(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
振動エネルギーを電気エネルギーに変換する発電素子として、対向する平面型櫛歯電極にエレクトレットを形成したものが知られている。その殆どは2つの対向する矩形領域(例えば特許文献1参照)あるいは円形領域(例えば特許文献2参照)に櫛歯を設けた構造を備えている。
これらの平面型櫛歯電極にエレクトレットを形成したものを用いた発電素子は、発電容量を増大するためには面積を大きくする必要があり、従って小型で出力の大きい発電素子の作成は困難であった。
【0003】
近年MEMSの技術を利用し、櫛歯電極を立体的な構造とすることで、対向する電極間の静電容量を増加させ、小型の発電素子が作成されている。例えば特許文献3に開示されている発電素子では、このような立体的な対向する櫛歯電極が用いられており、電極間の電圧印加手段として、櫛歯電極の付近に設けたエレクトレットが用いられている。
【0004】
エレクトレットの形成は、一般的に絶縁膜にコロナ放電で電荷を注入することによって行われている。しかしながら、この方法で製造されたエレクトレットでは、絶縁膜での電荷密度が小さく、また長期間の使用による電荷の減少の問題があるので、より電荷密度の高いかつ長寿命のエレクトレットの構造が望まれていた。
【0005】
特許文献4には、アルカリガラスをガラス転移点未満の温度で加熱しつつ、これに約500V〜約1000Vの電圧をかけてこのアルカリガラス中のアルカリイオンを移動させてアルカリイオン空乏域を形成したものから、平面型櫛歯電極のエレクトレットを形成した構造が開示されている。
【0006】
非特許文献1には、立体的な構造の櫛歯電極の間にソフトX−rayを照射して、空気中に発生した電荷をエレクトレット用の絶縁膜に注入して、エレクトレットを形成する方法が開示されている。しかしながら、この方法もコロナ放電による電荷注入と同様に、絶縁膜での電荷密度を大きくすることは難しい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来のエレクトレットの形成方法および構造では、大きな電荷密度を長期間維持することができなかった。また立体的に対向する櫛歯電極に高密度の電荷を持つエレクトレットを形成することができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)請求項1に記載の発明は、Si基板の上に、このSiの基材に接するように設けられた第1のSiO
2層と、第1のSiO
2層の上に、この第1のSiO
2層に接するように設けられた
常温でアルカリイオンを透過させないイオン不透過膜と、イオン不透過膜の上に、この
イオン不透過膜に接するように設けられた第2のSiO
2層とを備え、第
2のSiO
2層に
、第1のSiO2層から移動させたアルカリイオンを含有
し、アルカリイオンはアルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンであることを特徴とするエレクトレット膜である。
(2)請求項2に記載の発明は、 請求項1に記載のエレクトレット膜において、アルカリイオンは、K+イオンであり、イオン不透過膜は、SiN
x膜であることを特徴とする。
(3)請求項3に記載の発明は、請求項1に記載のエレクトレット膜の製造方法であって、Si基板を加熱した状態で、このSi基板にアルカリイオンを含む水蒸気を触れさせて、Si基板の上に、アルカリイオンを含む第1のSiO
2層を形成する第1の工程と、アルカリイオンを含む第1のSiO
2層の上に
常温でアルカリイオンを透過させないイオン不透過膜を形成する第2の工程と、イオン不透過膜の上に第2のSiO
2層を形成する第3の工程と、第3の工程の後、第1のSiO
2層を+側とし、第2のSiO
2層を−側とする電界を印加するとともに、基板を加熱し、アルカリイオンを含む第1のSiO
2層から、このアルカリイオンをイオン不透過膜を透過させて第2のSiO
2層に移動させる第4の工程と
を含み、アルカリイオンはアルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンであることを特徴とするエレクトレット膜の形成方法である。
(4)請求項4に記載の発明は、請求項3に記載のエレクトレット膜の形成方法において、アルカリイオンは、K+イオンであり、イオン不透過膜は、SiN
