特許第5676560号(P5676560)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5676560改善されたハロゲンを含まない難燃性ポリアミド組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5676560
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月25日
(54)【発明の名称】改善されたハロゲンを含まない難燃性ポリアミド組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/06 20060101AFI20150205BHJP
   C08K 5/5313 20060101ALI20150205BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20150205BHJP
   C08K 7/14 20060101ALI20150205BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20150205BHJP
【FI】
   C08L77/06
   C08K5/5313
   C08K3/22
   C08K7/14
   C08K3/34
【請求項の数】13
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-504021(P2012-504021)
(86)(22)【出願日】2010年4月8日
(65)【公表番号】特表2012-523469(P2012-523469A)
(43)【公表日】2012年10月4日
(86)【国際出願番号】EP2010054650
(87)【国際公開番号】WO2010115961
(87)【国際公開日】20101014
【審査請求日】2013年3月7日
(31)【優先権主張番号】61/168,035
(32)【優先日】2009年4月9日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502228959
【氏名又は名称】ソルベイ・アドバンスト・ポリマーズ・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100109726
【弁理士】
【氏名又は名称】園田 吉隆
(74)【代理人】
【識別番号】100101199
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 義教
(72)【発明者】
【氏名】ノーフォーク, リンダ エム.
(72)【発明者】
【氏名】クプタ, グレン ダブリュ.
(72)【発明者】
【氏名】ロニー, チャールズ ティー.
【審査官】 武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/107514(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/110480(WO,A1)
【文献】 特開2009−263503(JP,A)
【文献】 特開2004−292532(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00− 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物の総重量を基準として、
40〜85重量%の少なくとも270℃の融点を有する少なくとも1種の半芳香族ポリアミド、
− ホスフィン酸塩、ジホスフィン酸塩およびそれらの縮合生成物からなる群から選択される5〜35重量%の少なくとも1種の有機リン化合物、
.01〜1重量%の酸化カルシウム
を含むポリマー組成物。
【請求項2】
前記組成物の総重量を基準として、5〜25重量%の前記少なくとも1種の有機リン化合物を含有する、請求項1記載のポリマー組成物。
【請求項3】
前記組成物の総重量を基準として、0.05〜重量%の酸化カルシウムを含有する、請求項1又は2に記載のポリマー組成物。
【請求項4】
前記組成物の総重量を基準として、0.15〜1重量%の酸化カルシウムを含有する、請求項に記載のポリマー組成物。
【請求項5】
前記有機リン化合物がホスフィネートである、請求項1〜のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
【請求項6】
前記ホスフィネートがジエチルホスフィン酸アルミニウムである、請求項に記載のポリマー組成物。
【請求項7】
強化材をさらに含む、請求項1〜のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
【請求項8】
前記強化材が、ガラス繊維、鉱物充填剤およびそれらの混合物から選択される、請求項に記載のポリマー組成物。
