(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書で用いる、「印刷装置」という用語には、いかなる目的についても印刷出力機能を実行するあらゆる装置が含まれる。かかる装置としては、例えば、プリンタ、コピー、ファクシミリ機、多機能機、製本機等を挙げることができる。
【0011】
図1に、例示の印刷装置100を示している。印刷装置100を用いて、異なるサイズ及び重量を有する様々な種類の媒体に印刷を行うことができる。印刷装置100は、連続して並んだ2つの媒体フィーダモジュール102、媒体フィーダモジュール102に近接するプリンタモジュール106、プリンタモジュール106に近接するインバータモジュール114及びインバータモジュール114に近接して連続して並んだスタッカーモジュール116を有する。
【0012】
印刷装置100において、媒体フィーダモジュール102は、媒体をプリンタモジュール106に供給する。プリンタモジュール106において、マーキング材料(トナー)が、一連の現像ステーション110から、帯電した感光体ベルト108へ転写されて、感光体ベルト108にトナー画像を形成し、カラープリントを生成する。トナー画像は、用紙搬送路を通して供給された媒体104の片側に転写される。媒体は、定着ロール113及び圧力ロール115を有する定着装置112を通して進む。インバータモジュール114は、プリンタモジュール106から出る媒体を操作して、媒体をスタッカーモジュール116に通過させるか、または媒体をプリンタモジュール106に反転させて戻すかする。スタッカーモジュール116では、印刷媒体は、スタッカーカート118上に配置されて、スタック120を形成する。
【0013】
定着ロール113及び圧力ロール115はともにニップを形成し、そこで、紙シート等の媒体上のマーキング材料に熱及び圧力が印加される。
【0014】
ハロゲンランプ等のランプで加熱した定着ロール及び定着ベルトの一方または両方を用いたマーキング材料の媒体への高速定着は、定着ロール及び定着ベルトの一方または両方の可能な最大温度により、そして、ランプフィラメントのワット密度限界により、制限されることが分かっている。ロールタイプ定着装置において、定着ロールの追加の加熱は、外部ヒーターロールにより行ってもよい。追加の加熱ロールをまた、ベルトタイプの定着装置に用いて、熱エネルギーを分配し、ロール温度が過剰とならないようにする。しかしながら、追加の加熱ロールを用いると、定着装置のサイズが大きくなり、複雑になる。
【0015】
誘導加熱が、定着装置を「パッケージング」するという大きな利点を与え、その結果、特に、ベルトタイプの定着装置を加熱するのに使うロールの数を減じることによって、簡略化された定着装置構成となることが分かった。しかしながら、定着ロール及び定着ベルトの一方または両方を、高生産速度でマーキング材料を定着するのに十分に高い温度まで加熱するのに高電流及び高周波数の供給を必要としない誘導加熱定着装置が提供されると望ましい。
【0016】
これら及びその他の検討事項を考慮し、印刷に有用な装置及びマーキング材料を媒体に定着する方法が提供される。装置の実施形態には、誘導加熱システムを有するロールタイプ定着装置及びベルトタイプ定着装置が含まれる。定着装置は、少なくとも1つの強磁性材料とサセプタとを有する。ロールタイプ及びベルトタイプ定着装置は、ロール及びベルトを誘導加熱するのに用いる印加電流の振幅/周波数を減じて、高定着速度を与えることができる。デバイスはまた、単純な構造とすることができる。
【0017】
印刷に有用な装置の実施形態は、トナー及びインク(例えば、液体インク、ゲルインク、熱硬化性インク及び放射線硬化性インク)等をはじめとする固体及び液体マーキング材料の様々なタイプを用いることができる。装置は、様々な熱、圧力及びその他条件を用いて、マーキング材料を処理し、画像を媒体に形成することができる。
【0018】
図2に、印刷に有用な定着装置200の例示の実施形態を示す。定着装置200の実施形態は、異なるタイプの印刷装置に用いることができる。例えば、定着装置200は、定着装置112の代わりに、
図1に示す印刷装置100に用いることができる。
【0019】
