(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
表面にフィンがろう付けされる熱交換器用アルミニウム合金チューブであって、表面に塗布したSiとZnを含むろう付け用塗膜をろう付け時に溶融させてチューブ表面の面方向および深さ方向に生成したZnを含むAl−Si液相ろう材からSiとZnをチューブ内部側に拡散させて形成した厚さ30〜150μmであって、電位がチューブ自体の電位よりも低く、かつ、電位がチューブの深さ方向に±10mVの範囲で一定な領域を有する犠牲陽極層が形成されたことを特徴とする耐食性に優れた熱交換器用アルミニウム合金チューブ。
前記Si粉末の最大粒径(D99)が20μm以下、平均粒径(D50)が1〜10μmであることを特徴とする請求項3に記載の耐食性に優れた熱交換器用アルミニウム合金チューブ。
Si:0.1〜0.6質量%、Fe:0.1〜0.6質量%、Mn:0.1〜0.6質量%、Ti:0.005〜0.2質量%、Cu:0.1質量%未満、残部Alからなるアルミニウム合金からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の耐食性に優れた熱交換器用アルミニウム合金チューブ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
図1は、本発明に係るアルミニウム合金チューブを備えた熱交換器の一例を示すもので、この形態の熱交換器100は、左右に離間し平行に配置されたヘッダーパイプ1、2と、これらのヘッダーパイプ1、2の間に相互に間隔を保って平行に、かつ、ヘッダーパイプ1、2に対してほぼ直角に接合された複数の扁平状のチューブ3と、各チューブ3にろう付けされた波形のフィン4を主体として構成されている。ヘッダーパイプ1、2、チューブ3及びフィン4は、後述するアルミニウム合金から構成されている。
より詳細には、ヘッダーパイプ1、2の相対向する側面に
図2または
図3に示すスリット6が各パイプの長さ方向に定間隔で複数形成され、これらヘッダーパイプ1、2の相対向するスリット6にチューブ3の端部を挿通してヘッダーパイプ1、2間にチューブ3が架設されている。また、ヘッダーパイプ1、2間に所定間隔で架設された複数のチューブ3の上下面側にフィン4が配置され、これらのフィン4がチューブ3の上面側あるいは下面側にろう付けされている。即ち、
図3に示す如く、ヘッダーパイプ1、2のスリット6に対してチューブ3の端部を挿通した部分においてろう材によりフィレット8が形成され、ヘッダーパイプ1、2に対してチューブ3がろう付けされている。また、波形のフィン4において波の頂点の部分を隣接するチューブ3の表面に対向させてそれらの間の部分にろう材によりフィレット9が形成され、チューブ3の表面に波形のフィン4がろう付けされている。
【0012】
この形態の熱交換器100は、後述する製造方法において詳述するように、ヘッダーパイプ1,2とそれらの間に架設された複数のチューブ3と複数のフィン4とを組み付けて
図2に示す如く構成された熱交換器組立体101をろう付けすることにより製造されたものである。
ろう付け前のチューブ3には、フィン4が接合される表面に、Si粉末:1〜5g/m
2と、Zn含有フッ化物系フラックス(KZnF
3):3〜10g/m
2と、バインダ(例えば、アクリル系樹脂):0.5〜3.5g/m
2からなる配合組成のろう付け用塗膜(ろう材塗膜)7が
図4に示す如くチューブ3のフィンと接合される表面を覆うように(コーナー部分を除いて塗膜が表面を覆うように)形成されている。なお、図示しないが、塗膜は外周表面全面に形成されていても良い。
【0013】
本実施形態のチューブ3は、
図4に示す如くその内部に複数の通路3Cが形成されるとともに、平坦な上面3A及び下面3Bと、これら上面3A及び下面3Bに隣接する側面3Dとを具備し、
図4の横断面に示す如き偏平多穴管として構成されている。
