特許第5676001号(P5676001)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5676001ブレーキ倍力装置およびブレーキ倍力装置を運転するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5676001
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月25日
(54)【発明の名称】ブレーキ倍力装置およびブレーキ倍力装置を運転するための方法
(51)【国際特許分類】
   B60T 13/10 20060101AFI20150205BHJP
【FI】
   B60T13/10
【請求項の数】11
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-535327(P2013-535327)
(86)(22)【出願日】2011年9月5日
(65)【公表番号】特表2013-541460(P2013-541460A)
(43)【公表日】2013年11月14日
(86)【国際出願番号】EP2011065251
(87)【国際公開番号】WO2012059260
(87)【国際公開日】20120510
【審査請求日】2013年5月27日
(31)【優先権主張番号】102010043203.2
(32)【優先日】2010年11月2日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】501125231
【氏名又は名称】ローベルト ボッシュ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(72)【発明者】
【氏名】ディルク・マーンコプフ
【審査官】 塚原 一久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−273214(JP,A)
【文献】 特開2007−099277(JP,A)
【文献】 特表2012−512781(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/069832(WO,A1)
【文献】 特表2011−506187(JP,A)
【文献】 特表2011−506188(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/083217(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 13/00−13/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ倍力装置(1)であって、
運転者によって操作可能なインプットエレメント(2)と、
補助力(Fsup)を生ぜしめるためのアクチュエータと、
前記インプットエレメント(2)および/または前記アクチュエータによってインプット力(Fin)若しくは前記補助力(Fsup)で負荷可能であり、かつマスタブレーキシリンダのピストンを操作力で負荷することができるアウトプットエレメント(6)と、
一方では前記インプットエレメント(2)と前記アクチュエータとの間、他方では前記インプットエレメントと前記アウトプットエレメント(6)との間に配置され、かつ前記インプット力(Fin)および/または前記補助力(Fsup)を前記アウトプットエレメント(6)に伝達する、弾性特性を有する動力伝達ユニット(5)と、を有している形式のものにおいて、
前記インプットエレメント(2)と前記動力伝達エレメント(5)との間に、非作動状態において、制動過程の開始時における所望のジャンプイン機能を実現するためのエアギャップよりも小さいかまたは大きいエアギャップ(21)が設けられていることを特徴とする、ブレーキ倍力装置。
【請求項2】
ブレーキ倍力装置(1)であって、
運転者によって操作可能なインプットエレメント(2)と、
補助力(Fsup)を生ぜしめるためのアクチュエータと、
前記インプットエレメント(2)および/または前記アクチュエータによってインプット力(Fin)若しくは前記補助力(Fsup)で負荷可能であり、かつマスタブレーキシリンダのピストンを操作力で負荷することができるアウトプットエレメント(6)と、
一方では前記インプットエレメント(2)と前記アクチュエータとの間、他方では前記インプットエレメントと前記アウトプットエレメント(6)との間に配置され、かつ前記インプット力(Fin)および/または前記補助力(Fsup)を前記アウトプットエレメント(6)に伝達する、弾性特性を有する動力伝達ユニット(5)と、
