特許第5674993号(P5674993)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5674993
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月25日
(54)【発明の名称】紐締めフィッティング構造
(51)【国際特許分類】
   A43C 1/06 20060101AFI20150205BHJP
【FI】
   A43C1/06
【請求項の数】11
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-504594(P2014-504594)
(86)(22)【出願日】2012年3月16日
(86)【国際出願番号】JP2012056878
(87)【国際公開番号】WO2013136514
(87)【国際公開日】20130919
【審査請求日】2014年9月1日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000310
【氏名又は名称】株式会社アシックス
(74)【代理人】
【識別番号】110001265
【氏名又は名称】特許業務法人山村特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100102060
【弁理士】
【氏名又は名称】山村 喜信
(72)【発明者】
【氏名】野々川 舞
(72)【発明者】
【氏名】中西 恵三
【審査官】 山内 康明
(56)【参考文献】
【文献】 登録実用新案第3026562(JP,U)
【文献】 実開平3−55710(JP,U)
【文献】 実公昭33−3132(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43C 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
足の甲を包むアッパー3を前記甲にフィットさせるための紐締めフィッティング構造であって、
前記甲および母趾の内側面を覆う内側部31と、
前記甲および小趾の外側面を覆う外側部32と、
前記内側部31および外側部32の中央寄りの縁部33において、かつ、足を前記アッパー内に挿入する履き口7よりも前方において、足の前後方向Yに沿って配置された第1シューレース手段1と、
前記履き口7よりも前方における足の内側において前記第1シューレース手段1の第1部1Mを前記前後方向Yに互いに離間した複数の内側の露出エリア1において露出させた状態で配置すると共に、前記履き口7よりも前方における足の外側において前記第1シューレース手段1の第2部1Lを前記前後方向Yに互いに離間した複数の外側の露出エリア1において露出させた状態で配置する配置手段と、
前記複数の内側および外側の露出エリア1において前記第1シューレース手段1に足の横断方向Xに係合し前記内側部31と前記外側部32とを互いに近づける第2シューレース手段2とを備え、
ここにおいて、前記内側および外側の各露出エリア1の前記前後方向Yの長さLが前記第2シューレース手段2の太さ及び幅よりも大きく、
前記配置手段は、
前記内側部31および外側部32の中央寄りの前記縁部33に、各々、2個以上配置され前記前後方向Yに貫通し、前記第1シューレース手段1が前後方向Yに移動可能に挿通された挿通部4と、
少なくとも、前記内側部31および外側部32の前部、あるいは、前記内側部31および外側部32の後部において前記第1シューレース手段1の端部1Eを固定する固定部5とを備え、
前記アッパーは、
前記挿通部4のうちの最も後方の挿通部4よりも前方のエリアにおいて足の甲の内側面および外側面を覆い、前記前後方向Yおよび横断方向Xに伸び縮みする伸縮材3Fと、
前記伸縮材3Fの表面に付着され、前記伸縮材3Fよりも伸び縮みしにくく、前記内側部31および外側部32の一部を形成する非伸縮材3Lと、
記非伸縮材3Lが前記足の甲の中央に向かって突出する複数の凸部34と、
互いに隣接する前記凸部34と凸部34との間において前記非伸縮材3Lで覆われずに前記伸縮材3Fが露出する柔軟部35とを有し、
前記凸部34の前記縁部33に前記挿通部4が設けられている、紐締めフィッティング構造。
【請求項2】
請求項1において、
前記複数の凸部34は、前記内側部31および外側部32における非伸縮材3Lの上端の縁部33が波形に形成されていることにより、前記非伸縮材3Lが前記足の甲の中央に向かって突出するように構成されている、紐締めフィッティング構造。
【請求項3】
請求項1もしくは2において、
前記挿通部4はループ部材4で形成されている、紐締めフィッティング構造。
