(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、現行の耐震設計基準は震度5強程度で構造体の損傷を許容し、生命の安全性を確保した設計を行えば倒壊することも許容してきた。震度6を越える巨大地震時に、RC造やS造及びSRC造等の建物が崩壊し、または大きく変形すると共に損傷し、地震後残留変形が残ったままで修復できないという被害が多く発生したという報告があった。
【0006】
本発明は、従来通りに設計されたRC造やS造及びSRC造等のプレストレス(PS)が付与されていない全ての建物に、後からプレストレスを付与し、常時荷重時においては、設計通りの建物として使用される。地震時において、設計で想定以上の巨大地震が発生した場合は、付与されたプレストレスで強度を補って耐震性能をアップさせ、震度7程度まで耐えられるような建造物を提供すること、およびそのプレストレスを簡単に且つ合理的に付与する方法とを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための具体的手段として、本発明に係る第1の発明は、基礎から柱及び梁と
からなるフレーム構造で複数階構築され、
設計でプレストレスが付与されていない建物に
おいて、前記フレーム構造に後からプレストレスを導入する方法であって、前記の所定のフレーム構造とする各階の柱および梁の所要個所に予め緊張材を挿入するシースを埋設して
建物構造を最上階まで構築し、
前記建物構造全体を完成した後に前記シースに緊張材を挿入して該緊張材に緊張導入力を与えて緊張定着することによって所定のフレーム構造にプレストレスを導入して
前記設計以上の耐震性能を付与することを特徴とする構築した建物に後からPS
を導入する方法を提供するものである。
【0008】
上記第1の発明において、前記シースは、柱においては基礎から最上階まで連通させ、梁においては、柱間の全スパンに渡って外周柱面まで連通して配設すること;前記の所定のフレーム構造を少なくとも外周のフレーム構造とすること;前記緊張導入力は、該緊張材の降伏荷重の30〜70%とすること、を含むものである。
【0009】
本発明に係る第2の発明は、基礎から柱及び梁と
からなるフレーム構造で複数階構築され、
設計でプレストレスが付与されていない建物に
おいて、前記フレーム構造に後からプレストレスが導入
された建造物であって、前記の所定のフレーム構造とする各階の柱および梁の所要個所に予め緊張材を挿入するシースを埋設して最上階まで構築し
て建物構造全体を完成した後に、前記シースに緊張材を挿入して該緊張材に緊張導入力を与えて緊張定着することによって所定のフレーム構造にプレストレスを導入して
前記設計以上の耐震性能を付与した構成を特徴とする
構築した建物に後からPS
が導入された建造物を提供するものである。
【0010】
上記第2の発明において、前記建物は、免震構造建物とすること、を含むものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る建造物の建築に後からPS導入方法によれば、建物のフレーム構造とする柱と梁を構築して建物構造全体を完成した後に、緊張材であるPC鋼材を予め所定のフレーム構造とする柱と梁とに埋設したシースに挿入し、緊張材に緊張導入力を与えて緊張定着してプレストレスを建物に導入することにより、従来通りに設計された建物構造は、設計上の耐震性能より全体の耐震性能が大幅に向上される。常時荷重および中小地震時においては、設計した建物構造の耐震耐力で対応し、設計上で想定以上の巨大地震に対しては、導入されたプレストレスで補い、震度5強程度で設計された建物が震度7までの巨大地震にも耐えられるようにすることができるという優れた効果を奏する。
また、導入されたPSの復元力によって地震時の揺れを格段に小さく抑えることができ、地震後、建物が元の状態に戻るから、地震による繰り返しの揺れや変形を抑制するので優れた制震効果が得られる。
【0012】
特に、RC造の建物構造によれば、従来通りのRC造として設計するから、安価で構築することができると共に、RC造建物全体を完成するまで通常長い期間が経過するのでコンクリートの材齢が長くなるから、コンクリート強度を十分に達成させることが確保されると共に、コンクリートの乾燥収縮の進行が概ね完了するから、通常のPC構造に要求される高強度コンクリートを使用せずに、RC造建物に使用する安価な普通のコンクリートを使用すればよいので安価に構築できるし、また、導入されるプレストレス(PS)は、コンクリートの乾燥収縮による損失量を大幅に減らすことができるという種々の優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1の実施の形態として、代表的なRC造建物を示すものであって、PSを付与する前のRC造建物の一部を省略して示した側面図である。