【請求項9】
前記ガラス繊維が非円形横断面ガラス繊維であり、前記鉱物充填剤がウォラストナイトである、請求項に記載のポリマー組成物。
【請求項10】
前記少なくとも1種の半芳香族ポリアミド、前記少なくとも1種の有機リン化合物および酸化カルシウムが一緒に混合される、請求項1〜のいずれか一項に記載のポリマー組成物の製造方法。
【請求項11】
電気または電子用途における請求項1〜のいずれか一項に記載のポリマー組成物の使用。
【請求項12】
請求項1〜のいずれか一項に記載のポリマー組成物を含む物品。
【請求項13】
コネクタである請求項12に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その全体内容があらゆる目的のために参照により本明細書に援用される2009年4月9日出願の米国仮特許出願第61/168,035号明細書の優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は、一般に半芳香族ポリアミドを含む非ハロゲン化難燃性ポリマー組成物に関連する。より具体的には、本発明は、改善された加工挙動を特徴とするこのような半芳香族ポリアミドを含む難燃性ポリマー組成物に関する。本発明はまた特に、前記難燃性ポリマー組成物の製造法に、ならびに前記組成物でできた物品または物品の部品に関する。本発明の組成物は、溶融加工装置への腐食作用の低下を特徴とする。
【背景技術】
【0003】
半芳香族ポリアミド(フタル酸および脂肪族ジアミンから誘導されるもの、すなわち、ポリフタルアミド、または芳香族ジアミンおよび脂肪族二酸から誘導されるもののような)は、それらを多種多様な異なる用途向けに有用なものにする優れた機械的、物理的および化学的特性を有するポリマーである。
【0004】
特定の最終用途向けには、これらの半芳香族ポリアミド、とりわけ脂肪族ジアミンおよび芳香族二酸から誘導される単位を含むものをベースとする組成物は、高度の難燃性に関するUL94V−0基準を満たすように、難燃化されていることが望ましい。
【0005】
難燃性をポリマーに与えるために一般に用いられる方法は、ハロゲン化難燃剤を組み込むことを含む。
【0006】
しかし、高融点の半芳香族ポリアミドの場合にとりわけ、ハロゲン化難燃剤は、成形温度で熱分解する傾向がある。ハロゲン化難燃剤分解生成物(ハロゲン化水素など)は、配合押出機の表面を腐食し、それから製造された成形品に芳しくない外観を与える。
【0007】
幾つかの試みがこの問題を解決するためにこの十年間に行われた。米国特許第5,773,500号明細書は、ハロゲン化ポリフタルアミド組成物への酸化カルシウムの組み込みがそれらの熱安定性を向上させることを教示している。米国特許第5,773,500号明細書の記載は、ハロゲン化ポリフタルアミドと酸化カルシウム、酸化亜鉛および酸化マグネシウムとのブレンドの分解によって生成するオフガスを分析することによりこれらの酸化物の効果を教示している。表6は、これらの酸化物が使用されないときに臭化水素および塩化水素が多量に生成することを示すと同時に、これらの酸化物が使用されるときにこれらのハロゲン化水素ガスの生成が顕著に低減することを実証している。
【0008】
現行規制の要求および環境を意識した製造業者に適合するため、多大の努力がハロゲン化難燃剤の使用をやめるためにここ数年間に行われた。結果として、幾つかのハロゲンを含まない難燃剤およびハロゲンを含まない難燃化ポリマー組成物が記載されてきた。
【0009】
それ故に、ポリアミドが半芳香族ポリアミドであり、そして難燃剤が、単独でまたはその他の相乗剤と組み合わせて、金属ホスフィネートおよび/またはジホスフィネートである、ハロゲンを含まない難燃化ポリアミド組成物が先行技術に記載されている(たとえば米国特許出願公開第2006/0264542 A1号明細書を参照されたい)。かかる組成物は市販されている。AMODEL(登録商標)HFFR−4133およびIXEF(登録商標)1524銘柄がSolvay Advanced Polymers,L.L.C.によって商品化されている。その他の供給業者は、DuPont製のZytel(登録商標)HTNFR52G30NHおよびEMS製のGrivory(登録商標)HT2V−3XV0などの類似の銘柄を商品化している。しかしながらすべてのこれらのハロゲンを含まない難燃化ポリアミド組成物、および特にポリフタルアミドベースのものは、それらの難燃性特性のために非常に魅力的であるが、別の欠点がある。すなわちそれらの融点は高いため、それらの加工温度(一般に270℃または300℃さえも上回る)で難燃性の金属ホスフィネートおよび/またはジホスフィネート化合物の熱分解を招き、それによってホスフィン酸およびそれらの誘導体から主としてなる分解生成物の形成につながる。それ故、それらは、溶融加工装置において一般に使用される鋼に対して腐食性である。これは、溶融加工装置が定期的に検査される必要があり、かつ、これらの装置の部品が頻繁に交換される必要があるので、メンテナンス費用の上昇につながる。これは最終的に、半芳香族ポリアミドでできた商品の製造コストの上昇をもたらす。
