【実施例】
【0048】
(調製実施例)
(A)ポリペプチド:添付された配列表において記載されるように、配列番号1−配列番号364のアミノ酸配列を有するポリペプチドは、固相の合成方法により製造された。
【0049】
(B)実験対象:BALB/c(血糖の代謝は正常である)、STZ誘発(ストレプトゾトシン誘発I型糖尿病)、及びob/ob(先天性II型糖尿病)の3種のマウスを用いて実験を行い、それらのマウスは、国立実験動物センター(台湾)により提供された。
【0050】
(実施例1)分子ドッキング分析
分子ドッキングアッセイを、下記の方法により行った:インスリン受容体(PDBコードは、2DTGである)及びインスリン受容体結合タンパク質(すなわち、配列番号1のアミノ酸配列を有するIRBP−1−68ポリペプチド;PDBコードは、1VBWである)のPDBファイルを、タンパク質データバンクのウェブサイトから得た。そして、分子ドッキングソフトウェア(AutoDock、バージョン3.05及び4.0)及びグリッドベースのドッキングプログラムを用いて分子ドッキング分析を行い、それによりリガンド(すなわちIRBP−1−68(配列番号1))とインスリン受容体との間の分子相互作用エネルギー(ファンデルワールス力、反発力、水素結合相互作用エネルギー、クーロン静電エネルギー、及び内部立体エネルギーを含む)を評価した。分析結果を表1に示した。IRBP−1−68(配列番号1)(
図1の中央のブロック領域)はインスリン受容体に結合し得ることが示された。
【0051】
(実施例2)インスリン受容体自己リン酸化アッセイ
インスリンといったリガンドが細胞のインスリン受容体に結合すると、インスリン受容体の自己リン酸化が引き起こされ、その結果、関連遺伝子の転写及び翻訳を含む下流のシグナル変換反応が誘発され、グルコース輸送が誘発されて細胞外グルコース濃度又は血中のグルコース濃度が低下し、血糖の低下作用が実現されるということが知られてきた。したがって、本実施例では、IRBP−1−68(配列番号1)がインスリン受容体の自己リン酸化を引き起こすことができるのかについて分析し、その結果IRBP−1−68(配列番号1)がインスリン受容体に結合することができるかを観察するために、インスリン受容体自己リン酸化アッセイを行う。該アッセイは、下記の工程により行われた:ヒトリンパ球細胞株(IM−9)を16時間血清不足下(0.1%BSAで補完されたRPMI培地)におき、その後37℃で15分間IRBP−1−68(配列番号1)で刺激し、冷却PBSで洗浄した。細胞を溶解して、約250mgの全タンパク質を得、免疫沈降を抗インスリン受容体ポリクローナル抗体(C−19)で行った。その後、タンパク質を4℃で2時間、タンパク質G−アガロースビーズ(Gibco−BRL、Gaithersburg、MD)に吸着させ、SDS−PAGEに転換させ、エレクトロブロッティングによりイモビロン−P膜にうつした。膜を4℃で一晩、抗リン酸化チロシン抗体(4G10)でインキュベートし、免疫ブロット分析を行った。結果を
図2に示した。
図2において、免疫ブロット分析のより広いバンドは、より高いタンパク質発現レベルを表す。加えて、
図2の結果は、リン酸化されたインスリン受容体のインスリン受容体に対する比率がIRBP−1−68(配列番号1)濃度の増加に伴い増大したことを示す。
【0052】
図2に示されるように、IRBP−1−68(配列番号1)は、インスリン受容体の自己リン酸化を誘導し得、それはインスリン受容体に結合し得ることが示された。
【0053】
(実施例3)受容体結合アッセイ:IRBP−1−68(配列番号1)
IRBP−1−68(配列番号1)がインスリン受容体に結合し得るのかをさらに確認するために、全細胞の受容体結合アッセイを行った。
【0054】
まず、1.2×10
6のヒトリンパ球細胞(IM−9)を、インスリン(コントロール)又はIRBP−1−68(配列番号1)で分けて、0.1%ウシ血清アルブミンを含有する1ml PBS中、15分間室温でインキュベートして、競合アッセイを行った。その後、
