(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5675263
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月25日
(54)【発明の名称】転がり軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/66 20060101AFI20150205BHJP
F16C 33/58 20060101ALI20150205BHJP
F16C 33/80 20060101ALI20150205BHJP
F16N 7/36 20060101ALI20150205BHJP
B23Q 11/12 20060101ALI20150205BHJP
【FI】
F16C33/66 Z
F16C33/58
F16C33/80
F16N7/36
B23Q11/12 E
【請求項の数】22
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2010-234576(P2010-234576)
(22)【出願日】2010年10月19日
(65)【公開番号】特開2012-87864(P2012-87864A)
(43)【公開日】2012年5月10日
【審査請求日】2013年8月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(72)【発明者】
【氏名】恩田 裕士
(72)【発明者】
【氏名】林 康由
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雅樹
【審査官】
小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−243490(JP,A)
【文献】
特開2010−031901(JP,A)
【文献】
特開2008−075882(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/66
B23Q 11/12
F16C 33/58
F16C 33/80
F16N 7/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内外輪である一対の軌道輪と、前記内外輪の軌道面間に介在する複数の転動体と、これら転動体を保持する保持器とを有する転がり軸受において、
前記内外輪のいずれか一方または両方に軸方向の片側に延びる軌道輪延長部を設け、軸受冷却媒体を兼ねる潤滑油を軸受内に供給すると共に、軸受外に排出する給排油機構を前記軌道輪延長部に対向して設け、前記給排油機構は、この給排油機構内に導入した潤滑油を円周方向に沿って導く環状油路を有することを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
請求項1において、前記環状油路に導入された潤滑油の一部を前記軌道面に導く流路を、前記軌道輪延長部に設けた転がり軸受。
【請求項3】
内外輪である一対の軌道輪と、前記内外輪の軌道面間に介在する複数の転動体と、これら転動体を保持する保持器とを有する転がり軸受において、
前記内外輪のいずれか一方または両方に軸方向に延びる軌道輪延長部を設け、軸受冷却媒体を兼ねる潤滑油を軸受内に供給すると共に、軸受外に排出する給排油機構を前記軌道輪延長部に設け、前記給排油機構は、前記潤滑油を軸受内に供給する給油口と潤滑油を軸受外に排出する排油口とを有し、前記軸受内の軌道面に供給された潤滑油を軸受外に排出する切欠部を軌道輪延長部とは軸方向逆側の軌道輪端面に設けた転がり軸受。
【請求項4】
請求項3において、前記切欠部は内外輪のうちの固定側の軌道輪に設けられ、この切欠部を回転側の軌道輪の回転方向に沿う給油口と排油口との間に配設した転がり軸受。
【請求項5】
請求項3または請求項4において、前記軌道輪延長部の端面に、給油口および排油口に連通し、隣接する軸受内に漏洩した潤滑油を排出する排出溝を設けた転がり軸受。
【請求項6】
請求項5において、前記排出溝は内外輪のうちの固定側の軌道輪に設けられ、この排出溝を回転側の軌道輪の回転方向に沿う給油口と排油口との間に配設した転がり軸受。
【請求項7】
請求項5または請求項6において、前記切欠部と排出溝とを同位相に配設した転がり軸受。
【請求項8】
内外輪である一対の軌道輪と、前記内外輪の軌道面間に介在する複数の転動体と、これら転動体を保持する保持器とを有する転がり軸受において、
前記内外輪のいずれか一方または両方に軸方向に延びる軌道輪延長部を設け、軸受冷却媒体を兼ねる潤滑油を軸受内に供給すると共に、軸受外に排出する給排油機構を前記軌道輪延長部に設け、前記給排油機構は、前記潤滑油を軸受内に供給する給油口と潤滑油を軸受外に排出する排油口とを有し、前記軌道輪延長部に、給油口および排油口に連通し、隣接する軸受内に潤滑油が漏洩することを抑制するラビリンス機構を設けた転がり軸受。
【請求項9】
請求項8において、前記ラビリンス機構は、外径側に凸となる凸形状部と、この凸形状部にすきまを介して対向する凹形状部とを有する転がり軸受。
【請求項10】
請求項8において、前記ラビリンス機構は円周溝からなる転がり軸受。
【請求項11】
内外輪である一対の軌道輪と、前記内外輪の軌道面間に介在する複数の転動体と、これら転動体を保持する保持器とを有する転がり軸受において、
