【0022】
前述の熱間圧延仕上を行う場合の仕上温度は280℃〜480℃の範囲であることが好ましい。
前記中間冷間圧延を行う場合の圧延率は40〜90%の範囲であることが好ましい。
前記中間焼鈍を行う場合の温度は500〜570℃の範囲、1〜30秒の範囲であることが好ましい。
前記最終冷間圧延を行う場合の圧延率は45〜80%の範囲、最終冷間圧延仕上温度は140℃以上であることが好ましく、この場合に120℃以上に30分以上保持する状態を確保する冷却を行うことが好ましい。
また、前記最終冷間圧延を行った後、保持温度120〜180℃に30分以上保持する最終熱処理を施すことが好ましい。この最終熱処理の際の保持温度範囲を前記範囲から外れるように120℃よりも低くした場合、十分な底抜け性の改善が見られない。
また、180℃を越える温度で最終熱処理を行うと、底抜け性の改善効果はそれ以上に増加せず、場合によっては若干減少傾向を示し、また、消費エネルギー的にも無駄が多くなる。
【実施例】
【0023】
以下に、本発明の具体的実施例について説明するが、本願発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下の表1に示す組成比の合金スラブを溶製し、表2に示すNo.1〜No.7、No.10の試料は、熱間圧延加工により板厚2.6mmのアルミニウム合金板を作製し、このアルミニウム合金板に圧延率58%の中間冷間圧延を施し、板厚1.1mmのアルミニウム合金板を作製し、このアルミニウム合金板に連続焼鈍炉(CAL)にて以下の表2に示す温度、保持時間の条件にて中間焼鈍を行った。
この後、表2に示す圧延率、仕上温度、仕上板厚にて最終冷間圧延を行い、必要に応じて表2に示す最終熱処理を行って飲料缶用のアルミニウム合金板を得た。
表2に示すNo.1〜7、10の試料は、熱間圧延仕上温度280℃で板厚2.6mmとした試料、No.8、9の試料は、熱間圧延仕上温度320℃で板厚2.0mmとし、中間焼鈍を行わなかった試料である。
【0024】
これらのアルミニウム合金板試料について引張強さ(TS:MPa)、耐力(YS:MPa)、伸び(EL:%)、引張強さ−耐力(TS−YS:MPa)を測定した結果を表3に記載する。また、各アルミニウム合金板試料について、210℃で10分加熱するベーキング処理を施し、このベーキング後の引張強さ(TS:MPa)、耐力(AB耐力:YS:MPa)、伸び(EL:%)を測定した結果を表3に併記する。
表3に示す座屈強度とは、DI缶にベーキング処理(210℃10分)を施した後、缶軸方向に圧縮荷重を負荷し、缶底部(
図2の底部12)が座屈した時の平均荷重(サンプル数n=10)を示し、耐圧強度とは、DI缶にベーキング処理(210℃10分)を施した後、缶胴内部にエアー圧をかけて、缶底のドーム部12a(
図2参照)が反転した時の平均圧力(サンプル数n=10)を示す。
【0025】
【表1】
【0026】
【表2】
【0027】
【表3】
【0028】
また、表2に示す条件で製造されたNo.1〜10のアルミニウム合金板試料について、先に
図1を元に説明したカッピング加工およびDI加工を施し、そのDI加工時の底抜け性について調査した結果を表4に示す。
表4に示す結果は、DI加工を施す場合に、
図1に示すカップ状体W1とした場合のカップ径(外径)と、
図2に示す缶状体15とした場合の缶胴径(外径)と、接地部の径(接地円の直径)と、カップ径/接地径と、カップ径/缶胴径と、缶高さ/缶胴径と、接地部R径(接地部アール径)について設定条件を実施条件として以下の表5に記載した条件の場合に得られた結果である。
【0029】
【表4】
【0030】
【表5】
【0031】
表3に示す如く、No.1〜3、7〜9の試料はいずれも引張強さ−耐力(TS−YS:MPa)の値が30MPaを下回る試料であるのに対し、No.4、6の試料はいずれも引張強さ−耐力(TS−YS:MPa)の値が30MPaを越える試料である。No.4の試料にあっては、表4に示すA〜Hの全ての実施条件においていずれも底抜け性に優れ、100缶製缶して1缶も底抜けを生じない、優れた底抜け性を示した。
