(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、光学、精密機械、半導体製造等の分野において、サブミクロンのオーダーで光路長や位置を調整する変位制御デバイスが所望されるようになってきている。これに応え、圧電体に電界を加えたときに起こる逆圧電効果に基づく歪み(変位、変形)を利用した圧電アクチュエータや、圧電効果に基づき圧電体に圧力を加えたときに起こる電荷発生(分極)を利用した圧電センサ等の、圧電デバイスの開発が進められている。
【0003】
圧電デバイスの中核をなすものは、圧電体を電極で挟んでなる圧電素子である。このうち圧電体は、圧電材料を薄膜法によって膜状に成形し、高温で焼成して作製することが出来る(以下、このようにして得られるものを、焼成圧電体という)。この焼成圧電体は、そのままでは、自発分極(電荷の偏り)の方向が揃っていないため、殆ど歪みを発生せず、圧電素子に使用することは出来ない。
【0004】
そこで、通常、焼成圧電体を電極で挟んでなる圧電素子の製造工程において、圧電素子に分極処理を施す。分極処理は、通常、清浄等の最終工程の直前に行われる。分極処理の対象は、当然に、圧電素子を構成する焼成圧電体である。この分極処理は、一般に、大気中又は液体中で、数kV/mmの電圧を、数十分間程度、印加することで行われる。分極処理された焼成圧電体(圧電素子)は、自発分極の向きが略一様の方向に揃い、電圧をかけなくても元へ戻らず、分極値(残留分極)を有するようになる。そして、これに電圧を印加すると(電界をかけると)、その大きさに基づく歪み(変位、変形)が発生するようになる。
【0005】
尚、圧電体(圧電磁器)の分極に関する先行技術文献として、例えば、特許文献1を挙げることが出来る。この特許文献1には、圧電特性の経時劣化が小さい分極方法が記載されており、具体的には、高周波電界を印加する手段、分極方向と平行に圧縮力をかける手段等が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、近年の電子機器が小型化、薄型化、省電力化するのに伴って、その電子機器に搭載される圧電デバイス、及びそれを構成する圧電素子にも、薄型化、小型化が要求されている。又、圧電デバイス(圧電アクチュエータ)は、例えば特許文献2に記載されているように、圧電素子を金属板に接着する構造を採る場合がある。このような態様では、フラットな(平らな)圧電素子でないと金属板に接着する面積がばらつき、所定の変位を得ることが難しい。そして、フラットな圧電素子にするためには、フラットな焼成圧電体が必要である。このように、圧電素子において、薄く、且つ、反りがなくフラットな、焼成圧電体が望まれているといえる。
【0008】
しかしながら、薄い焼成圧電体は、加工や焼成を経て得られるものであり、それまでの過程の中で、焼成圧電体の表裏面における、結晶配向度や、結晶形態ないし自発分極状態に、差異が生じ易い。そのため、分極処理の際に、反りが発生してしまい、分極処理後のものとして、反りがなくフラットな、焼成圧電体(圧電素子)を得ることは難しい。そして、例えば、上記特許文献1に開示された分極方法に倣い、分極方向と平行に圧縮力をかけて分極処理をすると、圧電素子(焼成圧電体)が破損することがある。
【0009】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、薄く、反りがなくフラットな、焼成圧電体を備える圧電素子を、破損をさせることなく、得る手段を提供することにある。研究が重ねられた結果、分極方向と垂直な方向であって、少なくとも2箇所で(2方向から)、焼成圧電体(圧電素子)を拘束し、分極を行うことによって、この課題が解決されることが見出された。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、先ず、本発明によれば、薄板状の焼成圧電体と、その焼成圧電体の両面に形成された膜状の電極と、を備える圧電素子を製造する方法であって、分極方向に対し垂直な方向において、少なくとも2箇所で、焼成圧電体を拘束し、その焼成圧電体を分極する過程を有する、圧電素子の製造方法が提供される。
【0011】