前記内外輪のいずれか一方または両方に軸方向に延びる軌道輪延長部を設け、軸受冷却媒体を兼ねる潤滑油を軸受内に供給すると共に、軸受外に排出する給排油機構を前記軌道輪延長部に設け、前記給排油機構は、前記潤滑油を軸受内に供給する給油口と潤滑油を軸受外に排出する排油口とを有し、前記給油口に対し、排油口の位相が180度以上270度以下の範囲に配設される転がり軸受。
【請求項12】
内外輪である一対の軌道輪と、前記内外輪の軌道面間に介在する複数の転動体と、これら転動体を保持する保持器とを有する転がり軸受において、
前記内外輪のいずれか一方または両方に軸方向に延びる軌道輪延長部を設け、軸受冷却媒体を兼ねる潤滑油を軸受内に供給すると共に、軸受外に排出する給排油機構を前記軌道輪延長部に設け、前記給排油機構は、前記潤滑油を軸受内に供給する給油口と潤滑油を軸受外に排出する排油口とを有し、前記内外輪のいずれか一方に軌道輪延長部を設ける場合に、前記軌道輪延長部の無い内外輪のいずれか他方に軌道輪延長部に対向する間座を設け、これら軌道輪延長部と間座とにわたって給排油機構を設けた転がり軸受。
【請求項13】
請求項12において、前記軌道輪延長部が内輪に一体に設けられたものである転がり軸受。
【請求項14】
請求項13において、前記軸受内に供給した潤滑油を内輪回転による遠心力で前記間座に衝突させ、且つ、軸受内の内輪軌道面に導く導油部を前記間座に設けた転がり軸受。
【請求項15】
内外輪である一対の軌道輪と、前記内外輪の軌道面間に介在する複数の転動体と、これら転動体を保持する保持器とを有する転がり軸受において、
前記内外輪のいずれか一方または両方に軸方向に延びる軌道輪延長部を設け、軸受冷却媒体を兼ねる潤滑油を軸受内に供給すると共に、軸受外に排出する給排油機構を前記軌道輪延長部に設け、前記転がり軸受を立軸で使用する場合に、前記給排油機構を前記転がり軸受の上部に配設した転がり軸受。
【請求項16】
内外輪である一対の軌道輪と、前記内外輪の軌道面間に介在する複数の転動体と、これら転動体を保持する保持器とを有する転がり軸受において、
前記内外輪のいずれか一方または両方に軸方向に延びる軌道輪延長部を設け、軸受冷却媒体を兼ねる潤滑油を軸受内に供給すると共に、軸受外に排出する給排油機構を前記軌道輪延長部に設け、前記内外輪のうちの固定側の軌道輪に吸気口を設けた転がり軸受。
【請求項17】
請求項16において、前記軸受内の軌道面に供給された潤滑油を軸受外に排出する切欠部を軌道輪端面に設ける場合に、前記吸気口を前記切欠部に対し略180度の位相差を成す略対角位置に配設した転がり軸受。
【請求項18】
内外輪である一対の軌道輪と、前記内外輪の軌道面間に介在する複数の転動体と、これら転動体を保持する保持器とを有する転がり軸受において、
前記内外輪のいずれか一方または両方に軸方向に延びる軌道輪延長部を設け、軸受冷却媒体を兼ねる潤滑油を軸受内に供給すると共に、軸受外に排出する給排油機構を前記軌道輪延長部に設け、前記給排油機構は、軸受内に導入した潤滑油を円周方向に沿って導く溝を有する転がり軸受。
【請求項19】
請求項18において、前記給排油機構は、前記潤滑油を軸受内に供給する給油口と潤滑油を軸受外に排出する排油口とを有する転がり軸受。
【請求項20】
請求項19において、前記給油口から軸受内に供給された潤滑油を内輪軌道面に導くラビリンスを軌道輪延長部に設け、前記ラビリンスは、潤滑油の供給方向上流側から下流側に沿って広部と狭部とが連なるものとした転がり軸受。
【請求項21】
請求項20において、前記転がり軸受を立軸で使用する場合に、前記軌道輪延長部における、ラビリンスの上流側端に位置する潤滑油が滞留する高さAと前記排油口の底部の高さBとの関係がA≧Bの関係にある転がり軸受。
【請求項22】
請求項1ないし請求項21のいずれか1項において、工作機械主軸の支持に用いられるものである転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、工作機械主軸を回転自在に支持する転がり軸受に関し、立軸等でも使用可能とした転がり軸受の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
軸受の冷却と、軸受に対する潤滑油の給排油を行う機構を有する潤滑装置が提案されている(特許文献1)。この潤滑装置では、
図17(A)に示すように、内輪端面に接する内輪間座50を設け、外輪端面に接する潤滑油導入部材51を設けている。内輪52のうち前記内輪端面から内輪軌道面に繋がる斜面に円周溝53を設けると共に、前記潤滑油導入部材51にノズル54を設け、このノズル54から前記円周溝53内に軸受冷却媒体を兼ねる潤滑油を吐出するようになっている。同図(A)において、矢印は潤滑油の流れを示す。潤滑油導入部材51に導入された潤滑油を円周溝53内に吐出することで、内輪52を冷却する。潤滑油導入部材51から軸受内に延びる被さり部55と前記斜面との間の隙間から、円周溝53の一部の潤滑油を軸受内に供給する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−240946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図17(A)の軸受は、この軸受とは別の潤滑装置を必要とするため、部品点数が多い。この軸受を立軸に使用する場合、
図17(B)に示すように、潤滑油が滞留する高さAよりも排油口の高さBの方が高い。このため、排油を十分に行えない。このとき、排油されない多量の潤滑油が軸受内に浸入する。すると、攪拌抵抗が増加し、軸受内部の温度が上昇して、高速運転が困難な場合がある。
【0005】