【請求項4】
請求項において、前記各凸部34は上方に向かって先窄まりの台形状に形成されている、紐締めフィッティング構造。
【請求項5】
請求項の構造において、互いに隣接する凸部34,34の間において、前記柔軟部35は足の中央に近づくに従い前記前後方向Yの長さが大きい、紐締めフィッティング構造。
【請求項6】
請求項の構造において、前記ループ部材4のうちの最も後方のループ部材4よりも前方のエリアにおいて、前記アッパー3は足囲方向に連なったソック状に形成されている、紐締めフィッティング構造。
【請求項7】
足の甲を包むアッパー3を前記甲にフィットさせるための紐締めフィッティング構造であって、
前記甲および母趾の内側面を覆う内側部31と、
前記甲および小趾の外側面を覆う外側部32と、
前記内側部31および外側部32の中央寄りの縁部33において、かつ、足を前記アッパー内に挿入する履き口7よりも前方において、足の前後方向Yに沿って配置された第1シューレース手段1と、
前記履き口7よりも前方における足の内側において前記第1シューレース手段1の第1部1Mを前記前後方向Yに互いに離間した複数の内側の露出エリア1において露出させた状態で配置すると共に、前記履き口7よりも前方における足の外側において前記第1シューレース手段1の第2部1Lを前記前後方向Yに互いに離間した複数の外側の露出エリア1において露出させた状態で配置する配置手段と、
前記複数の内側および外側の露出エリア1において前記第1シューレース手段1に足の横断方向Xに係合し前記内側部31と前記外側部32とを互いに近づける第2シューレース手段2とを備え、
ここにおいて、前記内側および外側の各露出エリア1の前記前後方向Yの長さLが前記第2シューレース手段2の太さ及び幅よりも大きく、
前記配置手段は、
前記内側部31および外側部32の中央寄りの前記縁部33に、各々、2個以上配置され前記前後方向Yに貫通し、前記第1シューレース手段1が前後方向Yに移動可能に挿通された挿通部4と、
少なくとも、前記内側部31および外側部32の前部、あるいは、前記内側部31および外側部32の後部において前記第1シューレース手段1の端部1Eを固定する固定部5とを備え、
ここにおいて、前記複数の内側および外側の露出エリア1は前方露出エリアと前記前方露出エリアよりも後方の後方露出エリアとを包含し、前記前方露出エリアの前記前後方向Yの長さに比べ前記後方露出エリアの前記前後方向Yの長さが長いことを特徴とする紐締めフィッティング構造。
【請求項8】
請求項7において、前記挿通部4はループ部材4で形成されている、紐締めフィッティング構造。
【請求項9】
請求項において、前記後方露出エリアの前記長さが前記前方露出エリアの前記長さに比べ2mm以上長い、紐締めフィッティング構造。
【請求項10】
請求項において、前記複数の内側および外側の露出エリア1は前記前部から前記後部にわたって互いに前記前後方向Yに離間した1番目からn番目のエリア1〜1nを包含し、前方から任意のi番目のエリア1の前記前後方向Yの長さLに比べ任意の(i+1)番目のエリア1i+1の前記前後方向Yの長さLi+1が長い、紐締めフィッティング構造。
【請求項11】
足の甲を包むアッパーを前記甲にフィットさせるための紐締めフィッティング構造であって、
前記甲および母趾の内側面を覆う内側部31と、
前記甲および小趾の外側面を覆う外側部32と、
前記内側部31と前記外側部32とを互いに近づけるシューレース手段2と、
前記内側部31および外側部32の中央寄りの縁部33に設けられ前記シューレース手段2が係合する複数の係合エリア1を有し、前記各係合エリア1の足の前後方向Yの長さが前記シューレース手段2の太さ及び幅よりも大きく、かつ、前記各係合エリア1において前記シューレース手段2に引っ張られて屈曲する係合手段1とを備え、
ここにおいて、前記複数の係合エリア1は前方係合エリアと、前記前方係合エリアよりも後方の後方係合エリアとを包含し、前記前方係合エリアの前記前後方向Yの長さに比べ前記後方係合エリアの前記前後方向Yの長さが長いことを特徴とする紐締めフィッティング構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は紐締めフィッティング構造を備えた靴に関する。
【背景技術】
【0002】
シューレースはアッパーを足にフィットさせる。足にフィットしたアッパーは足を支持する。
【0003】
しかし、MP関節の背屈時に足の形状が変化し、そのため、足囲も変化する。また、靴を長時間着用すると、足囲が大きくなることが多い。このような場合、靴の中の足はアッパーによって圧迫されるであろう。また、動作中に靴と足との間にズレが生じやすい。
