(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エンジン駆動力を入力する静油圧式の無段変速機と、エンジン駆動力と前記無段変速機が出力する駆動力とを合成して合成駆動力を出力する遊星伝動部と、走行装置に出力する出力回転体と、前記無段変速機が出力する駆動力が前記出力回転体に伝達されるHSTモード伝動と前記遊星伝動部が出力する合成駆動力が前記出力回転体に伝達されるHMTモード伝動とを切換えて現出するモード切換えクラッチ機構とを設けたコンバインの変速伝動装置であって、
前記HSTモード伝動が現出された状態において、前記無段変速機の斜板を中立位置から前進側の設定前進高速位置に向けて位置変更操作することで前記出力回転体の回転速度が零から前進側に無段階に増速するように、かつ前記斜板が前記設定前進高速位置に至ることで前記出力回転体の回転速度が前進中間速度になるように前記無段変速機が前記出力回転体を前進側に変速駆動し、前記斜板を中立位置から後進側の設定後進高速位置に向けて位置変更操作することで前記出力回転体の回転速度が零から後進側に無段階に増速するように、かつ前記斜板が前記設定後進高速位置に至ることで前記出力回転体の回転速度が後進最高速度になるように、前記無段変速機が前記出力回転体を後進側に変速駆動するよう構成し、
前記HMTモード伝動が現出された状態において、前記斜板を前記設定前進高速位置から前記設定後進高速位置に向けて位置変更操作することで前記出力回転体の回転速度が前記前進中間速度から前進側に無段階に増速するように、かつ前記斜板が前記設定後進高速位置に至ることで前記出力回転体の回転速度が前進最高速度になるように、前記遊星伝動部が前記出力回転体を変速駆動するよう構成し、
縦軸が前記出力回転体の回転速度を示し、横軸が前記縦軸の回転速度零の位置を通り、かつ前記斜板の位置を示すグラフであって、前記HSTモード伝動が現出された状態における前記斜板の傾斜角度と前記出力回転体の回転速度との関係を示すHSTモード速度線と、前記HMTモード伝動が現出された状態における前記斜板の傾斜角度と前記出力回転体の回転速度との関係を示すHMTモード速度線とが載っているものであり、
前記HSTモード速度線は、前記縦軸と前記横軸とが交差する原点を通るとともに、前記設定後進高速位置から前記設定前進高速位置になるに従い、前記出力回転体の回転速度が増大することを示す直線であり、
前記HMTモード速度線は、前記設定前進高速位置から前記設定後進高速位置になるに従い、前記出力回転体の回転速度が増大することを示す直線であり、
前記HSTモード速度線と前記HMTモード速度線とは、前記設定前進高速位置で繋がっており、
前記設定前進高速位置における前記斜板の傾斜角を、前記無段変速機を前進高速側の操作限界まで変速操作した場合に前記無段変速機に実際に発生する前進側の実最大斜板角に近い傾斜角に設定し、
前記設定後進高速位置における前記斜板の傾斜角を、前記無段変速機を後進高速側の操作限界まで変速操作した場合に前記無段変速機に実際に発生する後進側の実最大斜板角に設定し、
前記横軸に向けて前記HMTモード速度線を延長した速度線延長線と前記横軸とが交差する前記横軸での位置に対応する前記無段変速機の仮想斜板角をNとし、前記前進側の実最大斜板角をXとすると、NがXの1.5〜2.5倍となるに相当する傾斜角に、前記HMTモード速度線の前記横軸に対する傾斜角を設定してあるコンバインの変速伝動装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
たとえばコンバインでは、作業列の終端での方向変換を行なう場合など、前後進の切換えが繰り返して行なわれることがある。このような農作業機にあっては、HSTモード伝動が現出された状態において、無段変速機を中立位置から前進側の設定前進高速位置に向けて変速操作することで出力回転体の回転速度が零から前進側にHSTモード速度線の前進域に沿って無段階に増速するように、無段変速機が出力回転体を前進側に変速駆動するよう構成し、無段変速機を中立位置から後進側の設定後進高速位置に向けて変速操作することで出力回転体の回転速度が零から後進側にHSTモード速度線の後進域に沿って無段階に増速するように、無段変速機が出力回転体を後進側に変速駆動するよう構成することで、無段変速機の中立位置を挟んでの変速を行なわせるだけで前後進の切換えを行なえることになり、操作容易に作業できるようになる。
【0005】
無段変速機の中立位置を挟んでの変速を行なわせるだけで前後進の切換えを行なえるよう構成した場合、変速伝動装置は、
図6に示す如き出力特性を備えることになる。
すなわち、HSTモード伝動が現出された状態において、無段変速機を中立位置「n」から前進側の設定前進高速位置「a」に向けて変速操作することで出力回転体の回転速度が零からHSTモード速度線Sの前進域SFに沿って無段階に増速し、無段変速機が設定前進高速位置「a」に至ることで出力回転体の回転速度が前進中間速度「V1」になる。HMTモード伝動が現出された状態において、無段変速機を設定前進高速位置「a」から後進側の設定後進高速位置「−max」に向けて変速操作することで出力回転体の回転速度が前進中間速度「V1」からHMTモード速度線Mに沿って無段階に増速し、無段変速機が設定後進高速位置「−max」に至ることで出力回転体の回転速度が前進最高速度「V3」になる。
【0006】
つまり、無段変速機の中立位置を挟んでの変速を行なわせるだけで前後進の切換えを行なえるよう構成した場合、HSTモード伝動によっては後進側と前進側の駆動力が出力されることで、HSTモード伝動によって出力される前進側の駆動力の最高回転速度が比較的低速になる。そして、無段変速機だけで変速して出力される駆動力を得るよりも無段変速機と遊星伝動部とによって変速して出力される駆動力を得る方がエンジンからの駆動力を効率よく使用できることから、HMTモード伝動によって出力される駆動力を移動及び作業に使用することになる。
【0007】
移動よりも低速で行なう作業には、HMTモード速度線Mの低速域MLに対応するHMTモード伝動での変速状態で出力される駆動力を使用するから、HMTモード速度線Mの低速域MLにおけるエンジン駆動力の利用効率がHSTモード速度線Sにおけるエンジン駆動力の利用効率との差があまりないものになった場合、農作業機にあっては、作業に稼動する時間が長いことから、エンジン駆動力の利用面で不利となる。
【0008】