この発明の目的は、従来技術のものより、部品点数の低減を図り、潤滑油を十分に排油して攪拌抵抗の増加を防止し、軸受内部の温度上昇を抑制して、高速運転を可能とする転がり軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発
明における第1の発明の転がり軸受は、内外輪である一対の軌道輪と、前記内外輪の軌道面間に介在する複数の転動体と、これら転動体を保持する保持器とを有する転がり軸受において、前記内外輪のいずれか一方または両方に軸方
向の片側に延びる軌道輪延長部を設け、軸受冷却媒体を兼ねる潤滑油を軸受内に供給すると共に軸受外に排出する給排油機構を前記軌道輪延長部
に対向して設け、前記給排油機構は、この給排油機構内に導入した潤滑油を円周方向に沿って導く環状油路を有することを特徴とする。
前記「軌道輪延長部」は、軌道輪のうち軸受としての必要な強度を満たす部分に対して、軸方向に延長された部分を指す
。
前記環状油路に導入された潤滑油の一部を前記軌道面に導く流路を、前記軌道輪延長部に設けても良い。
【0007】
この構成によると、軌道輪延長部に設けた給排油機構により軸受内に潤滑油を導入する。これにより軌道輪を冷却する。導入された潤滑油の一部は、軸受内の軌道面に供給される。また軌道輪延長部に設けた給排油機構により、潤滑油を軸受外に排出する。このように、軸受の軌道輪延長部に設けた給排油機構により、潤滑油の供給および排出を行うことができるため、軸受とは別の潤滑装置を設けた従来技術のものより、部品点数の低減を図り、構造を簡単化し、製造コストの低減を図れる。
前記転がり軸受を立軸で使用する場合に、例えば、軸受内で潤滑油が滞留する高さと、潤滑油を排出する排油口の底部の高さとを同じにすることができる。この場合、前記排油口から十分に排油を行うことができ、多量の潤滑油が不所望に軸受内に浸入することを防止できる。したがって、攪拌抵抗の増加を防止し、軸受内部の温度上昇を抑制して、高速運転を可能とすることができる。
【0008】
前記給排油機構は、前記潤滑油を軸受内に供給する給油口と潤滑油を軸受外に排出する排油口とを有するものであっても良い。
前記給油口から軸受内に供給された潤滑油を内輪軌道面に導くラビリンスを軌道輪延長部に設け、前記ラビリンスは、潤滑油の供給方向上流側から下流側に沿って広部と狭部とが連なるものとしても良い。潤滑油は、ラビリンスの広部と狭部とを通過して内輪軌道面に供給される。ラビリンスに広部と狭部とを設けることで、潤滑油の供給量を抑制することができる。これにより、攪拌抵抗の増加をさらに確実に防止することができる。
【0009】
前記転がり軸受を立軸で使用する場合に、前記軌道輪延長部における、ラビリンスの上流側端に位置する潤滑油が滞留する高さAと前記排油口の底部の高さBとの関係がA≧Bの関係にあっても良い。この場合、前記排油口から十分に排油を行うことができ、多量の潤滑油の軸受内への浸入防止を図り、攪拌抵抗の増加を防止し得る。したがって、軸受内部の温度上昇を抑制して、高速運転が可能となる。
【0010】
この発明における第2の発明の転がり軸受は、内外輪である一対の軌道輪と、前記内外輪の軌道面間に介在する複数の転動体と、これら転動体を保持する保持器とを有する転がり軸受において、
前記内外輪のいずれか一方または両方に軸方向に延びる軌道輪延長部を設け、軸受冷却媒体を兼ねる潤滑油を軸受内に供給すると共に、軸受外に排出する給排油機構を前記軌道輪延長部に設け、前記給排油機構は、前記潤滑油を軸受内に供給する給油口と潤滑油を軸受外に排出する排油口とを有し、
前記軸受内の軌道面に供給された潤滑油を軸受外に排出する切欠部を軌道輪延長部とは軸方向逆側の軌道輪端面に設
ける。この場合、潤滑に供された潤滑油は、切欠部を介して軸受外に円滑に排出される。このため、軸受内に潤滑油が溜まらないようにできる。これにより、攪拌抵抗の増加をさらに確実に防止し得る。
前記切欠部は内外輪のうちの固定側の軌道輪に設けられ、この切欠部を回転側の軌道輪の回転方向に沿う給油口と排油口との間に配設しても良い。この場合、前記回転方向に沿う、給油口と切欠部との位相角度を小さくし、潤滑油を切欠部から回収することで、軸受内に多量の潤滑油が滞留し攪拌抵抗が大きくなることを防止する。
【0011】
前記軌道輪延長部の端面に、給油口および排油口に連通し、隣接する軸受内に漏洩した潤滑油を排出する排出溝を設けても良い。給油口および排油口に連通する部分から、隣接する軸受内に潤滑油が漏洩したとき、前記排出溝からこの漏洩した潤滑油を排出することができる。
前記排出溝は内外輪のうちの固定側の軌道輪に設けられ、この排出溝を回転側の軌道輪の回転方向に沿う給油口と排油口との間に配設しても良い。この場合、前記回転方向に沿う、給油口と排出溝との位相角度を小さくし、隣接する軸受内に潤滑油が漏洩することを抑制することが可能となる。
【0012】
前記切欠部と排出溝とを同位相に配設しても良い。この場合、ハウジングにおける、切欠部と排出溝に連通する排油口を各々に設ける必要がなくなり、ハウジングの構造を簡略化することができる
。
この発明における第3の発明の転がり軸受は、内外輪である一対の軌道輪と、前記内外輪の軌道面間に介在する複数の転動体と、これら転動体を保持する保持器とを有する転がり軸受において、
前記内外輪のいずれか一方または両方に軸方向に延びる軌道輪延長部を設け、軸受冷却媒体を兼ねる潤滑油を軸受内に供給すると共に、軸受外に排出する給排油機構を前記軌道輪延長部に設け、前記給排油機構は、前記潤滑油を軸受内に供給する給油口と潤滑油を軸受外に排出する排油口とを有し、
前記軌道輪延長部に、給油口および排油口に連通し、隣接する軸受内に潤滑油が漏洩することを抑制するラビリンス機構を設
ける。
