特許第5676875号(P5676875)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5676875
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月25日
(54)【発明の名称】ボールペン用水性インク組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/18 20060101AFI20150205BHJP
【FI】
   C09D11/18
【請求項の数】7
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2009-279762(P2009-279762)
(22)【出願日】2009年12月9日
(65)【公開番号】特開2011-122031(P2011-122031A)
(43)【公開日】2011年6月23日
【審査請求日】2012年9月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100102990
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 良博
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(72)【発明者】
【氏名】川北 美裕
【審査官】 仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−200185(JP,A)
【文献】 特開2003−213191(JP,A)
【文献】 特開2004−323618(JP,A)
【文献】 特開平06−346014(JP,A)
【文献】 特開昭55−152768(JP,A)
【文献】 特開2009−173920(JP,A)
【文献】 特開2007−008990(JP,A)
【文献】 特開平11−012521(JP,A)
【文献】 特開2006−056931(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料分散体若しくは水溶性染料又はそれらの混合物を含有する着色された水性相と、25℃、剪断速度38/秒での粘度が300〜500,000mPa・sである無着色の油性相とを水中油滴型エマルションとして含み、
前記油性相が、ケトン樹脂、スルホアミド樹脂、マレイン酸樹脂、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、エステルガム、キシレン樹脂、アルキッド樹脂、フェノール樹脂、ロジン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコール、アクリル系樹脂、メラミン系樹脂、セルロース系樹脂から成る群より選ばれる1種又は2種以上の樹脂を、固形分濃度として全油性相溶液の質量基準で5〜60%含む
ボールペン用水性インク組成物。
【請求項2】
前記油性相が溶剤を含み、沸点200℃以上の溶剤が質量基準で全溶剤の50%以上を占めている請求項1記載のボールペン用水性インク組成物。
【請求項3】
前記インク組成物中に占める油性相成分の割合が、質量基準で1〜30%であることを特徴とする請求項1又は2記載のボールペン用水性インク組成物。
【請求項4】
前記水中油滴型エマルションの油滴の平均粒子径が250nm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のボールペン用水性インク組成物。
【請求項5】
前記油性相が溶剤を含み、該溶剤の20℃における水に対する溶解度が質量基準で5%以下であり、且つ分子骨格中に芳香環を1つ以上有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のボールペン用水性インク組成物。
【請求項6】
前記油性相または前記水性相のどちらか一方または双方に、分子骨格中に芳香環を1つ以上有する乳化剤を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のボールペン用水性インク組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のボールペン用水性インク組成物を搭載したボールペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールペン用水性インク組成物に関し、具体的には着色された水性相と、無着色の油性相とを水中油滴型エマルションとして含む、ボールペン用水性インク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
水性インクを用いる水性ボールペンの特徴として、低粘度でインク流出量が多く、軽い書き味で鮮明な描線が得られることが挙げられるが、反面、一般的に書き味にガリツキを感じ、またペン先が乾き、筆記不能になる現象を起こしやすいという欠点を有する。これに対し、油性インクを用いる油性ボールペンはインクの粘度が高く、インク流出量が少ないため、筆記時のガリツキ感がなく、描線にじみが少ないという利点を有するが、重い書き味になる場合が多い。
【0003】