本発明は、前後進の切換えを有利に行なえるものでありながら、無段変速機を小型化しながらエンジンの駆動力を効率よく利用した駆動力を得ることができる農作業機の変速伝動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本第1発明は、エンジン駆動力を入力する静油圧式の無段変速機と、エンジン駆動力と前記無段変速機が出力する駆動力とを合成して合成駆動力を出力する遊星伝動部と、走行装置に出力する出力回転体と、前記無段変速機が出力する駆動力が前記出力回転体に伝達されるHSTモード伝動と前記遊星伝動部が出力する合成駆動力が前記出力回転体に伝達されるHMTモード伝動とを切換えて現出するモード切換えクラッチ機構とを設けた
コンバインの変速伝動装置において、
前記HSTモード伝動が現出された状態において、前記無段変速機の
斜板を中立位置から前進側の設定前進高速位置に向けて
位置変更操作することで前記出力回転体の回転速度が零から前進側
に無段階に増速するように、かつ前記
斜板が前記設定前進高速位置に至ることで前記出力回転体の回転速度が前進中間速度になるように前記無段変速機が前記出力回転体を前進側に変速駆動し、前記
斜板を中立位置から後進側の設定後進高速位置に向けて
位置変更操作することで前記出力回転体の回転速度が零から後進側
に無段階に増速するように、
かつ前記斜板が前記設定後進高速位置に至ることで前記出力回転体の回転速度が後進最高速度になるように、前記無段変速機が前記出力回転体を後進側に変速駆動するよう構成し、
前記HMTモード伝動が現出された状態において、前記
斜板を前記設定前進高速位置から前記設定後進高速位置に向けて
位置変更操作することで前記出力回転体の回転速度が前記前進中間速度から前進側
に無段階に増速するように、かつ前記
斜板が前記設定後進高速位置に至ることで前記出力回転体の回転速度が前進最高速度になるように、前記遊星伝動部が前記出力回転体を変速駆動するよう構成し、
縦軸が前記出力回転体の回転速度を
示し、横軸が前記縦軸の回転速度零の位置を通り、
かつ前記斜板の位置を示すグラフであって、
前記HSTモード伝動が現出された状態における前記斜板の傾斜角度と前記出力回転体の回転速度との関係を示すHSTモード速度線と、前記HMTモード伝動が現出された状態における前記斜板の傾斜角度と前記出力回転体の回転速度との関係を示すHMTモード速度線とが載っているものであり、
前記HSTモード速度線は、前記縦軸と前記横軸とが交差する原点を通るとともに、前記設定後進高速位置から前記設定前進高速位置になるに従い、前記出力回転体の回転速度が増大することを示す直線であり、
前記HMTモード速度線は、前記設定前進高速位置から前記設定後進高速位置になるに従い、前記出力回転体の回転速度が増大することを示す直線であり、
前記HSTモード速度線と前記HMTモード速度線とは、前記設定前進高速位置で繋がっており、
前記設定前進高速位置における前記斜板の傾斜角を、前記無段変速機を前進高速側の操作限界まで変速操作した場合に前記無段変速機に実際に発生する前進側の実最大斜板角に近い傾斜角に設定し、
前記設定後進高速位置における前記斜板の傾斜角を、前記無段変速機を後進高速側の操作限界まで変速操作した場合に前記無段変速機に実際に発生する後進側の実最大斜板角に設定し、
前記
横軸に向けて前記HMTモード速度線を延長した速度線延長線と前記
横軸とが交差する前記
横軸での位置に対応する前記無段変速機の仮想斜板角をNとし、前記
前進側の実最大斜板角をXとすると、NがXの1.5〜2.5倍となるに相当する傾斜角に、前記HMTモード速度線の前記
横軸に対する傾斜角を設定してある。
【0010】
本第1発明の構成によると、HSTモード伝動が現出された状態において、無段変速機を中立位置から前進側の設定前進高速位置に向けて変速操作すれば、出力回転体の回転速度が零から前進側に無段階に増速し、無段変速機を中立位置から後進側の設定後進高速位置に向けて変速操作すれば、出力回転体の回転速度が零から後進側に無段階に増速するから、無段変速機を中立位置を挟んで前進側と後進側に変速操作するだけで、前進から後進に切り換って、あるいは後進から前進に切り換って発進する。
【0011】
本第1発明の構成によると、例えば
図6に示すように、縦軸が出力回転体の回転速度を示す速度線となり、横軸が縦軸の回転速度零の位置を通り、無段変速機の斜板位置を示す操作位置線となるグラフであって、HSTモード速度線及びHMTモード速度線が載るものにおいて、前記Nが前記Xの1.5〜2.5倍となるに相当する傾斜角に、HMTモード速度線の操作位置線に対する傾斜角を設定してあるから、リリーフ回路が開き作動するなどの問題発生を回避しながら駆動できる範囲で油圧ポンプの吐出容量を小にした無段変速機を装備しても、移動及び作業に適切な回転速度で出力される駆動力を得ることができ、かつエンジンから入力する駆動力を変速に伴うロスを極力少なくして変速後の駆動力として得ることができるHMTモード伝動での変速伝動を行なわせることができる。
【0012】
すなわち、HMTモード伝動が現出された状態において、無段変速機を設定後進高速位置に変速操作した場合、出力回転体の回転速度としての前進最高速度がHSTモード伝動において無段変速機を設定前進高速位置に変速操作した場合の出力回転体の回転速度としての前進中間速度に比して高速となり、HMTモード伝動が現出された状態において、無段変速機を設定後進高速位置やその手前の操作位置に変速操作することで、すなわちHMTモード速度線の高速域に対応する変速状態に変速操作することで、移動に適切な回転速度で出力される駆動力を得ることができる。
HMTモード伝動が現出された状態において、無段変速機を中立位置やその付近の操作位置に変速操作した場合、すなわちHMTモード速度線の低速域に対応する変速状態に変速操作することで、作業に適切な回転速度で出力される駆動力を得ることでき、かつ無段変速機よりも優れた伝動効率を備える遊星伝動部などの機械伝動による出力の全出力に対する割合が無段変速機による出力の全出力に対する割合よりも大になる状態で変速伝動を行なわせることができる。
【0013】
従って、無段変速機の変速を行なわせるだけで操作簡単に前後進の切換えを行なうことができるものでありながら、移動及び作業を適切な速度でスムーズに能力よく行うことができる農作業機を、極力小容量の油圧ポンプを備えた小型の無段変速機を採用してコスト面などで有利に得ることができる。
【0014】
本第2発明は、前記グラフにおいて、前記HMTモード速度線の前記
横軸に対する傾斜角を、前記出力回転体の前記前進最高速度での回転速度が前記前進中間速度での回転速度の2倍以上となるに相当する傾斜角に設定してある。
【0015】
本第2発明の構成によると、HMTモード伝動が現出された状態において、無段変速機を設定後進高速位置に変速操作した場合、出力回転体の回転速度としての前進最高速度がHSTモード伝動において無段変速機を設定前進高速位置に変速操作した場合の出力回転体の回転速度としての前進中間速度の2倍以上の回転速度となり、無段変速機を設定後進高速位置やその手前の操作位置に変速操作することで、すなわちHMTモード速度線の高速域に対応する変速状態に変速操作することで、高速の回転速度で出力される駆動力を得て、移動走行をスムーズに行うことができる。
