(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5675093
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月25日
(54)【発明の名称】後味が改善された発酵麦芽飲料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12C 11/00 20060101AFI20150205BHJP
C12G 3/02 20060101ALI20150205BHJP
C12G 3/04 20060101ALI20150205BHJP
【FI】
C12C11/00
C12G3/02
C12G3/04
【請求項の数】11
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2009-298592(P2009-298592)
(22)【出願日】2009年12月28日
(65)【公開番号】特開2011-135833(P2011-135833A)
(43)【公開日】2011年7月14日
【審査請求日】2012年12月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】307027577
【氏名又は名称】麒麟麦酒株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075812
【弁理士】
【氏名又は名称】吉武 賢次
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【弁理士】
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 修孝
(72)【発明者】
【氏名】須 田 崇
(72)【発明者】
【氏名】蒲 生 徹
【審査官】
太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−054049(JP,A)
【文献】
国際公開第2004/106483(WO,A1)
【文献】
特表2008−543310(JP,A)
【文献】
特開2006−042661(JP,A)
【文献】
特開昭56−029987(JP,A)
【文献】
キリンビール ニュースリリース,2010年 1月 8日,平成26年3月19日検索,URL,http://www.kirin.co.jp/company/news/2010/0108c_01.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12C 11/00
C12G 3/02
C12G 3/04
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
CiNii
Thomson Innovation
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
麦芽使用比率が50重量%未満の発酵麦芽飲料の製造方法において、最終製品中のリン酸とクエン酸の含有量の比(リン酸/クエン酸)が2.3以下になるように発酵前液に使用する醸造用水の硬度を調整する、発酵麦芽飲料の製造方法。
【請求項2】
最終製品中のリン酸濃度が350mg/L以下であり、かつ/またはクエン酸濃度が100mg/L以上である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
最終製品の全窒素量が450mg/L以上であることを特徴とする、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
醸造用水の硬度がアメリカ硬度で350mg/L以上に調整された、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
カルシウム塩、あるいはカルシウム塩およびマグネシウム塩を添加することにより醸造用水の硬度を調整する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
カルシウム塩が、塩化カルシウムおよび硫酸カルシウムのうちの少なくとも1種以上を含んでなる、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