近年、油性インクの粘度を低下させて書き味を向上させた油性ボールペンも開発されている。しかし、低粘度の油性インクは筆記の際のインク流出量が多くなるので、描線乾燥性が悪化し、紙裏面へのインクの裏抜け、ボテの原因となる。
【0004】
特開2004−115611号公報には、有機溶剤に水を含有した、油中水滴(W/O)型低粘度の油性ボールペンインクが記載されている。しかし、このインクは、保存安定性に問題があり、またインク組成の大半は有機溶剤であるため、筆記流出量を増加させると、裏抜けが発生する。
【0005】
特開2007−327003号公報には、あらかじめ顔料を水性成分に含有させ、それを油性成分と混合することで、顔料が分散された水性成分からなる水滴が、油性成分中に分散されたW/O型エマルションインク組成物が記載されている。このインク組成物を用いることで、書き味等を改善させたボールペンインクが開示されているが、長期保存時に、水滴が合一して局在化してしまう等の安定性に欠けている。またインク組成物中の油性成分の量が多いので、水性ボールペンのように筆記流出量を増加させると、裏抜け、描線乾燥性の悪化が顕著であった。
【0006】
また、特開昭55−152768号公報には、ポリマー、前記ポリマーを溶解する溶剤からなるポリマー溶液に顔料を分散させた着色した組成物を、水中に乳化分散して成る、消しゴムで消去できる筆記用インクが記載されている。しかし、このインクはボールペンに用いると筆記性は悪く、また分散粒子が合一し易く、沈降してしまい、保存安定性にも問題があった。
【0007】
特開2004−323618号公報には、水溶性染料を含有する水溶性インクと、油溶性染料を含有する油溶性インクからなるインク組成物を、筆記する際に振とうさせて不安定なエマルジョンを形成し、その筆記線が短く不規則に連続的に変化する筆記具用多色インクが記載されている。このインクは、静置状態では2層に分離することが記載されており、通常のボールペンインクとしては不適当である。
【0008】
本件出願人の特願2008−145150号明細書には、水性ボールペンと油性ボールペンの長所を備えた、インク性状が水中油滴のエマルションであるボールペン用水性インク組成物が開示されている。当該インクは、色濃度の向上と自由度の高い調色のバリエーションを可能とし、同時に耐水性を得るために、油性相中に染料等の着色材を含むことが必須であるため、エマルション濃度が高いと描線乾燥性が悪化するという問題があり、またエマルション濃度が低い場合は描線濃度が不十分であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−115611号公報
【特許文献2】特開2007−327003号公報
【特許文献3】特開昭55−152768号公報
【特許文献4】特開2004−323618号公報
【特許文献5】特願2008−145150号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、水性ボールペン、油性ボールペンは、それぞれ長所と欠点を有している。両者の長所を兼ね備えた新規なボールペン用水性インク組成物を提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意研究を行った結果、顔料分散体等の着色材を含有する水性相に、油性相を水中油滴型エマルションとして組み合わせることにより、前記課題を解決することができることを見いだし、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、
(1)顔料分散体若しくは水溶性染料又はそれらの混合物を含有する着色された水性相と、25℃、剪断速度38/秒での粘度が300〜500,000mPa・sである無着色の油性相とを水中油滴型エマルションとして含む、ボールペン用水性インク組成物。
【0013】
(2)前記油性相が溶剤を含み、沸点200℃以上の溶剤が質量基準で全溶剤の50%以上を占めていることを特徴とする(1)記載のボールペン用水性インク組成物。
【0014】
(3)前記インク組成物中に占める油性相成分の割合が、質量基準で1〜30%であることを特徴とする(1)又は(2)記載のボールペン用水性インク組成物。
【0015】
(4)前記水中油滴型エマルションの油滴の平均粒子径が250nm以下であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のボールペン用水性インク組成物。
【0016】
(5)前記油性相が溶剤を含み、該溶剤の20℃における水に対する溶解度が質量基準で5%以下であり、且つ分子骨格中に芳香環を1つ以上有することを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のボールペン用水性インク組成物。
【0017】
(6)前記油性相または前記水性相のどちらか一方または双方に、分子骨格中に芳香環を1つ以上有する乳化剤を含むことを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載のボールペン用水性インク組成物。
【0018】
(7)(1)〜(6)のいずれかに記載のボールペン用水性インク組成物を搭載したボールペン。
【発明の効果】
【0019】