【0016】
本第3発明は、前記無段変速機を、可変容量型の油圧ポンプと可変容量型の油圧モータとを備えて構成してある。
【0017】
本第3発明の構成によると、HMTモード速度線の高速域に対応する変速状態に変速伝動装置を変速する場合やHSTモード速度線の後進域に対応する変速状態に変速伝動装置を変速する場合、油圧モータの容量変更を行なうことにより、HMTモード速度線の操作位置線に対する傾斜角が容量変更前より急角度に変化し、より高速の回転速度で出力される前進駆動力を得てより高速で移動走行することができ、また、HSTモード速度線の操作位置線に対する傾斜角が容量変更前より急角度に変化し、より高速の回転速度で出力される後進駆動力を得てより高速で後進走行することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面に基づいて、本発明に係る農作業機の変速伝動装置をコンバインに装備した場合について説明する。
図1に示すように、コンバインは、左右一対のクローラ式の走行装置1,1によって自走するように構成され、かつ乗用型の運転部2を装備された走行機体と、走行機体の機体フレーム3の前部に連結された刈取り部4と、機体フレーム3の後部側に刈取り部4の後方に配置して設けられた脱穀装置5と、機体フレーム3の後部側に脱穀装置5の横側方に配置して設けられた穀粒タンク6とを備えて構成してあり、稲、麦などの収穫作業を行う。
【0020】
すなわち、刈取り部4は、機体フレーム3の前部から前方向きに上下揺動自在に延出する刈取り部フレーム4aを備え、この刈取り部フレーム4aが昇降シリンダ7によって揺動操作されることにより、刈取り部4の前端部に設けられた分草具4bが地面近くに下降した下降作業位置と、分草具4bが地面から高く上昇した上昇非作業位置とに昇降する。刈取り部4を下降作業位置に下降させて走行機体を走行させると、刈取り部4は、分草具4bによって刈取対象の植立穀稈を引起し経路に導入し、引起し経路に導入した植立穀稈を引起し装置4cによって引起しながらバリカン型の刈取装置4dによって刈取り、刈取り穀稈を供給装置4eによって脱穀装置5に供給する。脱穀装置5は、供給装置4eからの刈取り穀稈の株元側を脱穀フィードチェーン5aによって挟持して機体後方向きに搬送し、刈取り穀稈の穂先側を扱室(図示せず)に供給して脱穀処理し、脱穀穀粒を穀粒タンク6に送り込む。
【0021】
運転部2に備えられた運転座席2aの下方にエンジン8を設け、エンジン8が出力する駆動力を、機体フレーム3の前端部に設けたミッションケース11を備えた伝動構造10によって左右一対の走行装置1,1に伝達するように構成してある。
【0022】
図2は、伝動構造10の概略構造を示す正面図である。この図に示すように、伝動構造10は、エンジン8の出力軸8aからのエンジン駆動力を、伝動ベルト12aが備えられた伝動機構12を介してミッションケース11の上端部の横側に設けられた変速伝動装置20に入力し、この変速伝動装置20の出力を、ミッションケース11に内装された走行ミッション13に入力して走行ミッション13が備える左右一対の操向クラッチ機構14,14の左側の操向クラッチ機構14から左側の走行装置1の駆動軸1aに伝達し、右側の操向クラッチ機構14から右側の走行装置1の駆動軸1aに伝達する。
【0023】
伝動構造10は、ミッションケース11に内装された刈取りミッション15を備え、変速伝動装置20の出力を、刈取りミッション15に入力して刈取り出力軸16から刈取り部4の駆動軸4fに伝達する。
【0024】
変速伝動装置20について説明する。
図3,4に示すように、変速伝動装置20は、ミッションケース11の上端側に横側部が連結される変速ケース21を備えた遊星変速部20Aと、変速ケース21のミッションケース11に連結する側とは反対側の横側部にケーシング31が連結された静油圧式の無段変速機30とを備えて構成してある。
【0025】
変速ケース21は、遊星伝動部40及び伝動機構50を収容する主ケース部21aと、入力軸22及び伝動軸23と無段変速機30の連結部を収容し、かつ変速ケース21とケーシング31のポートブロック34を連結する連結ケース部21bとを備えて構成してある。変速ケース21は、主ケース部21aの出力回転体24が位置する下部側面の横外側に膨出形成された膨出部分21cでミッションケース11に連結される。連結ケース部21bの走行機体上下方向での大きさが主ケース部21aの走行機体上下方向での大きさよりも小になっている。主ケース部21aを、機体前後方向視での縦断面形状が縦長形状となるように形成し、ケーシング31を、機体前後方向視での縦断面形状が縦長形状となるように形成し、遊星変速部20Aと無段変速機30が機体横方向に並びながら、変速伝動装置20全体としての機体横方向幅が小となり、変速伝動装置20は、横外側に突出しないように走行機体の左右方向ではコンパクトな状態でミッションケース11の横側部に連結されている。さらに、ケーシング31の下部側面には下端側ほど機体内側に傾斜する傾斜面31Aが形成され、この傾斜面31Aにモータ軸33aのベアリングを支持する膨出部31Bが形成されて、変速伝動装置20の更なるコンパクト化が図られている。また、ケーシング31の上面には上向きにオイルフィルタ20Fが配置され、オイルフィルタ20Fの横外側への突出を回避して更なるコンパクトが図られている。
【0026】
遊星変速部20Aは、変速ケース21の上端側に回転自在に支持された機体横向きの入力軸22と、変速ケース21の下端側に入力軸22と平行又はほぼ平行に回転自在に支持された伝動軸23及び回転軸型の出力回転体24と、伝動軸23に支持された遊星伝動部40と、入力軸22と遊星伝動部40のキャリヤ41とに亘って設けた伝動機構50とを備えている。
【0027】
入力軸22は、無段変速機30のポンプ軸32aに対して同軸芯状に並ぶよう配置されている。入力軸22は、変速ケース21から横外側に突出している側で伝動機構12を介してエンジン8の出力軸8aに連結するように構成され、エンジン8に連結される側とは反対側でジョイント22aを介して無段変速機30のポンプ軸32aに一体回転自在に連結されており、伝動機構12を介してエンジン駆動力を入力し、エンジン駆動力によって駆動されて無段変速機30の油圧ポンプ32を駆動する。
【0028】
出力回転体24は、無段変速機30に対して入力軸22のエンジン連結側が位置する側と同じ側に無段変速機30のモータ軸33aと同軸芯状に並ぶように配置されている。出力回転体24は、変速ケース21から横外側に突出している側で走行ミッション
