【実施例】
【0028】
以下、本発明による硬質皮膜被覆部材およびその製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0029】
[実施例1]
ダイス鋼SKD11に浸炭焼入れ焼き戻しを施した後に鏡面研磨した基材を用意した。この基材をクロムターゲットを使用する処理装置(DCマグネトロンスパッタリング装置)の真空処理室に入れて、到達真空度5×10
−4Pa以下に真空排気した後、真空処理室内が圧力5×10
−1Paのアルゴンガス雰囲気になるように制御してアルゴンガスを真空処理室内に導入し、1000V×2Aでイオンボンバード処理を約180分間施して、基材の表面を活性化した。
【0030】
次に、アルゴンガスの導入を一旦停止し、真空処理室内を排気して真空にした後、真空処理室内の雰囲気中のアルゴンガスの分圧が0.061Paになるようにアルゴンガスを真空処理室内に導入しながら、投入電力4kW、バイアス電圧を−100Vとして、スパッタリングを約180秒間行って、基材上に下地層としてビッカース硬度HV500程度、厚さ240nm程度のクロム皮膜を形成した。
【0031】
次に、真空処理室内の雰囲気中のアルゴンガスの分圧が0.061Paになるようにアルゴンガスを真空処理室内に導入しながら、投入電力4kW、バイアス電圧を−50Vとして、スパッタリングを30秒間行って、基材上に厚さ40nm程度のクロム皮膜を形成した(クロム皮膜形成工程)。
【0032】
次に、真空処理室内の雰囲気中のアルゴンガスの分圧が0.042Paになるようにアルゴンガスを真空処理室内に導入するとともに、窒素ガスの分圧が0.054Paになるように窒素ガスを真空処理室内に導入しながら、投入電力4kW、バイアス電圧を−50Vとして、スパッタリングを30秒間行って、基材上に厚さ約40nmの窒素含有クロム皮膜を形成した(窒素含有クロム皮膜形成工程)。
【0033】
さらに、上記のクロム皮膜形成工程と窒素含有クロム皮膜形成工程を繰り返し、それぞれ厚さ約40nmのクロム皮膜と窒素含有クロム皮膜を120層ずつ(合計240層、下地層を除く全膜厚約9.6μm)交互に形成して硬質皮膜被覆部材を得た。
【0034】
このようにして得られた硬質皮膜被覆部材のマイヤー硬さ、スクラッチ臨界荷重およびHRC圧痕の評価を行った。
【0035】
マイヤー硬さは、フィッシャー硬度計(超微小硬さ試験機)を使用して、バーコビッチ圧子により測定荷重10mN/10sおよび100mN/10sを加えて室温で測定した塑性変形硬さに基づいて算出した。その結果、マイヤー硬さは19.2GPaであった。
【0036】
スクラッチ臨界荷重については、スクラッチ試験機(CSM社製のREVETEST、AEセンサー付スクラッチ試験機)を使用し、最小荷重0.9N、最大荷重150N、荷重速度100N/分、スクラッチ速度10mm/分、スクラッチ距離8.91mmとして、0.2mmRのダイヤモンド圧子(型式Rockwell、シリアルNo.N2−3122)によってスクラッチ試験を行い、スクラッチの周辺の皮膜が破壊されたときの荷重(スクラッチ臨界荷重)を測定した。その結果、スクラッチ臨界荷重は150Nであった。
【0037】
HRC圧痕判定は、ロックウェル試験機を使用して、Cスケールで圧痕を打って観察することにより、HRC圧痕判定試験(DIN50103/1)に準拠して評価した。その結果、HRC圧痕判定結果は(圧痕の周囲にわずかにひびが認められる)HF2であった。
【0038】
また、得られた硬質皮膜被覆部材について、X線回折装置(RIGAKU社製のRINT2000)を使用して、管電圧40kV、管電流20mA、走査角度20〜80°、スキャンステップ1°/分の条件で、X線回折の測定を行った。その結果、2θ=43.7°にCrN(200)面からのピーク、2θ=60.6°にCr