前記ラビリンス機構は、外径側に凸となる凸形状部と、この凸形状部にすきまを介して対向する凹形状部とを有するものであっても良い。このようなラビリンス機構により、隣接する軸受に潤滑油が漏洩することを抑制し得る。
【0013】
前記ラビリンス機構は円周溝からなるものであっても良い。回転側の軌道輪の回転に伴う遠心力により、ラビリンス機構に存在する潤滑油を、前記円周溝に沿って漏れ側とは反対方向に移動させることができる。したがって、隣接する軸受に潤滑油が漏洩することを抑制し得る。
【0014】
この発明における第4の発明の転がり軸受は、内外輪である一対の軌道輪と、前記内外輪の軌道面間に介在する複数の転動体と、これら転動体を保持する保持器とを有する転がり軸受において、
前記内外輪のいずれか一方または両方に軸方向に延びる軌道輪延長部を設け、軸受冷却媒体を兼ねる潤滑油を軸受内に供給すると共に、軸受外に排出する給排油機構を前記軌道輪延長部に設け、前記給排油機構は、前記潤滑油を軸受内に供給する給油口と潤滑油を軸受外に排出する排油口とを有し、
前記給油口に対し、排油口の位相が180度以上270度以下の範囲に配設されるもので
ある。この場合、回転側の軌道輪の回転方向に沿う、給油口と排油口との位相角度を大きくすることができ、前記位相角度が180度未満のときに比べて軸受の冷却効果を高めることができる
。
この発明における第5の発明の転がり軸受は、前記内外輪のいずれか一方に軌道輪延長部を設ける場合に、前記軌道輪延長部の無い内外輪のいずれか他方に軌道輪延長部に対向する間座を設け、これら軌道輪延長部と間座とにわたって給排油機構を設
ける。
前記軌道輪延長部が内輪に一体に設けられたものであっても良い。
【0015】
前記軸受内に供給した潤滑油を内輪回転による遠心力で前記間座に衝突させ、且つ、軸受内の内輪軌道面に導く導油部を前記間座に設けても良い。軸受内に供給した潤滑油は、遠心力を受けて間座の導油部に衝突し、この導油部から軸受内の内輪軌道面に供給され易くなる。また、これにより潤滑油が滞留し難くなる。
【0016】
この発明における第6の発明の転がり軸受は、前記転がり軸受を立軸で使用する場合に、前記給排油機構を前記転がり軸受の上部に配
設する。この場合、潤滑油自体の重力により、軸受の潤滑に必要な油量を、給排油機構から軸受部側つまり軌道面側に効率的に供給することができるうえ、軸受上部から漏洩する油量を抑制することができる。
【0017】
この発明における第7の発明の転がり軸受は、前記内外輪のうちの固定側の軌道輪に吸気口を設
ける。軸受が密閉されたハウジング内に設置される場合、排油をポンプで引く際に軸受部は負圧となり、軸受内へ十分な潤滑油を供給することができなくなる。前記吸気口を設けたため、軸受部が負圧とならず、軸受内へ必要十分な潤滑油を供給することができる。
前記軸受内の軌道面に供給された潤滑油を軸受外に排出する切欠部を軌道輪端面に設ける場合に、前記吸気口を前記切欠部に対し略180度の位相差を成す略対角位置に配設しても良い。このように吸気口を切欠部から最も離れた略対角位置に配設することで、隣接する軸受内に漏洩する油量を減少させることができる。
【0018】
この発明における第8の発明の転がり軸受は、前記給排油機構は、軸受内に導入した潤滑油を円周方向に沿って導く溝を有す
る。この溝が潤滑油を捕捉し、排油を円滑に導くことができる。したがって、軸受内部や軸受外部に多くの潤滑油が不所望に流入することがなくなる。また、溝を形成したことにより、給排油機構において潤滑油が通過する表面積を増加させることができる。したがって、軌道輪の冷却効果をさらに高めることができる。
この発明のいずれかの転がり軸受は、工作機械主軸の支持に用いられるものであっても良い。
【発明の効果】
【0019】
この発明の転がり軸受は、内外輪である一対の軌道輪と、前記内外輪の軌道面間に介在する複数の転動体と、これら転動体を保持する保持器とを有する転がり軸受において、前記内外輪のいずれか一方または両方に軸方
向の片側に延びる軌道輪延長部を設け、軸受冷却媒体を兼ねる潤滑油を軸受内に供給すると共に軸受外に排出する給排油機構を前記軌道輪延長部
に対向して設け、前記給排油機構は、この給排油機構内に導入した潤滑油を円周方向に沿って導く環状油路を有するため、従来技術のものより、部品点数の低減を図り、潤滑油を十分に排油して攪拌抵抗の増加を防止し、軸受内部の温度上昇を抑制して、高速運転を可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】(A)は、この発明の第1の実施形態に係る転がり軸受の給油側の断面図、(B)は同転がり軸受の排油側の断面図である。
【
図3】同転がり軸受の給排油機構の給油口を示す外輪の要部の正面図である。
【
図4】同転がり軸受の給排油機構の排油口を示す外輪の要部の正面図である。
【
図5】同転がり軸受のラビリンスを拡大して示す断面図である。
【
図6】(A)は、同転がり軸受の切欠部を拡大して示す要部の断面図、(B)は、同切欠部を示す外輪の要部の正面図である。
【
図7】同転がり軸受のラビリンス機構を拡大して示す要部の断面図である。
【
図8】(A)は、同転がり軸受の排出溝を拡大して示す要部の断面図、(B)は、同排出溝等を示す外輪の要部の正面図である。
【
図9】同転がり軸受の吸気口を示す外輪の要部の正面図である。
【
図10】この発明の他の実施形態に係る転がり軸受の断面図である。
【
図11】(A)は同転がり軸受の要部の拡大断面図、(B)は同転がり軸受の要部の、遠心力を受けた潤滑油の作用を示す拡大断面図である。
【
