(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5675088
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月25日
(54)【発明の名称】HIV感染に対する幹細胞スクリーニングおよび移植治療
(51)【国際特許分類】
A61K 35/12 20150101AFI20150205BHJP
A61K 35/14 20150101ALI20150205BHJP
A61P 31/18 20060101ALI20150205BHJP
C12N 5/0789 20100101ALI20150205BHJP
【FI】
A61K35/12
A61K35/14 Z
A61P31/18
C12N5/00 202Q
【請求項の数】5
【外国語出願】
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2009-284587(P2009-284587)
(22)【出願日】2009年12月15日
(62)【分割の表示】特願2003-546840(P2003-546840)の分割
【原出願日】2002年11月27日
(65)【公開番号】特開2010-116400(P2010-116400A)
(43)【公開日】2010年5月27日
【審査請求日】2010年1月13日
【審判番号】不服2013-9968(P2013-9968/J1)
【審判請求日】2013年5月30日
(31)【優先権主張番号】09/998,832
(32)【優先日】2001年11月29日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504208946
【氏名又は名称】ステムサイト インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(72)【発明者】
【氏名】チャウ ロバート
(72)【発明者】
【氏名】ロッドジャーソン デニス オー.
(72)【発明者】
【氏名】プンツァラン ルビオ アール.
(72)【発明者】
【氏名】ペッツ ローレンス ディー.
【合議体】
【審判長】
内藤 伸一
【審判官】
齋藤 恵
【審判官】
大宅 郁治
(56)【参考文献】
【文献】
特表2001−518289(JP,A)
【文献】
米国特許第6153431(US,A)
【文献】
特表2001−514886(JP,A)
【文献】
国際公開第01/58916(WO,A2)
【文献】
SAMSON,M. et al, Resistance to HIV−1 infection in caucasian individuals bearing mutant alleles of the CCR−5 chemokine receptor gene, Nature, 1996, Vol.382, No.6593, p.722−5
【文献】
TAMASAUSKAS,D. et al, A homologous naturally occurring mutation in Duffy and CCR5 leading to reduced receptor expression, Blood, 2001, Vol.9, No.11, p.3651−4
【文献】
OMETTO,L. et al, Polymorphisms in the CCR5 promoter region influence disease progression in perinatally human immunodeficiency virus type 1−infected children, J Infect Dis, 2001, Vol.183, No.5, p.814−8
【文献】
Engel BC, et al., Stem cell directed gene therapy, Frontiers in Bioscience, (1999.5.1), Vol. 4, p. e26−33
【文献】
Toren A, et al., Human umbilical cord blood myeloid progenitor cells are relatively chemoresistant: A potential model for autologous transplantations in HIV−infected newborns, American Journal of Hematology, (1997.11), Vol. 56, No. 3, p. 161−167
【文献】
Carmelita U, et al., Management of Infectious and Immunological Complications of Acquired Immunodeficiency Syndrome (AIDS): Current and Future Prospects, Drugs, (1987.1), Vol. 33, No. 1, p. 66−84
【文献】
Ruiz ME, et al., Peripheral Blood−Derived CD34+ Progenitor Cells: CXC Chemokine Receptor 4 and CC Chemokine Receptor 5 Expression and Infection by HIV, The Journal of Immunology, (1998.10.15), Vol. 161, No. 8, p. 4169−4176
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K35/00,A61K38/00
CAPLUS(STN)、MEDLINE(STN)、BIOSIS(STN)、EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む、HIV感染の治療のためにHIVに感染している患者に移植されるための幹細胞を提供する方法:
(a)複数のドナーから採取された臍帯血から収集された幹細胞を、CCR5δ32多型についてスクリーニングして、CCR5δ32多型をホモ接合性で有する幹細胞を同定する段階;
(b)段階(a)で同定されたCCR5δ32多型をホモ接合性で有する幹細胞のHLA型を決定する段階;
(c)該幹細胞を移植されるHIVに感染している患者から採取した細胞のHLA型を決定する段階;
(d)段階(b)でHLA型が決定された幹細胞から、該患者のHLA型に適合する幹細胞を選択する段階。
【請求項2】