2N(202)面に起因すると推測されるピーク、2θ=63.5°にCrN(220)面からのピークが見られ、これらのX線回折強度ICrN(200)、ICr
2N(202)、ICrN(220)は、それぞれ113cps(カウント/秒)、180cps、813cpsであり、強度比ICrN(200):ICr
2N(202):ICrN(220)は、1.0:1.6:7.4であった。また、X線回折強度比ICr
2N(202)/ICrN(220)を膜厚で補正した値として、{ICr
2N(202)/ICrN(220)}×{Cr膜厚
(nm)×Cr(N)膜厚
(nm)×1000/全膜厚
(nm)}の値を求めたところ、(180/813)×(40×40×1000/9600)=36.9
(nm)であった。
【0039】
さらに、得られた硬質皮膜被覆部材の表面粗さの評価として、超深度表面形状測定顕微鏡(株式会社キーエンス製のVK−8500)を使用して測定した結果から、JIS B0601(1994年)に基づいて表面粗さを示すパラメータである算術平均粗さRa、最大高さRy、十点平均粗さRzを算出した。その結果、算術平均粗さRaは0.36μm、最大高さRyは10.58μm、十点平均粗さRzは10.13μmであった。
【0040】
[実施例2]
窒素含有クロム皮膜形成工程において、真空処理室内の雰囲気中のアルゴンガスの分圧が0.040Paになるようにアルゴンガスを真空処理室内に導入するとともに、窒素ガスの分圧が0.062Paになるように窒素ガスを真空処理室内に導入した以外は、実施例1と同様の方法によりクロム皮膜と窒素含有クロム皮膜を交互に形成して硬質皮膜被覆部材を得た。
【0041】
このようにして得られた硬質皮膜被覆部材のマイヤー硬さ、スクラッチ臨界荷重およびHRC圧痕について、実施例1と同様の方法により評価した。その結果、マイヤー硬さは19.9GPa、スクラッチ臨界荷重は150N、HRC圧痕判定結果はHF2であった。
【0042】
また、得られた硬質皮膜被覆部材について、実施例1と同様の方法により、X線回折の測定を行った。その結果、2θ=43.7°にCrN(200)面からのピーク、2θ=60.6°にCr
2N(202)面に起因すると推測されるピーク、2θ=63.5°にCrN(220)面からのピークが見られ、これらのX線回折強度ICrN(200)、ICr
2N(202)、ICrN(220)は、それぞれ144cps、297cps、2053cpsであり、強度比ICrN(200):ICr
2N(202):ICrN(220)は、0.6:1.2:8.2であった。また、X線回折強度比ICr
2N(202)/ICrN(220)を膜厚で補正した値として、{ICr
2N(202)/ICrN(220)}×{Cr膜厚
(nm)×Cr(N)膜厚
(nm)×1000/全膜厚
(nm)}の値を求めたところ、24.1
(nm)であった。
【0043】
さらに、得られた硬質皮膜被覆部材の表面粗さの評価として、実施例1と同様の方法により、算術平均粗さRa、最大高さRy、十点平均粗さRzを算出した。その結果、算術平均粗さRaは0.37μm、最大高さRyは24.85μm、十点平均粗さRzは24.75μmであった。
【0044】
[実施例3]
窒素含有クロム皮膜形成工程において、真空処理室内の雰囲気中のアルゴンガスの分圧が0.037Paになるようにアルゴンガスを真空処理室内に導入するとともに、窒素ガスの分圧が0.063Paになるように窒素ガスを真空処理室内に導入した以外は、実施例1と同様の方法によりクロム皮膜と窒素含有クロム皮膜を交互に形成して硬質皮膜被覆部材を得た。
【0045】