【
図2】同実施の形態に係るRC造建物であって、
図1のA−A線に沿う建物の一部を省略して要部のみを示した平面図である。
【
図3】同実施の形態に係るRC造建物であって、PSを付与する状態で、一部を拡大断面で示すと共に、建造物の一部を省略して示した側面図である。
【
図4】同実施の形態に係るRC造建物であって、
図3のB−B線に沿う建物の一部を省略して要部のみを示した平面図である。
【
図5】本発明の第2の実施の形態に係るRC造建物であって、PSを付与する状態で、一部を拡大断面で示すと共に、建造物の一部を省略して示した側面図である。
【
図6】同実施の形態に係るRC造建物であって、
図5のC−C線に沿う建物の一部を省略して要部のみを示した平面図である。
【
図7】本発明の第3の実施の形態に係るRC造建物であって、PSを付与する状態で建造物の一部を省略して示した側面図である。
【
図8】本発明の第4の実施の形態に係るRC造建物であって、PSを付与する状態で建造物の一部を省略して示した側面図である。
【
図9】同実施の形態に係るRC造建物であって、
図8のD−D線に沿う建物の一部を省略して要部のみを示した平面図である。
【
図10】前記第1の実施の形態に係るRC造建物であって、(a)は柱の断面図、(b)は梁の断面図である。
【
図11】第5の実施の形態として建物は示していないが、鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)であって、(a)は柱の断面図、(b)は梁の断面図である。
【
図12】第6の実施の形態として建物は示していないが、鉄骨造(S造)であって、(a)は柱の断面図、(b)は梁の断面図であり、(c)は鉄骨柱にコンクリートを充填したCFT造の柱の断面図である。
【
図13】前記第1〜4の実施の形態において、建造物の構造に関して、緊張材の配設位置に関する一例を略示的に示した平面図である。
【
図14】前記第1〜4の実施の形態に適用して免震構造の建造物とすることができる第7の実施の形態であって、一部を拡大して示すと共に、建造物の一部を省略して示した側面図である。
【
図15】建物のフレーム構造にプレストレスを付与した場合に、(a)〜(d)は建物のプレストレスによる復元力の制震効果の概念を略示的に示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を図示の複数の実施の形態に基づいて詳しく説明する。
図1〜
図4に示した第1の実施の形態において、例えば、RC造とする建物1は、従来通りの基礎、柱、梁の順序で構築する。例えば、所要間隔で地中に打ち込んで形成した杭基礎2の上に、それぞれ型枠を組み内部に所要の鉄筋を配設し、コンクリートを打設してフーチング3を構築すると共に、各フーチング3間を連結する地中梁4と、フーチング3の上部に柱5とを構築する。これら構築されるコンクリート部材、即ち、フーチング3、地中梁4および柱5を形成する時に、予め緊張材を挿入するための複数のシース6を配設しておくことで、コンクリート部材の内部における所要位置にシース6が埋設される。
【0015】
地中梁4内に配設されるシース6は、一方の側面のフーチング3から他方の側面のフーチング3まで、フーチング3と地中梁4の内部を貫通するように連続させた状態で直線状に配設され、各両側端部に位置するフーチング3の外側側面に緊張材を緊張定着するための鋼管スリーブで形成される定着部7を設ける。
【0016】
また、各柱5に配設されるシース6は、フーチング3から最上階の柱5の上端まで、その内部を貫通するように連続させた状態で直線状に配設され、最上端に緊張材を緊張定着するための鋼管スリーブで形成される定着部7を設け、下端部側のフーチング3内においては、緊張材の下端が固定されるべき手段が設けられる。
【0017】
さらに、各階層の梁8と柱5との連結部分については、前記地中梁4の場合と同様に、梁8の内部に配設されるシース6は、一方の側面の柱5から他方の側面の柱5まで、各柱5と梁8との内部を貫通するように連続させた状態で直線状に配設され、各両側端面の柱5の外側側面に緊張材を緊張定着するための定着部7を設ける。