段階(d)で選択された幹細胞をインビトロで増殖させる段階をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
CCR5δ32多型が、ハイブリダイゼーションに基づくアッセイ法、シークエンシングアッセイ法、または機能的なアッセイ法を用いて検出される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
HLA型の決定が、対立遺伝子に特異的なプライマーおよび固層に固定されたHLA遺伝子座に特異的な捕捉オリゴヌクレオチドを用いるハイスループットな方法によるものである、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
HIV感染が、単球親和性のHIV単離体により引き起こされる、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
この出願は、2001年11月29日に出願された関連する米国特許出願第09/998,832号の利益を主張するとともに、それは、全ての目的で参照として本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染は、低分子のプロテアーゼ阻害剤、ヌクレオシド類縁体、および非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤のような、ウイルスの複製を阻害する作用物質を用いて最も一般的に治療される。これらの抗ウイルス治療は、ウイルス量の低減および免疫機能の回復のために比較的有効であった。しかし、これらの薬剤は、多くの副作用を示し、しばしば薬剤耐性を誘導する長期間にわたる治療が要求され、身体からのウイルスの完全な根絶をもたらさない。したがって、最近の多くの研究は、HIVを中和する免疫系の能力を増強させるか、または免疫細胞に感染するウイルスの能力を阻害する治療を開発することに焦点をおいている。特に、これらの治療は、特定の遺伝子多型が感受性の低下および疾病の進行の緩慢に関連するという増えている証拠を活用する(Rogerら、FASEB,12:625-632(1998);O'Brienら、Hospital Practice,July 15(1998);Hoganら、Ann.Intern.Med.,134:978-996(2001)参照)。
【0003】
これらの有益な多型の多くは、免疫細胞へのHIVの進入を仲介するレセプター、およびレセプターのリガンドの変異体である。ヒト免疫不全ウイルスのタイプ1(「HIV-1」)はT細胞表面分子CD4を第一のレセプターとして用いるが、成功裏のウイルスの細胞への進入および感染は、第二の分子、即ち、「共レセプター」の存在が要求されることが見いだされた(ClaphamおよびWeiss,Nature,388:230-231(1997)参照)。7つの共レセプター分子が同定され、その各々は、7つの膜貫通ドメインを有するGタンパク質共役レセプターであるケモカインレセプターのファミリーのメンバーであるか、またはそれに関連する。間質細胞由来因子−1(SDF-1)ケモカインレセプターCXCR4は、T細胞トロピックなHIV種のための共レセプターであるが、RANTES、MIP-1α、およびMIP-1βに選択的に結合するケモカインレセプターCCR5は、HIVのマクロファージトロピックな種の共レセプターとして提供される。CCR3、CCR2b、およびCCR1は、他のあまり一般的でないHIV種の共レセプターとして提供される。
【0004】
特徴づけられる最初のHIV耐性遺伝子は、第一のHIVの共レセプターCCR5の多型であった(Deanら、Science,273:1856-1862(1996);Liuら、Cell,86:367-377(1996)参照)。CCR5レセプター(CCR5δ32)の32塩基の欠失は、フレームシフト変異、および最後の3つの膜透過ドメインの欠失を引き起こす。このような欠失に対してホモ接合性の個体は、複数の性のHIVへの暴露にもかかわらず、非感染を維持する。しかし、AIDSへの進行が遅くなりうるが、この欠失のヘテロ接合性は、感染に感受性である。他の有益な多型は、CCR5(CCR5m303)の303残基における点突然変異であり、これは、終止コドン、および最後の5つの膜透過ドメイン、および、細胞質尾部の欠失を生じる。この変異は、CCR5δ32変異と関連する場合、HIV感染への耐性を与える(Quillentら、Lancet,351:14-18(1998)参照)。CCR5の一つのアミノ酸の置換、R89Cもまた、HIV感染への抵抗を与えるようである。(Tamasauskasら、Blood,97:3651-3654(2001)参照)これらの共レセプターのプロモーター領域における多型(例えば、CCR5P1、CCR5 59029Aおよび59353C)もまた、疾病の早い進行に関係する(Omettoら、J.Infectious Disease,183:814-818(2001);Martinら、Infectious Disease,282:1907-1911(1998);Cleggら、AIDS,14:103-108(2000)参照)。
【0005】
あまり用いられていない他のHIV共レセプターの変異体もまた、疾病の進行に影響するようである。CCR2レセプターの保守的な点突然変異、CCR2-64Iはレセプターを発現させるが、それにもかかわらず、疾病の進行を遅らせる(Smithら、Science,277:959-965(1997)参照)。
【0006】
HIV共レセプターCCR5およびCXCR4のリガンドをコードする遺伝子の多型は、疾病の進行に影響を与えるが、感受性には影響しない。例えば、間質細胞由来因子−1α(SDF-1α)の3'非翻訳領域における点突然変異のホモ接合性は、劣性の方法で、疾病の進行を遅らせる(Winklerら、Science,279:389-393(1998)参照)。3'A変異はSDF-1αの生合成を上方制御するので、CXCR4レセプターへのHIVとの競合が増加することが仮説される。RANTESの発現を増加させるRANTESプロモーターの多型は、同様な方法で機能することが信じられているが、この場合、CCR5レセプターへのHIVとの競合を増加させることによる(Liuら、PNAS,96:4581-4585(1999)参照)。
【0007】