このようにして得られた硬質皮膜被覆部材のマイヤー硬さ、スクラッチ臨界荷重およびHRC圧痕について、実施例1と同様の方法により評価した。その結果、マイヤー硬さは18.4GPa、スクラッチ臨界荷重は150N、HRC圧痕判定結果は(圧痕の周囲の一部にわずかにひびが認められる)HF1であった。
【0046】
また、得られた硬質皮膜被覆部材について、実施例1と同様の方法により、X線回折の測定を行った。その結果、2θ=43.7°にCrN(200)面からのピーク、2θ=60.6°にCr
2N(202)面に起因すると推測されるピーク、2θ=63.5°にCrN(220)面からのピークが見られ、これらのX線回折強度ICrN(200)、ICr
2N(202)、ICrN(220)は、それぞれ76cps、155cps、626cpsであり、強度比ICrN(200):ICr
2N(202):ICrN(220)は、0.9:1.8:7.3であった。また、X線回折強度比ICr
2N(202)/ICrN(220)を膜厚で補正した値として、{ICr
2N(202)/ICrN(220)}×{Cr膜厚
(nm)×Cr(N)膜
(nm)厚×1000/全膜厚
(nm)}の値を求めたところ、41.3
(nm)であった。
【0047】
さらに、得られた硬質皮膜被覆部材の表面粗さの評価として、実施例1と同様の方法により、算術平均粗さRa、最大高さRy、十点平均粗さRzを算出した。その結果、算術平均粗さRaは0.35μm、最大高さRyは15.73μm、十点平均粗さRzは12.88μmであった。
【0048】
[実施例4]
クロム皮膜と窒素含有クロム皮膜を成膜するためのスパッタリング時間をそれぞれ15秒間にして、それぞれ厚さ約20nmのクロム皮膜と窒素含有クロム皮膜を240層ずつ(合計480層、下地層を除く全膜厚約9.6μm)形成した以外は、実施例1と同様の方法によりクロム皮膜と窒素含有クロム皮膜を交互に形成して硬質皮膜被覆部材を得た。
【0049】
このようにして得られた硬質皮膜被覆部材のマイヤー硬さ、スクラッチ臨界荷重およびHRC圧痕について、実施例1と同様の方法により評価した。その結果、マイヤー硬さは24.0GPa、スクラッチ臨界荷重は140N、HRC圧痕判定結果はHF1であった。
【0050】
また、得られた硬質皮膜被覆部材について、実施例1と同様の方法により、X線回折の測定を行った。その結果、2θ=43.7°にCrN(200)面からのピーク、2θ=60.6°にCr
2N(202)面に起因すると推測されるピーク、2θ=63.5°にCrN(220)面からのピークが見られ、これらのX線回折強度ICrN(200)、ICr
2N(202)、ICrN(220)は、それぞれ147cps、552cps、912cpsであり、強度比ICrN(200):ICr
2N(202):ICrN(220)は、0.9:3.4:5.7であった。また、X線回折強度比ICr
2N(202)/ICrN(220)を膜厚で補正した値として、{ICr
2N(202)/ICrN(220)}×{Cr膜厚
(nm)×Cr(N)膜厚
(nm)×1000/全膜厚
(nm)}の値を求めたところ、25.2
(nm)であった。
【0051】
さらに、得られた硬質皮膜被覆部材の表面粗さの評価として、実施例1と同様の方法により、算術平均粗さRa、最大高さRy、十点平均粗さRzを算出した。その結果、算術平均粗さRaは0.36μm、最大高さRyは15.20μm、十点平均粗さRzは14.19μmであった。
【0052】
[実施例5]
クロム皮膜と窒素含有クロム皮膜を成膜するためのスパッタリング時間をそれぞれ15秒間にして、それぞれ厚さ約20nmのクロム皮膜と窒素含有クロム皮膜を240層ずつ(合計480層、下地層を除く全膜厚約9.6μm)形成した以外は、実施例3と同様の方法によりクロム皮膜と窒素含有クロム皮膜を交互に形成して硬質皮膜被覆部材を得た。
