特許第5676538号(P5676538)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5676538ポリペプチド、ポリペプチドをコードする核酸分子、及びポリペプチドを含む医薬組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5676538
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月25日
(54)【発明の名称】ポリペプチド、ポリペプチドをコードする核酸分子、及びポリペプチドを含む医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20150205BHJP
   C07K 7/06 20060101ALI20150205BHJP
   C07K 4/10 20060101ALI20150205BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20150205BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20150205BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20150205BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20150205BHJP
【FI】
   C12N15/00 AZNA
   C07K7/06
   C07K4/10
   A61K37/02
   A61P3/10
   A61P1/16
   A61P13/12
【請求項の数】6
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2012-198300(P2012-198300)
(22)【出願日】2012年9月10日
(65)【公開番号】特開2013-240317(P2013-240317A)
(43)【公開日】2013年12月5日
【審査請求日】2012年9月10日
(31)【優先権主張番号】101117779
(32)【優先日】2012年5月18日
(33)【優先権主張国】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】509075457
【氏名又は名称】中國醫藥大學
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(72)【発明者】
【氏名】侯 庭▲鑛▼
(72)【発明者】
【氏名】項 千芸
【審査官】 荒木 英則
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−124827(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/036293(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/010966(WO,A1)
【文献】 特開2011−254743(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/102690(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/064352(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/050422(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/09
A61K 38/00−38/42
A61P 1/00−43/00
C07K 4/00− 7/06
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/SwissProt/PDB/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
IVARPPTIG(配列番号7)のアミノ酸配列又は配列番号7において1つのアミノ酸の置換により生じた相同的アミノ酸配列からなり
前記相同的アミノ酸配列は、配列番号8−配列番号178からなる群より選択されたアミノ酸配列である、
単離されたポリペプチド。
【請求項2】
配列番号7及び配列番号21からなる群より選択されたアミノ酸配列からなる、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
配列番号2、配列番号3、配列番号4及び配列番号5からなる群より選択された、配列番号1の部分的アミノ酸配列からなる、単離されたポリペプチド。
【請求項4】
前記配列番号1の部分的アミノ酸配列は、配列番号2のアミノ酸配列である、
ことを特徴とする請求項3に記載のポリペプチド。
【請求項5】
請求項1乃至のいずれか1項に記載のポリペプチドをコードする、単離された核酸分子。
【請求項6】
有効量の請求項1乃至のいずれか1項に記載の単離されたポリペプチドを含む、血糖を低下させること、糖化ヘモグロビンを低下させること、及び糖尿病により引き起こされる肝−腎疾患を改善させることの少なくとも1つの治療における使用のための医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリペプチド及びポリペプチドの使用に関し、特にはインスリン受容体に結合することができ、血糖を低下させ、糖化ヘモグロビンを低下させ、糖尿病により引き起こされる肝−腎疾患を改善させる効果を有するポリペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病は、代謝異常の慢性疾患である。糖尿病の主要因は、インスリンの不足、身体におけるインスリンの機能不全、又は先天的な遺伝子異常及び後天的な環境の組み合わせにより引き起こされるインスリン耐性である。結果として、糖の利用能力が低下し、又は該能力の完全な欠損さえ引き起こし、ひいては、さらに血糖を上昇させ、身体におけるタンパク質及び脂質の代謝に悪影響を与える。加えて、糖尿病は、他の慢性的な合併症を引き起こし、それには、眼底、神経(運動神経、感覚神経、及び自律神経を含む)、肝臓及び腎臓、大血管(脳血管障害、冠動脈疾患、及び末梢血管の閉塞を含む)の病理学的変化、糖尿病性足病変等が含まれる。
【0003】
世界保健機関(WHO)からの統計値によると、世界中の糖尿病患者数は、1985年の約3000万人から2000年の1億7100万人以上へと劇的に増加してきた。WHOはさらに、世界中の糖尿病患者数は、2030年には3億4600万人以上となることを示唆する。さらに、米国における糖尿病及びその合併症に対する医療費は、1997年の440億USドルから2007年の1740億USドルへと増加した。糖尿病患者数の増加に伴い、効果的に血糖を調節することのできる物質又は医薬品の開発が重要となる。
【0004】
インスリンは、1922年から糖尿病の治療に対して主に使われてきた。しかしながら、インスリンの不足は、膵臓機能の異常の一要因にすぎない。したがって、糖尿病治療でのインスリンの単独使用では、効果に限界がある。
【0005】
インスリン以外に、糖尿病の治療に用いられる他の薬剤が存在する。血糖を低下させるために用いられるこれらの薬剤は、それらのメカニズムに従って、5つのグループに分類され得る。第1のグループは、スルホニルウレア(SU)からなり、それは、膵臓からのインスリン分泌を促進し、組織球のインスリン受容体数を増やす。第2のグループは、安息香酸誘導体からなり、それはインスリン分泌を刺激することができる。第3のグループは、ビグアナイトからなり、それは、胃又は腸における糖の吸収を阻害し、肝臓における糖の生成を阻害し、組織における糖取り込みを促進する。第4のグループは、α−グルコシダーゼ阻害薬からなり、それは、二糖を、腸管により吸収され得る単糖へと分解させないようにする。第5のグループは、インスリン増感剤からなり、それは、末梢組織及び肝細胞のインスリン抵抗性を軽減させる。それにもかかわらず、各グループの前述の薬剤は、異なる副作用を有する。例えば、スルホニルウレアは、発疹及び血糖レベル低下を引き起こし得;安息香酸誘導体は、血糖のレベルを低下させ得;ビグアナイトは、乳酸アシドーシス並びに胃及び腸の疾患を引き起こし得;α−グルコシダーゼ阻害薬は、胃及び腸の疾患を引き起こし得;インスリン増感剤は、肝機能異常及び肝細胞傷害を引き起こし得る。したがって、血糖低下機能を有し、かつ副作用がより少ない薬剤の開発が重要となる。