焼成圧電体を分極する過程(分極処理工程)は、通常、圧電素子の製造工程全体の終わりの方に位置する。分極される前の圧電素子は、如何なる手段を用いて作製してもよい。分極方向とは、揃えようとする自発分極の方向(向き)である。この分極方向は、通常、対向した一対の電極の面方向に対して、垂直な方向になり、薄板状の焼成圧電体の場合は、焼成圧電体の厚さ方向と垂直な面に一対の電極が形成されるため、その厚さ方向が、分極方向になる。そして、この場合、分極方向に対し垂直な方向は、薄板状の焼成圧電体の面に設けられた、電極の面方向となる。従って、焼成圧電体を拘束する箇所は、薄板状の焼成圧電体の面方向の何れかとなり、好ましくは、焼成圧電体を拘束する箇所は、薄板状の焼成圧電体の(面方向の)端部である。
【0012】
そして、本発明に係る圧電素子の製造方法においては、上記薄板状の焼成圧電体を拘束する箇所が、その焼成圧電体の長手方向の両端であることが好ましい。
【0013】
薄板状の焼成圧電体の長手方向とは、薄板状の焼成圧電体を平面図形として見立てたときに、その重心を通り一の端部から他の端部までの距離が最大となる方向をいう。薄板状の焼成圧電体が、円形の場合には長手方向は特定されず、正方形の場合にも辺の方向に限定すれば長手方向は特定されないが、それ以外は特定される。
【0014】
本発明に係る圧電素子の製造方法においては、上記薄板状の焼成圧電体を拘束する箇所において、(1箇所あたり)複数の方向から焼成圧電体を把持して、その焼成圧電体を拘束することが好ましい。
【0015】
(1箇所あたり)複数の方向から焼成圧電体を把持するとは、換言すれば、焼成圧電体を拘束する箇所において、焼成圧電体からみて、その把持する部分が分岐している態様を意味する。
【0016】
本発明に係る圧電素子の製造方法においては、分極した後に、上記薄板状の焼成圧電体の拘束する箇所を切断すること
である。この場合において、その切断する手段が、電子線、イオンビーム、エッチング、ブラスト加工、レーザー加工から選ばれる何れかの手段であることが好ましい。
【0017】
次に、本発明によれば、分極方向に対し垂直な方向において、少なくとも2ヶ所で、薄板状の焼成圧電体を拘束し、その焼成圧電体を分極する焼成圧電体の分極方法が提供される。
【0018】
本発明に係る圧電素子の製造方法及び本発明に係る焼成圧電体の分極方法において、分極処理は、大気中又は液体中で、数kV/mmの電圧を、数十分間程度、印加することで行う。好ましくは、大気中で、1〜16kV/mmの電圧を、1〜30分間程度、印加することで行う。より好ましい電圧は2〜10kV/mmであり、より好ましい印加時間は5〜20分間である。
【0019】
尚、本明細書において、圧電ないし圧電体と称しているが、電界によって誘起される歪みを発現する材料からなるものであって、分極処理を必要とするものであれば、これに含まれるものとする。一般に、強誘電体材料からなるものは、殆どこれに含まれる。但し、分極処理を必要としない電歪材料からなるものは除かれる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る圧電素子の製造方法及び本発明に係る焼成圧電体の分極方法は、分極方向に対し垂直な方向において、少なくとも2箇所で拘束して焼成圧電体を分極するので、焼成圧電体が薄板状であっても反りが生じ難く、平らな焼成圧電体(圧電素子)を得ることが出来る。分極処理中に焼成圧電体(圧電素子)が破壊されることもなく、良好に分極処理された圧電素子(焼成圧電体)を、作製可能である。これは、分極方向に対し垂直な方向における2箇所以上の拘束によって、変形が抑えられるとともに、分極によって発生した変形しようとする内部応力(変形応力)が、分極方向に対し垂直な方向における2箇所以上の拘束部分の伸び及び撓み変形に変換されるためである。
【0021】
上記効果は、分極方向に対し垂直な方向において、3箇所以上で拘束すれば、2箇所の場合より、安定して得られる。即ち、より反りが生じ難く、より平らで(平面度に優れる)クラック等のダメージが少ない、分極処理後の焼成圧電体(圧電素子)を得ることが出来る。但し、拘束箇所(拘束部分)は、のちに切断する必要があるので、製造工程が煩雑になることから、素子の形状に合せて2〜4箇所で焼成圧電体を拘束することが、特に好ましい。
【0022】