【0004】
特に、足の中足は姿勢の変化に伴って、その形状が大きく変化する。静止時に足にフィットしていたアッパーが足の形状の変化に追従しないと、アッパーと足とのフィット感が動作時に著しく低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】JP2005−13365A(要約書)
【特許文献2】JP2001−46103A(要約書)
【発明の概要】
【0006】
前記特許文献1の靴においては、シューレースを通す複数のループ部材がソールの上端に固定されており、ソールが足裏にフィットし易いが、アッパーが足に十分にフィットしないだろう。また、前記特許文献1の靴においてはシューレースを通す複数のループが踵の背面を通っており、そのため、アッパーの踵部が足にフィットし易いが、履き口よりも前方の部位においてはアッパーが足に十分にフィットしないだろう。
【0007】
本発明の目的は中足においてアッパーが足にフィットし易い靴の紐締め構造を提供することである。
【0008】
本発明は1つの局面において、足の甲を包むアッパーを前記甲にフィットさせるための紐締めフィッティング構造であって、
前記甲および母趾の内側面を覆う内側部と、
前記甲および小趾の外側面を覆う外側部と、
前記内側部および外側部の中央寄りの縁部において、前記内側部および外側部に係合し、かつ、足の前後方向に沿って配置された第1シューレース手段と、
前記第1シューレース手段の一部を前記前後方向に互いに離間した複数の露出エリアにおいて露出させた状態で配置する配置手段と、
前記複数の露出エリアにおいて前記第1シューレース手段に足の横断方向に係合し前記内側部と前記外側部とを互いに近づける第2シューレース手段とを備え、
ここにおいて、前記各露出エリアの前記前後方向の長さが前記第2シューレース手段の太さ及び幅よりも大きい。
【0009】
ここでシューレース手段とは、シューレースとして用いることのできる1本又は複数本の紐からなり、天然糸または高分子合成糸を編んだものや天然皮革または合成皮革からなる単数又は複数の紐などを包含し、更に、金属ワイヤーを包含することを意味する。但し、金属ワイヤーを包含しないことが好ましい。
【0010】
本発明によれば、第1シューレース手段の露出エリアによって第2シューレース手段を通する紐通し孔が形成され、第2シューレース手段の幅や太さよりも露出エリアの前後方向の長さが大きいため、第2シューレース手段の第1シューレース手段に対する係合位置が前後方向に変位可能となる。そのため、着用者の足型および姿勢変動による足部の形状変化に対応可能となり、局所的な締め付けが避けられ、均一的な圧力でアッパーが足にフィットし易い。
また、内側部および外側部が中央寄りの縁部において第2シューレース手段によって中央に引き寄せられアッパーの内側部および外側部が足にフィットし易い。
【0011】
本発明は別の局面において、足の甲を包むアッパーを前記甲にフィットさせるための紐締めフィッティング構造であって、
前記甲および母趾の内側面を覆う内側部と、
前記甲および小趾の外側面を覆う外側部と、
前記内側部および外側部の中央寄りの縁部において、かつ、足を前記アッパー内に挿入する履き口よりも前方において、足の前後方向に沿って配置され前記内側部に複数の部位で係合すると共に前記外側部に複数の部位で係合する第1シューレース手段と、
前記履き口よりも前方における足の内側において前記第1シューレース手段の第1部を前記前後方向に互いに離間した複数の内側の露出エリアにおいて露出させた状態で配置すると共に前記履き口よりも前方における足の外側において前記第1シューレース手段の第2部を前記前後方向に互いに離間した複数の外側の露出エリアにおいて露出させた状態で配置する配置手段と、
前記複数の内側および外側の露出エリアにおいて前記第1シューレース手段に足の横断方向に係合し前記内側部と前記外側部とを互いに近づける第2シューレース手段とを備え、
ここにおいて、前記内側および外側の各露出エリアの前記前後方向Yの長さLが前記第2シューレース手段の太さ及び幅よりも大きい。
【0012】
この場合、複数の露出エリアが履き口よりも前方に配置されており、そのため、履き口よりも前方においてアッパーの内側部と前記外側部とが足にフィットし易い。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は本発明の実施例1にかかるアッパーを斜め前方の内側から見た概略斜視図である。
図2図2は本発明の実施例1にかかるアッパーを斜め前方の外側から見た概略斜視図である。
図3図3は同アッパーを第1着用者の足に装着した状態で示すアッパーの中足部および前足部の平面図である。
