【実施例】
【0034】
実施例1:
以下、本発明の実施例1が
図1〜
図6Bを参照して説明される。
以下の説明では、左足用のアッパーが例示される。また、以下の図において、矢印OUTは足の外側方向、矢印INは足の内側方向を示す。
図1に示す紐締めフィッティング構造を備えた靴は、たとえば、ハイカットのレスリングシューズで図示しないソール、アッパー3、第1および第2シューレース1,2を備えている。
ソールはアッパー3の下に配置され路面に接地するものである。アッパー3は足の甲を包むもので、舌片6を有している。シューレース1,2はアッパー3を足の甲にフィットさせるためのものである。
【0035】
図1および
図2において、前記第2シューレース2の両端部分は図示が省略されているが、アッパー3内に足を挿入した後に、両端部同士は互いに固く結ばれる。第2シューレース2の端部同士が互いに結ばれることにより、アッパー3が足に対しフィットする。
【0036】
図1および
図2に示すように、アッパー3には足を着用時に挿入するための履き口7が形成されている。前記履き口7は着用中に脚が上方に出るもので、前記履き口7の前方の部位は前記舌片6で覆われている。
【0037】
図3において、前記アッパー3は甲を上方から覆う伸縮材3Fおよび非伸縮材3Lと、
図6Aおよび
図6Bに示すように、足裏の底面を覆う底部材3Bとが互いに縫着されている。前記底部材3Bは、たとえば、足の幅方向に伸縮する生地で形成されていてもよい。
なお、
図6Aおよび
図6Bにおいて、伸縮材3Fは破線で描かれ、非伸縮材3Lは太い実線で描かれている。
【0038】
図6Aおよび
図6Bのように、前記伸縮材3Fは足の甲の上面、内側面および外側面を覆う。この伸縮材3Fはたとえば、メッシュ状の部材で、
図3の前記前後方向Yおよび横断方向Xに伸び縮みする。
【0039】
図6Aおよび
図6Bに示すように、本実施例の場合、前記伸縮材3Fの下には前後方向Yおよび横断方向Xに伸び縮みするクッション材3Kが配置されている。このクッション材3Kは第1シューレース1(
図3)が配置される領域において甲の上面に接する。
【0040】
図1及び
図2の前記非伸縮材3Lの一部は、たとえば踝よりも前方や下方に配置された非伸縮材3Lは、前記伸縮材3Fの表面の少なくとも一部に縫着されて付着されている。一方、踝を覆う部位の非伸縮材3Lは、前記伸縮材3Fに下端や後端においてのみ縫着されて付着され、舌片6や柔軟部35に対し可動することができる。
前記非伸縮材3Lは、たとえば合成皮革からなり前記伸縮材3Fよりも伸び縮みしにくく、前記内側部31および外側部32の一部を形成する。
図3に示すように、前記非伸縮材3Lで覆われていない伸縮材3Fは露出した状態となっており、
図3において部分的に格子模様が付されている。
【0041】
前記アッパー3は複数の凸部34と柔軟部35とを備える。前記複数の凸部34は、前記内側部31および外側部32における前記非伸縮材3Lの上端の縁部33が波形に形成されていることにより、前記非伸縮材3Lが前記足の甲の中央に向かって突出している。
【0042】
柔軟部35は、互いに隣接する前記凸部34と凸部34との間において伸縮材3Fが前記非伸縮材3Lで覆われずに前記伸縮材3Fが露出している。
なお、前記伸縮材3Fは前記内側部31と外側部32との間の部位、つまり甲の中央部36においても露出している。
【0043】
図1および
図2において、前記凸部34は長方形状や上方に向かって(内外の中央に向かって)先窄まりの台形状に形成されている。したがって、互いに隣接する凸部34,34の間において、一部の前記柔軟部35は足の中央に近づくに従い前記前後方向Yの長さが大きい。
【0044】
図3の内側部31は、前記甲および母趾の内側面を覆う。
外側部32は前記甲および小趾の外側面を覆う。
【0045】
前記各凸部34の上端の縁部33にはループ部材4が固着(縫着)されている。前記ループ部材4は前記内側部31および外側部32の中央寄りの縁部33に、各々、2個以上配置され前記前後方向Yに貫通している。このループ部材4には第1シューレース1が前後方向Yに移動可能に挿通されている。
【0046】
前記第1シューレース1は例えば略U字状に配置されており、その両端部1Eは固定部5において非伸縮材3Lに縫着されて固定されている。
なお、本実施例の場合、前記固定部5は内側部31および外側部32の後部、つまり、履き口7(
図1)の近傍に設けられている。
【0047】
第1シューレース1は前記内側部31および外側部32の中央寄りの縁部33において、かつ、足を前記アッパー内に挿入する履き口7(