125Iでラベルしたインスリン(20,000cpm/ml)をそれに加え、90分間16℃でインキュベートした。インキュベート後、細胞を氷冷し、4℃で10分間、2000rpmで遠心分離し、ペレットを氷冷した洗浄バッファー(10mmol/L Tris及び150mmol/L NaCl、pH7.6)で2回洗浄した。ペレットをガンマカウンターで計測した。各ポリペプチドに対して少なくとも3回、アッセイを行った。
125Iでラベルしたインスリンがインスリン受容体に結合するのを促進する各ポリペプチドの濃度(EC
50)を表1に示した。EC
50は、50%の
125Iでラベルしたインスリンがインスリン受容体に結合するのを促進することのできるポリペプチドの濃度を意味する。EC
50値が低いほど、結合促進効果が強いことを表す。
【表1】
【0055】
表1に示されるように、インスリン及びIRBP−1−68(配列番号1)の両方は、
125Iでラベルしたインスリンがインスリン受容体に結合するのを効果的に促進させることができる。IRBP−1−68(配列番号1)のEC
50は4.15±1.77nMであり、インスリンのそれよりも低い。IRBP−1−68(配列番号1)は、インスリン受容体に結合することができ、インスリンがインスリン受容体に結合するのを促進させる効果においてより優れることが示された。
【0056】
(実施例4)グルコース取り込みアッセイ
血糖調節の鍵となる工程は、脂肪組織が血液からグルコースを取り込むことができ、それにより血糖を低下させることである。したがって、本実施例ではさらにアッセイプラットフォームとして3T3−L1脂肪細胞を用いて、グルコース取り込みアッセイを行った。3T3−L1脂肪細胞を24ウェルプレート中で培養し、4.5時間の飢餓期間後、脂肪細胞を30分間、クレブスリンガー重炭酸塩バッファー(KRB;118mM NaCl、4.7mM KCl、1.3mM CaCl
2、1.2mM MgSO
4、1.2mM Na
2HPO
4、2%ウシ血清アルブミン、0.5mMグルコース、25mM NaHCO
3、pH7.4)中で、インスリン無し(ネガティブコントロール群)、1nMインスリン(コントロール群)、及び1nMインスリン+IRBP−1−68(配列番号1)(実験群)に分けてインキュベートした。次に、さらに10分間、[3H]−2−デオキシ−D−グルコース(0.1μCi/アッセイ)を添加した。細胞を氷冷したリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で3回洗浄し、その後0.1%SDS中で可溶化させた。細胞における放射能をシンチレーションカウンターで測定し、結果を表2に示した。
【表2】
【0057】
表2においてインスリンの放射能の比率は、Life Sciences 2004;75:2653−64を参照とした(参照により本明細書に全体的に取り込まれる)。表2に示されるように、インスリン及びIRBP−1−68(配列番号1)の両方は、3T3−L1脂肪細胞のグルコース取り込みを促進させることができる。このアッセイは、IRBP−1−68(配列番号1)が脂肪細胞のグルコース取り込みを促進させることにより血糖低下効果を実現し得ることを示す。
【0058】
(実施例5)マイクロアレイ分析
IRBP−1−68(配列番号1)が3T3−L1脂肪細胞のグルコース取り込みを促進させる潜在的メカニズムを調べるために、マイクロアレイアッセイにより全ゲノムのスキャニングを行った。
【0059】
IRBP−1−68(配列番号1)処理又は非処理の3T3−L1脂肪細胞から、RNeasy Mini kit(Qiagen、Valencia、CA、米国)を用いて全RNAを抽出した。全RNAを、Agilent 2100 bioanalyzer(Agilent Technologies、Santa Clara、CA、米国)を用いて評価した。RNAインテグリティナンバーが8.0以上であるRNAサンプルを選択した。