本発明のボールペン用水性インク組成物は、水性相に顔料等の着色材を含み油性相に着色材を含まない水中油滴型エマルションを含むことを特徴とする。これにより従来の水性ボールペンの長所である軽い書き味に加えて、水中油滴型エマルションが以下の作用効果を発揮する。すなわち、油性相の油膜によりガリツキ感の無い書き味が提供され、同時に耐水性が提供される。本発明は、水性ボールペンインクと油性ボールペンインクの長所を兼ね備えた保存安定性のよいボールペン用水性インク組成物を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のインク組成物は、水性相が顔料分散体若しくは水溶性染料又はそれらの混合物を含有しており、且つ前記水性相に油性相が水中油滴型エマルションの状態で含まれる構成を有する。以下に、本発明のインク組成物の成分を詳細に説明する。
【0021】
本発明のインク組成物の油性相は、25℃、剪断速度38/秒での粘度が300〜500,000mPa・sである無着色の油性相溶液である。この油性相溶液は有機溶剤を含む。従来のボールペン用油性インクに用いられる溶剤は、そこに含まれる染料を溶解させることができ、且つ経時的に安定な溶液であることを要するという観点から、用いる染料との関係で特定の分子構造を有する有機溶剤を選択していた。しかし、本発明のインク組成物の油性相は、着色材を含有しないので、特定の有機溶剤を選択することを要さず、従来技術のボールペンインクに用いられている何れの有機溶剤も用いることができる。
【0022】
本発明の油性相溶液に用いることができる溶剤には、例えば、以下の溶剤をあげることができる。ベンジルアルコール、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコール2−エチルヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテル、アルキルスルフォン酸フェニルエステル、フタル酸ブチル、フタル酸エチルヘキシル、フタル酸トリデシル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、トリメリット酸エチルヘキシル、ジエチレングリコールジベンゾエート、ジプロピレングリコールジベンゾエート、キシレン、トルエン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、n−ヘキサン、n−オクタン、n−デカン、リモネン、ピネン、n−ヘキサノール、n−ヘプタノール、n−オクタノール、ノナノール、n−デカノール、ウンデカノール、n−ドデカノール、トリメチルノニルアルコール、テトラデカノール、ヘプタデカノール、シクロヘキサノール、2−メチルシクロヘキサノール、α−テルピネオール、n−ヘキシルエーテル、メチルフェニルエーテル、エチルフェニルエーテル、n−ブチルフェニルエーテル、メチル−n−ヘキシルケトン、酢酸−2−エチルヘキシル、酢酸シクロヘキシル、酢酸メチルシクロヘキシル、酢酸ベンジル、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸アミル、アビエチン酸エチル、カプリル酸、2−エチルヘキサン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸等が挙げられる。
【0023】
高温時のエマルションの内圧の上昇による不安定化を抑制する観点から、沸点が200℃以上の溶剤が好ましい。好ましい溶剤の例としては、ベンジルアルコール、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、アルキルスルフォン酸フェニルエステル、フタル酸ブチル、フタル酸エチルヘキシル、フタル酸トリデシル、トリメリット酸エチルヘキシル、ジエチレングリコールジベンゾエート、エチレングリコール−2−エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、ジプロピレングリコールジベンゾエート等が挙げられる。
【0024】
溶剤は、上記溶剤の例から選ばれる1種類の溶剤からなることができ、又は複数種の溶剤からなることができる。溶剤を複数種用いる場合は、沸点200℃以上の溶剤が質量基準で油性相の全溶剤の50%以上を占めている主溶剤であることが好ましい。沸点200℃以上の溶剤が50%未満であると、乳化安定性が劣り、好ましくない。
【0025】
また、実質的に水に溶解しないこと、形成されたエマルションの保存安定性が良いこと、安全性が高いことを考慮すると、分子骨格中に1つ以上の芳香環を有し、且つ溶剤の水への溶解度が、20℃において質量基準で5%以下のものが好ましい。溶解度が質量基準で5%を超えると、得られるエマルションが不安定となり経時的に相分離を生じる場合がある。
【0026】
また、本発明の油性相溶液において、上記溶剤のほかに、さらに必要に応じて補助溶剤を含むことができる。例えば、アルコール類、多価アルコール類、グリコールエーテル類、炭化水素類、エステル類から選ばれる溶剤等を用いることができるが、水と無限に相溶する溶剤は水性相への拡散、油滴の合一を引き起こすため、多量に使用すべきではない。油性相溶液中の全溶剤の質量%で10%以内とするのがよい。
【0027】