そして、一例としてろう付け前のチューブ3の上面3Aと下面3Bにおいて、チューブ3の長さ方向に直交する方向の幅方向両端部に未塗布部を所定幅で若干残すようにして前記ろう付け用塗膜7が形成されている。
【0014】
図4に示す横断面形状のチューブ3を適用し、後述する組成のアルミニウム合金からチューブ3を形成し、フィン4を後述の組成のアルミニウム合金から形成し、ろう付け用塗膜7を後述の組成物とした場合、チューブ3と、フィレット9によりチューブ3に接合されるフィン4とからなる構造物においては、ろう付け用塗膜7が設けられていないチューブの側面3D側が防食されるカソード部となり、フィン4及びフィレット9が優先(犠牲)腐食されるアノード部となる。また、ろう付け後のチューブ3の表面部分には、ろう付け用塗膜7に含まれていたSiとZnがろう付け温度で拡散した結果、SiとZnを含む犠牲陽極層3aが形成されている。
【0015】
以下、前記ろう付け用塗膜7を構成する組成物について説明する。
<Si粉末>
Si粉末は、チューブ3を構成するAlと反応し、フィン4とチューブ3を接合するろうを形成するが、ろう付け時にZn含有フラックスとSi粉末が溶融してろう液となる。このろう液にフラックス中のZnが均一に拡散し、チューブ3の表面に均一に広がる。液相であるろう液内でのZnの拡散速度は固相内の拡散速度より著しく大きいので、これにより均一なZn拡散がなされ、チューブ3表面の面方向のZn濃度がほぼ均一となる。また、チューブ3の表面から深さ方向への拡散について見ると、チューブ表面に形成されたZnを含むろう材により表面に均一に広がったSiやZnが深さ方向へも拡散し、所定厚さの犠牲陽極層3aが生成する。この犠牲陽極層3aにあっては、その電位が一定(±10mVの範囲で一定)になっている。この犠牲陽極層3aの生成によりチューブ3の耐食性を向上することができる。
【0016】
<Si粉末塗布量:1〜5g/m
2>
Si粉末の塗布量が1g/m
2未満であると、ろう形成が不十分となり、均一な犠牲陽極層が形成されなくなる一方、塗布量が5g/m
2を超えると、犠牲陽極層表面に貴なSiを多く含んだカソード層が形成され、犠牲陽極層の効果が短時間となる。このため、塗膜におけるSi粉末の含有量は1〜5g/m
2とする。
<Si粉末粒度:最大粒径:(D99):20μm以下>
<Si粉末粒度:平均粒径:(D50):1〜10μm>
Si粉末の粒度が(D99)において20μm以下であれば、均一な犠牲陽極層を形成することが可能である反面、20μmを超えると、局部的に深いエロージョンが生成し、均一な犠牲陽極層を形成できなくなる。このため、Si粉末の粒度は、最大粒径(D99)において20μm以下が好ましい。
Si粉末の粒度が平均粒径(D50)において1〜10μmの範囲内であれば、均一な犠牲陽極層を形成することができる。しかし、1μm未満であると、ろう形成が不十分となり、均一な犠牲陽極層が形成されない。一方、10μmを超えると、ろう形成が点在し、均一な犠牲陽極層が形成されない。このため、Si粉末の粒度は、(D50)において1〜10μmとするのが好ましい。
なお、(D99)とは、体積割合で小さい粒から累積し、全体の99%となる粒の粒径のことである。また、(D50)とは、体積割合で小さい粒から累積し、全体の50%となる粒の粒径のことである。これらの値は、いずれもレーザ光散乱法で測定することができる。
【0017】
<Zn含有フッ化物系フラックス>
Zn含有フッ化物系フラックスは、ろう付けに際し、チューブ3の表面に犠牲陽極層の電位を適正に卑とするZnを拡散させた犠牲陽極層3aを形成する効果がある。また、ろう付け時にチューブ3の表面の酸化物を除去し、ろうの広がり、ぬれを促進してろう付け性を向上させる作用を有する。
<フラックス塗布量:3〜10g/m
2>
Zn含有フッ化物系フラックスの塗布量が3g/m
2未満であると、電位差が10mV未満となり、犠牲効果が発揮されない。また、被ろう付け材(チューブ3)の表面酸化皮膜の破壊除去が不十分なためにろう付け不良を招く。一方、塗布量が10g/m
