(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5674953
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月25日
(54)【発明の名称】細胞培養インサート
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20150205BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20150205BHJP
【FI】
C12M1/00 D
C12M3/00 A
【請求項の数】11
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-532055(P2013-532055)
(86)(22)【出願日】2010年10月8日
(65)【公表番号】特表2013-538584(P2013-538584A)
(43)【公表日】2013年10月17日
(86)【国際出願番号】EP2010065100
(87)【国際公開番号】WO2012045368
(87)【国際公開日】20120412
【審査請求日】2013年10月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】513086810
【氏名又は名称】ナツリン・ヴィスコファン・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ティモ・シュミット
(72)【発明者】
【氏名】ロータル・ユスト
(72)【発明者】
【氏名】ホルガー・ベッカー
【審査官】
森井 文緒
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第05409829(US,A)
【文献】
米国特許第05470743(US,A)
【文献】
米国特許第05665596(US,A)
【文献】
特表平11−510394(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0190197(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00−3/10
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上端(1a)および下端(1b)を有し、前記上端(1a)が開口を備え、前記下端(1b)が生体材料を定着させることができる内面(4a)および外面(4b)を有する膜(4)によって閉じられた外側管状本体(1)を備える細胞培養装置において、
内径の少なくとも一部が、前記外側管状本体(1)の前記下端(1b)の外径に嵌合する相補管状本体(2)と、
上端(3a)および下端(3b)を有する吊下げ構成要素(3)であって、少なくとも1つのフランジ(5)が、前記上端(3a)から横方向に延在し、前記吊下げ構成要素(3)の外径の全周または一部が、前記外側管状本体(1)の内径に嵌合する、吊下げ構成要素(3)と、
をさらに備え、第1の段階において、前記外側管状本体(1)が前記相補管状本体(2)に連結されて第1の細胞培養のための自立インサートを形成し、第2の段階において、前記外側管状本体(1)が、前記相補管状本体(2)から係脱されると共に第2の細胞培養のために前記吊下げ構成要素(3)に取り付けられることを特徴とする細胞培養装置。
【請求項2】
前記吊下げ構成要素(3)の前記少なくとも1つのフランジ(5)は、先が尖ったツールが嵌合する開口(5a)を有する請求項1に記載の細胞培養装置。
【請求項3】
前記吊下げ構成要素(3)の前記少なくとも1つのフランジ(5)が、前記吊下げ構成要素(3)を細胞培養プレートのウェル(12)内の中央に精確に位置決めすることを可能とする距離ホルダ(5b)を有する請求項1または2に記載の細胞培養装置。
【請求項4】
前記吊下げ構成要素(3)の外面が、前記外側管状本体(1)の突起と相補関係にありかつ前記突起に嵌合するノッチ(6a、6b、6c)をさらに備える請求項1から3のいずれか一項に記載の細胞培養装置。
【請求項5】
前記吊下げ構成要素(3)の外面が、前記外側管状本体(1)の突起と相補関係にありかつ前記突起に嵌合する平行な隆起(6a)をさらに備える請求項1から4のいずれか一項に記載の細胞培養装置。
【請求項6】
前記吊下げ構成要素(3)の外面が、前記外側管状本体(1)の突起と相補関係にありかつ前記突起に嵌合するねじ状ノッチ(6b)を備える請求項1から4のいずれか一項に記載の細胞培養装置。
【請求項7】
前記吊下げ構成要素(3)の外面が、前記外側管状本体(1)の突起と相補関係にありかつ前記突起に嵌合する階段状ノッチ(6c)をさらに備える請求項1から4のいずれか一項に記載の細胞培養装置。
【請求項8】
