【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に記載の鋼管矢板の連結構造のように、下側の鋼管における第一連結部材の端部と上側の鋼管における第一連結部材の端部とを溶接により接合し、また、下側の鋼管における第二連結部材の端部と上側の鋼管における第二連結部材の端部とを溶接により接合すると、第一連結部材及び第二連結部材は溶接によって軸芯方向に収縮する。そして、第一連結部材と第二連結部材とは鋼管に対して全周のうちの一部分に固着されているため、第一連結部材及び第二連結部材の収縮力が夫々の鋼管に対して局所的に作用し、上側の鋼管のうちの上側の端部(未溶接)において、
図8に示すごとく、径方向の変形が生じることがある。
【0007】
作業エリアの高さが確保できない施工環境の場合は、各鋼管長を短くして打設作業を行うが、鋼管長を短くすると、上述の変形は顕著に表れる。
【0008】
従来は、このように鋼管の断面に変形が生じた場合、真円度矯正を行って鋼管の断面形状の修復を図っていたが、真円度矯正には手間が掛かるため、作業効率の低下や施工コストの増大を招来していた。
【0009】
また、上下の鋼管の接合を溶接によって行う場合は、鋼管の端部の形状が単純であるので真円度矯正が可能であるが、機械式継手によって上下の鋼管を接合する場合には、鋼管の端部の形状が複雑であるので真円度矯正が出来ない。即ち、鋼管矢板の連結構造において、上下の鋼管を接合する構成として、機械式継手を採用すること自体難しかった。
【0010】
本発明の目的は、このような実情に鑑み、真円度矯正が不要である鋼管矢板の連結構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る鋼管矢板の連結構造の特徴構成は、少なくとも二つの鋼管を鉛直方向に接合して構成した第一鋼管矢板と、少なくとも二つの鋼管を鉛直方向に接合して構成した第二鋼管矢板と、を水平方向に連結可能な鋼管矢板の連結構造であって、前記第一鋼管矢板を構成する前記鋼管の軸芯方向に沿って延在すると共に、前記第一鋼管矢板を構成する前記鋼管の外周部に固着された第一連結部材と、前記第二鋼管矢板を構成する前記鋼管の軸芯方向に沿って延在すると共に、前記第二鋼管矢板を構成する前記鋼管の外周部に固着され、前記第一連結部材と係合可能な第二連結部材と、を備え、
下側の前記鋼管における前記第一連結部材の端部に外周面を面落ちさせた上凹入部を形成し、上側の前記鋼管における前記第一連結部材の端部に外周面を面落ちさせた下凹入部を形成し、前記第一鋼管矢板を構成するに際して
、前記上凹入部と前記下凹入部とが協働して形成された嵌合溝に第一カバー部材を取付けて、下側の前記鋼管における前記第一連結部材の端部と上側の前記鋼管における前記第一連結部材の端部との隙間を塞ぐ
ととともに、下側の前記鋼管における前記第二連結部材の端部に外周面を面落ちさせた上凹入部を形成し、上側の前記鋼管における前記第二連結部材の端部に外周面を面落ちさせた下凹入部を形成し、前記第二鋼管矢板を構成するに際して
、前記上凹入部と前記下凹入部とが協働して形成された嵌合溝に第二カバー部材を取付けて、下側の前記鋼管における前記第二連結部材の端部と上側の前記鋼管における前記第二連結部材の端部との隙間を塞ぐ点にある。
【0012】
そもそも、第一鋼管矢板の剛性または第二鋼管矢板の剛性は、上下の鋼管の接合箇所の接合強度に依存するものであり、上下の第一連結部材同士及び上下の第二連結部材同士は、高強度に接合する必要はない。一方で、上下の第一連結部材の端部同士や、上下の第二連結部材の端部同士に隙間があると、鋼管矢板全体としての止水性が低下する。本特徴構成であれば、上下の第一連結部材の端部同士の隙間を第一カバー部材で塞ぎ、上下の第二連結部材の端部同士の隙間を第二カバー部材で塞ぐので、溶接による第一連結部材及び第二連結部材の収縮が発生せず、鋼管の断面変形が生じない。この結果、鋼管矢板全体としての止水性は維持しつつも、真円度調整が不要な鋼管矢板の連結構造とすることができる。
【0013】
本発明に係る鋼管の継手構造においては、前記第一カバー部材は、下側の前記第一連結部材の