【0053】
このようにして得られた硬質皮膜被覆部材のマイヤー硬さ、スクラッチ臨界荷重およびHRC圧痕について、実施例1と同様の方法により評価した。その結果、マイヤー硬さは23.7GPa、スクラッチ臨界荷重は110N、HRC圧痕判定結果はHF2であった。
【0054】
また、得られた硬質皮膜被覆部材について、実施例1と同様の方法により、X線回折の測定を行った。その結果、2θ=43.7°にCrN(200)面からのピーク、2θ=60.6°にCr
2N(202)面に起因すると推測されるピーク、2θ=63.5°にCrN(220)面からのピークが見られ、これらのX線回折強度ICrN(200)、ICr
2N(202)、ICrN(220)は、それぞれ123cps、252cps、429cpsであり、強度比ICrN(200):ICr
2N(202):ICrN(220)は、1.5:3.1:5.3であった。また、X線回折強度比ICr
2N(202)/ICrN(220)を膜厚で補正した値として、{ICr
2N(202)/ICrN(220)}×{Cr膜厚
(nm)×Cr(N)膜厚
(nm)×1000/全膜厚
(nm)}の値を求めたところ、24.5
(nm)であった。
【0055】
さらに、得られた硬質皮膜被覆部材の表面粗さの評価として、実施例1と同様の方法により、算術平均粗さRa、最大高さRy、十点平均粗さRzを算出した。その結果、算術平均粗さRaは0.36μm、最大高さRyは22.86μm、十点平均粗さRzは21.35μmであった。
【0056】
[実施例6]
バイアス電圧を−30Vにした以外は、実施例1と同様の方法によりクロム皮膜と窒素含有クロム皮膜を交互に形成して硬質皮膜被覆部材を得た。
【0057】
このようにして得られた硬質皮膜被覆部材のマイヤー硬さ、スクラッチ臨界荷重およびHRC圧痕について、実施例1と同様の方法により評価した。その結果、マイヤー硬さは17.8GPa、スクラッチ臨界荷重は139N、HRC圧痕判定結果はHF1であった。
【0058】
また、得られた硬質皮膜被覆部材について、実施例1と同様の方法により、X線回折の測定を行った。その結果、2θ=43.7°にCrN(200)面からのピーク、2θ=60.6°にCr
2N(202)面に起因すると推測されるピーク、2θ=63.5°にCrN(220)面からのピークが見られ、これらのX線回折強度ICrN(200)、ICr
2N(202)、ICrN(220)は、それぞれ133cps、169cps、686cpsであり、強度比ICrN(200):ICr
2N(202):ICrN(220)は、1.3:1.7:6.9であった。また、X線回折強度比ICr
2N(202)/ICrN(220)を膜厚で補正した値として、{ICr
2N(202)/ICrN(220)}×{Cr膜厚
(nm)×Cr(N)膜厚
(nm)×1000/全膜厚
(nm)}の値を求めたところ、41.1
(nm)であった。
【0059】
さらに、得られた硬質皮膜被覆部材の表面粗さの評価として、実施例1と同様の方法により、算術平均粗さRa、最大高さRy、十点平均粗さRzを算出した。その結果、算術平均粗さRaは0.28μm、最大高さRyは8.90μm、十点平均粗さRzは8.30μmであった。
【0060】
[実施例7]
バイアス電圧を−30Vにした以外は、実施例4と同様の方法によりクロム皮膜と窒素含有クロム皮膜を交互に形成して硬質皮膜被覆部材を得た。
【0061】
このようにして得られた硬質皮膜被覆部材のマイヤー硬さ、スクラッチ臨界荷重およびHRC圧痕について、実施例1と同様の方法により評価した。その結果、マイヤー硬さは15.6GPa、スクラッチ臨界荷重は131N、HRC圧痕判定結果はHF1であった。