【0010】
この問題に対処するための提案は既に行われてきた。幾つかの材料はこれらの腐食作用を減らすと評価されたが、すべてが腐食を減らさないか、組成物の機械的特性を著しく低下させるかのどちらかの問題を抱えている。国際公開第2009/009360号パンフレットは、溶融加工装置への腐食作用がより低い、6,T/6,6ポリアミド、ホスフィネートおよび/またはジホスフィネート、ベーマイト、ガラス繊維およびホウ酸亜鉛を含むポリアミド組成物を開示している。しかし、これらの組成物には依然として特定の欠点がある。すなわち、ホウ酸亜鉛の存在は健康問題のために回避されるのが好ましく、さらに、酸化アルミニウムベーマイトは、腐食を増進する研磨作用を有する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本出願人は、これらの先行技術の半芳香族ポリアミド組成物への酸化カルシウムの組み込みが半芳香族ポリアミドの機械的特性のレベルを実質的に維持しながら組成物の腐食性を意外にも減らすことを驚くべきことに見いだした。
【0012】
本発明はそれ故、
− 少なくとも270℃の融点を有する少なくとも1種の半芳香族ポリアミド、
− ホスフィン酸塩、ジホスフィン酸塩およびそれらの縮合生成物からなる群から選択される少なくとも1種の有機リン化合物、
− 組成物の総重量を基準として、少なくとも0.01重量%の酸化カルシウム
を含むポリマー組成物を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本説明の目的のためには、用語「半芳香族ポリアミド」は、繰り返し単位のモルの総数を基準として、その繰り返し単位の15モル%超、好ましくは35モル%超、さらにより好ましくは50モル%超、最も好ましくは80モル%超が少なくとも1つのアミド基(−CONH−)と、フェニレン、ナフタレン、p−ビフェニレンおよびメタキシリレンなどの、少なくとも1つのアリーレン基と、アルキレン基などの、少なくとも1つの非芳香族基とを含むあらゆるポリマーと定義されると理解されるべきである。
【0014】
前記繰り返し単位は、とりわけジカルボン酸モノマーとジアミンモノマーとの間の縮合反応によって得ることができる。
【0015】
好ましくは、半芳香族ポリアミドはポリフタルアミドである。
【0016】
本説明の目的のためには、用語「ポリフタルアミド」は、繰り返し単位のモルの総数を基準として、その繰り返し単位の少なくとも35モル%、好ましくは少なくとも50モル%、より好ましくは少なくとも75モル%が少なくとも1種のフタル酸と少なくとも1種のジアミンとの間の重縮合反応によって形成されるあらゆるポリマーと定義されると理解されるべきである。フタル酸としては、オルトフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、およびそれらの混合物のいずれか1つが挙げられる。少なくとも1種のジアミンは有利には、脂肪族ジアミン(たとえば、ヘキサメチレンジアミン、ノナンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、および1,4−ジアミノブタンなどの)、好ましくはC〜C12脂肪族ジアミン、より好ましくはC〜C12脂肪族ジアミン、さらにより好ましくはヘキサ−、デカ−およびドデカメチレンジアミンである。本発明のポリフタルアミドは、上述のフタル酸およびジアミンによって形成されるもの以外のいかなる繰り返し単位も好ましくは含まない。
【0017】
好適なポリフタルアミドは、Solvay Advanced Polymers,L.L.C.からAMODEL(登録商標)ポリフタルアミドとして商業的に入手可能である。
【0018】
本発明によれば、ポリフタルアミドは好ましくはポリテレフタルアミドである。
【0019】
本説明の目的のためには、用語「ポリテレフタルアミド」は、繰り返し単位のモルの総数を基準として、その繰り返し単位の少なくとも35モル%、好ましくは少なくとも50モル%、より好ましくは少なくとも75モル%がテレフタル酸と少なくとも1種の脂肪族ジアミンとの間の重縮合反応によって形成されるあらゆるポリマーと定義されると理解されるべきである。
【0020】
より好ましくは、ポリテレフタルアミドの繰り返し単位は、一方で、テレフタル酸モノマー、また少なくとも1種の脂肪族ジカルボン酸モノマーと、他方で、少なくとも1種の脂肪族ジアミンモノマーおよび任意選択的にさらにイソフタル酸モノマーとの間の重縮合反応によって形成される。有利には、テレフタル酸モノマー(TA)および脂肪族ジカルボン酸モノマー(AA)は、4/1〜0.2/1、好ましくは3/1〜0.5/1、より好ましくは2.2/1〜0.7/1、さらにより好ましくは2/1〜1/1からなるモル比TA/AAでの混合物として一緒に使用されてもよい。