上記効果は、本発明に係る圧電素子の製造方法から外れる方法と比較すれば、薄板状の焼成圧電体を拘束する箇所が、何れであっても得られるが、本発明に係る圧電素子の製造方法は、その好ましい態様において、薄板状の焼成圧電体を拘束する箇所が、その焼成圧電体の長手方向の両端であるので、そうではない場合に比して、上記効果を安定して得られる。即ち、焼成圧電体(圧電素子)は、より反りが生じ難く、より平らなもの(平面度に優れる)となる。分極処理中に焼成圧電体(圧電素子)が破壊される可能性は、より小さくなる。
【0023】
本発明に係る圧電素子の製造方法は、その好ましい態様において、薄板状の焼成圧電体を拘束する箇所において、(その1箇所において)複数の方向から焼成圧電体を把持して、その焼成圧電体を拘束するので、そうではない場合に比して、上記効果を安定して得られる。即ち、焼成圧電体(圧電素子)は、より反りが生じ難く、より平らなもの(平面度に優れる)となる。分極処理中に焼成圧電体(圧電素子)が破壊される可能性は、更に小さくなる。これは、分極によって発生した変形しようとする内部応力(変形応力)が、分極方向に対し垂直な方向における圧電素子になる部分以外の拘束部分であって複数の方向からの把持部分の伸び及び撓み変形に変換されるためである。
【0024】
本発明に係る圧電素子の製造方法は、その好ましい態様において、分極した後に、薄板状の焼成圧電体の拘束する箇所を切断するので、反りが小さく、平らな圧電素子を得ることが出来る。即ち、分極による応力が残留しないため、拘束された箇所を切断しても、拘束されていたときの状態のままの圧電素子を得ることが可能である。又、切断する手段が、電子線、イオンビーム、エッチング、ブラスト加工、レーザー加工から選ばれる何れかの手段であれば、他の手段より、いっそう圧電素子への加工応力が少ない状態で、拘束部を切断することが出来、反り等が小さい圧電素子を得ることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について、適宜、図面を参酌しながら説明するが、本発明はこれらに限定されて解釈されるべきものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。例えば、図面は、好適な本発明の実施の形態を表すものであるが、本発明は図面に表される態様や図面に示される情報により制限されない。本発明を実施し又は検証する上では、本明細書中に記述されたものと同様の手段若しくは均等な手段が適用され得るが、好適な手段は以下に記述される手段である。
【0027】
尚、以下に説明される本発明に係る圧電素子の製造方法は、複数の圧電素子を同時に作製するもの(多個取り)である。後述する
図4の例では6個取りであるが、当然に、量産では数十個以上の多個取りが可能である。又、
図3における工程(VII)の状態は、
図4に示されているが、
図3が断面図であるのに対し、この
図4では平面図として表されている。工程を示す
図3は、圧電素子の長手方向に対して垂直な平面で切り取られた断面図であり、換言すれば、
図3の工程(VII)には、
図4において圧電素子を含んで横方向(左右方向)に切断したときの断面が表されている。そして、これらを含む全ての図面は、製造過程が理解し易いように描かれた模式図であり、例えば、焼成圧電体の厚さと、電極の厚さは、実用上好ましい状態には描かれていないことは、当然に理解されるべきである。
【0028】
本発明に係る圧電素子の製造方法は、薄く且つ反りがなく平らな焼成圧電体を備える、圧電素子を得る方法であるので、先ず、焼成圧電体について説明する。
図1に示される焼成圧電体1は、単層の圧電体である。この焼成圧電体1の平面形状は、略正方形であるが、焼成圧電体の外形は、特に限定されるものではない。生産性を考慮すると、機械加工で得られる外形の形状であることが望ましく、直線で形成される形状、例えば多角形、特に正方形又は長方形が好ましい。
【0029】
本発明に係る圧電素子の製造方法によって得られる圧電素子は、図示しないが、
図1に示される焼成圧電体1の両面に、膜状の電極を形成してなるものである。圧電素子は、複層構造を有する焼成圧電体を用いて、その両面(外側の2面)に形成された膜状の電極と、単層の間の面に形成された膜状の電極と、を有する態様を採ることが出来る。即ち、電極、焼成圧電体、電極、焼成圧電体、電極という積層構造を繰り返してなるものであってもよい。この場合の積層数としては、焼成圧電体の数として3、電極の数として4が好ましく、それ以上であってもよい。
【0030】
次に、本発明に係る圧電素子の製造方法について、その実施形態を示して説明する。本発明に係る焼成圧電体の製造方法では、圧電材料を用いて、薄いグリーンシート21を作製する(