x膜であることを特徴とする。
(5)請求項5に記載の発明は、立体型可動櫛歯電極と、立体型可動櫛歯電極に対向する立体型固定櫛歯電極と、立体型可動櫛歯電極の各々の櫛歯の表面には、請求項1に記載のエレクトレット膜が設けられていることを特徴とする振動発電素子である。
(6)請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の振動発電素子において、アルカリイオンは、K+イオンであり、イオン不透過膜は、SiN
x膜であることを特徴とする。
(7)請求項7に記載の発明は、請求項5に記載の振動発電素子を作製する方法であって、Si基材の上にSiO
2層を準備する第1の工程と、SiO
2層の上に更にSi層を形成する第2の工程と、第2の工程の後、基板をエッチングして立体型可動櫛歯電極と立体型固定櫛歯電極とを形成する第3の工程と、立体型可動櫛歯電極と立体型固定櫛歯電極とを加熱した状態で、アルカリイオンを含む水蒸気を触れさせて、立体型可動櫛歯電極のSi基板の上に、アルカリイオンを含む第1のSiO
2層を形成する第4の工程と、記第1のSiO
2層の外側に
常温でアルカリイオンを透過させないイオン不透過膜を形成する第5の工程と、イオン不透過膜の外側に第2のSiO
2層を形成する第6の工程と、第4の工程の後、立体型可動櫛歯電極が形成されているSi基板をエッチングして立体型可動櫛歯電極と立体型固定櫛歯電極を形成する第7の工程と、立体型可動櫛歯電極を正電位側とし、立体型固定櫛歯電極を負電位側とするとともに、立体型可動櫛歯電極と立体型固定櫛歯電極とを加熱し、立体型可動櫛歯電極において、アルカリイオンを含む第1のSiO
2層から、このアルカリイオンを
高温下でイオン不透過膜を透過させて第2のSiO
2層に移動させる第8の工程とを含
み、アルカリイオンはアルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンであることを特徴とする振動発電素子の作製方法である。
(8)請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の振動発電素子の作製方法において、アルカリイオンは、K+イオンであり、イオン不透過膜は、SiN
x膜であることを特徴とする。
(9)請求項9に記載の発明は、請求項7または8に記載の振動発電素子の作製方法において、第8の工程での加熱を、立体型可動櫛歯電極に通電して、この立体型可動櫛歯電極自体の発熱によって行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によるエレクトレット膜の構造を備えた櫛歯電極を用いて、高出力の発電機を製造することができる。また、本発明によるエレクトレット膜を立体的な櫛歯電極の側壁に形成することにより、高出力で小型の発電機を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明によるエレクトレットの構造および作製方法の原理を示す図である。(a)は、K+イオンを含有したSiO
2層を形成したSi基板状態Aを示す。(b)は基板状態AのSi基板の上に常温ではK+イオンが通過できないSiN
x膜とさらにその上にもう1つのSiO
2層を形成した基板状態Bを示す。(c)は基板状態BのSi基板を加熱しながら、上下に設けた電極から電圧を印加するB−T法により、K+イオンをSiN
x膜を透過させ、その上のSiO
2層に拡散させる工程を示す。(d)は、K+イオンの移動が完了し、加熱を中止し、また電極を取り外した、本発明によるエレクトレット膜を備えたSi基板の状態Cを示す。
【
図2】
図1(a)のK+イオンを含むSiO
2層の形成に用いるウェット酸化法の概略図である。
【
図3】本発明によるエレクトレット膜を備えた可動櫛歯電極および固定櫛歯電極から構成される振動発電素子の全体概略図である。
【
図4】
図3に示す振動発電素子の櫛歯電極に形成されたエレクトレットの構造を示す概略図である。
【
図5A】本発明によるエレクトレット膜を備えた振動発電素子を作製するプロセスの第1ステップを示す図である。
【
図5B】本発明によるエレクトレット膜を備えた振動発電素子を作製するプロセスの第2ステップを示す図である。
【
図5C】本発明によるエレクトレット膜を備えた振動発電素子を作製するプロセスの第3ステップを示す図である。