【0006】
通常の化合物とは異なり、ポリペプチドは、代謝をより良く調節し、器官により良く受容され、その結果、副作用発症がより少なくなる。したがって、多くのポリペプチドは、ここ十年、世界中で研究されてきており、臨床的な治療において適用されてきた。例えば、特許文献1は、グルカゴン様ペプチド−1類似体を開示し、それは、血糖を低下させる。一方、特許文献2は、ヒト膵島ペプチド(HIP)を用いた、血糖を低下させるための薬剤を開示し、HIPは膵炎に関連したタンパク質前駆体の活性フラグメントである。
【0007】
さらに、ポリペプチドは、血糖低下活性を有することが見出され、植物抽出物から得られ得る。例えば、特許文献3は、ニガウリ由来の血糖低下活性を有するポリペプチドを開示する。該ポリペプチドのアミノ酸配列は、KTNMKHMAGAAAAGAVVGであり、該ポリペプチドの分子量は、10kDa未満である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】台湾特許第I283684号
【特許文献2】米国特許第7393919号明細書
【特許文献3】米国特許第6127338号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
それゆえ、血糖を調節するための多くの薬剤が存在するにもかかわらず、単独での、糖尿病を治療するための方法又は薬学的組成物、又は異なる病原性メカニズムでとの組み合わせがいまだに必要とされる。
【0010】
本発明は、前述の需要を研究し、インスリン受容体に結合することができ、血糖を低下させ、糖化ヘモグロビンを低下させ、糖尿病により引き起こされる肝−腎疾患を改善させる効果を有し、特には糖尿病の治療に用いられ得る新規のポリペプチドを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第一の目的は、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5及び配列番号6からなる群より選択される配列番号1の部分的アミノ酸配列を有するポリペプチドを提供することである。
【0012】
本発明の他の目的は、IVARPPTIGのアミノ酸配列(配列番号7)又は配列番号7の1つのアミノ酸の置換により生じた相同的アミノ酸配列を有するポリペプチドを提供することであり、該相同的アミノ酸配列は、配列番号8−配列番号178からなる群より選択されるアミノ酸配列である。
【0013】
本発明のさらなる目的は、配列番号179、配列番号180、配列番号181、配列番号182、配列番号183、配列番号184、配列番号185、配列番号186、配列番号187、及び配列番号188からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するポリペプチドを提供することである。
【0014】
本発明のさらなる目的は、RYKYQXYI(配列番号189)のアミノ酸配列又は配列番号189の1つのアミノ酸の置換により生じた相同的アミノ酸配列を有するポリペプチドを提供することであり、Xはシステイン又はトリプトファンであり、Xはフェニルアラニン又はトリプトファンである。
【0015】
本発明のさらなる目的は、上述のポリペプチドをコードする単離された核酸分子を提供することである。
【0016】
本発明のさらなる目的は、有効量の上述のポリペプチド及び薬学的に許容可能なキャリアを含む、インスリン受容体(IR)に結合することができ、血糖を低下させ、糖化ヘモグロビンを低下させ、糖尿病により引き起こされる肝−腎疾患を改善させる効果を有する医薬組成物を提供することである。
【0017】
本発明のさらなる目的は、有効量の上述のポリペプチドを対象に投与することを含む、血糖を低下させること、糖化ヘモグロビンを低下させること、及び糖尿病により引き起こされる肝−腎疾患を改善させることの少なくとも1つのための方法を提供することである。
【0018】
詳細な技術及び本発明のために実施された好ましい実施態様は、この技術分野における当業者が特許請求の範囲に記載された発明の特徴をよく理解できるように、添付された図面とともに後述の段落において記載される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】IRBP−1−68(配列番号1)及びインスリン受容体を示す分子ドッキングイメージの図である。
図2】IRBP−1−68(配列番号1)がインスリン受容体の自己リン酸化を促進することを示す免疫ブロット分析像の図である。
図3】IRBP−1−68(配列番号1)がインスリンシグナル経路関連遺伝子のタンパク質発現を促進することを示すウェスタンブロット分析像の図である。
図4】IRBP−1−68(配列番号1)が3T3−L1脂肪細胞のGLUT4発現を促進することを示す免疫組織化学的染色像の図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のいくつかの実施態様が下記に詳細に開示される。しかしながら、本発明の精神から逸脱することなく、本発明は種々の実施態様において具体化され得、本明細書に記載される実施態様に限定されるべきではない。加えて、本明細書において他に言及のない限り、本明細書において(特に後述の特許請求の範囲において)用いられる“一”、“該”又は同様の用語は、単数形式及び複数形式の両方を包含するように理解されるべきである。
【0021】
本明細書において用いられる“相同的アミノ酸配列”の用語は、本明細書において他に言及のない限り、ポリペプチドのアミノ酸配列において1又は2以上のアミノ酸の置換により生じたアミノ酸配列を意味する。さらに、本明細書において用いられる“相同的ポリペプチド”の用語は、本明細書において他に言及のない限り、ポリペプチドのアミノ酸配列において1又は2以上のアミノ酸の置換により生じたものに相同するポリペプチドを意味する。
【0022】
インスリンのようなリガンドが細胞のインスリン受容体(IR)に結合すると、インスリン受容体の自己リン酸化が引き起こされ、その結果、関連遺伝子の転写及び翻訳を含む下流のシグナル変換反応を誘発し、グルコース輸送を誘発して細胞外グルコース濃度又は血中のグルコース濃度を低下させ血糖の低下作用を実現させる、ということが知られてきた。
【0023】
本発明の発明者らは、配列番号1のアミノ酸配列(全部で68アミノ酸)を有するポリペプチドをさまざまなセグメントに分割し、又はさらに1つ又は複数のアミノ酸の変異技術により前記セグメントを修飾すると、種々のポリペプチドが提供され得ることを見出した。前記ポリペプチドは、インスリン受容体に結合し得、血糖を低下させ、糖化ヘモグロビンを低下させ、及び糖尿病により引き起こされる肝−腎疾患を改善させ得る。特定の理論に縛られるものではないが、本発明のポリペプチドは、インスリン受容体に結合し得、その結果、インスリン受容体の自己リン酸化のメカニズムを誘発し、前述の作用を実現させると考えられる。
【0024】
