(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
【0013】
図1は本発明の実施の形態に係るハイブリッドホイールローダのシステム構成図である。この図に示すホイールローダは、エンジン1と、エンジン1の出力軸に連結された発電電動機(モータ/ジェネレータ(M/G))6と、発電電動機6を制御するインバータ7と、発電電動機6の回転軸に連結された油圧ポンプ4と、バケット及びリフトアーム(図示せず)を有し車体前方に取り付けられた作業装置50と、コントロールバルブ55を介して油圧ポンプ4から供給される圧油によって駆動される油圧アクチュエータ(バケットシリンダ51、リフトシリンダ52及びステアリングシリンダ53)と、4つの車輪61を有する走行体60と、走行体60のプロペラシャフト8に取り付けられ4つの車輪61を駆動する走行用電動機9と、走行用電動機9を制御するインバータ10と、DCDCコンバータ12を介してインバータ7,10と電気的に接続されインバータ7,10との間で直流電力の受け渡しを行う蓄電装置11と、油圧アクチュエータ51,52,53を駆動するための操作信号を操作量に応じて出力する操作装置(操作レバー56及びステアリングホイール(図示せず))と、制御装置200を備えている。
【0014】
バケットシリンダ51及びリフトシリンダ52は、キャブ内に設置された操作レバー56の操作量に応じて出力される操作信号(油圧信号)に基づいて駆動される。リフトシリンダ52は、車体前方に回動可能に固定されたリフトアームに取り付けられており、操作レバー56からの操作信号に基づいて伸縮してリフトアームを上下に回動させる。バケットシリンダ51は、リフトアームの先端に回動可能に固定されたバケットに取り付けられており、操作レバー56からの操作信号に基づいて伸縮してバケットを上下に回動させる。ステアリングシリンダ53は、キャブ内に設置されたステアリングホイール(図示せず)の操舵量に応じて出力される操作信号(油圧信号)に基づいて駆動される。ステアリングシリンダ53は、各車輪61に連結されており、ステアリングホイールからの操作信号に基づいて伸縮して車輪61の舵角を変更する。
【0015】
蓄電装置11としては電気二重層キャパシタを利用することが好ましい。本実施の形態における蓄電装置11は、DCDCコンバータ12によってキャパシタ電圧の昇降圧制御を行い、インバータ7,10(すなわち、発電電動機6及び走行用電動機9)との間で直流電力の受け渡しを行っている。
【0016】
上記のように構成されるハイブリッドホイールローダでは、土砂などの掘削作業を行うための作業装置50に油圧ポンプ4によって適宜油圧を供給することで目的に応じた作業を実施する。また、走行体60の走行動作は、主にエンジン1の動力により発電電動機6で発電した電力を利用し、走行用電動機9を駆動することにより行う。その際、蓄電装置11では、車両制動時に走行用電動機9が発生する回生電力を吸収したり、発電電動機6又は走行用電動機9に蓄電電力を供給することでエンジン1に対する出力アシストを行ったりすることで、車両の消費エネルギー低減に寄与する。なお、本発明が対象とするハイブリッドシステムは、
図1の構成例に限られるものではなく、走行部パラレル型等の多様なシステム構成にも適用可能である。
【0017】
図2は従来のホイールローダの代表的な構成例を示す図である。なお、先の図と同じ部分には同じ符号を付して説明は省略する(後の図も同様とする)。この図に示した従来のホイールローダは、主な駆動部として走行体60と作業装置50(リフト/バケット部分)を備えており、トルクコンバータ(トルコン)2およびトランスミッション(T/M)3を介してエンジン1の動力を車輪61に伝えて走行を行い、さらに油圧ポンプ4によって駆動される作業装置50で土砂等を掘削・運搬する。トルコンの動力伝達効率は電気による動力伝達効率より劣るため、