最後に、HLA対立遺伝子はHIV-1疾病の進行に影響するという証拠もある。動物実験は、マウスのAIDSへの耐性は、HLA遺伝子座のマウスの相同体であるH-2複合体に位置づけられることを示す(Makinoら、J.Immunol.,144:4347-4355(1990)参照)。HLA複合体は、3つのタイプの遺伝子(クラスI,IIおよびIII)を含み、それらの全ては、免疫反応の調節に関与する。MHC遺伝子として知られる、クラスI(A,B,C,D,E,F,G)およびクラスII(DM,DP,DQ,DR)分子は、T細胞への抗原の提示に関与する。クラスIIIのHLAは、抗原プロセシングのトランスポーター(TAP)、プロテアゾームのポリペプチド、補体成分因子(Bf,C2,C4)、および腫瘍壊死因子(TNF-α、TNF-β)を含む関連のない様々なタンパク質を含む。
【0008】
調査は、MHCクラスIおよびII分子についての個体の特徴的なタイプは、疾病の進行に影響しうることを示す。HIV-1に感染した血友病患者の兄弟のペアーの調査は、一つまたは二つのHLAクラスII対立遺伝子を共有する兄弟のペアーが、疾病の進行の同様の速度を示すことを示した(Kronerら、AIDS,9:275-280(1995)参照)。更に最近の研究は、HLAクラスIB
*5701が未発症感染者におけるウイルスの複製の制限に著しく関与することを見いだされた(Flores-Villanuevaら、PNAS,98:5140-5145(2001)参照)。プロセシングされたHIV-1抗原に関連する特定のMHCタンパク質の強化された能力は、特定の個体に、ウイルスに対して著しく有効なCD8リンパ球の反応を生じさせることが仮説される。
【0009】
HIV疾病の進行に影響する別の多型は、IL10-5'A、即ち、インターロイキン-10(IL-10)のプロモーター領域の変異体である。この多型は、IL-10の産生を抑制し、ホモ接合体およびヘテロ接合体の両方においてAIDSの速い進行に関連する(Shinら、PNAS,97:14467-72(2000)参照)。IL-10は、マクロファージ、T-リンパ球、およびHIVの複製を阻害することが知られている。おそらく、IL-10レベルを高めるプロモーターの変異が、AIDSの進行を遅くするのであろう。
【0010】
特定の多型がHIVへの耐性を与えるという発見は、感染に抵抗することがより有能な、および/またはウイルスを中和することがより有能な細胞に免疫系を再配置(repopulate)するという治療の提案を導いた。細胞の新規な感染を防ぐことにより、そのような治療はウイルスの複製阻害剤を用いた長期化された治療の必要性を取り除くことができる。さらに、そのような治療の特異的な性質は副作用を減少させる。
【0011】
国際公開公報第99/23253号および米国特許第6,153,431号は、存在しているリンパ球または幹細胞における有益な多型を発現するために用いられうるベクターを記載し、形質導入された細胞で感染された細胞の置き換えを示唆する。
【0012】
しかし、疾病耐性の多型を有する循環するTリンパ球を形質転換するには問題がある。これらの細胞は、広い範囲に広がるため、現行のベクターデリバリーシステムを用いて、全ての標的細胞に到達することが困難であるためである。さらに、幹細胞のインビトロ遺伝子工学およびそのような細胞を使った遺伝子治療もまた、問題でありうる。インビトロで幹細胞を培養して形質導入することは困難である。有益な遺伝子は、有効となる十分に高いレベルで発現されず、HIVによる感染を許す遺伝子は本方法を用いることにより有効に「ノックアウト」されず、また、形質導入はその後の免疫系の細胞への分化に影響するかもしれない。最終的に、インボトロの操作か否かに関わらず、HLAの表現型に一致させた後に、ドナーからの幹細胞の注入が、好んで実施される。ドナーとレシピエントとの間の違いは、移植の拒絶を引き起こすか、またはさらに悪いことに、ドナーの組織の免疫細胞が宿主の組織を攻撃するかもしれない(移植組織-対-宿主の疾患)。現在の方法は、望ましい疾病耐性遺伝子およびHLAの表現型の両方を発現する細胞の速く効率的な特定を許容しない。
【0013】
こうして、免疫細胞にHIV感染への抵抗性を有効に与え、および/または免疫学的な不適合性の危険性が減少しており且つウイルスを中和する免疫系の能力を増強させる、HIV感染の治療方法のニーズが残る。本発明は、このことおよび他のニーズを満たす。
【発明の概要】
【0014】
発明の簡単な要約
一つの態様において、本発明は、AIDSおよびAIDS関連症候群(ARC)を含むHIV感染から生じる任意の疾病の予防または治療のための方法を提供する。その方法は、ドナーからの複数の細胞をスクリーニングし、有益な遺伝子を有するヒトを特定すること、およびその後、幹細胞をHIV感染(またはHIV感染の危険性)のある患者に移植することを含む。有利には、本方法は、免疫学的不適合性のリスクを減じながら、免疫細胞にHIV感染への抵抗性を与え、および/またはウイルスを不活性化する免疫系の能力を保存もしくは促進する。
【0015】
一つの態様において、本発明は、有益な遺伝子の多型を有することにより改善、または阻害されうる症状を被っている哺乳動物、または影響を受けやすい哺乳動物を治療するための薬物の調製のために幹細胞を用いる方法を提供する。さらなる態様において、本発明は、HIVに関連した症状の治療のための薬物を調製するのための有益な遺伝子を有する幹細胞を用いる方法を提供する。別の態様において、該有用な遺伝子は、CCR5遺伝子の多型である。別の態様において、HIVに関連した症状は、大部分が単球親和性であるHIV単離体により引き起こされる。
【0016】
一つの観点において、本発明は、HIV感染の予防または治療のための方法を提供する。本方法は、a)複数のドナーからの細胞をスクリーニングし、有益な遺伝子を有するドナーを特定すること、およびb)有益な遺伝子を含む幹細胞をHIV感染の患者に移植することを含む。好ましくは、有益な遺伝子は、免疫細胞により発現されるタンパク質をコードする遺伝子の多型である。有益な遺伝子は、免疫細胞に感染するHIVの能力を低下させるもの、または免疫の再構築を通してウイルスを中和する免疫細胞の能力を増強させるものであってもよい。
【0017】
特定の態様においては、有益な遺伝子は、HIVが侵入するためのリガンドの多型であり、SDF-1の3'A多型、または発現レベルを高めるRANTESのプロモーター多型が含まれるがこれらに限定されるものではない。別の態様においては、多型は、MHCクラスI分子、MHCクラスII分子、TNF、および補体をコードするHLA複合体における遺伝子の多型である。
【0018】
更に他の態様においては、有益な遺伝子は、HIVの侵入のためのレセプターまたは共レセプターの一つの多型であり、CD4、CXCR4、CCR2、およびCCR5の多型を含むがこれらに限定されるものではない。これらの多型は、CCR2-64I、CCR5のコード領域の32塩基対の欠失、CCR5m303、CCR5のプロモーター領域の多型、およびCCR5R60Sを含むが、これらに限定されるものではない。