マイクロアレイ分析を過去に開示された通りに行った(Cheng,W.Y.et al.,2009,Comprehensive evaluation of a novel nuclear factor−κB inhibitor,quinoclamine,by transcriptomic analysis.Brit.J.Pharmacol.157(5):746−756;Cheng,H.M.et al.,2010,Application of bioactivity database of Chinese herbal medicine on the therapeutic prediction,drug development,and safety evaluation.J.Ethnopharmacol.132(2):429−437;及びHsiang,C.Y.et al.,2009,Nuclear factor−κB bioluminescence imaging−guided transcriptomic analysis for the assessment of hoist−biomaterial interaction in vivo.Biomaterials 30(17):3042−3049(参照により本明細書に全体的に取り込まれる)を参照のこと)。
【0060】
発現レベルが2倍まで増加又は減少したインスリンシグナル経路関連遺伝子又はアディポサイトカインシグナル経路関連遺伝子の数を計算し、表3に示した。
【表3】
【0061】
表3に示されるように、IRBP−1−68(配列番号1)は、3T3−L1脂肪細胞におけるインスリンシグナル経路関連遺伝子の発現レベルを調節し、脂肪細胞のグルコース取り込みを促進させ血糖低下作用を実現することができる。
【0062】
(実施例6)ウェスタンブロッティング分析
ウェスタンブロッティング法により、インスリンシグナル経路関連遺伝子のタンパク質発現レベルを分析した。
【0063】
3T3−L1脂肪細胞を24時間37℃で培養し、16時間IRBP−1−68(配列番号1)で処理し、氷冷PBSで洗浄後、細胞スクレーパーを用いて収集し、300μlのサンプルバッファー(62.5mM Tris−HCl、pH6.8、2%ドデシル硫酸ナトリウム、10%グリセロール、50mMジチオスレイトール、0.1%ブロモフェノールブルー)で溶解した。細胞溶解液のタンパク質濃度を、Bradford法(Bio−Rad、Hercules、CA、米国)を用いて評価した。タンパク質(10μg)をSDS−PAGEにより分離し、タンパク質のバンドをその後、電気泳動でニトロセルロース膜(Amersham Pharmacia Biotech Inc.,Piscataway、NJ、米国)にうつした。膜をブロッキングバッファー(20mM Tris−HCl、pH7.6、140mM NaCl、0.1% Tween−20、5%スキムミルク粉末)でブロックし、抗−Akt、抗−リン酸化Akt(Ser473)、抗−リン酸化Akt(Thr308)、抗−リン酸化PTEN(phosphatase and tensin homolog deleted on Chromosome ten)(Ser380)、抗−リン酸化GSK−3β(グリコーゲン合成酵素キナーゼ−3β)(Ser9)、抗−リン酸化Raf(Ser259)、抗−リン酸化PDK1(リン酸化イノシチド依存性キナーゼ1)(Ser241)抗体(Cell Signaling Technology、Beverly、MA、米国)で検査した。結果を
図3に示した。
図3に示される値は、ウェスタンブロッティング分析におけるバンドの強度を表す。より高い値は、標的タンパク質のより高い発現レベルを表す。
【0064】
図3に示されるように、IRBP−1−68(配列番号1)は、PDK−1、リン酸化−AKt(Thr308)、リン酸化−AKt(Ser473)、及びグルコーストランスポーター4(GLUT4)といったインスリンシグナル経路関連遺伝子のタンパク質発現レベルを増加させることができる。このアッセイの結果は、IRBP−1−68(配列番号1)が3T3−L1脂肪細胞におけるインスリンシグナル経路関連遺伝子の発現レベルを調節して、血糖を低下させることができることを示す。
【0065】
(実施例7)免疫化学的分析