【
図5D】本発明によるエレクトレット膜を備えた振動発電素子を作製するプロセスの第4ステップを示す図である。
【
図5E】本発明によるエレクトレット膜を備えた振動発電素子を作製するプロセスの第5ステップを示す図である。
【
図5F】本発明によるエレクトレット膜を備えた振動発電素子を作製するプロセスの第6ステップを示す図である。
【
図5G】本発明によるエレクトレット膜を備えた振動発電素子を作製するプロセスの第7ステップを示す図である。
【
図5H】本発明によるエレクトレット膜を備えた振動発電素子を作製するプロセスの第8ステップを示す図である。
【
図5I】本発明によるエレクトレット膜を備えた振動発電素子を作製するプロセスの第9ステップを示す図である。(a)は振動発電素子の全体概略を示し、(b)は可動櫛歯電極の1本の櫛歯の断面Aでの構造を示し、(c)は固定櫛歯電極の1本の櫛歯の断面A’の構造を示す。
【
図5J】本発明によるエレクトレット膜を備えた振動発電素子を作製するプロセスの第10ステップを示す図である。(a)は振動発電素子の全体概略を示し、(b)は可動櫛歯電極の1本の櫛歯の断面Aでの構造を示し、(c)は固定櫛歯電極の1本の櫛歯の断面A’の構造を示す。
【
図5K】本発明によるエレクトレット膜を備えた振動発電素子を作製するプロセスの第11ステップを示す図である。(a)は振動発電素子の全体概略を示し、(b)は可動櫛歯電極の1本の櫛歯の断面Aでの構造を示し、(c)は固定櫛歯電極の1本の櫛歯の断面A’の構造を示す。
【
図5L】本発明によるエレクトレット膜を備えた振動発電素子を作製するプロセスの第12ステップを示す図である。
【
図5M】本発明によるエレクトレット膜を備えた振動発電素子を作製するプロセスの第13ステップを示す図である。
【
図5N】本発明によるエレクトレット膜を備えた振動発電素子を作製するプロセスの第14ステップ示す図である。(a)は振動発電素子の全体概略を示し、(b)は可動櫛歯電極の1本の櫛歯の断面Aでの構造を示し、(c)は固定櫛歯電極の1本の櫛歯の断面A’の構造を示す。
【
図5O】
図5Aから
図5Nで示す、プロセスにより作製された本発明によるエレクトレット膜を備えた振動発電素子の全体概略図である。(a)は振動発電素子の全体概略を示し、(b)は可動櫛歯電極の1本の櫛歯の断面Aでの構造を示し、(c)は固定櫛歯電極の1本の櫛歯の断面A’の構造を示す。
【
図6】
図5Nで示すB−T処理での加熱を、可動櫛歯電極に電流を流すことによって可動櫛歯電極自体を発熱させて行う、本発明によるエレクトレット膜を備えた振動発電素子を作製するプロセスの変形実施例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下
図1〜
図6を参照して、本発明によるエレクトレットの構造とその形成方法、さらにこのエレクトレットを備えた発電機の構造について説明する。なお、以下の説明では、例えば同じエレクトレット電極の部位であって、同じ名称であっても、製造プロセスの段階で状態が変わるものは、別の参照番号を付与して説明している。
【0014】
<第1の実施形態>
(エレクトレットの構造および作製方法の原理)
図1は、本発明によるエレクトレット膜の構造および作製方法の原理を示す。
【0015】
まず、Si基板1の表面にSiO
2層2を形成した、このSiO
2層2にカリウムイオンK+を拡散する(
図1(a)、基板状態A)。K+のSiO
2層2への拡散方法は後述する。
【0016】
次に、K+を拡散したSiO
2層2の上に、窒化珪素膜(SiN
x)3と更にその上にもう1つのSiO
2層4を形成する(
図1(b)、基板状態B)。窒化珪素膜3は緻密であり、常温ではこの窒化珪素膜3の下に形成されているSiO
2層1に拡散されたK+イオンは、この窒化珪素膜3を通過して上側のSiO
2層4に移動することはできない。なお、窒化珪素膜3の成膜については、本発明によるエレクトレットを実際に櫛歯状電極に形成する場合の、後述する加工プロセスで説明する。
【0017】
次に、
図1(b)の状態の基板を上下から電極5、6で挟み、ヒーター7で加熱しながらバイアス電圧Vを印加する(
図1(c))。これはいわゆるB−T(Bias−Temperature)法と呼ばれているもので、基板を高温にして、イオンが移動し易い状態で電圧を印加し、基板中のイオンを移動させる方法である。
SiO