図2に示したホイールローダの走行駆動部分を電動化(パラレル式ハイブリッド構成も含む)すると、エンジン1からの動力伝達効率を向上させることが可能となる。さらに、作業中のホイールローダでは頻繁に発進・停止の走行動作が繰り返されるため、上記のように走行駆動部分を電動化した場合には走行用電動機9から制動時の回生電力の回収が見込めるようになる。このようにホイールローダの駆動装置の一部を電動化してハイブリッド化すると、一般に燃料消費量を数10%程度低減することができる。
【0018】
図3は本発明の実施の形態に係るホイールローダに搭載された制御装置200の構成図である。この図に示すように、本実施の形態に係るホイールローダ(車両)には、制御装置200として、
図1に示したハイブリッドシステム全体のエネルギーフローやパワーフロー等の制御を行うコントローラであるハイブリッド制御装置20と、コントロールバルブ(C/V)55や油圧ポンプ4を制御する油圧制御装置21と、エンジン1の制御を行うエンジン制御装置22と、インバータ7,10を制御するインバータ制御装置23と、DCDCコンバータ12を制御するコンバータ制御装置24が搭載されている。
【0019】
各制御装置20,21,22,23,24は、処理内容や処理結果が記憶される記憶装置(RAM、ROM等)(図示せず)と、当該記憶装置に記憶された処理を実行する処理装置(CPU等)(図示せず)を備えている。また、各制御装置20,21,22,23,24は、CAN(Controller Area Network)を介して互いに接続されており、相互に各機器の指令値及び状態量を送受信している。ハイブリッド制御装置20は、
図3に示すように、油圧制御装置21、エンジン制御装置22、インバータ制御装置23及びコンバータ制御装置24の各コントローラの上位に位置し、システム全体の制御を行っており、システム全体が最高の作業性能を発揮するように他の各制御装置21〜24に具体的動作の指令を与える。
【0020】
なお、
図3に示した各制御装置20〜24は、
図1に示すハイブリッドシステムの各駆動部分を制御するために必要なコントローラのみを示している。実際車両を成立させる上では、その他にモニタや情報系のコントローラが必要となってくるが、それらは本発明と直接的な関係が無いため図示していない。また、各制御装置20〜24は、
図3に示すように他の制御装置と別体である必要はなく、ある1つの制御装置に2つ以上の制御機能を実装しても構わない。
【0021】
図4は本発明の実施の形態に係るハイブリッド制御装置20内の構成例を示す図である。この図に示すハイブリッド制御装置20は、ハイブリッドシステム全体の制御を行うシステム制御部30と、エンジン1及び蓄電装置11の出力を油圧ポンプ4及び走行用電動機9に分配する動力分配部31と、油圧ポンプ4が要求する動力値(油圧要求動力値Pf)と走行用電動機9が要求する動力値(走行要求動力値Prun)を合計した車両全体における要求動力値(合計要求動力値)に応じて、エンジン1の回転数指令を決定するエンジン制御部32と、発電要求値に応じて発電電動機6のトルク指令を決定するM/G制御部33と、操作レバー56の操作量等から演算された油圧ポンプ4の要求動力値Pfから油圧ポンプ4の傾転角指令値を演算する油圧制御部34と、アクセル/ブレーキペダルの踏み込み量及び現在の車速から演算された走行要求動力値Prunから走行用電動機9のトルク指令を演算する走行制御部35を備えている。
【0022】
ハイブリッド制御装置20には、操作レバー56から出力された操作信号と、キャブ内に設置されたアクセルペダル及びブレーキペダルの踏み込み量と、車両の進行方向として前進又は後退を選択するためのF/Rスイッチ(選択装置)63から出力され当該スイッチ位置(前進又は後退)を示すスイッチ信号(F/R信号)と、速度センサ(車輪速度検出手段)62によって検出された車輪61の回転速度から演算される車両速度(車速)と、インバータ10から出力される走行用電動機9の回転数と、エンジン1の回転数(エンジン回転数)と、蓄電装置11の蓄電量(蓄電装置11の端子電圧及び出力電流)が入力されている。なお、ホイールローダの車速は、速度センサ62の検出値を入力することで、ハイブリッド制御装置20で算出しても良い。