【0021】
好ましいポリテレフタルアミドの群は、テレフタル酸と、少なくとも1種の脂肪族ジカルボン酸と少なくとも1種の脂肪族ジアミンとの間の重縮合反応によって形成される繰り返し単位から本質的になるポリテレフタルアミドである。この実施形態においては、テレフタル酸と脂肪族ジカルボン酸とのモル比は、テレフタル酸について50〜80(55、60、65、70、および75を含めて)および脂肪族二酸について25以下(5、10、15、および20を含めて)であることができる。別の実施形態においては、モル比は、テレフタル酸について35〜65、および脂肪族ジカルボン酸について30〜60であることができる。
【0022】
好ましいポリテレフタルアミドの別の群は、テレフタル酸と、イソフタル酸と、少なくとも1種の脂肪族ジカルボン酸と少なくとも1種の脂肪族ジアミンとの間の重縮合反応によって形成される繰り返し単位から本質的になるポリテレフタルアミドである。この実施形態においては、テレフタル酸と脂肪族二酸とのモル比は、テレフタル酸について50〜80(55、60、65、70、および75を含めて)、イソフタル酸については10〜40(15、20、25、および35を含めて)、および脂肪族ジカルボン酸について25以下(5、10、15、および20を含めて)であることができる。別の実施形態においては、モル比は、テレフタル酸について35〜65、イソフタル酸については20以下、および脂肪族二酸について30〜60であることができる。
【0023】
これらの最後の2つの実施形態においては、脂肪族ジカルボン酸は好ましくはアジピン酸またはセバシン酸、より好ましくはアジピン酸である。また、脂肪族ジアミンは好ましくは3〜12個の炭素原子(ヘキサメチレンジアミン、メチルペンタメチレンジアミンおよびノナンジアミンなどの)、より好ましくは4〜12個、最も好ましくは6、10または12個の炭素原子を含む。優れた結果は、ヘキサメチレンジアミンが使用されたときに得られた。
【0024】
別の好ましい実施形態においては、半芳香族ポリアミドは、一方でテレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸と、他方で少なくとも1種のジアミン、好ましくは脂肪族のものとの間の重縮合反応によって得られる少なくとも50モル%、好ましくは、少なくとも70モル%、100モル%までを含む繰り返し単位のポリアミドである。この群内で、テレフタル酸/イソフタル酸/アジピン酸のモル比は、50〜80/10〜40/25以下であることができる。別の実施形態においては、テレフタル酸/イソフタル酸/アジピン酸のモル比は、35〜65/20以下/30〜60であることができる。好ましい実施形態においては、これらの酸混合物に対するジアミン成分はヘキサメチレンジアミンである。
【0025】
本発明の特定の実施形態においては、ポリフタルアミドを形成するのに使用されるジカルボン酸成分は、少なくとも約50モル%の芳香族基〜約100%の芳香族基の範囲のモル比の芳香族ジカルボン酸を含む。本発明の好ましい実施形態においては、ポリフタルアミドポリマーは、約50モル%〜約95モル%のヘキサメチレンテレフタルアミド単位、約25モル%〜約0モル%のヘキサメチレンイソフタルアミド単位、および約50モル%〜約5モル%のヘキサメチレンアジパミド単位を含む。本発明において使用するための特に好適なポリフタルアミドは、Solvay Advanced Polymers,LLC製AMODEL(登録商標)A−1000、A−4000、A−5000、およびA−6000ポリフタルアミドとして入手可能である。
【0026】
もちろん、2種以上の半芳香族ポリアミドが本発明に従った本組成物に使用されてもよい。
【0027】
本発明の半芳香族ポリアミドの融点は、当業者に公知のあらゆる好適な技法によって測定することができ、それは多くの場合、有利にはASTM D 3418−03を用いて、示差走査熱量測定法によって測定される。正確には、TA InstrumentsモデルQ20 DSC熱量計が、ASTM D 3418−03を用いて半芳香族ポリアミドの融点を測定するために本出願人によって用いられた。
【0028】
半芳香族ポリアミドの融点は、少なくとも270℃の、より好ましくは少なくとも280℃の、さらにより好ましくは少なくとも290℃の、なお一層より好ましくは少なくとも300℃の、最も好ましくは少なくとも310℃のものである。加えて、それは好ましくは高くても370℃の、より好ましくは高くても365℃の、さらにより好ましくは高くても360℃の、最も好ましくは高くても350℃のものである。
【0029】