アルコール類としては、炭素数が2以上の脂肪族アルコールが好ましく、例えば、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、tert−ブチルアルコール、1−ペンタノール、イソアミルアルコール、sec−アミルアルコール、3−ペンタノール、tert−アミルアルコール、メチルアミルアルコール、2−エチルブタノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、2−オクタノール、2−エチルヘキサノール、3,5,5−トリメチルヘキサノールやその他多種多様な高級アルコール等が挙げられる。
【0028】
また、多価アルコール類としては分子内に2個以上の炭素、2個以上の水酸基を有する多価アルコールが好ましく、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、3−メチル−1,3−ブンタンジオール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ヘキシレングリコール、オクチレングリコール等が挙げられる。
【0029】
グリコールエーテル類としては、例えば、メチルイソプロピルエーテル、エチルエーテル、エチルプロピルエーテル、エチルブチルエーテル、イソプロピルエーテル、ブチルエーテル、ヘキシルエーテル、2−エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ−2−エチルブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノール、3−メトキシ−1−ブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールターシャリーブチルエーテルジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、テトラプロピレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。
【0030】
炭化水素類としては、イソヘキサン、ヘプタン、ノナン等の直鎖炭化水素類や、エチルシクロヘキサン等の環状炭化水素類が挙げられる。
【0031】
エステル類の補助溶剤としては例えば、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールジアセテート、3−メチル−3−メトキシブチルアセテート、プロピレングリコールエチルエーテルアセテート、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ギ酸ブチル、ギ酸イソブチル、ギ酸イソアミル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチル、酢酸イソアミル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸イソブチル、プロピオン酸イソアミル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、イソ酪酸メチル、イソ酪酸エチル、イソ酪酸プロピル、吉草酸メチル、吉草酸エチル、吉草酸プロピル、イソ吉草酸メチル、イソ吉草酸エチル、イソ吉草酸プロピル、トリメチル酢酸メチル、トリメチル酢酸エチル、トリメチル酢酸プロピル、カプロン酸メチル、カプロン酸エチル、カプロン酸プロピル、カプリル酸メチル、カプリル酸エチル、カプリル酸プロピル、ラウリン酸メチル、ラウリン酸エチル、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、カプリル酸トリグリセライド、クエン酸トリブチルアセテート、オキシステアリン酸オクチル、プロピレングリコールモノリシノレート、2−ヒドロキシイソ酪酸メチル、3−メトキシブチルアセテート等、種々のエステルが挙げられる。
【0032】
また、分子内に水酸基を持たない補助溶剤として、ジエーテルやジエステルを用いることができ、具体的には、例えば、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、2,6−ナフタリンジカルボン酸ジエチルヘキシル等が挙げられる。
【0033】
本発明のインク組成物の油性相は着色材を含有しない。油性相を着色材で着色すると、インク全体の色濃度の向上は期待される。しかし、例えば着色材として染料を用いると、経時的に筆記描線周囲に染料がブリードして滲んだように見えることがあり、また、顔料を用いると、経時的に水性相の影響受けて油滴中で顔料が凝集する場合があるので、好ましくない。
【0034】
本発明のインク組成物を調製するための油性相溶液の粘度は、25℃、剪断速度38/秒での粘度が300〜500,000mPa・sである。粘度が300mPa・s未満であると筆記にガリツキ感が生じ、水中油滴型としたことによる油性インクとしての側面の性能を発揮しない。さらに、エマルションの安定性にも好ましくない。また500,000mPa・sを超えると筆記描線の乾きが悪くなり、ボールペンのインク組成物としては好ましくない。25℃、剪断速度38/秒で1,000〜200,000mPa・sの粘度範囲が、特に好ましい。
【0035】
油性相溶液の粘度を調整するためには、ボールペンのインク組成物に一般的に用いられている樹脂を用いることができる。
