(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5675098
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月25日
(54)【発明の名称】DNA分子の増幅および解離挙動を監視するシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/68 20060101AFI20150205BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20150205BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20150205BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20150205BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20150205BHJP
【FI】
C12Q1/68 A
C12M1/34 Z
C12M1/00 A
G01N37/00 101
!C12N15/00 A
【請求項の数】29
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2009-518229(P2009-518229)
(86)(22)【出願日】2007年6月27日
(65)【公表番号】特表2009-542207(P2009-542207A)
(43)【公表日】2009年12月3日
(86)【国際出願番号】US2007014827
(87)【国際公開番号】WO2008005241
(87)【国際公開日】20080110
【審査請求日】2010年5月21日
(31)【優先権主張番号】60/806,440
(32)【優先日】2006年6月30日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】11/606,006
(32)【優先日】2006年11月30日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507028217
【氏名又は名称】キヤノン ユー.エス. ライフ サイエンシズ, インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】CANON U.S. LIFE SCIENCES, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100096943
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100102808
【弁理士】
【氏名又は名称】高梨 憲通
(74)【代理人】
【識別番号】100128646
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 恒夫
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(74)【代理人】
【識別番号】100134393
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 克彦
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】ハッソン,ケントン,シー.
(72)【発明者】
【氏名】デイル,グレゴリー,エー.
【審査官】
北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】
特表2009−525759(JP,A)
【文献】
特表2006−511239(JP,A)
【文献】
特開2005−253466(JP,A)
【文献】
特開2005−261354(JP,A)
【文献】
特開2003−052391(JP,A)
【文献】
特開2004−305219(JP,A)
【文献】
Mol. BioSyst.,2006年 5月17日,Vol.2,p.292-298
【文献】
Anal. Chem.,2003年,Vol.75,p.2414-2420
【文献】
第3回化学とマイクロシステム研究会 講演予稿集,2001年,p.5
【文献】
Anal. Chem.,2006年 4月 1日,vol.78,p.2220-2225
【文献】
Cellular and Molecular Biology,2004年,Vol.50, No.3,p.217-224
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/68
C12M 1/00−3/10
C12N 15/00−15/90
CA/MEDLINE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)核酸を含む1つのボーラスをマイクロチャネル内に導入すること、
(b)前記ボーラスを前記マイクロチャネルに通して強制的に移動させること、
(c)前記ボーラスが前記マイクロチャネルを通って移動している間、(i)前記ボーラスの温度サイクルを繰り返して前記ボーラス中に含まれる核酸を増幅し、(ii)各温度サイクルあたり少なくとも一度、イメージセンサによって前記ボーラスの画像を取り込み、前記取り込んだ画像を処理して前記ボーラスから放射された光の強度を決定することを含む方法で、所定の発光強度閾値に達しているかを判定すること、
(d)前記所定発光強度閾値に達しなかったという前記判定の結果に応答して、ステップ(c)を繰り返し、
(e)前記所定発光強度閾値に達したという前記判定の結果に応答して、前記温度サイクルを停止して、前記ボーラスが依然として前記マイクロチャネルを通って移動している間、連続的に一定の割合で前記ボーラスの温度を上げることにより前記ボーラス中のdsDNAをssDNAに遷移させ、イメージセンサを使用して前記ボーラスの画像を取り込むこと、ただし前記増幅が停止しボーラス中のssDNAへの遷移のための熱勾配がはじまる時の、前記ボーラスのチャネルの長さに沿った位置が前記発光強度閾値により決定される、
を含む核酸の増幅と解離を監視する方法。
【請求項2】
前期所定の発光強度閾値に達しているかを判定するステップが、(a)前記決定した強度を表す値をある閾値と比較するステップ、または(b)前記ボーラスからの発光の強度変化率を決定するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記決定した強度を表す値が前記閾値よりも大きいという前記判定の結果に応答して、前記ボーラス中の前記dsDNAをssDNAに遷移させるための処理を開始するステップをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記処理を開始する前記ステップが、加熱システムを構成してボーラスの温度を緩やかに上昇させることを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記温度を一定またはほぼ一定の速度で上昇させる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記一定の速度が毎秒約0.1℃と2℃の間にある、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記イメージセンサを使用して前記ボーラスの画像を取り込むステップが、前記イメージセンサの視野内で対象となる領域を決定し、次いで前記イメージセンサの、対象となる前記領域に対応する画素だけを読み出すことを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ステップ(c)が、(iii)(a)前記ボーラスに少なくとも所定の回数のPCR温度サイクルをかけたかどうか、(b)特定の時点から少なくとも所定の時間が経過したかどうか、および/または(c)前記ボーラスが前記マイクロチャネルの既定の領域に入ったかどうかを判定することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