本組成物の総重量中の半芳香族ポリアミドの重量パーセントは、一般に少なくとも30重量%、好ましくは少なくとも35重量%、より好ましくは少なくとも40重量%、さらにより好ましくは少なくとも45重量%、最も好ましくは少なくとも50重量%である。加えて、本組成物の総重量中の半芳香族ポリアミドの重量パーセントは、一般に多くとも85重量%、好ましくは多くとも80重量%、より好ましくは多くとも75重量%、さらにより好ましくは多くとも70重量%、最も好ましくは多くとも65重量%である。
【0030】
好ましい実施形態においては、本発明によるポリマー組成物は、
− その繰り返し単位の少なくとも35モル%が、2/1〜1/1からなるモル比TA/AAでのテレフタル酸モノマー(TA)と、少なくとも1種の脂肪族ジカルボン酸モノマー(AA)と、少なくとも1種の脂肪族ジアミンモノマーとの重縮合によって形成される少なくとも1種の半芳香族ポリアミド、
− ホスフィン酸塩、ジホスフィン酸塩およびそれらの縮合生成物からなる群から選択される少なくとも1種の有機リン化合物、
− 酸化カルシウム
を含む。
【0031】
述べられたように、本発明に従った組成物は、式(I)のホスフィン酸塩(ホスフィネート)、式(II)のジホスフィン酸塩(ジホスフィネート)およびそれらの縮合生成物からなる群から選択される少なくとも1種の有機リン化合物を含む。
式中:R、Rは同一であるかまたは異なり、C〜Cアルキル(線状もしくは分枝)、またはアリールであり、RはC〜C10アルキレン(線状もしくは分枝)、C〜C10アリーレン、アルキルアリーレンもしくはアリールアルキレンであり、Mは、Mg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Zn、Fe、Zr、Ce、Bi、Sr、Mn、Li、Na、K、またはプロトン化窒素塩基であり、mは1〜4であり、nは1〜4であり、xは1〜4である。
【0032】
式(I)および(II)において、
Mは好ましくはカルシウム、アルミニウムまたは亜鉛であり、
プロトン化窒素塩基は好ましくは、アンモニア、メラミン、トリエタノールアミンのプロトン化塩基、特にNHであり、
同一であるかまたは異なるRおよびRは、好ましくはC〜Cアルキル(線状もしくは分枝)、および/またはフェニル、特に好ましくはメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、第三ブチル、n−ペンチルおよび/またはフェニルである。
【0033】
は好ましくはメチレン、エチレン、n−プロピレン、イソプロピレン、n−ブチレン、第三ブチレン、n−ペンチレン、n−オクチレン、またはn−ドデシレンである。Rの別の好ましい意味はフェニレンまたはナフチレンである。
【0034】
ホスフィネートが有機リン化合物として好ましい。好適なホスフィネートは、米国特許第6,365,071号明細書(その全体内容が参照により本明細書に明確に援用される)に記載されている。特に好ましいホスフィネートは、アルミニウムホスフィネート、カルシウムホスフィネート、および亜鉛ホスフィネートである。優れた結果は、アルミニウムホスフィネートで得られた。アルミニウムホスフィネートのうちで、アルミニウムエチルメチルホスフィネートおよびアルミニウムジエチルホスフィネートが好ましい。優れた結果は、アルミニウムジエチルホスフィネートが使用されたときに特に得られた。
【0035】
非常に多くのポリマーにおいてホスフィネート単独でよりも有機リン化合物としてより有効な作用を有する特定のホスフィネートと窒素含有化合物との相乗的組み合わせ(たとえば、それぞれの全体内容がまた参照により本明細書に明確に援用される米国特許第6,365,071号明細書、米国特許第6,207,736号明細書、米国特許第6,509,401号明細書を参照されたい)もまた本発明に従う。
【0036】
ホスフィネート/ジホスフィネートの難燃作用は、その他の公知の難燃剤、好ましくは窒素含有相乗剤、またはリン/窒素難燃剤との組み合わせによって向上させることができる。
【0037】
窒素含有相乗剤は、ベンゾグアナミン、トリス(ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、アラントイン、グリコールウリル、メラミン、メラミンシアヌレート、ジシアンジアミド、グアニジン、カルボジイミドを好ましくは含む。
【0038】
窒素含有相乗剤は、メラミンの縮合生成物を好ましくは含む。例として、メラミンの縮合生成物は、メレム、メラム、もしくはメロンであるか、またはより高い縮合レベルのこの種の化合物、そうでなければそれの混合物であり、例として、米国特許5,985,960号明細書(その全体内容が参照により本明細書に明確に援用される)に記載されている方法によって製造されてもよい。
【0039】
リン/窒素含有相乗剤は、メラミンとリン酸とのもしくは縮合リン酸との反応生成物を含んでも、またはメラミンとリン酸もしくは縮合リン酸との縮合生成物の反応生成物を含んでも、そうでなければ特定の生成物の混合物を含んでもよい。
【0040】