図2の工程(1)を参照)。具体的には、例えば、ジルコン酸チタン酸鉛等のセラミックス粉末にバインダ、溶剤、分散剤、可塑剤等を添加混合してスラリーを作製し、これを脱泡処理後、リバースロールコーター法、ドクターブレード法等の方法によって、上記の厚さを有するグリーンシートを作製し、その後、裁断することによって、所望の大きさのグリーンシート21を得る。グリーンシート21は、のちに圧電素子を構成する焼成圧電体となるものである。
【0031】
次に、ジルコン酸チタン酸鉛等のセラミックス粉末にバインダ、溶剤、分散剤、可塑剤等を添加混合してペーストを作製し、スクリーン印刷法を用いて、グリーンシート21に所望の厚さの補強部22を形成する(
図2の工程(2)を参照)。
【0032】
そして、使用する圧電材料に基づき800〜1300℃の範囲の適切な温度で、焼成をして、補強部付焼成圧電体23を得る(
図2の工程(3)及び
図3の工程(I)を参照)。補強部付焼成圧電体23とは、焼成用の補強部22とグリーンシート21とが一体焼成されたものという意味である。
【0033】
次いで、補強部付焼成圧電体23に、例えばレーザーを用いて、スルーホール11を形成する(
図3の工程(II)を参照)。補強部付焼成圧電体23を作製する前に、スルーホール11を成形しておいてもよい。この場合には、スクリーン印刷法を用い、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム上へ、スルーホール11が設けられた状態のグリーンシート21を形成し、その上に、補強部22をスクリーン印刷法で形成し、スルーホールの開いた状態で、使用する圧電材料に基づき800〜1300℃の範囲の適切な温度で、焼成をして、補強部付焼成圧電体23を得ることが出来る。
【0034】
そして、例えば、レジストパターニングを行い、導電性材料(例えば金)のペーストをスピンコート法で塗布することによって、スルーホール11を形成した補強部付焼成圧電体23の両面及びスルーホール11に、導電性材料(例えば金)からなる膜状の電極33,34を形成する(
図3の工程(III)を参照)。電極33,34の形成は、スパッタ処理で行なうことも出来る。パターニングは、レーザー加工によって、行なってもよい。
【0035】
次に、補強部付焼成圧電体23の更なる補強を行なうとともに、レジストパターニングを行って、のちに圧電素子となる部分(圧電素子前駆体)を、所望の形状にする。具体的には、補強部付焼成圧電体23の補強部(それが焼成された部分)の付いている側に、樹脂39を充填し(
図3の工程(IV)を参照)、その後、例えば露光法によって、補強部付焼成圧電体23における切除したい部分を除く部分に、レジスト38を塗布する(
図3の工程(V)を参照)。レジスト38を塗布してから、樹脂39を充填してもよい。そして、例えばウエットエッチング処理又はブラスト処理によって、補強部付焼成圧電体23及び電極33,34の一部を切除し(
図3の工程(VI)を参照)、例えば剥離剤によって、レジスト38を除去して、所望の形状の圧電素子前駆体100Bを得る(
図3の工程(VII)及び
図4を参照)。圧電素子前駆体100Bは、のちに圧電素子となる部分であって、補強部付焼成圧電体23から補強部等を除去した焼成圧電体1と、電極33,34と、からなるものであり、分極処理して、個片として取り出せば、圧電素子100として出荷可能なものである。所望の形状とは、例えば、この圧電素子前駆体100Bのような形状である(
図4を参照)が、限定されるものではない。
【0036】
未だ分極処理を行う前であるので、圧電素子前駆体100Bが接合部41,42を有していることが、肝要である(
図4を参照)。この接合部41,42は、補強部付焼成圧電体23のうちの、のちに圧電素子とならない部分(枠体)と、接合する部分であり、厳密には、圧電素子前駆体100Bを構成する焼成圧電体1が、枠体と接合する部分である。換言すれば、圧電素子前駆体100Bを得るに際し、接合部41,42を設けるように、補強部付焼成圧電体23及び電極33,34の一部を切除する。分極処理を行う前には、圧電素子前駆体100Bを、個片に切り離さない。
【0037】