マイクロ流体チャネルを備える基板と、
前記マイクロ流体チャネルの少なくとも一部分に熱を加え、またそこから熱を吸収するように動作可能な熱発生ユニットと、
前記チャネルの前記部分がイメージセンサの視野内に入るように前記基板に対して配置された前記イメージセンサと、
前記イメージセンサに結合された画像処理システムであって、(i)前記イメージセンサから画像データを受け取り、(ii)前記イメージセンサからの画像データを使用して、(a)前記チャネルの前記部分を通って移動する核酸試料からの発光の強度が所定の発光強度閾値以上であるかどうか、または(b)前記チャネルの前記部分を通って移動する前記核酸試料からの発光の強度変化率が所定の閾値以下であるかどうか、を判定するように構成された画像処理システムと、
温度コントローラであって、前記熱発生ユニットを制御するように構成され、かつ前記熱発生ユニットが、(a)前記チャネルの前記部分を通って移動する核酸試料からの発光の強度が所定の発光強度閾値以上である、または(b)前記核酸試料からの発光の強度変化率が所定の閾値以下である、と判定する前記画像処理システムに応答して、前記チャネルの前記部分の温度に第1の温度から第2の温度まで一定の割合で緩やかに勾配を付けるように構成された温度コントローラとを含む、ただし前記増幅が停止し前記核酸試料中のssDNAへの遷移のための熱勾配がはじまる時の、前記核酸試料のチャネルの長さに沿った位置が前記発光強度閾値により決定される、光学分析システム。
【請求項10】
前記温度コントローラがさらに、所定の入力に応答して前記熱発生ユニットが前記チャネルの前記部分の温度サイクルを繰り返すように構成される、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
イメージセンサ・コントローラをさらに含み、前記イメージセンサ・コントローラが、前記イメージセンサに、前記熱発生ユニットが前記チャネルの前記部分の温度サイクルを繰り返している間、前記イメージセンサの視野内にある前記チャネルの前記部分の少なくともセグメントの画像を取り込ませるように動作可能である、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記イメージセンサ・コントローラが、前記イメージセンサに、前記熱発生ユニットが前記チャネルの前記部分の温度に勾配を付けている間、前記イメージセンサの視野内にある前記チャネルの前記部分の少なくともセグメントの画像を取り込ませるように動作可能である、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記イメージセンサ・コントローラが、前記イメージセンサに、前記熱発生ユニットが前記チャネルの前記部分の温度サイクルを繰り返している間、前記イメージセンサの視野内にある前記チャネルの前記部分の少なくともセグメントの画像を90秒ごとに少なくとも1枚取り込ませるように動作可能である、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記イメージセンサ・コントローラが、前記イメージセンサに、前記熱発生ユニットが前記チャネルの前記部分の温度に勾配を付けている間、前記イメージセンサの視野内にある前記チャネルの前記部分の少なくともセグメントの画像を少なくとも毎秒5枚取り込ませるように動作可能である、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記熱発生ユニットが、前記チャネルの前記部分に加える熱量を毎秒約0.1℃から2℃の間のある熱勾配率で間断なく増加させることによって、前記チャネルの前記部分の温度に勾配を付けるように構成される、請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
前記チャネルの前記部分向けの電磁放射を生成する励起源をさらに含む、請求項9に記載のシステム。
【請求項17】
(a)前記チャネルの前記部分を通って移動する核酸試料からの発光の強度が所定の発光強度閾値以上である、または(b)前記核酸試料からの発光の強度変化率が所定の閾値以下である、と判定する前記画像処理システムに応答して、前記チャネルの前記部分の少なくともセグメントを照光する第2の励起源をさらに含む、請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
前記イメージセンサがCMOSイメージセンサであり、前記第2の励起源がレーザである、請求項17に記載のシステム。
【請求項19】
チャネルを備える基板を含むシステムにおいて、
リアルタイムPCR試薬を含む溶液の試料を前記チャネルに通して強制的に移動させること、ならびに、
前記試料が前記チャネルの分析領域を通って移動している間、
(a)前記試料の温度サイクルを所定発光強度閾値を満たすまで繰り返すステップと、
(b)各温度サイクルあたり少なくとも一度、イメージセンサによって前記試料の画像を取り込み、前記取り込んだ画像を処理して前記試料から放射された光の強度を決定することにより、前記試料中の核酸が十分に増幅されているかを判定するステップと、
(c)前記試料中の核酸が十分に増幅されたという前記判定の結果に応答して、前記試料の温度サイクルを停止して、ステップ(a)を実施した後に、前記試料の温度を第1の温度から第2の温度まで緩やかに一定の割合で上昇させるステップ、ただし前記増幅が停止し前記試料中のssDNAへの遷移のための熱勾配がはじまる時の、前記試料のチャネルの長さに沿った位置が前記発光強度閾値により決定される、と、
(d)前記試料の温度を緩やかに上昇させる前記ステップを実施している間、イメージセンサを使用して前記試料からの発光を監視するステップとを実施することを含む核酸の増幅と解離を監視する方法。
【請求項20】