本発明のインク組成物に用いることができる樹脂の具体的な例として、ケトン樹脂、スルホアミド樹脂、マレイン酸樹脂、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、エステルガム、キシレン樹脂、アルキッド樹脂、フェノール樹脂、ロジン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコール、アクリル系樹脂、メラミン系樹脂、セルロース系樹脂等の天然及び合成樹脂を挙げることができ、それらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0036】
前記樹脂は、その性状に基づき、25℃において液体状のものと固体状のものに大別できる。液体状の樹脂を用いる場合には、固形分濃度として全油性相溶液の質量基準で10〜100%であることが好ましく、固体状の樹脂を用いる場合には、5〜60%であることが好ましい。固形分濃度が、この範囲未満であると、十分な粘性付与が困難となる。逆にこの範囲を超えると経時的に樹脂が析出して筆記不能となるため、ボールペンのインク組成物としては好ましくない。
前記油性相溶液中の25℃において固体の樹脂の量は、固形分濃度として全油性相溶液の質量基準で5〜60%であることが好ましい。固形分濃度が、5%未満であると、十分な粘性付与ができなくなる。60%を超えると経時的に樹脂が析出し筆記不能となり、ボールペンのインク組成物としては好ましくない。樹脂の固形分濃度が15%〜50%の範囲が特に好ましい。
【0037】
本発明のボールペン用水性インク組成物の水性相は、顔料分散体若しくは水溶性染料又はそれらの混合物を含有する。顔料としては、カーボンブラック、酸化チタン等の無機顔料、フタロシアニン系顔料、アゾ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、アンスラキノン系顔料、ペリレン系顔料、イソインドリノン系顔料、キナクリドン系顔料等の各種有機顔料を使用することができる。
【0038】
例えば、C.I.Pigment Black 1,7、C.I.Pigment Yellow 1,2,3,12,13,14,16,17,20,24,34,35,42,53,55,65,73,74,75,81,83,86,93,94,95,97,98,99,100,101,104,108,109,110,114,117,120,125,128,129,137,138,139,147,148,150,151.153,154,155,166,167,168,173C,174,180,185等、C.I.Pigment Red 1,2,3,5,7,8,9,10,12,16,17,19,22,38,41,43,48,48:2,48:3,49,50:1,52,53,53:1,57,57:1,58:2,60,63:1,63:2,64:1,86,88,90,9,112,122,123,127,146,149,166,168,170,175,176,177,179,180,181,184,185,189,190,192,194,198,202,206,207,209,215,216,217,220,223,224,226,227,228,238,240,245,254,225等、C.I.Pigment Blue 1,2,3,15:1,15:2,15:3,15:4,15:6,16,17,22,25,60,64,66等、C.I.Pigment Orannge 5,10,13,16,36,40,43,48,49,51,55,59,61,71等、C.I.Pigment Violet 1,3,5:1,16,19,23,29,30,31,33,36,37,38,40,42,50等、C.I.Pigment Green 7,10,36等、C.I.Pigment Brown 23,25,26等が挙げられる。
【0039】
水性相に用いる着色材が染料である場合は、水性媒体に溶解もしくは分散可能な染料が全て使用可能であり、その具体例を以下に例示する。
酸性染料としては、ニューコクシン(C.I.16255)、タートラジン(C.I.19140)、アシッドブルーブラック10B(C.I.20470)、ギニアグリーン(C.I.42085)、ブリリアントブルーFCF(C.I.42090)、アシッドバイオレット6BN(C.I.43525)、ソルブルブルー(C.I.42755)、ナフタレングリーン(C.I.44025)、エオシン(C.I.45380)、フロキシン(C.I.45410)、エリスロシン(C.I.45430)、ニグロシン(C.I.50420)、アシッドフラビン(C.I.56205)等が用いられる。
【0040】
塩基性染料としては、クリソイジン(C.I.11270)、メチルバイオレットFN(C.I.42535)、クリスタルバイオレット(C.I.42555)、マラカイトグリーン(C.I.42000)、ビクトリアブルーFB(C.I.44045)、ローダミンB(C.I.45170)、アクリジンオレンジNS(C.I.46005)、メチレンブルーB(C.I.52015)等が用いられる。
【0041】
直接染料としては、コンゴーレッド(C.I.22120)、ダイレクトスカイブルー5B(C.I.24400)、バイオレットBB(C.I.27905)、ダイレクトディープブラックEX(C.I.30235)、カヤラスブラックGコンク(C.I.35225)、ダイレクトファストブラックG(C.I.35255)、フタロシアニンブルー(C.I.74180)等が用いられる。
前記染料は一種又は二種以上を適宜混合して使用することができ、インク組成物中1〜25質量%、好ましくは2〜15質量%の範囲で用いられる。