前記上凹入部または上側の前記第一連結部材の
前記下凹入部うち何れか一方にのみボルト固定可能であり、前記第二カバー部材は、下側の前記第二連結部材の
前記上凹入部または上側の前記第二連結部材の
前記下凹入部うち何れか一方にのみボルト固定可能であると好適である。
【0014】
本特徴構成によると、第一カバー部材と第二カバー部材とは、上下一方の第一連結部材または第二連結部材にボルトによって、片持ち状に固定されることになる。しかし、第一カバー部材の固定端側と第二カバー部材の固定端側とをボルトで締め付けることにより、第一カバー部材の自由端側と第二カバー部材の自由端側とは、他方の第一連結部材または第二連結部材に押付けられ、上下の第一連結部材の端部同士の隙間、及び、上下の第二連結部材の端部同士の隙間は十分に塞がれる。したがって、第一カバー部材と第二カバー部材とを上下両方の第一連結部材または第二連結部材にボルト固定する場合と比較して、止水性を維持しながら、作業手間を軽減できる。
【0015】
本発明に係る鋼管の継手構造においては、前記第一カバー部材及び前記第二カバー部材は、止水部材を介在させて前記第一連結部材の
前記上凹入部及び前記下凹入部または前記第二連結部材の
前記上凹入部及び前記下凹入部に取付けると好適である。
【0016】
本特徴構成であれば、第一カバー部材と第一連結部材の
上凹入部または下凹入部との間、及び、第二カバー部材と第二連結部材の
上凹入部または下凹入部との間に、止水部材が介在するので、鋼管矢板の止水性が向上する。特に、第一カバー部材と第二カバー部材とを上下一方の第一連結部材または第二連結部材のみにボルト固定する場合には、作業手間を軽減しながらも、より確実な止水性を発揮できる。
【0017】
本発明に係る鋼管矢板の連結構造の別の特徴構成は、少なくとも二つの鋼管を鉛直方向に接合して構成した第一鋼管矢板と、少なくとも二つの鋼管を鉛直方向に接合して構成した第二鋼管矢板と、を水平方向に連結可能な鋼管矢板の連結構造であって、前記第一鋼管矢板を構成する前記鋼管の軸芯方向に沿って延在すると共に、前記第一鋼管矢板を構成する前記鋼管の外周部に固着された第一連結部材と、前記第二鋼管矢板を構成する前記鋼管の軸芯方向に沿って延在すると共に、前記第二鋼管矢板を構成する前記鋼管の外周部に固着され、前記第一連結部材と係合可能な第二連結部材と、を備え、前記第一鋼管矢板を構成するに際して、下側の前記鋼管における前記第一連結部材の端部と上側の前記鋼管における前記第一連結部材の端部との間に第一スペーサ部材を介在させ
て肉厚方向のスペースを少なくした上で、下側の前記第一連結部材の端部と上側の前記第一連結部材の端部とを溶接すると共に、前記第二鋼管矢板を構成するに際して、下側の前記鋼管における前記第二連結部材の端部と上側の前記鋼管における前記第二連結部材の端部との間に第二スペーサ部材を介在させ
て肉厚方向のスペースを少なくした上で、下側の前記第二連結部材の端部と上側の前記第二連結部材の端部とを溶接する点にある。
【0018】
本特徴構成であれば、上下の第一連結部材の端部同士の間に第一スペーサ部材が介在され、上下の第二連結部材の端部同士の間に第二スペーサ部材が介在されているので溶接量が減る。このため、溶接による第一連結部材及び第二連結部材の収縮が大幅に軽減され、鋼管の断面変形の発生が抑制される。この結果、鋼管矢板全体としての止水性は維持しつつも、真円度調整が不要な鋼管矢板の連結構造とすることができる。特に、第一連結部材及び第二連結部材の断面形状が、上述したカバー部材を使用しにくい形状の場合に有用である。
【0019】
本発明に係る鋼管の継手構造においては、前記第一スペーサ部材及び前記第二スペーサ部材は、接着剤であると好適である。
【0020】
本特徴構成のように、第一スペーサ部材及び第二スペーサ部材を接着剤とすると、上下の第一連結部材同士の接合、及び、上下の第二連結部材同士の接合が、接着剤によっても達成されるので、溶接量をさらに減らすことができる。また、接着剤は溶剤であるので、接着剤が、上下の第一連結部材の端部同士の隙間、及び、上下の第二連結部材の端部同士の隙間に密に充填されて、鋼管矢板の止水性が向上する。