前記試料中の前記核酸が十分に増幅されたかどうかを判定する前記ステップが、前記試料から放射された光の強度を決定すること、および前記決定した強度をある強度閾値と比較することを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記イメージセンサを使用して前記試料の画像を取り込む前記ステップが、前記イメージセンサの視野内で対象となる領域を決定し、次いで前記イメージセンサの、対象となる前記領域に対応する画素だけを読み出すことを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記試料の温度サイクルを繰り返す前記ステップが、以下の(i)前記試料の温度を第1の温度またはその近くの温度に少なくとも第1の期間保持するステップと、(ii)ステップ(i)の後に、加熱源を使用して前記試料の温度が前記第1の温度から第2の温度になるように加熱するステップと、(iii)ステップ(ii)の後に、前記試料の温度を前記第2の温度またはその近くの温度に少なくとも第2の期間保持するステップと、(iv)ステップ(iii)の後に、前記加熱源を使用して前記試料の温度が前記第2の温度から第3の温度になるように加熱するステップと、(v)ステップ(iv)の後に、前記試料の温度を前記第3の温度またはその近くの温度に少なくとも第3の期間保持するステップとを1回または複数回実施することを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記試料の温度を前記第1の温度から前記第2の温度まで緩やかに上昇させる前記ステップが、前記温度を一定またはほぼ一定の速度で上昇させることを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
前記一定の速度が毎秒約0.1℃と1℃の間にある、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記温度を一定またはほぼ一定の速度で上昇させることが、前記温度を前記速度で少なくとも約1分間上昇させることを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記試料にかけた温度サイクルの回数の記録を取るステップをさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項27】
前記試料に少なくとも所定の回数の温度サイクルをかけたかどうかを判定するステップをさらに含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
特定の時点から少なくとも所定の時間が経過したかどうかを判定するステップをさらに含む請求項19に記載の方法。
【請求項29】
前記チャネルの既定の領域に前記試料が入ったかどうかを判定するステップをさらに含む、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNA分子の増幅およびそのDNA分子の解離挙動を監視するシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
核酸を検出することは、医学、法科学、産業プロセス、作物および動物の育種、ならびに他の多くの分野の中心になっている。疾病状態(例えば癌)、感染性微生物(例えばHIV)、遺伝系統、遺伝子マーカーなどを検出する能力は、疾病の診断および見通し、マーカー利用選抜、犯罪現場の特徴の正確な鑑識、産業用微生物を繁殖させる能力、および他の多くの技法のための広く普及した技術である。対象となる核酸の完全性についての判定は、感染症または癌の病状に関係することがある。微量の核酸を検出するための最も強力で基本的な技術は、核酸配列の一部またはすべてを何回も複製してから、その増幅生成物を分析することである。ポリメラーゼ連鎖反応PCRは、DNAを増幅するためのよく知られている技法である。
【0003】
PCRを用いると、単一の鋳型DNA分子から始めて数百万のDNAコピーを迅速に生成することができる。PCRは、DNAを1本ずつの鎖に変性させること、その変性鎖にプライマーをアニーリングすること、および耐熱性DNAポリメラーゼ酵素によってプライマーを伸長させることからなる3段階の温度サイクルを含む。このサイクルが何回も繰り返され、その結果、処理の終了時には検出および分析するのに十分なだけのコピーがあるようになる。PCRに関する全般的な詳細については、SambrookおよびRussell、「Molecular Cloning -- A Laboratory Manual (3rd Ed.)」、Vols. 1−3、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor、N.Y.(2000)、F. M. Ausubel他「Current Protocols in Molecular Biology」、Greene Publishing Associates, IncとJohn Wiley & Sons, Incの合弁企業であるCurrent Protocols編集(2005年にかけて補遺あり)、およびM.A. Innis他「PCR Protocols A Guide to Methods and Applications」、Academic Press Inc.、San Diego, Calif.編集(1990)を参照されたい。
【0004】
いくつかの応用例では、増幅処理が進行しているときにDNA生成物の蓄積を監視することが重要である。リアルタイムPCRとは、反応が進むにつれ増幅されたDNA生成物の蓄積をPCRサイクルごとに通常1回測定する、発展中の一連の技法を指す。増幅処理を経時的に監視することにより、処理の効率を判定すること、ならびにDNA鋳型分子の初期濃度を推定することが可能になる。リアルタイムPCRに関する全般的な詳細については、K. Edwards他「Real-Time PCR: An Essential Guide」、Horizon Bioscience, Norwich, U.K.編集(2004)を参照されたい。
【0005】
より最近では、PCRおよび他の増幅反応を行う高い処理能力の手法がいくつか開発されており、これには、例えば、マイクロ流体デバイス内での増幅反応、ならびに増幅された核酸をこのデバイス内またはデバイス上で検出および分析する方法が含まれる。増幅用の試料の熱サイクルの繰返しは通常、2つの方法のうちの1つで実施される。第1の方法では、従来のPCR機器とほとんど同じように試料溶液がデバイス内に装填され、温度の時間サイクルが繰り返される。第2の方法では、空間的に温度が変化する各区域を試料溶液がポンプで連続的に通される。例えば、Lagally他「Anal Chem 73」(2001)、565〜570頁、Kopp他「Science 280」(1998)、1046-1048頁、Park他「Anal Chem 75」(2003)、6029-6033頁、Hahn他の国際公開WO2005/075683号、Enzelberger他の米国特許第6960437号、およびKnapp他の米国特許出願公開第2005/0042639号を参照されたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国仮特許出願第60/806440号
【特許文献2】国際公開WO2005/075683号
【特許文献3】米国特許出願公開第2005/0042639号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】SambrookおよびRussell、「Molecular Cloning -- A Laboratory Manual (3rd Ed.)」、Vols. 1-3、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor、N.Y. (2000)