免疫化学的分析は、下記の方法で行われた:3T3−L1脂肪細胞を培養し、カバースライドに固定し、4℃で一晩、1:50で希釈したGLUT4に対するマウスモノクローナル抗体(Millipore、Billerica、MA、米国)でインキュベートした。その後、細胞を20分間室温でビオチン化された二次抗体(Zymed Laboratories、South San Francisco、CA、米国)でインキュベートした。その後、スライドをアビジン−ビオチン複合体試薬でインキュベートし、3,3’−ジアミノベンジジン(Histostain(登録商標)−Plus Kit、Zymed Laboratories、South San Francisco、CA、米国)で染色した。結果を
図4に示した。
【0066】
図4に示されるように、3T3−L1脂肪細胞の免疫化学的染色の結果はまた、IRBP−1−68(配列番号1)が3T3−L1脂肪細胞のGLUT4発現を促進させ得ることを示す。GLUT4は脂肪細胞においてグルコースを輸送することのできるタンパク質であることが知られてきた。したがって、上述のアッセイは、IRBP−1−68(配列番号1)がGLUT4の発現を増加させることにより脂肪細胞のグルコース輸送を促進させ、その結果、血糖低下作用を実現し得ることを示す。
【0067】
実施例1−7のアッセイは、IRBP−1−68(配列番号1)がインスリン受容体に結合し得、脂肪細胞のグルコース取り込みを促進して血糖を低下させ得ることを示す。
【0068】
(実施例8)受容体結合アッセイ:IRBP−1−68(配列番号1)の部分的アミノ酸配列
表4に示される部分的アミノ酸配列(配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、及び配列番号7)を有するポリペプチドの受容体結合アッセイを、実施例2に記載される方法と同様の実験的方法を用いることにより行った。
125Iでラベルしたインスリンのインスリン受容体結合を促進するこれらのポリペプチドの濃度(EC
50)を表4に示した。
【表4】
【0069】
表4に示されるように、IRBP−1−68の部分的アミノ酸配列(すなわち、配列番号2−7)を有する本発明のポリペプチドのすべては、インスリンのインスリン受容体結合を促進させる効果を有する。IRBP−1−19(配列番号2)、IRBP−50−68(配列番号6)及びIRBP−60−68(配列番号7)は、より良好な促進作用を有する。
【0070】
このアッセイの結果は、IRBP−1−68(配列番号1)が19アミノ酸(すなわち、IRBP−1−19(配列番号2)及びIRBP−50−68(配列番号6))又はさらに9アミノ酸に分割される場合、それはいまだにインスリン受容体に結合する効果を有することを示す。下記の実験を行って、さらにIRBP−60−68(配列番号7)を分析した。
【0071】
(実施例9)分子ドッキングアッセイ:IRBP−60−68(配列番号7)のアミノ酸配列における1つのアミノ酸の置換により生じた相同的ポリペプチド
表5に示されるように、IRBP−60−68(配列番号7)における1つのアミノ酸の置換により生じた相同的アミノ酸配列(配列番号8−配列番号178)を有するポリペプチドを固相の合成方法により製造し、実施例1に記載の方法と同様の方法により分子ドッキング分析を行った。
【0072】
ポリペプチドとインスリン受容体との間の分子間相互作用エネルギー(ファンデルワールス力、反発力、水素結合相互作用エネルギー、クーロン静電エネルギー、及び内部立体エネルギーを含む)を評価した。7000から8000のスコアを“+”と表記し、8000から9000のスコアを“++”と表記し、9000から10000のスコアを“+++”と表記した。ここで、より高いスコアは、ポリペプチドとインスリン受容体との間のより大きな相互作用エネルギーを表し、より強い結合作用を示唆する。
【表5】
【0073】
表5で示されるように、IRBP−60−68(配列番号7)における1つのアミノ酸の置換により生じた相同的アミノ酸配列(配列番号8−配列番号178)を有するポリペプチドのすべては、異なるレベルのインスリン受容体への結合能を有する。
【0074】