図2に示すとおり、定着装置200は、圧力ロール210、定着ロール220及び定着ロールに近接する磁界生成器240を有する。定着装置の他の実施形態において、ベルト(図示せず)を、圧力ロール210の代わりに定着部材として、代替して用いることができる。磁界生成器240は、定着ロール220を、所望の温度、例えば、マーキング材料を媒体に定着するのに十分な温度まで誘導加熱するのに有効な磁界を生成する。
【0020】
磁界生成器240は、少なくとも1つの誘導コイル242及び誘導コイル242に接続されたRF電源244を有する。コントローラ(図示せず)を、RF電源244に接続することができる。図示した誘導コイル242は、定着ロール220の外側表面232に近接配置される。誘導コイル242は、加熱ゾーン入口HZ
Iと加熱ゾーン出口HZ
O間の外側表面232周囲に延在するように構成される。例えば、誘導コイル242は、約60°から約180°の角度で周囲に延在させることができる。誘導コイル242はまた、定着ロール220の軸方向に沿っても延在している。誘導コイル242は、媒体と接触する定着ロール220の外側表面232の少なくとも一部を加熱するように構成されている。
【0021】
RF電源244は交流電流を生成する。交流電流は、典型的に、約10kHzから約400kHzの周波数fを有することができる。交流電流は、誘導コイル242を流れ、誘導コイル242は磁界を生成する。磁界が、定着ロール220の渦電流を誘導し、その結果、定着ロール220の誘導加熱がなされる。
【0022】
図示した圧力ロール210は、コア212及びコア212を覆う外側層214を有する。外側層214は、外側表面216を有する。外側層214は、弾性的に変形可能な材料、例えば、シリコーンゴム、パーフルオロアルコキシ(PFA)コポリマー樹脂等を含むことができる。実施形態において、圧力ロール210は、任意で、熱エネルギー源により内部または外部加熱することができる。
【0023】
定着ロール220の図示した実施形態は、コア222、コア222上の強磁性層224、強磁性層224上のエラストマー層226、エラストマー層226上のサセプタ層228及びサセプタ層228上の外側層230を有する。外側層230の外側表面232は、圧力ロール210の外側表面216とニップ250を形成する。媒体は、ニップ250に供給されて、熱及び圧力を印加することにより、マーキング材料を媒体に定着する。圧力ロール210及び定着ロール220は、反対の方向に回転して、処理方向Aにニップ250を通して媒体を搬送する。
【0024】
定着ロール220は、定着ロール220のある量の誘導加熱を生じさせるのに誘導コイル242に必要な交流電流の振幅/周波数を減じる材料から構築される。定着ロール220において、コア222は、アルミニウム、鋼等の任意の好適な金属を含むことができる。
【0025】
強磁性層224は、磁界生成器240により生成される磁界を増進させる十分に高い相対透磁率を有する少なくとも1つの強磁性材料を含む。磁性材料の透磁率μは、磁束密度B対磁界強度Hの比として定義される。μ=B/H。材料の相対透磁率μ
Rは、透磁率μ対真空の透磁率μ
0の比として定義される(μ
R=μ/μ
0)(式中、μ
0=4π×10
-7H/m)。真空は、1の相対透磁率μ
Rを有する。例えば、白金及びアルミニウムはそれぞれ、約1の相対透磁率μ
Rを有する。
【0026】
相対透磁率μ
Rが増大すると、ある印加磁界強度Hについて磁束密度が増大する。実施形態において、強磁性層224は、1を超える、例えば、少なくとも約1.25、少なくとも約1.5、少なくとも約2、少なくとも約5、少なくとも約10、少なくとも約50、少なくとも約100、少なくとも約500、少なくとも約1,000、少なくとも約10,000以上の相対透磁率μ
Rを有する少なくとも1つの材料を含む。
【0027】
強磁性層224を形成するのに用いる強磁性材料は、磁性セラミックス及び金属とすることができる。表1に、1を超える相対透磁率μ
Rを有しており、強磁性層224に用いることのできる例示の強磁性材料を示す。表1に示すとおり、例示の材料の相対透磁率値は8から20,000の範囲である。
【表1】
【0028】
実施形態において、強磁性層224は、1を超える相対透磁率μ
Rを有する単一の強磁性材料のみで作製することができる。他の実施形態において、強磁性層224は、1を超える相対透磁率μ