【0062】
また、得られた硬質皮膜被覆部材について、実施例1と同様の方法により、X線回折の測定を行った。その結果、2θ=43.7°にCrN(200)面からのピーク、2θ=60.6°にCr
2N(202)面に起因すると推測されるピーク、2θ=63.5°にCrN(220)面からのピークが見られ、これらのX線回折強度ICrN(200)、ICr
2N(202)、ICrN(220)は、それぞれ74cps、190cps、315cpsであり、強度比ICrN(200):ICr
2N(202):ICrN(220)は、1.3:3.3:5.4であった。また、X線回折強度比ICr
2N(202)/ICrN(220)を膜厚で補正した値として、{ICr
2N(202)/ICrN(220)}×{Cr膜厚
(nm)×Cr(N)膜厚
(nm)×1000/全膜厚
(nm)}の値を求めたところ、25.1
(nm)であった。
【0063】
さらに、得られた硬質皮膜被覆部材の表面粗さの評価として、実施例1と同様の方法により、算術平均粗さRa、最大高さRy、十点平均粗さRzを算出した。その結果、算術平均粗さRaは0.38μm、最大高さRyは18.90μm、十点平均粗さRzは17.00μmであった。
【0064】
[比較例1]
バイアス電圧を−100Vにするとともに、クロム皮膜と窒素含有クロム皮膜を交互に形成(多層膜を形成)する代わりに、窒素含有クロム皮膜を成膜するためのスパッタリング時間を2時間にして、10μmの窒素含有クロム皮膜を形成(単層膜を形成)した以外は、実施例1と同様の方法により硬質皮膜被覆部材を得た。
【0065】
このようにして得られた硬質皮膜被覆部材のマイヤー硬さ、スクラッチ臨界荷重およびHRC圧痕について、実施例1と同様の方法により評価した。その結果、マイヤー硬さは20.8GPa、スクラッチ臨界荷重は50N、HRC圧痕判定結果は(圧痕の周囲の全周にわたってひびが認められ、ひびの発生している部分の表面の剥離が認められる)HF3であった。
【0066】
また、得られた硬質皮膜被覆部材について、実施例1と同様の方法により、X線回折の測定を行った。その結果、2θ=43.7°にCrN(200)面からのピーク、2θ=60.6°にCr
2N(202)面に起因すると推測されるピーク、2θ=63.5°にCrN(220)面からのピークが見られ、これらのX線回折強度ICrN(200)、ICr
2N(202)、ICrN(220)は、それぞれ80cps、204cps、659cpsであり、強度比ICrN(200):ICr
2N(202):ICrN(220)は、0.8:2.2:7.0であった。
【0067】
さらに、得られた硬質皮膜被覆部材の表面粗さの評価として、実施例1と同様の方法により、算術平均粗さRa、最大高さRy、十点平均粗さRzを算出した。その結果、算術平均粗さRaは0.18μm、最大高さRyは7.74μm、十点平均粗さRzは7.05μmであった。
【0068】
[比較例2]
窒素含有クロム皮膜形成工程において、真空処理室内の雰囲気中のアルゴンガスの分圧が0.038Paになるようにアルゴンガスを真空処理室内に導入するとともに、窒素ガスの分圧が0.074Paになるように窒素ガスを真空処理室内に導入した以外は、比較例1と同様の方法により硬質皮膜被覆部材を得た。
【0069】
このようにして得られた硬質皮膜被覆部材のマイヤー硬さ、スクラッチ臨界荷重およびHRC圧痕について、実施例1と同様の方法により評価した。その結果、マイヤー硬さは27.6GPa、スクラッチ臨界荷重は30N、HRC圧痕判定結果は(HF3よりも剥離がさらに進んでいることが認められる)HF4であった。
