、それは軸受シェル86,87の軸受材を破損する結果を生じることになる。エンジン10の動作中における、主軸受の軸に対する主ジャーナル5の傾きは、クランク軸の角度位置に依存し、また、主ジャーナル5によっても異なる。軸受シェル86,87における許容できないほどの高いエッジ圧力を防止するために、いくつかまたは全ての主ジャーナル5は、減少領域(receding area)45を有する。主ジャーナル5の減少領域45は、主ジャーナル軸受面40の前端部42または後端部43に隣接し、それぞれ、定められた深さy,軸方向の広がりx,角方向の広がりδを有する。減少領域45は深さyを有するが、それは、減少領域45に隣接する軸方向端部42,43のいずれか一方から遠ざかる方向に向かって、軸方向に沿って徐々に浅くなる。
【0047】
図6および図7は、減少領域45を詳細に描いている。減少領域45は、主ジャーナル軸受面40の前端部または後端部に対して軸方向の広がりを有する長さxと、径方向の広がりを有する深さy(軸受面の円筒形の広がりに対する深さ)と、各方向の位置δによって描かれている。軸方向Xにおいて、軸受面の中央領域における円筒形の広がりに関する(および、減少領域45以外の主ジャーナル軸受領域に関する)深さyは、主ジャーナル軸受面40の前端部42または後端部43のところで最大となり、そこから徐々に浅くなって、軸方向において減少領域45が終わるところでゼロになる。一般的に、減少領域45の深さyは、減少領域45の開始位置から軸受面40の前端部又は後端部へ向かって軸方向に、徐々に増加する。どのような場合においても、落ち込んでいる領域45が最も深くなっている位置は、スロー2の横腹に隣接しているべきである。なぜなら、その位置が、主ジャーナルの軸受に対する傾きに対処するために深さyが最も必要とされる位置であるからである。すなわち、下がっている領域45の深さyは、主ジャーナル5からスロー2へ移行する前に、スロー2の方向に向かって浅くなってはならない。減少領域45の深さyは図6において拡大されて図示されている。これは、減少領域を肉眼で認識することは難しいかもしれないからである
【0048】
図7に描かれるように、減少領域45は、主ジャーナル5の円周領域の一部分である、角方向の広がりδおよびδを有する。この例においては、減少領域45の角方向の広がりδおよびδは、主ジャーナル軸受面40の前端部又は後端部において最大となり、そこから離れるに従って徐々に減少し、減少領域45が終わる位置でゼロになる。
【0049】
ある実施形態において、少なくとも一つの減少領域45の深さyは、減少領域45が隣接する軸受面の軸方向端部42,43に向けて、軸方向に、徐々にその深さを増大させる。
【0050】
図7には二つの減少領域45が示されている。1つは角方向にδの広がりを有し、もう一つは各方向にδの広がりを有する。しかし別の例では二つより多い減少領域45を有する場合もあり、また、減少領域45を一つ有さない場合もある。二つの減少領域45は角度αによって隔てられている。
【0051】
減少領域45の数、それらの軸受面上の位置、それらの深さ、x方向の広がり、角方向の広がりは、主ジャーナル5毎に、それぞれ、軸受シェル86,87の軸受面と主ジャーナル5の軸受面40との間の油膜の最大圧力が許容可能なレベル以下に抑えられるように、それぞれ決定される。また、この決定は、軸受の耐負荷能力を最大化すべく、主ジャーナル5がなるべく完全な円柱状にすることも考慮してなされるべきである。減少領域45の最適な数や大きさ、形状は、運転中のエンジン10のクランク軸や軸受の挙動を数値シミュレーションすることにより決定される。ある実施形態に従う1つの主ジャーナルには、その2つの軸方向端部42,43に隣接して複数の減少領域が設けられる。
【0052】
数値シミュレーションは、シリンダ圧力をクランク軸の位置の関数として得るために、シリンダ14における燃焼プロセスを考慮してもよい。数値シミュレーションはまた、燃焼シーケンスの最適化を含んでもよい。燃焼シーケンスは、クランク軸やその他の軸系の動的な性質や、全ての軸受の性能、エンジンの外力への影響、船体に及ぼすモーメント等に良い影響を与えるように選ばれてもよい。数値シミュレーションはまた、クランク軸の負荷や傾きの計算を含んでもよい。クランク軸の軸受を最適化するために、全ての主ジャーナル5の負荷や傾きが、クランク軸の位置の関数として必要である。12気筒エンジン中のための軸受の負荷や傾きを得るための完全な計算は、クランク軸1に印加される4300以上の個別の負荷を必要とする。印加された負荷は、5000以上の個別の反力(reaction force)をもたらし、これらは全て結合されて、正しい負荷や傾きの挙動を得るために用いられる。クランク軸のジャーナルの傾きに影響を及ぼす因子には、クランク軸の配置による剛性(stiffness )や、ガス圧、回転速度、燃焼シーケンスがある。様々な自由度によるクランク軸の剛性の計算を、有限要素法によって行うことができる。クランク軸の偏位の計算には、クランク軸の位置の関数としてのシリンダ圧力が、選択された燃焼順序に組み合わされる。数値シミュレーションは、各軸受のシミュレーションを含んでもよい。各軸受の負荷が既知であるとき、油膜の厚さを最大化し、油膜の圧力を最小にするように、各主ジャーナル5の理想的な形状を計算することができる。軸受のシミュレーションにおいては、油の性質の影響や、軸受サポートの剛性、軸受の配置が考慮に入れられる。クランク軸のジャーナルの配置を更新して油膜のシミュレーションを繰り返すことにより、ジャーナルの理想的な形状を得ることができる。この理想的な形状には、個々の減少領域45の深さや幅が含まれ、また、減少領域45が角方向においてどこに配置されるべきかも含まれる。
【0053】
ある実施形態において、少なくとも一つの減少領域45の角方向の広がり(δ,δ)は、主ジャーナル5の円周領域全体にまで広がる。
【0054】
ある実施形態において、軸方向の深さの形状は曲線に従う。
【0055】
ある実施形態において、全ての下部軸受シェルは平坦なタイプ(plain type)である。
【0056】
ある実施形態において、ジャーナルの軸受面の幅Wは、対応する軸受シェルの幅と同一である。
【0057】
装置及び方法の好適な実施形態を、その開発の様子に言及しつつ説明してきたが、これらは単に、本発明の原理の説明の役に立てるためのものである。添付の特許請求の範囲の請求項の範囲を逸脱せずに、その他の実施形態や構成をとることが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7