前記外側管状本体(1)の前記上端(1a)が、前記吊下げ構成要素(3)の前記ノッチに整合し、前記ノッチの中に延在する横方向突起(7)を備え、したがって前記膜(4)と細胞培養プレートのウェル(12)の底部との間隔を調節することが可能である請求項4から7のいずれか一項に記載の細胞培養装置。
【請求項9】
前記外側管状本体(1)の前記下端(1b)に嵌合し、前記外側管状本体(1)の外面にスムースに接着する締付リング(8)をさらに備え、前記外側管状本体(1)の前記下端(1b)が、前記締付リング(8)を緊密に収容するように構成されたアンダーカット(9)を備え、前記膜(4)が、前記締付リング(8)と前記アンダーカット(9)との間で固定して保持され、それによって前記膜(4)を容易に外すことが可能である請求項1から8のいずれか一項に記載の細胞培養装置。
【請求項10】
前記相補管状本体(2)の一端が、前記外側管状本体(1)の外径よりも狭い少なくとも1つのストッパ領域(10)を前記相補管状本体(2)の内径に備える請求項1から9のいずれか一項に記載の細胞培養装置。
【請求項11】
前記外側管状本体(1)が、脚部として働くことができる少なくとも1つの突起(11)を前記外側管状本体(1)の上端(1a)に備える請求項1から10のいずれか一項に記載の細胞培養装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞および組織培養技術の分野における出願である。
【背景技術】
【0002】
細胞培養インサートは、様々な種類の細胞の成長および分化を促進するので、細胞生物学において有益なツールとなってきた。細胞培養インサートを用いて、合成化合物および天然化合物のどちらもの輸送、拡散、摂取、代謝、および分泌を調べることができる。さらに、インサートによって、複雑な3次元組織の培養が可能となる。
【0003】
かかる組織は、生物学的研究において、生体外で(in vitro)組織成長および組織構成を研究する科学的な価値に加えて、化学物質、化粧品、ならびに医薬物質の毒性および薬物動態パラメータを評価する生体外アッセイの開発において主に重要となる。
【0004】
こうした組織を用いると、かかるパラメータを評価するために実施される動物実験の回数を大幅に減少させることができる。さらに、細胞培養インサート内で培養したヒトの細胞および組織を使用することによって、遙かに有意な結果が得られることになり、「偽陽性(false positive)」の確率、すなわち、動物のデータとヒトのデータとを相関させることが可能でないのに化合物が安全または陽性として規定される確率が減少する。しばしば、かかる偽陽性は、薬剤開発の後期にしか認識されず、さらには臨床試験で認識されることがあり、したがって多額の投資が無に帰すことになる。
【0005】
インサートは、典型的には一端が膜で閉じられた中空本体からなり、その膜上で細胞が成長する。こうした膜は、栄養分がそこを介して確実に輸送されるように、透過性であるか、または透過性でない場合は、微小孔を含む。インサートは、膜が浸水した状態で、または細胞培養基/空気の界面で細胞培養基と接触する形で、細胞培養プレートのウェル内に配置される。
【0006】
細胞は通常、膜の、プレートのウェルから離れた面に播種される。細胞培養基が自由に拡散するように、かかるインサートは、小型の脚部で自立した状態でウェルプレート内に配置され、したがってインサートの下部とウェルプレートの底部との間に空間が形成される。あるいは、インサート構造体の上部から横方向に突出したフランジを有する吊下げ装置を使用することができる。
【0007】
インサート膜の両面で細胞培養を可能とすることが、近年より注目を集めてきている。インサート膜を介した細胞間連絡、走化性、および他の細胞移動現象を研究することができる。電気生理学的分析が、インサート膜の両面で可能である。極性化細胞(polarized cell)の頂端領域と基底外側領域とを別個に調べることができる。膜の両面で培養することによって、幹細胞を支持細胞から分離することができる。しかし、かかる用途のために特に開発されたこの種のインサートは使用が難しく、細胞培養研究所内で実際に取り扱うには重大な弱点が見られる。
【0008】
かかるインサート構造体の1つが、特許文献1に開示されている。特許文献1は、標準のインサートを反転させ、その上に支持装置を配置してなる組立体について記載している。支持装置とインサートとは、ガスケットを介して互いに連結され、このガスケットにより、反転させたインサートの膜の外面からなる内部空間が残され、この膜の外面上に細胞を成長させることができる。培養が首尾よく完了した後、この組立体を分解し、細胞が膜の外面で培養されたインサートを、細胞培養プレートのウェルに吊り下げることができる。その後、膜の内面で細胞を培養することができる。この組立体は、その上端および下端を封止部によって封止して混入(contamination)から保護しなければならない。さらに、特許文献1は、最初の細胞培養段階中に、支持装置とインサートとを密接に連結して保持するように、両面に接着剤を備えるガスケットを開示している。このガスケットは、部品を分解する段階中に、膜および/または細胞が損傷し得る危険があることが、大きな弱点である。さらに、この組立体は、自立型装置としてしか使用することができず、細胞培養プレートと連結して使用することができず、特にかかる培養を同時に多数実施する場合、効率よく取り扱うことができない。