13の入力部に連動するよう構成されており、遊星伝動部40及び無段変速機30からの駆動力を走行ミッション13を介して左右一対の走行装置1,1に出力する。
【0029】
無段変速機30は、ケーシング31の上端側にポンプ軸32aが回転自在に支持されている油圧ポンプ32と、ケーシング31の下端側にモータ軸33aが回転自在に支持されている油圧モータ33とを備えて構成してある。油圧ポンプ32は、可変容量形のアキシャルプランジャポンプによって構成し、油圧モータ33は、アキシャルプランジャモータによって構成してある。油圧モータ33は、油圧ポンプ32によって吐出され、ポートブロック34の内部に形成された油路を介して供給される圧油によって駆動される。無段変速機30には、ポンプ軸32aの端部に装備されたチャージポンプ90によって補充用の作動油が供給される。チャージポンプ90は、ポンプ軸32aに一体回転自在に取り付けられたロータ90a、及びケーシング31に脱着自在に連結されたポンプケーシング90bを備えている。
【0030】
したがって、無段変速機30は、油圧ポンプ32が備える斜板32bの角度変更操作が行なわれることにより、前進伝動状態と後進伝動状態と中立状態とに切り換わる。無段変速機30は、前進伝動状態に切換え操作されると、入力軸22からポンプ軸32aに伝達されるエンジン駆動力を前進駆動力に変換してモータ軸33aから出力し、後進伝動状態に切換え操作されると、入力軸22からポンプ軸32aに伝達されるエンジン駆動力を後進駆動力に変換してモータ軸33aから出力し、前進伝動状態と後進伝動状態のいずれにおいても、エンジン駆動力を無段階に変速して出力する。無段変速機30は、中立状態に切換え操作されると、モータ軸33aからの出力を停止する。
【0031】
遊星伝動部40は、無段変速機30に対して入力軸22のエンジン連結側が位置する側と同じ側に、モータ軸33aと出力回転体24の間に位置する状態で配置されている。遊星伝動部40は、伝動軸23に支持されるサンギヤ42と、サンギヤ42に噛合う複数個の遊星ギヤ43と、各遊星ギヤ43に噛合うリングギヤ44と、複数個の遊星ギヤ43を回転自在に支持するキャリヤ41とを備えている。キャリヤ41は、遊星ギヤ43を延出端部で回転自在に支持するアーム部41aと、複数本のアーム部41aの基端側が連結している筒軸部41bとを備え、筒軸部41bで伝動軸23にベアリングを介して回転自在に支持されている。
【0032】
伝動軸23とモータ軸33aとは、ジョイント23aを介して一体回転自在に連結し、伝動軸23とサンギヤ42とは、スプライン構造を介して一体回転自在に連結しており、サンギヤ42は、モータ軸33aに対して一体回転自在に連動している。
【0033】
リングギヤ44と出力回転体24とは、伝動軸23に対してこれの軸芯方向に並んで相対回転自在に外嵌した環状の遊星側連動体26及び環状の出力側連動体27によって一体回転自在に連動している。すなわち、遊星側連動体26は、遊星側連動体26の外周部から放射状にかつ一体回転自在に延出する複数本の係合アーム部26aを備えている。複数本の係合アーム部26aは、リングギヤ44の複数箇所に係合しており、遊星側連動体26は、リングギヤ44に対して一体回転自在に連動している。出力側連動体27は、遊星側連動体26に対して係合爪27aによって一体回転自在に係合し、出力回転体24に対してスプライン構造によって一体回転自在に係合しており、遊星側連動体26と出力回転体24とを一体回転自在に連結している。遊星側連動体26は、伝動軸23にベアリングを介して相対回転自在に支持されている。出力側連動体27は、変速ケース21にベアリングを介して回転自在に支持されている。
【0034】
伝動機構50は、キャリヤ41の筒軸部41bに一体回転自在に設けられたキャリヤ41の入力ギヤ41cに噛合う状態で入力軸22にニードルベアリングを介して相対回転自在に支持された伝動ギヤ52と、伝動ギヤ52と入力軸22に亘って設けた入力側クラッチ機構55とを備えて構成してある。
【0035】
入力側クラッチ機構55は、入力軸22に一体回転及び摺動操作自在に支持されたクラッチ体56と、クラッチ体56の一端側と伝動ギヤ52の横側部とに亘って設けたクラッチ機構本体57とを備えて構成してある。クラッチ体56は、クラッチ体56の端部に内嵌された油圧ピストン58によって摺動操作される。クラッチ機構本体57は、クラッチ体56に設けた噛合い爪と伝動ギヤ52に設けた噛合い爪とが係脱することによって入り状態と切り状態に切り換わるように噛合いクラッチに構成してある。
【0036】
入力側クラッチ機構55は、クラッチ機構本体57が入り状態に切換え操作されることにより、入力軸22と伝動ギヤ52を一体回転自在に連動させるように入り状態に切換え操作され、遊星伝動部40のキャリヤ41を入力軸22に対する連動入り状態に切り換える。
【0037】
入力側クラッチ機構55は、クラッチ機構本体57が切り状態に切換え操作されることにより、入力軸22と伝動ギヤ52の連動を絶つように切り状態に切換え操作され、遊星伝動部40のキャリヤ41を入力軸22に対する連動切り状態に切り換える。
【0038】
したがって、遊星伝動部40は、入力側クラッチ機構55が入り状態に切換え操作されることにより、入力軸22のエンジン連結側と無段変速機連結側との間に位置する部位から入力軸22の駆動力を伝動機構50を介してキャリヤ41に入力する。遊星伝動部40は、入力側クラッチ機構55が切り状態に切換え操作されることにより、入力軸22に対する連動を絶たれた状態になる。
【0039】
遊星伝動部40のサンギヤ42と遊星側連動体26とに亘り、伝動軸23に外嵌されたクラッチ体61を備えた出力側クラッチ機構60を設けてある。
【0040】
クラッチ体61は、クラッチ体61の内周側に形成してある油室に圧油が供給されることにより、入り付勢ばね62に抗してサンギヤ42に向けて摺動操作されて切り位置に切り換わり、油室から圧油が排出されることにより、入り付勢ばね62によって遊星側連動体26に向けて摺動操作されて入り位置に切り換わる。クラッチ体61は、入り位置に切り換わると、クラッチ体61に設けてあるクラッチ爪61aと遊星側連動体26に設けてあるクラッチ爪とが係合して、遊星側連動体26に対して一体回転自在に連結する。クラッチ体61は、サンギヤ42に対して係合爪61bによって一体回転自在に係合した状態を維持しながら摺動操作され、サンギヤ42に対する係合状態を維持しながら入り位置になる。クラッチ体61は、切り位置に切り換わると、クラッチ爪61aによる遊星側連動体26に対する係合を解除する。
【0041】
したがって、出力側クラッチ機構60は、クラッチ体61が切り位置に切換え操作されることにより、サンギヤ42と遊星側連動体26の連動を絶つことで、モータ軸33aの出力回転体24に対する連動を絶ち、この状態において遊星伝動部40のリングギヤ44と出力回転体24が一体回転自在に連動する第1伝動状態を現出し、遊星伝動部40の合成駆動力の出力回転体24からの出力を可能にする。