を有している形式のものにおいて、
前記インプットエレメント(2)が、前記インプット力(Fin)を生ぜしめるための、運転者によって操作可能な第1の部分エレメント(30)と、該第1の部分エレメント(30)から分離され、かつ前記インプット力(Fin)を前記動力伝達ユニット(5)に伝達するための第2の部分エレメント(31)とを有しており、前記インプットエレメント(2)の前記第1の部分エレメント(30)と前記第2の部分エレメント(31)との間に、非作動状態で、制動過程の開始時における所望のジャンプイン機能を実現するためのエアギャップよりも小さいかまたは大きいエアギャップ(21’)が設けられていることを特徴とする、ブレーキ倍力装置。
【請求項3】
前記アクチュエータが、空気圧式または液圧式または電気液圧式または電気機械式または電熱アクチュエータとして構成されている、請求項1または2に記載のブレーキ倍力装置。
【請求項4】
前記動力伝達ユニット(5)は、インプット力(Fin)に対する補助力(Fsup)の変化に応じて、動力伝達ユニット(5)の変位を生ぜしめるように、構成されている、請求項1から3のいずれか1項に記載のブレーキ倍力装置。
【請求項5】
前記動力伝達ユニット(5)は、弾性的に変形可能なスプリングワッシャ(20)または弾性的なばね構造体として構成されている、請求項1から4のいずれか1項に記載のブレーキ倍力装置。
【請求項6】
前記ブレーキ倍力装置(1)がプリロードユニットを有しており、該プリロードユニットは、前記動力伝達ユニット(5)をブレーキ倍力装置(1)の非作動状態において偶力によって負荷するように、前記動力伝達ユニット(5)に作用する、請求項1から5のいずれか1項に記載のブレーキ倍力装置。
【請求項7】
前記プリロードユニットが、前記動力伝達ユニット(5)をアクティブに前記偶力の第1の力によって負荷する動力発生ユニットと、
前記第1の力と協働して前記偶力を形成する、前記第1の力に対抗する反動力を生ぜしめるリアクションユニットと、
を有している、請求項6に記載のブレーキ倍力装置。
【請求項8】
前記動力発生ユニットが、前記ブレーキ倍力装置の非作動状態においてプリロードがかけられているばねエレメント(8)として構成されており、該ばねエレメント(8)が片側で前記動力伝達エレメント(5)に支えられている、請求項7に記載のブレーキ倍力装置。
【請求項9】
前記リアクションユニットがストッパ(32)を有しており、該ストッパ(32)において前記動力伝達ユニット(5)が直接的にまたは間接的に支持されている、請求項7または8に記載のブレーキ倍力装置。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載のブレーキ倍力装置(1)を運転するための方法において、予想される制動要求の前の地点においてまたは制動要求の検知直後に、インプットエレメント(2)の操作の検知前または直後の時間範囲内において、補助力(Fsup)をアクチュエータによって生ぜしめることを特徴とする、ブレーキ倍力装置を運転するための方法。
【請求項11】
前記補助力(Fsup)によって、エアギャップ(21;21’)を制動過程の開始時において所望のジャンプイン機能を実現するための大きさにする、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ倍力装置およびブレーキ倍力装置を運転するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆる「Springer−Funktion(ジャンプイン機能)」を有するブレーキ倍力装置は、従来より公知である。ジャンプイン機能においては、インプットエレメントとブレーキ倍力装置の動力伝達ユニットとの間にエアギャップが設けられている。このエアギャップは、運転者がインプットエレメントを操作する際に、まずインプットエレメントを動力伝達ユニットに抗して押圧する必要があるのではなく、インプットエレメントを僅かな力で移動させることができるように、作用する。アクチュエータ力の開ループ制御(Steuern)または閉ループ制御(Regeln)は、この範囲内で、ほぼ一定のインプット力においてストローク依存により、つまりインプットエレメントのストロークに依存して行われる。操作力は、この範囲内でもっぱらブレーキ倍力装置のアクチュエータによってもたらされる。
【0003】