図4図4は同アッパーを第2着用者の足に装着した状態で示すアッパーの中足部および前足部の平面図である。
図5図5は同アッパーを第3着用者の足に装着した状態で示すアッパーの中足部および前足部の平面図である。
図6図6Aは同アッパーを柔軟部において断面して示す線図、図6Bは同アッパーを凸部において断面して示す線図である。
図7図7は実施例2にかかる紐締め構造を示す概念的な平面図である。
図8図8は実施例3にかかる紐締め構造を示す概念的な平面図である。
図9図9は実施例4にかかる紐締め構造を示す概念的な平面図である。
図10図10は実施例5にかかる紐締め構造を示す概念的な平面図である。
図11図11は実施例6にかかる紐締め構造を示す概念的な平面図である。
図12図12は実施例7にかかる紐締め構造を示す概念的な平面図である。
図13図13は実施例8にかかる紐締め構造を示す概念的な平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
好ましくは、前記配置手段は、
前記内側部31および外側部32の中央寄りの縁部33に、各々、2個以上配置され前記前後方向Yに貫通し、前記第1シューレース手段1が前後方向Yに移動可能に挿通されたループ部材4と、
前記内側部31および外側部32の前部あるいは、前記内側部31および外側部32の後部において前記第1シューレース手段1の端部1Eを固定する固定部5とを備える。
【0015】
この場合、複数個のループ部材4を通る第1シューレース手段1が前後方向Yに移動可能であり、これにより第1シューレース手段1が第2シューレース手段2に引っ張られた際に、露出エリア1において第1シューレース手段1が大きく屈曲することが可能である。そのため、紐通し孔の実質的な位置は足の形状の変化によって前後方向Yだけでなく横断方向Xも変位できる。
【0016】
更に好ましくは、前記複数の露出エリア1〜1は前方露出エリアと、前記前方露出エリアよりも後方の後方露出エリアとを包含し、前記前方露出エリアの前記前後方向Yの長さに比べ前記後方露出エリアの前記前後方向Yの長さが長い。
【0017】
第2シューレース手段2はアッパーの爪先側から足首に向かって引っ張って締め付けられるが、爪先に比べ足首の近くは甲の高さの個人差が大きく、また、内外の縁部同士の距離が大きい。そのため、後方の露出エリアの方が前方の露出エリアに比べ、前記第2シューレース手段2の係合位置の変動が大きいだろう。
後方の露出エリアの方が前方の露出エリアに比べ長さLが大きいことは、前記係合位置の大きな変動を許容できるだろう。
なお、露出エリアの長さLは必ずしも、後方の露出エリア程長い必要はない。
【0018】
更に好ましくは、前記後方露出エリアの前記長さが前記前方露出エリアの前記長さに比べ2mm以上長い。なお、前記長さLの差は3mm以上が更に好ましく、4mm以上が最も好ましく、30mm以下であるのが好ましい。
この場合、前記長さLの差が2mm未満では、明確な差が認めにくいかもしれない。
【0019】
更に好ましくは、前記複数の露出エリア1〜1は前記前部から後部にわたって互いに前記前後方向Yに離間した1番目からn番目のエリア1〜1を包含し、前方から任意のi番目のエリア1の前記前後方向Yの長さLに比べ任意の(i+1)番目のエリア1i+1の前記前後方向Yの長さLi+1が長い。
すなわち、露出エリアの長さLは後方の露出エリア程長いのが好ましく、これを数式で表現すると下記の(1)式で表される。
<L…<L<Li+1…<L…(1)
このような場合、前記係合位置の変動を更に許容し易いだろう。
【0020】
更に好ましくは、前記内側部31又は外側部32をその厚さの方向に貫通し、前記第2シューレース手段2が挿通される貫通孔Hが前記内側部31および外側部32に各々形成され、
前記貫通孔Hが前記複数のループ部材4のうちの最も後方に設けられたループ部材4よりも後方に配置されている。
【0021】
この場合、内側部31および外側部32に形成された貫通孔Hの近傍の部位において第2シューレース手段2は内側部31または外側部32の生地の下を通り、そのため、生地との摩擦力が大きい。したがって、着用者の設定した締付の度合いを維持した状態で第2シューレース手段2を結ぶことが容易であろう。
【0022】
別の好ましい実施例においては前記第1シューレース手段1は1本又は2本の丸紐で形成され、前記第2シューレース手段2は1本又は2本の帯状の紐で形成されている。
【0023】
この場合、両シューレース手段1,2が丸ヒモであると、シューレースの係合部位における厚み(高さ)が大きくなり、アッパーのコンパクトさが損なわれる。