【0023】
上記のように本実施の形態に係るハイブリッドシステムは、車両を駆動するための動力源としてエンジン1及び蓄電装置11を有している。このうち、エンジン1はその時々のエンジンの回転数に応じて出力可能な動力(エンジン出力上限値Pe)が決定され、蓄電装置11はその時々の蓄電量(充電状態)から出力可能な動力(蓄電装置出力上限値Pc)が決定される。すなわち、ハイブリッドシステムはその時々の状態により、出力可能な動力が決まることになる。
【0024】
図5は本発明の実施の形態に係るハイブリッドシステムにおけるパワーフローを示す図である。動力配分部31は、この図に示したように、下記式(1)及び(2)にしたがって、エンジン出力Peと蓄電装置出力Pcを作業装置50の出力Pfと走行用電動機9の出力Prunに分配する処理を行う。なお、下記式(1)及び(2)におけるPmg_in、Pmg_outは、それぞれ発電電動機6の入力パワー及び出力パワーを示している。
【0025】
Pf = Pe − Pmg_in …式(1)
Prun = Pmg_out + Pc …式(2)
ハイブリッド制御装置20は、出力上限値Pe,Pcの和(ハイブリッド出力可能上限値)に対して、作業装置50の動力要求値(油圧要求動力値Pf)と走行用電動機9の動力要求値(走行動力要求値Prun)の和(合計要求動力値)が小さい場合には、システム制御部30において最も燃費が高くなる出力の仕方を判断し、それに応じて動力配分部31で作業装置50および走行電動機9にそれぞれの動力要求値に沿った指令値を与え、車両の動作を行う。
【0026】
ところで、本発明で対象としているホイールローダにはいくつかの基本的動作パターンがあり、ハイブリッド制御装置20はその各動作に応じて車両を最適に稼働させる必要がある。たとえば、最も代表的な作業パターンとしてはVサイクル掘削作業がある。
【0027】
図6はホイールローダの作業パターンの一例であるVサイクル掘削作業を示す図である。このVサイクル掘削作業は実際のホイールローダの作業全体に対して、約7割以上を占める主動作パターンである。ホイールローダはこのとき、まず砂利山などの掘削対象物に対して前進し、砂利山の掘削対象物に突っ込むような形で砂利等の運搬物をバケット内に積み込む。その後、後進して元の位置に戻り、ステアリングホイールを操作しながら、かつリフトアーム及びバケットを上昇させながらダンプトラック等の運搬車両に向かって前進する。そして、バケットをダンプさせて運搬車両に運搬物を積み込んで(放土して)再び後進し、車両は元の位置に戻る。車両は以上の説明のようにV字軌跡を描きながらこの作業を繰り返し行う。このような動作を
図1に示すハイブリッドホイールローダで行う際は、ハイブリッド制御装置20により、ハイブリッドシステム全体で最も燃費および作業効率が高くなるように、エンジン1および蓄電装置11からの出力を作業装置50および走行用電動機9に配分する。以上が、
図1に示すハイブリッドシステムでホイールローダの標準的な動作であるV字サイクル掘削作業を要求動力値通りに行う場合の制御動作である。
【0028】
しかしながら、本実施の形態のハイブリッドシステムにおいて、蓄電装置11が過放電状態であった場合やエンジン1の回転数が所要の回転数より低かった場合には、ハイブリッド出力可能上限値(エンジン出力上限値Peと蓄電装置出力上限値Pcの和)に対して、合計要求動力値(油圧要求動力値Pfと走行動力要求値Prunの和)が上回ることがある。特に、蓄電装置11がキャパシタであって、かつ車両の動作内容が比較的重負荷モードであった場合には、蓄電装置11から電力の出力が繰り返し行われるため、上記のような合計要求動力値に対して、ハイブリッドシステムの出力不足が発生すると考えられる。