【非特許文献2】F. M. Ausubel他「Current Protocols in Molecular Biology」、Greene Publishing Associates, IncとJohn Wiley & Sons, Incの合弁企業であるCurrent Protocols編集(2005年にかけて補遺あり)
【非特許文献3】M.A. Innis他「PCR Protocols A Guide to Methods and Applications」、Academic Press Inc.、San Diego, Calif.編集(1990)
【非特許文献4】K. Edwards他「Real-Time PCR: An Essential Guide」、Horizon Bioscience, Norwich,編集U.K. (2004)
【非特許文献5】Lagally他「Anal Chem 73」(2001)、565〜570頁、Kopp他の「Science 280」(1998)、1046-1048頁
【非特許文献6】Kopp他「Science 280」(1998)、1046-1048頁
【非特許文献7】Park他「Anal Chem 75」(2003)、6029-6033頁
【非特許文献8】Wittwer他「Clinical Chemistry 49」(2003)、853〜860頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
元のDNA分子の十分な数のコピーがあれば、そのDNAを特徴付けることができる。DNAを特徴付ける1つの方法は、温度上昇によりDNAが2本鎖DNA(dsDNA)から1本鎖DNA(ssDNA)に遷移するときのDNAの解離挙動を調べることである。dsDNAからssDNAにDNAを遷移させる処理は、「高精度温度(熱)溶解HRTm」処理、または簡単に「高精度溶解」処理と呼ばれることがある。
【0009】
したがって、DNA増幅処理を監視し、DNAの解離挙動を判定するシステムが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、リアルタイムPCRおよびHRTm分析を実施し監視するシステムおよび方法に関する。
【0011】
一態様では、本発明は、(a)核酸を含む少なくとも1つのボーラスをマイクロチャネル内に導入するステップと、(b)ボーラスをマイクロチャネルに通して強制的に移動させるステップと、(c)ボーラスがマイクロチャネルを通って移動している間、ボーラス中に含まれる核酸を増幅するステップと、イメージセンサを使用して、核酸が十分に増幅されたかどうかを判定するステップと、(d)核酸が十分に増幅されていない場合はステップ(c)を繰り返し、そうでない場合は、ボーラスが依然としてマイクロチャネルを通って移動している間、ボーラス中のdsDNAをssDNAに遷移させ、イメージセンサを使用してボーラスの画像を取り込むステップとを含む方法を提供する。いくつかの実施形態では、イメージセンサを使用してボーラスの画像を取り込むステップは、対象となる領域を決定し、次いでイメージセンサの、対象となる領域内にある画素だけを読み出すこと、および毎秒少なくとも約5枚のボーラスの画像を取り込むことを含む。
【0012】
いくつかの実施形態では、核酸が十分に増幅されたかどうかをイメージセンサを使用して判定するステップは、イメージセンサを使用してボーラスの画像を取り込むステップと、取り込んだ画像データを処理して、ボーラスから放射された光の強度を決定するステップとを含む。決定した強度を示す値をある閾値と比較して、核酸が十分に増幅されたかどうかを判定することができる。
【0013】
いくつかの実施形態では、核酸が十分に増幅されたと判定した後、ボーラス中のdsDNAをssDNAに遷移させる処理を開始する(例えば、決定した強度を表す値が閾値よりも大きいことを比較の結果が示している場合は、少なくともその判定が行われた直後に溶解処理を開始する)。
【0014】
いくつかの実施形態では、処理を開始するステップは、加熱システムを構成してボーラスの温度を緩やかに上昇させることを含む。好ましくは、温度は一定またはほぼ一定の速度(例えば、毎秒約0.1℃から1℃の間の一定の速度)で上昇させる。
【0015】
別の一態様で、本発明は以下の要素を含むシステム、すなわち、マイクロ流体チャネルを備える基板と、マイクロ流体チャネルの少なくとも一部分に熱を加え、またそこから熱を吸収するように動作可能な熱発生ユニットと、チャネルの前記部分がイメージセンサの視野内に入るように基板に対して配置されたイメージセンサと、イメージセンサに結合された画像処理システムであって、(i)イメージセンサから画像データを受け取り、(ii)イメージセンサからの画像データを使用して、チャネルの前記部分を通って移動する核酸試料からの発光の強度が所定の発光強度閾値以上であるかどうかを判定するように構成された画像処理システムと、温度コントローラであって、熱発生ユニットを制御するように構成され、かつ熱発生ユニットが、チャネルの前記部分を通って移動する核酸試料からの発光の強度が所定の発光強度閾値以上であると判定する画像処理システムに応答して、チャネルの一部分の温度に第1の温度から第2の温度まで緩やかに勾配を付けるように構成された温度コントローラとを含むシステムを提供する。
【0016】
いくつかの実施形態では、熱発生ユニットは、加える熱量を毎秒約0.1℃から1℃の間のある熱勾配率で間断なく増加させることによって、温度に勾配を付けるように構成される。温度コントローラはさらに、熱発生ユニットが、所定の入力に応答してチャネルの一部分の温度サイクルを繰り返すように構成することができる。
【0017】
このシステムはさらに、イメージセンサ・コントローラを含むことができる。このイメージセンサ・コントローラは、イメージセンサに、熱発生ユニットがチャネルの一部分の温度サイクルを繰り返している間、イメージセンサの視野内にあるチャネルの前記部分の少なくともセグメントの画像を取り込ませるように動作可能とすることができる。イメージセンサ・コントローラはまた、イメージセンサに、熱発生ユニットがチャネルの一部分の温度に勾配を付けている間、イメージセンサの視野内にあるチャネルの前記部分の少なくともセグメントの画像を取り込ませるように動作可能とすることもできる。いくつかの実施形態では、イメージセンサ・コントローラは、イメージセンサに、熱発生ユニットが温度サイクルを繰り返している間90秒ごとに少なくとも1枚の画像を取り込ませ、熱発生ユニットが温度に勾配を付けている間に毎秒少なくとも5枚の画像を取り込ませるように動作可能とすることができる。
【0018】
このシステムはまた、チャネルの一部分向けの電磁放射を生成する励起源も含む。いくつかの実施形態では、システムはさらに、チャネルの前記部分を通って移動する核酸試料からの発光の強度が所定の発光強度閾値以上であると判定する画像処理システムに応答して、チャネルの少なくとも一部分のセグメントを照光する第2の励起源も含む。
【0019】