マグネシウム塩が、硫酸マグネシウムおよび塩化マグネシウムのうちの少なくとも1種以上を含んでなる、請求項5に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法で製造された発酵麦芽飲料。
【請求項9】
麦芽使用比率が50重量%未満の発酵麦芽飲料であって、飲料中のリン酸とクエン酸の含有量の比(リン酸/クエン酸)が2.3以下に調整された発酵麦芽飲料。
【請求項10】
飲料中の全窒素量が450mg/L以上である、請求項9に記載の発酵麦芽飲料。
【請求項11】
飲料中のリン酸濃度が350mg/L以下であり、かつ/またはクエン酸濃度が100mg/L以上である、請求項9または10に記載の発酵麦芽飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は後味が改善された発酵麦芽飲料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビールや発泡酒のような発酵麦芽飲料では、麦芽や未発芽の大麦、小麦が全原料中に占める割合を増加させることにより、味わいや飲み応えを付与することが一般的に行われている。これは、麦芽や大麦などの使用比率を上げることによって、それらに含まれるたんぱく質やアミノ酸といった旨み成分や、ビール特有の渋味やえぐみにつながる成分が増加し、味わいや飲み応えが増していると解することができる。しかし一方では、渋味やえぐみにつながる成分の増加は後味の悪化を招き、爽快感に欠ける飲みにくいものとなりがちであった。特に、麦芽使用比率が50重量%未満である発酵麦芽飲料においては、麦芽由来の糖化酵素が不足しがちであり、香味のボリューム感や味の厚みを補うために未発芽麦類等を使用することがあるものの、旨み成分のみを増やしながら後味を良好にすることは困難であった。
【0003】
特許文献1には、発芽穀物に含まれる口腔内刺激物質を加水分解等してエグ味物質を低減させ、すっきりとした爽やかな味わい・喉ごし・後味を有するビールを製造する方法が記載されている。また、特許文献2には麦芽を組織分画し、麦芽使用飲料の香味を調整する方法が記載されている。しかし、いずれの方法も使用原料の前処理を必要とし、しかもエグ味物質の除去が不十分であるという問題があった。また、いずれの特許文献にも後味の透明感や爽快感と、ボディ感や味の厚みが両立した発泡酒等の発酵麦芽飲料の製造方法は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2007/072747号公報
【特許文献2】WO2004/106483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、後味の透明感や爽快感があり、かつ、ボディ感や味の厚みが落ちない発泡酒などの発酵麦芽飲料とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、発酵麦芽飲料の製造において発酵前液に使用する醸造用水の硬度をリン酸とクエン酸の含有比率を指標にして調整することにより、後味の透明感や爽快感がある発酵麦芽飲料を製造できるとともに、製造された発酵麦芽飲料のボディ感や味の厚みが損なわれないことを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)麦芽使用比率が50重量%未満の発酵麦芽飲料の製造方法において、最終製品中のリン酸とクエン酸の含有量の比(リン酸/クエン酸)が2.3以下になるように発酵前液に使用する醸造用水の硬度を調整する、発酵麦芽飲料の製造方法。
(2)最終製品中のリン酸濃度が350mg/L以下であり、かつ/またはクエン酸濃度が100mg/L以上である、(1)に記載の製造方法。
(3)最終製品の全窒素量が450mg/L以上であることを特徴とする、(1)または(2)に記載の製造方法。
(4)醸造用水の硬度がアメリカ硬度で350mg/L以上に調整された、(1)〜(3)のいずれか一項に記載の製造方法。
(5)カルシウム塩、あるいはカルシウム塩およびマグネシウム塩を添加することにより醸造用水の硬度を調整する、(1)〜(4)のいずれか一項に記載の製造方法。
(6)カルシウム塩が、塩化カルシウムおよび硫酸カルシウムのうちの少なくとも1種以上を含んでなる、(5)に記載の製造方法。
(7)マグネシウム塩が、硫酸マグネシウムおよび塩化マグネシウムのうちの少なくとも1種以上を含んでなる、(5)に記載の製造方法。
(8)(1)〜(7)のいずれか一項に記載の方法で製造された発酵麦芽飲料。