一方、両シューレース手段1,2が帯状であると、両シューレース手段1,2の係合部位において、第1シューレース手段1がネジレ易く、見栄えを損なう。
これに対し、第1シューレース手段1が丸ヒモで第2シューレース手段2が帯状であると、上記のような欠点がない上、第2シューレース手段2が第1シューレース手段1に対し、スムースに滑り、局所的な締め付けを防止し易いだろう。
【0024】
別の好ましい実施例については、前記第1シューレース手段1は、前記横断方向Xに延び前記第1部1Mと前記第2部1Lとを連結する第3部1Xを有し、U字状に形成された少なくとも1本の紐で形成されている。
この場合、構造がシンプルになるであろう。
【0025】
別の好ましい実施例については、前記第1シューレース手段1は、前記横断方向Xに延び前記第1部1Mと前記第2部1Lとを連結する第3部1Xを有し、U字状に形成された2本の紐で形成され、前記2本の紐のうちの1本が爪先側に配置され、前記2本の紐のうちの1本が履き口側に配置されている。
【0026】
この場合、爪先側の紐と履き口側の紐とで剛性や張りが互いに異なることで、爪先側と履き口側とで締め付け具合が異なったものとし易い。
【0027】
好ましくは、前記アッパーは、
前記ループ部材4のうちの最も後方のループ部材4よりも前方のエリアにおいて足の甲の内側面および外側面を覆い、前記前後方向Yおよび横断方向Xに伸び縮みする伸縮材3Fと、
前記伸縮材3Fの表面に付着され、前記伸縮材3Fよりも伸び縮みしにくく、前記内側部31および外側部32の一部を形成する非伸縮材3Lと、
前記内側部31および外側部32における前記非伸縮材3Lの上端の縁部33が波形に形成されていることにより、前記非伸縮材3Lが前記足の甲の中央に向かって突出する複数の凸部34と、
互いに隣接する前記凸部34と凸部34との間において前記非伸縮材3Lで覆われずに前記伸縮材3Fが露出する柔軟部35とを有し、
前記凸部34の前記縁部33に前記ループ部材4が設けられている。
【0028】
本紐締め構造において第2シューレース手段2による締め付けで各凸部34が足の前後方向Yに変位する場合は前後方向Yに変位をしない場合に比べ、アッパーが足に更にフィットし易い。
本実施例の場合、伸縮材3Fが足の大きさや動きに応じて変形し、更に非伸縮材3Lからなる凸部34が前後方向Yに変位して内側部31および外側部32が足にフィットし易い。
【0029】
更に好ましくは、前記各凸部34は上方に向かって先窄まりの台形状に形成されている。
この場合、アッパーが足に更にフィットし易いだろう。
【0030】
更に好ましくは、互いに隣接する凸部34,34の間において、前記柔軟部35は足の中央に近づくに従い前記前後方向Yの長さが大きい。
この場合、伸縮材3Fからなる柔軟部35が変形し易く、凸部34が足の内側面および外側面にフィットし易いだろう。
【0031】
更に好ましくは、前記ループ部材4のうちの最も後方のループ部材4よりも前方のエリアにおいて、前記アッパー3は足囲方向(周方向)に連なったソック状に形成されている。
この場合、ソック状の伸縮材3Fは足にフィットし易いだろう。
【0032】
本発明の更に別の局面においては、
足の甲を包むアッパーを前記甲にフィットさせるための紐締めフィッティング構造であって、
前記甲および母趾の内側面を覆う内側部31と、
前記甲および小趾の外側面を覆う外側部32と、
前記内側部31と前記外側部32とを互いに近づけるシューレース手段2と、
前記内側部31および外側部32の中央寄りの縁部33に設けられ前記シューレース手段2が係合する複数の係合エリア1を有し、前記各係合エリアの足の前後方向Yの長さが前記シューレース手段2の太さよりも大きく、かつ、前記各係合エリア1において前記シューレース手段2に引っ張られて屈曲する係合手段1とを備え、
ここにおいて、前記複数の係合エリア1は前方係合エリア1と、前記前方係合エリア1よりも後方の後方係合エリア1とを包含し、前記前方係合エリア1の前記前後方向Yの長さに比べ前記後方係合エリア1の前記前後方向Yの長さが長い。
【0033】
本発明は、添付の図面を参考にした以下の好適な実施例の説明からより明瞭に理解されるであろう。しかしながら、実施例および図面は単なる図示および説明のためのものであり、本発明の範囲を定めるために利用されるべきではない。本発明の範囲は請求の範囲によってのみ定まる。添付図面において、複数の図面における同一の部品番号は、同一または相当部分を示す。
【実施例】
【0034】
実施例1:
以下、本発明の実施例1が図1図6Bを参照して説明される。
以下の説明では、左足用のアッパーが例示される。また、以下の図において、矢印OUTは足の外側方向、矢印INは足の内側方向を示す。
