(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5676735
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月25日
(54)【発明の名称】エレベータのドア安全装置
(51)【国際特許分類】
B66B 13/26 20060101AFI20150205BHJP
【FI】
B66B13/26 B
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-273041(P2013-273041)
(22)【出願日】2013年12月27日
【審査請求日】2013年12月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】390025265
【氏名又は名称】東芝エレベータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100150717
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 和也
(72)【発明者】
【氏名】石 田 裕
【審査官】
日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−240792(JP,A)
【文献】
特開2012−184071(JP,A)
【文献】
特開2007−015778(JP,A)
【文献】
特開2000−128465(JP,A)
【文献】
特開平10−036046(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 13/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
かごドアの開閉方向と同じ方向に可動に前記かごドアに取り付けられたセフティシューと、前記セフティシューが戸閉方向に押し込まれたときに動作して戸開信号を発生する安全スイッチとを備えたエレベータのドア安全装置において、
エレベータの乗り場から昇降路に吹き込むドラフト風が前記セフティシューを押し込む力を低減し前記安全スイッチの誤動作を抑制する誤動作防止構造を当該セフティシューに設けたことを特徴とするエレベータのドア安全装置。
【請求項2】
前記誤動作防止構造は、前記セフティシューの受けるドラフト風を逃がすために、前記セフティシューの本体に所定の間隔をおいて高さ方向に配列された凸部とその間の凹部とからなることを特徴とする請求項1に記載のエレベータのドア安全装置。
【請求項3】
前記凸部は、前記セフティシューを下向きに押し下げる力が発生する翼型の凸部からなることを特徴とする請求項2に記載のエレベータのドア安全装置。
【請求項4】
前記誤動作防止構造は、セフティシューの戸当たり側の端面下部に形成された開口部と、前記開口部からドラフト風の流れ方向下流側に向かって上り勾配に傾斜して延び前記ドラフト風を拡散させる拡散板からなることを特徴とする請求項1に記載のエレベータのドア安全装置。
【請求項5】
前記誤動作防止構造は、ドラフト風が前記セフティシューを押し込む方向と反対方向の推力を発生する翼形状のセフティシューからなることを特徴とする請求項1に記載のエレベータのドア安全装置。
【請求項6】
かごドアの開閉方向と同じ方向に可動に前記かごドアに取り付けられたセフティシューと、前記セフティシューが戸閉方向に押し込まれたときに動作して戸開信号を発生する安全スイッチとを備えたエレベータのドア安全装置において、
エレベータの乗り場から昇降路に吹き込むドラフト風が前記セフティシューを押し込む力を低減し前記安全スイッチの誤動作を抑制する誤動作防止構造として乗場ドアの目隠し板に高さ方向に複数のスリットを配列したことを特徴とするエレベータのドア安全装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、かごドアにセフティシューを備えているエレベータのドア安全装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高層建物では、エレベータの昇降路を通って上昇気流(ドラフト)が発生する現象が知られている。この現象は、建物内外で温度差の大きい冬期に発生し易い。建物の内側で暖房によって暖められた空気は、外気よりも空気密度が低くなるため、建物を上下に貫通しているエレベータの昇降路が通路となって上昇する。このような上昇気流は、人の出入りが多くしたがって密閉度が低い高層建物に発生し易い。