【0029】
ここで、ホイールローダは、4つの車輪61で走行しながら、車両のフロント部に取り付けられた作業装置50で掘削作業を実施する建設車両であり、その動作(作業)内容は外部の状況により多岐に渡る。そのため、上記のようなハイブリッドシステムの出力不足が車両の作業性能に影響を及ぼす可能性がある。例えば、作業装置50におけるリフトアームの上昇動作と車両の発進動作を同時に実施する複合動作(発進しながらのリフトアーム上げ動作)においては、ハイブリッド出力可能上限値が合計要求動力値を下回った場合でも、車両が目的の場所まで到達するまでに、必要な高さまでバケットを上昇させることが重要であり、可能な限り作業装置50への出力を優先すること(すなわち、走行用電動機9への出力を制限する)が好ましい。
【0030】
このように、ハイブリッドホイールローダにおいては、蓄電装置11が放電状態であったり、エンジン回転数が所定の回転数よりも低下したりすることで、ハイブリッド出力可能上限値を合計要求動力値が超えるような場合があるが、このような場合においても、その時々の動作内容に応じて、作業装置50と下部走行体60における各駆動部に対して最適な動力を配分することで作業性能を確保することが好ましい。そこで、本実施の形態に係るハイブリッドホイールローダは、このような動作を実現するために、ハイブリッド制御装置20内に動作判定部40と動力制限設定部41を備えている。
【0031】
図7は本発明の実施の形態における動作判定部40と動力制限設定部41の入出力関係を示す図である。ここではまず動作判定部40の構成について説明する。動作判定部40には、車両の動作および作業に関する情報、すなわち、操作レバー56の操作量と、アクセルペダル及びブレーキペダル踏み込み量と、F/Rスイッチ63のスイッチ信号と、走行用電動機9の回転数と、車速が入力されている。動作判定部40は、これらの入力情報に基づいてホイールローダの現在の動作内容を判定する。なお、動作判定部40の動作は車両全体の作業性能に関することから、動作判定部40は
図4に示すようにハイブリッド制御装置20内のシステム制御部30に設けることが好ましい。
【0032】
図8は、本発明の実施の形態に係るホイールローダにおける各基本動作と、当該各基本動作を検出する際に利用する入力情報と、当該各基本動作において制限する要求動力値(走行要求動力値Prun/油圧要求動力値Pf)との対応図である。本実施の形態において挙げる基本動作の種類としては、
(動作1)発進しながらのリフトアーム上げ動作(複合動作):車両を停止状態から発進させながらリフトアームを上昇させる動作、
(動作2)掘削動作:掘削のために車両を土山等の掘削対象に突っ込ませてバケット内に土砂を積み込んだり、土山等の斜面の一部をバケットで掘削しながら当該斜面を登坂してバケット内に土砂を積み込んだりする動作、
(動作3)バケットすくい上げ及びバケットダンプ動作:掘削動作(動作2)の後にバケットをチルトさせつつリフトアームを上昇させてバケットをすくい上げる動作及び当該すくい上げたバケットをダンプして土砂を放出(放土)する動作、
の3種類が主にある。
【0033】
そして、さらに、上記(動作2)は、
(動作2−1)平地掘削初期動作:バケットを土山等の掘削対象に突っ込ませてバケット内に土砂を積み込む動作、
(動作2−2)かき上げ初期動作:土山等の斜面の一部をバケットで掘削しながら当該斜面を登坂してバケット内に土砂を積み込む動作、
の2種類に分けられる。なお、上記における「かき上げ」とは、ホイールローダが砂利・土山等の斜面を登坂しながら当該斜面をバケットで掘削していく動作を示すものとする。
【0034】
また、上記(動作3)は、