【0019】
好ましい態様においては、本発明でスクリーニングされる細胞は、胚、骨髄、末梢血、胎盤血、臍帯血、脂肪組織、または他の幹細胞の潜在的な源から得られる。
【0020】
特定の態様においては、細胞は、タンパク質産物の検出もしくは特定(例えば、イムノアッセイ法)または他のタンパク質アッセイ法により有益な遺伝子についてスクリーニングされる。他の態様においては、有益な遺伝子は、ハイブリダイゼーションに基づくアッセイ法、シークエンシングアッセイ法、機能的なアッセイ法、または他のアッセイ法を用いて検出される。
【0021】
第二の観点においては、上記の方法は、治療用幹細胞ユニットのエクスビボ(インビトロ)および/またはインビボの増殖をさらに含む。
【0022】
第三の観点においては、この方法は、HLAの遺伝子型、および/または治療用幹細胞の表現型の特定をさらに含む。HLAの遺伝子型は、任意に、対立遺伝子特異的プライマー、および固相に固定されたHLA遺伝子座の特異的捕捉オリゴヌクレオチドを用いるハイスループット法により決定されることができる。
【0023】
第四の観点においては、この方法は、非天然のHLAタンパク質の発現するか、または天然のHLAタンパク質の発現を阻害するように該幹細胞を処置することをさらに含む。
【0024】
一つの態様においては、本発明は、幹細胞がHIV感染に対する耐性を与える有益な遺伝子を含む、臍帯血または胎盤血から誘導される、生存能力のあるヒト新生児の、またはヒト胎児の造血性幹細胞を含むヒト細胞の単離された集合体を提供する。さらなる態様においては、有益な遺伝子は、CCR5の多型である。いくつかの態様においては、CCR5の多型は、CR5δ32、CCR5m303、CCR5プロモーターの多型、およびCCR5R60Sから選択される。CCR5の多型は、ホモ接合性またはヘテロ接合性のいずれであってもよい。一つの観点においては、CCR5の多型は、ホモ接合性のCCR5δ32多型である。別の観点においては、CCR5の多型は、ヘテロ接合性のCCR5δ32多型である。更なる観点においては、幹細胞は、幹細胞のレシピエントと一致するHLA遺伝子型をも有する。別の観点においては、幹細胞は、アルブミンのような薬学的担体も含む。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】HIV/AIDS患者の治療における幹細胞の収集および使用の一つの態様のための工程系統図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の他の利点、観点、および態様は、以下の記載を読むことにより明らかになる。
【0027】
詳細な説明
1.定義
本明細書に記載される「有益な遺伝子」という用語は、疾病に対する向上した耐性を提供する任意の遺伝子、疾病の進行を遅らせるかまたは低減させる任意の遺伝子、または研究に有益な任意の遺伝子を指す。有益な遺伝子とは、二倍体の生物において主に見いだされるある遺伝子についての一つの対立遺伝子または2つの対立遺伝子を指す。研究に有益な遺伝子は、様々な疾病の哺乳動物モデルを作製するために用いられうる遺伝子を含む。
【0028】
「ドナーからの細胞」という用語は、幹細胞を含み、ドナーから抽出されうる任意の細胞の集団を指す。そのような細胞の典型的な起源は、胚、骨髄、末梢血、臍帯血、胎盤血、脂肪組織、および幹細胞が存在する他の任意の組織を含む。
【0029】
「ヒト細胞の単離された集合体」という用語は、ドナーから抽出された細胞の集団を指す。
【0030】
本明細書で用いられる「免疫細胞」という用語は、病原体に対する体の防御における役割を担う任意の細胞を指す。HIVの主な免疫細胞の標的は、マクロファージおよびTリンパ球である。
【0031】
本明細書で用いられる「多型」という用語は、特定の遺伝子の配列の変異体を指す。これは、一つのヌクレオチド部位から染色体レベルで目に見える大きなヌクレオチド配列までのいろいろなサイズの遺伝子型の違いを含む。
【0032】
「インビトロ増殖」という用語は、実験室における哺乳動物細胞の培養を指す。そのような細胞は、哺乳動物から、および適切な環境における培養により生成される幹細胞の追加的な量から抽出されうる。もし可能であれば、細胞の継続的な増殖を許すように安定な細胞株が構築される。
【0033】
「幹細胞」という用語は、不定の期間に分化し、特殊な細胞を生じる能力を有する任意の細胞のことを指す。幹細胞は、全ての胚芽層(外胚葉、中胚葉、および内胚葉)から発生する。幹細胞の典型的な起源は、胚、骨髄、末梢血、臍帯血、胎盤血液、および脂肪組織を含む。幹細胞は、多分化能であり、生物における大半の組織を発生することができることを意味する。例えば、多分化能な幹細胞は、皮膚、肝臓、血液、筋肉、骨などの細胞を発生させることができる。対照的に、複数分化能または成人幹細胞は、限定的なタイプの細胞を発生させることのみ可能である。例えば、造血性幹細胞は、リンパ系統、および骨髄系統の細胞を発生させることのみ可能である。生細胞は、生存していて、かつしばしば成長および分裂が可能な細胞である。当業者は、細胞の生存能力を決定する方法として、例えば、トリパンブルー染色を排除する能力を認識している。
【0034】
「HIV」または「ヒト免疫不全ウイルス」という用語は、HIV-1、HIV-2、およびAIDSまたはAIDS関連症候群(ARC)の進行の原因となる他の任意のウイルス種のことを指す。
【0035】
本明細書で用いられる「HIV感染」という用語は、無症状の血清反応陽性からAIDS関連症候群(ARC)を通して、後天性免疫不全症候群(AIDS)までの範囲のHIV感染に関連するあらゆる範囲の症状を指す。
【0036】
本明細書で用いられる「後天性免疫不全症候群」即ち「AIDS」という用語は、HIVの感染に関連した細胞性免疫の欠損、低いCD4+Tリンパ球数、ならびに日和見感染および悪性腫瘍への感受性の増加を指す。
【0037】
本明細書で用いられる「HLA複合体」という用語は、MHCクラスI、クラスII、クラスIII分子をコードする染色体上の遺伝子を併せたものを指す。「MHCクラスI」分子は、ヘルパーT細胞に抗原を提示する糖タンパク質であり、「MHCクラスII」分子は、細胞障害性T細胞に抗原を提示する。「MHCクラスIII」分子は、補体経路のタンパク質および腫瘍壊死因子(TNF)のような、分泌タンパク質である。
【0038】
本明細書で用いられる「TNF」すなわち「腫瘍壊死因子」という用語は、マクロファージ(TNF-α)およびいくつかのT細胞(TNF-β)によって産生される2つの関連するサイトカインのことを指す。これらの因子は、腫瘍細胞に対して細胞障害性であり、炎症反応の役割を担う。