【0018】
この場合に、梁4、8に対しては、1本のシース6を梁の断面図心に沿って水平に配設し、柱5に対しては、1本のシース6を柱断面図心に配置するものとする。
なお、図示では梁と柱とも断面図心に1本シースを配置することとしているが、これに限ることなく、複数のシースを断面図心の対称位置に配置することとしてもよい。つまり、緊張材図心を柱・梁の断面図心に合わせてなるべく偏心することなく柱・梁の軸方向にPS導入されるように配置することが好ましい。
【0019】
このように基礎上にフーチング3と、地中梁4と、柱5および各階層の梁8との内部にそれぞれシース6を埋め込んだ状態で、現場打ちコンクリートやプレキャストコンクリート方式によりRC造建物1を構築した後に、
図3、
図4に示したように、各シ―ス6内に緊張材9を挿通し、緊張材9の端部において定着部7に設置される定着具を用いて緊張定着して各コンクリート部材の軸芯方向にプレストレスが付与された後に、グラウト10を高圧注入してシース6内に充填する。その結果RC造建物1の所定箇所にプレストレスが導入されることになるのである。
また、複数配置される緊張材の図心を柱・梁部材の断面図心に合わせて配置することにより、部材断面に軸力のみ導入されるから、RC造として設計された部材断面に偏心による複雑な応力が発生しないから、設計内容は簡単に確認することができる。
【0020】
この場合に、梁については横方向からシース6内に緊張材9を挿通し、地中梁4では端部のフーチング3の側面で、梁8では外端の柱6の側面で、緊張材9の端部において定着部7に設置される定着具を用いて緊張定着してコンクリート部材である地中梁4と梁8との軸芯方向にプレストレスが付与された後に、グラウト10を高圧注入してシース6内に充填する。このようにしてコンクリート部材である地中梁4と梁8との軸芯方向にプレストレスが付与されるのである。また、柱5に付いては、最上端からシース6内に緊張材9を挿通し、その緊張材9の先端がフーチング3に埋設されたシース6の先端まで達した後に、シース6に設けているホースで形成されている注入孔13と排出孔(排気孔)11とを用いてシース6内にグラウト10を高圧注入して充満させ、該グラウト10が硬化した後に、最上端の定着部7で緊張材9の上端部を緊張定着して、柱5にプレストレスを付与するのである。要するに、フーチング3内に通常の定着具を使用せずにグラウトの付着力で定着するから、極めて簡単で且つ安価に施工できるのである。
本発明では、上部構造の柱と梁を構築した後にプレストレスを付与することが重要であり、地中梁については、必要に応じて実施することとする。つまり、設計方針及び施工方法により、地中梁にプレストレスを付与しない場合もある。
【0021】
なお、構築された建物1に対して緊張材9を緊張定着する場合に、下層階の地中梁4から上部建物の梁8側への順で緊張定着作業を行い、梁8の緊張材9の緊張作業が終了してから柱5に対する緊張材9の緊張定着作業を行うのである。その理由は、建造物が下層側から構築されるから、下層側のコンクリート部材は、経時によって充分に養生されて硬化しているので、プレストレスを導入しても乾燥収縮等による変形は生じないからである。
また、防錆処理が施されている緊張材、例えば全素線エポキシ樹脂塗装型PC鋼より線(商品名:SC ストランド)を用いれば、上記の緊張定着後のグラウト注入をしなくてもよい。つまり、鋼線で構成されている緊張材の防錆処理の一環を担うグラウト注入作業を省略すれば、現場作業の省力化によってコストを減らすことができる。
【0022】
図5と
図6に示した第2の実施の形態について説明する。この実施の形態に係る建物は、RC造でありながらより一層耐震性に優れた構造とする場合である。そこで、建物1の柱5と地中梁4および上部建物の梁8からなるフレームにおいては、前記第1の実施の形態と柱5および梁4、8に対するシースおよび緊張材の配設構成が異なるのみで、他の構成部分については略同一であるので、同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0023】
即ち、柱5に対しては、4本配置としたシース6の下端部は、フーチング3の側面に設けた箱抜き凹部12に開口させ、上端部は最上階の柱5の上端まで連続させて直線状に延ばして配設し、その最上端において緊張材9を緊張定着するための定着部7を設ける。そして箱抜き凹部12は、アンカーヘッド等の定着具の格納スペースとなるので実質的に箱抜き定着部7ということができる。また、梁4、8に対しては、2本配置としたシース6を平行に配設し、その両端部は、前記第1の実施の形態と同様に、各両側端部に位置するフーチング3の外側側面、および各両側端面の柱5の外側側面に、夫々緊張材を緊張定着するための鋼管スリーブで形成される定着部7を設けてある。