【0070】
また、得られた硬質皮膜被覆部材について、実施例1と同様の方法により、X線回折の測定を行った。その結果、2θ=43.7°にCrN(200)面からのピーク、2θ=60.6°にCr
2N(202)面に起因すると推測されるピーク、2θ=63.5°にCrN(220)面からのピークが見られ、これらのX線回折強度ICrN(200)、ICr
2N(202)、ICrN(220)は、それぞれ124cps、194cps、390cpsであり、強度比ICrN(200):ICr
2N(202):ICrN(220)は、1.8:2.7:5.5であった。
【0071】
さらに、得られた硬質皮膜被覆部材の表面粗さの評価として、実施例1と同様の方法により、算術平均粗さRa、最大高さRy、十点平均粗さRzを算出した。その結果、算術平均粗さRaは0.16μm、最大高さRyは19.29μm、十点平均粗さRzは17.90μmであった。
【0072】
[比較例3]
バイアス電圧を−300Vにした以外は、実施例1と同様の方法によりクロム皮膜と窒素含有クロム皮膜を交互に形成して硬質皮膜被覆部材を得た。
【0073】
このようにして得られた硬質皮膜被覆部材のマイヤー硬さ、スクラッチ臨界荷重およびHRC圧痕について、実施例1と同様の方法により評価した。その結果、マイヤー硬さは11.7GPa、スクラッチ臨界荷重は90N以上、HRC圧痕判定結果はHF1であった。
【0074】
[比較例4]
バイアス電圧を−100Vにした以外は、実施例1と同様の方法によりクロム皮膜と窒素含有クロム皮膜を交互に形成して硬質皮膜被覆部材を得た。
【0075】
このようにして得られた硬質皮膜被覆部材のマイヤー硬さ、スクラッチ臨界荷重およびHRC圧痕について、実施例1と同様の方法により評価した。その結果、マイヤー硬さは18.1GPa、スクラッチ臨界荷重は90N、HRC圧痕判定結果はHF2であった。
【0076】
また、得られた硬質皮膜被覆部材について、実施例1と同様の方法により、X線回折の測定を行った。その結果、2θ=43.7°にCrN(200)面からのピーク、2θ=60.6°にCr
2N(202)面に起因すると推測されるピーク、2θ=63.5°にCrN(220)面からのピークが見られ、これらのX線回折強度ICrN(200)、ICr
2N(202)、ICrN(220)は、それぞれ70cps、162cps、1895cpsであり、強度比ICrN(200):ICr
2N(202):ICrN(220)は、0.3:0.8:8.9であった。また、X線回折強度比ICr
2N(202)/ICrN(220)を膜厚で補正した値として、{ICr
2N(202)/ICrN(220)}×{Cr膜厚
(nm)×Cr(N)膜厚
(nm)×1000/全膜厚
(nm)}の値を求めたところ、14.2
(nm)であった。
【0077】
さらに、得られた硬質皮膜被覆部材の表面粗さの評価として、実施例1と同様の方法により、算術平均粗さRa、最大高さRy、十点平均粗さRzを算出した。その結果、算術平均粗さRaは0.20μm、最大高さRyは7.78μm、十点平均粗さRzは7.23μmであった。
【0078】
[比較例5]
バイアス電圧を−100Vにした以外は、実施例4と同様の方法によりクロム皮膜と窒素含有クロム皮膜を交互に形成して硬質皮膜被覆部材を得た。
【0079】
このようにして得られた硬質皮膜被覆部材のマイヤー硬さ、スクラッチ臨界荷重およびHRC圧痕について、実施例1と同様の方法により評価した。その結果、マイヤー硬さは24.5GPa、スクラッチ臨界荷重は80N、HRC圧痕判定結果はHF2であった。
【0080】