(動作3−1)平地掘削後期動作:平地掘削初期動作(動作2−1)で掘削した土砂等をすくい上げ、バケットダンプして放出する動作、
(動作3−2)かき上げ後期動作:かき上げ初期動作(動作2−2)でバケット内に積み込んだ土砂をすくい上げ、バケットダンプして放出する動作、
の2種類に分けられる。すなわち、細かく分類すると5種類の動作がある。
【0035】
なお、当然ながら上記の他にも動作内容は挙げられるが、それらは上記5種類の動作のいずれかに類似する。そのため、他の動作については上記5種類の動作のうち類似するものと同視することで対応するものとする。
【0036】
まず、基本の3種類の動作(動作1、動作2及び動作3)の判定方法を述べる。この3種類の動作は、基本的に、操作レバー56の操作量L及びアクセルペダルの踏み込み量Aの大小で判別が可能である。ここで、操作レバー56の操作量Lにおいて大きい値から順に、第1操作量L1、第2操作量L2と閾値を設定し(L1>L2)、第1操作量L1は最大操作量に近い値とする。また、アクセルペダルの踏み込み量Aにおいて大きい値から順に、第1踏み込み量A1、第2踏み込み量A2と閾値を設定し(A1>A2)、第1踏み込み量A1は最大踏み込み量に近い値とする。さらに、ホイールローダの車速Bにおいて大きい値から順に、第1速度V1、第2速度V2と閾値を設定し(V1>V2)、第2速度V2はゼロ(停止状態)に近い値とする。また、走行用電動機9の回転数Rにおいて大きい値から順に、第1回転数R1、第2回転数R2と閾値を設定し(R1>R2)、第2回転数R2はゼロ(停止状態)に近い値とする。
【0037】
動作1では、車両を停止状態から発進させながらリフトアームを上昇させるため、操作レバー56は最大操作量近く(又は最大操作量)まで操作され、アクセルペダルは最大踏み込み量近く(又は最大踏み込み量)まで踏み込まれる。そこで、動作判定部40は、操作レバー56の操作量が第1操作量L1以上に設定され、かつ、アクセルペダルの踏み込み量が第1踏み込み量A1以上に設定された場合に、動作1が行われていると判定する。また、動作1が行われる際には、車速がゼロから加速される。そのため、さらに正確な動作判定を行う観点から、上記の操作レバー56の操作量及びアクセルペダルの踏み込み量に加えて、車速の変化を検出して動作を判定しても良い。
【0038】
動作2は、バケットに土砂等を積み込み際の動作であるため、バケットをダンプした状態で保持しかつリフトアームを低い位置に保持し、大きな牽引力(走行動力)を発生させて土山に突っ込む。すなわち、動作2では、操作レバー56の操作量は小さく、アクセルペダルの踏み込み量は動作1より小さい傾向があるものの比較的大きくなる。そこで、動作判定部40は、操作レバー56の操作量が第2操作量L2未満に設定され、さらに、アクセルペダルの踏み込み量が第1踏み込み量A1未満かつ第2踏み込み量A2以上に設定された場合に、動作2が行われていると判定する。また、動作2が行われる際には、車速は低速若しくは停止状態となっており、F/Rスイッチ63は前進方向に設定される。そのため、さらに正確な動作判定を行う観点から、上記の操作レバー56の操作量及びアクセルペダルの踏み込み量に加えて、車速の変化とF/Rスイッチ63の状態を検出し、車速がV1以下でかつF/Rスイッチ63が前進方向に設定されている場合に動作2が行われていると判定しても良い。
【0039】