(9)麦芽使用比率が50重量%未満の発酵麦芽飲料であって、飲料中のリン酸とクエン酸の含有量の比(リン酸/クエン酸)が2.3以下に調整された発酵麦芽飲料。
(10)飲料中の全窒素量が450mg/L以上である、(9)に記載の発酵麦芽飲料。
(11)飲料中のリン酸濃度が350mg/L以下であり、かつ/またはクエン酸濃度が100mg/L以上である、(9)または(10)に記載の発酵麦芽飲料。
【0008】
本発明によれば、後味の透明感・爽快感と、ボディ感・味の厚みとを両立させた発酵麦芽飲料が提供される。後味の透明感・爽快感と、ボディ感・味の厚みとを両立させた発酵麦芽飲料は、特に麦芽使用比率50重量%未満の発酵麦芽飲料ではこれまでに実現できなかったことから、本発明は需要者から求められる新しいタイプの発酵麦芽飲料を提供できる点で有利である。
【0009】
本発明において「発酵麦芽飲料」とは、炭素源、窒素源および水などを原料として酵母により発酵させた飲料であって、原料として少なくとも麦芽を使用した飲料を意味する。麦芽使用比率が50重量%未満の「発酵麦芽飲料」としては、原料として少なくとも麦芽を使用する発泡酒、リキュール(例えば、酒税法上、「リキュール(発泡性)(1)」に分類される飲料)が挙げられる。
【0010】
本発明による製造方法では、発酵前液に使用される醸造用水の硬度を調整する。好ましくは、原料の糖化開始前に醸造用水の硬度を調整することができる。醸造用水の硬度調整は、例えば、カルシウム塩やマグネシウム塩を醸造用水に添加することにより行うことができるが、醸造用水への原料投入と同時にカルシウム塩やマグネシウム塩を添加して硬度を調整してもよい。
【0011】
本発明による製造方法では、使用する醸造用水の硬度を予め測定し、それ以上の硬度が必要な場合には、カルシウム塩および/またはマグネシウム塩を醸造用水に添加して所望の硬度になるように調整することができる。
【0012】
本発明において使用可能なカルシウム塩としては、塩化カルシウム、硫酸カルシウムが挙げられる。本発明において使用可能なマグネシウム塩としては、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウムが挙げられる。後述するように醸造用水の硬度を調整できる限り使用されるカルシウム塩やマグネシウム塩に特に限定はないが、好ましくは、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウムを使用することができる。
【0013】
本発明において「醸造用水の硬度」は、カルシウム塩・マグネシウム塩の量を炭酸カルシウム(CaCO
3)の量に換算した「アメリカ硬度」を用いることとし、その硬度は次式で算出することができる。
【0014】
硬度(mg/L)=カルシウム濃度(mg/L)×2.5+マグネシウム濃度(mg/L)×4.1
【0015】
カルシウム濃度およびマグネシウム濃度は、例えば、BCOJ−2008(改訂BCOJビール分析法 ビール酒造組合 国際技術委員会(分析委員会)編)に記載のICP−AES法(INDUCTIVELY COUPLED PLASMA-ATOMIC EMISSION SPECTROSCOPY法)に従って測定することができる。
【0016】
本発明による製造方法では、最終製品中のリン酸とクエン酸の含有量の比(リン酸/クエン酸)が2.3以下となるように醸造用水の硬度の調整を行う。リン酸およびクエン酸濃度は、例えば、Agilent社のキャピラリー電気泳動システム(HPCE)に従って測定することができる。
【0017】
最終製品中のクエン酸とリン酸は全原料中の麦芽、未発芽麦類等に由来し、リン酸を含む苦味・渋味成分の一部はカルシウムやマグネシウム等とリン酸塩等の塩を形成して醸造系外に除去されると考えられる。従って、クエン酸含量の増加はボディ感や味の厚みに、リン酸含量の減少は後味の透明感や爽快感に、それぞれ寄与していると考えられる。以下の理論に拘束される訳ではないが、リン酸以外のシュウ酸等の苦味・渋味成分もカルシウムやマグネシウム等と塩を形成して醸造系外に除去されると考えられ、リン酸含量の変化は苦味成分や渋味成分の含量の変化を反映していると考えられる。
【0018】
本発明では醸造用水の硬度の調整や決定は後記実施例を参照して行うことができる。例えば、低めの硬度の醸造用水(例えば、硬度350mg/L程度の醸造用水)を使用して試験醸造を行い、最終製品中のクエン酸とリン酸の含量比が2.3以上の場合には、醸造用水の硬度を当初の硬度よりも高く設定し直すことで、後味の透明感や爽快感があり、かつ、ボディ感や味の厚みが落ちない発酵麦芽飲料を製造することができる。