従来のディスクブレーキを有する車両においては、制動されていない運転状態中に、つまりブレーキペダルが操作されないときに、しばしばエネルギ損失が残留ブレーキモーメントの形で発生する。何故ならば、ブレーキライニングがブレーキディスクにおいてスリップするからである。このようなスリップは、例えばディスク衝撃によっておよび/または多くの場合、ライニングのリセットおよびエアギャップの維持が正確に行われないことに起因する。
【0004】
したがって、エネルギ節約のために、制動されていない状態においてブレーキがいわゆる「ゼロドラッグ“Zero−Drag”」位置にあり、それによってブレーキライニングとブレーキディスクとの間で摩擦が発生しないようなディスクブレーキが開発されている。このように構成されたブレーキキャリパは、しばしば「ゼロドラッグキャリパ“zero−drag−caliper”」と称呼される。
【0005】
しかしながら、このような形式のブレーキ装置においては、しばしば、ブレーキペダルの解除後にブレーキライニングがブレーキディスクから非常に離れた位置に引き戻され、したがってブレーキ操作エレメントの操作時に、従来のブレーキ装置と比較して大きいアイドルストロークまたはデッドストロークが生じるという欠点がある。このよう余分なアイドルストロークまたはデッドストロークは不都合であるので、取り除かれるべきであるかまたは調整されるべきである。この場合、このような大きいアイドルストロークまたはデッドストロークは、システムによって定められて「ゼロドラッグキャリパ」とは無関係にも生じ得るということを指摘しておく。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来では、このような不都合な余分なアイドルストロークまたはデッドストロークの調整は、いわゆる純粋な外力ブレーキ装置を使用することによってのみ実現可能である。しかしながら、このような外力ブレーキ装置においては、ブレーキ力を生ぜしめるために必要なエネルギは、単数または複数のエネルギ供給装置によって生ぜしめられるものであって、運転者の筋力によって生ぜしめられるものではない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるブレーキ倍力装置は、運転者によって操作可能なインプットエレメントと、補助力を生ぜしめるためのアクチュエータと、前記インプットエレメントおよび/または前記アクチュエータによってインプット力若しくは前記補助力で負荷可能であり、かつマスタブレーキシリンダのピストンを操作力で負荷することができるアウトプットエレメントと、一方ではインプットエレメントとアクチュエータとの間、他方ではインプットエレメントとアウトプットエレメントとの間に配置され、かつインプット力および/または補助力をアウトプットエレメントに伝達する、弾性特性を有する動力伝達ユニットとを有している。本発明によれば、インプットエレメントと動力伝達ユニットとの間に、非作動状態において、制動過程の開始時における所望のエアギャップよりも小さいかまたは大きいエアギャップが設けられている。
【0008】
本発明による別のブレーキ倍力装置は、運転者によって操作可能なインプットエレメントと、補助力を生ぜしめるためのアクチュエータと、インプットエレメントおよび/または前記アクチュエータによってインプット力若しくは補助力で負荷可能であり、かつマスタブレーキシリンダのピストンを操作力で負荷することができるアウトプットエレメントと、一方ではインプットエレメントとアクチュエータとの間、他方ではインプットエレメントとアウトプットエレメントとの間に配置され、かつインプット力および/または補助力をアウトプットエレメントに伝達する、弾性特性を有する動力伝達ユニットと、を有している。この場合ブレーキ倍力装置では、本発明に従って、インプットエレメントが、前記インプット力を生ぜしめるための、運転者によって操作可能な第1の部分エレメントと、該第1の部分エレメントから分離され、かつ前記インプット力を前記動力伝達ユニットに伝達するための第2の部分エレメントとを有している。また、インプットエレメントの前記第1の部分エレメントと第2の部分エレメントとの間に、非作動状態で制動過程の開始時における所望のエアギャップよりも小さいかまたは大きいエアギャップが設けられている。
【0009】
さらに本発明は、前記本発明によるブレーキ倍力装置を運転するための方法を提供するものであり、この方法によれば、予想される制動要求の前の地点においてまたは制動要求の検知直後に、インプットエレメントの操作の検知前または直後の時間範囲内において、補助力をアクチュエータによって生ぜしめるようにした。
【発明の効果】
【0010】