【0039】
本明細書で用いられる「補体」という用語は、膜攻撃複合体、細胞の溶解を仲介する複合体を形成する血清タンパク質の任意のグループを指す。
【0040】
II.序文
本発明は、とりわけ、AIDSおよびAIDS関連症候群(ARC)を含む、HIV感染から生じる疾病の予防または治療のための方法を提供する。その方法は、複数の細胞をスクリーニングし、有益な遺伝子で幹細胞を特定すること、および、その後、幹細胞を患者に移植することを含む。特定の態様においては、潜在的なドナーは最初に有益な変異についてスクリーニングされ、その後、移植のためにこれらのドナーから幹細胞が抽出される。
【0041】
好ましい態様においては、有益な遺伝子は、免疫細胞にHIV感染に対する抵抗性を与える遺伝子、またはウイルスを中和する免疫細胞の能力を増強させる遺伝子の多型である。好ましくは、その遺伝子は、HIV侵入のレセプターのリガンドをコードする遺伝子、HLA複合体またはHIV侵入のレセプターの遺伝子である。本発明でスクリーニングされた細胞は、胚、臍帯、胎盤、骨髄、末梢血、および脂肪組織を含む幹細胞を含む源から誘導されるが、これらに限定されるものではない。それらは、遺伝子の多型、および/またはタンパク質の変異を検出する方法を用いて、好ましくはハイスループット法により、有益な遺伝子についてスクリーニングされる。治療用の幹細胞は、任意に、HLA型が一致するレシピエントに移植する前に、ハイスループット法を用いてHLA型が決定される。
【0042】
本発明は、ドナーからの複数の細胞をスクリーニングし、疾病を誘導する遺伝子を有する幹細胞を特定すること、および該特定された幹細胞をマウスのような哺乳動物に移植することによって疾患を誘導することにより疾病モデルを作製する方法をも提供する。この哺乳動物は、可能性のある治療法についてテストし、疾病のメカニズムを解明するために用いられうる。
【0043】
III.有益な遺伝子で治療されうる感染
好ましい態様において、有益な遺伝子を含有する幹細胞は、HIV感染を治療するために用いられる。しかし、本発明の方法は、HIVの治療に限定されない。タンパク質レセプターを用いて細胞に入る感染作用物質によって引き起こされる他の感染症もまた、本明細書に記載の幹細胞を用いて治療されうる。有益な遺伝子は、細胞に入る感染作用物質の能力を減少または消失する感染作用物質のためのレセプターの多型を含む。
【0044】
感染作用物質、および有益な遺伝子によってコードされうる感染作用物質のためのレセプターまたは共レセプターは、例えば、HIVウイルス、およびCSCR4、CCR3、CCR2、CCR8、CCR5、Bonzo/STRL-33/TYMSTR、BOB/GPR15、CD4;ポリオウイルス、およびPVR;HSV-1および2、ならびにPrr2/HveB、Prr1/HveC、HveA;PVR、およびPrr2/HveB、Prr1/HveC;コクサッキーウイルス、およびCAR、αvβ3、CD55;Ad-2/Ad-5、およびCAR;メジャーライノウイルス、およびICAM-1;HHV-7、およびICAM;マイナーライノウイルス、およびLDLR/α2MR/LRP;アデノウイルス、およびαvβ3、αvβ5;エコーウイルス、およびα2β1、CD55;EBVおよびCR2;はしかおよびCD46;コロナウイルス、およびアミノペプチダーゼ-N;LCMV/ラッサ熱ウイルス、およびα-デストログリカン;およびシンドビスウイルス、およびラマニン(lamanin)レセプターを含む。バクテリアもまた、感染作用物質の用語に含まれる。
【0045】
他の感染作用物質は、例えば、マラリアを引き起こす作用物質である、プラスモディウム属のメンバーのような寄生虫を含む。プラスモディウムファルシパラム(Plasmodium falciparum)の感染性に影響しうる有益な遺伝子は、赤血球骨格タンパク質4.1、グリコホリン、およびp55を含む(NagelおよびRoth, Blood 74: 1213-1221(1989)、およびChishtiら、Blood 87:3462-3469(1996))。プラスモディウムビラックス(Plasmodium vivax)の感染性に影響しうる有益な遺伝子は、キモカインレセプターをコードするダッフィ(Duffy)の対立遺伝子を含む。(Tamasauskasら、Blood 97:3651-3654(2001))。
【0046】
IV.本発明の有益な遺伝子
本発明の有益な遺伝子は、HIVまたは他の感染に対して闘うために有益であるか、または研究のために有益でありうる。研究に有益な遺伝子は、疾病のモデルを作製する哺乳動物における疾病を誘導するために用いることができるものを含む。
【0047】
好ましい態様において、有益な遺伝子は、HIV感染と闘うために有益である。有益な遺伝子は、HIV感染への抵抗を免疫細胞に与えるか、または免疫の再構築を通じて、免疫細胞がウイルスをより効果的に中和するようにさせることが可能である。有益な遺伝子は、免疫細胞により発現するタンパク質をコードする遺伝子、患者において発現されない、感染と闘うために有利な遺伝子、またはHIV感染に抵抗する、および/またはウイルスを中和する免疫細胞の能力を増強させる他の遺伝子の多型であってもよい。そのような遺伝子は、免疫学の参考文献に記載される(Kubyら、Immunology, 3rd.ed.W.H.Freeman & Co.参照)。HIVへの感受性の低下、および疾病の進行の緩慢を与える例示的な多型は、いくつかの総説に記載される(Rogerら、FASEB,12:625-632(1998);O'Brienら、Hospital Practice,July 15(1998);Hoganら、Ann.Intern.Med.,134:978-996(2001);Medscape HIV/AIDS update 2000;Michael, Current Opin.Immunol.,11:466-474(1999)参照)。
【0048】
本発明の一つの態様において、有益な遺伝子は、免疫細胞にHIV感染への抵抗を与える。この遺伝子は、免疫細胞へのHIVの侵入を促進する任意のレセプターをコードする遺伝子の多型であってもよい。HIVの侵入を仲介するレセプターは、共レセプターだけでなく主な細胞性レセプターCD4を含み、これに限定されないが、CXCR4、CCR5、CCR2b、CCR3、およびCCR1を含む。適切な多型は、細胞表面のレセプターの発現を阻害する多型(例えば、CCR5δ32、CCR5m303);発現するが、HIVウイルスの侵入を促進しないレセプターを産生する多型(例えば、CCR2-64I)を産生するもの;および共レセプターの発現レベルを制御するプロモーター多型を含む。有益な遺伝子はまた、HIVレセプターのためのリガンドの発現を増加させるプロモーター領域の多型であってもよい。リガンドのレベルが増加するとHIVと競合し、こうして、HIVが適切なレセプターに結合する能力を減少させる。HIVレセプターに対するリガンドは、RANTES、MIP-1α、MIP-1β、SDF-1α、およびSDF-1βを含む。発現レベルを増加させる多型は、RANTES-35Gプロモーターの変異体、およびSDF-1α3'Aの変異体を含む。