別の一態様では、本発明は、(i)リアルタイムPCR試薬を含む溶液の試料をチャネルに通して強制的に移動させるステップと、(ii)チャネルの分析領域を通って試料が移動している間に、(a)所定の事象が発生するまで試料の温度サイクルを繰り返すステップ、(b)ステップ(a)を実施した後、試料の温度を第1の温度から第2の温度まで緩やかに上昇させるステップ、および(c)試料の温度を緩やかに上昇させるステップの間、イメージセンサを使用して試料からの発光を監視するステップ、を実施するステップとを含む方法を提供する。いくつかの実施形態では、試料の温度を第1の温度から第2の温度まで緩やかに上昇させるステップは、その温度を(例えば、毎秒約0.1℃と1℃の間の)一定またはほぼ一定の速度で上昇させることを含む。
【0020】
いくつかの実施形態では、この方法はさらに、所定の事象が発生したかどうかを判定するステップを含むこともできる。このステップは、例えば、試料から放射された光の強度を決定するステップと、この決定した強度をある強度閾値と比較することによって、試料中の核酸が十分に増幅されたかどうかを判定するステップとを含むことができる。試料から放射された光の強度を決定するステップは、イメージセンサを使用して試料の画像を取り込むステップを含むことができ、この画像取込みステップは、対象となる領域を決定し、次いでイメージセンサの、対象となる領域内にある画素だけを読み出すことを含むことができる。
【0021】
本発明の上記および他の実施形態を以下に、添付の図面を参照して説明する。
【0022】
本明細書に組み入れられ本明細書の一部を形成する添付の図面は、本発明の様々な実施形態を示す。図面では、同じ参照番号が、同じ要素または機能的に類似の要素を示す。さらに、参照番号の左端の数字は、その参照番号が最初に現れた図面を特定する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】一実施形態によるゲノム分析システムの機能ブロック図である。
【
図2】一実施形態によるバイオチップの上面図である。
【
図3】一実施形態によるイメージセンサの図である。
【
図5】一実施形態によるゲノム分析システムの機能ブロック図である。
【
図6】一実施形態による第1の温度プロファイルを示す線図である。
【
図7】一実施形態による第2の温度プロファイルを示す線図である。
【
図8】画像処理システムの一実施形態を示す機能ブロック図である。
【
図9】一実施形態による核酸分析システムの機能ブロック図である。
【
図10】一実施形態による処理を示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図面を参照すると、
図1は、一実施形態による核酸分析システム100を示している。
図1に示すように、システム100は、PCR処理区域104(すなわち、DNAが増幅される区域)およびHRTm分析区域106(すなわち、増幅されたDNAの解離挙動が調べられる区域)を有するマイクロ流体バイオチップ102を含む。
【0025】
図2は、いくつかの実施形態によるバイオチップ102の上面図である。
図2に示すように、バイオチップ102は、多数のマイクロ流体チャネル202を含む。示した例では、8本のマイクロ流体チャネルがあるが、チップ102は8本よりも多いまたは少ないチャネルを有しうることが企図されている。示したように、各マイクロ流体チャネルの第1の部分はPCR処理区域104内にあり、各マイクロ流体チャネルの第2の部分はHRTm分析区域106内にあるものとすることができる。
図1にさらに示すように、区域106は区域104にすぐ続き、区域104の長さは区域106の長さよりもかなり長くすることができる(例えば、区域104の長さを区域106の5倍の長さにすることができる)。
【0026】
図1は、区域104と106の間に小さなギャップがあることを示しているが、これらの区域の間にはギャップが存在しないことが企図されている(すなわち、区域106は区域104にすぐ続くだけでなく、共通の境界を区域104と共有もしていることが企図されている)。いくつかの実施形態では、システム100が使用中のとき、少なくとも1つのチャネル202が、リアルタイムPCR試薬を含む溶液の試料(すなわち「ボーラス」)を受け入れる。ボーラスが、HRTm区域106に入る前にPCR区域104を横断するように、強制的にボーラスをチャネルに通して移動させることができる。マイクロ流体デバイス内でPCRを実施する1つのシステムおよび方法が、2006年8月17日出願の米国特許出願第11/505358号に開示されている。同出願を参照により本明細書に組み込む。
【0027】
図1に戻って参照すると、ゲノム分析システム100はさらに、イメージセンサ108、イメージセンサ108を制御するコントローラ110、およびイメージセンサ108によって生成された画像データを処理する画像処理システム112を含む。イメージセンサ108は、CMOSイメージセンサ、CCDイメージセンサ、または他のイメージセンサを使用して実施することができる。例えば、一実施形態では、センサ108は、有効画素12.7メガの解像度でサイズが36×24mmのCMOSセンサであり、キヤノン株式会社から入手可能である。
【0028】
イメージセンサ108は、第1のイメージセンサ領域121および第2のイメージセンサ領域122を有する。イメージセンサ領域121は、イメージセンサ領域122とは異なる視野を有する。好ましい実施形態では、イメージセンサ108は、PCR処理区域104の少なくとも一部分がセンサ領域121の視野内に入り、HRTm区域106の少なくとも一部分がセンサ領域122の視野内に入るように、チップ102に対して配置される。
【0029】
次に
図3を参照すると、
図3は、イメージセンサ108の光感知面の図である。この図は、2つのイメージセンサ領域121、122をよりよく示している。示されているように、イメージセンサ領域122の面積は、イメージセンサ領域121の面積よりもかなり小さくすることができる(例えば1/5以下の面積)。いくつかの実施形態では、2つの領域121、122の幅は同じであるが長さが異なる。
【0030】
次に
図8を参照すると、
図8は、画像処理システム112の一実施形態を示す機能ブロック図である。
図8に示したように、システム112は、イメージセンサ108からデータ出力を受け取る。システム112は、イメージセンサ108からのデータを増幅する増幅器802を含むことができる。1つの非限定的な実施形態では、増幅器802は、ISO 3200を超える感度が得られるようにデータを増幅することができる増幅されたデータは、例えば16ビットアナログ−デジタル(A/D)変換器804によってデジタル信号に変換することができる。一実施形態では、16ビットA/D変換器を使用すると、高いレベルのダイナミック・レンジおよび最下位ビット分解能が得られる。A/D変換器804からのデジタル信号出力は、フレーミング回路806によって処理することができ、この回路は、イメージセンサ領域121から生成されたデータを区域1のデータ・バッファ808内に記憶し、イメージセンサ領域122から生成されたデータを区域2のデータ・バッファ810内に記憶するように構成することができる。プログラム可能データ・プロセッサ812は、バッファ810および808内のデータを処理して、とりわけ区域104および106からの蛍光強度を決定し記録するようにプログラムすることができる。
【0031】