「ジャンプイン機能“Springer−Funktion”」を実現するために、多くのブレーキ倍力装置は、インプットエレメントと動力伝達ユニットの間に、またはインプットエレメントの2つの部分エレメント間にエアギャップを有している。エアギャップの大きさは、いわゆるジャンプイン“Jump−in”の大きさ、つまり、ブレーキ装置が外力モードから補助力モードへ移行する力若しくは圧力の大きさを規定する。本発明は、「ジャンプイン機能“Springer−Funktion”」を実現するために、ペダル特性に例えばブレーキ操作エレメントの移動という形で感じられる影響を及ぼすことなしに、ブレーキ装置の不都合なアイドルストロークまたはデッドストロークが補整されるようなエアギャップを有するブレーキ倍力装置を構成する、という基本的な考え方に基づいている。これは本発明によれば、エアギャップが、例えば製造または組立の範囲内で、非作動状態において、制動過程の開始時における所望のエアギャップよりも小さくまたは大きく調整されることによって、達成される。予想される制動要求の前の地点においてまたは制動要求の検知直後に、インプットエレメントの操作の検知前または検知直後の時間範囲内において、アクチュエータによって補助力が生ぜしめられるようになっていれば、生ぜしめられた補助力の大きさを適当に設定することによって、ブレーキ倍力装置のアウトプットおよびひいてはマスタブレーキシリンダのピストンにおいて前もって規定されたストロークを克服することができる。しかしながらこの時間範囲内では、まだインプットエレメントと動力伝達ユニットとの間の接続が得られていないので、補助力が操作エレメントに影響することはない。したがって、アイドルストロークまたはデッドストロークは補整することができ、この場合、運転者がこのことを例えばインプットエレメントの相応の移動によって気付くことはない。しかしながら、ブレーキ倍力装置のアウトプットにおける乗り越えられたストローク、および補助力によって惹起された動力伝達ユニットの変形は、エアギャップの大きさ若しくは幅に直接的に影響を及ぼす。動力伝達ユニットの変形特性(剛性)とマスタブレーキシリンダの変形特性(剛性)との比に基づき、かつブレーキ装置(該ブレーキ装置のピストンにブレーキ倍力装置のアウトプットエレメントが作用する)と連携して、補助力の発生により非作動位置において調節された初期エアギャップが増大または縮小される。エアギャップの調節が非作動位置において相応に小さ過ぎるか若しくは大き過ぎると、補助力の発生後およびひいては不都合なアイドルストロークまたはデッドストロークの補整後に、所望の「ジャンプイン機能“Springer−Funktion”」を実現するために必要とされる大きさに正確に調節されたエアギャップが得られる。したがって、補助力によって制動過程の開始時における所望の大きさにされたエアギャップが得られる。
【0011】
純粋な外力ブレーキ装置を費用およびコストをかけて実現することと比較して、本発明によるブレーキ倍力装置の構成は、ブレーキ装置内のアイドルストロークまたはデッドストロークを補整するための特に簡単かつ安価な変化実施例を提供する。本発明によるブレーキ倍力装置および本発明による運転法は、さらに、ブレーキキャリパの範囲内のデッドストロークも、マスタブレーキシリンダの範囲内のデッドストロークも補整することができる。しかも、この補整は運転者が気付くことなく行われるので、高い快適性も確実に得られる。
【0012】
本発明によるブレーキ倍力装置または本発明による運転法のさらに好適な適用は、ハイブリッド自動車または電気自動車において使用する際に得られる。この場合、ブレーキ倍力装置の外力モードはジェネレータモーメントが失われた時に利用される。制動時には、まずデッドストローク調整の範囲内で圧力が上昇せしめられる。ジェネレータのモーメントが加えられると、液圧ブレーキモーメントが相応に減少されるので、全ブレーキモーメントは一定に保たれる。この場合、ブレーキ液は、ブレーキ装置からマスタブレーキシリンダ内へ戻され、それによって動力伝達ユニットはブレーキ操作エレメントに向かって移動する。従来のブレーキ装置においては、エアギャップは相応に大きく設計する必要があるので、この場合、動力伝達ユニットとインプットエレメントとの間の接触は生じない。これに対して、本発明のブレーキ倍力装置若しくは本発明による運転法を使用すれば、エアギャップが拡大されることはないので、特に倍力装置が故障した場合にアイドルストロークが大きくなることはない。ジェネレータモーメントが失われている間、ブレーキ装置とブレーキ操作エレメントとが直接的に接続することはないので、ブレーキ操作エレメントに反動力が作用することはない。つまりペダル特性は一定に維持される。
【0013】