動作3は、動作2で土砂等を積み込んだバケットをチルトさせながらリフトアームを上昇させ、所望の位置でバケットをダンプさせて土砂等を放出する動作である。すなわち、動作3では、操作レバー56はリフトシリンダ52を伸張する方向(リフトアームを上昇させる方向)に操作され、車両はほぼ停止した状態で保持される。そこで、動作判定部40は、動作2が行われたと判定した後であって、操作レバー56の操作量が第1操作量L1未満かつ第2操作量L2以上に設定され、さらに、アクセルペダルの踏み込み量が第2踏み込み量A2未満に設定された場合に、動作3が行われていると判定する。なお、これに代えて、第2操作が行われたと判定した後に、操作レバー56がリフトアームを上昇させる方向に操作された場合に動作3が行われていると判定しても良い。また、動作3が行われる際には、車速はゼロ付近であり、F/Rスイッチ63は前進方向に設定される。そのため、さらに正確な動作判定を行う観点からは、上記の操作レバー56の操作量及びアクセルペダルの踏み込み量に加えて、車速の変化とF/Rスイッチ63の状態を検出し、車速がV2以下でかつF/Rスイッチ63が前進方向に設定されている場合に動作3が行われていると判定しても良い。
【0040】
次に、動作2をさらに2つの動作(動作2−1、動作2−2)に区別する必要がある場合には次のように行う。かき上げ初期動作(動作2−2)は、平地掘削初期動作(動作2−1)と異なり、掘削作業を斜面で行う動作である。そのため、かき上げ初期動作中には、F/Rスイッチ63において車体の進行方向が「前進」に選択されているにもかかわらず車体が一時的に斜面を後退して、F/Rスイッチ63の設定方向と車体が進む方向とが異なる状態が発生する傾向がある。そこで、本実施の形態では、車速の符号とF/Rスイッチ63のスイッチ信号の符号を検出することで、F/Rスイッチ63の設定方向に反して車体が後退しているか否かを判定している。ここでは、車体が前進する場合には車速の符号は正であり、車体が後退する場合には車速の符号は負であるとし、さらに、F/Rスイッチ63が前進方向に設定されている場合のスイッチ信号の符号は正であり、後進方向に設定されている場合のスイッチ信号の符号は負であるとする。そこで、動作判定部40は、動作2が行われていると判定した場合において、さらに、F/Rスイッチ63から出力されるスイッチ信号の符号と車速の符号の不一致が発生する場合には、かき上げ初期動作(動作2−2)が行われており、ホイールローダが斜面で動作していると判定する。一方、両者の符号の不一致が発生しない場合には、動作判定部40は、平地掘削初期動作(動作2−1)が行われており、ホイールローダが平地で動作していると判定する。
【0041】
また、動作3をさらに2つの動作(動作3−1、動作3−2)に区別する必要がある場合には次のように行う。かき上げ後期動作(動作3−2)は、かき上げ初期動作同様に斜面で行う作業である。そのため、平地掘削後期動作(動作3−1)と区別する場合には、動作2と同様に、車速の符号とF/Rスイッチ63の設定方向(スイッチ信号の符号)を検出すれば良い。さらに、かき上げ後期動作の特徴的な点としては、車両が後退しないようにブレーキペダルが踏み込まれてON状態となることがある。そこで、動作判定部40は、動作3が行われていると判定した場合において、F/Rスイッチ63の設定方向(前進)と車速の方向の不一致に加えて、さらに、ブレーキペダルの踏み込みが検出された場合には、かき上げ後期動作が行われていると判定しても良い。
【0042】
上記のように、動作判定部40は、
図8に示す各入力情報に基づいて、ハイブリッドホイールローダの動作内容を判定する。なお、上記では、車速を用いて動作を判定する場合があったが、車速に代えて、走行用電動機9の回転数を検出して
図8に示した基準で各動作を判定しても良い。
【0043】
図7において、動力制限設定部41は、合計要求動力値がハイブリッド出力上限値よりも大きいときには、合計要求動力値がハイブリッド出力上限値内に収まるように油圧要求動力値Pf及び走行要求動力値Prunのいずれか一方を動作判定部40の判定結果に応じて制限する部分である。動力制限設定部41には、動作判定部40で判定された動作内容と、動作判定部40から出力される油圧要求動力値Pf及び走行要求動力値Prunと、エンジン回転数から算出されたエンジン出力上限値Peと、蓄電装置11の蓄電量から算出された蓄電装置出力上限値Pc(キャパシタ出力)が入力されている。なお、本実施の形態における動力制限設定部41は、ハイブリッド制御装置20における動力配分部31内に設置されている。