図12】同転がり軸受のラビリンス機構の拡大断面図である。
【
図13】この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受の断面図である。
【
図14】同転がり軸受を部分的に変更した要部の拡大断面図である。
【
図15】参考提案例に係る転がり軸受の断面図である。
【
図16】この発明のいずれかの実施形態に係る転がり軸受を、立型の工作機械主軸を支持する転がり軸受に適用した例を示す概略断面図である。
【
図17】(A)は、従来例の転がり軸受の潤滑装置の給油側の断面図、(B)は同潤滑装置の排油側の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
この発明の第1の実施形態を
図1ないし
図9と共に説明する。この実施形態に係る転がり軸受は、例えば、工作機械主軸を回転自在に支持する転がり軸受に適用される。
図1(A)に示すように、転がり軸受は、内外輪1,2である一対の軌道輪と、内外輪1,2の軌道面1a,2a間に介在する複数の転動体3と、これら転動体3を保持するリング状の保持器4とを有する。この転がり軸受はアンギュラ玉軸受からなり、転動体3として、鋼球やセラミックス球等からなる玉が適用される。内輪1は、内輪本体部5と、軌道輪延長部としての内輪延長部6とを有する。内輪本体部5は、軸受としての必要な強度を満たし、且つ、所定の内輪幅寸法に設けられる。内輪本体部5における外周面の中央部に軌道面1aが形成されている。前記外周面のうち軌道面1aに繋がる軸方向一方側に、軌道面側に向かうに従って大径となる斜面1bが形成され、前記外周面のうち軌道面1aに繋がる軸方向他方側に、平坦な外径面1cが形成されている。この内輪本体部5の内輪正面側に、内輪延長部6が軸方向一方に延びるように一体に設けられる。前記所定の内輪幅寸法とは、JIS、軸受カタログ等に規定される軸受主要寸法の内輪幅寸法である。
【0022】
外輪2は、外輪本体部7と、軌道輪延長部としての外輪延長部8とを有する。外輪本体部7は、軸受としての必要な強度を満たし、且つ、所定の外輪幅寸法に設けられる。外輪本体部7における内周面の中央部に軌道面2aが形成され、同軌道面2aの両側に、外輪内径面2bと、カウンタボア2cとがそれぞれ形成されている。前記外輪内径面2bに保持器4が案内されるように構成されている。この外輪本体7の外輪背面側に、外輪延長部8が軸方向一方に延びるように一体に設けられる。この外輪延長部8と前記内輪延長部6とが径方向に対向するように配置される。前記所定の外輪幅寸法とは、JIS、軸受カタログ等に規定される軸受主要寸法の外輪幅寸法である。
【0023】
給排油機構について
図1ないし
図4と共に説明する。
給排油機構9は、
図1(A)に示すように、軸受冷却媒体を兼ねる潤滑油を、軸受内に供給すると共に、
図1(B)に示すように、前記潤滑油を軸受外に排出する機構である。この転がり軸受を立軸で使用する場合、給排油機構9を転がり軸受の上部に配設する。この給排油機構9を、内輪延長部6と外輪延長部8とにわたって設けている。
図2に示すように、給排油機構9は、環状油路10と、給油口11と、排油口12とを有する。これらのうち環状油路10は、
図1(A)に示すように、内輪延長部6の外周面に設けられる断面凹形状の内輪側円周溝13と、外輪延長部8の内周面に設けられ、前記内輪側円周溝13に対して径方向に対向するように配設される断面凹形状の外輪側円周溝14とで成る。これら内輪側円周溝13と外輪側円周溝14とで断面矩形孔状で環状に連なる環状油路10が形成される。
【0024】
図2に示すように、外輪延長部8のうち円周方向の一部に、潤滑油を軸受内に供給する前記給油口11が形成されている。
図3に示すように、この給油口11は、外輪延長部8の外周面から前記環状油路10に径方向に貫通する段付きの貫通孔状に形成されている。すなわち給油口11は、
図1(A)に示すように、環状油路10の円周方向の一部に半径方向外方に連通する連通孔11aと、この連通孔11aに繋がり前記外周面に開口する座繰り孔11bとでなる。座繰り孔11bは、連通孔11aに対し同心で同連通孔11aよりも大径に形成されている。給油口11から軸受内に供給された潤滑油は、
図1(A)、
図2の矢符A1,A2で表記するように環状油路内を、回転側の軌道輪である内輪1の回転方向A3と同一方向に進み、後述する排油口12等から排出されるようになっている。
【0025】
図2に示すように、外輪延長部8のうち、前記給油口11とは位相の異なる円周方向の一部に、潤滑油を軸受外に排出する前記排油口12が形成されている。排油口12は、
図1(B)に示すように、外輪延長部8の外周面から前記環状油路10に径方向に貫通する貫通孔状で、且つ、
図2、
図4に示すように、円周方向に所定角度βにわたり延びる長孔状に形成されている。給油口11に対し、この排油口12の位相αが180度以上270度以下の範囲に配設されている。なお
図2の例では、給油口11に対し、排油口12の位相αが270度に配設されている。
【0026】
ラビリンス等について
図1(A)および
図5と共に説明する。
図1(A)に示すように、内輪延長部6および外輪延長部8には、給油口11から軸受内の環状油路10に供給された潤滑油を、斜面1bを介して内輪軌道面1aに導くラビリン
ス(流路)15を設けている。内輪延長部6のうち、内輪側円周溝13を成す断面凹形状の一方側肩部16は、内輪本体部5に一体に繋がっている。また外輪延長部8のうち、外輪側円周溝14を成す断面凹形状の一方側肩部17は、外輪本体部7に一体に繋がっている。内輪延長部6の一方側肩部16の外周面と、同外周面に径方向すきまδ1を介して対向する外輪延長部8の一方側肩部17の内周面とにより、ラビリンス15を形成している。