【0009】
インサートの膜の両面で細胞を培養する別の解決策が、特許文献2に記載されている。特許文献2は、円筒状本体の内側に配置される可動フレームについて記載している。例えば、管状本体の直径を超えるフランジを一端に有するジグを用いて、前記可動フレームを管状構造体内で精確に位置決めすることが可能である。この可動フレームは、生体材料を培養する膜を支えている。円筒状本体を反転させることによって、膜の両面で培養することが可能である。細胞培養基の漏れを回避するために、この可動フレームは、その外径周りに封止部を支えている。この解決策は、可動フレームの高さを調節するのに別個のツールが必要となるという弱点を有する。別の弱点は、ジグがその上に作用するリム構造体またはボーダを堅固にする必要があり、このリム構造体またはボーダは同時に、膜の担体としても働く。かかる構造体に細胞が播種されると、細胞は、支持されていないフリーの膜上、またはリム構造体によって支持されている膜上、または最悪の場合には、リム構造体自体の上で成長することになる。細胞および培養基との望ましくない直接接触が生じる別の構造体に、可動フレームの封止部がある。これらの様々な表面上での成長状態は、実質的に偏移することは明白である。可動フレーム、および封止リングはどちらも人工材料であり、細胞成長、細胞増殖、および/または細胞分化に影響を及ぼすものである。また、フレームと円筒状本体の内壁との間の封止リングは、特にジグによってずらされるときに、漏れ防止性を保証することができない。これらの要因は全て、安全かつ容易な取扱いを困難にしており、考えられ得る多くの用途を排除している。
【0010】
特許文献2はさらに、自立インサート内で気泡が形成されるのを抑制する解決策について記載している。この気泡形成の抑制は、可動フレームの、ウェルプレートの底部の方に向いた端部に浅い角度を付けることによって実現される。その場合、ユーザは、装置を細胞培養基中に規定された角度で慎重に下ろし、気泡が閉じ込められないように注意深く観察しなければならない。この角度を付けるために、より広いフレームが必要となることは明白であり、すなわち細胞を培養するために使用できる膜の独立した部分が大幅に減少する。さらに、その取扱いは困難である。最後に、ほとんどの場合、インサートは、インサートの外壁が細胞培養プレートの壁と最小限の間隔で嵌合するように形成される。浅い角度の付いたフレームは、インサートの外径に比べて、非常に大きい内径を有するウェルプレート内でしか使用することができないことは明白である。この場合にしか、フレームの角度と、培養基の高さとを同じにし、空気が閉じ込められないようにインサートを傾斜させることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第5470743号明細書
【特許文献2】米国特許第5759851号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、膜の両面で共培養することが可能であり、かつ従来技術で説明した共培養インサートを取り扱う際の困難および弱点を克服する装置、すなわちインサート組立体または構造体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的は、後述するように、複数の要素を備え、それらを特定の方式で組み合わせて、膜の両面で細胞を安全かつ効果的に共培養することを可能とする多機能細胞培養装置に関する本発明によって実現される。
【0014】
本発明による細胞培養装置は、その最小構成で、以下の要素を備える。
− 上端および下端を有する外側管状本体。この上端は開口を備え、この下端は生体材料を定着(colonize)させることができる膜によって閉じられている。この膜は、外側管状本体に対して、内面および外面を有する。
− 上端および下端を有する相補管状本体(complementary tubular body)であって、その内径の全周または一部が、外側管状本体の下端の外径に嵌合する相補管状本体。
− 上端および下端を有する吊下げ構成要素。少なくとも1つのフランジが、上端から横方向に延在している。この吊下げ構成要素の外径の全周または一部は、外側管状本体の内径に嵌合する。したがって、この吊下げ構成要素を、外側管状本体に前述のように連結すると、吊下げインサート構造体が得られる。1つまたは複数の横方向フランジは、吊下げ構成要素の上端をウェルのリムに固定する支持要素として働く。