上述のようにイメージセンサ108およびチップ102を構成することによって、単一のイメージセンサが、(i)PCR区域104からの発光強度に対応するデータを生成し、(ii)HRTm区域106からの発光強度に対応するデータを生成することができる。したがって、単一のイメージセンサだけを使用しながら、システム100は、(1)DNAの試料の増幅、および(2)別のDNA試料の解離挙動、を同時に監視することができる。
【0032】
図1にさらに示すように、システム100は、1つまたは複数の熱発生装置を含むことができる。示した実施形態では、システム100は第1の熱発生装置114、第2の熱発生装置116、および装置114、116を制御するコントローラ118を含む。一実施形態では、第1の熱発生装置は、PCR処理区域104内に第1の熱区域を生成し、第2の熱発生装置は、HRTm分析区域106内に第2の熱区域を生成する。
【0033】
各熱発生装置114、116は、熱をチップ102に供給し、かつ/またはそこから熱を吸収するように構成され、したがって、1つまたは複数の熱源および/またはヒート・シンクを含むことができる(例えば、各熱発生装置114、116は、ペルチェ素子、あるいは他の熱源またはヒート・シンクを含むことができる)。より詳細には、示した実施形態において、熱装置114は、熱をPCR区域104に供給し、かつ/またはそこから熱を吸収するように構成され、熱装置116は、熱をHRTm区域106に供給し、かつ/またはそこから熱を吸収するように構成される。
【0034】
1つの温度コントローラだけが示されているが、各熱発生装置はそれぞれのコントローラを有しうることが企図されている。さらに、システム100は、単一の温度コントローラを有することがあるが、各熱発生装置は独立に動作させることができ、そうして装置116を使用して区域106内でHRTm分析を行うことができる一方で、同時に装置114を使用して区域104内でPCRが行われるようになる。
【0035】
つまり、いくつかの実施形態では、第1の熱発生装置114は、ボーラスが区域104内にある間、熱発生装置114が区域104内で温度サイクルを繰り返してPCRを実現するように構成され、熱発生装置116は、ボーラスが区域106に入ったときに、ほぼ間断なく増大する量の熱を熱発生装置116が区域106に加えてボーラスがHRTm分析にかけられる(すなわち、ボーラス中のdsDNAをssDNAに遷移させる)ように構成される。一例では、熱発生装置116は、一般に毎秒0.1〜2℃の熱勾配率を与えることができ、好ましい勾配率は毎秒0.5〜1℃である。
【0036】
次にセンサ・コントローラ110に注目すると、センサ110は、HRTm分析区域内でHTRm分析にかけられる各ボーラスについて、イメージセンサ・コントローラ110が、イメージセンサ領域122から好ましくは少なくとも毎秒10枚の画像を、ボーラスがHRTm分析にかけられる間の少なくとも約1分間センサ108に取り込ませるように構成することができる(一般にセンサ108は、中断なしの約5分の持続時間で画像を取り込む)。勾配率がより急な実施形態では、イメージセンサ・コントローラ110は、毎秒約20枚の画像の割合でセンサ108に画像を取り込ませることができる。多くの実施形態では、目標は、0.1℃またはそれより良い温度分解能を達成することである。
【0037】
いくつかの実施形態では、10画像/秒の高いフレーム率を実現するのに、センサはCMOSセンサを用いて実施することができ、コントローラは、対象となる画素だけ(例えば、イメージセンサ領域122内の画素の一部またはすべて)を読み出すためにCMOSセンサに窓を設けるように構成することができる。
【0038】
いくつかの実施形態では、システム100はさらに、区域104および/または106を照光するための励起源130(例えば、レーザまたは他の励起源)を含むことができる。追加の励起源(例えば励起源131)もまた使用することができる。システム100はさらに、チップ102とイメージセンサ108の間に配置されたレンズ140を含むこともできる。このような実施形態では、レンズ140は、PCR処理区域104から来る光145を第1のイメージセンサ領域121上に集束させ、HRTm分析区域106から来る光146を第2のイメージセンサ領域122上に集束させるように構成することができる。
【0039】
次に
図4を参照すると、
図4は、一実施形態による処理400を示す流れ図である。処理400はステップ402から始めることができ、ここでは、PCR処理区域104(第1の熱区域)およびHRTm分析区域106(第2の熱区域)を有するマイクロチャネルがあるマイクロ流体デバイス102を得る(
図5参照)。ステップ403で、イメージセンサ(例えばイメージセンサ108)を得て、これを第1と第2の熱区域の両方が同時にイメージセンサの視野内に入るように配置する。
【0040】
ステップ404で、一連の試験溶液のボーラスをマイクロチャネル内に導入する(試験溶液は、試験溶液貯蔵器150内(
図1参照)に貯蔵することができる)。ステップ406で、各ボーラスを、それがPCR処理区域を通過し、次いでHRTm分析区域に入りそこを通って移動するように、チャネルに沿って強制的に移動させる。このステップは
図5に図示してある。矢印501は、一連のボーラスが移動する方向を示す。いくつかの実施形態では、ボーラスは一定の速度で連続して移動する。
【0041】
ステップ408で、1つまたは複数のボーラスがPCR処理区域を通って移動する間、PCR処理区域の温度サイクルを繰り返して各ボーラス中のDNAを増幅する。
図6は、いくつかの実施形態による、ステップ408が実施された結果としてのPCR処理区域の温度プロファイルを示す。
図6に示すように、また当技術分野ではよく知られているように、1つの温度サイクルは、(1)PCR処理区域の温度を第1の期間(p1)(例えば5秒間)第1の温度(t1)(例えば52℃)に保持すること、(2)次に、温度をt1からt2(例えば72℃)まで急速に上昇させ、第2の期間(p2)(例えば10秒間)温度をt2に保持すること、3)次に、温度をt2からt3(例えば94℃)まで急速に上昇させ、第3の期間(p3)(例えば5秒間)温度をt3に保持すること、および(4)次に、サイクルを繰り返すことができるように、温度を急速に下降させてt1まで戻すこと、からなる。上述の温度サイクルは、「PCRサイクル」と呼ばれることがある。いくつかの実施形態では、PCRサイクルはある期間繰り返す(例えば、十分な量のDNAを生成するのに必要なだけ長く、一般には約20〜40PCRサイクル)。
【0042】
ステップ410で、イメージセンサ108を使用して、PCR処理区域内の少なくとも1つのボーラスの画像を、そのボーラスが区域を通って移動するとき、および上述のようにその区域の温度サイクルを繰り返しているときに取り込む。いくつかの実施形態では、画像は、
図6に示すように、PCRサイクルの「中間」の間だけに取り込まれる(すなわち、温度がその間t2に保持されている時間)。いくつかの実施形態では、センサ・コントローラ110は、ボーラスの画像を取り込むステップが、イメージセンサ108の画素のうちイメージセンサ領域121内にあるものだけ、あるいは、例えばボーラスからの光を受け取る画素、および周囲のじかに接する1つまたは複数の画素など、それらの画素の一部分だけを読み出すことを含むように画像取込みを制御し、かつイメージセンサ108に窓を設ける。
【0043】