2を超えると、電位差が50mVを超えるようになり、腐食速度が増加し、犠牲陽極層3aの存在による防食効果が短時間になる。このため、Zn含有フッ化物系フラックスの塗布量を3〜10g/m
2とすることが好ましい。
Zn含有フッ化物系フラックスは、KZnF
3を用いることができる。なお、フラックスの粒度は(D50)において1〜6μmの範囲が好ましい。
【0018】
<バインダ>
塗布物には、Si粉末、Zn含有フッ化物系フラックスに加えてバインダを含む。バインダの例としては、好適にはアクリル系樹脂を挙げることができる。
バインダは犠牲陽極層3aの形成に必要なSi粉末とZn含有フラックスをチューブ3の表面に固着する作用があるが、バインダの塗布量が0.5g/m
2未満であると、ろう付け前やろう付け時にSi粉末やZnフラックスがチューブ3から脱落し、均一な犠牲陽極層3aが形成されない。一方、バインダの塗布量が3.5g/m
2を超えると、バインダ残渣によりろう付け性が低下し、均一な犠牲陽極層3aが形成されない。このため、バインダの塗布量は、0.5〜3.5g/m
2とする。なお、バインダは、通常、ろう付けの際の加熱により蒸散する。
【0019】
Si粉末、フラックス及びバインダからなるろう付け組成物の塗布方法は、本発明において特に限定されるものではなく、スプレー法、シャワー法、フローコータ法、ロールコータ法、刷毛塗り法、浸漬法、静電塗布法などの適宜の方法によって行うことができる。また、ろう付け組成物の塗布領域は、チューブ3の全表面としてもよく、また、チューブ3の表面の一部であっても良く、要は、少なくともフィン4をろう付けするのに必要なチューブ3の表面領域に塗布されていれば良い。また、塗布方法によっては上面等にろう付け組成物を塗布した場合、結果的に側面にも一部形成されてしまうことがあるが、このようなものであっても良い。
【0020】
チューブ3は、Si:0.1〜0.6%、Fe:0.1〜0.6質量%、Mn:0.1〜0.6質量%、Ti:0.005〜0.2質量%、Cu:0.1質量%未満、残部がアルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金を押出することにより作製されたものである。
以下、チューブ3を構成するアルミニウム合金の各構成元素の限定理由について説明する。
<Si:0.1〜0.6質量%>
Siの含有量はSi拡散勾配を緩やかにし、均一な犠牲陽極層を形成するために重要である。Siの含有量が0.1質量%未満では、Si拡散勾配が大きくなり、均一な犠牲陽極層が形成されない。一方、Siが0.6質量%を超えて含有されると、チューブを構成する合金の融点が下がり、押出性が低下する。したがって本発明におけるSi含有量は、0.1〜0.6質量%にする。より好ましいSiの含有量は、0.2〜0.5質量%である。
<Fe:0.1〜0.6質量%>
Feは、拡散Siと金属間化合物を形成し、均一な犠牲陽極層を生成するために有効である。Feの含有量が0.1質量%未満ではSi拡散勾配が大きくなり、均一な犠牲陽極層が生成されなくなる。Feの含有量が0.6質量%を超えると、チューブの構成するアルミニウム合金中の金属間化合物が増加し、押出性(金型寿命)を下げる傾向がある。より好ましいFeの含有量は、0.15〜0.5質量%である。
<Mn:0.1〜0.6質量%>
Mnは、拡散Siと金属間化合物を形成し、均一な犠牲陽極層を形成する上で有効な元素である。また、Mnは、チューブ3の耐食性を向上するとともに、機械的強度を向上させ、押出し成形時の押出性を向上する上でも有効な元素である。
Mnの含有量が0.1質量%未満では、Si拡散勾配が大きくなり、均一な犠牲陽極層が形成されなくなり、Mnが0.6質量%を超えて含有すると、押出圧力増により押出性が低下する。したがって本発明におけるMn含有量は、0.1〜0.6質量%にする。より好ましいMnの含有量は、0.15〜0.5質量%である。
<Ti:0.005〜0.2質量%>