【0044】
ここで、動作判定部40による判定結果と動力制限設定部41による動力の制限先との関係は
図8の右端欄に示した通りである。すなわち、
(動作1):走行要求動力値Prun、
(動作2):油圧要求動力値Pf、
(動作3):走行要求動力値Prun、
となっている。これは、作業効率を向上させる観点からは、動作1及び動作3では油圧要求動力値Pfを優先することが好ましく、動作2では走行要求動力値Prunを優先することが好ましいからである。
【0045】
例えば、動作1が行われている場合に合計要求動力値がハイブリッド出力上限値よりも大きいときには、動力制限設定部41は、合計要求動力値とハイブリッド出力上限値の差(出力不足分)を演算し、当該不足分を走行要求動力値Prunから減じて、合計要求動力値がハイブリッド出力上限値内に収まるように走行要求動力値Prunを再設定する。
【0046】
次に動作判定部40と動力制限設定部41による処理内容を図を用いて説明する。
図9は本実施の形態における動作判定部40と動力制限設定部41の処理手順を示すフローチャートである。この図に示すように、動作判定部40は、まず、各種信号を入力する(S100)。
【0047】
そして、動作判定部40は、アクセルペダル/ブレーキペダルの踏み込み量、操作レバー56の操作量に基づいて、油圧要求動力値Pfと走行要求動力値Prunを演算する(S101)。S102では、ハイブリッド制御装置20は、エンジン回転数並びに蓄電装置11の端子電圧及び出力電流を入力することにより、エンジン出力上限値Peと蓄電装置出力上限値Pcを演算する。
【0048】
次に、動力制限設定部41は、S103において、油圧要求動力値Pfと走行要求動力値Prunの総和である合計要求動力値と、エンジン出力上限値Peと蓄電装置出力上限値Pcの総和であるハイブリッド出力上限値とを比較し、合計要求動力値がハイブリッド出力上限値を上回っている場合には、動力制限モードに移行してS104に進む。
【0049】
S104において、動作判定部40は、S100で入力した信号に基づいて現在の車両の動作内容が動作1、動作2及び動作3のいずれに該当するかを判定する。ここでの動作判定は、先に説明した
図8の判定方法に基づいて実施され、具体的には
図10に示したフローチャートに基づいて実施される。
【0050】
図10は本実施の形態における動作判定部40の詳細な処理手順を示すフローチャートである。この図に示すように、動作判定部40は、まず、現在のレバー操作量を設定値L1と比較し(S200)、さらに、現在のアクセル踏み込み量を設定値A1と比較する(S201)。その結果、レバー操作量が設定値L1以上かつアクセル踏み込み量が設定値A1以上である場合には、S202にて動作(1)であると判定し、S105(
図9)に移動する。
【0051】
これに対して、S200又はS201において、レバー操作量とアクセル踏み込み量のいずれかが設定値L1あるいはA1未満であると判定された場合には、S203にてレバー操作量と設定値L2を比較する。ここでレバー操作量が設定値L2未満である場合にはS204にてアクセル踏み込み量と設定値A2を比較する。その結果、アクセル踏み込み量が設定値A2以上である場合には、S205にて動作(2)であると判定し、S105に移動する。
【0052】
また、上記動作(2)の判定処理に対して、S203でレバー操作量が設定値L2以上であった場合にはS206に移行し、アクセル踏み込み量と設定値A2を比較する。その結果、アクセル踏み込み量が設定値A2未満である場合には、S207にて動作(3)であると判定し、S105に移動する。
【0053】