Rを有する2つ以上の強磁性材料、例えば、2つ以上の異なるフェライト材料の混合物のみで作製することができる。他の実施形態において、強磁性層224は、1を超える相対透磁率μ
Rを有する少なくとも1つの強磁性材料及び少なくとも1つのその他の非強磁性材料を含むことができる。例えば、非強磁性材料は、少なくとも1つの強磁性材料を含有するマトリックスを形成することができる。強磁性層224の他の実施形態も提供することができる。実施形態において、強磁性層224は、定着ロール220に所望の特性を与える組成及び構成を有する。
【0029】
強磁性層224の厚さは、典型的に、約0.1mm〜約5mmとすることができる。強磁性層224は、コア222に適用されたスリーブの形態とすることができる。他の実施形態において、強磁性層224は、コア222の外側表面に、任意の好適なコーティング技術により適用された1つ以上の層を有するコーティングとすることができる。
【0030】
定着ロール220において、強磁性層224は、磁界生成器240により生成された磁束を、定着ロール220の所望の領域に導き、制限するのに有効である。この磁束制限の結果、誘導加熱の大部分が、定着ロール220の所望の領域に制限される。
【0031】
定着ロール220のエラストマー層226は、シリコーンゴム等の任意の好適なエラストマー材料等を含むことができる。エラストマー層226の厚さは、典型的に、約0.1mm〜約0.3mmとすることができる。エラストマー層226は、定着ロール220を、圧力ロール210と接触配置させて、ニップ250を形成するとき、弾性的に変形する。
【0032】
サセプタ層228を、定着ロール220に与えて、電磁エネルギーを吸収し、この吸収したエネルギーを熱エネルギーに変換する。熱エネルギーは、サセプタ層228から外側に伝導して、外側表面232を加熱する。サセプタ層228は、少なくとも1つの電気抵抗金属材料を含む。磁界生成器240が磁界を生成すると、渦電流がサセプタ層228に生成される。渦電流に応答して、サセプタ層228の電気抵抗が、サセプタ層228を加熱する。強磁性層224は、サセプタ層228に誘導された渦電流を増大する。
【0033】
サセプタ層228は、抵抗率ρ及び厚さtを有する。サセプタ層228のρ/tの比を最適化すると、サセプタ層228の渦電流加熱が最大となるため、定着ロール220の加熱が最大になる。サセプタ層228のρ/tの比の最適範囲は、RF電源244の周波数に依存しており、この比は、典型的に、高周波数で高い値へとシフトしていく。
【0034】
サセプタ層228は、定着ロール220において所望の加熱効果を与える任意の材料で作製することができる。サセプタ層228は、1つの材料または複数の材料の1つ以上の層を含むことができる。表2に、サセプタ層228に用いることのできる例示の材料を示す。表2に示すとおり、サセプタ材料の抵抗率値は、1.59×10
-6〜1.1×10
-4Ω・cmの範囲である。好適な抵抗率を有するカーボン材料、例えば、カーボンナノチューブ(例えば、カーボンナノチューブテキスタイル材料)以外のカーボン材料の粒子も、サセプタ層228に用いることができる。カーボン粒子は、ナノサイズまたはそれより大きなものとすることができる。
【表2】
【0035】
実施形態において、サセプタ層228は、単一のサセプタ材料のみで作製することができる。他の実施形態において、サセプタ層228は、2つ以上のサセプタ材料(例えば、ナノサイズのカーボン粒子等、2つ以上のカーボン材料の混合物)のみで作製することができる。他の実施形態において、サセプタ層228は、少なくとも1つのサセプタ材料及び電気抵抗金属でない少なくとも1つの他の材料を含むことができる。例えば、他の材料は、少なくとも1つのサセプタ材料を含有するマトリックスを形成することができる。実施形態において、サセプタ層228は、定着ロール220に所望の特性を与える組成及び構成を有する。
【0036】
あるサセプタ材料について、RF電源244の周波数に応じて、定着ロール220の最大の加熱を達成するρ/tの比の最適値を与えるサセプタ層228の厚さは、出力コストを減じるものに決めることができる。RF電源244の周波数が増大するにつれて、サセプタ層228の厚さを減じると、最大の加熱を与えるρ/tの最適比が得られる。
【0037】