リン酸とのもしくは縮合リン酸との反応生成物は、メラミンとまたは、メラム、メレム、もしくはメロンなどの、縮合メラミン化合物と、リン酸との反応によって生じる化合物である。例として、これらは、ジメラミンホスフェート、ジメラミンピロホスフェート、メラミンホスフェート、メラミンピロホスフェート、メラミンポリホスフェート、メラムポリホスフェート、メロンポリホスフェート、およびメレムポリホスフェート、ならびに混合ポリ塩、たとえば米国特許第6,121,445号明細書および米国特許第6,136,973号明細書(それぞれの全体内容が参照により本明細書にまた明確に援用される)に記載されているものである。
【0041】
リン/窒素含有相乗剤はまた、リン酸水素アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、またはポリリン酸アンモニウムであってもよい。
【0042】
その他の公知の難燃相乗剤がまた、本発明に従った組成物中に任意選択的に含まれてもよい。このような相乗剤の例としては、シリカ、酸化鉄、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムなどの金属酸化物、水酸化アルミニウム、ベーマイト、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物および水酸化物酸化物、ホウ酸亜鉛、炭酸亜鉛、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、メタホウ酸バリウムなどの金属塩が挙げられる。
【0043】
本発明組成物の総重量中の有機リン化合物の重量パーセントは、一般に少なくとも5重量%、好ましくは少なくとも8重量%、より好ましくは少なくとも10重量%、さらにより好ましくは少なくとも12重量%、最も好ましくは少なくとも13重量%である。加えて、ポリマー組成物の総重量中の有機リン化合物の重量パーセントは、一般に多くとも35重量%、好ましくは多くとも25重量%、より好ましくは多くとも23重量%、さらにより好ましくは多くとも20重量%、最も好ましくは多くとも18重量%である。
【0044】
1種(またはそれ以上)の難燃相乗剤がまた本組成物中に任意選択的に含まれるときに、組成物の総重量中の前記相溶剤の重量パーセントは、一般に少なくとも0.1重量%、好ましくは少なくとも0.5重量%、より好ましくは少なくとも1重量%である。加えて、組成物の総重量中の前記相乗剤の重量パーセントは、一般に多くとも10重量%、好ましくは多くとも5重量%である。
【0045】
上述のように、本発明に従った組成物はまた酸化カルシウムを含む。
【0046】
組成物の総重量中の酸化カルシウムの重量パーセントは、一般に少なくとも0.01、好ましくは少なくとも0.05、より好ましくは少なくとも0.1、さらにより好ましくは少なくとも0.12、最も好ましくは少なくとも0.15重量%である。加えて、ポリマー組成物の総重量中の酸化カルシウムの重量パーセントは、一般に多くとも5、好ましくは多くとも4、より好ましくは多くとも3、さらにより好ましくは多くとも2、最も好ましくは多くとも1重量%である。優れた結果は、組成物の総重量中の酸化カルシウムの重量パーセントが約0.2重量%であったときに得られた。
【0047】
本発明組成物の酸化カルシウムは、約1〜5ミクロンの粒径を好ましくは有する。優れた結果は、約3ミクロンの平均粒径で得られた。本発明組成物の酸化カルシウムの純度は、好ましくは95%より上、より好ましくは95.5%より上である。良好な結果は、96%純度の酸化カルシウムで得られた。
【0048】
本発明に従った組成物は、本明細書においてまとめて原料と呼ばれる、様々なその他のポリマー、添加剤、充填剤などをさらに含有してもよい。組成物の通常の原料としては、タルクおよびシリカなどの微粒子充填剤および核剤、接着促進剤、耐衝撃性改良剤、光安定剤、相溶化剤、硬化剤、滑剤、金属粒子、離型剤、TiOおよびカーボンブラックなどの有機および/または無機顔料、染料、ゴムなどの強靱化剤、可塑剤、帯電防止剤、液晶ポリマーなどの溶融粘度降下剤、核剤などが挙げられる。
【0049】
一般に、組成物の総重量を基準とする、前記任意選択の原料の重量は、有利には50重量%より下、好ましくは30重量%より下、より好ましくは15重量%より下、さらにより好ましくは5重量%より下である。
【0050】
特定の実施形態においては、本発明による組成物は、ガラス繊維、炭素繊維、ポリマー繊維および鉱物充填剤などの、強化材をさらに含んでもよい。強化材は、ガラス繊維、鉱物充填剤およびそれらの混合物から好ましくは選択される。
【0051】