図1)よりも前方において、足の前後方向Yに沿って配置され、前記内側部31に複数のループ部材4を介して係合すると共に外側部32に複数のループ部材4を介して係合する。
こうして、第1シューレース1の一部は前記前後方向Yに互いに離間した複数の露出エリア1
iにおいて露出された状態で配置されている。
【0048】
前記複数のループ部材4および固定部5は配置手段を構成する。すなわち、前記履き口7(
図1)よりも前方における足の内側において前記第1シューレース1の第1部1Mは前記前後方向Yに互いに離間した複数の露出エリア1
iにおいて露出された状態で配置される。また、前記履き口7(
図1)よりも前方における足の外側において前記第1シューレース1の第2部1Lは前記前後方向Yに互いに離間した複数の露出エリア1
iにおいて露出された状態で配置される。
【0049】
こうして、前記第1シューレース1は第2シューレース2のための紐通し孔を形成する。すなわち、第2シューレース2は前記複数の露出エリア1
iにおいて前記第1シューレース1の第1部1Mと第2部1Lに足の横断方向Xに交互に係合し前記内側部31と前記外側部32とを互いに近づける
【0050】
本実施例の場合、前記第1シューレース1は1本の丸ヒモで形成され、前記第2シューレース2は1本の帯状の紐で形成されている。ここにおいて、前記各露出エリア1
iの前記前後方向Yの長さL
iは前記第2シューレース2の幅よりも大きい。
【0051】
なお、第2シューレース2が丸紐の場合、前記前後方向Yの長さL
iは第2シューレース2の太さよりも大きい必要がある。
また、第1シューレース1は丸紐ではなく第2シューレース2のような帯状の紐であってもよい。
【0052】
図3において、前記複数の露出エリア1
iは前記前部から後部にわたって互いに前記前後方向Yに離間した1番目からn番目のエリア1
1〜1
nを包含し、前方から任意のi番目のエリア1
iの前記前後方向Yの長さL
iに比べ任意の(i+1)番目のエリア1
i+1の前記前後方向Yの長さL
i+1がたとえば2mm以上長い。
すなわち、本実施例の場合、下記の(11)〜(13)式を満足する。
2+L
1<L
2…(11)
2+L
2<L
3…(12)
2+L
n−1<L
n…(13)
この場合、第2シューレース2の係合位置の変動を許容し易いだろう。
【0053】
しかし、本発明においては下記の(20)を満足する場合にも係合位置の変動を許容し得る。
2+L
i<L
i+j…(20)
すなわち、前記複数の露出エリア1
iは前方露出エリア1
iと前記前方露出エリア1
iよりも後方の後方露出エリア1
i+jとを包含し、少なくとも1つの前方露出エリア1
iの前記前後方向Yの長さに比べ少なくとも1つの後方露出エリア1
i+jの前記前後方向Yの長さが長い。
【0054】
図1および
図2に示すように、前記内側部31および外側部32には各々3つの貫通孔H
1〜H
3が形成されている。前記貫通孔Hは前記内側部31又は外側部32をその厚さの方向に貫通し、前記第2シューレース2が挿通される。前記各貫通孔H
1〜H
3は前記ループ部材4のうちの最も後方に設けられたループ部材4よりも後方に配置されている。
【0055】
なお、貫通孔H
1にはハトメ部材Eが装着されている。
また、後方の貫通孔H
2およびH
3の内径は第1シューレース1の幅よりも小さくてもよい。
【0056】
つぎに、本構造の効果を明瞭にするために、1つの同じアッパー3を互いに足の形状およびサイズの異なる3人の第1〜第3着用者が着用した場合について、
図3〜
図5を用いて説明される。
各着用者の足のサイズは下記の通りである。
図3: 第1着用者:25.5cm
図4: 第2着用者:23.5cm
図5: 第3着用者:26.0cm(やせ型)
【0057】
図3〜
図5を比較すると、前方の露出エリア1
1における第2シューレース2の係合位置は概ね一定であるのに対し、後方の露出エリア1
3や最後方の露出エリア1
4における第2シューレース2の係合位置には大きなバラツキを看取する(見て把握する)ことができるだろう。
したがって、後方の露出エリア1
i程、その長さL
iが大きく設定されることで、アッパー3のフィット性が高くなることが期待できる。
【0058】
図3〜
図5を比較すると、露出エリア1
iにおける第1シューレース1の屈曲の度合いが互いに大きく異なっているのを看取することができるだろう。たとえば、
図5において、足の内側の後方の露出エリア1
3および足の外側の最後方の露出エリア1