ステップ412で、ステップ410で取り込まれた画像を、例えば画像処理システム112によって処理する。画像処理システム412は、時間の関数としてボーラスから放射される蛍光の強度を決定するためのソフトウェアでプログラムされた1つまたは複数のプロセッサを含むことができる。
【0044】
ステップ418で、ボーラスがHRTm分析区域に入ったとき(またはその直後)に、またそれがその区域を通って移動する間、HRTm分析区域の温度を上昇させて、ボーラス中のdsDNAをssDNAに遷移させる。
図7は、いくつかの実施形態によるHRTm分析区域の温度プロファイルを示す。
図7に示した例では、第1のボーラスが時間t1(またはその直後)にHRTm分析区域に入り、その区域内に時間t2(またはその直後)まで留まり、第2のボーラスが時間t3(またはその直後)にHRTm分析区域に入り、その区域内に時間t4(またはその直後)まで留まる。
図7に示すように、第1および第2の試料がHRTm分析区域内にある間、その区域の温度は、温度t1(例えば約65℃)から温度t2(例えば約95℃)までほぼ一定の速度(例えば毎秒0.1〜1℃)で上昇することができ、この温度上昇が試料内のdsDNAをssDNAに遷移させるはずである。
【0045】
一実施形態では、PCRによる増幅は、蛍光色素を結合したdsDNAの存在下で行われる。この色素は、ssDNAとは相互作用しないがdsDNAと活発に結合し、この状態で明るく蛍光発光する。この蛍光の変化を用いて、まずPCR区域内のDNA濃度の増加を測定し、次に、HRTmによって熱で誘発されたDNA解離を直接測定することができる。最初のうち、試料がdsDNAとして出発するので、蛍光は溶解分析において強いが、温度が上昇し、DNAが1本鎖に解離するにつれて蛍光が減衰する。観察された「溶解」挙動は、特定のDNA試料に特有のものである。一般には溶解曲線が作成され、最初の溶解前の段階の強い蛍光から、溶解の段階の急激な蛍光の減少を経て溶解後の段階での基底蛍光までの遷移をグラフ化する。蛍光は、DNAに結合した色素が、2本鎖DNAが1本鎖に解離(溶解)するときに2本鎖DNAから開放されるにつれ減少する。蛍光の変化率が最大になる溶解段階の中間点で、分析されている特定のDNA断片の溶解温度(TM)を定義する。
【0046】
適切なdsDNA結合色素には、SYBR(登録商標)Green 1(Invitrogen Corp.、Carlsbad、米国カリフォルニア州)、SYTO(登録商標)9(Invitrogen Corp.、Carlsbad、米国カリフォルニア州)、LC Green(登録商標)(Idaho Technologies、Salt Lake City、米国ユタ州)、およびEva Green(商標)(Biotium Inc、Hayward、米国カリフォルニア州)が含まれる。これらの色素のうち、SYTO(登録商標)9、LC Green(登録商標)およびEva Green(商標)は、増幅反応での毒性が低く、したがって、dsDNA試料の飽和をより大きくするようにより高い濃度で使用することができる。色素飽和がより大きいことは、測定される蛍光信号がより高い忠実度を有することを意味し、これは明らかに、溶解時に核酸鎖の非変性領域への動的な色素の再分配が少ないからであり、また色素が高い溶解温度の生成物の方を好まないからである(Wittwer他「Clinical Chemistry 49」(2003)、853〜860頁)。これらの特性の組合せにより、より大きな溶解感度、およびより高い分解能の溶解プロファイルが得られる。
【0047】
ステップ420で、イメージセンサ108を使用してHRTm分析区域内のボーラスの画像を、ボーラスがその区域を通って移動するとき、かつその区域の温度が上述のように上昇する間に取り込む。いくつかの実施形態では、イメージセンサを使用してHRTm分析区域内のボーラスの画像を取り込むとき、イメージセンサは、ステップ410でPCR処理区域内のボーラスの画像を取り込むためにそれを使用したときと同じ位置および向きにある。
【0048】
いくつかの実施形態では、ステップ420で、画像を高いフレーム率(例えば、毎秒5枚を超える画像、好ましくは少なくとも毎秒約10枚の画像)で取り込む。いくつかの実施形態では、センサ・コントローラ110は、ボーラスの画像を取り込むステップが、イメージセンサ108の画素のうちイメージセンサ領域122内にあるものだけ、あるいは、例えばボーラスからの光を受け取る画素、および周囲のじかに接する1つまたは複数の画素など、それらの画素の一部分だけを読み出すことを含むように画像取込みを制御し、かつイメージセンサ108に窓を設ける。
【0049】
ステップ422で、ステップ420で取り込まれた画像を、例えば画像処理システム112によって処理する。画像処理システム412は、時間の関数としてボーラスから放射される蛍光の強度を決定するためのソフトウェアでプログラムされた1つまたは複数のプロセッサを含むことができる。
【0050】
図4に示したように、ステップ418〜420は、ステップ408〜410と同時に行われてよい。
【0051】
次に
図9を参照すると、
図9は、本発明の別の一実施形態による核酸分析システム900を示す機能ブロック図である。
【0052】
図9に示すように、システム900は、システム100と同じ構成要素を多く含むことができる。例えば、システム900は、少なくとも1つのマイクロ流体チャネルを有する基板102、および少なくとも1つの熱発生ユニット114を含み、この熱発生ユニットは、例えば米国特許出願第11/505358号に開示されている熱発生ユニットのように、マイクロ流体チャネルの少なくとも一部分に熱を供給し、かつ/またはそこから熱を吸収するように動作可能である。同出願を参照により本明細書に組み込む。システム900はまた、装置114を制御する温度コントローラ118、マイクロ流体チャネルの少なくとも一部分がイメージセンサ108の視野内に入るように基板に対して配置されたイメージセンサ108、イメージセンサ・コントローラ110、およびイメージセンサ108に結合された画像処理システム112を含むこともできる。
【0053】
システム100と同様に、システム900を使用して核酸の試料(例えばボーラス902)を分析することができる。より詳細には、システム900を使用してDNAを増幅し、次に、増幅されたDNAを溶解することができる。一実施形態では、DNAを増幅するために、リアルタイムPCR試薬を含む溶液の試料をマイクロ流体チャネル内に導入し、次に、当技術分野でよく知られた技法を用いて、それを矢印901の方向にチャネルに通して強制的に移動させることができる。
【0054】
試料がチャネルを通って移動している間に、熱発生装置114が上述のように試料の温度サイクルを繰り返すように、温度コントローラ118を構成することができる。例えば、所定の入力の受け取りに応答して、温度コントローラ118が、熱発生装置114により試料の温度サイクルを繰り返すようにできる。
【0055】
試料が増幅されている間、イメージセンサ・コントローラ110は、イメージセンサに、試料が配置されたチャネルのセグメントの画像を取り込ませることができ、それによって試料からの発光に対応する画像データが取り込まれる。いくつかの実施形態では、イメージセンサ・コントローラはイメージセンサ108に、サイクルごとに少なくとも1枚の画像を取り込ませることができ、また処理能力を改善するために、イメージセンサに窓を設けてセンサの画素アレイの所定の一部分だけを読み出すことができる。