そして、圧電素子前駆体100Bの電極33,34に電源を接続し、圧電素子前駆体100Bの焼成圧電体1に、例えば、大気中で、1〜16kV/mmの電圧を、1〜30分間、印加して、焼成圧電体1を分極処理する。このとき、分極方向は、電極33から電極34に向けた方向(又はその反対方向)になる。この方向は、圧電素子前駆体100B(焼成圧電体1)の厚さ方向である。又、分極方向に対し垂直な方向は、圧電素子前駆体100B(焼成圧電体1)の面方向になる。従って、接合部41,42によって、枠体(補強部付焼成圧電体23のうちの、のちに圧電素子100とならない部分)と接合している圧電素子前駆体100B(焼成圧電体1)は、分極処理中に、分極方向に対し垂直な方向において、接合部41,42の2箇所で、拘束される。
【0038】
接合部41,42は、分極処理中の、拘束部ということが出来る。圧電素子前駆体100B(焼成圧電体1)は、
図4中において上下方向に長手といえるから、圧電素子前駆体100B(焼成圧電体1)を拘束する箇所(拘束部)は、圧電素子前駆体100B(焼成圧電体1)の長手方向の両端に位置している。
【0039】
上記過程を経ると、圧電素子前駆体100Bは、使用可能な(変位可能な)圧電素子100となる。その後、必要な特性検査を行い、例えばレーザー加工機を使用して、接合部41,42で切断して、個片を得て(
図3の工程(VIII)を参照)、洗浄、最終検査(外観、寸法の確認)を経れば、圧電素子100を出荷することが出来る。
【0040】
図5及び
図6に示されるように、圧電素子前駆体が、接合部41,42に加えて、接合部53a,53b又は接合部63a,63bを有していることも好ましい。この場合、圧電素子前駆体(焼成圧電体)は、分極処理中に、分極方向に対し垂直な方向において、接合部41,42,53a,53bの4箇所で、又は、接合部41,42,63a,63bの4箇所で、拘束される。
図5では、圧電素子前駆体100Bと枠体(補強部付焼成圧電体23のうちの、のちに圧電素子100とならない部分)とが、圧電素子前駆体100Bの辺に対して(
図5において)垂直に接続されているが、
図6のように、垂直ではなく斜めに接続されていてもよい。
【0041】
図7に示されるように、接合部42の近傍において、枠体(補強部付焼成圧電体23のうちの、のちに圧電素子100とならない部分)に、貫通孔73,74を設けることも好ましい。貫通孔74の存在によって、圧電素子前駆体(焼成圧電体)は、分極処理中に、分極方向に対し垂直な方向において、接合部41,42a,42bの3箇所で、拘束される。貫通孔73は、接合部42a,42b側からみて、枠体が2方向に分かれるように、形成されている。この場合、圧電素子前駆体(焼成圧電体)が、分極処理中に、分極方向に対し垂直な方向において、接合部41,42a,42bの3箇所で、拘束されることに相違ないが、2つの接合部42a,42b(拘束部)に対して、2方向から焼成圧電体(圧電素子前駆体)を把持して、その焼成圧電体(圧電素子前駆体)を拘束するので、分極によって発生した反りを生じようとする内部応力(変形しようとする変形応力)を、2方向の伸び及び撓み変形に変換することが出来る。圧電素子前駆体の幅をA、接合部42a,42bそれぞれの幅をB、貫通孔73と74の間の幅をCとしたとき、A>B、A>Cであることが、好ましい。
【0042】
以上、焼成圧電体が1層(単層)の場合を説明したが、焼成圧電体が2層以上の場合には、先ず、別途、グリーンシート上に、内部電極(焼成圧電体で挟まれる電極)を、スクリーン印刷法等で形成する。そして、そのグリーンシートと、既述のグリーンシート21(
図2の工程(1)を参照)を、電極形成面を挟むように接合し、積層グリーンシートを作製する(3層以上の場合には、この工程を繰り返す)。その後、その積層グリーンシートと既述の補強部22(
図2の工程(2)を参照)をスクリーン印刷法で形成する。そして、
図3に示した工程を経れば、多層の圧電体を得ることが可能である。このとき、内部電極と導通をとるために、グリーンシート21にスルーホールやビア電極を形成してもよい。
【0043】
次に、圧電素子に用いられる材料について説明する。焼成圧電体の材料(圧電材料)としては、逆圧電効果等の電界誘起歪みを起こす材料であって、分極を必要とするものであれば、問われるものではない。圧電材料ないし強誘電体セラミックスの中から、用途に応じて、適宜、選択し採用することが出来る。
【0044】