ところで、S204でアクセル踏み込み量が設定値A2未満であった場合(すなわち、レバー操作量<L2かつアクセル踏み込み量<A2)、及びS206でアクセル踏み込み量が設定値A2以上であった場合(すなわち、レバー操作量≧L2かつアクセル踏み込み量≧A2)には、レバー操作量とアクセル踏み込み量が同様の比率で操作されているものとみなし、S208にてその他動作として判定する。この場合には、S105において特に油圧要求動力値と走行要求動力値との間に出力の優先度を設定することなく、S106において同様の比率で出力を制限すれば良い。
【0054】
なお、上記のS205及びS207の処理を実施した後には、S105に移動する前に、F/Rスイッチ63のスイッチ信号の符号と現在の車速の符号(車速の検出値の符号)の一致性を確認する処理を実施しても良い(S209,S212)。まず、S209にてスイッチ信号の符号と現在の車速の符号が一致している場合には、S210にて動作(2−1)であると判定する。これに対して、当該2つの符号の不一致が発生した場合には、車両が坂道(斜面)を逆行しているものとし、S211にて動作(2−2)であると判定する。一方、S212にて当該2つの符号が一致している場合には、S213にて動作(3−1)であると判定する。これに対して、当該2つの符号の不一致が発生した場合には、車両が坂道を逆行しているものとして、S214にて動作(3−2)であると判定する。
【0055】
ここで、動作(2)及び動作(3)をさらに平地作業とかき上げ作業とに判別しているが、これは、特にかき上げ作業時には、車両進行方向がF/Rスイッチ63において前進に選択されているにもかかわらず、動力配分の結果により走行用電動機9の出力が不足して車両が後退してしまう状態が発生する可能性があるからである。すなわち、このように車両の逆行(スイッチ信号と車速の符号の不一致)が発生していると判断された場合には、S205又はS207において実行される油圧要求動力値又は走行要求動力値の制限に加えて、車両を後退させないために必要な分(すなわち、車両を前進又は停止させるために必要な分)だけ走行要求動力値を増加しつつ、当該走行要求動力の増加分だけ油圧要求動力値を制限するように制御することが好ましい。すなわち、動作(2−2)及び(3−2)と判定された場合には、S205及びS207で決定した走行要求動力値に対して後退回避に必要な動力値が加算されるとともに、S205及びS207で決定した油圧要求動力値からは当該後退回避に必要な動力値に相当する動力値が減算されることになる。このように制御すると、かき上げ作業時における車両の逆行が抑制されるので、かき上げ作業時の作業効率を向上させることができる。
【0056】
図9に戻り、S105では、S104で判定された動作内容に基づいて動力制限先を決定する。この際の決定方法は、
図8に示した組合せに基づいて行われる。S105において動力制限先が決定したら、S106において動力制限処理を実施する。ここにおける動力制限処理としては、例えば、合計要求動力値とハイブリッド出力上限値との差分を演算し、当該差分に相当する動力をS105で決定した動力制限先から減ずるものがある。動力制限処理が終了したらS100に戻り、S100以降の処理を繰り返す。一方、S103において、ハイブリッド出力上限値が合計要求動力値を上回っている場合には、通常モードとして処理を終了し、S100以降の処理を繰り返す。
【0057】
以上の処理によれば、車両の出力不足時(例えば、作業装置50の負荷が大きい場合や、蓄電装置11の電圧が設定値以下に達して放電状態になっている場合(すなわち、蓄電量が少ない場合))においても、優先的に動力を配分する駆動部分がホイールローダの動作内容に応じて決定され、当該決定された駆動部分に駆動力を最適に配分できるので、車両の作業特性を最大限に引き出すことが可能となる。したがって、本実施の形態によれば、蓄電装置の放電等によりハイブリッドシステムの出力可能上限が合計要求動力値よりも下回る場合においても、高い作業効率を保持することができる。