【0056】
画像処理システム112は、この画像データをイメージセンサ108から受け取り、その画像データを使用して試料からの発光の強度が所定の発光強度の閾値以上であるかどうかを判定するように構成することができる。加えて、または別法として、画像処理システム112は、画像データを使用して試料からの発光の強度変化率を決定するように構成することもできる。
【0057】
さらに、温度コントローラ118は、特定の事象の発生に応じて、熱発生装置114が試料の温度に第1の温度(例えば約65℃)から第2の温度(例えば95℃)まで緩やかに勾配を付けるように構成することもできる。
【0058】
例えば、温度コントローラ118は、(a)試料からの発光の強度が所定の発光強度の閾値以上である、または(b)試料からの発光の強度変化率が所定の閾値以下である、と判定する画像処理システム112に応答して熱発生装置114が試料の温度に第1の温度から第2の温度まで緩やかに勾配を付けるように構成することもできる。他の実施形態では、温度コントローラ118は、(a)試料が少なくとも特定の回数の温度サイクルにかけられた、(b)以前の特定の時点(例えば、試料がPCR処理区域104に入った時点、または試料がその最初の温度サイクルにかけられた時点)から所定の時間が経過した、または(c)試料がチャネルの既定の領域内(例えばHRTm区域106内)にある、という判定に応じて熱発生装置114が試料の温度に第1の温度から第2の温度まで緩やかに勾配を付けるように構成することができる。
【0059】
いくつかの実施形態では、特定の事象に応じて、温度コントローラ118は、熱発生装置114が、与える熱量を増加させることによって毎秒約0.1〜2℃の温度勾配率で温度に勾配を付けるようにすることができる。
【0060】
試料の温度に勾配が付けられている間、イメージセンサ・コントローラ110は、イメージセンサ108に、試料が配置されたチャネルのセグメントの画像を取り込ませることができ、それによって試料からの発光に対応する画像データが取り込まれる。より詳細には、いくつかの実施形態では、イメージセンサ・コントローラ110は、イメージセンサ108に、試料が配置されたチャネルのセグメントの少なくとも毎秒5枚の画像(また好ましくは毎秒10枚以上の画像)を取り込ませる。
【0061】
いくつかの実施形態では、試料からの発光の強度が所定の発光強度の閾値以上であると判定する画像処理システム112に応答し、励起源131を使用して、試料が配置されたチャネルのセグメントを照光し、それによって、試料が熱溶解される間試料が照光される。
【0062】
次に
図10を参照すると、
図10は、上述の処理のステップの少なくともいくつかを示す流れ図である。
図10に示す処理は、ステップ1002から始めることができ、ここでは、マイクロ流体チャネルを有するデバイスを得る。ステップ1003で、イメージセンサをチャネルの少なくとも一部分がそのイメージセンサの視野内に入るように配置する。ステップ1004で、溶液の試料をチャネル内に導入する。ステップ1006で、試料をチャネルに沿って強制的に移動させる。ステップ1008で、試料がチャネルを通って移動している間、試料の温度サイクルを繰り返して試料に含まれるDNAを増幅する。
【0063】
ステップ1010で、ステップ1008を実施している間、イメージセンサを使用して試料からの発光に対応する画像データを生成する。ステップ1012で、画像データを処理する(例えば、画像データを処理して発光強度を決定することができる)。ステップ1013で、DNA溶解処理(例えばHRTm)を開始すべきかどうかについて判定が行われる。開始すべきでない場合は、処理はステップ1008に戻り、そうでない場合はステップ1018へ進む。
【0064】
上述のように、この判定を行うことができるいくつかの方法がある。例えば、一実施形態では、プロセッサ(例えば、温度コントローラ118のプロセッサ)が、試料にかけた温度サイクルの回数の記録を取り、その回数がある閾値と一致、またはそれを超えた場合に、溶解処理を開始すべきとする(すなわち処理はステップ1018へ進まなければならない)。別の一実施形態では、試料からの発光強度が所定の閾値以上であると判定された場合に、処理はステップ1018に進まなければならない。別の一実施形態では、溶解プロセスを開始すべきかどうかを判定するステップは、試料からの発光の強度変化率を調べること、およびその変化率が所定の閾値以下である場合に溶解処理を開始することを含む。さらに別の一実施形態では、溶解プロセスを開始すべきかどうかを判定するステップは、(i)以前の特定の時点(例えば、試料がPCR処理区域104に入った時点、または試料がその最初の温度サイクルにかけられた時点)から所定の時間が経過したかどうか、または(ii)試料がチャネルの既定の領域内(例えばHRTm区域106内)にあるかどうか、を判定することを含む。
【0065】
ステップ1018で、試料が所定の温度(例えば65℃)に達するように熱を試料に加える、またはそれから取り除くことができ、次いで試料に熱を加えて試料中のDNAを溶解する。上述のように、熱は、試料の温度がほぼ一定の速度で所定の温度(例えば、少なくとも約95℃)まで上昇するように加えることができる。ステップ1020で、ステップ1018を実施している間、イメージセンサを使用して試料からの発光に対応する画像データを生成する。好ましくは、ステップ1020では、ステップ1010で取り込まれた画像よりも高いフレーム率で画像を取り込む(例えば、ステップ1020では、イメージセンサは毎秒少なくとも5枚、好ましくは約10枚の画像を取り込むように構成することができる)。より高いフレーム率を実現するために、イメージセンサには、センサの画素アレイの画素すべてよりも少ない画素を読み出すように窓を設けることができる。ステップ1022で、ステップ1020で集めた画像データを処理することができる。
【0066】
次に
図11を参照すると、
図11は、上述の処理にかけられる試料の温度プロファイルを示す。
図11に示すように、試料に何回かの温度サイクルがかけられるように試料の温度サイクルをある期間繰り返す。示した例では、時間t=Tiで、画像処理システムは、(a)試料からの発光の強度がある閾値と一致、またはそれを超えた、あるいは(b)試料からの発光の強度変化率がある閾値以下である、との判定を行うが、そのどちらの判定も試料中のDNAが十分に増幅されたことを示すものとすることができる。したがって、
図11に示すように、時間t=Ti近くで試料の温度が約65℃になり、次に、試料の温度がほぼ一定の速度で上昇して所定の温度(例えば約95℃)に達する。
【0067】
以上、本発明の様々な実施形態を説明してきたが、これらは限定ではなく例としてのみ提示したものであることを理解されたい。したがって、本発明の広がりおよび範囲は、上述の例示的実施形態のいずれによっても限定されるべきものではない。
【0068】
さらに、上述の処理は一連のステップとして示してあるが、これはただ単に説明のためである。したがって、いくつかのステップを追加しても、いくつかのステップを省略しても、またステップの順序を並べ替えてもよいことが企図されている。
【0069】
添付の特許請求の範囲では、語「a」および「an」は、「1つまたは複数の」と解釈されたい。