Tiは、耐食性を阻害しない微細な金属間化合物を形成し、チューブ3の強度向上にも寄与する。0.005質量%未満では添加効果が見られず、0.2質量%を超えて添加するとチューブ合金の押出圧力が上がり、押出性が低下する。より好ましいTiの含有量は0.005〜0.1質量%である。
<Cu:0.1質量%未満>
Cuはチューブの電位を高くし、犠牲陽極層効果を長時間維持するために有効であるが、添加量が0.1質量%を超えると、腐食速度が増加し、犠牲陽極層の効果が逆に短時間になる。Cuの添加量として好ましくは0.05質量%未満である。
【0021】
次に、フィン4について説明する。
チューブ3に接合されるフィン4は、JIS3003系のアルミニウム合金を主体とした合金を適用することができる。また、JIS3003系のアルミニウム合金に質量%で2%程度のZnを添加したアルミニウム合金からフィン4を形成しても良い。
フィン4は、上記組成を有するアルミニウム合金を常法により溶製し、熱間圧延工程、冷間圧延工程などを経て、波形形状に加工される。なお、フィン4の製造方法は、本発明としては特に限定をされるものではなく、既知の製法を適宜採用することができる。
【0022】
次に、ヘッダーパイプ1について説明する。
ヘッダーパイプ1は、
図2、
図3に示すように、芯材層11と、芯材の外周側に設けられた犠牲材層12と、芯材の内周側に設けられたろう材層13とからなる3層構造をなしている。
芯材層11の外周側に犠牲材層12を設けることにより、フィン4による防食効果に加えてヘッダーパイプ1による防食効果も得られるため、ヘッダーパイプ1近傍のチューブ3の犠牲防食効果をより高めることができる。
【0023】
芯材層11は、Al−Mn系をベースとした合金が好ましい。
例えば、Mn:0.05〜1.50%を含有することが好ましく、他の元素として、Cu:0.05〜0.8%、Zr:0.05〜0.15%を含有することができる。
芯材層11の外周側に設けられる犠牲材層12は、Zn:0.60〜1.20%、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金から構成される。犠牲材層12は、クラッド圧延により芯材層11と一体化されている。
【0024】
次に、以上説明したヘッダーパイプ1、2チューブ3及びフィン4を主たる構成要素とする熱交換器100の製造方法について説明する。
図2は、フィン4との接合面にろう材層13を塗布したチューブ3を使用して、ヘッダーパイプ1、2、チューブ3及びフィン4を組み立てた状態を示す熱交換器組立体101の部分拡大図であって、加熱ろう付けする前の状態を示している。
図2に示す熱交換器組立体101において、チューブ3はその一端をヘッダーパイプ1に設けたスリット6に挿入し取付けられている。
図2に示すように組み立てられたヘッダーパイプ1、2、チューブ3及びフィン4からなる熱交換器組立体101をろう材の融点以上の温度に加熱すると、
図3に示すように、ろう付け用塗膜7とろう材層13が溶けてヘッダーパイプ1とチューブ3、チューブ3とフィン4が各々接合され、
図1と
図3に示す構造の熱交換器100が得られる。この時、ヘッダーパイプ1の内周面のろう材層13は溶融してスリット6近傍に流れ、フィレット8を形成してヘッダーパイプ1とチューブ3とが接合される。また、チューブ3の表面のろう付け用塗膜7は溶融して毛管力によりフィン4近傍に流れ、フィレット9を形成してチューブ3とフィン4とが接合される。
【0025】
ろう付けに際しては、不活性雰囲気などの適切な雰囲気で適温に加熱して、ろう付け用塗膜7、ろう材層13を溶解させる。そうすると、フラックスの活性度が上がって、フラックス中のZnが被ろう付け材(チューブ3)表面に析出し、その肉厚方面に拡散するのに加え、ろう材及び被ろう付け材の双方の表面の酸化皮膜を破壊してろう材と被ろう付け材との間のぬれを促進する。
ろう付けのための加熱温度は、上述したように、ろう材の融点以上であるが、上述した組成からなるろう材の場合、580〜615℃に加熱され、1〜10分程度保持される。