【0027】
図5に示すように、ラビリンス15は、潤滑油の供給方向上流側から下流側に沿って広部と狭部とが連なるものとしている。具体的には、外輪延長部8の一方側肩部17の内周面を、軸受軸方向に平行な平坦面17aに形成し、内輪延長部6の一方側肩部16の外周面を、上流側から下流側に、順次、平坦部16a、傾斜溝16b、平坦部16c、傾斜溝16dに形成している。各傾斜溝16b,16dは、上流側から下流側に向かうに従って小径となる傾斜角度をもつ。内輪延長部6の平坦部16a,16cと、外輪延長部8の平坦面17aとで、他よりも径方向すきまδ1が狭くなる前記狭部を形成する。この狭部に続く、内輪延長部6の傾斜溝16b,16dと、外輪延長部8の平坦面17aとで、径方向すきまδ1が下流側に向かうに従って次第に広くなる前記広部を形成する。
【0028】
図1(B)に示すように、この転がり軸受を立軸で使用する場合に、内外輪延長部6,8の一方側肩部16,17の内面の高さAと、排油口12の底部の高さBとの関係がA≧Bの関係にある。この例では、高さA,Bとが同一高さとなるように設けられている。前記高さAは、内外輪延長部6,8における、ラビリンス15の上流側端15aに位置する潤滑油が滞留する高さと同義である。
【0029】
切欠部について
図1(A)、
図2および
図6と共に説明する。
図1(A)に示すように、固定側の軌道輪である外輪2に、切欠部18が設けられている。
図6(A)は、転がり軸受の切欠部18を拡大して示す要部の断面図(
図1のVI部)であり、
図6(B)は、同切欠部18を示す外輪2の要部の正面図である。この切欠部18は、外輪延長部8とは軸方向逆側の外輪端面に設けられ、前記ラビリンス15を経由して軸受内の軌道面1aに供給された潤滑油を軸受外に排出するようになっている。
図2に示すように、前記切欠部18を、内輪1の回転方向に沿う、給油口11と排油口12との間に配設している。この例では、切欠部18は、給油口12に対し90度の位相角度をもって配設され、且つ、排油口12に対し180度の位相角度をもって配設されている。
【0030】
ラビリンス機構について
図1(A)、
図7と共に説明する。
図1(A)に示すように、内輪延長部6および外輪延長部8には、ラビリンス機構19を設けている。このラビリンス機構19は、給油口11および排油口12(
図1(B))に連通し、隣接する軸受内に潤滑油が漏洩することを抑制する。このラビリンス機構19は、
図7(
図1(A)のVII部)に拡大して示すように、内輪延長部6に設けられ外径側に凸となる凸形状部20と、外輪延長部8に設けられ前記凸形状部20にすきまを介して対向する凹形状部21とを有する。前記凸形状部20は、内輪延長部6のうちの断面凹形状の他方側肩部から成り、前記凹形状部21は、外輪延長部8のうちの断面凹形状の他方側肩部の先端部分から成る。ラビリンス機構19は、これら凸形状部20と凹形状部21とを対向させて配設することで、第1の径方向すきまδa、軸方向すきまδb、および第2の径方向すきまδcからなる前記すきまを形成し得る。第1の径方向すきまδaが軸受外に臨み、第2の径方向すきまδcが給油口11および排油口12に連通する。これら第1の径方向すきまδa、軸方向すきまδb、および第2の径方向すきまδcは連続して切れ目なく繋がっており、第2の径方向すきまδcは、第1の径方向すきまδaよりも径方向外方位置に設けられている。
【0031】
排出溝について
図1(B)、
図2、
図8等と共に説明する。
図8(A)は、同転がり軸受の排出溝22を拡大して示す要部の断面図(
図1(A)のVIII部)であり、
図8(B)は、同排出溝22等を示す外輪2の要部の正面図である。
図1(B)に示すように、固定側の軌道輪である外輪2における外輪延長部8の端面には、排出溝22が設けられている。この排出溝22は、給油口11(
図1(A))および排油口12にラビリンス機構19を介して連通し、隣接する軸受内に漏洩した潤滑油を排出する溝である。この排出溝22は、
図8(B)に示すように、切欠部18と同位相に配設され、
図2に示すように、内輪1の回転方向A3に沿う、給油口11と排油口12との間に配設されている。この例では、排出溝22は、給油口11に対して90度の位相角度をもって配設され、且つ、排油口12に対し180度の位相角度をもって配設されている。
【0032】
吸気口について
図2および
図9と共に説明する。
軸受が密閉されたハウジング内に設置される場合、排油をポンプで引く際、軸受部は負圧となり軸受内へ十分な潤滑油を供給することができない。そこで、本実施形態に係る転がり軸受では、
図2に示すように、外輪2の外輪延長部8に吸気口23を設けている。この吸気口23は、
図9に示すように、外輪延長部8の端面において、例えば、排出溝22の幅寸法よりも幅狭で、且つ、
図2に示すように、半径方向に延びる溝形状に形成される。この吸気口23を、前記切欠部18に対し略180度の位相差を成す略対角位置に配設している。前記「略180度」とは、この明細書において180度±10度内の範囲をいう。
【0033】
以上説明した転がり軸受の作用効果について説明する。
潤滑油を、内外輪延長部6,8に設けた給排油機構9の給油口11から軸受内の環状油路10に導入する。これにより内外輪1,2を冷却する。導入された潤滑油の一部は、ラビリンス15を経由して、軌道面1aに供給される。前記給排油機構9の排油口12から潤滑油を軸受外に排出する。このように、内外輪延長部6,8に設けた給排油機構9により、潤滑油の供給および排出を行うことができるため、軸受とは別の潤滑装置を設けた従来技術のものより、部品点数の低減を図り、構造を簡単化し、製造コストの低減を図れる。