2層2のK+イオンは窒化珪素膜3を透過してSiO
2層4へ移動するが、この移動しやすさは窒化珪素膜3の厚さや組成、基板の温度、印加するバイアス電圧Vに依存する。
【0018】
K+イオンがSiO
2層4に充分移動したら、加熱を停止し、基板温度が室温程度まで低下したのち、バイアス電圧印加を停止する。この後、電極5、6を取り外す(
図1(d)、基板状態C)。
以上により、K+イオンを含むSiO
2層のエレクトレット膜を備えた、エレクトレット基板(基板状態C)が形成される。
【0019】
このように形成したK+イオンを含むSiO
2層のエレクトレット膜は電荷の保持期間が非常に長く、従って寿命の長いエレクトレットを備えた小型発電機を製造することができる。
【0020】
なお、上記では、B−T法での電界の印加は、
図1(c)に示すように、2つの電極で基板を上下から挟んで行っているが、Si基板1にP型あるいはN型の不純物を適宜ドーピングしておいて、このSi基板1に導電性を持たせておき、これに電圧Vの正極側を接続することも可能である。このようにすれば
図1(c)の電極5は省くことができる。
【0021】
(K+イオンのSiO
2層への拡散方法)
図2は、
図1(a)の基板状態Aの、SiO
2層2にK+イオンを拡散する方法の原理を簡単に示す。
図2はいわゆるウェット酸化方法と呼ばれる、Si基板にSiO
2層を形成する方法を利用して、K+イオンを含有したSiO
2層を形成する方法を示したものである。
純水にKOHを溶解した水溶液にN
2ガスを通過させ、このN
2ガスにK+イオンを含んだ水蒸気を含有させる。この水蒸気を加熱炉に流し、この加熱炉内に設置したSi基板上に、K+イオンを含んだSiO
2層を形成させる。このウェット酸化方法によって
図1(a)に示す、K+イオンを含むSiO
2層が形成されたSi基板(基板状態A)が形成される。
【0022】
<第2の実施形態>
(振動発電素子の概略構造)
図3は、本発明によるエレクトレット膜を備えた立体型櫛歯電極からなる振動発電素子20の全体構造を簡略化して示したものである。櫛歯電極の櫛歯の数は振動発電素子の出力の仕様に対応して適宜増減して作製される。
この振動発電素子20は立体型可動櫛歯電極21と立体型固定櫛歯電極22を備える。図示は省略するが立体型可動櫛歯電極21は、立体型可動櫛歯電極21と立体型固定櫛歯電極22が製造される製造プロセスで一緒に製造される、バネ性を持った支持体で支持され、外部からの振動によって振動する。立体型可動櫛歯電極21の表面には、K+イオンを含むエレクトレット膜が形成されており、立体型可動電極21が振動すると、出力端子23と24の間に出力電圧が出力される。なお、出力を電流として利用する場合は、例えば出力抵抗25の代わりに、整流回路を接続し、さらに整流後のDC電流を蓄えるコンデンサを用いる。
【0023】
図4は、
図3の振動発電素子20の立体型可動櫛歯電極21および立体型固定櫛歯電極22の表面に形成されたエレクトレット膜の構造を概略的に示したものである。
図1、
図3と対応する部分については同じ参照番号で示してある。
立体型可動櫛歯電極21でのK+イオンの分布と、立体型固定櫛歯電極22でのK+イオンの分布は異なるが、これは後述する、本発明によるエレクトレット膜の形成方法によるものである。なお、立体型可動櫛歯電極21、立体型固定櫛歯電極22は共に同じプロセスで作製されるが、BT法によるK+イオンの移動によって、双方の電極でK+イオンの分布が異なる分布となる。K+イオンの分布も含め、立体型可動櫛歯電極表面のエレクトレットが、
図1で説明したエレクトレット膜の構造と同等なものとなる。
【0024】
(振動発電素子の製造プロセス)
図5A〜
図5Oを参照して、本発明による振動発電素子の製造方法を説明する([1]〜[15])。
[1]本発明による振動発電素子の製造プロセスの第1のステップでは、まず、LPCVDプロセスを用いて、Si基板31の上にSiO
2層32とSi層33を形成する(
図5A)。
なお、ここでは詳細な説明は省略するが、Si基板31は、このSi基板に導電性を持たせるように適宜ドーピングを行ったSi基板を用いている。このドーピングは導電性を持たせるためだけであるので、P型あるいはN型どちらの特性であっても構わない。
[2]次に第2のステップ(
図5B)では、
図5AのSi層33の上にフォトリソを用いて、立体型可動櫛歯電極と立体型固定櫛歯電極に接続用電極を形成するための準備として、この接続用電極の保護用の窒化膜(Si