【0024】
そして、前記第1の実施の形態と同様に、下層階の地中梁4および上部建物の梁8側から緊張定着作業を行い、梁8の緊張材9の緊張作業が終了してから柱5に対する緊張材9の緊張定着作業を行うのである。その理由は、建造物が下層側から構築されるから、下層側のコンクリート部材は、経時によって充分に養生されて硬化しているので、プレストレスを導入しても支障は生じないからである。このようにコンクリート部材の軸芯方向にプレストレスが付与され、その結果RC造建物1の全体にプレストレスが導入されることになるのである。但し、この順序に限定されることなく、全体の施工工程によって、先に柱5に対して緊張定着作業を行い、その後、下層階の梁4から上層階の梁8への順で緊張定着してもよい。
【0025】
前記第1〜2の実施の形態において、箱抜き定着部と鋼管スリーブの定着部7の先端にそれぞれアンカープレートを配置し、鋼管スリーブ内にアンカーヘッド等の定着具を配置して定着すること、これらを含めて定着部7と称しているのである。
【0026】
さらに、前記第1〜2の実施の形態にも適用できる柱と梁との実施例について説明する。つまり、RC造建物1が中・高層建造物、および/または横長の大きい(広い)建造物になった時に、適用できる技術である。
【0027】
まず、
図7に示した第3の実施の形態に係る柱5について説明する。
RC造とする建物1が中・高層になった時に、柱5の高さ(長さ)が高く(長く)なるので、内部に埋設されるシース6や緊張材9もそれに合わせて長尺のものが必要になり、これら材料を一本ものにすると取り扱いが必然的に厄介になると共に、作業上で支障を来す虞があるばかりでなく、距離が長過ぎてフレーム構造のコンクリート部材に均等なプレストレスを付与できないのである。
【0028】
そこで、建物1が中・高層建物の場合には、柱5に対して複数本の緊張材を挿通する位置で、所要中間層の柱5の側面に所要間隔をおいて、向かい合う方向に定着部7となるそれぞれ一対の箱抜き凹部12を設け、シース6の配置は基礎となるフーチング3から所要中間層の上側の箱抜き凹部12までと、所要中間層の下側の箱抜き凹部12から最上階まで延長して配置する。この場合に、所要中間層におけるシース6の端部はオーバーラップする。要するに、柱5が長い場合には、緊張材9は基礎から最上階まで連続的に一本ものとせずに所要中間層でラップジョイントとすることができる。なお、建物の高さによって、所要中間層を1個所だけでなく、同じ要領で複数個所設けることができる。また、緊張材9の下端部は、前記第1の実施の形態と同様に、注入孔13と排出孔11とを用いてシース6内にグラウト10を高圧注入して充満させ、該グラウト10が硬化した後に緊張定着するのである。
【0029】
また、
図8と
図9に示した第4の実施の形態に係る梁4、8について説明する。
RC造とする建物1が横長の大きい(広い)建造物になった時に、建物の一側端から他側端までの柱間の全スパンに渡る梁4、8の数が多くなるので、内部に埋設されるシース6や緊張材9もそれに合わせて長尺のものが必要になり、これら材料を一本ものにすると取り扱いが必然的に厄介になると共に、作業上で支障を来すばかりでなく、距離が長過ぎてフレーム構造のコンクリート部材に均等なプレストレスを付与できないのである。
【0030】
そこで、建物1が横長の大きい(広い)建造物になった場合には、梁4、8に対して緊張材を挿通する位置で、横長の所要中間スパンの梁4、8の上面に所要間隔をおいて、向かい合う方向に定着部7となるそれぞれの所要定着数(図示では1個)の箱抜き凹部12を設け、シース6の配置は建物の一方の側端からから中間スパン梁4、8の右側箱抜き凹部12までと、中間スパン梁4、8の左側の箱抜き凹部12から建物の他方の端部まで延長して配置する。この場合に、中間スパン梁4、8におけるシース6の端部はオーバーラップする。要するに、建物の横長が大きい場合には、建物の一側端から他側端までの梁の本数が多くなるので、緊張材9は一側端から他側端まで連続的に一本ものとせずに所要中間スパン梁4、8でラップジョイントとすることができる。なお、建物の長さによって、所要中間スパンを1個所だけでなく、同じ要領で複数個所設けることができる。