したがって、本発明は、配列番号1のアミノ酸配列(全部で68アミノ酸)を有するポリペプチドを分割することにより得られ、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5及び配列番号6からなる群より選択された配列番号1の部分的アミノ酸配列を有する第一のポリペプチドを提供する。第一のポリペプチドのアミノ酸配列は好ましくは、配列番号2又は配列番号6のアミノ酸配列である。本明細書において、配列番号2は、配列番号1のアミノ酸配列での1番目−19番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列を表す部分的アミノ酸配列であり;配列番号3は、配列番号1のアミノ酸配列での17番目−35番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列を表す部分的アミノ酸配列であり;配列番号4は、配列番号1のアミノ酸配列での34番目−52番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列を表す部分的アミノ酸配列であり;配列番号5は、配列番号1のアミノ酸配列での45番目−68番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列を表す部分的アミノ酸配列であり;配列番号6は、配列番号1のアミノ酸配列での55番目−68番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列を表す部分的アミノ酸配列である。本明細書において、本発明のポリペプチドは、“インスリン受容体結合タンパク質;IRBP”と称される。例えば、配列番号1に記載される68アミノ酸からなるアミノ酸配列を有する本発明のポリペプチドは、“IRBP−1−68”とされ、配列番号2のアミノ酸(すなわち、配列番号1のアミノ酸配列での1番目−19番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列を表す部分的アミノ酸配列)は、“IRBP−1−19”とされる。
【0025】
本発明はまた、下記のアミノ酸配列又は配列番号7の相同的アミノ酸配列を有する第二のポリペプチドを提供する。
IVARPPTIG(配列番号7)
配列番号7は、配列番号1のアミノ酸配列での60番目−68番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列を表す部分的アミノ酸配列であり(すなわち、IRBP−60−68)、それは配列番号1のアミノ酸配列から生じる。相同的アミノ酸配列は、種々のアミノ酸による配列番号7のアミノ酸配列におけるアミノ酸への1つのアミノ酸の置換技術を行うことにより得られ、配列番号8−配列番号178からなる群より選択されるアミノ酸配列を表す。第二のポリペプチドは好ましくは、配列番号7又は配列番号21のアミノ酸配列である。
【0026】
さらに、本発明はまた、第三のポリペプチドを提供し、それはさまざまなアミノ酸による、IRBP−60−68(配列番号7)での3−6つのアミノ酸へのアミノ酸の変異/置換を行うことにより得られ(すなわち、3−6つのアミノ酸の置換)、配列番号179、配列番号180、配列番号181、配列番号182、配列番号183、配列番号184、配列番号185、配列番号186、配列番号187、及び配列番号188からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する。好ましくは、第三のポリペプチドは、配列番号179、配列番号184、配列番号185、及び配列番号186からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する。
【0027】
本発明はまた、下記のアミノ酸配列又は下記のアミノ酸配列において1つのアミノ酸の置換により生じる相同的アミノ酸配列を有する第四のポリペプチドを提供する。
RYKYQXYI(配列番号189)
はシステイン又はトリプトファンであり、Xはフェニルアラニン又はトリプトファンである。本発明の第四のポリペプチドは、IRBP−60−68(配列番号7)での9つのアミノ酸へのアミノ酸置換を行うことにより得られ、またインスリン受容体に結合して血糖レベルを低下させ得る。
【0028】
本発明の一実施態様において、第四のポリペプチドは、配列番号189のアミノ酸配列を有する。Xは好ましくはシステインであり、Xは好ましくはフェニルアラニン又はトリプトファンである。本発明の他の実施態様において、第四のポリペプチドは、RYKYQCFYI(配列番号191)のアミノ酸配列を有し(すなわち、Xはシステインであり、Xはフェニルアラニンである)、又は配列番号191における1つのアミノ酸の変異/置換より生じる相同的アミノ酸配列を有する。該相同的アミノ酸配列は、配列番号194−配列番号364からなる群より選択されるアミノ酸配列である。
【0029】
本発明の第一−第四のポリペプチドのすべては、インスリン受容体に結合して血糖を低下させ得、ひいては糖尿病(I型糖尿病及びII型糖尿病を含む)を治療し、糖化ヘモグロビンを低下させ糖尿病により引き起こされる肝−腎疾患を改善させるというように糖尿病患者における順次のプロセスを改善させ得る。
【0030】
糖尿病の治療に対する臨床的背景において用いられるインスリン及び台湾特許第I342781号及び日本国特許第4772884号において開示されたIRBP−1−68ポリペプチド(配列番号1)に比して、本発明のポリペプチドは、下記の利点を有する;第一に、本発明のポリペプチドは、より長さの短いアミノ酸配列及び優れた血糖低下活性を有し、その結果、同様の薬剤の効果を提供する一方で、血糖を低下させるポリペプチドの製造コストを低減させ得、患者の経済的負担を低減させる;第二に、本発明のポリペプチドは、より短いアミノ酸配列を有し、より小さい分子量を有し、それは糖尿病患者に投与後より容易に吸収され得、ひいてはそのバイオアベイラビリティを増加させ得、臨床治療に対して優位となる;第三に、本発明の各ポリペプチドは、異なる長さ及び異なる構成のアミノ酸を有し、その結果、各患者の違い(例えば、性別、年齢、症状、疾患コンディション、及び薬剤への反応)に基づいたより柔軟な治療アプローチを提供し得る。
【0031】
本発明のポリペプチドは、植物抽出、人工的合成、遺伝子組み換え技術、又はこれらの組み合わせにより得られ得る。本明細書において人工的合成は、所望のポリペプチドに依存して、アミノ酸が、化学的方法又は化学的合成の原理を適用するペプチド合成機を用いる方法を含む手動の方法により配列において結合され得ることを意味する。したがって、人工的合成の方法は概して、以下の利点を有する:合成プロセスの間容易にポリペプチドの一次構造を変えること、特定のアミノ酸を都合よく付加すること、及びポリペプチドの末端を都合よく修飾することである。
【0032】
本発明のポリペプチドを合成するのに用いられ得る化学的合成方法は、固相の合成方法と液相の合成方法とに分けられ得る。一般に、液相の合成方法では、各アミノ酸の各結合工程後に抽出操作を行う必要がある。加えて、抽出由来のペプチド中間体は通常混合物であるため、クロマトグラフィー精製工程も必要とされる。言い換えると、ポリペプチドを合成するために液相の合成方法を用いることは、高純度の生成物を得るための面倒な抽出及びクロマトグラフィー精製工程を含む。
【0033】
液相の合成方法とは異なり、固相の合成方法は、まったく別の方法で行われる。アミノ酸の結合反応は、溶媒中の固体のポリマー粒子(又はポリマー支持体)上で起こる。この方法において、所望のポリペプチドのN末端アミノ酸は、まずポリマー粒子に共有結合され、次に他のアミノ酸が特定の結合方法で配列に結合される。最終的に、ポリペプチドが完成する。ポリマー粒子は溶媒に溶解されないため、ポリマー粒子(及びポリマー粒子に連結された所望のポリペプチド)は、合成プロセス後の洗浄及びろ過操作により反応試薬及び副産物から分離され得る。すなわち、固相の合成方法においては、全体の合成プロセスの最後で、1つの精製工程のみが必要とされる。すなわち、液相の合成方法とは異なり、固相の合成方法は、比較的利便性がよく、合成時間を著しく低減させることができ、その結果、長鎖ポリペプチドの合成の観点においてより利益が多い。
【0034】
現在、自動的にポリペプチドを合成するための装置が多種開発されてきており、例えば、固相ペプチド合成機、液相ペプチド合成機、マイクロ波ペプチド合成機等である。それらはすべて、要求に応じて、本発明のポリペプチドの合成に対して選択され得る。
【0035】
本発明のポリペプチドはまた、遺伝子組み換え技術により合成され得る。本明細書においては、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターを宿主細胞に導入し、その後ポリヌクレオチドを発現させて本発明のポリペプチドを生成させる。宿主細胞は大腸菌又は酵母であり得、発現ベクターは例えばpQStrep2、pQStrep4、pGEX−6P1、pQTEV等といった購入可能な通常のベクターから選択され得る。
【0036】