電源の周波数で異なる抵抗値を有する2つの異なるサセプタ材料については、2つの材料において、それぞれの厚さを制御することにより、ρ/tの比の同じ最適値が達成される。
【0038】
実施形態において、サセプタ層228のρ/tの比と同じ値を得るのに必要とされる低抵抗率の材料よりも、より厚いサセプタ層228の得られる、高抵抗率、例えば、少なくとも約1×10
-5Ω・cm(例えば、鉄)、または少なくとも約1×10
-4Ω・cm(例えば、カーボンナノチューブ)を有する少なくとも1つの材料からサセプタ層228を作製するのが望ましい。
【0039】
カーボンナノチューブ等の高抵抗率を有する少なくとも1つの材料をサセプタ層228に用いると、処理上利点が得られる。例えば、サセプタ層228は、厚さ約80μmのカーボンナノチューブから作製することができる。一方、カーボンナノチューブでできたサセプタ層228と同じ値のρ/t比を有する、銅でできたサセプタ層228の厚さは、わずか2μm未満となる。僅かなこの厚さの銅層を形成するのは、高い抵抗率の材料の厚い層より難しく、また、銅層の厚さで所望の許容度を満たすのも難しいであろう。サセプタ層228の厚さに近い許容度を有するのが望ましい。この理由は、厚さに大きな変動があると、誘導される渦電流加熱の大きな変動となり、サセプタ層228にホット及びコールドの一方または両方のスポットができ、定着ロール220の加熱が不均一となるからである。
【0040】
サセプタ層228を厚くすると(ρ/tの所望の比を得るために)、サセプタ層228を、所望の許容度を与えることのできる通常の付着技術、例えば、電気めっき等を用いて形成できるため、処理が簡単になる。
【0041】
実施形態において、サセプタ層228の厚さは、典型的に、異なる材料について、約10μm〜約200μmの範囲とすることができる。例えば、同様の抵抗率を有するカーボンナノチューブまたはその他のナノサイズのカーボン粒子を含むサセプタ層228の厚さは、約50μm〜約200μmの厚さとすることができる。サセプタ層228のρ/t比の値は、典型的に、約10kHz〜約400kHzの範囲の電流周波数に望ましい加熱効果を与えるために、約0.005Ω・cm/cm〜約0.1Ω/cm/cmの範囲とすることができる。
【0042】
定着ロール220において、外側層230は、媒体及びマーキング材料の外側表面232への接合を減じるのに十分な剥離特性を有する任意の好適なポリマー材料を含むことができる。例えば、外側層230は、DuPont Performance Elastomers,L.L.C.,より商標名Viton(登録商標)で販売されているフルオロエラストマー、ポリテトラフルオロエチレン(Teflon(登録商標)、Teflon(登録商標)PFA、パーフルオロアルコキシコポリマー等を含むことができる。外側層230の厚さは、典型的に、約10μm〜約30μmとすることができる。
【0043】
図3に、印刷に有用な定着装置300の他の例示の実施形態を示す。定着装置300は、圧力ロール310と、バッカーロール320と、定着ロール330と、磁界生成器340と、バッカーロール320及び定着ロール330に装着された定着ベルト350とを有する。定着装置の他の実施形態において、ベルト(図示せず)を、圧力ロール310の代わりに、定着部材として代替に用いることができる。定着装置300において、圧力ロール310及び定着ベルト350は、ニップ370を形成して、媒体を供給し、マーキング材料を媒体に定着する。例示の実施形態において、圧力ロール310及び定着ロール330は、反対の方向に回転して、処理方向Aにニップ370を通して媒体を搬送する。磁界生成器340は、回転する定着ベルト350を、所望の温度まで誘導加熱するのに有効な磁界を生成する。加熱された定着ベルト350は回転して、ニップ370で媒体と接触する。
【0044】
磁界生成器340は、RF電源344に接続された少なくとも1つの誘導コイル342を有する。コントローラ(図示せず)は、RF電源344に接続することができる。図示した誘導コイル342は、定着ベルト350の外側表面354に近接配置される。誘導コイル342は、加熱ゾーン入口HZ
Iと加熱ゾーン出口HZ