(実施例10)受容体結合アッセイ:IRBP−60−68(配列番号7)のアミノ酸配列における1つのアミノ酸の置換により生じた相同的ポリペプチド
表5で示されるように、配列番号21のアミノ酸配列を有するポリペプチド(すなわち、IRBP−60−68(配列番号7)のアミノ酸配列においてスレオニンをアラニンにより置換することで生じた相同的ポリペプチド;以後“IRBP−MC(配列番号21)”と称する)の受容体結合アッセイを、実施例3で記載される方法と同様の実験的方法を用いることにより行った。結果を表6に示す。
【表6】
【0075】
表6に示されるように、
125Iでラベルしたインスリンのインスリン受容体への結合を促進させる、IRBP−60−68(配列番号7)における1つのアミノ酸の置換により生じたIRBP−MC(配列番号21)の濃度は、0.86±0.05(nM)であり、IRBP−60−68(配列番号7)のアミノ酸配列における1つのアミノ酸の置換により生じた相同的ポリペプチドは、いまだインスリン受容体への結合能を有することが示された。
【0076】
加えて、表7に示されるように、IRBP−60−68(配列番号7)のアミノ酸配列における1つのアミノ酸の置換により生じた相同的ポリペプチドをさらに受容体結合アッセイにより分析した。本明細書において、インスリン受容体チロシンキナーゼの活性は、ポリペプチド及びインスリン受容体の結合活性の指標として用いられた。インスリン受容体チロシンキナーゼの活性が高くなると、インスリン受容体へのポリペプチドの結合能が強くなることを表す。
【0077】
インスリン受容体チロシンキナーゼによるポリペプチドの結合能の評価のための実験的手法は、下記の通りである。ポリペプチド及びインスリン受容体を30分間氷浴中に置き、その後等量の2×キナーゼバッファー(50mM HEPES、pH7.6;50mM MgCl
2;200μM ATP;200mΜ バナジウム酸ナトリウム;5mg/L ポリ(Glu,Tyr);50μCi [γ−
32P]ATP/ml)をそれに加えた。サンプルを10分間氷浴中に置いた。その後、TCAをそれに加え、フィルター紙上に基質(ポリ(Glu,Tyr))を沈殿させた。フィルター紙をガンマ線カウンターに置き、インスリン受容体チロシンキナーゼの活性を放射強度より算出した。
【0078】
表7において、各群のポリペプチドは、IRBP−60−68(配列番号7)のアミノ酸配列における特定のアミノ酸の置換により得られるポリペプチドのポリペプチド混合物である。例えば、IRBP−60−68−1@は、IRBP−60−68(配列番号7)のアミノ酸配列における第一のアミノ酸をアルギニン(Arg;R)、アラニン(Ala;A)、バリン(Val;V)、フェニルアラニン(Phe;F)、プロリン(Pro;P)、メチオニン(Met;M)、イソロイシン(Ile;I)、ロイシン(Leu;L);アスパラギン酸(Asp;D)、グルタミン酸(Glu;E)、リシン(Lys;K)、グリシン(Gly;G)、セリン(Ser;S)、スレオニン(Thr;T);チロシン(Tyr;Y)、ヒスチジン(His;H)、システイン(Cys;C)、アスパラギン(Asn;N)、グルタミン(Gln;Q)、又はトリプトファン(Trp;W)により置換することで得られるポリペプチドのポリペプチド混合物を表し、配列番号8、配列番号16、配列番号24、配列番号32、配列番号41、配列番号48、配列番号64、配列番号73、配列番号82、配列番号91、配列番号100、配列番号108、配列番号117、配列番号125、配列番号134、配列番号143、配列番号152、配列番号161、配列番号170のアミノ酸配列を有するポリペプチドを含む。
【表7】
【0079】
表7に示されるように、IRBP−60−68(配列番号7)のアミノ酸配列における特定のアミノ酸の置換により得られるポリペプチドのポリペプチド混合物は、インスリン受容体への結合活性を有する。
【0080】
(実施例11)受容体結合アッセイ:IRBP−60−68(配列番号7)のアミノ酸配列における複数のアミノ酸の置換により生じた相同的ポリペプチド