図1に示す紐締めフィッティング構造を備えた靴は、たとえば、ハイカットのレスリングシューズで図示しないソール、アッパー3、第1および第2シューレース1,2を備えている。
ソールはアッパー3の下に配置され路面に接地するものである。アッパー3は足の甲を包むもので、舌片6を有している。シューレース1,2はアッパー3を足の甲にフィットさせるためのものである。
【0035】
図1および図2において、前記第2シューレース2の両端部分は図示が省略されているが、アッパー3内に足を挿入した後に、両端部同士は互いに固く結ばれる。第2シューレース2の端部同士が互いに結ばれることにより、アッパー3が足に対しフィットする。
【0036】
図1および図2に示すように、アッパー3には足を着用時に挿入するための履き口7が形成されている。前記履き口7は着用中に脚が上方に出るもので、前記履き口7の前方の部位は前記舌片6で覆われている。
【0037】
図3において、前記アッパー3は甲を上方から覆う伸縮材3Fおよび非伸縮材3Lと、図6Aおよび図6Bに示すように、足裏の底面を覆う底部材3Bとが互いに縫着されている。前記底部材3Bは、たとえば、足の幅方向に伸縮する生地で形成されていてもよい。
なお、図6Aおよび図6Bにおいて、伸縮材3Fは破線で描かれ、非伸縮材3Lは太い実線で描かれている。
【0038】
図6Aおよび図6Bのように、前記伸縮材3Fは足の甲の上面、内側面および外側面を覆う。この伸縮材3Fはたとえば、メッシュ状の部材で、図3の前記前後方向Yおよび横断方向Xに伸び縮みする。
【0039】
図6Aおよび図6Bに示すように、本実施例の場合、前記伸縮材3Fの下には前後方向Yおよび横断方向Xに伸び縮みするクッション材3Kが配置されている。このクッション材3Kは第1シューレース1(図3)が配置される領域において甲の上面に接する。
【0040】
図1及び図2の前記非伸縮材3Lの一部は、たとえば踝よりも前方や下方に配置された非伸縮材3Lは、前記伸縮材3Fの表面の少なくとも一部に縫着されて付着されている。一方、踝を覆う部位の非伸縮材3Lは、前記伸縮材3Fに下端や後端においてのみ縫着されて付着され、舌片6や柔軟部35に対し可動することができる。
前記非伸縮材3Lは、たとえば合成皮革からなり前記伸縮材3Fよりも伸び縮みしにくく、前記内側部31および外側部32の一部を形成する。
図3に示すように、前記非伸縮材3Lで覆われていない伸縮材3Fは露出した状態となっており、図3において部分的に格子模様が付されている。
【0041】
前記アッパー3は複数の凸部34と柔軟部35とを備える。前記複数の凸部34は、前記内側部31および外側部32における前記非伸縮材3Lの上端の縁部33が波形に形成されていることにより、前記非伸縮材3Lが前記足の甲の中央に向かって突出している。
【0042】
柔軟部35は、互いに隣接する前記凸部34と凸部34との間において伸縮材3Fが前記非伸縮材3Lで覆われずに前記伸縮材3Fが露出している。
なお、前記伸縮材3Fは前記内側部31と外側部32との間の部位、つまり甲の中央部36においても露出している。
【0043】
図1および図2において、前記凸部34は長方形状や上方に向かって(内外の中央に向かって)先窄まりの台形状に形成されている。したがって、互いに隣接する凸部34,34の間において、一部の前記柔軟部35は足の中央に近づくに従い前記前後方向Yの長さが大きい。
【0044】
図3の内側部31は、前記甲および母趾の内側面を覆う。
外側部32は前記甲および小趾の外側面を覆う。
【0045】
前記各凸部34の上端の縁部33にはループ部材4が固着(縫着)されている。前記ループ部材4は前記内側部31および外側部32の中央寄りの縁部33に、各々、2個以上配置され前記前後方向Yに貫通している。このループ部材4には第1シューレース1が前後方向Yに移動可能に挿通されている。
【0046】
前記第1シューレース1は例えば略U字状に配置されており、その両端部1Eは固定部5において非伸縮材3Lに縫着されて固定されている。
なお、本実施例の場合、前記固定部5は内側部31および外側部32の後部、つまり、履き口7(図1)の近傍に設けられている。
【0047】
第1シューレース1は前記内側部31および外側部32の中央寄りの縁部33において、かつ、足を前記アッパー内に挿入する履き口7(図1)よりも前方において、足の前後方向Yに沿って配置され、前記内側部31に複数のループ部材4を介して係合すると共に外側部32に複数のループ部材4を介して係合する。
こうして、第1シューレース1の一部は前記前後方向Yに互いに離間した複数の露出エリア1において露出された状態で配置されている。
【0048】