【0015】
膜の片面で細胞培養する第1の段階として、相補管状本体を有する自立インサートが得られるように、外側管状本体を反転させ、相補管状本体を外側管状本体の下端に連結し、それによって細胞培養チャンバを形成する。次いで、相補管状本体内に突出した(projected)膜の外面上に細胞を播種することができる。
【0016】
適切な培養期間後、第2の段階として、外側管状本体および相補管状本体の組合体を裏返す。次いで、吊下げ構成要素を外側管状本体に連結する。その後、相補管状本体を取り外す。結果として得られた吊下げインサートを、細胞培養プレートのウェル内に配置する。第1の段階で細胞を播種した膜の外面は、この時点で細胞培養ウェルの底部に面している。次に、上方に突出した膜の内面を用いて、第2の細胞播種を実施する。
【0017】
相補管状本体を切り離すことによって、膜の外面の下に気泡が発生することが防止される。結果として得られる吊下げインサートは、かかる気泡が閉じ込められ得るいかなる構造体にもならず、したがって上述の問題が防止される。
【0018】
さらに、第1の培養段階で得られる自立インサート構造体、および第2の培養段階で得られる吊下げインサート構造体はどちらも、市販の細胞培養プレートの標準ウェル内に嵌合する。これらの取扱い段階は、実施しやすく、かつ気泡の閉じ込め、無菌性、および第1の細胞培養の乾燥の点で最大レベルの安全性が得られる。
【0019】
本発明による培養装置の個々の要素について、好ましい実施形態においてさらに説明することができるが、これらの好ましい実施形態は、共培養装置の前述の概要、および一般的な適用範囲を決して限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】外側管状本体、相補管状本体、および吊下げ構成要素が認められる、本発明による細胞培養装置の概略斜視図である。
【
図2】外側管状本体を反転させ、相補管状本体を外側管状本体の下端に連結した、膜の片面で細胞培養する第1の段階の概略斜視図である。
【
図3a】外側管状本体および相補管状本体の組合体を裏返し、吊下げ構成要素を外側管状本体に連結した状態を示す、細胞培養の第2の段階の概略図である。
【
図3b】その後、相補管状本体を取り外し、その結果得られた吊下げインサートを細胞培養プレートのウェル内に配置した状態を示す断面図である。
【
図4a】上端にフランジを有し、外面にノッチを有し、前記ノッチが、平行な隆起からなる、吊下げ構成要素の一実施形態に対応した概略図である。
【
図4b】上端にフランジを有し、外面にノッチを有し、前記ノッチが、ねじ状の構造体からなる、吊下げ構成要素の一実施形態に対応した概略図である。
【
図4c】上端にフランジを有し、外面にノッチを有し、前記ノッチが、階段状の構造体からなる、吊下げ構成要素の一実施形態に対応した概略図である。
【
図5】
図4cに示した吊下げ構成要素実施形態および外側管状本体の間の組立体の概略斜視図である。
【
図6】外側管状本体の底部に、締付リングによって膜を接着させた、本発明による外側管状本体の一実施形態を示す概略斜視図、およびその断面図である。
【
図7】下端に3つの脚部を有する外側管状本体の外径よりも狭い少なくとも1つの区画またはストッパ領域を、内径の下端に備える相補管状本体の概略斜視図、および断面図である。
【
図8】低温保存容器内に配置された外側管状本体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図を参照すると、本発明の細胞培養装置の好ましい実施形態は、以下の要素を備える。
− 上端(1a)および下端(1b)を有する外側管状本体(1)。上端(1a)は開口を備え、下端(1b)は生体材料を定着させることができる膜(4)によって閉じられている。この膜(4)は、外側管状本体(1)に対して、内面(4a)および外面(4b)を有する。
− 上端および下端を有する相補管状本体(2)であって、その内径の全周または一部が、外側管状本体(1)の下端(1b)の外径に嵌合する相補管状本体(2)。
− 上端(3a)および下端(3b)を有する吊下げ構成要素(3)。1つまたは複数のフランジ(5)が、上端(3a)から横方向に延在している。この吊下げ構成要素(3)の外径の全周または一部は、外側管状本体(1)の内径に嵌合する。したがって、この吊下げ構成要素(3)を、外側管状本体(1)に前述のように連結すると、吊下げインサート構造体が形成される。
【0022】
第1に、
図2に示すように、膜(4)の片面で細胞培養するために、相補管状本体(2)および膜(4)を有する自立インサートが得られるように、外側管状本体(1)を反転させ、相補管状本体(2)を外側管状本体(1)の下端(1b)に連結し、それによって細胞培養チャンバを形成する。次いで、相補管状本体(2)内に突出した膜(4)の外面(4b)上に細胞を播種することができる。