本発明は、ブレーキ倍力装置の型式とは無関係に使用することができる。つまり、ブレーキ倍力装置のアクチュエータは、空気圧式または液圧式または電気液圧式または電気機械式または電熱アクチュエータとして構成されていてよい。
【0014】
動力伝達ユニットおよび特にその剛性は、従来のブレーキ倍力装置と比較して変えられていないかまたは僅かに変えられているだけであるので、ブレーキ倍力装置が故障した場合でも特性が変化することはない。特に、所望の減速を得るために、運転者の必要な操作力が著しく高められることはない。
【0015】
本発明の実施態様によれば、弾性的に変形可能なスプリングワッシャまたは弾性的なばね構造体として構成されていてよい動力伝達ユニットは、インプット力に対する補助力の比が所定の比からずれると、動力伝達ユニットの変位を生ぜしめるように、構成されている。
【0016】
ブレーキ装置の不都合なアイドルストロークまたはデッドストロークの追加的な補整は、ブレーキ倍力装置がプリロードユニットを有していて、該プリロードユニットが、動力伝達ユニットをブレーキ倍力装置の非作動状態において偶力によって負荷するように、動力伝達ユニットに作用することによって、実現される。予想される制動要求の前の地点においてまたは制動要求の検知直後に、インプットエレメントの操作の検知前または直後の時間範囲内において、補助力がアクチュエータによって生ぜしめられると、プリロードユニットおよびひいては偶力、並びに予想される制動要求の前の地点または制動要求の検知直後に生ぜしめられる補助力を適当に設計することによって、ブレーキ倍力装置のインプットおよびひいてはインプットエレメントに相応のストロークを設ける必要なしに、ブレーキ倍力装置のアウトプットおよびひいてはマスタブレーキシリンダのピストンにおいて前もって規定されたストロークが克服される。これによって、アイドルストロークまたはデッドストロークは補整することができ、この補整について運転者が例えばインプットエレメントの相応の移動によって気付くことはない。さらに、このような形式で行われるアイドルストローク補整は、エアギャップが設計上「大き過ぎる」かまたは「小さ過ぎる」場合に、相応に考慮される。
【0017】
プリロードユニットが、一方では動力伝達ユニットを非作動状態においてアクティブに偶力の第1の力によって負荷する動力発生ユニットを有していて、他方では第1の力と協働して偶力を形成する、第1の力に対抗する反動力を生ぜしめるリアクションユニットとを有していることによって、本発明の構造的に特に簡単かつ安価な実施態様が得られる。
【0018】
本発明の実施態様によれば、動力発生ユニットが、ブレーキ倍力装置の非作動状態においてプリロードがかけられているばねエレメントとして構成されており、該ばねエレメントが片側で前記動力伝達ユニットに支えられている。ばねエレメントとして、例えばブレーキ倍力装置のリターンスプリング、またはマスタブレーキシリンダのばねが使用される。これによって、構造費用およびコストをさらに削減することができる。
【0019】
特に簡単な形式では、反動力は、リアクションユニットがストッパを有していて、該ストッパにおいて動力伝達ユニットが直接的にまたは間接的に支持されていることによって生ぜしめられる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
以下に、本発明の複数の実施例のその他の特徴および利点を添付の図面を参照して説明する。
【0021】
図は以下を示す。
図1】本発明によるブレーキ倍力装置の等価モデルである。
図2】本発明によるブレーキ倍力装置の第1実施例の概略図である。
図3】本発明によるブレーキ倍力装置の第2実施例の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、ブレーキ倍力装置1の等価モデルを示し、この等価モデルを参照しながら以下に機能形式についても説明する。インプットエレメント2は、図示していない操作エレメント(ブレーキペダルまたはブレーキレバーとして構成されていてよい)に機械的に連結されていて、このような形式で運転者によって操作可能である。力の限界値よりも大きいインプット力Finが、例えば入力ピストンとして構成されていてよいインプットエレメント2に作用すると、このインプットエレメント2はストロークSinだけ移動する。この場合、インプット力Finは、一般的に運転者の操作力に相当する。図1において、力の限界値は、剛性CthおよびスプリングテンションFthを有するスプリングエレメント3の形で表わされている。図示していないアクチュエータは、補助力Fsupを倍力体4に作用させ、それによって倍力体4の調整ストロークSsupが生ぜしめられる。