使用されるガラス繊維は、一般に約6〜15μm、好ましくは8〜13μmの直径および50〜500の範囲の、好ましくは150〜400の範囲の長さ対厚さ比を有する。ガラス繊維は、強化剤の縦方向に垂直にあるおよび横断面における最長の直線距離に相当する主軸を有する非円形横断面ガラス繊維であってもよい。非円形横断面は、主軸に垂直の方向に横断面における最長の直線距離に相当する短軸を有する。主軸の長さ対短軸のそれの比は、好ましくは約1.5:1〜約6:1である。この比は、より好ましくは約2:1〜5:1、その上より好ましくは約3:1〜約4:1である。こうして、前記特定の実施形態においては、組成物は、10〜60重量%、特に20〜50重量%の強化剤[すべての百分率は組成物の総重量を基準とする]を含む。
【0052】
鉱物充填剤は好ましくはウォラストナイトである。こうして、前記特定の実施形態においては、組成物は、10〜50重量%、特に20〜40重量%の強化材原料[すべての百分率は組成物の総重量を基準とする]を含む。
【0053】
前記任意選択の追加原料と一緒に本組成物の必須成分は、それらの完全な混合物を提供することを目的とする様々な異なる方法および手順ステップによって半芳香族ポリアミド中へ組み込まれてもよい。たとえば、上述の成分および任意選択の追加原料は、それらを早期段階に、半芳香族ポリアミドの重縮合の開始時にもしくは終了時に、またはその後の配合プロセス中にポリマーに混ぜ込むことによって組み込むことが可能である。特定の方法は、必須成分および任意選択の原料を、ドラムブレンダーなどの、たとえば機械ブレンダーを用いて、適切な割合で、粉末または顆粒形態で乾式混合する工程を含む。混合物は次に、回分式でまたは、混合物をストランドへ押し出し、ストランドをペレットへと細断する、押出機などのような連続装置で溶融される。溶融されるべき混合物はまた、よく知られているマスターバッチ法によって製造されてもよい。連続溶融装置はまた、乾式プレミキシングなしに別々に加えられる組成物の成分および原料を供給されてもよい。
【0054】
少なくとも1種の半芳香族ポリアミド、少なくとも1種の有機リン化合物および酸化カルシウムが一緒に混合される本発明によるポリマー組成物の製造方法を提供することもまた本発明の目的である。
【0055】
本発明はまた、本組成物を含む成形品または成形品の部品に関する。
【0056】
本発明による成形品は有利には、電気コネクタ、すなわち電気回路を結合するための導電性デバイスなどの電気または電子部品である。電気コネクタは、様々な形状および最終用途を有することができる。それらは、ケーブルコネクタ、シングルポイントコネクタ、オスメス・コネクタ、ブレード型コネクタ、円形コネクタ、ミニブリッジ、マキシブリッジ、ピンヘッダー、プラグおよびソケットコネクタ、オスメスUSBコネクタ、カメラレンズホルダー、回路ブレーカーハウジング、可動式電子ハウジング、バッテリーハウジング…からとりわけ選択されてもよい。本発明による組成物は、上述のコネクタのヘッダーの製造のために特に好適である。
【0057】
本発明の別の態様は、したがって電気および電子用途における本発明のポリマー組成物の使用に関する。
【0058】
本発明による成形品は、モールディングによって有利には形成される。様々なモールディング技術が、成形品または成形品の部品を本組成物から形成するために用いられてもよい。本組成物の粉末、ペレット、ビーズ、フレーク、再粉砕材料またはその他の形態が、プレミックスされたまたは別々に供給される、液体またはその他の添加剤ありまたはなしで、成形されてもよい。特定の実施形態においては、本組成物は圧縮成形されてもよい。正確な条件は、小さい試料の試行錯誤成形によって決定されてもよい。温度上限は、熱重量分析などの熱分析から推定されてもよい。温度下限は、たとえば動的熱機械分析(DMTA)、示差走査熱量測定法(DSC)、または同様な方法によって測定されるようなTgから推定されてもよい。本組成物は、射出成形することができる。当業者は、材料の応力緩和特性および溶融粘度の温度依存性を含む、射出成形性に影響を及ぼす因子を認めるであろう。
【0059】
本組成物はまた押し出すことができる。非限定的な例としては、アングル材、チャンネル、六角棒、中空棒、I−ビーム、接合ストリップ、管、矩形管、ロッド、シート、プレート、角棒、正方形管、T字形切断材、薄肉管、マイクロチューブ、ストランド、矩形ストランド、または特定の用途向けに必要とされるようなその他の形状物が挙げられる。ガラスまたは炭素繊維などの、繊維強化材が融解状態で押し出された組成物のマトリックスに連続的に加えられる、引き抜き成形は押出に関係しており、例外的な弾性率および圧縮強度の複合材料が生じるであろう。
【0060】
本発明の別の態様は、少なくとも1種の有機リン化合物、特にホスフィネート、ジホスフィネートおよび/またはそれらの縮合生成物を含む、ハロゲンを含まない半芳香族ポリアミド組成物の腐食作用を、それらの機械的特性、特にそれらの引張特性、燃焼性およびアイゾット衝撃を実質的に維持しながら、減らすための酸化カルシウムの使用に関する。有機リン化合物を含むこれらの半芳香族ポリアミド組成物は好ましくは、本発明による組成物の上記特質をすべて特徴とする。
【0061】