【0031】
いずれにしても、前記した第3の実施の形態に係る柱5と第4の実施の形態に係る梁4、8は、建造物の高さおよび広さが大きい場合に、前記第1〜2の実施の形態の方法に適用できるのであり、それによって、フレーム構造のコンクリート部材にプレストレスを効果的に付与することができるのである。また、使用される緊張材としては、PC鋼より線、PC鋼線のいずれでも良く、RC造とする建物1として使用コンクリートについては、普通のコンクリートから高強度コンクリートまでのいずれとしてもよい。特に、普通のコンクリートの場合は、コンクリートの設計強度F=250N/mm
2以上とすることが望ましい。また、実施の形態では基礎杭として説明したが、これに限定されることなく、例えば、ベタ基礎、布基礎等様々な基礎であってもよい。
【0032】
また、前記した第1〜4の実施の形態では、いずれも上部構造をRC造として説明したが、これに限ることなく、例えば、プレストレスが付与されていないSRC造、S造またはCFT造としてもよいのである。
そこで、RC造の柱と梁については、
図10に示したように、それらの断面が、柱5については、(a)に示したように、柱5の断面図心にシース6と緊張材9とが埋設されて緊張定着され、梁4、8については、(b)に示したように、梁4、8の断面図心にシース6と緊張材9とが埋設されて緊張定着されると共に、梁の上面にスラブ14が一体的に形成されて建造物が構築される。
【0033】
また、建造物として図示していないが、
図11に示すように、第5の実施の形態として、SRC造のフレーム構造である柱と梁については、(a)に示したように、柱5には内蔵鉄骨15と複数のシース6と緊張材9とが埋設されて緊張定着され、梁4、8についても、(b)に示したように、内蔵鉄骨15と複数のシース6と緊張材9とが埋設されて緊張定着されると共に、梁の上面にスラブ14が一体的に形成されて建造物が構築される。
【0034】
さらに、同様に建造物として図示していないが、
図12に示すように、第6の実施の形態として、S造のフレーム構造である柱と梁については、(a)に示したように、角筒鋼管とする鉄骨柱5の内部中心にはシース6と緊張材9とが配設されて緊張定着され、梁8とするH鋼の鉄骨梁20については、(b)に示したように、鉄骨梁20の断面両側に設けているスチフナ21に貫通するシース6と緊張材9とが配設されて緊張定着されると共に、梁の上面に合成スラブ16が形成されて建造物が構築される。なお、鉄骨柱5内には、(c)に示したように、シース6と緊張材9の他に、コンクリート17を注入して一体化するCFT造とすることができる。
【0035】
さらにまた、上記複数の実施の形態について、柱と梁との各断面の構造形式をそれぞれ自由に組合せした複合構造、例えば、柱をRC造、梁をS造とした混合構造としてもよい。これらで構成された上部構造として設計された建物において、建築後のフレーム構造に後からPS導入方法を適用することができるものとして全て本発明の趣旨に含まれるのである。
また、地盤と基礎状況により、地中梁4にはPS後導入せず、上部構造の部材のみに建築に後からPS導入方法を適用することもできる。なお、いずれの実施の形態でも、定着部7において緊張材9を緊張定着した後は、定着部7にモルタル等を詰めて定着具の防錆処理を施すものとするのである。
施工方法について、柱、梁がコンクリート部材とする場合は、現場打ちコンクリート若しくはプレキャストのいずれとしてもよい。
【0036】
耐震性と経済性とを考慮して、建物におけるフレーム構造の何処に緊張材を配設して緊張力を導入したら良いかについて検討した結果、
図13に示したように、建物1の平面において、少なくとも外周フレーム(フレーム構造)の柱5と梁8(地中梁4を除く)にシース6を含む緊張材9を配置してプレストレスを導入する方が好ましいこととし、構造形式や平面の長さ及びフレームの数によって、所要フレームに(図示では中央フレーム)緊張材9を配置してプレストレスを導入することが望ましい。要するに、全てのフレーム構造ではなく、必要に応じて緊張力を導入するフレームの数を適切に増やせばよいのである。
【0037】