【0003】
エレベータの昇降路に上昇気流が発生していると、建物の下方階では、ドラフト風と呼ばれる風が、エレベータの乗場から昇降路に向かって吹き込み、逆に上方階では、昇降路からエレベータ乗場に向かって吹き出すことになる。
【0004】
このようなドラフト風は、エレベータのドアの開閉に悪影響を与えることがある。例えば、建物の上方階では、昇降路内からエレベータ乗場側に吹くドラフト風が発生するが、かごドアを全開させる直前においては、かごドアと躯体壁の間をすり抜けるドラフト風となり、かごドアには閉まる方向に押される風圧が作用する。特に、強いドラフト風の場合には、かごドアが開ききらないという問題が発生することがあった。
【0005】
例えば、特許文献1では、ドラフト風を受けてもかごドアが開くように、かごドアパネルの戸袋側の端面に、かごドアの開閉方向に垂直ではなく傾斜面を形成することを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−180133号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
通常、エレベータのかごドアには、ドアが閉じたときに乗客や荷物が挟まれないようにする安全装置として、セフティシューが設けられている。ドアがまさに閉じようとするときに、荷物や乗客が挟まってセフティシューが押し込まれると、安全スイッチが作動し、閉じかけたドアが開くように構成されている。
【0008】
エレベータ乗場で昇降路に向かって、上述したドラフト風が吹き込むと、このドラフト風の風圧によって、セフティシューが押し込まれることがある。状況によっては、閉じかけたドアが再び開いてしまい、戸閉ボタンを押してもドアがなかなか閉まらずに、乗りかごが移動できなくなることがある。
【0009】
このようなドラフト風によるセフティシューの誤動作を防止するために、ドラフト風によって押し込まれないように、セフティシューに重りをつけることが検討されている。
【0010】
しかしながら、セフティシューに重りを付けてしまうと、セフティシューの動作がかなり重くなり、挟まれないように作動すべきときの反応性が低下し、安全上好ましくない。
【0011】
そこで、本発明は、前記従来技術の有する問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、ドラフト風によってかごドアに設けたセフティシューが押されて誤作動することを効果的に抑制できるようにしたエレベータのドア安全装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の目的を達成するために、本発明は、かごドアの開閉方向と同じ方向に可動に前記かごドアに取り付けられたセフティシューと、前記セフティシューが戸閉方向に押し込まれたときに動作して戸開信号を発生する安全スイッチとを備えたエレベータのドア安全装置において、エレベータの乗り場から昇降路に吹き込むドラフト風が前記セフティシューを押し込む力を低減し前記安全スイッチの誤動作を抑制する誤動作防止構造を当該セフティシューに設けたことを特徴とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1実施形態によるエレベータのドア安全装置を示す斜視図である。
【
図2】本発明のドア安全装置が適用されるエレベータドアを上からみた平面図である。
【
図3】本発明の第2実施形態によるエレベータのドア安全装置を示す斜視図である。
【
図4】本発明の第3実施形態によるエレベータのドア安全装置を示す斜視図である。
【
図5】本発明の第4実施形態によるエレベータのドア安全装置を示す斜視図である。
【
図6】本発明の第5実施形態によるエレベータのドア安全装置を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明によるエレベータのドア安全装置の一実施形態について、添付の図面を参照しながら説明する。
第1実施形態
図1は、本発明の第1実施形態によるドア安全装置のセフティシューを示す。
図2は、このドア安全装置が適用されるエレベータドアを上から見た平面図である。
【0015】
図2において、参照番号10は、建物の昇降路壁を示し、参照番号12は昇降路を昇降する乗りかごを示している。
【0016】