【0049】
本発明の他の態様においては、有益な遺伝子は、免疫細胞がウイルスをより有効に中和することを可能にする。有益な遺伝子はまた、個体に病原体に対するより効果的な免疫反応を増強させる任意のタンパク質をコードしてもよい。特定の態様においては、遺伝子は、IL-10のようなHIVの複製を阻害する産物のためのプロモーター領域の多型である。他の態様においては、遺伝子は、HLAの遺伝子座にある。その遺伝子は、感受性の低下、または疾病/進行の緩慢に関連するMHCクラスI分子、MHCクラスII分子、またはMHCクラスIII分子をコードしてもよい。MHCクラスIの対立遺伝子は、B、CおよびA遺伝子産物を含む。MHCクラスIIの対立遺伝子は、DP、DQおよびDR遺伝子産物を含む。クラスIII分子は、補体、および腫瘍壊死因子を含む。特定の好ましい態様においては、その遺伝子は、MHCクラスI分子HLA B*5701をコードする。
【0050】
プラスミディウムビバックス(Plasmodium vivax)の感染にとっては、有益な遺伝子は、アミノ酸の置換(R89C)を含むダッフィ(Duffy)の対立遺伝子を含む。
【0051】
V.本発明の方法によりスクリーニングされる細胞集団
一つの態様においては、本発明の方法は、ドナーからの複数の細胞をスクリーニングし、有益な遺伝子を有する人および細胞を特定することを含む。スクリーニングされる細胞の集合体は、幹細胞を含むべきである。好ましくは、細胞集団は、幹細胞に富む。幹細胞は、胚芽層(外胚葉、中胚葉、内胚葉)から発生する。幹細胞に富む集団は、存在する細胞株から得られるか、または幹細胞源の蓄積された収集物から単離されることができる。幹細胞の典型的な源は、胚、骨髄、末梢血、胎盤血、臍帯血、脂肪組織、およびその他を含む。収穫、濃縮、および凍結保存の技術は、Bone Marrow and Stem Cell Processing:A Manual of Current Techniques Ellen M.Areman(編集者),H.Joachim Deeg,Ronald A.Sacher(編集者)Philadelphia(1992)に記載される。好ましい態様においては、ヒト新生児または胎児の造血性幹細胞は、臍帯血または胎盤血から誘導される。
【0052】
好ましくは、スクリーンニングされる細胞は、様々な無関係な個体からの細胞を速く容易な収集を可能たらしめる源から得られる。無関係な個体からの細胞のスクリーニングは、有益な遺伝子と適合するHLA遺伝子型の両方を有する細胞を特定する最も大きな可能性を提供する。本発明における治療用の幹細胞は、HIVに感染された細胞、HIVへの免疫反応を調節しうる細胞、HIVへの免疫反応を仲介しうる細胞、またはAIDSの進行を抑制しうる細胞に分化することが可能な任意のタイプの幹細胞であってもよい。そのような幹細胞は、これらに限定されないが、多くの異なるタイプの幹細胞を形成しうる胚の幹細胞、ならびに血液細胞、免疫細胞および他の細胞を形成しうる造血性幹細胞を含む。幹細胞の別の潜在的な源は、脂肪組織である。
【0053】
VI.本発明の幹細胞に富む細胞集団のスクリーニング
典型的には、細胞をスクリーニングして有益な遺伝子を有する細胞を特定する。特定の態様においては、細胞は、患者に一致するHLAの遺伝子型についてもスクリーニングされる。スクリーニングに用いられるサンプルは、ドナーから直接得られた、またはドナー細胞から樹立された細胞株から得られた細胞から構成されうる。細胞は、有益な遺伝子、およびHLAの遺伝子型について、同時に、または順番に、スクリーニングされうる。有益な遺伝子および適切なHLAの遺伝子型を有するこれらの細胞は、その後、患者への移植のために調製される。
【0054】
A.有益な遺伝子のスクリーニング
特定の核酸配列またはタンパク質の検出のための当業者に公知の標準的な方法を用いることにより、典型的には、細胞は、有益な遺伝子についてスクリーニングされる。有益な遺伝子を発現する治療用の幹細胞ユニットが速く特定されるために、その方法は、ハイスループット法において用いられうるものが好ましい。ドナーからの各々の細胞サンプルは、様々な有益な遺伝子について同時にスクリーニングされる。あるいは、複数のサンプルが、特定の有益な遺伝子の存在についてスクリーニングされる。
【0055】
当業者は、本発明の幹細胞は典型的には二倍体、例えば遺伝子の2つのコピーが各々の細胞に存在することを認識するであろう。いくつかの態様においては、有益な遺伝子は、ホモ接合性の多型であり、例えば両方のコピーが多型である。他の態様においては、有益な遺伝子は、ヘテロ接合性の多型であり、例えば一つのコピーは多型であり、他のコピーは野生型(例えば有益な効果を与えない遺伝子の種類)である。ヘテロ接合性またはホモ接合性の多型からなる幹細胞は、本発明において有用である。例えば、HIVに感染した患者は、CCR5δ32の変異のホモ接合性である幹細胞を移植すること、またはCCR5δ32の変異のヘテロ接合性である幹細胞を移植することによって、治療上の利益を受けることができる。
【0056】
いくつかの態様においては、PCRに基づく方法を含む標準的な核酸のハイブリダイゼーションに基づく方法を用いて、細胞が、有益な遺伝子についてスクリーニングされる。当業者は、有益な遺伝子が存在するかどうかを決定するために核酸配列を得ることができるであろう。特に好ましい態様においては、本明細書に引用されて組み込まれる、2000年12月20日に出願された米国特許出願第09/747,391号に記載される、ハイスループットなHLA型の決定法の修正法を用いることにより、細胞がスクリーニングされる。つまり、その方法は、a)ドナー細胞から鋳型の核酸を単離すること;b)鋳型の核酸を増幅すること;c)スクリーニングされる有益な遺伝子の既知の核酸配列を各々有する捕捉オリゴヌクレオチドが固定化されたアレイに鋳型の核酸をハイブリダイズすること;d)鋳型の核酸がハイブリダイズする特定の捕捉オリゴヌクレオチドを決定し、細胞が有益な遺伝子を有するかどうかを決定すること、を含む。
【0057】