具体的には、好ましい材料として、ジルコン酸鉛、チタン酸鉛、マグネシウムニオブ酸鉛、ニッケルニオブ酸鉛、ニッケルタンタル酸鉛、亜鉛ニオブ酸鉛、マンガンニオブ酸鉛、アンチモンスズ酸鉛、アンチモンニオブ酸鉛、イッテリビウムニオブ酸鉛、マンガンタングステン酸鉛、コバルトニオブ酸鉛、マグネシウムタングステン酸鉛、マグネシウムタンタル酸鉛、チタン酸バリウム、チタン酸ナトリウムビスマス、チタン酸ビスマスネオジウム(BNT)、ニオブ酸カリウムナトリウム、タンタル酸ストロンチウムビスマス、銅タングステンバリウム、鉄酸ビスマス、又は、これらのうちの2種以上からなる複合酸化物を挙げることが出来る。これらの材料には、希土類元素、カルシウム、ストロンチウム、モリブデン、タングステン、バリウム、ニオブ、亜鉛、ニッケル、マンガン、カドミウム、クロム、コバルト、アンチモン、鉄、タンタル、リチウム、ビスマス、スズ、銅等の酸化物が添加もしくは置換されていてもよい。これらのなかでも、ジルコン酸鉛、チタン酸鉛の複合酸化物において、鉛の一部をストロンチウムで置換し、ジルコニウム及び/又はチタンの一部をニオブで置換した材料は、高い材料特性を発現出来るので好ましい。上記材料等に、ビスマス酸リチウム、ホウ酸リチウム、炭酸リチウム、ゲルマン酸鉛等を添加した材料は、圧電体の低温焼成を実現しつつ高い材料特性を発現出来るので、更に好ましい。
【0045】
補強部付の材料についても、上記の圧電材料を用いることが出来る。熱膨張の程度を同じにすべく、焼成圧電体と同じ材料を用いることが好ましい。
【0046】
次に、電極の材料としては、導電性の金属が採用される。例えば、アルミニウム、チタン、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、銀、スズ、タンタル、タングステン、イリジウム、白金、金、又は鉛等の金属単体、若しくは、これら2種類以上からなる合金、例えば、銀−白金、白金−パラジウム、銀−パラジウム等を1種単独で又は2種類以上を組み合わせたもの、を用いることが好ましい。又、これらの材料と、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化セリウム、ガラス、又は圧電材料等との混合物、サーメットであってもよい。これらの材料の選定にあたっては、圧電材料の種類に応じて選択することが好ましい。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定される
ものではない。
【0048】
(実施例1)本発明に係る圧電素子の製造方法に基づいて、
図7中の1つの圧電素子前駆体のような、3つの接合部で拘束された圧電素子前駆体を、作製した。具体的には、先ず、2mm×4mmの長方形で、厚さが15μmの焼成圧電体を得た。焼成圧電体の厚さは15μmであり、焼成圧電体の表面粗さRaは、一の面では0.19μm、他の面では0.1μmであった。圧電材料としては、0.17Pb(Mg1/3Nb2/3)O
3−0.03Pb(Ni1/3Nb2/3)O
3−0.43PbTiO
3−0.37PbZrO
3を使用した。焼成用の補強部(
図2の工程(2)に示される補強部22相当)についても、同じ圧電材料を使用し、スクリーン印刷法で形成し、厚さを30μmとした。焼成は、1200℃で、2時間、行った。電極は、金(Au)を使用し、スパッタ処理によって、形成した。電極形成後、ブラスト加工法により、圧電素子前駆体を得た。
【0049】
そして、拘束されたままの圧電素子前駆体に対し、室温で(大気中で)、5kV/mmの電圧を、15分、印加して、分極処理を行い、圧電素子を得た。キーエンス製のレーザー変位計(LK−G5000)を用いて、10素子分のうねり量を測定したところ、0.2〜3μmであった。その後、10V、5kHzの矩形波で、1時間、駆動耐久試験を行い、問題ないことを確認した。
【0050】
(実施例2)
図4中の1つの圧電素子前駆体のような、2つの接合部で拘束された圧電素子前駆体を、作製した。それ以外は、実施例1と同様にして、分極処理を行い、圧電素子を得て、10素子分のうねり量を測定したところ、0.5〜30μmであった。そして、10V、5kHzの矩形波で、1時間、駆動耐久試験を行い、問題ないことを確認した。
【0051】
(比較例1)何の拘束もない圧電素子前駆体を作製した。それ以外は、実施例1と同様にして、分極処理を行い、圧電素子を得て、10素子分のうねり量を測定したところ、100〜500μmであった。