アクチュエータは任意の形状、例えば空気圧式または液圧式または電気液圧式または電気機械式または電熱アクチュエータとして構成されていてよい。倍力体4は、例えば補助ピストンとして構成されていてよい。弾性的な特性を有する動力伝達ユニット5を介して、インプット力Finと補助力Fsupとがアウトプット力Foutに統合され、アウトプットエレメント6に伝達される。このときに、アウトプットエレメント6はストロークSoutだけ移動する。アウトプットエレメント6は、マスタブレーキシリンダの図示していないピストンに機械的に連結されており、このマスタブレーキシリンダは動力伝達ユニットによって(ブレーキ)操作力で負荷可能である。動力伝達ユニット5は、インプット力Finに対する補助力Fsupの比が所定の比からずれると、動力伝達ユニット5の変位または変形を生ぜしめるように、構成されている。したがって、動力伝達ユニット5は、弾性的に変形可能なスプリングワッシャまたは弾性的なばね構造によって実現され得る力平衡器として構成されている。アウトプットエレメント6の側から動力伝達ユニットに力FTMCが作用する。この力FTMCは、マスタブレーキシリンダ内のばねのプリロード(予圧)、並びに場合によってはフィード圧力によって得られる。
【0023】
ブレーキ倍力装置1の等価モデルは、動力伝達ユニット5を特徴付けするその他のパラメータを有している。したがって、動力伝達ユニット5は剛性Cを有している。さらに図1には、動力伝達ユニット5におけるアウトプットエレメント6の支点7が示されている。指数Xは、支点7と倍力体4の作用点との間の区間x、並びに支点7とインプットエレメント2の作用点との間の区間(ここでは長さ1で表わされている)の比を示す。この場合、てこ長さ、つまり長さ「x」および「1」は、例えばインプットエレメント2若しくは倍力体4とスプリングワッシャとの間の接触面に相当する。補助力Fsupおよび/またはインプット力Finが存在すると、動力伝達ユニット5が変形せしめられる。これは、図1では、一点鎖線5’で示されている。このように動力伝達ユニット5が変形せしめられると、インプットエレメント2の作用点の新たな位置と古い位置との間のストローク差が生じる。さらに、動力伝達ユニット5のための剛性Cを有するリターンスプリング8が設けられている。
【0024】
図1に示した等価モデルによる本発明によるブレーキ倍力装置1の第1実施例は、図2に示されている。
【0025】
図2の上部には、ブレーキ装置の非作動位置にあるブレーキ倍力装置1が示されている。図示の実施例ではスプリングワッシャ20として構成されている動力伝達ユニット5とインプットエレメント2との間に、エアギャップ21が示されている。このような形式のエアギャプ21は、いわゆる「ジャンプイン機能“Springer−Funktion”」を実現するために用いられるものであり、インプットエレメント2がスプリングワッシャ20をインプット力Finで負荷する前にはじめて克服されるべきものである。
【0026】
特に、いわゆる「ゼロドラッグキャリパ“zero drag caliper”」を使用する場合、またはシステムによっても定められて、ブレーキ装置の分野において不都合なアイドルストロークまたはデッドストロークが生じることがある。これを補整するために、予想される制動要求の前の地点においてまたは制動要求の検知直後に、インプットエレメント2の操作の検知前または検知直後の時間範囲内において、図示していないアクチュエータによって補助力Fsupが生ぜしめられる。これによって、一方ではアウトプットエレメント6がマスタブレーキシリンダに向かって移動せしめられ、このときにアウトプットストロークSout1が克服される。他方では、図2の下部に示されているように、スプリングワッシャ20も変形される。しかしながら、インプットエレメント2とスプリングワッシャ20とはまだ接続されていないので、スプリングエレメント3の存在に関係なく、このような移動および変形が操作エレメントに影響を及ぼすことはなく、したがって運転者が気付くことはない。
【0027】
しかしながら克服されたアウトプットストロークSout1およびスプリングワッシャ20の変形は、エアギャップ21の大きさに直接影響を及ぼす。図示の実施例では、克服されたアウトプットストロークSout1は、スプリングワッシャ20の逆向きの変形よりも大きい。したがって、補助力Fsup負荷後のエアギャップ21は、予想される制動要求の前の地点においてまたは制動要求の検知直後において(図2の下部)、非作動状態におけるエアギャップ21(図2の上部)よりも大きい。
【0028】