【0023】
第2に、適切な培養期間後、
図3aに示すように、外側管状本体(1)および相補管状本体(2)の組合体を裏返す。次いで、吊下げ構成要素(3)を外側管状本体(1)に連結する。その後、相補管状本体(2)を取り外す。
図3bに示す、結果として得られた吊下げインサートを、細胞培養プレートのウェル(12)内に配置する。第1の段階で細胞を播種した膜(4)の外面(4b)は、この時点で細胞培養ウェル(12)の底部に面している。次に、上方に突出した膜(4)の内面(4a)を用いて、第2の細胞播種を実施する。
【0024】
相補管状本体(2)を切り離すことによって、膜(4)の外面(4b)の下に気泡が発生することが防止される。結果として得られる吊下げインサートは、かかる気泡が閉じ込められ得るいかなる構造体にもならず、したがって上述の問題が防止される。
【0025】
さらに、
図2に示す、第1の培養段階で得られる自立インサート構造体、および
図3bに示す、第2の培養段階で得られる吊下げインサート構造体はどちらも、市販の細胞培養プレートの標準ウェル(12)に嵌合する。これらの取扱い段階は、実施しやすく、かつ気泡の閉じ込め、無菌性、および第1の細胞培養の乾燥の点で最高レベルの安全性が得られる。
【0026】
本発明による培養装置の個々の要素について、好ましい実施形態においてさらに説明することができるが、これらの好ましい実施形態は、共培養装置の前述の概要、および一般的な適用範囲を決して限定するものではない。
【0027】
吊下げ構成要素(3)は、
図4aに示すその好ましい形態では、前記吊下げ構成要素(3)の管状本体から横方向に延在する1つまたは複数のフランジ(5)を支える上端(3a)を有する。前記フランジ(5)は、任意選択で開口(5a)を有し、該開口(5a)は、インサートを取り出しやすいように、鉗子などの先が尖ったツールの挿入を可能にするか又は例えば培養基に物質を添加するピペットの先端の挿入を可能にし、さらには周囲環境とのガス交換を可能にする。さらに、前記フランジ(5)は、吊下げ構成要素(3)を細胞培養プレートのウェル(12)内の中央に精確に位置決めすることを可能とする距離ホルダ(5b)を備える。吊下げ構成要素(3)は、その外面にノッチ(6a、6b、6c)をさらに備えることができる。前記ノッチは、平行な隆起(6a)、
図4bに示すねじ状ノッチ(6b)、または
図4cに示す本発明の最も好ましい実施形態では、階段状ノッチ(6c)を形成することができる。
【0028】
外側管状本体(1)は、その好ましい形態では、この外側管状本体(1)内へと横方向に延在する1つまたは複数の突起を支える上端(1a)を有する。これらの突起は、吊下げ構成要素(3)の外面にあるノッチ(6a、6b、6c)と相補関係にあり、そこに嵌合する。これらの突起は、各種のノッチ(6a、6b、6c)と係合または嵌合するように適合されている。
図4aおよび
図4bに示した吊下げ構成要素(3)の特定の実施形態に関して、対応する外側管状本体(1)は、前記外側管状本体(1)の上端(1a)の全体にわたって延在する突起を支え、それによって平行な隆起(6a)、およびねじ状ノッチ(6b)のそれぞれに、相補構造体を形成している。
【0029】
図5に示す別の実施形態によれば、外側管状本体(1)の上端(1a)は、外側管状本体(1)内へと横方向に延在する横方向突起(7)を備え、この突起(7)は、吊下げ構成要素(3)の階段状ノッチ(6c)に整合し、その中に延在している。したがって外側管状本体(1)と、吊下げ構成要素(3)とは、容易に組み立てることができる。
【0030】
したがって、吊下げインサートの膜(4)と、ウェル(12)プレートの底部との間隔は、一体に押し込む、またはねじ込むことができるように設計された外側管状本体(1)と吊下げ構成要素(3)とを用いて、連続的に調節することができる。その他の形では、
図5に示すように、階段状ノッチ(6c)と、外側管状本体(1)の適切な横方向突起(7)とを用いて、その間隔を段階的に調節することができる。
【0031】
吊下げ構成要素(3)外面の直径と、外側管状本体(1)の内面の直径とは、これらの要素間の摩擦によって、漏れ封止連結が実現されるように設計することができる。こうすることによって、細胞培養基の漏れ、または膜(4)の片面の培養基に、膜(4)の他面の培養基が混入することが確実になくなる。
【0032】
本発明の膜(4)は、当業者に既知の様々な手段、例えばヒートシールによって、外側管状本体(1)の下端(1b)に接着させることができる。