表8に示されるように、IRBP−60−68(配列番号7)における複数のアミノ酸の変異/置換(3−6アミノ酸の差し替え)により生じた相同的アミノ酸配列を有するポリペプチドを固相の合成方法により製造し、受容体結合アッセイを実施例3に記載と同様の方法で行った。前記相同的ポリペプチドの名称、配列、及びアッセイ結果を、表8に示した。
【表8】
【0081】
表8に示されるように、配列番号179−配列番号188のアミノ酸配列を有するポリペプチドは、インスリンのインスリン受容体への結合を促進する能力を有し、IRBP−60−68(配列番号7)の3−6つのアミノ酸の置換により生じた相同的アミノ酸配列を有する相同的ポリペプチドはいまだ、インスリンのインスリン受容体への結合を促進する作用を有することが示され、IRBP−MT(配列番号179)、IRBP−CM(配列番号184)、IRBP−VV−1(配列番号185)及びIRBP−CP(配列番号186)はより良好な促進作用を有する。
【0082】
(実施例12)受容体結合アッセイ:IRBP−60−68(配列番号7)のアミノ酸配列における複数のアミノ酸の置換により生じた相同的ポリペプチド
実施例1に記載された方法により、9アミノ酸の長さを有し、インスリン受容体へのより良好な結合能を有する4つのポリペプチド(配列番号190−配列番号193のアミノ酸配列を有し、以後IRBP−9A−IRBP−9Dと称する)を、分子ドッキングソフトウェアを用いることでスクリーニングして、分子ドッキング分析を行った。
【0083】
これらのポリペプチドは、RYKYQX
1X
2YI(配列番号189)の一般配列式を有し、X
1はシステイン又はトリプトファンであり、X
2はフェニルアラニン又はトリプトファンである。これらのポリペプチドを、実施例10に記載されるような受容体結合アッセイにより分析した。インスリン受容体チロシンキナーゼの活性は、ポリペプチド及びインスリン受容体の結合活性の指標として用いられた。結果を表9に示す。
【表9】
【0084】
表9の結果は、IRBP−9A−IRBP−9D(配列番号190−配列番号193)のポリペプチドがインスリン受容体に結合し得ることを示す。例えば、IRBP−9B(配列番号191)に対して、インスリン受容体チロシンキナーゼの活性は、79.76±5.64(U/ml)までであり得る。
【0085】
(実施例13)分子ドッキングアッセイ:IRBP−9B(配列番号191)のアミノ酸配列における1つのアミノ酸の置換により生じた相同的ポリペプチド
表10に示されるように、IRBP−9B(配列番号191)における1つのアミノ酸の置換により生じた相同的アミノ酸配列(配列番号194−配列番号364)を有するポリペプチドを、固相の合成方法により製造した。分子ドッキング分析を実施例1に記載の方法と同様の方法により行い、リガンド(ポリペプチド)とインスリン受容体との間の相互作用エネルギー(ファンデルワールス力、反発力、水素結合相互作用エネルギー、クーロン静電エネルギー、及び内部立体エネルギーを含む)を評価した。8000から10000のスコアを“+”と表記し、10000から12000のスコアを“++”と表記し、12000から14000のスコアを“+++”と表記した。ここで、より高いスコアは、ポリペプチドとインスリン受容体との間のより大きな相互作用エネルギーを表し、より強い結合作用を示唆する。
【表10】
【0086】
表10に示されるように、IRBP−9B(配列番号191)における1つのアミノ酸の置換により生じた相同的アミノ酸配列(配列番号194−配列番号364)を有するポリペプチドのすべては、異なるレベルのインスリン受容体への結合能を有する。
【0087】
(実施例14)血糖低下アッセイ
IRBP−1−68(配列番号1)、IRBPの部分的アミノ酸配列を有するポリペプチド、及び部分的アミノ酸配列における複数のアミノ酸の置換により生じたポリペプチドを血糖低下アッセイにより分析した。まず、血糖の代謝が正常である3匹のマウス(BALB/c)を18時間絶食させ、一方、3匹の糖尿病マウス(STZ誘発又はob/ob)を4時間絶食させた。表11で示されるポリペプチド(100μl、2.5×10