【0042】
出力側クラッチ機構60は、クラッチ体61が入り位置に切換え操作されることにより、サンギヤ42と遊星側連動体26を一体回転自在に連動させることで、モータ軸33aを出力回転体24に一体回転自在に連動させる第2伝動状態を現出し、無段変速機30による出力の出力回転体24からの出力を可能し、かつ、サンギヤ42と伝動軸23が一体回転自在に連動し、リングギヤ44と遊星側連動体26が一体回転自在に連動していることにより、遊星ギヤ43の自転が発生しないように、サンギヤ42と遊星ギヤ43とリングギヤ44がモータ軸33aと一体回転することを可能にする。
【0043】
出力側クラッチ機構60は、遊星伝動部40のリングギヤ44と出力回転体24とを連動状態に維持しながら、遊星伝動部40のサンギヤ
42と出力回転体24とを連動入り状態と連動切り状態に切換える。
【0044】
したがって、遊星伝動部40は、入力側クラッチ機構55が入り状態に切換え操作され、出力側クラッチ機構60が切り状態に切換え操作されることにより、入力軸22の駆動力を伝動機構50を介してキャリヤ41に入力し、無段変速機30のモータ軸33aからの出力を伝動軸23を介してサンギヤ42に入力し、入力軸22の駆動力と無段変速機30の出力とを合成して合成駆動力を発生させ、発生させた合成駆動力をリングギヤ44から遊星側連動体26及び出力側連動体27を介して出力回転体24に出力する。
【0045】
入力側クラッチ機構55及び出力側クラッチ機構60を備えて、モード切換えクラッチ機構70を構成してある。モード切換えクラッチ機構70は、入力側クラッチ機構55及び出力側クラッキ機構60が切換え操作されることにより、変速伝動装置20の伝動形態をHSTモード伝動とHMTモード伝動とに切換える。
【0046】
図5は、入力側クラッチ機構55及び出力側クラッチ機構60の操作状態と、モード切換えクラッチ機構70の操作状態と、変速伝動装置20の伝動形態との関係を示す説明図である。
図5に示す「切」は、入力側クラッチ機構55及び出力側クラッチ機構60の切り状態を示し、「入」は、入力側クラッチ機構55及び出力側クラッチ機構60の入り状態を示す。この図に示すように、モード切換えクラッチ機構70は、入力側クラッチ機構55が切り状態に切換え操作され、出力側クラッチ機構60が入り状態に切換え操作されると、変速伝動装置20にHSTモード伝動の伝動形態を現出させ、入力側クラッチ機構55が入り状態に切換え操作され、出力側クラッチ機構60が切り状態に切換え操作されると、変速伝動装置20にHMTモード伝動の伝動形態を現出させる。
【0047】
図3は、HMTモード伝動での変速伝動装置20を示す縦断正面図である。この図に示すように、モード切換えクラッチ機構70を構成する入力側クラッチ機構55が入り状態に切換え操作され、出力側クラッチ機構60が切り状態に切換え操作されると、変速伝動装置20は、HMTモード伝動の伝動形態を備える。変速伝動装置20は、HMTモード伝動の伝動形態を備えると、入力軸22の駆動力を伝動機構50を介して遊星伝動部40のキャリヤ41に入力し、無段変速機30が入力軸22から入力した駆動力を変速してモータ軸33aから出力する駆動力を遊星伝動部40のサンギヤ42に入力し、遊星伝動部40が入力軸22から入力する駆動力と無段変速機30から入力する駆動力とを遊星伝動部40によって合成して合成駆動力を発生させ、遊星伝動部40がリングギヤ44から出力する合成駆動力を、遊星側連動体26及び出力側連動体27を介して出力回転体24の端部に伝達して出力回転体24から走行ミッション13に出力する。
【0048】
図4は、HSTモード伝動での変速伝動装置20を示す縦断正面図である。この図に示すように、モード切換えクラッチ機構70を構成する入力側クラッチ機構55が切り状態に切換え操作され、出力側クラッチ機構60が入り状態に切換え操作されると、変速伝動装置20は、HSTモード伝動の伝動形態を備える。変速伝動装置20は、HSTモード伝動の伝動形態を備えると、無段変速機30が入力軸22から入力した駆動力を変速してモータ軸33aから出力する駆動力を、伝動軸23、出力側クラッチ機構60、遊星側連動体26及び出力側連動体27を介して出力回転体24の端部に伝達し、出力回転体24から走行ミッション13に出力する。
【0049】
モード切換えクラッチ機構70は、変速伝動装置20にHSTモード伝動の伝動形態を現出させた場合、入力軸22から遊星伝動部40のキャリヤ41への伝動が絶たれた状態にあり、サンギヤ42が伝動軸23を介してモータ軸33aに一体回転自在に連動された状態にあり、リングギヤ44が遊星側連動体26、クラッチ体61、サンギヤ42及び伝動軸23を介してモータ軸33aに一体回転自在に連動された状態にあることから、遊星伝動部40のサンギヤ42、遊星ギヤ43及びリングギヤ44をモータ軸33aと一体回転するよう操作することになり、変速伝動装置20は、HSTモード伝動を現出する状態に操作された場合、遊星ギヤ43の自転を発生させず、すなわちサンギヤ42と遊星ギヤ43の相対回転及び遊星ギヤ43とリングギヤ44の相対回転を発生させずに、油圧無段変速機30のモータ軸33aの出力を出力回転体24に伝達する。
【0050】
図6は、変速伝動装置20が備える出力特性を示すグラフ(速度線図)である。このグラフの縦軸は、出力回転体24の回転速度を示す速度線となっている。このグラフの横軸は、縦軸の回転速度零の位置を通るものであり、かつ無段変速機30における油圧ポンプ32の斜板位置を示す操作位置線Lとなっている。操作位置線Lの「n」は、無段変速機30を中立状態にする斜板32bの中立位置である。操作位置線Lの「a」は、変速制御によって操作される斜板32bの前進側の最高速位置として設定した設定前進高速位置である。操作位置線Lの「+max」は、無段変速機30の実前進最高速位置であって、無段変速機30を前進高速側の操作限界まで変速操作した場合、油圧ポンプ32の斜板32bに実際に発生する斜板角位置である。設定前進高速位置「a」は、モータ軸33aの回転を遊星端子に増減せずに入力する簡単な構成において、HSTモード伝動とHMTモード伝動が切り換わる点での速度連続性を保つ為に、実前進最高速位置「+max」の手前の位置に設定してある。操作位置線Lの「−max」は、変速制御によって操作される斜板32bの後進側の最高速位置として設定した設定後進高速位置である。設定後進高速位置「−max」は、無段変速機30を後進高速側の操作限界まで変速操作した場合、油圧ポンプ32の斜板32bに実際に発生する斜板角位置と同じ位置に設定してある。
【0051】