エレベータ乗場の開口部には、乗場ドア13が両開き式に設置されている。乗りかご12には、かごドア14が両開き式に設置されている。セフティシュー15は、それぞれかごドアの戸当たり側の端縁部に沿って取り付けられている。なお、
図2において、参照番号16は昇降路壁12と乗場ドア13との間にできる隙間を塞いで見えなくするために乗場ドア13に取り付けられた目隠し板を示している。
【0017】
次に、
図1は、かごドア14に取り付けられているセフティシュー15の構成を示している。セフティシュー15は、上下2箇所でリンク17によって支持されている。これらリンク17による支持構造のため、セフティシュー15は押されると、斜め上方向にスライドする動きをする。
【0018】
閉じかけのドアに乗客や荷物が挟まった場合に、セフティシュー15が所定量押し戻されると作動し戸開信号を出力する安全スイッチ18がかごドア14に配置されている。セフティシュー15が押し込まれると、この安全スイッチ18がONになり、乗場ドア13およびかごドア14が閉じかけであっても戸開するようになっている。
【0019】
ドラフト風が乗場から昇降路側に吹き込んでくると、戸閉途中の乗場ドア13およびかごドア14では、ドラフト風の風圧がセフティシュー15の戸当たり側の端面にかかることになる。このときの風圧を受けてセフティシュー15が押し込まれて安全スイッチ18が誤作動しないように、セフティシュー15には凹部20が複数所定の間隔をおいて形成されており、凹部20と凸部が交互に高さ方向に配列するようになっている。
【0020】
以上のように構成される第1実施形態によれば、凹部20は、セフティシュー15の端面に当たるドラフト風を逃がす通路になる。さらに、のり場から吹き込むドラフト風を受けるセフティシュー15での面積が減少することから、セフティシュー15を押し込む力を低減することができ、安全スイッチ18の誤動作を抑制することが可能になる。
【0021】
第2実施形態
次に、本発明の第2実施形態によるエレベータのドア安全装置について、
図3を参照して説明する。
この第2実施形態は、セフティシュー15にリンク17との連結部の間に広がる凹所21を形成するとともに、この凹所21に複数の翼型凸部22を所定の間隔で上下方向に配列した実施の形態である。
【0022】
通常の翼型は、空気の流れに対して下面が圧力が高く上面が低くなって揚力を生じるが、この実施形態の翼型凸部22の場合は、逆に、ドラフト風による空気の流れに対して、下面が圧力が低く上面が高くなるように、通常の翼型の上下反対の姿勢で取り付けられている。これら複数の翼型凸部22が上下に配列することで、翼型凸部22同士の間にできる空間は、セフティシュー15の端面に当たるドラフト風が逃げる通路になる。
【0023】
以上のように構成される第2実施形態によれば、翼型凸部22同士の間がドラフト風を逃がす通路になり、セフティシュー15を押し込む力が低減される。
さらに、翼型凸部22の翼形状によって、セフティシュー15を下向きに押し下げる力23が発生する。セフティシュー15はドラフト風に押されると、上斜め方向にスライドしようとするが、翼形状によって発生した下向きに押し下げる力によって抑え込まれるので、安全スイッチが誤動作するのを抑制することが可能になる。
【0024】
なお、翼型凸部22の前縁部は丸みを帯びた曲面とすることで、ドラフト風が当たった際の騒音の発生も抑制することができる。
【0025】
第3実施形態
次に、本発明の第3実施形態によるエレベータのドア安全装置について、
図4を参照して説明する。
この第3実施形態は、セフティシュー15の下部においてドラフト風を拡散させるための拡散板26を取り付けた実施形態である。
【0026】
この拡散板26は、ドラフト風の流れ方向の下流側に向かってしだいに高くなるように傾斜している板である。セフティシュー15の戸当たり側の端面下部には、開口部24が形成されている。この開口部24を取込口にして、セフティシュー15の側面と拡散板26によって下流に向かって断面の拡大していく通路が形成されている。
【0027】
以上のように構成される第3実施形態の作用について説明する。ドラフト風がエレベータ乗場から昇降路に吹き込むと、ドラフト風の風圧でセフティシュー15は押されることになる。とりわけドラフト風が強く吹き込んでくる場合には、セフティシュー15の端面下部にある狭い開口部24から入ったドラフト風は拡散板26にそって拡大する通路を流れて流速がさらに増加する。この流速の増加によって、拡散板26の下側では圧力が減少し、拡散板26の上下で圧力差が生じる。この圧力差によって、セフティシュー15を下向きに押さえ込む力23が発生する。