【0019】
本発明においては、後味の透明感や爽快感をより良く達成するために最終製品中のリン酸濃度を350mg/L以下、好ましくは、300mg/L以下にすることができる。
【0020】
本発明においては、また、ボディ感や味の厚みをより良く達成するために最終製品中のクエン酸濃度を100mg/L以上、好ましくは、120mg/L以上にすることができる。
【0021】
最終製品中の全窒素量はボディ感や味の厚みの指標となりうる。従って、本発明においては、ボディ感や味の厚みをより良く達成するために最終製品中の全窒素量を450mg/L以上、好ましくは、500mg/L以上とすることができる。全窒素量は、例えば、スミグラフ燃焼法に従って測定することができる。
【0022】
本発明においては醸造用水の硬度をアメリカ硬度で、350mg/L以上に調整することができる。醸造用水の硬度の上限は、硬度調整のために添加するカルシウム塩やマグネシウム塩のコストや香味の観点から1300mg/Lに調整することができる。
【0023】
本発明では香味をより良く向上させる観点からカルシウム塩やマグネシウム塩を選択して添加してもよい。例えば、塩素イオンはまろやかな濃い味を飲料に付与し、硫酸イオンはドライな味を飲料に付与する。従って、まろやかな濃い味を飲料に付与する場合には塩化カルシウムや塩化マグネシウムを選択することができる。また、ドライな味を飲料に付与する場合には硫酸カルシウムや硫酸マグネシウムを選択することができる。例えば、硬度350の醸造用水を使用する場合には糖化開始時の醸造用水の塩素イオン濃度が0〜110ppm、硫酸イオン濃度が190〜350ppmとなるようにカルシウム塩およびマグネシウム塩を添加することができ、硬度1300の醸造用水を使用する場合には糖化開始時の醸造用水の塩素イオン濃度が0〜110ppm、硫酸イオン濃度が1100〜1250ppmとなるようにカルシウム塩およびマグネシウム塩を添加することができる。
【0024】
本発明による製造方法は、硬度が調整された醸造用水を使用する以外は、通常の発酵麦芽飲料の製造手順に従って実施することができる。すなわち、麦芽、ホップ、硬度が調整された醸造用水等の醸造原料から調製された麦汁に発酵用ビール酵母を添加して発酵を行い、発酵麦芽飲料を醸成させることができる。得られたビール風味の発酵麦芽飲料は、低温にて貯蔵した後、ろ過工程により酵母を除去することができる。
【0025】
上記製造手順において麦汁の作製は常法に従って行うことができる。例えば、醸造原料と硬度が調整された醸造用水の混合物を糖化し、濾過して、麦汁を得、その麦汁にホップを添加した後、煮沸し、煮沸した麦汁を冷却することにより麦汁を調製することができる。
【0026】
本発明による製造方法では、麦芽以外に、未発芽の麦類(例えば、未発芽大麦(エキス化したものを含む)、未発芽小麦(エキス化したものを含む));米、とうもろこし、こうりゃん、馬鈴薯、でんぷん、糖類(例えば、液糖)等の酒税法で定める副原料;タンパク質分解物や酵母エキス等の窒素源;香料、色素、起泡・泡持ち向上剤、水質調整剤、発酵助成剤等のその他の添加物を醸造原料として使用することができる。本発明による製造方法では、香味のボリューム感や味の厚みを補うために、麦芽に加えて未発芽の麦類を原料として使用することができる。すなわち、本発明による製造方法では、醸造用水以外の使用原料を少なくとも麦芽、未発芽の麦類(好ましくは、未発芽大麦)およびホップとすることができ、場合によっては更に糖類、米、とうもろこし、でんぷん等を使用してもよい。麦芽と未発芽麦類の合計使用量は、例えば、醸造用水を除く全原料に対して30重量%以上、好ましくは、50重量%以上とすることができる。
【0027】
本発明による製造方法では、麦芽使用比率が50重量%未満となるように醸造原料を準備する。本発明での麦芽使用比率は、好ましくは、20重量%以上50重量%未満、より好ましくは、40重量%以上50重量%未満とすることができる。なお、本発明において「麦芽使用比率」とは、醸造用水を除く全原料の重量に対する麦芽重量の割合をいう。
【0028】