前記複数のループ部材4および固定部5は配置手段を構成する。すなわち、前記履き口7(図1)よりも前方における足の内側において前記第1シューレース1の第1部1Mは前記前後方向Yに互いに離間した複数の露出エリア1において露出された状態で配置される。また、前記履き口7(図1)よりも前方における足の外側において前記第1シューレース1の第2部1Lは前記前後方向Yに互いに離間した複数の露出エリア1において露出された状態で配置される。
【0049】
こうして、前記第1シューレース1は第2シューレース2のための紐通し孔を形成する。すなわち、第2シューレース2は前記複数の露出エリア1において前記第1シューレース1の第1部1Mと第2部1Lに足の横断方向Xに交互に係合し前記内側部31と前記外側部32とを互いに近づける
【0050】
本実施例の場合、前記第1シューレース1は1本の丸ヒモで形成され、前記第2シューレース2は1本の帯状の紐で形成されている。ここにおいて、前記各露出エリア1の前記前後方向Yの長さLは前記第2シューレース2の幅よりも大きい。
【0051】
なお、第2シューレース2が丸紐の場合、前記前後方向Yの長さLは第2シューレース2の太さよりも大きい必要がある。
また、第1シューレース1は丸紐ではなく第2シューレース2のような帯状の紐であってもよい。
【0052】
図3において、前記複数の露出エリア1は前記前部から後部にわたって互いに前記前後方向Yに離間した1番目からn番目のエリア1〜1を包含し、前方から任意のi番目のエリア1の前記前後方向Yの長さLに比べ任意の(i+1)番目のエリア1i+1の前記前後方向Yの長さLi+1がたとえば2mm以上長い。
すなわち、本実施例の場合、下記の(11)〜(13)式を満足する。
2+L<L…(11)
2+L<L…(12)
2+Ln−1<L…(13)
この場合、第2シューレース2の係合位置の変動を許容し易いだろう。
【0053】
しかし、本発明においては下記の(20)を満足する場合にも係合位置の変動を許容し得る。
2+L<Li+j…(20)
すなわち、前記複数の露出エリア1は前方露出エリア1と前記前方露出エリア1よりも後方の後方露出エリア1i+jとを包含し、少なくとも1つの前方露出エリア1の前記前後方向Yの長さに比べ少なくとも1つの後方露出エリア1i+jの前記前後方向Yの長さが長い。
【0054】
図1および図2に示すように、前記内側部31および外側部32には各々3つの貫通孔H〜Hが形成されている。前記貫通孔Hは前記内側部31又は外側部32をその厚さの方向に貫通し、前記第2シューレース2が挿通される。前記各貫通孔H〜Hは前記ループ部材4のうちの最も後方に設けられたループ部材4よりも後方に配置されている。
【0055】
なお、貫通孔Hにはハトメ部材Eが装着されている。
また、後方の貫通孔HおよびHの内径は第1シューレース1の幅よりも小さくてもよい。
【0056】
つぎに、本構造の効果を明瞭にするために、1つの同じアッパー3を互いに足の形状およびサイズの異なる3人の第1〜第3着用者が着用した場合について、図3図5を用いて説明される。
各着用者の足のサイズは下記の通りである。
図3: 第1着用者:25.5cm
図4: 第2着用者:23.5cm
図5: 第3着用者:26.0cm(やせ型)
【0057】
図3図5を比較すると、前方の露出エリア1における第2シューレース2の係合位置は概ね一定であるのに対し、後方の露出エリア1や最後方の露出エリア1における第2シューレース2の係合位置には大きなバラツキを看取する(見て把握する)ことができるだろう。
したがって、後方の露出エリア1程、その長さLが大きく設定されることで、アッパー3のフィット性が高くなることが期待できる。
【0058】
図3図5を比較すると、露出エリア1における第1シューレース1の屈曲の度合いが互いに大きく異なっているのを看取することができるだろう。たとえば、図5において、足の内側の後方の露出エリア1および足の外側の最後方の露出エリア1において第1シューレース1は著しく大きく屈曲している。
【0059】
前記屈曲に伴い、当該大きく屈曲した露出エリア1、露出エリア1に対応する柔軟部35は前後方向Yに大きく縮んでいることが分かる。すなわち、柔軟部35が前後方向Yに縮むことで、露出エリア1における第1シューレース1の屈曲が許容され、これにより、露出エリア1に対する第2シューレース2の係合位置が前後方向Yだけでなく横断方向Xにも変位し得る。したがって、アッパー3が動作中の足の形状の変化に追従し易いであろう。
【0060】
つぎに、他の実施例について説明される。
なお、以下の例において前記実施例1と同一ないし相当部分には同一符号を付し、その詳しい説明が省略され、あるいは図示が省略され、実施例1と異なる部分について図示および説明がなされる。