4において第1シューレース1は著しく大きく屈曲している。
【0059】
前記屈曲に伴い、当該大きく屈曲した露出エリア1
3、露出エリア1
4に対応する柔軟部35は前後方向Yに大きく縮んでいることが分かる。すなわち、柔軟部35が前後方向Yに縮むことで、露出エリア1
iにおける第1シューレース1の屈曲が許容され、これにより、露出エリア1
iに対する第2シューレース2の係合位置が前後方向Yだけでなく横断方向Xにも変位し得る。したがって、アッパー3が動作中の足の形状の変化に追従し易いであろう。
【0060】
つぎに、他の実施例について説明される。
なお、以下の例において前記実施例1と同一ないし相当部分には同一符号を付し、その詳しい説明が省略され、あるいは図示が省略され、実施例1と異なる部分について図示および説明がなされる。
【0061】
図7は実施例2の構造を示す。
本実施例においては、第1シューレース手段1が2本の前シューレース1fと後シューレース1bとで構成される。この場合、2本のシューレース1f,1bの剛性や張り、長さなどによって、第2シューレース2による締付具合を制御することができるかもしれない。
【0062】
なお、
図7の実施例において、前シューレース1fはアッパー3の前部の固定部5において固定され、後シューレース1bはアッパー3の後部の固定部5において固定されている。
【0063】
図8は実施例3の構造を示す。
本実施例においては、第1シューレース1を挿通するための貫通孔4Hが内側部31および外側部32に形成されている。
【0064】
前記第1シューレース1は前記貫通孔4Hに下から上へ挿通され、したがって、第1シューレース1は内側部31または外側部32の下面と接触する。そのため、大きな摩擦抵抗力を受け、前記貫通孔4Hの前方の露出エリア1
1は他の露出エリア1
2〜1
4に比べ第1シューレース1の自由な移動や屈曲が抑制されるだろう。したがって、
図4のように、爪先が締まりすぎるのを抑制できるかもしれない。
【0065】
図9は実施例4の構造を示す。
本実施例においては、第2シューレース2を挿通するための貫通孔8が、各々、内側部31および外側部32に複数個ずつ設けられている。この場合、第2シューレース2は貫通孔8の下方においてアッパー3の生地に接触したり、あるいは、貫通孔8において大きな摩擦力を受けるだろう。そのため、
図4のように、爪先が締まりすぎるのを抑制し易いだろう。
【0066】
ところで、
図10に示すように、前記第1シューレース1の固定部5は最も前方のループ部材4の更に前方、つまり、前部に設けられていてもよい。
また、
図11に示すように、前記第1シューレース1は内外の2本に分かれていてもよく、この場合、固定部5は前部および後部の双方に設けられる。
【0067】
図12に示すように、第1シューレース1を横断方向Xに通すためのループ部材4が爪先の前端に設けられていてもよい。この場合、前端のループ部材4が第1シューレース1により上方に持ち上げられ、爪先が路面に引っ掛かるのを防止できるだろう。したがって、レスリングシューズや老人用のシューズとして好ましく採用できるかもしれない。
なお、このループ部材4は第2趾指節間関節よりも前方に設けられるのが好ましい。
【0068】
本発明においては、
図13に示すように、紐通し孔を形成する前記第1シューレース1に代えて、アッパー3に固着された係合手段1が採用されてもよい。この場合、係合手段1は前記(第2)シューレース2が挿通される複数の紐通し孔9を形成する係合エリア1
iを有する。側縁部に配置された係合エリア1
iを形成する部材としては柔軟で屈曲可能な材料が用いられる。これにより、係合位置が足幅方向に変位可能となる。なお、各紐通し孔9は前後方向Yに長い長孔で形成される。
【0069】
以上のとおり、図面を参照しながら好適な実施例を説明したが、当業者であれば本明細書を見て、自明な範囲で種々の変更および修正を容易に想定するであろう。
たとえば、アッパーの生地は伸縮材3Fが設けられずに非伸縮材3Lのみで構成されてもよい。より具体的には、非伸縮材3Lが配置された部位に剛性の大きい部材を配置し伸縮材3Fが配置された部位に剛性の小さい部材が配置されてもよい。
アッパーの下に配置されるソールは、いわゆるミッドソールとアウトソールを有していてもよい。
アッパーはハイカットタイプではなく、ローカットタイプであってもよい。
アッパーの中央部には爪先まで延びる舌片が設けられていてもよい。
したがって、そのような変更および修正は、請求の範囲から定まる本発明の範囲内のものと解釈される。