O間のバッカーロール320の外側表面327と接触する定着ベルト350の位置周囲に延在している。誘導コイル342は、例えば、約60°から約180°の角度で周囲に延在させることができる。誘導コイル342は、バッカーロール320及び定着ベルト350の軸方向に延在している。誘導コイル342は、ニップ370で媒体と接触する定着ベルト350の外側表面354の少なくとも一部を加熱するように構成されている。
【0045】
圧力ロール310は、コア312及びコア312を覆う外側層314を有する。外側層314は、外側表面316を有する。圧力ロール310は、例えば、定着装置200の圧力ロール210と同じ構造を有することができる。実施形態において、圧力ロール310は、任意で、熱エネルギー源により内部または外部加熱することができる。
【0046】
バッカーロール320の図示した実施形態は、コア322、コア322上に強磁性層324、及び強磁性層324上にエラストマー層326を有する。エラストマー層326は、定着ベルト350と接触する外側表面327を有する。
【0047】
バッカーロール320は、誘導コイル342において、定着ベルト350をある量加熱をするのに必要な交流電流の振幅/周波数を減じるように構成される。バッカーロール320において、コア322は、アルミニウム、鋼等の任意の好適な金属を含むことができる。
【0048】
強磁性層324は、磁界生成器340により生成される磁界を増進させる十分に高い相対透磁率を有する少なくとも1つの材料を含む。実施形態において、強磁性層324は、1を超える、例えば、少なくとも約1.25、少なくとも約1.5、少なくとも約2、少なくとも約5、少なくとも約10、少なくとも約50、少なくとも約100、少なくとも約500、少なくとも約1,000、少なくとも約10,000以上の相対透磁率μ
Rを有する少なくとも1つの材料を含む。強磁性層324は、例えば、定着装置200の定着ロール220の強磁性層224の実施形態と同じ組成及び寸法を有することができる。
【0049】
バッカーロール320において、強磁性層324は、磁界生成器340により生成された磁束を、定着ベルト350の所望の領域に導き、制限するのに有効であり、この結果、誘導加熱の大部分が、定着ベルト350の所望の領域に制限される。
【0050】
エラストマー層326は、例えば、定着装置200の定着ロール220のエラストマー層226と同じ組成及び寸法を有することができる。
【0051】
定着ベルト350は、多層構造を有し、内側表面352と外側表面354を有する。
図4に、定着ベルト350の例示の層構造を示す。図示するとおり、定着ベルト350は、内側表面352を有するベース層356、ベース層356上のサセプタ層358、サセプタ層358上のエラストマー層360及びエラストマー層360上の外側層362を有する。外側層362は、外側表面354を有する。
【0052】
ベース層356は、ポリイミド等のポリマー材料を含む。ベース層356の厚さは、典型的に、約80μm〜約120μmとすることができる。サセプタ層358は、例えば、定着装置200の定着ロール220のサセプタ層228の実施形態と同じ組成及び寸法を有することができる。エラストマー層360は、シリコーンゴム等を含むことができる。エラストマー層360の厚さは、典型的に、約0.1mm〜約0.3mmとすることができる。外側層362は、Viton(登録商標)、Teflon(登録商標)、Teflon(登録商標)PFA、パーフルオロアルコキシコポリマー等の十分な剥離特性を有する任意の好適なポリマー材料を含むことができる。外側層362の厚さは、典型的に、約10μm〜約30μmとすることができる。
【0053】
定着ベルト350は、典型的に、約350mm〜約450mmの幅と、約500mm〜1000mm、または1000mm以上の長さとを有するとすることができる。
【0054】
磁界生成器340は、定着ベルト350を、所望の温度まで誘導加熱するのに有効な磁界を生成するように操作可能である。磁界生成器340が磁界を生成するとき、渦電流がサセプタ層358に生成される。渦電流に応答したサセプタ層358の電気抵抗によって、サセプタ層358が加熱される。強磁性層324は、サセプタ層358の誘導された渦電流を増大する。熱エネルギーは、サセプタ層358から外側に伝導されて、定着ベルト350の外側表面354を加熱する。
【0055】