図2の下部に示された状況は、本来の制動過程の開始時における出発状況を示す。この場合、所望の前記「ジャンプイン機能」も作動させなければならない。つまり、この運転状況において、エアギャップ21は正確に所望の寸法を有していなければならない。このことを実現するために、非作動状態において、エアギャップ21が制動過程の開始時点における所望のエアギャプよりも小さくなるように調整する必要がある。したがって、不都合なアイドルストロークまたはデッドストロークを補整するために用いられる補助力Fsupが、予想される制動要求の前の地点においてまたは制動要求の検知直後に、エアギャップ21を所望の寸法にもたらすために用いられる。
【0029】
ブレーキ装置の個別の構成要素の別の設計において、補助力Fsupが、予想される制動要求の前の地点においてまたは制動要求の検知直後に、図示の変化実施例とは異なり、エアギャップ21を縮小させるようにすることもできる。この場合、エアギャップ21は、非作動状態において、制動過程開始時点における所望のエアギャップよりも相応に大きくなるように調整されなければならない。
【0030】
図示の実施例の代わりに、インプットエレメント2を2分割式に構成し、インプット力を生ぜしめるための、運転者によって操作可能な第1の部分エレメントと、該第1の部分エレメントから分離された、インプット力を動力伝達ユニットに伝達するための第2の部分エレメントとを有するようにしてもよい。この場合、エアギャップ21は、本発明の有用性に影響を及ぼすことなしに、インプットエレメントの第1の部分エレメントと第2の部分エレメントとの間に設けることもできる。
【0031】
図3は、本発明の別の実施例を示す。図3の実施例において、インプットエレメント2は2分割式に構成されていて、インプット力Finを生ぜしめるための、運転者によって操作可能な第1の部分エレメント30と、該第1の部分エレメント30から分離された、インプット力Finをスプリングワッシャ20として構成された動力伝達ユニット5に伝達するための第2の部分エレメント31とを有している。図3の上部に示された、ブレーキ装置の非作動段階において、ブレーキ倍力装置1のリターンスプリング8(この実施例では動力発生ユニットとして用いられる)は、スプリングワッシャ20を介してインプットエレメント2の第2の部分エレメント31に支えられている。さらに、この第2の部分エレメント31は、該第2の部分エレメント31の、スプリングワッシャ20とは反対側で以て、ストッパ32に支えられており、このストッパ32は、図示の実施例ではリアクションユニットの一部として用いられる。したがって、スプリングワッシャ20は、一方ではプリロード(予備荷重)がかけられているリターンスプリング8を介してアクティブに第1の力で付勢される。この第1の力は、第2の部分エレメント31およびストッパ32を介して、逆方向に作用する反動力を生ぜしめ、この反動力は同様にスプリングワッシャ20に作用する。このような形式で、スプリングワッシャ20は、非作動位置において偶力によって付勢され、この偶力がスプリングワッシャ20を図示のように変形させる。この動力発生ユニットは、リアクションユニットと協働してプリロードユニットを形成しており、このプリロードユニットは、動力伝達ユニット5がブレーキ倍力装置1の非作動状態において偶力で付勢されるように、動力伝達ユニット5に作用する。図示の実施例の代わりに、偶力の第1の力を、例えばマスタブレーキシリンダのスプリングのような別のスプリングエレメントによって生ぜしめるようにしてもよい。第1の力は、別のやり方で、例えば電動モータを用いて生ぜしめることもできる。同様に、偶力の第2の力を反動力としてではなく、やはりアクティブな力として例えば電動モータを用いて生ぜしめることも考えられる。
【0032】
インプットエレメント2の第1の部分エレメント30と第2の部分エレメント31との間にエアギャップ21’が設けられており、このエアギャップ21’は、図2に示した実施例と同様に、「ジャンプイン“Springer”」機能を実現するために用いられる。
【0033】