図6に示す速度線Sは、エンジン8が設定の一定速度の駆動力を出力するようにアクセルセットされた状態において変速伝動装置20がHSTモード伝動で変速された場合の出力回転体24の回転速度の変化を示すHSTモード速度線であり、速度線Mは、エンジン8が設定の一定速度の駆動力を出力するようにアクセルセットされた状態において変速伝動装置20がHMTモード伝動で変速された場合の出力回転体24の回転速度の変化を示すHMTモード速度線である。
【0052】
図6に示すように、入力側クラッチ機構55が切り状態に切換え制御され、出力側クラッチ機構60が入り状態に切換え制御されてHSTモード伝動が現出され、HSTモード伝動が維持された状態において、無段変速機30を中立位置「n」から設定前進高速位置「a」に向けて変速操作することにより、出力回転体24の回転速度が零からHSTモード速度線Sの前進域SFに沿って前進側に無段階に増速していき、無段変速機30が設定前進高速位置「a」に至ると、出力回転体24の回転速度が第1の前進中間速度「V1」になる。
【0053】
無段変速機30が設定前進高速位置「a」に至ると、入力側クラッチ機構55が切り状態から入り状態に切換え制御され、出力側クラッチ機構60が入り状態から切り状態に切換え制御されてHSTモード伝動に替えてHMTモード伝動が現出され、HMTモード伝動が維持された状態において、無段変速機30を設定前進高速位置「a」から中立位置「n」に向けて変速操作することにより、出力回転体24の回転速度が第1の前進中間速度「V1」からHMTモード速度線Mの低速域MLに沿って無段階に増速していき、無段変速機30が中立位置「n」に至ると、出力回転体24の回転速度が第2の前進中間速度「V2」になる。HMTモード伝動が維持された状態において、無段変速機30を中立位置「n」から設定後進高速位置「−max」に向けて変速操作することにより、出力回転体24の回転速度が第2の前進中間速度「V2」からHMTモード速度線Mの高速域MHに沿って無段階に増速していき、無段変速機30が設定後進高速位置「−max」に至ると、出力回転体24の回転速度が前進最高速度「V3」になる。
【0054】
HSTモード伝動が維持された状態において、無段変速機30を中立位置「n」から設定後進高速位置「−max」に向けて変速操作することにより、出力回転体24の回転速度が零からHSTモード速度線Sの後進域SRに沿って後進側に無段階に増速していき、無段変速機30が設定後進高速位置「−max」に至ると、出力回転体24の回転速度が後進最高速度「VR」になる。
【0055】
HMTモード速度線Mの高速域MHに対応する変速状態で出力される駆動力が移動走行に適切な回転速度の駆動力になるように、かつHMTモード速度線Mの低速域MLに対応する変速状態で出力される駆動力が作業走行に適切な回転速度の駆動力になるように、さらに油圧ポンプ32の吐出容量が極力小である無段変速機30を採用しながらエンジン8から入力する駆動力を変速に伴うロスを極力少なくして変速後の駆動力として得ることができるように、HMTモード速度線Mの操作位置線Lに対する傾斜角Bを次の如く設定してある。
【0056】
図6に示す速度線延長線MEは、HMTモード速度線Mを操作位置線Lに向けて延長したものであり、操作位置線Lでの位置「P」は、速度線延長線MEと操作位置線Lとが交差する交差位置である。無段変速機30の油圧ポンプ32の斜板32bを実際に傾斜操作できる前進側の最大傾斜位置としての実前進最高速位置「+max」を超えて交差位置「P」まで傾斜操作できると仮定し、交差位置「P」まで傾斜操作した場合の斜板32bが備えることとなる仮想傾斜角の値を「N」とし、実前進最高速速位置「+max」に変速操作した無段変速機30の油圧ポンプ32に実際に発生する実最大斜板角の値を「X」とすると、NがXの2倍(N/X=2.0)となるに相当する傾斜角に、HMTモード変速線Mの操作位置線Lに対する傾斜角Bを設定してある。N/X=2.0の設定は、油圧ポンプ32の吐出容量の設定、遊星伝動部40及び遊星伝動部40以外の機械伝動部におけるギヤ伝動比の設定による。
【0057】
HMTモード速度線Mの操作位置線Lに対する傾斜角Bは、前進最高速度「V3」での出力回転体24の回転速度が第1の前進中間速度「V1」での出力回転体24の回転速度の2倍以上となる傾斜角に設定してある。
【0058】
N/X=2.0の設定は、次に説明する根拠に基づくものである。
無段変速機30の出力回転が零で出力回転数がV2の時、全動力が無段変速機30を通らずに出力される。出力回転が零になる仮想斜板角の位置(P)では、出力回転数V2の時の動力が無段変速機30を通じて駆動側に戻され出力が零になる。すなわち、無段変速機30を通さない機械伝達力が無段変速機30の動力(以下、HST動力と呼称する。)と釣り合う。実際には、仮想斜板角の位置(P)は仮想的な位置なので、無段変速機30の実前進最高速位置「+max」での実最大傾斜角X=1を考えると、HST動力は、回転数が1/Nなので、無段変速機30を通さない機械伝達動力の1/N倍になる。
【0059】
仮に機械効率を、機械伝達動力でKM、無段変速機30を通す動力で
KHとすると、出力動力は一定機械動力±HST動力となり、変速伝動装置20が発揮する全効率は、
無段変速機30が中立位置「n」であると、(1+0×1/N)/(1/KM+0×1/N/KH)=KM と計算され、
無段変速機30が設定後進高速位置「−max」であると、(1+1/N)/(1/KM+1/N/KH)=KM・KH(N+1)/(KM+KH・N) と計算され、
無段変速機30が実前進最高速位置「+max」であると、(1−1/N)/(1/KM−1/N・KH)=KM(N−1)/(N−KM・KH) と計算され、計算上はNが大きいほど高効率化できる。
【0060】
図7は、N/Xの値を変化させた場合の全効率と変速位置との関係を示す説明図である。ここでは、KM=0.95、KH=0.7とし、N/X=1.0、N/X=2.0、N/X=3.0と変化させて上記した如く概算した全効率を示している。
【0061】
図7に示す横軸は、変速位置を示すものであり、HSTモード伝動での前進側及びHMTモード伝動において無段変速機30を任意の変速位置に変速された場合における出力回転速度の設定後進高速位置「−max」に変速された場合における出力回転速度の割合を横軸の変速位置としている。すなわち、HSTモード伝動での前進側及びHMTモード伝動において無段変速機30を任意の変速位置に変速された場合に出力される駆動力の回転速度=Vnとすると、Vn/V3を横軸の変速位置としている。したがって、無段変速機30の設定前進高速位置「a」は、横軸での0.2と0.4の間の位置となり、
図7の縦線Dはこの位置を通るものである。無段変速機30の中立位置「n」は、横軸での0.6と0.8の間の位置となり、