【0034】
この転がり軸受を立軸で使用する場合に、潤滑油が滞留する前記高さAと、排油口12の底部の高さBとの関係をA≧Bの関係にしたため、前記排油口12から十分に排油を行うことができ、多量の潤滑油が不所望に軸受内に浸入することを防止できる。したがって、攪拌抵抗の増加を防止し、軸受内部の温度上昇を抑制して、高速運転を可能とすることができる。
軸受内の環状油路10に導入された潤滑油を、内輪軌道面1aに導くラビリンス15を内外輪延長部6,8に設け、前記ラビリンス15は上流側から下流側に沿って広部と狭部とが連なるものとしたため、潤滑油は、ラビリンス15の広部と狭部とを通過して内輪軌道面1aに供給される。ラビリンス15に広部と狭部とを設けることで、潤滑油の供給量を抑制することができる。これにより、攪拌抵抗の増加をさらに確実に防止することができる。
【0035】
前記切欠部18を外輪端面に設けたため、潤滑に供された潤滑油は、切欠部18を介して軸受外に円滑に排出される。このため、軸受内に潤滑油が溜まらないようにできる。これにより、攪拌抵抗の増加をさらに確実に防止し得る。
切欠部18は固定側の軌道輪である外輪2に設けられ、この切欠部18を、内輪1の回転方向に沿う、給油口11と排油口12との間に配設したため、前記回転方向に沿う、給油口11と切欠部18との位相角度を小さくし、潤滑油を切欠部18から回収することで、軸受内に多量の潤滑油が滞留し攪拌抵抗が大きくなることを防止する。
【0036】
外輪延長部8の端面に前記排出溝22を設けたため、給油口11および排油口12に連通するラビリンス機構19から、隣接する軸受内に潤滑油が漏洩したとき、前記排出溝22からこの漏洩した潤滑油を排出することができる。この排出溝22を、内輪1の回転方向に沿う、給油口11と排油口12との間に配設したため、給油口11と排出溝22との位相角度を小さくし、隣接する軸受内に潤滑油が漏洩することを抑制することが可能となる。
【0037】
切欠部18と排出溝22とを同位相に配設したため、ハウジングにおける、切欠部18と排出溝22に連通する排油口を各々に設ける必要がなくなり、ハウジングの構造を簡略化することができる。これにより製造コストの低減を図ることができる。
前記ラビリンス機構19は、外径側に凸となる凸形状部20と、この凸形状部20にすきまを介して対向する凹形状部21とを有するものであるため、隣接する軸受に潤滑油が漏洩することを抑制し得る。このラビリンス機構19は、凸形状部20と凹形状部21とを対向させて配設することで、第1の径方向すきまδa、軸方向すきまδb、および第2の径方向すきまδcからなる前記すきまを形成し得る。このため、環状油路10内にある潤滑油が、これら複数箇所のすきまに浸入し難くなり、隣接する軸受に潤滑油が漏洩することを抑制し得る。
【0038】
給油口11に対し、排油口12の位相αが180度以上270度以下の範囲に配設されるため、内輪1の回転方向に沿う、給油口11と排油口12との位相角度を大きくすることができ、前記位相角度が180度未満のときと比べて軸受の冷却効果を高めることができる。
転がり軸受を立軸で使用する場合に、給排油機構9を前記転がり軸受の上部に配設すると、潤滑油自体の重力により、軸受の潤滑に必要な油量を、給排油機構9から軸受部側つまり軌道面側に効率的に供給することができるうえ、軸受上部から漏洩する油量を抑制することができる。
【0039】
この発明の他の実施形態について
図10ないし
図12と共に説明する。
以下の説明においては、各形態で先行する形態で説明している事項に対応している部分には同一の参照符を付し、重複する説明を略する。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、先行して説明している形態と同様とする。同一の構成部分からは同一の作用効果を奏する。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0040】
図10に示すように、この転がり軸受は、外輪延長部の無い外輪2に隣接して外輪間座8Aを設け、この外輪間座8Aの内周面を、内輪延長部6の外周面に対向させている。これら内輪延長部6と外輪間座8Aとにわたって給排油機構9を設けている。ここで、
図11(A)は、
図10のA部の拡大断面図であり、
図11(B)は、A部の、遠心力を受けた潤滑油の作用を示す拡大断面図である。
図11(A)に示すように、外輪間座8Aの内周面のうち、少なくとも給油口11が設けられる位相に、環状油路10を成す円周溝13に臨む導油部24を設けている。軸受内の環状油路10に供給した潤滑油を、内輪回転による遠心力で半径方向外方に移動させて前記導油部24に衝突させ、
図11(B)に示すように、ラビリンス15を介して内輪軌道面1aに導くようになっている。
軸受が高速回転するとき、環状油路10に供給された潤滑油は大きな遠心力を受ける。そのとき潤滑油は、軸受部側に供給され難くなるが、前記のように導油部24を設け、遠心力を受けた潤滑油を、導油部24に衝突させて、内輪軌道面1aに供給し易くできる。また、これにより潤滑油が滞留し難くなる。
【0041】
図10のB部を拡大した