また、緊張材9に与える緊張導入力について、従来のPC構造では、緊張材の降伏荷重の80%とするが、本発明では、該緊張材9の降伏荷重の30〜70%とすることが好ましい。こうすることによって、従来通りに設計された通常の建物の構造部材でも後から増加される軸圧縮力を負担できると共に、緊張材9が巨大地震時にも降伏することなく弾性範囲内でバネのように働き、地震などにより建物が変形しようとした時に抵抗する力になり、振り子のように変形した建物を元に戻そうとする力になり、プレストレス(PS)による復元力の効果が得られるのである。さらにこの復元力によって、地震後建物が元の状態に戻るから、残留変形の発生を抑制するという優れた制震効果は得られるのである。
【0038】
さらに、前記した第1〜6の実施の形態に対して、建造物の上部構造と基礎構造との間に免震装置を設けて免震構造とすることもできる。これを第7の実施の形態として、
図14を用いて説明する。なお、この実施の形態については、代表して前記第1の実施の形態に係る建造物を採用して説明し、同一部分には同一符号を付して詳細な説明は重複するので省略する。
建物1は、地中に打ち込んで形成した杭基礎2と、該基礎杭2の上部に形成されたフーチング3と地中梁4とで支持されており、建物1の基礎としては、実質的に基礎杭2が下部基礎でフーチング3と地中梁4とが上部基礎といえるのである。
【0039】
そこで、下部基礎と上部基礎と間に、免震装置18を配設して免震構造の建物1とする。この場合は、下部基礎として、基礎杭2の頭部のつなぎ材として基礎杭2間で所要厚みの基礎スラブ19を打設して形成し、基礎杭2の頭部と上部基礎のフーチング3との間に免震装置18が取り付けられるのである。なお、他の実施の形態に係る基礎についても、同様に形成しさえすれば、いずれにも免震構造18を取り付けて、建物1を簡単に免震構造とすることができるのである。また、実施例では杭頭免震として示したが、これに限ることなく、種々な基礎形式に変更することが可能であり、要するに、免震装置を配置して免震構造とすればよいのである。
【0040】
本発明に係る建物1のフレーム構造に対して、前記した説明のように、緊張材9を配設してプレストレスを付与することによって、建物自体が優れた制震作用を発揮するのである。
そのプレストレスを付与した建物1のプレストレスによる復元力の制震効果の概念を
図15に基づいて説明する。
(a)フレーム構造には、建物重量による軸力(W)に加えて軸方向にプレストレス(P)が付与してあり、地震や強風による水平力Qが作用している状態を示すものである。
(b)中程度の地震の水平力が作用した場合であって、付与されているプレストレスが建物を原位置に戻す復元力として作用し建物は殆ど変形することがない。
(c)大地震による水平力が建物に作用した場合であり、プレストレスが付与されていない状態では復元不可能な領域にまで変形するが、軸方向にプレストレスが付与されているためこのプレストレスが建物を元の状態に戻す復元力として作用して揺れを抑制する。
(d)水平力が作用しなくなると、プレストレスによる復元力によって建物は元の状態に戻ると共に、原位置を行き過ぎて反対側に倒れようとするのをプレストレスが阻止することから、建物の揺れは早期に収束することになる。そして、プレストレスの原点指向型特性を持つ復元力によって建物は元の状態に戻るのである。
従って、フレーム構造に付与したプレストレスによる復元力は、中小地震時において、フレーム構造の揺れや振動を小さく抑制する制震効果となり、大地震などにより建物が大きく変形した時にはプレストレスによる復元力が建物を元に戻すために強い制震作用を発揮すると共に建物の倒壊を阻止することになる。
以上、実施の形態について説明したが、本発明は、図示の構成に限定するものではなく、建物の諸設計条件によって本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が自在とするものである。
【課題】設計で想定以上の巨大地震が発生した場合は、付与されたプレストレスで強度を補って耐震性能をアップさせ、震度7まで耐えられるような建物にすべくプレストレスを付与する方法を提供する。
【解決手段】基礎2から柱5および梁8とで複数階構築される建物1に後からプレストレスを導入する方法であって、基礎2と各階の柱5および梁8の所要個所に予め緊張材9を挿入するシース6を埋設して最上階まで構築し、その後にシース6に緊張材9を挿入して緊張定着することによって基礎2から柱5および梁8まで建物1の所定箇所にプレストレスを導入したことによって、従来通りに設計された建物1は、全体の耐震性能が大幅に向上される。常時荷重および中小地震時において、従来通りに設計した建物1の構造耐力で対応し、設計で想定以上の巨大地震に対しは、導入されたプレストレスで補い、震度7までの巨大地震にも耐えられるようにすることができる。