図7の縦線Eはこの位置を通るものである。
【0062】
図7に示す効率線Kは、無段変速機30が備える全効率を示すものである。
図7に示す効率線K1は、N/X=1.0として概算した全効率を示すものであり、効率線K2は、N/X=2.0として概算した全効率を示すものであり、効率線K3は、N/X=3.0として概算した全効率を示すものである。
【0063】
縦線Dと縦線
Eとの間では、全効率が良いのはN/X=1.0の場合であるが、高速側は出力も大きいので、ロス動力としては大きくなり、小さな効率差も無視できなくなる。ロス率と出力動力を掛けたロス動力を検討すると、N/X=1.8程度が極小値となる。ロス動力としての最適値はN/X=1.8を挟んでN/Xが小さい側に広いが、無段変速機30の小型化は、N/X=2.0が最適値となる。このバランスを取って、N/X=1.5〜2.5程度とすれば、高速域での高効率化を実現しつつ、無段変速機30の小型化も38%程度にできて両立される。この時のHMTモード伝動での遊星伝動部40の出力回転も10000rpmを超えない現実的な領域で設計できる。変速伝動装置20ユニットとして独立させる場合、駆動源からの回転数程度に減速した方が、出力部のシールなどによるトルクロスの影響を小さくできるので、2.5〜3の減速を、遊星伝動部40で行なうが、これも現実的に構成しやすくなる。上記した如くシンプルなモード切換えクラッチ機構70を採用して、高効率と無段変速機30の小型化を図るには、N/X=1.5〜2.5の設定が好都合である。
【0064】
図8は、N/Xの値と無段変速機30の小型化との関係を示す説明図である。
図8の横軸は、N/Xの値を示す。
図8に示す線Fは、HST動力(1/N)の全動力(1+1/N)に対する割合「W」を示す。この割合「W」が大になるほど、油圧ポンプ32の吐出容量が大となる大型の無段変速機30が必要になる。
【0065】
所定の変速範囲に亘る駆動力を遊星伝動部40による出力によって得る場合、無段変速機30による出力によって得る場合よりも無段変速機30の小型化が可能になるのであり、
図8に示す線Gは、N/Xの値と、無段変速機30を小型化できる度合との関係を示す。
【0066】
すなわち、仮に、HSTモード伝動とHMTモード伝動が切り換わる点を実最大傾斜位置「+max」とすると、HMTモード伝動での最高速度(前進最高速度「V3」)はHSTモード伝動での最高速度に対し、相似形で計算して(N+1)/(N−1)=Zとなる。Zは、N/X=1.5とすると5.0となり、N/X=2.0とすると3.0となり、N/X=2.5とすると2.3となり、N/X=3.0とすると2.0となる。
図8の縦軸で示す値は、1/Zの値である。
【0067】
Zの値が大になるほど、HMTモード伝動によって得ることができる変速範囲がより広くなり、HSTモード伝動による変速範囲をより小に済ませることができて、無段変速機30のより小型化を図ることができるが、油圧ポンプ32の吐出容量をあまり小にするとリリーフ回路が開き作動するなどの駆動トラブルが発生する。したがって、線Fと線Gとの交差を現出するN/X=2.0を採用することにより、HMTモード伝動による前進最高速度「V3」や第2の前進中間速度「V2」を移動や作業に必要な速度にしながら、かつ無段変速機30の小型化を図りながら、無段変速機30の駆動トラブルの発生を回避した変速伝動が可能な変速伝動装置20を得ることができる。
【0068】
図9は、変速伝動装置20を変速操作する変速操作装置71を示すブロック図である。この図に示すように、変速操作装置71は、無段変速機30の変速操作部30a、入力側クラッチ機構55及び出力側クラッチ機構60の操作部55a,60aに連係された制御装置72と、制御装置72に連係された変速検出センサ73、エンジン回転数センサ74、変速機出力回転数センサ75及び出力回転数センサ76とを備えている。
【0069】
変速操作部30aは、無段変速機30における油圧ポンプ32の斜板32bの角度変更操作を行なう電動アクチュエータ又は油圧アクチュエータによって構成してある。入力側クラッチ機構55の操作部55aは、入力軸22の内部に形成された操作油路を介して油圧ピストン58に接続された操作弁によって構成してあり、油圧ピストン58を操作してクラッチ体56を摺動操作することにより、入力側クラッチ機構55を切り換え操作する。出力側クラッチ機構60の操作部60aは、伝動軸23の内部に形成された操作油路を介してクラッチ体61の油室に接続された操作弁によって構成してあり、クラッチ体61の油室に対する操作油の供給及び排出を行なうことにより、クラッチ体61を摺動操作して出力側クラッチ機構60を切り換え操作する。
【0070】
変速検出センサ73は、変速レバー77の操作位置を検出し、この検出結果を制御装置72に出力する。エンジン回転数センサ74は、エンジン8の回転数を検出し、この検出結果を制御装置72に出力する。変速機出力回転数センサ75は、油圧式無段変速機30の出力回転数を検出し、この検出結果を制御装置72に出力する。出力回転数センサ76は、変速伝動装置20の出力回転数を検出し、この検出結果を制御装置72に出力する。
【0071】
制御装置72は、マイクロコンピュータを利用して構成してあり、変速制御手段78を備えている。変速制御手段78は、変速検出センサ73及び変速機出力回転数センサ75による検出情報を基に、無段変速機30の変速状態が変速レバー77の操作位置に対応したものになるように、変速操作部30aを操作して無段変速機30を変速制御する。
【0072】
変速制御手段78は、無段変速機30を変速制御するに加え、エンジン回転数センサ74による検出情報を基に、アクセルセットされたエンジン8の回転数を検出し、この検出結果、変速検出センサ73、変速機出力回転数センサ75及び出力回転数センサ76による検出情報を基に、
図6に示す如く変速伝動装置20がHSTモード伝動及びHMTモード伝動の伝動形態を現出して変速伝動するように、操作部55a及び操作部60aを操作して入力側クラッチ機構55及び出力側クラッチ機構60を所定のタイミングで切り換え制御する。
【0073】
〔別実施構造〕
図10は、第1の別実施構造を備えた変速伝動装置20を示す縦断正面図である。この図に示すように、第1の別実施構造を備えた変速伝動装置20では、無段変速機30を、可変容量型の油圧ポンプ32と可変容量型の油圧モータ33を備えて構成してある。
【0074】