図12に示すように、ラビリンス機構19Aは、複数(この例では2つ)の円周溝25からなる。内輪延長部6の他方側肩部の外周面に、これら円周溝25,25が軸方向に間隔をあけて配設されている。各円周溝25は、内輪延長部6の端面側に向かうに従って小径となる(換言すると溝が深くなる)傾斜角度α1をもつ。この構成により、ラビリンス機構19Aに浸入した潤滑油は、内輪回転による遠心力により漏れ側とは反対方向に移動する。このようなラビリンス機構19Aにより、隣接する軸受内に潤滑油が漏洩することを抑制することができる。なお、円周溝25は、3つ以上であっても良いし1つであっても良い。
【0042】
図13の転がり軸受は、
図1(A)の構成に加えて、給排油機構9Aは、軸受内に導入した潤滑油を円周方向に沿って導く溝26を有するものである。つまり、内輪延長部6の円周溝13の底面に、軸方向一定間隔おきに同心円状の溝26を設けると共に、外輪延長部8の円周溝14の両側面に、軸方向一定間隔おきに同心円状の溝26を設けている。この例では、各溝26は断面V字形状に形成されている。その他
図1等に示す第1の実施形態と同様の構成となっている。
【0043】
この構成によると、給排油機構9Aの環状油路10に導入された潤滑油は前記溝26に捕捉される。この溝26が潤滑油を捕捉することで、排油を円滑に導くことができる。したがって、軸受内部や軸受外部に多くの潤滑油が不所望に流入することがなくなる。また、溝26を形成したことにより、給排油機構9Aにおいて潤滑油が通過する表面積を増加させることができる。したがって、軌道輪の冷却効果をさらに高めることができる。
【0044】
図14に示すように、前記断面V字形状の溝26に代えて、断面半円形状の溝26Aにしても良い。この構成によると、断面V字形状の溝26に対し、溝幅H1、溝深さD1が同一の場合、給排油機構9Aにおける環状油路10の表面積を増加させることができる。このため、軌道輪の冷却効果をさらに高めることができる。
図13または
図14の構成に代えて、螺旋状の溝26,(26A)を給排油機構9Aに設けた構成にしても良い。この螺旋状の溝26,(26A)は、同溝に捕捉された潤滑油が、内輪回転による遠心力により漏れ側とは反対方向に移動する螺旋状とする。
図13の溝26、
図14の溝26A、および螺旋状の前記溝のいずれかにおいて、溝に捕捉された潤滑油が、内輪回転による遠心力により漏れ側とは反対方向に移動する傾斜角度をもつようにしても良い。前記いずれかの溝を、内輪延長部6の円周溝13の底面、および外輪延長部8の円周溝14の側面のいずれか一方だけに設けても良い。
【0045】
図15の転がり軸受は、
図1(A)の内外輪延長部6,8に代えて、内輪間座27、外輪間座28に相当する部材を設け、これら内外輪間座27,28に、給排油機構9を設けている。その他
図1等に示す第1の実施形態と同様の構成になっている。この場合、
図1等のものより軸受の冷却効果は劣るが、内外輪間座27,28および内外輪1,2の各部材の加工が容易になる。その他、この転がり軸受を立軸で使用する場合に、潤滑油が滞留する前記高さAと、排油口の底部の高さBとの関係をA≧Bの関係にしたため、前記排油口から十分に排油を行うことができ、多量の潤滑油が不所望に軸受内に浸入することを防止できる。
【0046】
図16は、前述のいずれかの転がり軸受を、立型の工作機械主軸を支持する転がり軸受に適用した例を示す概略断面図である。なお、横型の工作機械主軸を支持する転がり軸受に適用しても良い。この例では、2個のアンギュラ玉軸受を背面組み合わせでハウジング21に設置し、これらの軸受によりスピンドル30(主軸30)を回転自在に支持する。各アンギュラ玉軸受の内輪2は、内輪位置決め間座31,31およびスピンドル30の段部30a,30aにより軸方向に位置決めされ、内輪固定ナット32によりスピンドル30に締め付け固定されている。外輪2は、外輪間座33および外輪押え蓋34,34によりハウジング35内に位置決め固定されている。ハウジング35は、ハウジング内筒35aとハウジング外筒35bとを嵌合させたものであり、その嵌合部に、冷却のための通油溝35cが設けられている。
【0047】
スピンドル30の下端30bは、工具またはワークの支持部となり、スピンドル30の上端30cは、モータ等の駆動源が図示外の回転伝達機構を介して連結される。モータは、ハウジング35に内蔵しても良い。このスピンドル装置は、例えば、マシニングセンタ、旋盤、フライス盤、研削盤等の各種の工作機械に適用できる。
【0048】
この構成によると、転がり軸受を立軸であるスピンドル30で使用する場合に、給排油機構9,(9A)を前記転がり軸受の上部に配設することで、潤滑油自体の重力により、軸受の潤滑に必要な油量を、給排油機構9,(9A)から軸受部側つまり軌道面側に効率的に供給することができるうえ、軸受上部から漏洩する油量を抑制することができる。また、内外輪延長部6,8に設けた給排油機構9,(9A)により、潤滑油の供給および排出を行うことができるため、軸受とは別の潤滑装置を設けた従来技術のものより、部品点数の低減を図り、構造を簡単化し、製造コストの低減を図れる。よって、スピンドル装置全体のコスト低減を図れる。潤滑油が滞留する前記高さAと、排油口12の底部の高さBとの関係をA≧Bの関係にしたため、前記排油口12から十分に排油を行うことができ、多量の潤滑油が不所望に軸受内に浸入することを防止できる。したがって、攪拌抵抗の増加を防止し、軸受内部の温度上昇を抑制して、高速運転を可能とすることができる。
【符号の説明】
【0049】
1…内輪
2…外輪
1a,2a…軌道面
3…転動体
4…保持器
6…内輪延長部
8…外輪延長部
8A…外輪間座
9…給排油機構
11…給油口
12…排油口
15…ラビリンス
18…切欠部
19,19A…ラビリンス機構
22…排出溝
23…吸気口
26,26A…溝