さらに、本発明のポリペプチドはまた、植物抽出物から得られ得る。ニガウリ、カカロット(kakorot)、キュウリ、カボチャ、ゴード、スイカ、カラスウリの種子、カラスウリの根、及びこれらの組み合わせといったウリ科由来の植物の抽出物から得られ得る、血糖を調節することのできるいくつかのポリペプチドが存在する。ウリ科由来の植物の抽出物中の血糖を調節することのできるポリペプチドは、すべて相同的ポリペプチドに属することがタンパク質電気泳動により証明されてきた。それにもかかわらず、本発明のポリペプチドはまた、ヒャクニチソウ、タルウマゴヤシ、ぶどう、グレープフルーツ、セイヨウニワトコ、シロイヌナズナ、米、及びこれらの組み合わせといった、ウリ科由来の植物以外の植物から得られ得る。すなわち、本発明のポリペプチドのソースは、ウリ科由来の植物に限定されない。
【0037】
例えば、ニガウリの植物抽出物は、下記の工程により得られ得る。すなわち、本発明のポリペプチドは、植物抽出物を精製することにより(例えば、タンパク質電気泳動又はクロマトグラフィー精製を用いる)得られ得る。まず、ニガウリを溶媒中に浸漬し、粗懸濁液を得る。該溶媒は、リン酸塩緩衝液溶液、クエン酸塩緩衝液溶液、水等であり得る。ニガウリは、ブレンダー又はグラインダーで粉砕され得る。粗懸濁液中の粒子を12,000rpmから15,000rpmの速度で遠心分離機により液相から除去し、その後、上清を0.1μmから0.5μmの孔径のフィルターを用いてろ過する。ろ液をその後30kDaカットオフの薄膜フィルターに通す。最後に、ろ液を収集し、本発明のポリペプチドを含む水溶性のニガウリ抽出物を得る。薄膜フィルターは、Amicon(登録商標)membrane filter、Millipore(登録商標)membrane filter等といった従来の薄膜フィルター製品から選択され得る。その後、所望のポリペプチドをタンパク質電気泳動又はクロマトグラフィー精製といった精製方法を用いることにより単離することができる。得られたポリペプチドを任意に、特定のプロテアーゼにより消化し、所望のポリペプチドセグメントを得ることができる。本明細書において、プロテアーゼに特別な制限はなく、例えば、限定されることなく、セリンプロテアーゼ、スレオニンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ等であってもよい。最後に、保存剤(例えば、安息香酸ナトリウム、サリチル酸等)を任意に加えることができる。ポリペプチドは、−80℃で保存される。
【0038】
本発明のポリペプチドを単離するためにタンパク質電気泳動を用いることにおいて、二次元ゲル電気泳動がポリペプチドを特異的に単離するのに用いられ得る。最初に、上述の水溶性のニガウリ抽出物をタンパク質沈殿させ、その後タンパク質沈殿物を一次元目等電点電気泳動(IEF)する。二日目に、SDS−PAGE(ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動)ゲルを調製し、ゲルスロットに注入し、エタノールを用いて平らにする。20分後、エタノールをゲルスロットから注ぎ出し、ゲル片をIEFで処理し、タンパク質分子量マーカーをサンプルウェルに各々注入する。その後、電気泳動を110ボルトで電流を用いて行う。染料がゲルの底まで動いたら電気泳動を中止する。ゲルをその後ゲル片から取り除き、染色試薬で染色する。その後、ゲル上の染色試薬を、洗浄バッファーを用いることで取り除き、ゲルを脱色バッファーを用いることで脱色する。最後に、9と10との間の等電点の位置、及びゲル上の7kDaから10kDaの分子量の位置のタンパク質のバンドを切り出して収集し、その後、本発明のポリペプチドを得る。
【0039】
さらに、本発明のポリペプチドは、前記の方法の組み合わせにより得られ得る。例えば、所望のポリペプチドのフラグメントをまず遺伝子組み換え又は植物抽出により得ることができ、その後、全長のポリペプチドが人工的合成により得られ得る。
【0040】
本発明のポリペプチドは、血糖を低下させるための医薬を製造するために用いられ得る。したがって、本発明はまた、有効量の本発明のポリペプチド及び薬学的に許容可能なキャリアを含む、血糖を低下させ、糖化ヘモグロビンを低下させ、糖尿病により引き起こされる肝−腎疾患を改善させるための医薬組成物を提供する。本発明の医薬組成物は、獣医学的医薬及びヒトの医薬の両方に用いることができ、それは特に制限されることなく、いかなる適切な形態にもなり得、いかなる適切な方法によっても適用され得る。例えば、消化管においてポリペプチドが酵素により分解されないようにするために、本発明の医薬組成物は、皮下注射又は静脈内注射により投与されてもよく、血液により直接的に放出部位に運ばれる。本発明の医薬組成物が経口投与により投与される場合、医薬組成物は小腸の前半部分において胃酸及び酵素から自身を保護するために、吸収遅延剤を含んでいてもよい。
【0041】
皮下注射、又は静脈内注射に適する製剤のために、本発明の医薬組成物は、等張液、緩衝生理食塩溶液(例えば、リン酸緩衝液又はクエン酸緩衝液)、可溶化剤、乳化剤、及び他のキャリアといった、1又は2以上の添加剤を含有することで、静脈内注射剤、静脈内エマルション注射剤、粉末注射剤、懸濁注射剤、粉末−懸濁注射剤等を製造することができる。
【0042】
経口投与に適する製剤の製造方法に関して、本発明の医薬組成物は、溶媒、油性溶媒、希釈剤、安定化剤、吸収遅延剤、崩壊剤、乳化剤、抗酸化剤、結合剤、滑剤、吸湿剤等といった、本発明のポリペプチドの活性に悪影響を及ぼすことのない薬学上許容し得るキャリアを含有し得る。該医薬組成物は、錠剤、カプセル、顆粒、粉末、流エキス剤、液剤、シロップ、懸濁液、エマルション、チンキ剤等といった、適切なアプローチにより、経口投与に適する剤型に調製され得る。
【0043】
任意に、該組成物の味及び外観を向上させるために、香料添加剤、トナー、着色剤等といった他の添加剤が、本発明の医薬組成物に加えられ得る。製剤の貯蔵性を向上させるために、適切な量の防腐剤、保存料、消毒剤、抗菌剤等もまた加えられ得る。該医薬組成物は任意に、製剤の効果を高め、又は処方への適応性を向上させるために、1又は2以上の他の活性成分を含み得る。例えば、インスリン、α−グルコシダーゼ阻害薬、インスリン増感剤及び他の活性成分といった1又は2以上の活性成分は、その他の活性成分が本発明のポリペプチドに悪影響を及ぼさない限りにおいて、本発明の医薬組成物に包含され得る。
【0044】
本発明のポリペプチドを含む医薬組成物が対象の要求に応じてヒト又は動物の血糖を低下させるために用いられる場合、本発明の医薬組成物は、1日1回、1日数回等といった、種々の投与頻度で適用され得る。例えば、経口投与により糖尿病の治療のためにヒトの身体に適用される場合、該医薬組成物の用量は、本発明のポリペプチドの量に基づき、1日あたり約10mg/kg−体重から約50mg/kg−体重である。注射投与が適用される場合、血糖を低下させるための医薬組成物の1日の有効量は、1ナノモル/kg−体重から5ナノモル/kg−体重である。“mg/kg−体重”又は“ナノモル/kg−体重”の単位とは、体重1kgあたり必要とされる用量を意味する。しかしながら、急性症状の患者では、臨床上の要求に応じて、該用量は数倍又は数十倍に増量され得る。
【0045】
本発明はまた、本発明のポリペプチドをコードする単離された核酸分子を提供する。ポリヌクレオチドは、従来のクローン方法により得られ得る。例えば、ゲノムデオキシリボ核酸をまず植物細胞から抽出することができ、その後ポリメラーゼ鎖反応に対するテンプレートとして用いる。ポリメラーゼ鎖反応が完了後、本発明の単離されたポリヌクレオチドを提供するように生成物を精製する。
【0046】
本発明はさらに、本発明のポリペプチドを対象に投与することを含む、対象において、血糖を低下させ、糖化ヘモグロビンを低下させ、及び糖尿病により引き起こされる肝−腎疾患を改善させるための方法を提供する。該ポリペプチドは、医薬組成物といった、いかなる適切な形態としてでも投与され得る。該医薬組成物の投与形態及び用量は、前述の通りである。本発明のポリペプチドの血糖低下活性に伴い、本発明の方法は、特に糖尿病の治療に有用である。
【0047】