【0026】
ろう付けに際しては、チューブ3を構成するアルミニウム合金のマトリックスの一部がチューブ3に塗布されたろう付け用塗膜7の組成物と反応してろうとなって、チューブ3とフィン4とがろう付けされる。チューブ3の表面ではろう付けによってフラックス中のZnが拡散してチューブ3内側よりも卑になる。
より詳細には、
図6に示す如くチューブ3の表面にSi粉末20とZn含有フラックス粉末21とバインダ(図示略)が塗布されている場合、全体を加熱するとバインダが初めに分解蒸発し、次いでZn含有フラックスが溶融し
図7に示す如く融液22となってチューブ3の表面に広がり、ZnとSiがチューブ3の表面に矢印13に示す如く拡散を開始する。
この後、580〜615℃のろう付け温度を所定時間保持することで
図8の矢印25に示す如くSiがAlと共晶組成となってZnを含有したAl−Si液相ろう材が生成された後、この領域がチューブ3の全域に広がる。
【0027】
前記ろう付け時の加熱により生じるZnを含有したAl−Si液相ろう材の生成により、チューブ3の表面には、
図5(A)に示す従来状態に対比して
図5(B)に示す状態如くチューブ3の側面や内部の電位に対して電位差が小さくほぼ一定の電位の領域aが生成される。即ち、単にZn拡散のみを行ってチューブ3に犠牲層を形成すると、
図5(A)に示す如くチューブ3の側面や内部の電位に対し、犠牲陽極層との電位差が大きいので、チューブの表面からの深さに応じて電位勾配が大きく変化するような電位勾配を描くようになるので、腐食速度が速くなってしまう。
これに対して
図5(B)に示す如くチューブ3の側面や内部の電位に対して電位差が小さい領域aを生成するような電位勾配とするならば、この電位差が小さい領域aの腐食速度は遅いので、耐食性に優れた構造を提供することができる。
【0028】
本実施形態のろう付け構造では、SiはAlの電位を高くさせる元素であり、ZnはAlの電位を下げる元素であるので、チューブ3における電位が、Siの添加量を増加すると上がり、Znの添加量を増加すると下がる。また、ろう付け用塗膜17に含まれているSi粉末の重量及び粒径とZnフラックスの重量、チューブ3を構成するアルミニウム合金の組成がいずれも電位勾配に影響する。
即ち、チューブ3における深さ方向の電位は、ろう付け後にチューブ3の深さ方向に含まれるSiやZnの分布状態で決定され、犠牲陽極層3aの厚さは、電位バランスが取れた状態でそれらの元素がより深い位置まで拡散すると増加する。従って、犠牲陽極層3aの厚さは、ろう付け時間の長短で制御することができ、ろう付け時間を長くすると増加できる。犠牲陽極層3aの電位差(チューブ3の内部と犠牲陽極層3aの電位差)は、犠牲陽極層3aをより卑にすると増加することができる。従って、Zn濃度が最も高いチューブ最表面部分と犠牲陽極層3aとの電位差はZn濃度で調整することができる。
更に、チューブ3に含まれるFeやMnはろう付け時に拡散するSiと結合して金属間化合物を生成するので、この金属間化合物の生成によりSiが本来有する電位を高くする効果を打ち消す作用を奏する。従って、チューブ3に含まれるFeやMnが多い場合はSiの拡散により犠牲陽極層3aの電位を上げる効果を打ち消す。
そして、ろう付け後に上述した範囲の電位一定領域aを生成するために、上述の塗布量、Si粉末最大粒径(D99)、平均粒径(D50)、組成範囲を採用することが好ましく、これらの粒径規定も犠牲陽極層3aを均一に且つ確実に生成する上で重要である。例えば、Si粉末に粒径が大きいものが含まれていると、粗大なSi粉末の存在する領域ではろう付け時にSiの拡散に伴う大きなエロージョン(浸食)が生じ、過剰な液相ろうが形成されるために、均一な犠牲陽極層が形成されず、耐食性を向上させることができない。
これらSi粉末供給量、Zn含有フラックスの供給量、バインダの供給量に加え、Si粉末の粒径、アルミニウム合金チューブの組成を調整し、ろう付けすると、