細胞は、また、マイクロアレイ技術を用いてスクリーニングされることができる。DNAサンプルは、96穴アレイにハイブリダイズすることができ、各々の標的は有益な遺伝子、即ち、関心対象の多型の核酸配列に対応する核酸配列を含んでいる。マイクロアレイの画像は、CCDカメラを用いて収集され、蛍光シグナルに関連する標的要素を特定するために解析される。これらの要素は、有益な遺伝子を発現する幹細胞サンプルを示す。
【0058】
他の態様においては、すなわちウエスタンブロット、標準的なイムノアッセイ法、およびフローサイトメトリーのような、有益な遺伝子のタンパク質産物を検出するために適した標準的な免疫学的な方法を用いることによって、細胞が有益な遺伝子についてスクリーニングされる。イムノアッセイ法技術の一般的な概要は、Harlow&Lane,Antibodies:A Laboratory Manual(1988)において見つけることができる。本発明の有益な遺伝子によって発現されたタンパク質は、周知の多くの免疫学的な結合アッセイ法(例えば、米国特許第4,366,241号、米国特許第4,376,110号、米国特許第4,517,288号、および米国特許第4,837,168号、参照)のいずれかを用いて検出、および/または定量されることができる。一般的なイムノアッセイ法の総説としては、Methods in Cell Biology:Antibodies in Cell Biology,volume 37(Asai,ed.1993)、およびBasic and Clinical Immunology(Stites&Terr,eds.,7
th ed.1991)を参照のこと。免疫学的な結合アッセイ法(即ち、イムノアッセイ法)は典型的には、タンパク質または抗原(この場合、有益な遺伝子から発現したタンパク質、またはその抗原性のあるサブ配列)に特異的に結合する最適な抗体を用いる。抗体は、当業者に周知の多くの方法のいずれかによって作製されることができる。
【0059】
有益な遺伝子が発現しないタンパク質をコードする場合、細胞は、タンパク質の非存在についてスクリーニングされることができる。
【0060】
B.HLAタイプのスクリーニング
細胞のHLAの遺伝子型は、当業者に公知の様々な手段により決定することができる。好ましくは、HLAの遺伝子型は、2000年12月20日に出願された米国特許出願第09/747,391号に記載されるハイスループットなHLA型の決定法を用いることによって決定される。つまり、その方法は、a)細胞から鋳型の核酸を単離すること;b)決定される少なくとも一つの遺伝子座の各々の対立遺伝子に対する十分な生成物を産出させるために鋳型の核酸を増幅すること;c)HLAの対立遺伝子の既知の核酸配列を各々有する、捕捉オリゴヌクレオチドが固定化されたアレイに鋳型の核酸をハイブリダイズすること;d)鋳型の核酸がハイブリダイズする特定の捕捉オリゴヌクレオチドを決定し、対象が有益な遺伝子を有するかどうかを決定することを含む。
【0061】
細胞は、また、マイクロアレイ技術を用いてスクリーニングされうる。DNAサンプルは、96穴アレイにハイブリダイズすることができ、各々の標的は、HLAの対立遺伝子の核酸配列に対応する核酸配列を含んでいる。マイクロアレイの画像は、CCDカメラを用いて収集され、蛍光シグナルに関連する標的要素を特定するために解析される。これらの要素は、幹細胞サンプルのHLAの遺伝子型を示す。
【0062】
他の標準的な方法は、血清学的な細胞性の識別(TerasakiおよびMcClelland,Nature,204:998(1964)参照)、制限酵素断片長多型(RFLP)解析、HLAの対立遺伝子を区別するための、配列特異的なオリゴヌクレオチドプローブ(PCR-SSO)によるPCR増幅産物のハイブリダイゼーション(Tiercyら、Blood Review,4:9-15(1990)参照)、配列特異的プライマー増幅(PCR-SSP)(OlerupおよびZetterquist Tissue Antigens,39:225-235(1992)参照)、および一次高次構造多型(SSCP)を含む。商業的に利用可能な方法も、また、HLAの遺伝子型を決定するために用いられうる。
【0063】
VII. 幹細胞に富む細胞集団の患者への移植
特定の態様において、有益な遺伝子を含む細胞はHLA型の決定なしに移植される。他の態様においては、レシピエントとの適合性を確実にするため、細胞のHLA型を決定する。
【0064】
HLAマーカーの一致の数は、ユーザーのニーズと幹細胞の源に依存する。臍帯血を含む、胚または胎児の組織から単離された幹細胞は、6つのうち4つ、6つのうち5つ、または6つのうち6つのマーカーの一致で用いられることができる。成人からの幹細胞は、好ましくは、6中6のHLAマーカーの一致で用いられる。
【0065】
免疫障害の患者において、移植片対宿主反応は弱められ、完全には一致しない幹細胞も用いられることができる。
【0066】
スクリーニング後、望ましい有益な遺伝子および適切なHLAの遺伝子型を発現する細胞は選択され、移植のために調製される。必要ならば、治療用の幹細胞ユニットは、幹細胞を培養し、安定な細胞株を維持するために用いられる標準的な方法を用いてエクスビボ(インビボ)で増殖される。あるいは、これらの細胞はインビトロで増殖される。これらの細胞は、将来の移植処置のために用いられうる。特定の態様においては、幹細胞に富む細胞集団は、幹細胞について、移植前にさらに濃縮される。幹細胞を選択する方法は、本技術分野において周知である。例えば、サンプルは、蛍光ラベルされたモノクローナル抗体で、未分化の造血性幹細胞の細胞表面マーカー(例えば、CD34,CD59,Thy1,CD38low,C-kit low,lin minus)をタグ付けすること、および蛍光活性化細胞選別(FACS)で選別することによって、濃縮されることができる。他の態様においては、幹細胞に富む集団のサンプルは、さらに濃縮にされることなく移植される。
【0067】
典型的には、正常な幹細胞集団(それは、最終的にウイルスの複製への感受性の強いリンパ球を産出する)は、治療用の幹細胞ユニットの移植の前に、除去または低減される。化学療法、放射線療法、または米国特許第6,217,867号に記載される技術は、骨髄を、移植の適切な移植片に調整するために用いられる。最後に、有益な遺伝子を発現する治療用の幹細胞ユニットは、標準的な方法により患者に移植される。
【0068】