定着ベルト350において、サセプタ層358の渦電流加熱を最大化して、定着ベルト350の加熱を最大化するような材料の選択及び処理により、サセプタ層358のρ/t比は、最適化することができる。サセプタ層358のρ/t比の最適範囲は、RF電源344の周波数に応じて異なる。
【0056】
実施形態において、サセプタ層358のρ/tの比の同じ値を得るのに必要とされる低抵抗率の材料よりも、より厚いサセプタ層358の得られる、高抵抗率、例えば、少なくとも約1×10
-5Ω・cm、または少なくとも約1×10
-4Ω・cm、例えば、カーボンナノチューブ等を有する少なくとも1つの材料からサセプタ層358を作製するのが望ましい。高抵抗率のサセプタ層358用の材料を用いることにより、定着ベルト350の処理自由度が増す。
【0057】
実施形態において、サセプタ層358の厚さは、異なる材料について、典型的に、約10μm〜約200μmとすることができる。サセプタ層358のρ/t比は、約10kHz〜約400kHzの範囲の周波数について定着ベルト350を望ましく加熱するために、典型的に、約0.005Ω・cm/cm〜約0.1Ω・cm/cmの範囲とすることができる。
【実施例1】
【0058】
図5に、磁束の流線が付加された定着装置のバッカーロール及び被覆定着ベルトにおける誘導渦電流密度のモデル化プロットを示す。バッカーロールは、フェライトN41(相対透磁率μ
R=3000)で構成された強磁性層を有する。定着ベルトは、厚さ60μmのポリイミドで構成されたベース層、ベース層を覆う厚さ80μmのカーボンナノチューブで構成されたサセプタ層、サセプタ層を覆う厚さ200μmのシリコーンゴム層、及び厚さ30μmのTeflon(登録商標)PFAで構成された外側層を有する。磁束は、強磁性層を透過して、サセプタ層に急な磁界勾配を生成する。誘導電流密度は、磁界の勾配に比例する。
【0059】
図6に、磁束の流線が付加された定着装置のバッカーロール及び被覆定着ベルトにおける誘導渦電流密度のモデル化プロットを示す。バッカーロールにおいて、アルミニウム層(相対透磁率μ
R=1)を、
図5に示したバッカーロールのフェライトN41層の代わりにする。定着ベルトは、
図5に示した定着ベルトと同じ構成を有する。
図6において、磁束は、バッカーロールのアルミニウム層を通過せず、電流は、大半が、アルミニウム層に誘導され、カーボンナノチューブで構成されたサセプタ層には誘導されない。誘導された電流密度もまた、
図5に示した定着装置で得られたものよりはるかに小さい。
【0060】
図7に、バッカーロールにフェライトN41層を有する
図5に示した定着装置と同じ構成を有する定着装置で生成される単位体積当たりの渦電流加熱(W/m
3)のモデル化プロットを示す。
図7に示すとおり、加熱の大半は、定着ベルトのカーボンナノチューブ(抵抗率1×10
-4Ω・cm及び厚さ80μm)で構成されたサセプタ層で誘導される。単位体積当たりの加熱の集積によって、ベルトに誘導される単位長さ当たりの渦電流加熱は、29128W/mとなる。
【0061】
図8に、バッカーロールにアルミニウム層を有する
図6に示した定着装置と同じ構成を有する定着装置で生成される単位体積当たりの渦電流加熱(W/m
3)のモデル化プロットを示す。
図8に示すとおり、加熱の大半は、
図7に示した定着装置よりも加熱量は大幅に少ない。単位体積当たりの加熱の集積により、この場合、バッカーロールでは137W/m、定着ベルトでは1.58W/mとなる。
【0062】
図7に示した定着装置での加熱を、バッカーロールに高相対透磁率のフェライトN41を組み込んだ
図8に示した定着装置のものと比べると、定着ベルトのサセプタ層における加熱が大幅に改善される結果となる。この加熱は、電流及び周波数において典型的に単調であるため、これらの結果から、磁界生成器の誘導コイルにおけるアンペアターン及び周波数の一方または両方の大幅な減少は、高相対透磁率を有する材料を含むバッカーロール(または高相対透磁率を有する材料を含む定着ロール)で達成されることが分かる。
【0063】
図9に、定着ロール(
図2)またはバッカーロール(
図3)の強磁性層の相対透磁率の、定着ロール(
図2)または定着ベルト(
図3)のサセプタ層に誘導される渦電流加熱への影響を示すモデル化プロットを示す。プロットには、1よりわずかに大きい相対透磁率を有する材料についての大きな加熱の効果が示されている。