また、得られた硬質皮膜被覆部材について、実施例1と同様の方法により、X線回折の測定を行った。その結果、2θ=43.7°にCrN(200)面からのピーク、2θ=60.6°にCr
2N(202)面に起因すると推測されるピーク、2θ=63.5°にCrN(220)面からのピークが見られ、これらのX線回折強度ICrN(200)、ICr
2N(202)、ICrN(220)は、それぞれ57cps、150cps、728cpsであり、強度比ICrN(200):ICr
2N(202):ICrN(220)は、0.6:1.6:7.8であった。また、X線回折強度比ICr
2N(202)/ICrN(220)を膜厚で補正した値として、{ICr
2N(202)/ICrN(220)}×{Cr膜厚
(nm)×Cr(N)膜厚
(nm)×1000/全膜厚
(nm)}の値を求めたところ、8.6
(nm)であった。
【0081】
さらに、得られた硬質皮膜被覆部材の表面粗さの評価として、実施例1と同様の方法により、算術平均粗さRa、最大高さRy、十点平均粗さRzを算出した。その結果、算術平均粗さRaは0.29μm、最大高さRyは16.19μm、十点平均粗さRzは14.68μmであった。
【0082】
[比較例6]
クロム皮膜と窒素含有クロム皮膜を成膜するためのスパッタリング時間をそれぞれ15秒間と30秒間にして、厚さ約20nmのクロム皮膜と厚さ約40nmの窒素含有クロム皮膜を160層ずつ(合計320層、下地層を除く全膜厚約9.6μm)形成した以外は、比較例4と同様の方法によりクロム皮膜と窒素含有クロム皮膜を交互に形成して硬質皮膜被覆部材を得た。
【0083】
このようにして得られた硬質皮膜被覆部材のマイヤー硬さ、スクラッチ臨界荷重およびHRC圧痕について、実施例1と同様の方法により評価した。その結果、マイヤー硬さは22.3GPa、スクラッチ臨界荷重は61N、HRC圧痕判定結果はHF3であった。
【0084】
また、得られた硬質皮膜被覆部材の表面粗さの評価として、実施例1と同様の方法により、算術平均粗さRa、最大高さRy、十点平均粗さRzを算出した。その結果、算術平均粗さRaは0.27μm、最大高さRyは19.36μm、十点平均粗さRzは18.77μmであった。
【0085】
[比較例7]
クロム皮膜と窒素含有クロム皮膜を成膜するためのスパッタリング時間をそれぞれ10秒間と15秒間にして、厚さ約13nmのクロム皮膜と厚さ約20nmの窒素含有クロム皮膜を290層ずつ(合計580層、下地層を除く全膜厚約9.6μm)形成した以外は、比較例4と同様の方法によりクロム皮膜と窒素含有クロム皮膜を交互に形成して硬質皮膜被覆部材を得た。
【0086】
このようにして得られた硬質皮膜被覆部材のマイヤー硬さ、スクラッチ臨界荷重およびHRC圧痕について、実施例1と同様の方法により評価した。その結果、マイヤー硬さは22.9GPa、スクラッチ臨界荷重は68N、HRC圧痕判定結果はHF2であった。
【0087】
また、得られた硬質皮膜被覆部材の表面粗さの評価として、実施例1と同様の方法により、算術平均粗さRa、最大高さRy、十点平均粗さRzを算出した。その結果、算術平均粗さRaは0.34μm、最大高さRyは14.10μm、十点平均粗さRzは12.73μmであった。
【0088】
これらの実施例および比較例の硬質皮膜被覆部材の製造条件、構造および特性を表1〜表4に示す。なお、表2において、マイヤー硬さが21GPa以上で非常に良好な硬さの場合を◎、15GPa以上で良好な硬さの場合を○、15GPa未満で硬さが不十分な場合を×で示している。また、表2において、密着力が非常に良好な場合を◎、良好な場合を○、十分ではない場合を△、悪い場合を×で示している。
【0089】
【表1】
【0090】
【表2】
【0091】
【表3】
【0092】
【表4】