いくつかの態様においては、幹細胞を含む細胞の単離された集団は、また、薬学的な担体、好ましくは、水溶性担体をも含む。例えば、緩衝生理食塩水などの、様々な水溶性担体が用いられうる。これらの溶液は、無菌化され、通常、望ましくない物質が含まれない。これらの組成物は、慣用により、周知の無菌化の技術によって無菌化されうる。組成物は、適切な生理学的な条件を満たすように、pH調整剤および緩衝剤、毒性調整剤など、例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウム、アルブミン、CPD(クエン酸、リン酸、およびデキストロース)のような抗凝集剤、デキストラン、DMSO、これらの組み合わせなど、薬学的に許容される補助剤を含みうる。これらの処方における活性作用物質の濃度は、広く変化することができ、選択された投与の特定の様式や患者のニーズに応じて、流体の容積、粘度、体重などに基づいて選択されるであろう。
【0069】
いくつかの実例においては、特定のドナーからの幹細胞は、発明の実施において特に有用であることが証明されるであろう。最初の提供後、追加的な幹細胞はドナーの同意で得られうる。ドナーの秘密性は、2回以上の提供が得られる場合も、維持されるであろう。
【0070】
VIII. 治療上の適用
好ましくは、本発明の方法は、AIDS、およびARCのようなHIV感染から生じる疾病や症状を治療または予防するために用いられうる。本発明の方法は、疾病を効果的に治療または予防するために、既存の抗ウイルス治療と併用して容易に実施されることが可能であると認識され得る。HIV疾病の治療のための有益な遺伝子を有する幹細胞は、胚、骨髄、末梢血、胎盤血、臍帯血、脂肪組織などから誘導されうる。
【0071】
HIV疾病の進行は、移植のための有益な遺伝子を有する幹細胞の選択に影響しうる。つまり、感染の初期において、HIVの単離体は、主に単球親和性(M-トロピック)であり、その宿主の範囲は、PBLsおよび単球/マクロファージの系統の細胞に通常、限定される。M-トロピックなHIV種は、CCR5を通じてマクロファージに感染する。感染が進行したとき、HIV単離体は、しだいにT細胞系親和性(TCLトロピック)を増加し、宿主の範囲は通常、T細胞に限定される。TCLトロピックのHIV種は、CXCR4を通してT細胞に感染する。両親和性なHIV単離体も、また、知られている。当業者は、特定のHIV単離体の指向性は、HIV種の細胞株へ感染する能力を測定することにより決定されうることを認識するであろう。即ち、TCLトロピックなHIV種はT細胞系を感染しうるが、M-トロピックなHIV種はマクロファージ系を感染しうる。加えて、TCLトロピックなHIV種は、感染後に細胞融合を引き起こし、これは、通常の技術によって検出されることができる。
【0072】
いくつかの態様においては、HIV抵抗性CCR5の多型を有する幹細胞は、主にM-トロピックなHIVウイルスで感染した患者に移植される。HIV抵抗性CCR5の多型はまた、M-トロピック、およびTCLトロピックなHIV種の混合、または両親和性なHIV種に感染した患者を治療するためにも用いられうる。他の態様においては、HIV抵抗性CXCR4の多型を有する幹細胞は、主にTCLトロピックなHIVウイルスで感染された患者に移植される。HIV抵抗性CXCR4の多型はまた、M-トロピック、およびTCLトロピックなHIV種、または両親和性なHIV種の混合に感染した患者を治療するためにも用いられることができる。
【0073】
発明の態様のための理論上の基礎を形成する要因および事象がここで議論される。しかし、この議論は、いかなる意味においても、本発明を拘束または限定するものとして考慮されるものではない。当業者は、本発明の理論上の基礎を記載するために用いられるモデルにかかわらず、発明の様々な態様が実施されることができることを理解するであろう。
【0074】
次の実施例はクレーム発明の説明のために提供されるが、クレームの発明を制限するものではない。
【実施例】
【0075】
実施例1:
この実施例は、本発明の方法の一つの態様を説明する(
図1)。幹細胞は、臍帯血、または別の適切な源から収集され、その後、有益な変異についてスクリーニングされる。あるいは潜在的なドナーは、標準的な遺伝子型の決定方法を用いて有益な変異についてスクリーニングされる。有益な変異を有する幹細胞、および/またはドナーが一度、特定されると、それらはHLA型が決定され、治療を望むHIV/AIDS患者のHLA型と適合される。次に、潜在的なレシピエントが、関連する臨床基準を用いて選択され、標準的な幹細胞移植プロトコールに従って、幹細胞が移植される。特定の事例においては、幹細胞もまた、HLAが適合していなくても、患者に移植される。
【0076】
実施例2:
本実施例は、本発明の方法をCCR5δ32の多型についてスクリーニングするために用いる場合について、本発明の方法を説明するものである。この欠失についてホモ接合性の個体からの免疫細胞は、HIVのその個体への感染にもかかわらず、非感染が維持されるが、これはおそらく、変異が、細胞表面のHIV共レセプターCCR5の発現を阻害するためである。
【0077】
無関係の乳児からの臍帯血のサンプルはステムサイト臍帯血バンクから得られた。DNAは、塩抽出法を用いて、濃縮サンプルから抽出された。細胞は最初に溶解され、遠心分離された。その後、水が加えられ、サンプルは再び遠心分離された。ペレットはプロテイナーゼKで分解された。DNAは、その後、6Mの塩酸グアニジンの添加によって抽出され、数分間、70℃でインキュベートされた。サンプルは再び遠心分離され、上清は95%エタノールで沈殿された。ペレットはその後、乾燥され、適当なバッファーに再懸濁された。
【0078】
DNAサンプルは配列決定され、CCR5δ32の多型の核酸配列に相当する核酸配列の存在についてスクリーニングされた。ホモ接合性またはヘテロ接合性の多型を含む細胞のサンプルは、また、商用の手法を用いてHLAの型を決定した。
【0079】
約5千個の臍帯サンプルが、HIV抵抗性のホモ接合性のCCR5の変異の存在について検査された。CCR5δ32の多型がホモ接合性であるHIV抵抗性の22サンプルが同定された。CCR5δ32の多型がヘテロ接合性であるHIV抵抗性の約500サンプルが同定された。サンプルは、また、HLA遺伝子型についてスクリーニングされ、凍結保存された。
【0080】
有益な多型および患者に最も近いHLAの適合を有するサンプルが選択され、HIVの治療のための患者に静脈注入される。
【0081】
本明細書に記載された実施例および態様は、単に説明の目的のためであり、その観点から様々な修正、または変化が当業者に示唆され、本明細書の精神および権限ならびに添付のクレームの範囲内に含まれることが理解される。本明細書に引用される全ての刊行物、特許および特許出願は、全ての目的のために、全体として本明細書に参照として組み入れられる。