図5に示す如くほぼ一定の電位を有する領域aを生成することが本実施形態では重要である。
【0029】
本実施の形態の構造によれば、ろう付けに際して、Si粉末の残渣もなく、良好なろう付けがなされ、チューブ3とフィン4との間に十分なサイズのフィレット9が形成され、更に上述の犠牲陽極層3aが形成される。
前述の如く得られた熱交換器100によれば、チューブ3の表面に厚さ30〜150μmの電位がほぼ一定な領域aを生成するように犠牲陽極層3aが形成されているので、チューブ3の表面からチューブ3の内部にかけて、犠牲陽極層3aとチューブ内部の電位差が小さい領域aが、チューブ3の深さ方向と面方向にいずれも存在するので、この領域aの腐食速度が遅くなる結果、チューブ3の犠牲陽極層3aを早期に消耗してしまうことがなくなり、チューブ3の耐食寿命を長くすることができる効果がある。
【0030】
従って、本実施形態のチューブ3においてフィン4がろう付けされる表面に電位が一定の厚さ30〜150μmの犠牲陽極層3aを設けているので、電位差が少ないために犠牲陽極層3aの腐食速度を遅くすることができる結果、犠牲陽極層3aの早期消耗を抑制することができ、耐食寿命を長くすることができる。この犠牲陽極層3aの厚さが薄すぎる場合あるいは厚すぎる場合は従来技術より優れた耐食性が得られない。
前記犠牲陽極層3aの電位はチューブ3の内部(チューブ3のZn拡散がなされていない内部)、換言するとチューブ3自体の電位より10〜50mV程度低いことが望ましく、この程度の電位差を設けることにより犠牲陽極層3aの早期消耗を抑制することができ、犠牲防食効果を長期間十分に発揮させてチューブ3の耐食寿命を向上させることができる。
【実施例】
【0031】
表1に示す組成のフィン用アルミニウム合金(JIS3003+2質量%Zn)を均質加熱処理後、熱間圧延、冷間圧延することにより厚さ0.1mmの板材を得た。この板材をコルゲート加工することにより、試験用のベアフィンを作製した。
表2、表3に示す組成のチューブ用アルミニウム合金を溶製した。このチューブ用アルミニウム合金を均質加熱処理後、熱間押出により
図4に示す横断面形状(肉厚0.26mm×幅17.0mm×全体厚1.5mm)であって、扁平状の熱交換器用アルミニウム合金チューブを作製した。
【0032】
【表1】
【0033】
次に、偏平状の熱交換器用アルミニウム合金チューブの表面に、ろう材組成物をロール塗布し、乾燥させた。
ろう材組成物は、Si粉末((D50)粒度(平均粒径)と(D99)粒度(最大粒径))と、フラックス(KZnF
3:(D50)粒度2.0μm)及びアクリル系樹脂(溶剤としての3メトキシ−3メチル−1ブタノール、イソプロピルアルコール等のアルコールや水を含む)の混合物からなる、各要素の塗布量が以下の表2、表3に示す値となるようにそれらの混合量を定め、試験に供した。
【0034】
【表2】
【0035】
【表3】
【0036】
次に、チューブ及びフィンを
図1に示す熱交換器の構造のようにチューブ4段、フィン3段に組み立て、仮の試験体を構成した。ろう材塗膜中のSi粉末、Znフラックス粉末量、バインダ量とSi粉末粒径((D99)及び(D50))とチューブ組成について表2、表3に示す異なる組み合わせでNo.1〜41の試験体を作製した。
次に、これらの試験体を窒素雰囲気の炉内に600℃×3分保持する条件でろう付けを行った。このろう付けにより、ろう付け塗膜が形成されていたチューブの表面に、犠牲陽極層が形成されるとともにフィンがろう付けされたので、これらを熱交換器試験体とした。
このろう付け工程により得られた熱交換器試験体を用いてSWAAT20日間の耐食性試験を行った。
また、耐食性試験後の熱交換器試験体について、腐食生成物を除去した後に、犠牲陽極層が形成されていたチューブ表面に生じた腐食の深さを測定し、耐食性の評価を行った。なお、電位がほぼ一定の範囲(±10mV)となる電位一定領域を構成する犠牲陽極層は、チューブ表面から化学エッチングを繰り返し行い、その都度電位を測定することで、チューブ深さ方向の電位分布を測定し、その分布状態から犠牲陽極層厚さやチューブ内部との電位差を確認した。それらの試験結果を表2と表3に併せて示した。