図6に示すように、外側管状本体(1)の下端(1b)のリング構造体に嵌合し、前記外側管状本体(1)の外面にスムースに接着する締付リング(8)を使用することが好ましい。最も好ましくは、外側管状本体(1)の下端(1b)は、締付リング(8)を緊密に収容するように構成されたアンダーカット(9)を備え、膜(4)は、前記締付リング(8)と前記アンダーカット(9)との間で固定して保持されることになる。最も好ましい実施形態では、この締付リング(8)は、取り外すことができる。このように取外し可能とすることによって、共培養細胞が付着した膜(4)をインサート構造体から外すことが可能となる。次いで、この膜/細胞構造体を、さらなる研究、例えば組織学、顕微鏡検査に使用することができ、またはインプラントとして使用することができる。
【0033】
インサート構造体、すなわち外側管状本体(1)に膜(4)を正しく、かつ緊密に挿入することができるように、膜(4)の種類、およびその特徴、特にその壁厚に依存して、締付リング(8)の内径、およびアンダーカット(9)の正確な寸法を調節しなければならないことは、当業者には明白である。
【0034】
本発明の好ましい実施形態によれば、相補管状本体(2)は、その一端の内径に、外側管状本体(1)の外径よりも狭いストッパ領域(10)を備える。したがって、
図7に示すように、かかる相補管状本体(2)と、外側管状本体(1)とを組み立てると、前記外側管状本体(1)を、相補管状本体(2)内の定位置で固定することができる。外側管状本体(1)は、少なくとも1つ、好ましくは3つの突起(11)をその上端(1a)にさらに備えることができ、これらの突起は、外側管状本体(1)の上端(1a)を、細胞培養プレートのウェル(12)の底部から離間させる脚部として働くことができる。
【0035】
外側管状本体(1)、相補管状本体(2)、および吊下げ構成要素(3)、さらには締付リング(8)を含めて、諸要素は、成形、好ましくは射出成形により、医療グレードプラスチック、またはそれに匹敵する、細胞培養に有害ないかなる異物も伝達しない材料から作製できることが当業者には理解されよう。この目的で、それだけに限られるものではないが、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、シリコーン、ポリプロピレン、またはポリエチレンを含めて、多種多様な材料が利用可能である。
【0036】
好ましくは締付リング(8)によって外側管状本体(1)に嵌合される膜(4)は、本質的にいかなる合成材料または天然材料からも作成することができる。かかる材料の例には、それだけに限られるものではないが、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、アルギン酸塩、キトサン、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリ乳酸、コラーゲン、またはそれらの合成物が含まれる。かかる膜(4)は、コンパクトであるが透過性の構造体であることを特徴とすることができ、または優先的には、規定された寸法の孔を規定された密度で配置することができ、それによって膜を介した栄養分、および化学信号の交換が可能となる。また、片面または両面が、例えばコラーゲン溶液でコーティングされた膜(4)を使用することも適用可能である。
【0037】
さらに、
図8は、外側管状本体(1)が低温保存容器(13)内に配置された、この装置の特定の使用例を示す。外側管状本体(1)の上端(1a)にあり、内側に向いた横方向突起(7)によって、低温容器(13)のキャップ要素が、本発明の装置から規定された間隔を置いて保持されている。この横方向突起(7)は、低温容器(13)に取り付けられたスペーサとともに、細胞が付着した膜の、凍結用培養基による一様のカバーとなる。本発明のこの実施形態では、外側管状本体(1)は、その上端(1a)から離れる突起(11)をさらに支えている。外側管状本体(1)のこれらの上方突起(11)によって、この装置に、細胞レベルで空気が閉じ込められるのを回避するエアトラップが設けられている。膜(4)は弾性であるので、低温容器(13)の湾曲によって、膜(4)を下方に撓ませることが可能である。この撓みのため、生体材料の側方に閉じ込められた空気が、エアトラップの方に押し出される。外側管状本体(1)および膜(4)の側方にある凍結用培養基によるカバーが薄く一様であるため、凍結後、外側管状本体(1)、および膜(4)に付着した生体材料を急速に解凍することができる。大型の氷塊によって解凍工程が遅延することが回避される。外側管状本体(1)は、吊下げ構成要素(3)に連結することによって低温容器(13)から取り出し、細胞培養プレートの標準ウェル(12)に移して、生体材料を凍結用培養基から解放し、さらなる培養を行うことができる。
【符号の説明】
【0038】
1 外側管状本体
1a 上端
1b 下端
2 相補管状本体
3 吊下げ構成要素
3a 上端
3b 下端
4 膜
4a 内面
4b 外面
5 フランジ
5a 開口
5b 距離ホルダ
6a 平行な隆起
6b ねじ状ノッチ
6c 階段状ノッチ
7 横方向突起
8 締付リング
9 アンダーカット
10 ストッパ領域
11 突起
12 細胞培養プレートのウェル
13 低温保存容器