No.6の試料にあっては、実施条件F、Hにて若干底抜けを生じたが、その他の条件A〜E、Gにおいて100缶製缶して1缶も底抜けを生じない、優れた底抜け性を示した。
【0032】
表5の実施条件Bは接地部R径を2.5mmとする実施条件であるが、このように接地部R径を大きくすると、表4に示す如くNo.1〜10のいずれの試料であっても底抜け性は良好となり、いずれの試料においても底抜け性、換言すると、再絞り成形性に問題を生じない。これは、接地部R径の値を2.5mmより小さい1.5mm、2.0mmとした場合に、再絞り成形性に大きな影響があり、接地部R径が小さい程、再絞り成形性を阻害する傾向があり、再絞り成形性に制約が生じることを意味する。
【0033】
しかし、先にも説明した如く、飲料缶の更なる薄肉軽量化のためには、缶底部の耐圧強度の確保が必要となるので、これを達成するための接地径の小径化、接地部R径の小径化が必要となり、このため、接地部R径を小径化しても、再絞り成形性に支障を来さないことが重要となる。
この点に鑑み、接地部R径を小さくしても、実施条件に広く対応することができる、No.4、6のアルミニウム合金板試料が有望であり、これらの試料は、表3に示す如く引張強さ−耐力(TS−YS:MPa)の値が30MPaを越える試料であり、伸びが6.0%を越える試料であり、AB耐力が240MPa以上の試料であり、缶強度における座屈強度と耐圧強度においても優れている。また、No.5のアルミニウム合金板試料は最終熱処理温度が190℃と高いために、缶強度における座屈強度と耐圧強度においてNo.4、6のアルミニウム合金板試料より若干劣る結果となった。
なお、カップ径/接地径の上限は2.5が好ましく、カップ径/缶胴径の上限は1.8が好ましい。
【0034】
次に、表2に示すアルミニウム合金板の製造条件について検討すると、No.1、6の試料は、最終熱処理を行っていない試料であるが、No.6の試料は最終冷間圧延後の冷却条件として、120℃以上の温度域を1時間維持する条件で冷却している。これに対してNo.1のアルミニウム合金板試料は、最終冷間圧延の仕上温度が110℃であり、ここから冷却しているために120℃以上の状態が保持されていない。
No.1の試料は表3に示す如く伸びが不足し、TS−YSの値が低く、再絞り成形性に劣り、座屈強度、耐圧強度とも低くなっている。これに対し、No.6の試料は、伸びが高く、TS−YSの値が高く、再絞り成形性に優れ、座屈強度、耐圧強度とも高くなっている。
【0035】
No.2の試料は、最終熱処理温度を150℃としたが20分しか熱処理していない試料であるが、伸びが不足し、TS−YSの値が低く、再絞り成形性が低下している。
【0036】
No.4の試料は150℃に2時間保持する熱処理を施すことで、伸びが高く、TS−YSの値が高く、再絞り成形性に優れ、座屈強度、耐圧強度とも高くなっている。
No.7の試料は中間焼鈍を500℃未満の470℃で施した試料であるが、伸びが不足し、TS−YSの値が低く、再絞り成形性に劣り、座屈強度、耐圧強度とも低くなっている。
No.8、9の試料は中間冷間圧延と中間焼鈍を行っていない試料であるが、伸びが不足し、TS−YSの値が低く、再絞り成形性に若干劣り、座屈強度、耐圧強度とも低くなっている。
【0037】
これらの試験結果から、前記組成比のアルミニウム合金板において、接地部のR径が2.0mm以下の飲料缶に用いられるアルミニウム合金板であって、引張強さと耐力の差が30MPa以上であり、かつ伸び率が6%以上であり、AB耐力が240MPa以上であるならば、DI加工する場合の再絞り成形性に優れることが明らかになった。
【0038】
また、前記アルミニウム合金板を製造する場合、最終冷間圧延後に120〜180℃に30分以上保持する最終熱処理を施すか、最終冷間圧延後に120℃以上の温度に30分以上維持できる冷却条件を選択することで、引張強さと耐力の差が30MPa以上であり、かつ伸び率が6%以上であり、AB耐力が240MPa以上であるアルミニウム合金板を得ることが可能となり、このアルミニウム合金板をDI加工することで、軽量化やデザイン性の面で缶高さと缶胴径の比を従来のものより大きくした飲料缶を製造しても、再絞り成形性の良好な状態で飲料缶を製造できることが明らかになった。