本発明はさらに、下記の通り特定の実施例により詳細に記述される。しかしながら、下記の実施例は本発明を記述するために単に提供されたものにすぎず、本発明の範囲はそれにより限定されない。
【実施例】
【0048】
(調製実施例)
(A)ポリペプチド:添付された配列表において記載されるように、配列番号1−配列番号364のアミノ酸配列を有するポリペプチドは、固相の合成方法により製造された。
【0049】
(B)実験対象:BALB/c(血糖の代謝は正常である)、STZ誘発(ストレプトゾトシン誘発I型糖尿病)、及びob/ob(先天性II型糖尿病)の3種のマウスを用いて実験を行い、それらのマウスは、国立実験動物センター(台湾)により提供された。
【0050】
(実施例1)分子ドッキング分析
分子ドッキングアッセイを、下記の方法により行った:インスリン受容体(PDBコードは、2DTGである)及びインスリン受容体結合タンパク質(すなわち、配列番号1のアミノ酸配列を有するIRBP−1−68ポリペプチド;PDBコードは、1VBWである)のPDBファイルを、タンパク質データバンクのウェブサイトから得た。そして、分子ドッキングソフトウェア(AutoDock、バージョン3.05及び4.0)及びグリッドベースのドッキングプログラムを用いて分子ドッキング分析を行い、それによりリガンド(すなわちIRBP−1−68(配列番号1))とインスリン受容体との間の分子相互作用エネルギー(ファンデルワールス力、反発力、水素結合相互作用エネルギー、クーロン静電エネルギー、及び内部立体エネルギーを含む)を評価した。分析結果を表1に示した。IRBP−1−68(配列番号1)(図1の中央のブロック領域)はインスリン受容体に結合し得ることが示された。
【0051】
(実施例2)インスリン受容体自己リン酸化アッセイ
インスリンといったリガンドが細胞のインスリン受容体に結合すると、インスリン受容体の自己リン酸化が引き起こされ、その結果、関連遺伝子の転写及び翻訳を含む下流のシグナル変換反応が誘発され、グルコース輸送が誘発されて細胞外グルコース濃度又は血中のグルコース濃度が低下し、血糖の低下作用が実現されるということが知られてきた。したがって、本実施例では、IRBP−1−68(配列番号1)がインスリン受容体の自己リン酸化を引き起こすことができるのかについて分析し、その結果IRBP−1−68(配列番号1)がインスリン受容体に結合することができるかを観察するために、インスリン受容体自己リン酸化アッセイを行う。該アッセイは、下記の工程により行われた:ヒトリンパ球細胞株(IM−9)を16時間血清不足下(0.1%BSAで補完されたRPMI培地)におき、その後37℃で15分間IRBP−1−68(配列番号1)で刺激し、冷却PBSで洗浄した。細胞を溶解して、約250mgの全タンパク質を得、免疫沈降を抗インスリン受容体ポリクローナル抗体(C−19)で行った。その後、タンパク質を4℃で2時間、タンパク質G−アガロースビーズ(Gibco−BRL、Gaithersburg、MD)に吸着させ、SDS−PAGEに転換させ、エレクトロブロッティングによりイモビロン−P膜にうつした。膜を4℃で一晩、抗リン酸化チロシン抗体(4G10)でインキュベートし、免疫ブロット分析を行った。結果を図2に示した。図2において、免疫ブロット分析のより広いバンドは、より高いタンパク質発現レベルを表す。加えて、図2の結果は、リン酸化されたインスリン受容体のインスリン受容体に対する比率がIRBP−1−68(配列番号1)濃度の増加に伴い増大したことを示す。
【0052】
図2に示されるように、IRBP−1−68(配列番号1)は、インスリン受容体の自己リン酸化を誘導し得、それはインスリン受容体に結合し得ることが示された。
【0053】
(実施例3)受容体結合アッセイ:IRBP−1−68(配列番号1)
IRBP−1−68(配列番号1)がインスリン受容体に結合し得るのかをさらに確認するために、全細胞の受容体結合アッセイを行った。
【0054】
まず、1.2×10のヒトリンパ球細胞(IM−9)を、インスリン(コントロール)又はIRBP−1−68(配列番号1)で分けて、0.1%ウシ血清アルブミンを含有する1ml PBS中、15分間室温でインキュベートして、競合アッセイを行った。その後、125Iでラベルしたインスリン(20,000cpm/ml)をそれに加え、90分間16℃でインキュベートした。インキュベート後、細胞を氷冷し、4℃で10分間、2000rpmで遠心分離し、ペレットを氷冷した洗浄バッファー(10mmol/L Tris及び150mmol/L NaCl、pH7.6)で2回洗浄した。ペレットをガンマカウンターで計測した。各ポリペプチドに対して少なくとも3回、アッセイを行った。125Iでラベルしたインスリンがインスリン受容体に結合するのを促進する各ポリペプチドの濃度(EC50)を表1に示した。EC50は、50%の125Iでラベルしたインスリンがインスリン受容体に結合するのを促進することのできるポリペプチドの濃度を意味する。EC50値が低いほど、結合促進効果が強いことを表す。
【表1】
【0055】
表1に示されるように、インスリン及びIRBP−1−68(配列番号1)の両方は、125Iでラベルしたインスリンがインスリン受容体に結合するのを効果的に促進させることができる。IRBP−1−68(配列番号1)のEC50は4.15±1.77nMであり、インスリンのそれよりも低い。IRBP−1−68(配列番号1)は、インスリン受容体に結合することができ、インスリンがインスリン受容体に結合するのを促進させる効果においてより優れることが示された。
【0056】
(実施例4)グルコース取り込みアッセイ
血糖調節の鍵となる工程は、脂肪組織が血液からグルコースを取り込むことができ、それにより血糖を低下させることである。したがって、本実施例ではさらにアッセイプラットフォームとして3T3−L1脂肪細胞を用いて、グルコース取り込みアッセイを行った。3T3−L1脂肪細胞を24ウェルプレート中で培養し、4.5時間の飢餓期間後、脂肪細胞を30分間、クレブスリンガー重炭酸塩バッファー(KRB;118mM NaCl、4.7mM KCl、1.3mM CaCl、1.2mM MgSO、1.2mM NaHPO、2%ウシ血清アルブミン、0.5mMグルコース、25mM NaHCO、pH7.4)中で、インスリン無し(ネガティブコントロール群)、1nMインスリン(コントロール群)、及び1nMインスリン+IRBP−1−68(配列番号1)(実験群)に分けてインキュベートした。次に、さらに10分間、[3H]−2−デオキシ−D−グルコース(0.1μCi/アッセイ)を添加した。細胞を氷冷したリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で3回洗浄し、その後0.1%SDS中で可溶化させた。細胞における放射能をシンチレーションカウンターで測定し、結果を表2に示した。
【表2】
【0057】
表2においてインスリンの放射能の比率は、Life Sciences 2004;75:2653−64を参照とした(参照により本明細書に全体的に取り込まれる)。表2に示されるように、インスリン及びIRBP−1−68(配列番号1)の両方は、3T3−L1脂肪細胞のグルコース取り込みを促進させることができる。このアッセイは、IRBP−1−68(配列番号1)が脂肪細胞のグルコース取り込みを促進させることにより血糖低下効果を実現し得ることを示す。
【0058】
(実施例5)マイクロアレイ分析
IRBP−1−68(配列番号1)が3T3−L1脂肪細胞のグルコース取り込みを促進させる潜在的メカニズムを調べるために、マイクロアレイアッセイにより全ゲノムのスキャニングを行った。
【0059】