本発明の好ましい態様によれば、麦芽使用比率が20重量%以上50重量%未満の発酵麦芽飲料の製造方法において、最終製品中のリン酸とクエン酸の含有量の比(リン酸/クエン酸)が2.3以下になるように、原料の糖化開始前に醸造用水の硬度を調整する、発酵麦芽飲料の製造方法が提供される。上記製造方法では、醸造用水の硬度を350〜1300mg/L、好ましくは、800〜1300mg/L、より好ましくは、950〜1300mg/Lとすることができる。上記製造方法では、また、醸造用水以外の使用原料を少なくとも麦芽、未発芽の麦類およびホップとすることができ、場合によっては更に糖類を使用することができる。
【0029】
本発明の好ましい態様によれば、また、麦芽使用比率が20重量%以上50重量%未満の発酵麦芽飲料の製造方法において、原料の糖化開始前に醸造用水の硬度を350〜1300mg/L、好ましくは、800〜1300mg/L、より好ましくは、950〜1300mg/Lの範囲内に調整する、発酵麦芽飲料の製造方法が提供される。上記製造方法では、醸造用水以外の使用原料を少なくとも麦芽、未発芽の麦類およびホップとすることができ、場合によっては更に糖類を使用することができる。
【0030】
前述のように、本発明によれば、後味の透明感・爽快感と、ボディ感・味の厚みとを両立させた発酵麦芽飲料が提供される。本発明において「後味の透明感・爽快感」とは、飲用したときの爽やかな味わいを意味する。また、本発明において「ボディ感・味の厚み」とは、通常にビールを製造した場合、すなわち、ビール酵母による発酵に基づいて麦芽や大麦等の使用比率が高いビールを製造した場合に得られるビール特有の味わいや飲み応えをいう。
【0031】
本発明によれば、本発明による製造方法によって製造された発酵麦芽飲料が提供される。すなわち、本発明の別の面によれば、麦芽使用比率が50重量%未満の発酵麦芽飲料であって、飲料中のリン酸とクエン酸の含量比(リン酸/クエン酸)が2.3以下に調整された発酵麦芽飲料が提供される。
【実施例】
【0032】
以下の例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0033】
実施例1:醸造試験例(1)
小スケールでの試験醸造を実施し、糖化開始時の醸造用水の硬度の違いにより、発酵後の段階で官能評価上や分析値上の違いがあるかどうかを確認した。
【0034】
(a)試験醸造の方法
糖化開始時の醸造用水の硬度の変化が、得られる発酵麦芽飲料の官能評価に与える影響を確認するため、試験醸造を実施した。
【0035】
用いた醸造用水の硬度とCa、Mg濃度は表1の通りであった。
【表1】
【0036】
カルシウム塩として硫酸カルシウムおよび塩化カルシウムを使用した。またマグネシウム塩として硫酸マグネシウムを使用した。
【0037】
カルシウム濃度、マグネシウム濃度はBCOJ−2008に記載のICP−AES法に従ってICP発光分光分析装置(Varian社)を用いて測定した。
【0038】
評価や分析に用いた醸造サンプルは、0.5Lスケールの醸造装置を用いて製造した。麦芽および未発芽大麦の粉砕物と温めた醸造用水を加えて混合し、糖化を行った。全原料中の原料比率は麦芽49重量%、未発芽大麦51重量%とした。得られた麦汁は仕込糖度14°Pに調整した。それぞれの麦汁に対し固形分比率0.75体積%となるよう酵母を添加し、発酵を行った後、発酵済み液と酵母を分離し、ホップエキスを添加した発酵済み液の官能評価と化学分析を実施した。
【0039】
(b)官能評価
官能評価では、各サンプルの「後味の透明感、爽快感」と「ボディ感」について、専門のパネリスト4名による下記判断基準に基づく官能評価を実施した。
【0040】
判断基準は以下の4段階とし、EBC(European Brewery Convention)分析法記載のRating test法に準じて各サンプルを評価した。
[判断基準]
◎:かなり感じる
○:感じる
△:ほとんど感じない
×:感じない
【0041】
(c)化学分析
麦芽や未発芽麦類由来のボディ感を残しながら後味の透明感を実現する製法の指標として、リン酸とクエン酸との含有比(リン酸/クエン酸)を採用した。ビールや発泡酒など麦芽発酵飲料に含まれるクエン酸は、そのほとんどが麦芽や副原料として使用される醸造用の未発芽麦類に由来するため、発酵済み液(最終製品)中のクエン酸濃度は全原料中の麦芽、未発芽麦類の使用比率に相関する。また、リン酸も麦芽、未発芽麦類由来でありそれらの使用比率に相関するが、その一部は、仕込みや発酵の工程でカルシウムなどとリン酸塩を形成し醸造系外へ除去される。即ち、リン酸/クエン酸の値が小さくなる製法ほど、麦芽、未発芽麦類由来のボディ感を残しながら後味への雑味成分の一部と考えられるリン酸を除去できていると考えられる。リン酸、クエン酸の定量は、Agilent社のキャピラリー電気泳動システム(HPCE)を用いて実施した。