本発明は、非限定的な実施例に言及することによって以下により詳細に記載される。
【実施例】
【0062】
−使用される成分および原料
(1)半芳香族ポリアミド(PA 1)すなわちSolvay Advanced Polymers,L.L.C.によって商品化されている、AMODEL(登録商標)A 4002。ASTM D 3418−03によって測定される330℃に等しい融点を有する、それぞれ、32.5モル%のテレフタル酸および17.5モル%のアジピン酸と50モル%のヘキサメチレンジアミンとの重縮合から生じるポリフタルアミド、
(2)繊維ガラスすなわちSaint−Gobain Vetrotex Americaによって商品化されている、細断した繊維ガラス、直径10μm、長さ4.5mm、銘柄983(SGVA 983)、
(3)難燃剤(FR)すなわちExolit(登録商標)OP 1230、Clariantによって商品化されているアルミニウムジエチルホスフィネート、
(4)滑剤すなわちDow Chemicalによって商品化されている線状低密度ポリエチレン(LLDPE)GRSN−9820、
(5)Mississippi Limeによって商品化されている酸化カルシウム、CA602、中央粒径3ミクロン、
(6)Mitsui Plastics Inc.によって商品化されている酸化マグネシウムKYOWAMAG MF−150、
(7)Rhein Chemie Corporationによって商品化されている酸化亜鉛ZINCOXYD ACTIV 44B、
(8)Baerlocher GmbHによって商品化されているステアリン酸亜鉛、
(9)カラーコンセントレートすなわちClariantから購入される20重量%のVulcan black入りのAMODEL(登録商標)A−1004樹脂である、CONCENTRATE,CARBON BLACK CPTA−00025759。
【0063】
− ポリマー組成物の製造
実施例および比較例のポリマー組成物は、二軸スクリュー押出機での溶融混合によって製造した。ストランドを次に冷却し、切断してペレットにした。
【0064】
− ポリマー組成物の特性
実施例1、2および3(本発明による)のポリマー組成物、ならびに比較例C1、C2、C3、C4、C5によるポリマー組成物を、UL94(Underwriters Laboratories)垂直燃焼(Vertical Burn)試験に基づいて、難燃性について、ISO 527−2 1993(E)(引張)およびISO 180 2000(E)(衝撃強度)によって機械的特性について試験し、分類した。試料を0.8mm厚さの火炎試験片および引張試験片に成形した。火炎試験片を内部UL垂直燃焼スクリーニング試験のために使用した。
【0065】
腐食は、内部成形手順によって測定した。
成形腐食試験
試料の腐食作用は、28mmスクリューを備えたToyo 55成形機で100kgの各試料をランさせることによって測った。成形機にP20鋼でできたチェックリングを備え付けた。このリングの外径を試験前に測定した。試料ランが完了した後、スクリューを解体し、きれいにした。チェックリング外径を、摩耗を測定するために再び測った。径の差を表1に報告する。新しいチェックリングを各試料について使用した。溶融物温度を約335〜338℃に制御した。金型温度は93℃であった。試料は、試験前に0.08%未満の水分に乾燥させた。
【0066】
− 結果
異なるレベルで酸化カルシウムを含有する、すべて本発明による、実施例1、2および3は、燃焼試験中に優れた挙動および成形機のチェックリングで低い腐食作用を示した。それとは反対に、いかなる難燃性化合物もなしの比較例C5は、その燃焼性挙動に関して不満足である一方で、非常に良好な機械的特性および非常に低い腐食作用を予想通り特徴とした。比較例C4は、C5組成物への難燃剤の組み込みがその腐食作用を非常に増加させるのと同時に燃焼性挙動を改善することを示した。酸化亜鉛、酸化マグネシウムおよびステアリン酸亜鉛(比較例C1、C2およびC3における)などの様々な金属化合物の組み込みによってこの問題に対処しようとする試みは、この具体的な問題を解決しなかった。組成物C3は、ステアリン酸亜鉛が既に滑剤として作用しているので、いかなる滑剤も含有しなかった。金属ステアリン酸塩、および特にステアリン酸亜鉛は、酸捕捉剤のように作用することが知られているので、C3が、Exolit(登録商標)の存在ならびに溶融加工中のホスフィン酸およびそれらの誘導体の形成のため、直面する問題への最良の回答であると期待された。しかし、組成物C1、C2およびC3は、実施例1、2および3によって達成された高い機械的特性、良好な燃焼性結果および低い腐食作用要件を同時には満たさなかった。
【0067】
【0068】
参照により本明細書に援用される特許、特許出願、および刊行物のいずれの開示もそれが用語を不明確にする可能性がある程度に本説明と矛盾する場合、本説明が優先するものとする。