IRBP−1−68(配列番号1)処理又は非処理の3T3−L1脂肪細胞から、RNeasy Mini kit(Qiagen、Valencia、CA、米国)を用いて全RNAを抽出した。全RNAを、Agilent 2100 bioanalyzer(Agilent Technologies、Santa Clara、CA、米国)を用いて評価した。RNAインテグリティナンバーが8.0以上であるRNAサンプルを選択した。マイクロアレイ分析を過去に開示された通りに行った(Cheng,W.Y.et al.,2009,Comprehensive evaluation of a novel nuclear factor−κB inhibitor,quinoclamine,by transcriptomic analysis.Brit.J.Pharmacol.157(5):746−756;Cheng,H.M.et al.,2010,Application of bioactivity database of Chinese herbal medicine on the therapeutic prediction,drug development,and safety evaluation.J.Ethnopharmacol.132(2):429−437;及びHsiang,C.Y.et al.,2009,Nuclear factor−κB bioluminescence imaging−guided transcriptomic analysis for the assessment of hoist−biomaterial interaction in vivo.Biomaterials 30(17):3042−3049(参照により本明細書に全体的に取り込まれる)を参照のこと)。
【0060】
発現レベルが2倍まで増加又は減少したインスリンシグナル経路関連遺伝子又はアディポサイトカインシグナル経路関連遺伝子の数を計算し、表3に示した。
【表3】
【0061】
表3に示されるように、IRBP−1−68(配列番号1)は、3T3−L1脂肪細胞におけるインスリンシグナル経路関連遺伝子の発現レベルを調節し、脂肪細胞のグルコース取り込みを促進させ血糖低下作用を実現することができる。
【0062】
(実施例6)ウェスタンブロッティング分析
ウェスタンブロッティング法により、インスリンシグナル経路関連遺伝子のタンパク質発現レベルを分析した。
【0063】
3T3−L1脂肪細胞を24時間37℃で培養し、16時間IRBP−1−68(配列番号1)で処理し、氷冷PBSで洗浄後、細胞スクレーパーを用いて収集し、300μlのサンプルバッファー(62.5mM Tris−HCl、pH6.8、2%ドデシル硫酸ナトリウム、10%グリセロール、50mMジチオスレイトール、0.1%ブロモフェノールブルー)で溶解した。細胞溶解液のタンパク質濃度を、Bradford法(Bio−Rad、Hercules、CA、米国)を用いて評価した。タンパク質(10μg)をSDS−PAGEにより分離し、タンパク質のバンドをその後、電気泳動でニトロセルロース膜(Amersham Pharmacia Biotech Inc.,Piscataway、NJ、米国)にうつした。膜をブロッキングバッファー(20mM Tris−HCl、pH7.6、140mM NaCl、0.1% Tween−20、5%スキムミルク粉末)でブロックし、抗−Akt、抗−リン酸化Akt(Ser473)、抗−リン酸化Akt(Thr308)、抗−リン酸化PTEN(phosphatase and tensin homolog deleted on Chromosome ten)(Ser380)、抗−リン酸化GSK−3β(グリコーゲン合成酵素キナーゼ−3β)(Ser9)、抗−リン酸化Raf(Ser259)、抗−リン酸化PDK1(リン酸化イノシチド依存性キナーゼ1)(Ser241)抗体(Cell Signaling Technology、Beverly、MA、米国)で検査した。結果を図3に示した。図3に示される値は、ウェスタンブロッティング分析におけるバンドの強度を表す。より高い値は、標的タンパク質のより高い発現レベルを表す。
【0064】
図3に示されるように、IRBP−1−68(配列番号1)は、PDK−1、リン酸化−AKt(Thr308)、リン酸化−AKt(Ser473)、及びグルコーストランスポーター4(GLUT4)といったインスリンシグナル経路関連遺伝子のタンパク質発現レベルを増加させることができる。このアッセイの結果は、IRBP−1−68(配列番号1)が3T3−L1脂肪細胞におけるインスリンシグナル経路関連遺伝子の発現レベルを調節して、血糖を低下させることができることを示す。
【0065】
(実施例7)免疫化学的分析
免疫化学的分析は、下記の方法で行われた:3T3−L1脂肪細胞を培養し、カバースライドに固定し、4℃で一晩、1:50で希釈したGLUT4に対するマウスモノクローナル抗体(Millipore、Billerica、MA、米国)でインキュベートした。その後、細胞を20分間室温でビオチン化された二次抗体(Zymed Laboratories、South San Francisco、CA、米国)でインキュベートした。その後、スライドをアビジン−ビオチン複合体試薬でインキュベートし、3,3’−ジアミノベンジジン(Histostain(登録商標)−Plus Kit、Zymed Laboratories、South San Francisco、CA、米国)で染色した。結果を図4に示した。
【0066】
図4に示されるように、3T3−L1脂肪細胞の免疫化学的染色の結果はまた、IRBP−1−68(配列番号1)が3T3−L1脂肪細胞のGLUT4発現を促進させ得ることを示す。GLUT4は脂肪細胞においてグルコースを輸送することのできるタンパク質であることが知られてきた。したがって、上述のアッセイは、IRBP−1−68(配列番号1)がGLUT4の発現を増加させることにより脂肪細胞のグルコース輸送を促進させ、その結果、血糖低下作用を実現し得ることを示す。
【0067】
実施例1−7のアッセイは、IRBP−1−68(配列番号1)がインスリン受容体に結合し得、脂肪細胞のグルコース取り込みを促進して血糖を低下させ得ることを示す。
【0068】
(実施例8)受容体結合アッセイ:IRBP−1−68(配列番号1)の部分的アミノ酸配列
表4に示される部分的アミノ酸配列(配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、及び配列番号7)を有するポリペプチドの受容体結合アッセイを、実施例2に記載される方法と同様の実験的方法を用いることにより行った。125Iでラベルしたインスリンのインスリン受容体結合を促進するこれらのポリペプチドの濃度(EC50)を表4に示した。
【表4】
【0069】
表4に示されるように、IRBP−1−68の部分的アミノ酸配列(すなわち、配列番号2−7)を有する本発明のポリペプチドのすべては、インスリンのインスリン受容体結合を促進させる効果を有する。IRBP−1−19(配列番号2)、IRBP−50−68(配列番号6)及びIRBP−60−68(配列番号7)は、より良好な促進作用を有する。
【0070】
このアッセイの結果は、IRBP−1−68(配列番号1)が19アミノ酸(すなわち、IRBP−1−19(配列番号2)及びIRBP−50−68(配列番号6))又はさらに9アミノ酸に分割される場合、それはいまだにインスリン受容体に結合する効果を有することを示す。下記の実験を行って、さらにIRBP−60−68(配列番号7)を分析した。
【0071】
(実施例9)分子ドッキングアッセイ:IRBP−60−68(配列番号7)のアミノ酸配列における1つのアミノ酸の置換により生じた相同的ポリペプチド
表5に示されるように、IRBP−60−68(配列番号7)における1つのアミノ酸の置換により生じた相同的アミノ酸配列(配列番号8−配列番号178)を有するポリペプチドを固相の合成方法により製造し、実施例1に記載の方法と同様の方法により分子ドッキング分析を行った。
【0072】
ポリペプチドとインスリン受容体との間の分子間相互作用エネルギー(ファンデルワールス力、反発力、水素結合相互作用エネルギー、クーロン静電エネルギー、及び内部立体エネルギーを含む)を評価した。7000から8000のスコアを“+”と表記し、8000から9000のスコアを“++”と表記し、9000から10000のスコアを“+++”と表記した。ここで、より高いスコアは、ポリペプチドとインスリン受容体との間のより大きな相互作用エネルギーを表し、より強い結合作用を示唆する。
【表5】
【0073】
表5で示されるように、IRBP−60−68(配列番号7)における1つのアミノ酸の置換により生じた相同的アミノ酸配列(配列番号8−配列番号178)を有するポリペプチドのすべては、異なるレベルのインスリン受容体への結合能を有する。
【0074】