【0028】
他方、セフティシュー15にはドラフト風に押されて、斜め上方向にスライドしようとするが、セフティシュー15そのものには、上記のように下向きに押さえ込む力23が働いているので、セフティシュー15が押し込まれて安全スイッチ誤作動するのを抑制することができる。
【0029】
第4実施形態
次に、本発明の第4実施形態について、
図5を参照して説明する。この第4実施形態は、セフティシュー15の全体がドラフト風を受けて揚力を発生する翼構造をなすように構成した実施形態である。
【0030】
この第4実施形態の場合、ドラフト風を受けてセフティシュー15に発生する揚力をFとすると、この揚力Fは、かごドア14のパネル面に対して平行な成分Fxと垂直な成分Fyに分解できる。このうち、平行な成分Fxがセフティシュー15のドラフト風による押し込む方向とは反対方向の阻止する方向の推力となる。この実施形態では、この平行な推力が発生するように、セフティシュー15の姿勢が設定されている。なお、この実施形態では、セフティシュー15が翼構造になっているが帆の構造にしても同様の推力を得ることが可能である。
【0031】
以上のように構成される第4実施形態の作用について説明する。
ドラフト風が乗場から昇降路に吹き込むと、ドラフト風の風圧でセフティシュー15は押されることになる。とりわけドラフト風が強く吹き込んでくる場合には、セフティシュー15そのものの端面が押されるだけでなく、翼形状のセフティシュー15の全体に揚力Fが生じる。このうち、垂直成分FYは、セフティシュー15が動ける方向に対して垂直であるためセフティシュー15の動きには関与しない。
【0032】
他方、セフティシュー15は、ドラフト風に押されて、斜め上方向にスライドしようとするが、セフティシュー15には、上記のようにセフティシュー15を押し込む力と正反対の揚力Fの平行成分Fxの推力が働いているので、セフティシュー15が押し込まれて安全スイッチ誤作動するのを抑制することができる。
【0033】
第5実施形態
次に、
図6を参照しながら、本発明の第5実施形態について説明する。
これまで説明した第1乃至第4実施形態は、いずれもかごドア14のセフティシュー15自体にドラフト風を受けても押し込まれ難くする構造を設けた実施の形態である。
エレベータ乗場からドラフト風が昇降路側に吹き込んでくると、このドラフト風は、戸閉途中のかごドア14のセフティシュー15だけでなく、乗場ドア13の目隠し板16にも作用する。
【0034】
そこで、第5実施形態では、ホールドア13の裏側に取り付けられ、かごドア14との隙間から昇降路を見えないように隠す目隠し板16にドラフト風を逃がす複数のスリット34を所定の間隔をおいて上下方向に配列するようにした実施形態である。
【0035】
以上のように構成される第4実施形態によれば、スリット34は、セフティシュー15の端面に当たるドラフト風を逃がす通路になり、ドラフト風の力を分散させることから、セフティシュー15を押し込む力を弱めることができ、安全スイッチ18が誤動作するのを抑制することが可能になる。
【0036】
以上、本発明に係るエレベータのドア安全装置について、好適な実施形態を挙げて説明したが、これらの実施形態は、例示として挙げたもので、発明の範囲の制限を意図するものではない。もちろん、明細書に記載された新規な装置、方法およびシステムは、様々な形態で実施され得るものであり、さらに、本発明の主旨から逸脱しない範囲において、種々の省略、置換、変更が可能である。請求項およびそれらの均等物の範囲は、発明の主旨の範囲内で実施形態あるいはその改良物をカバーすることを意図している。
【符号の説明】
【0037】
10…昇降路壁、12…乗りかご、13…乗場ドア、14…かごドア、15…セフティシュー、16…目隠し板、17…リンク、18…安全スイッチ、20…凹部、22…翼型凸部、24…開口部、26…拡散板、34…スリット
【要約】
【課題】ドラフト風によってかごドアに設けたセフティシューが押されて誤作動することを効果的に抑制できるようにする。
【解決手段】本発明の実施形態では、エレベータの乗り場から昇降路に吹き込むドラフト風がセフティシュー15を押し込む力を低減し安全スイッチ18の誤動作を抑制する誤動作防止構造をセフティシュー15に設けている。
【選択図】
図1