図9には、相対透磁率をさらに増大しても、加熱は僅かしか増大しない、100を超える相対透磁率についての飽和領域が示されている。飽和する相対透磁率は、強磁性層の厚さに応じて異なる。
【0064】
図10に、定着ロール(
図2)または定着ベルト(
図3)のサセプタ層に誘導された渦電流加熱の、サセプタ層を形成する材料の抵抗率/厚さの比を関数としたモデル化プロットを示す。例示したプロットは、50kHzの周波数で作動する磁界生成器の電源について示している。図示のように、加熱が最大化するR/tの最適範囲がある。
【0065】
図5〜8に示したシミュレートされたプロットについて、カーボンナノチューブで構成されたサセプタ層の抵抗率は1×10
-4Ω・cm、厚さは80μmで、ρ/t比=0.0125となる。
図10に示すように、30μmの厚さのサセプタ層を作製することにより、約0.034のρ/t比を有するサセプタ層を用いて、さらに高い加熱が達成される。カーボンナノチューブよりも低抵抗率の銅、ニッケル、銀等の他のサセプタ材料については、厚さが僅か数ミクロン、さらにはサブミクロンのサセプタ層で最適な加熱が達成される。
【0066】
図11に、フェライトN41で構成された層を有するバッカーロールを含む定着装置及び幅400mmでカーボンナノチューブで構成されたサセプタ層を含む定着ベルトにおける時間の関数としての温度のプロットを示す。このシミュレーションでは、磁界生成器の誘導コイルは300アンペアターンを有しており、電源周波数は50kHz、誘導加熱シミュレーションの結果に基づく渦電流加熱は、29128W/m×0.4m=11.5kWであり、処理速度は350ppmである。
【0067】
この加熱量で、3次元熱伝達シミュレーションモデルを用いたシミュレーションを、350ppmの高速で動作する定着ベルトで行った。
図11に、定着装置における3つの異なる位置、(a)加熱ゾーンの終わり(HZ
O)のサセプタ層、(b)圧力ロールにより形成されたニップの入口近傍の定着ベルトの外側表面、及び(c)マーキング材料−媒体界面での時間の関数としての計算された温度を示す。図示するとおり、定着装置は、約2分でウォームアップされ、350ppmの速度で動く定着ベルトのニップ出口でのマーキング材料−媒体温度は125℃である。この温度は、定着装置の典型的なマーキング材料を十分に定着するのに十分に高い。
【0068】
図12に、定着ベルトと接触する、1つの加熱ロール、2つの加熱ロール及び3つの加熱ロールをそれぞれ有する複数の接触型定着装置と、同じマーキング材料定着性能を達成するためのバッカーロールにより支持された誘導加熱定着ベルトを有する
図3に示す定着装置における処理速度の関数としての最大定着ベルト外側表面温度のモデル化プロットを示す。
図12に示すように、350ppmの処理速度で、誘導加熱定着ベルトでの最大ベルト温度は、3本ロール接触加熱での最大ベルト温度より7℃低く、1本ロール接触加熱より25℃低い。
【0069】
図13に、フェライトN41で構成された層を有するバッカーロール及び幅400mmで銅で構成されたサセプタ層を有する定着ベルトを有する定着装置における時間の関数としての温度のプロットを示す。このシミュレーションでは、磁界生成器の誘導コイルは1000アンペアターンを有しており、電源周波数は50kHz、渦電流加熱は、10.5kW、処理速度は350ppmである。
【0070】
図13のプロットによれば、
図11に示すのと同じ高速定着性能を、銅または銅と同様の抵抗率を有する他の材料で構成されたサセプタ層を有する定着ベルトを用いて得るには、誘導コイルは、350ppmの同じ速度を得るために、カーボンナノチューブ、または同様の高抵抗率を有する他の材料で構成されたサセプタ層を有する定着装置の誘導コイルの3倍を超えるアンペアターン(すなわち、1000対300)を必要とすることが分かる。従って、ナノサイズのカーボン粒子等高抵抗率を有する材料を含むサセプタ層を有する定着装置の実施形態において、誘導コイルの総表面積を減じると、定着装置のサイズを減じることができる。
【0071】
定着装置の実施形態はまた、定着装置の定着ロール及び定着ベルトの一方または両方において達成される制限加熱により、高定着速度も与えることができる。定着装置の実施形態はまた、低電源電流でも操作可能で、定着ロール及び定着ベルトの一方または両方を十分に加熱でき、低コストの電源を装置に組み込むことができる。