(実施例10)受容体結合アッセイ:IRBP−60−68(配列番号7)のアミノ酸配列における1つのアミノ酸の置換により生じた相同的ポリペプチド
表5で示されるように、配列番号21のアミノ酸配列を有するポリペプチド(すなわち、IRBP−60−68(配列番号7)のアミノ酸配列においてスレオニンをアラニンにより置換することで生じた相同的ポリペプチド;以後“IRBP−MC(配列番号21)”と称する)の受容体結合アッセイを、実施例3で記載される方法と同様の実験的方法を用いることにより行った。結果を表6に示す。
【表6】
【0075】
表6に示されるように、125Iでラベルしたインスリンのインスリン受容体への結合を促進させる、IRBP−60−68(配列番号7)における1つのアミノ酸の置換により生じたIRBP−MC(配列番号21)の濃度は、0.86±0.05(nM)であり、IRBP−60−68(配列番号7)のアミノ酸配列における1つのアミノ酸の置換により生じた相同的ポリペプチドは、いまだインスリン受容体への結合能を有することが示された。
【0076】
加えて、表7に示されるように、IRBP−60−68(配列番号7)のアミノ酸配列における1つのアミノ酸の置換により生じた相同的ポリペプチドをさらに受容体結合アッセイにより分析した。本明細書において、インスリン受容体チロシンキナーゼの活性は、ポリペプチド及びインスリン受容体の結合活性の指標として用いられた。インスリン受容体チロシンキナーゼの活性が高くなると、インスリン受容体へのポリペプチドの結合能が強くなることを表す。
【0077】
インスリン受容体チロシンキナーゼによるポリペプチドの結合能の評価のための実験的手法は、下記の通りである。ポリペプチド及びインスリン受容体を30分間氷浴中に置き、その後等量の2×キナーゼバッファー(50mM HEPES、pH7.6;50mM MgCl;200μM ATP;200mΜ バナジウム酸ナトリウム;5mg/L ポリ(Glu,Tyr);50μCi [γ−32P]ATP/ml)をそれに加えた。サンプルを10分間氷浴中に置いた。その後、TCAをそれに加え、フィルター紙上に基質(ポリ(Glu,Tyr))を沈殿させた。フィルター紙をガンマ線カウンターに置き、インスリン受容体チロシンキナーゼの活性を放射強度より算出した。
【0078】
表7において、各群のポリペプチドは、IRBP−60−68(配列番号7)のアミノ酸配列における特定のアミノ酸の置換により得られるポリペプチドのポリペプチド混合物である。例えば、IRBP−60−68−1@は、IRBP−60−68(配列番号7)のアミノ酸配列における第一のアミノ酸をアルギニン(Arg;R)、アラニン(Ala;A)、バリン(Val;V)、フェニルアラニン(Phe;F)、プロリン(Pro;P)、メチオニン(Met;M)、イソロイシン(Ile;I)、ロイシン(Leu;L);アスパラギン酸(Asp;D)、グルタミン酸(Glu;E)、リシン(Lys;K)、グリシン(Gly;G)、セリン(Ser;S)、スレオニン(Thr;T);チロシン(Tyr;Y)、ヒスチジン(His;H)、システイン(Cys;C)、アスパラギン(Asn;N)、グルタミン(Gln;Q)、又はトリプトファン(Trp;W)により置換することで得られるポリペプチドのポリペプチド混合物を表し、配列番号8、配列番号16、配列番号24、配列番号32、配列番号41、配列番号48、配列番号64、配列番号73、配列番号82、配列番号91、配列番号100、配列番号108、配列番号117、配列番号125、配列番号134、配列番号143、配列番号152、配列番号161、配列番号170のアミノ酸配列を有するポリペプチドを含む。
【表7】
【0079】
表7に示されるように、IRBP−60−68(配列番号7)のアミノ酸配列における特定のアミノ酸の置換により得られるポリペプチドのポリペプチド混合物は、インスリン受容体への結合活性を有する。
【0080】
(実施例11)受容体結合アッセイ:IRBP−60−68(配列番号7)のアミノ酸配列における複数のアミノ酸の置換により生じた相同的ポリペプチド
表8に示されるように、IRBP−60−68(配列番号7)における複数のアミノ酸の変異/置換(3−6アミノ酸の差し替え)により生じた相同的アミノ酸配列を有するポリペプチドを固相の合成方法により製造し、受容体結合アッセイを実施例3に記載と同様の方法で行った。前記相同的ポリペプチドの名称、配列、及びアッセイ結果を、表8に示した。
【表8】
【0081】
表8に示されるように、配列番号179−配列番号188のアミノ酸配列を有するポリペプチドは、インスリンのインスリン受容体への結合を促進する能力を有し、IRBP−60−68(配列番号7)の3−6つのアミノ酸の置換により生じた相同的アミノ酸配列を有する相同的ポリペプチドはいまだ、インスリンのインスリン受容体への結合を促進する作用を有することが示され、IRBP−MT(配列番号179)、IRBP−CM(配列番号184)、IRBP−VV−1(配列番号185)及びIRBP−CP(配列番号186)はより良好な促進作用を有する。
【0082】
(実施例12)受容体結合アッセイ:IRBP−60−68(配列番号7)のアミノ酸配列における複数のアミノ酸の置換により生じた相同的ポリペプチド
実施例1に記載された方法により、9アミノ酸の長さを有し、インスリン受容体へのより良好な結合能を有する4つのポリペプチド(配列番号190−配列番号193のアミノ酸配列を有し、以後IRBP−9A−IRBP−9Dと称する)を、分子ドッキングソフトウェアを用いることでスクリーニングして、分子ドッキング分析を行った。
【0083】
これらのポリペプチドは、RYKYQXYI(配列番号189)の一般配列式を有し、Xはシステイン又はトリプトファンであり、Xはフェニルアラニン又はトリプトファンである。これらのポリペプチドを、実施例10に記載されるような受容体結合アッセイにより分析した。インスリン受容体チロシンキナーゼの活性は、ポリペプチド及びインスリン受容体の結合活性の指標として用いられた。結果を表9に示す。
【表9】
【0084】
表9の結果は、IRBP−9A−IRBP−9D(配列番号190−配列番号193)のポリペプチドがインスリン受容体に結合し得ることを示す。例えば、IRBP−9B(配列番号191)に対して、インスリン受容体チロシンキナーゼの活性は、79.76±5.64(U/ml)までであり得る。
【0085】
(実施例13)分子ドッキングアッセイ:IRBP−9B(配列番号191)のアミノ酸配列における1つのアミノ酸の置換により生じた相同的ポリペプチド
表10に示されるように、IRBP−9B(配列番号191)における1つのアミノ酸の置換により生じた相同的アミノ酸配列(配列番号194−配列番号364)を有するポリペプチドを、固相の合成方法により製造した。分子ドッキング分析を実施例1に記載の方法と同様の方法により行い、リガンド(ポリペプチド)とインスリン受容体との間の相互作用エネルギー(ファンデルワールス力、反発力、水素結合相互作用エネルギー、クーロン静電エネルギー、及び内部立体エネルギーを含む)を評価した。8000から10000のスコアを“+”と表記し、10000から12000のスコアを“++”と表記し、12000から14000のスコアを“+++”と表記した。ここで、より高いスコアは、ポリペプチドとインスリン受容体との間のより大きな相互作用エネルギーを表し、より強い結合作用を示唆する。
【表10】
【0086】
表10に示されるように、IRBP−9B(配列番号191)における1つのアミノ酸の置換により生じた相同的アミノ酸配列(配列番号194−配列番号364)を有するポリペプチドのすべては、異なるレベルのインスリン受容体への結合能を有する。
【0087】
(実施例14)血糖低下アッセイ