【0061】
図7は実施例2の構造を示す。
本実施例においては、第1シューレース手段1が2本の前シューレース1fと後シューレース1bとで構成される。この場合、2本のシューレース1f,1bの剛性や張り、長さなどによって、第2シューレース2による締付具合を制御することができるかもしれない。
【0062】
なお、図7の実施例において、前シューレース1fはアッパー3の前部の固定部5において固定され、後シューレース1bはアッパー3の後部の固定部5において固定されている。
【0063】
図8は実施例3の構造を示す。
本実施例においては、第1シューレース1を挿通するための貫通孔4Hが内側部31および外側部32に形成されている。
【0064】
前記第1シューレース1は前記貫通孔4Hに下から上へ挿通され、したがって、第1シューレース1は内側部31または外側部32の下面と接触する。そのため、大きな摩擦抵抗力を受け、前記貫通孔4Hの前方の露出エリア1は他の露出エリア1〜1に比べ第1シューレース1の自由な移動や屈曲が抑制されるだろう。したがって、図4のように、爪先が締まりすぎるのを抑制できるかもしれない。
【0065】
図9は実施例4の構造を示す。
本実施例においては、第2シューレース2を挿通するための貫通孔8が、各々、内側部31および外側部32に複数個ずつ設けられている。この場合、第2シューレース2は貫通孔8の下方においてアッパー3の生地に接触したり、あるいは、貫通孔8において大きな摩擦力を受けるだろう。そのため、図4のように、爪先が締まりすぎるのを抑制し易いだろう。
【0066】
ところで、図10に示すように、前記第1シューレース1の固定部5は最も前方のループ部材4の更に前方、つまり、前部に設けられていてもよい。
また、図11に示すように、前記第1シューレース1は内外の2本に分かれていてもよく、この場合、固定部5は前部および後部の双方に設けられる。
【0067】
図12に示すように、第1シューレース1を横断方向Xに通すためのループ部材4が爪先の前端に設けられていてもよい。この場合、前端のループ部材4が第1シューレース1により上方に持ち上げられ、爪先が路面に引っ掛かるのを防止できるだろう。したがって、レスリングシューズや老人用のシューズとして好ましく採用できるかもしれない。
なお、このループ部材4は第2趾指節間関節よりも前方に設けられるのが好ましい。
【0068】
本発明においては、図13に示すように、紐通し孔を形成する前記第1シューレース1に代えて、アッパー3に固着された係合手段1が採用されてもよい。この場合、係合手段1は前記(第2)シューレース2が挿通される複数の紐通し孔9を形成する係合エリア1を有する。側縁部に配置された係合エリア1を形成する部材としては柔軟で屈曲可能な材料が用いられる。これにより、係合位置が足幅方向に変位可能となる。なお、各紐通し孔9は前後方向Yに長い長孔で形成される。
【0069】
以上のとおり、図面を参照しながら好適な実施例を説明したが、当業者であれば本明細書を見て、自明な範囲で種々の変更および修正を容易に想定するであろう。
たとえば、アッパーの生地は伸縮材3Fが設けられずに非伸縮材3Lのみで構成されてもよい。より具体的には、非伸縮材3Lが配置された部位に剛性の大きい部材を配置し伸縮材3Fが配置された部位に剛性の小さい部材が配置されてもよい。
アッパーの下に配置されるソールは、いわゆるミッドソールとアウトソールを有していてもよい。
アッパーはハイカットタイプではなく、ローカットタイプであってもよい。
アッパーの中央部には爪先まで延びる舌片が設けられていてもよい。
したがって、そのような変更および修正は、請求の範囲から定まる本発明の範囲内のものと解釈される。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明はシューレースを用いた紐締め構造を有する靴に適用できる。
【符号の説明】
【0071】
1:第1シューレース手段(係合手段)1M:第1部 1L:第2部 1X:第3部 1E:端部 1b:後シューレース 1f:前シューレース 1:露出エリア(係合エリア)
2:第2シューレース手段
3:アッパー 3B:底部材 3F:伸縮材 3L:非伸縮材 3K:クッション材 31:内側部 32:外側部 33:縁部 34:凸部 35:柔軟部 36:中央部
4:ループ部材 4H:貫通孔
5:固定部
6:舌片
7:履き口
8:貫通孔
9:紐通し孔
H:貫通孔
X:横断方向
Y:前後方向
OUT:外側方向
IN:内側方向

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13