3N
4)34を成膜する。
[3]続いて、第3のステップでこの窒化膜34の上に、レジストを塗布し、フォトリソを用いて立体型可動櫛歯電極と固定櫛歯電極の接続用電極形成用のレジストパターン35A、35Bを形成する(
図5C)。
[4]この後、第4のステップでRIE等を用いて基板の表側からエッチングし、接続電極部以外の窒化膜を除去する(
図5D)。
[5]第5のステップ(
図5E)では、
図5Dに示す基板の上に、レジストを塗布し、フォトリソを用いて立体型可動櫛歯電極および立体型可動櫛歯電極を形成するためのレジストパターン36、37を形成する。なお、ここでは簡単のため、立体型可動櫛歯電極の櫛歯は1本、またこれに対向する立体型可動櫛歯電極の櫛歯は2本として示している。実際は立体型櫛歯電極に要求される出力に応じて、櫛歯の数はそれぞれ複数と作製される。
[6]続いて第6のステップ(
図5F)で、RIE等を用いて、
図5Fに示すSi層31をエッチングし、立体型可動櫛歯電極側の櫛歯パターン38と立体型固定櫛歯電極側の櫛歯パターン39を形成する。
[7]第7のステップ(
図5G)では、
図5Hの基板を反転して、基板裏側に立体型可動櫛歯電極および立体型固定櫛歯電極の支持枠の形成用レジストパターン40を形成する。
[8]更に第8のステップで、RIE等を用いて、Si層31をエッチングし、立体型可動櫛歯電極41、立体型固定櫛歯電極42、およびこれらの櫛歯電極の支持枠の形状を完成させる(
図5H)。この時、立体型櫛歯電極がバネ性の支持部(次のステップで説明)が同時に形成される。
なお、このエッチングでは特にICP−RIEを用いると効率良くエッチングできる。
[9]第9のステップでは、
図5Hの状態の状態の立体型可動櫛歯電極、立体型固定櫛歯電極、およびこれらの支持枠のSiで構成された基材部分の表面を酸化してSiO
2層を形成する。この時、上記で
図1、
図2を参照して説明したように、水酸化カリウムの水溶液から発生される水蒸気を用いたウェット酸化方法を用いて、K+イオンを含有したSiO
2層を形成する(
図5I(a))。なお、
図5Iでは、
図5Hで示した状態を再度上下反転した正立状態で示している。
図5I(b)と
図5I(c)はそれぞれこのように処理した、立体型可動櫛歯電極44の1本の櫛歯の断面Aと立体型固定櫛歯電極46の1本の櫛歯の断面A’を示す。それぞれの電極の櫛歯には、中心のSi基材(50、52)の回りにK+イオンを含有したSiO
2層(51、53)が形成されている。
なお、
図5I(a)の参照番号48、49は上記の第8のステップで形成された、立体型可動櫛歯電極41の支持部であり、この支持部の表面にも第9のステップでSiO
2層が形成される。
[10]第10のステップでは、
図5Iの状態の櫛歯(54、55)に、更にSi
3N
4膜を形成する(
図5J)。
図5Iの場合と同様に、
図5J(b)と
図5J(c)はそれぞれ、この状態の立体型可動櫛歯電極54の1本の櫛歯の断面Aと立体型固定櫛歯電極55の1本の櫛歯の断面A’を示す。K+イオンを含有したSiO
2層51、53の外側にSi
3N
4膜58、59が形成されている。
Si
3N
4膜は緻密で、常温ではK+イオンはこのSi
3N
4膜を貫通して外側のSiO
2層に拡散することはない。
[11]第11のステップ(
図5K)では、TEOSCVDプロセスを用いて、Si
3N
4膜58、59の上に更にSiO
2層58、59を形成し、立体型可動櫛歯電極60と立体型固定櫛歯電極61とする。この状態では、
図5K(b)、(c)で示すように、それぞれの櫛歯電極60、61の櫛歯のK+イオンはSi
3N
4膜58、59の内側に閉じ込められている。
[12]第12のステップ(
図5L)では、可動櫛歯電極および固定櫛歯電極に接続電極を形成するために、
図5Kで示す接続電極形成部66、67の部分をRIE等でエッチングし、
図5LのようにSiの部分が露出した接続電極形成部68、69とする。このエッチングの際は、接続電極形成部66、67以外がエッチングされないように適宜マスクしてエッチングを行う。
[13]第13のステップ(
図5M)では、
図5Lの接続電極形成部68、69に蒸着あるいはスパッタリング等で接続電極70、71を形成する。
[14]第14のステップ(
図5N)ではB−T処理を行う。