IRBP−1−68(配列番号1)、IRBPの部分的アミノ酸配列を有するポリペプチド、及び部分的アミノ酸配列における複数のアミノ酸の置換により生じたポリペプチドを血糖低下アッセイにより分析した。まず、血糖の代謝が正常である3匹のマウス(BALB/c)を18時間絶食させ、一方、3匹の糖尿病マウス(STZ誘発又はob/ob)を4時間絶食させた。表11で示されるポリペプチド(100μl、2.5×10−9モル/体重kg)を腹腔内注射により実験群における各マウスに投与した。コントロール群における各マウスには、100μlの水を投与した。15分後、グルコース溶液(4g/体重kg)を腹腔内注射により正常マウス(BALB/c)に投与し、グルコース溶液(1g/体重kg)を糖尿病マウス(STZ誘発又はob/ob)に投与して、マウスの血糖値を迅速に上昇させた。150分後、血液サンプルをマウスの尾から採り、血糖値をグルコメーター(glucometer)(ACCU−CHEK Advantage、Roche、ドイツ)で測定した。実験群及びコントロール群におけるマウスの血糖値を比較し、分析した。
【表11】
【0088】
表11で示されるように、2.5×10−9モル/体重kgのIRBP−1−68(配列番号1)又はそれから生じた相同的ポリペプチドは、正常マウス及び糖尿病マウスの両方の血糖値を効率的に低下させることができる。BALB/cマウスの群において、IRBP−1−68(配列番号1)、IRBP−50−68(配列番号6)、IRBP−60−68(配列番号7)及びIRBP−9B(配列番号191)のポリペプチドは、約61%から70%の血糖抑制率を達成することができる。STZ誘発マウスの群において、IRBP−1−68(配列番号1)、IRBP−50−68(配列番号6)、IRBP−60−68(配列番号7)、IRBP−9A(配列番号190)、IRBP−9B(配列番号191)、IRBP−9C(配列番号192)及びIRBP−9D(配列番号193)のポリペプチドは、約22%から67%の血糖抑制率を達成することができる。ob/ob又はdb/dbマウスの群において、IRBP−1−68(配列番号1)、IRBP−50−68(配列番号6)及びIRBP−60−68(配列番号7)のポリペプチドは、約33%から55%の血糖抑制率を達成することができる。上述の結果は、IRBP−1−68(配列番号1)、IRBP−1−68(配列番号1)の部分的アミノ酸配列を有するポリペプチド、及び部分的アミノ酸配列における複数のアミノ酸の置換により生じたポリペプチドのすべてが血糖低下作用を有することを示す。
【0089】
(実施例15)糖化ヘモグロビン値アッセイ
糖化ヘモグロビン値(HbA1c)は、生命体の血液中の赤血球に結合しているグルコースの濃度である。一般に、血糖の濃度がより高くなると、糖化ヘモグロビン値がより高くなり、糖化ヘモグロビン値は、糖尿病治療における薬剤の効果を評価するための指標となる。したがって、本実施例では、マウスの血糖値を制御することに対するポリペプチドの効果を、糖化ヘモグロビン値を測定することで評価した。
【0090】
表12で示されるように、IRBP−50−68(配列番号6)及びIRBP−60−68(配列番号7)のポリペプチドを糖尿病マウス(STZ誘発)に投与した。実験群では、ポリペプチド(1×10−6モル/体重kg、20μl)を実験群の各マウスに経口投与した。コントロール群では、各マウスに20μlの水を投与した。糖化ヘモグロビン値を28日後に測定した。
【表12】
【0091】
表12に示されるように、本発明のポリペプチドは、糖尿病マウスの糖化ヘモグロビン値を効果的に低下させることができ、該ポリペプチドはたしかに、糖尿病マウスの血糖値を低下させる効果を有することが示された。
【0092】
(実施例16)肝臓インデックスの評価
肝−腎疾患といった合併症は糖尿病患者においてたいてい発症するため、本実施例では、マウスにおいて糖尿病により引き起こされた肝−腎疾患を制御することに対する本発明のポリペプチドの効果を、肝臓インデックスを測定することで評価した。
【0093】
IRBP−50−68(配列番号6)のポリペプチドを、実施例14で記載される方法と同様の方法により実験群における糖尿病マウスに経口投与させた。28日後、これらのマウスの肝臓インデックス(GOT及びGPT)を測定し、糖尿病マウスにおける糖尿病により引き起こされた肝疾患に対する該ポリペプチドの効果を評価した。結果を表13に示す。
【表13】
【0094】
表13に示されるように、本発明のポリペプチドは、糖尿病マウスの肝臓インデックス(GOT及びGPT)を効果的に低下させることができ、該ポリペプチドは、血糖値を低下させる効果により糖尿病マウスにおける糖尿病により引き起こされた肝疾患を改善させ得ることが示された。
【0095】
(実施例17)腎臓インデックスの評価
IRBP−50−68(配列番号6)及びIRBP−60−68(配列番号7)のポリペプチドを、実施例14で記載される方法と同様の方法により実験群における糖尿病マウスに経口投与させた。28日後、これらのマウスの血中の腎臓インデックス(BUN及びCRE)を測定し、糖尿病により引き起こされた腎疾患に対する該ポリペプチドの効果を評価した。結果を表14に示す。
【表14】
【0096】
表14に示されるように、本発明のポリペプチドは、糖尿病マウスの腎臓インデックス(BUN及びCRE)を効果的に低下させることができ、該ポリペプチドは、血糖値を低下させる効果により糖尿病マウスにおける糖尿病により引き起こされた腎疾患を改善させ得ることが示された。
【0097】
上記の開示は、技術の詳細及び本発明の特徴に関する。本技術分野における当業者であれば、本発明の特性を逸脱することなく、記述された本発明の開示及び示唆に基づき、種々の変更及び置換を行い得る。それにもかかわらず、このような変更及び置換が上記の記述において十分には開示されないが、それらは下記に添えられた特許請求の範囲において実質的にカバーされてきた。
(付記1)
IVARPPTIG(配列番号7)のアミノ酸配列又は配列番号7において1つのアミノ酸の置換により生じた相同的アミノ酸配列を有し、
前記相同的アミノ酸配列は、配列番号8−配列番号178からなる群より選択されたアミノ酸配列である、
単離されたポリペプチド。
(付記2)
配列番号7及び配列番号21からなる群より選択されたアミノ酸配列を有する、付記1に記載のポリペプチド。
(付記3)
配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5及び配列番号6からなる群より選択された、配列番号1の部分的アミノ酸配列を有する、単離されたポリペプチド。
(付記4)
前記配列番号1の部分的アミノ酸配列は、配列番号2又は配列番号6のアミノ酸配列である、
ことを特徴とする付記3に記載のポリペプチド。
(付記5)
配列番号179、配列番号180、配列番号181、配列番号182、配列番号183、配列番号184、配列番号185、配列番号186、配列番号187及び配列番号188からなる群より選択されたアミノ酸配列を有する、単離されたポリペプチド。
(付記6)
配列番号179、配列番号184、配列番号185及び配列番号186からなる群より選択されたアミノ酸配列を有する、付記5に記載のポリペプチド。
(付記7)
RYKYQX1X2YI(配列番号189)のアミノ酸配列又は配列番号189において1つのアミノ酸の置換により生じた相同的アミノ酸配列を有し、
X1は、システイン又はトリプトファンであり、X2は、フェニルアラニン又はトリプトファンである、
単離されたポリペプチド。
(付記8)
配列番号189のアミノ酸配列を有する、付記7に記載のポリペプチド。
(付記9)
X1は、システインである、
ことを特徴とする付記7に記載のポリペプチド。
(付記10)
RYKYQCFYI(配列番号191)のアミノ酸配列又は配列番号191において1つのアミノ酸の置換により生じた相同的アミノ酸配列を有し、前記相同的アミノ酸配列は、配列番号194−配列番号364からなる群より選択されるアミノ酸配列である、
ことを特徴とする付記7に記載のポリペプチド。
(付記11)
付記1乃至10のいずれか1項に記載のポリペプチドをコードする、単離された核酸分子。
(付記12)
有効量の付記1乃至10のいずれか1項に記載の単離されたポリペプチドを含む、血糖を低下させること、糖化ヘモグロビンを低下させること、及び糖尿病により引き起こされる肝−腎疾患を改善させることの少なくとも1つの治療における使用のための医薬組成物。
【0098】
(関連する出願)
本出願は、台湾特許出願101117779(出願日2012年5月18日)に基づく優先権を主張しており、その内容は本明細書に参照として取り込まれる。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]