【0042】
(d)結果
表2に示したように、醸造用水の硬度が上昇するに従って、ボディ感は変わらずに透明感のある良好な後味となることが確認できた。また、分析値の上では硬度が上昇するにしたがって本発明による指標であるリン酸/クエン酸比の値が減少することが確認できた。
【表2】
【0043】
糖化開始時の硬度を350mg/L以上とすることで、上記の後味評価基準の「後味の透明感、爽快感」を感じることが確認できた。また、硬度1000mg/L以上となると、後味の透明感が頭打ちとなり、1300mg/Lまでは透明感に大きな変化がない傾向が見られた。
【0044】
このように、醸造用水の硬度を350mg/L以上とすることで、官能評価上で、ボディ感は変わらず、透明感、爽快感のある良好な後味となることを確認した。
【0045】
実施例2:醸造試験例(2)
パイロットプラント(2KLスケール)にて糖化開始時の醸造用水の硬度を増加させた試験醸造を実施し、通常適用する硬度の範囲(310mg/L以下)内にある醸造用水を使用した製品や、麦芽使用比率50重量%未満の市販製品と分析値を比較した。
【0046】
(a)試験醸造の方法
評価や分析に用いた醸造品は、糖化開始時の醸造用水の硬度を1000mg/Lとし、2KLの醸造パイロットプラントを用いて製造した。原材料の組成は、(1)麦芽49重量%、未発芽大麦25重量%、その他の原料(液糖およびホップ)26重量%、(2)麦芽49重量%、未発芽大麦20重量%、その他の原料(液糖およびホップ)31重量%、(3)麦芽49重量%、未発芽大麦10重量%、その他の原料(液糖およびホップ)41重量%とした。麦汁に酵母を添加し発酵を行い、ろ過後の製品をそれぞれ試醸品1、試醸品2、試醸品3とした。但し、試醸品3は硬度未調整の醸造用水を使用した。
【0047】
(b)官能評価および化学分析
官能評価と化学分析は実施例1(b)および(c)に記載された方法と同様に分析した。また、試料の全窒素量はスミグラフ(住化分析センター)を用いて測定した。
【0048】
(c)結果
パイロットプラントにて製造した醸造用水の硬度を調整した試醸品1および試醸品2と、パイロットプラントにて製造した醸造用水の硬度が未調整の試醸品3と、市販されている発酵麦芽飲料(発泡酒、リキュール)3種(市販品A、B、C)について、官能評価および化学分析によって比較を行なった(表3および表4)。市販品Aおよび市販品Bは炭素源と窒素源として麦芽と大麦を使用している発酵麦芽飲料であり、市販品Cは炭素源と窒素源として麦芽、大麦、液糖を使用している発酵麦芽飲料である。
【表3】
【表4】
【0049】
その結果、表3に示されるように、醸造用水の硬度を調整した2種の試醸品1および2(硬度1000)について、麦芽、未発芽大麦由来のボディ感は残しつつ、官能評価上、透明感のある良好な後味が実現できたことを確認した。また、表3に示されるように、リン酸/クエン酸比の値が2.3を下回っていることを確認した。すなわち、リン酸/クエン酸比の値が後味の雑味の残存指標となることが示された。
【0050】
一方、市販品A、市販品B、醸造用水の硬度未調整の試醸品3は、ボディ感は高いと評価されたが、リン酸/クエン酸の値が高く、官能評価上も後味の透明さが低かった。また、市販品Cでは、後味の透明さや爽快感は高いが、リン酸/クエン酸の値が高く、ボディ感が低い結果となった。このことより、市販品Cの後味の透明さは、全窒素が低いことから(表4)、麦芽、未発芽大麦の使用比率が低いことによると推察され、麦芽、未発芽大麦由来のボディ感を残しつつ後味が透明であることを実現する本発明による発酵麦芽飲料とは方向性が異なる。
【0051】
このように、醸造用水の硬度を350mg/L以上とした試醸品は、リン酸/クエン酸比の値が2.3以下と他のサンプルと比較して低くなり、かつ官能評価にでもボディ感は維持しつつ、透明感、爽快感のある良好な後味が実現できていることが確認された。
【0052】
実施例1および2の結果から、醸造用水の硬度をリン酸/クエン酸比の値を指標にしつつ調整することにより、麦芽や未発芽麦類等由来の旨みを残しながら後味に残存する雑味を除去し、透明感、爽快感のある良好な後味を有する、全原料中の麦芽使用比率が50重量%未満である発酵麦芽飲料の製造が可能であることが示された。