図5Mの状態の立体型可動櫛歯電極60と立体型固定櫛歯電極61を加熱し、これら電極の間に、立体型可動櫛歯電極を正電圧とするように、バイアス電源60により電圧を印加する(
図5I(a)〜(c))。なお、電極への電圧の印加は、立体型可動櫛歯電極60の接続電極70および立体型固定櫛歯電極61の接続電極71にバイアス電源72を接続して行っている。
[15]以上の第1のステップから第14のステップの処理プロセスにより、Si基材の上に2つのSiO
2層と、この2つのSiO
2層の間にSi
3N
4膜からなる絶縁層を備え、この絶縁層にエレクトレット電極が形成された立体型可動櫛歯電極21と立体型固定櫛歯電極22を備えた振動発電素子が完成する(
図5N(a))。この状態で、立体型可動櫛歯電極21の櫛歯では、
図5J(b)に示すように、K+イオンがSi
3N
4膜50の外側のSiO
2層75の表面付近まで移動している。また立体型固定櫛歯電極22の櫛歯では、K+イオンは、
図5J(c)に示すように、櫛歯の中心のSi基材50の付近に移動している。
【0025】
上記のプロセスでは、常温でK+イオンを透過しない膜としてSi
3N
4膜を2つのSiO
2膜の間に形成する例を示したが、一般にSiNx膜は緻密であり、K+イオンを常温では透過しないので、SiN
x膜の組成としてSi
3N
4以外の組成であってもよい。
【0026】
(通電加熱によるB−T処理)
上記で説明した本発明によるエレクトレット膜およびこれを用いた振動発電素子の製造工程のB−T処理(
図5N)では、外部から加熱するように説明したが、以下のような方法で、立体型可動櫛歯電極自体を発熱させることによりB−T処理を行うことができる。
図6は、
図5Iに示すB−T処理での加熱を、立体型可動櫛歯電極60に通電することによって立体型可動櫛歯電極60自体の発熱によって行う場合の、電源接続図である。K+イオンの移動を行うための電界も同時に印加するため、バイアス電源72の上に、立体型可動櫛歯電極60に通電するヒータ電源80が設けられている。また、可動櫛歯電極60の加熱は、可動櫛歯電極60の2つの接続電極70、77にヒータ電源78を接続することによって行われる。
上記のプロセスでは図示および説明を省略したが、通電加熱用接続電極77は、上記の接続電極70、71と同時に形成される。
【0027】
なお、
図6では通電加熱をB−T処理に用いる場合は、可動櫛歯電極60に、この通電加熱用の電源電圧によって電位勾配が発生するので、実際の通電加熱に際しては、データー電源80の極性を適宜逆転しながら行う。あるいは、ヒーター電源にDC電源でなく交流電源を用いてもよい。
【0028】
以上で説明したような作製プロセスにより、小型で出力密度が高く、かつ電荷保持期間の長い、すなわち寿命の長いエレクトレット膜を備えた立体型櫛歯電極ならびに振動発電素子を作製することができる。
上記で説明したように、この立体型櫛歯電極の櫛歯の数は、振動発電素子として要求される発電量(電圧、電流)に対応して適宜決定される。また当然ながら、各々の櫛歯の大きさ(長さ、高さ)も、この要求される発電量に対応して適宜設計可能である。
【0029】
なお、上記の実施形態では、エレクトレット膜を形成するためのイオンとしてK+イオンを使用した例を説明したが、K+イオン以外の正イオンであっても本発明によるエレクトレット膜の構造を用いることができる。正イオンの中でも、イオン半径の大きいアルカリイオンを用いると、エレクトレット形成後のイオン移動が少なく、従って表面電位の保持期間の長いエレクトレット膜とすることができる。この場合、上記で説明したウェット酸化で、水酸化カリウム水溶液の代わりに、K+イオン以外のアルカリイオンを含むような水溶液を用いてを行う。
【0030】
また、上記のプロセスでは、常温でK+イオンを透過しない膜として、SiN
x膜を形成するとしたが、K+イオンやアルカリイオンを常温で透過しない材質のものであれば、SiN
x膜に限定しない。
【0031】
また、本発明によるエレクトレット膜を備えた立体型櫛歯電極は、振動発電素子として様々な装置に使用することができる。たとえば、マイクロフォン、小型スピーカー、などのトランスデューサーや時計用の発電素子などとして応用が可能である。
【0032】
以上の説明は本発明の実施形態の例であり、本発明はこれらの実施形態や実施例に限定されない。当業者であれば、本発明の特徴を損なわずに様々な変形実施が可能である。