予想される制動要求の前の地点においてまたは制動要求の検知直後に、インプットエレメント2の操作の検知前または検知直後の時間範囲内において、補助力Fsupが図示していないアクチュエータによって生ぜしめられると、一方ではアウトプットエレメント6がマスタブレーキシリンダに向かって移動せしめられる。他方では、スプリングワッシャ20が、図3の中央部に示されているように、変形される。これによって、アウトプットエレメント6のアウトプットストロークSoutは確かに克服されるが、インプットエレメント2の2つの部分エレメント30および31は、インプットエレメント2とスプリングワッシャ20との間の接触力(第2の部分エレメント31がスプリングワッシャ20にルーズに、つまり緩く連結されている場合)、またはインプットエレメント2とストッパ32との接触力(第2の部分エレメント31がスプリングワッシャ20に堅固に連結されている場合)が“0”に等しくなるまで、正確にその位置に留まる。補助力Fsupがさらに高くなると、第2の部分エレメント31がスプリングワッシャ20に堅固に連結されている場合、インプットエレメント2の第1の部分エレメント30と第2の部分エレメント31との間のエアギャップ21’は拡大する(図3の下部参照)。インプットエレメント2の第2の部分エレメント31がスプリングワッシャ20にルーズに、つまり緩く連結されている、図示していない状態では、補助力Fsupがさらに高くなると、スプリングワッシャ20とインプットエレメント2の第2の部分エレメント31との間に追加的なエアギャップが生じるか、かつ/またはエアギャップ21’が拡大することになる。しかしながら、エアギャップ21’が拡大されることによっても、またスプリングワッシャ20とインプットエレメント2の第2の部分エレメント31との間の追加的なエアギャップが形成されることによっても、その他の手段を講じなければ、所望の「ジャンプイン“Springer”」機能を実現するためのエアギャップ全体が大きくなり過ぎる結果を招くことになる。このような作用は、図2の実施例と同様に、ブレーキ倍力装置1の製造の範囲内で調整されるエアギャップ21’を、非作動状態で、制動過程の開始時における所望のエアギャップよりも小さくすることによって補整することができる。この実施例においても、動力伝達ユニット5の変形特性(剛性)とマスタブレーキシリンダ(このマスタブレーキシリンダのピストンにアウトプットエレメント6が作用する)の変形特性(剛性)との比に基づいて、ブレーキ装置と連携して補助力Fsupをさらに高めることによって、初期調整されたエアギャップ21’を減少させることもできる。この場合、この効果を補整するために、エアギャップ21’は非作動状態で、図2に示した実施例と同様に、制動過程の開始時における所望のエアギャップよりも相応に大きく調整する必要がある。
【0034】
これによって、ブレーキ倍力装置1は、予想される制動要求の前の地点においてまたは制動要求の検知直後に、インプットエレメント2の第1の部分エレメント30にそれぞれ反作用することなしに、ひいては運転者が気付くことなしに、アウトプットストロークSoutを克服することができる。これは、ブレーキ装置の範囲内の不都合なデッドストロークまたはアイドルストロークを調整するために利用することができる。この際に得られる、エアギャップ21’の大きさの変化は、エアギャップ21を非作動位置において相応に縮小または増大させることによって補整される。
【0035】
前述のように、本発明によれば、予想される制動要求の前の地点においてまたは制動要求の検知直後に、インプットエレメント2の操作の検知前または検知直後の時間範囲内において、補助力Fsupが生ぜしめられる。この場合、正確な時点は、様々な形式で確認することができる。したがって、例えばアクセルペダルの緩みまたはブレーキライトスイッチの応答、またはエンジンブレーキトルクの検知も、ブレーキ倍力装置のインプットエレメント2の、間もなく予想される操作のための証拠と解釈され、ひいては補助力Fsupを次第に高めるためのトリガーとして用いられる。
【0036】
図3に示した実施例の代わりに、インプットエレメント2をパイプ内に可動に配置してもよい。このパイプは、ブレーキ倍力装置1の非作動位置において動力伝達ユニット5に当接していて、動力伝達ユニット5とは反対側においてストッパ32に支えられている。この場合、反動力は、パイプを介してストッパ32と協働して生ぜしめられる。勿論、動力伝達ユニット5、つまり例えばスプリングワッシャ20は、ブレーキ倍力装置1の相応の構造的設計によって、本発明の適用可能性に影響を及ぼすことなしに、ストッパ32に直に支えられていてもよい。
【符号の説明】
【0037】
1 ブレーキ倍力装置
2 インプットエレメント
3 スプリングエレメント
4 倍力体
5 動力伝達ユニット
6 アウトプットエレメント
7 支点
8 リターンスプリング
20 スプリングワッシャ
21 エアギャップ
30 第1の部分エレメント
31 第2の部分エレメント
32 ストッパ
th 剛性
in インプット力
out アウトプット力
sup 補助力
th スプリングテンション
in ストローク
sup 調整ストローク
X 指数
out1 アウトプットストローク
図1
図2
図3