【0037】
表2と表3に示す結果から、Si粉末とZn含有フラックス(KZnF
3)とバインダからなるろう付け塗膜をチューブの表面に塗布し、これをフィンとともにろう付けした熱交換器試験体にあっては、チューブ自体の電位との電位差が一定であって、所定厚さの犠牲陽極層が得られることが判明した。また、表2と表3の結果によれば、厚さ30〜140μmの範囲の電位一定犠牲陽極層を得ることができ、電位差では5〜55mVの範囲の電位一定犠牲陽極層を得ることができた。
【0038】
更に、表2と表3に示すNo.40、41の試験体の試験結果によれば、電位一定犠牲陽極層の厚さが20μmとなり、薄過ぎるか、あるいは170μmとなり、厚過ぎる試験体では、腐食深さが大きくなった。また、No.1〜39の試験体の腐食深さの結果も含めて考察すると、電位一定犠牲陽極層の厚さは30〜150μmが好適であると判断できる。
次に、ろう付け塗膜におけるSi粉末の含有量が0.4g/m
2のNo.8の試験体と、含有量が5.5g/m
2のNo.11の試験体の腐食深さが他の試験体に対し若干深くなっていることを勘案すると、Si粉末の塗布量は1〜5g/m
2の範囲がより望ましいと判断できる。
次に、ろう付け塗膜におけるZn含有フラックスの含有量が2g/m
2のNo.4の試験体と、含有量が11g/m
2のNo.7の試験体の腐食深さが他の試験体に対し若干深くなっていることを勘案すると、Zn含有フラックスの塗布量は3〜10g/m
2の範囲がより望ましいと判断できる。
次に、ろう付け塗膜におけるバインダの含有量が0.3g/m
2のNo.12の試験体と、含有量が4.5g/m
2のNo.15の試験体の腐食深さが他の試験体に対し若干深くなっていることを勘案すると、バインダの塗布量は0.5〜3.5g/m
2の範囲がより望ましいと判断できる。
【0039】
次に、Si粉末粒径について最大粒径(D99)の値が25μmのNo.16の試験体及び平均粒径(D50)が0.4μmあるいは12μmの試験体の腐食深さが他の試験体に対し若干深くなっていることを勘案すると、Si粉末粒径は、最大粒径(D99)の値が20μm以下、平均粒径(D50)が1〜10μmの範囲がより望ましいと思われる。
次に、チューブの組成についてFe含有量が多くなると押出性の低下が見られ(No.29)、Mn含有量が多い場合も押出性の低下が見られ(No.33)、Ti含有量が多くなると押出性の低下が見られる(No.37)。また、Si含有量が0.05質量%であって少ない試験体(No.22)、Si含有量が0.7質量%であって多い試験体(No.25)、Fe含有量が0.05質量%であって少ない試験体(No.26)、Fe含有量が0.7質量%であって多い試験体(No.29)、Mn含有量が0.05質量%であって少ない試験体(No.30)、Mn含有量が0.7質量%であって多い試験体(No.33)、Ti含有量が0.25質量%であって多い試験体(No.37)、Cu含有量が0.11質量%であって多い試験体(No.38)は、押出性が低下し始めるか、腐食深さが若干低下し始めている。また、Ti含有量が0.002質量%であって少ないNo.34の試験体はチューブ強度向上効果が得られ難くなっている。
【0040】
これらの結果から勘案すると、本発明に係るチューブを構成するアルミニウム合金の組成比は、Si:0.1〜0.6質量%、Fe:0.1〜0.6質量%、Mn:0.1〜0.6質量%、Ti:0.005〜0.2質量%、Cu:0.1質量%未満、残部Alであることが好ましい。また、これらの結果から、チューブを構成するアルミニウム合金の組成比は、Si:0.2〜0.5質量%、Fe:0.15〜0.5質量%、Mn:0.15〜0.5質量%、Ti:0.005〜0.1質量%、Cu:0.05質量%未満、残部Alであることがより好ましい。