−9モル/体重kg)を腹腔内注射により実験群における各マウスに投与した。コントロール群における各マウスには、100μlの水を投与した。15分後、グルコース溶液(4g/体重kg)を腹腔内注射により正常マウス(BALB/c)に投与し、グルコース溶液(1g/体重kg)を糖尿病マウス(STZ誘発又はob/ob)に投与して、マウスの血糖値を迅速に上昇させた。150分後、血液サンプルをマウスの尾から採り、血糖値をグルコメーター(glucometer)(ACCU−CHEK Advantage、Roche、ドイツ)で測定した。実験群及びコントロール群におけるマウスの血糖値を比較し、分析した。
【表11】
【0088】
表11で示されるように、2.5×10
−9モル/体重kgのIRBP−1−68(配列番号1)又はそれから生じた相同的ポリペプチドは、正常マウス及び糖尿病マウスの両方の血糖値を効率的に低下させることができる。BALB/cマウスの群において、IRBP−1−68(配列番号1)、IRBP−50−68(配列番号6)、IRBP−60−68(配列番号7)及びIRBP−9B(配列番号191)のポリペプチドは、約61%から70%の血糖抑制率を達成することができる。STZ誘発マウスの群において、IRBP−1−68(配列番号1)、IRBP−50−68(配列番号6)、IRBP−60−68(配列番号7)、IRBP−9A(配列番号190)、IRBP−9B(配列番号191)、IRBP−9C(配列番号192)及びIRBP−9D(配列番号193)のポリペプチドは、約22%から67%の血糖抑制率を達成することができる。ob/ob又はdb/dbマウスの群において、IRBP−1−68(配列番号1)、IRBP−50−68(配列番号6)及びIRBP−60−68(配列番号7)のポリペプチドは、約33%から55%の血糖抑制率を達成することができる。上述の結果は、IRBP−1−68(配列番号1)、IRBP−1−68(配列番号1)の部分的アミノ酸配列を有するポリペプチド、及び部分的アミノ酸配列における複数のアミノ酸の置換により生じたポリペプチドのすべてが血糖低下作用を有することを示す。
【0089】
(実施例15)糖化ヘモグロビン値アッセイ
糖化ヘモグロビン値(HbA1c)は、生命体の血液中の赤血球に結合しているグルコースの濃度である。一般に、血糖の濃度がより高くなると、糖化ヘモグロビン値がより高くなり、糖化ヘモグロビン値は、糖尿病治療における薬剤の効果を評価するための指標となる。したがって、本実施例では、マウスの血糖値を制御することに対するポリペプチドの効果を、糖化ヘモグロビン値を測定することで評価した。
【0090】
表12で示されるように、IRBP−50−68(配列番号6)及びIRBP−60−68(配列番号7)のポリペプチドを糖尿病マウス(STZ誘発)に投与した。実験群では、ポリペプチド(1×10
−6モル/体重kg、20μl)を実験群の各マウスに経口投与した。コントロール群では、各マウスに20μlの水を投与した。糖化ヘモグロビン値を28日後に測定した。
【表12】
【0091】
表12に示されるように、本発明のポリペプチドは、糖尿病マウスの糖化ヘモグロビン値を効果的に低下させることができ、該ポリペプチドはたしかに、糖尿病マウスの血糖値を低下させる効果を有することが示された。
【0092】
(実施例16)肝臓インデックスの評価
肝−腎疾患といった合併症は糖尿病患者においてたいてい発症するため、本実施例では、マウスにおいて糖尿病により引き起こされた肝−腎疾患を制御することに対する本発明のポリペプチドの効果を、肝臓インデックスを測定することで評価した。
【0093】
IRBP−50−68(配列番号6)のポリペプチドを、実施例14で記載される方法と同様の方法により実験群における糖尿病マウスに経口投与させた。28日後、これらのマウスの肝臓インデックス(GOT及びGPT)を測定し、糖尿病マウスにおける糖尿病により引き起こされた肝疾患に対する該ポリペプチドの効果を評価した。結果を表13に示す。
【表13】
【0094】