図6に示すように、第1の別実施構造を備えた変速伝動装置20では、HMTモード伝動において油圧モータ33が容量減少側に変速操作されることにより、HMTモード速度線Mの高速域MHが高速HMTモード速度線MH1に切り換わった状態で変速伝動し、無段変速機30が中立位置「n」から設定後進高速位置「−max」に向けて変速されることで、出力回転体24の回転速度を第2の前進中間速度「V2」から前進最高速度(V3)よりも高速の副前進最高速度(V4)に向けて無段階に増速していく。第1の別実施構造を備えた変速伝動装置20では、HSTモード伝動において油圧モータ33が容量減少側に変速操作されることにより、HSTモード速度線Sの後進域SRが高速HSTモード速度線SR1に切り換わった状態で変速伝動し、無段変速機30が中立位置「n」から設定後進高速位置「−max」に向けて変速されることで、出力回転体24の回転速度を零から後進最高速度(RH)よりも高速の副後進最高速度(RH1)に向けて無段階に増速していく。
【0075】
図11は、第2の別実施構造を備えた変速伝動装置20を示す縦断正面図である。この図に示すように、第2の別実施構造を備えた変速伝動装置20では、出力側クラッチ機構60を、伝動軸23に一体回転自在に設けた支持体63と遊星側連動体26に設けたクラッチボディ部とに亘って設けた多板式の摩擦クラッチ部64を備えて、摩擦式のクラッチ機構に構成してある。この出力側クラッチ機構60は、摩擦クラッチ部64がサンギヤ42に支持された油圧ピストン65によって入り状態と切り状態に切換え操作されることにより、モータ軸33aと出力回転体24を連動入り状態と連動切る状態に切換え操作する。
【0076】
図12は、第3の別実施構造を備えた変速伝動装置20を示す縦断正面図である。この図に示すように、第3の別実施構造を備えた変速伝動装置20では、入力側クラッチ機構55を、入力側連動ギヤ52に一体回転自在に設けた支持部と入力軸22に一体回転自在に設けたクラッチボディ部59aとに亘って設けた多板式の摩擦クラッチ部59を備えて、摩擦式のクラッチ機構に構成してある。この入力側クラッチ機構55は、摩擦クラッチ部59がクラッチボディ部59aに内装された油圧ピストン59bによって入り状態と切り状態に切換え操作されることにより、入力軸22と入力側連動ギヤ52を連動入り状態と連動切る状態に切換え操作する。
【0077】
図13は、第4の別実施構造を備えた変速伝動装置20を示す縦断正面図である。この図に示すように、第4の別実施構造を備えた変速伝動装置20では、出力側クラッチ機構60を、伝動側23に一体回転自在に設けた支持部66と出力側連動体27に一体回転自在に連結されたクラッチボディ67aとに亘って設けた多板式の摩擦クラッチ部67を備えて、摩擦式のクラッチ機構に構成してある。この出力側クラッチ機構60は、摩擦クラッチ部67がクラッチボディ67aに内装された油圧ピストン67bによって入り状態と切り状態に切換え操作されることにより、モータ軸33aと出力回転体24を連動入り状態と連動切り状態に切換え操作する。
【0078】
第4の別実施構造を備えた変速伝動装置20では、リングギヤ44とモータ軸33aとを連動入り状態と連動切り状態に切換え自在な摩擦クラッチ機構79を備え、HSTモード伝動においてサンギヤ42、遊星ギヤ43及びリングギヤ44がモータ軸33aと一体回転する状態と、HSTモード伝動においてリングギヤ44が回転自在な状態とに切換え自在になっている。
【0079】
図14は、第5の別実施構造を備えた変速伝動装置20を示す線図である。この図に示すように、第5の別実施構造を備えた変速伝動装置20では、無段変速機30のポンプ軸32aに入力軸22を一体形成し、遊星伝動部40を無段変速機30のモータ軸33aに支持している。この変速伝動装置20では、エンジン8から入力軸22に入力される駆動力を、入力側クラッチ機構55及び伝動ギヤ80を介して遊星伝動部40のキャリヤ41に入力し、無段変速機30がモータ軸33aから出力する駆動力を遊星伝動部40のリングギヤ44に入力し、遊星伝動部40がサンギヤ42から出力する合成駆動力を伝動ギヤ81及び伝動ギヤ82を介して出力回転体24に伝達して出力回転体24から走行ミッション13に出力する。
【0080】
第5の別実施構造を備えた変速伝動装置20では、遊星伝動部40のリングギヤ44と出力回転体24との間に設けられた出力側クラッチ機構60を備え、入力側クラッチ機構55が入り状態に切換え制御され、出力側クラッチ機構60が切り状態に切換え制御されることにより、HMTモード伝動の伝動形態で変速伝動し、入力側クラッチ機構55が切り状態に切換え制御され、出力側クラッチ機構60が入り状態に切換え制御されることにより、HSTモード伝動での伝動形態で変速伝動する。HSTモード伝動では、無段変速機30がモータ軸33aから出力する駆動力をリングギヤ44、出力側クラッチ機構60を介して出力回転体24に伝達する。第5の別実施構造を備えた変速伝動装置20では、N=2.03Xに設定されている。
【0081】
図15は、第6の別実施構造を備えた変速伝動装置20を示す線図である。この図に示すように、第6の別実施構造を備えた変速伝動装置20では、無段変速機30のポンプ軸32aに入力軸22を一体形成し、遊星伝動部40を入力軸22に支持している。この変速伝動装置20では、エンジン8から入力軸22に入力される駆動力を、遊星伝動部40のキャリヤ41に入力し、無段変速機30がモータ軸33aから出力する駆動力をギヤ機構84を介して遊星伝動部40のサンギヤ42に入力し、遊星伝動部40がリングギヤ44から出力する合成駆動力をギヤ機構85及びHMTクラッチ機構86を介して出力回転体24に伝達して出力回転体24から走行ミッション13に出力する。第6の別実施構造を備えた変速伝動装置20では、N=2.01Xに設定されている。
【0082】
第6の別実施構造を備えた変速伝動装置20では、ギヤ機構85のギヤ85aと出力回転体24に亘って設けられたHMTクラッチ機構86と、モータ軸33aと出力回転体24とに亘って設けられたHSTクラッチ機構87とを備えて、モード切換えクラッチ機構70を構成している。
【0083】
この変速伝動装置動20では、HMTクラッチ機構86が入り状態に切換え制御され、HSTクラッチ機構87が切り状態に切換え制御されることにより、HMTモード伝動の伝動形態で変速伝動し、HMTクラッチ機構86が切り状態に切換え制御され、HSTクラッチ機構87が入り状態に切換え制御されることにより、HSTモード伝動の伝動形態で変速伝動する。この変速伝動装置20では、HSTモード伝動において、無段変速機30がモータ軸33aから出力する駆動力をHSTクラッチ機構87を介して出力回転体24に伝達し、出力回転体24から走行ミッション13に出力する。
【0084】
〔別実施例〕
上記した主の実施例では、N=2.0Xを設定した例を示し、第5の別実施例では、N=2.03Xを設定した例を示し、第6の別実施例では、N=2.01Xを設定した例を示したが、N=1.5〜2.5X(N=1.5X,N=2.5Xを含む)を設定することにより、本発明の目的を達成できる。