表13に示されるように、本発明のポリペプチドは、糖尿病マウスの肝臓インデックス(GOT及びGPT)を効果的に低下させることができ、該ポリペプチドは、血糖値を低下させる効果により糖尿病マウスにおける糖尿病により引き起こされた肝疾患を改善させ得ることが示された。
【0095】
(実施例17)腎臓インデックスの評価
IRBP−50−68(配列番号6)及びIRBP−60−68(配列番号7)のポリペプチドを、実施例14で記載される方法と同様の方法により実験群における糖尿病マウスに経口投与させた。28日後、これらのマウスの血中の腎臓インデックス(BUN及びCRE)を測定し、糖尿病により引き起こされた腎疾患に対する該ポリペプチドの効果を評価した。結果を表14に示す。
【表14】
【0096】
表14に示されるように、本発明のポリペプチドは、糖尿病マウスの腎臓インデックス(BUN及びCRE)を効果的に低下させることができ、該ポリペプチドは、血糖値を低下させる効果により糖尿病マウスにおける糖尿病により引き起こされた腎疾患を改善させ得ることが示された。
【0097】
上記の開示は、技術の詳細及び本発明の特徴に関する。本技術分野における当業者であれば、本発明の特性を逸脱することなく、記述された本発明の開示及び示唆に基づき、種々の変更及び置換を行い得る。それにもかかわらず、このような変更及び置換が上記の記述において十分には開示されないが、それらは下記に添えられた特許請求の範囲において実質的にカバーされてきた。
(付記1)
IVARPPTIG(配列番号7)のアミノ酸配列又は配列番号7において1つのアミノ酸の置換により生じた相同的アミノ酸配列を有し、
前記相同的アミノ酸配列は、配列番号8−配列番号178からなる群より選択されたアミノ酸配列である、
単離されたポリペプチド。
(付記2)
配列番号7及び配列番号21からなる群より選択されたアミノ酸配列を有する、付記1に記載のポリペプチド。
(付記3)
配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5及び配列番号6からなる群より選択された、配列番号1の部分的アミノ酸配列を有する、単離されたポリペプチド。
(付記4)
前記配列番号1の部分的アミノ酸配列は、配列番号2又は配列番号6のアミノ酸配列である、
ことを特徴とする付記3に記載のポリペプチド。
(付記5)
配列番号179、配列番号180、配列番号181、配列番号182、配列番号183、配列番号184、配列番号185、配列番号186、配列番号187及び配列番号188からなる群より選択されたアミノ酸配列を有する、単離されたポリペプチド。
(付記6)
配列番号179、配列番号184、配列番号185及び配列番号186からなる群より選択されたアミノ酸配列を有する、付記5に記載のポリペプチド。
(付記7)
RYKYQX1X2YI(配列番号189)のアミノ酸配列又は配列番号189において1つのアミノ酸の置換により生じた相同的アミノ酸配列を有し、
X1は、システイン又はトリプトファンであり、X2は、フェニルアラニン又はトリプトファンである、
単離されたポリペプチド。
(付記8)
配列番号189のアミノ酸配列を有する、付記7に記載のポリペプチド。
(付記9)
X1は、システインである、
ことを特徴とする付記7に記載のポリペプチド。
(付記10)
RYKYQCFYI(配列番号191)のアミノ酸配列又は配列番号191において1つのアミノ酸の置換により生じた相同的アミノ酸配列を有し、前記相同的アミノ酸配列は、配列番号194−配列番号364からなる群より選択されるアミノ酸配列である、
ことを特徴とする付記7に記載のポリペプチド。
(付記11)
付記1乃至10のいずれか1項に記載のポリペプチドをコードする、単離された核酸分子。
(付記12)
有効量の付記1乃至10のいずれか1項に記載の単離されたポリペプチドを含む、血糖を低下させること、糖化ヘモグロビンを低下させること、及び糖尿病により引き起こされる肝−腎疾患を改善させることの少なくとも1つの治療における使用のための医薬組成物。
【0098】
(関連する出願)
本出願は、台湾特許出願101117779(出願日2012年5月18日)に基づく優先権を主張しており、その内容は本明細書に参照として取り込まれる。