【0042】
水性相中の着色材は、エマルションの安定性を維持できるならば、上記顔料と上記染料とを任意の組み合わせで用いても良い。顔料と染料とを組み合わせて用いる場合、染料の量は、水性相溶液の質量基準で10%以下であることが好ましい。10%を超えると、エマルションの安定性に不具合を起こす。
【0043】
使用する顔料の量は、インク組成物全質量に対し、1〜20%、好ましくは3〜15%である。顔料の量が1%未満となると、着色材の主成分としては、耐光性が悪くなり、また描線の濃度感にも欠ける。顔料の量が20%を超えると、顔料の分散安定性面から好ましくない。
【0044】
水性相に用いる顔料分散体は、イオン交換水、精製水を用いた顔料分散体である。
顔料分散体を得るための分散剤は各種市販されているものを使用することができ、特に限定されないが、並存する水中油滴型エマルションとの相性、保存安定性の面から、高分子の樹脂系分散剤が好ましく、エマルション形成に用いる乳化剤として使用される材料とは異なる材料が好ましい。例えば、スチレンアクリル樹脂やポリオキシエチレン系分散剤を用いることができる。特に好ましい分散剤は、高分子ポリマーであるスチレンアクリル樹脂である。
【0045】
使用する分散剤の量は、顔料分散体の顔料の総質量に対して、20〜100%の範囲となるのが顔料の分散安定性とエマルション安定性を両立させる観点から好ましい。
【0046】
水性相への顔料の分散方法には、例えば、混合撹拌機により各成分を均一に混合する方法や、ボールミル、ビーズミル、ロールミル、ホモミキサー、ディスパー、超音波分散機、高圧ホモジナイザー等の分散機を用いることができる。
【0047】
また、水性相は、低温時でのインク凍結防止や、ペン先でのインク乾燥防止を目的とする添加剤を含むことができ、具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、チオジエチレングリコール、グリセリン等のグリコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類などが挙げられ、単独又は混合して使用することができる。添加剤の使用量は、水性相の質量基準で、0〜50%、好ましくは0〜30%である。50%以上添加すると、得られるエマルションの安定性に不具合を起こす。
【0048】
水性相は、前述の油性相溶液と混合して、安定なエマルションを形成するために市販の乳化剤を自由に選択して使用することができる。その具体例を以下に例示する。ミリスチン酸グリセリル、モノステアリン酸グリセリル、モノイソステアリン酸グリセリル、モノオレイン酸グリセリル、ジオレイン酸グリセリル、ジステアリン酸グリセリル、モノステアリン酸ジグリセリル、モノオレイン酸ジグリセリル、ジオレイン酸ジグリセリル、モノイソステアリン酸ジグリセリル、トリイソステアリン酸ジグリセリル、モノステアリン酸テトラグリセリル、モノオレイン酸テトラグリセリル、トリステアリン酸テトラグリセリル、ペンタステアリン酸テトラグリセリル、ペンタオレイン酸テトラグリセリル、モノラウリン酸ヘキサグリセリル、モノミリスチン酸ヘキサグリセリル、モノステアリン酸ヘキサグリセリル、モノオレイン酸ヘキサグリセリル、トリステアリン酸ヘキサグリセリル、テトラベヘン酸ヘキサグリセリル、ペンタステアリン酸ヘキサグリセリル、ペンタオレイン酸ヘキサグリセリル、ポリリノレン酸ヘキサグリセリル、モノラウリン酸デカグリセリル、モノミリスチン酸デカグリセリル、モノステアリン酸デカグリセリル、モノイソステアリン酸デカグリセリル、モノオレイン酸デカグリセリル、モノリノール酸デカグリセリル、ジステアリン酸デカグリセリル、ジイソステアリン酸デカグリセリル、トリステアリン酸デカグリセリル、トリオレイン酸デカグリセリル、ペンタステアリン酸デカグリセリル、ペンタヒドロキシステアリン酸デカグリセリル、ペンタイソステアリン酸デカグリセリル、ペンタオレイン酸デカグリセリルヘプタステアリン酸デカグリセリル、ヘプタオレイン酸デカグリセリル、デカステアリン酸デカグリセリル、デカイソステアリン酸デカグリセリル、デカオレイン酸デカグリセリル、ポリリシノレン酸デカグリセリル、ポリオキシエチレンモノステアリン酸グリセリル、ポリオキシエチレンモノオレイン酸グリセリル、モノラウリン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、セスキステアリン酸ソルビタン、トリステアリン酸ソルビタン、モノイソステアリン酸ソルビタン、セスキイソステアリン酸ソルビタン、モノオレイン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン、ポリオキシエチレンモノパルミチン酸ソルビタン、ポリオキシエチレンモノステアリン酸ソルビタン、ポリオキシエチレントリステアリン酸ソルビタン、ポリオキシエチレンモノイソステアリン酸ソルビタン、ポリオキシエチレンモノオレイン酸ソルビタン、ポリオキシエチレントリオレイン酸ソルビタン、ポリオキシエチレンモノラウリン酸ソルビット、ポリオキシエチレンヘキサステアリン酸ソルビット、ポリオキシエチレンテトラステアリン酸ソルビット、ポリオキシエチレンテトラオレイン酸ソルビット、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンフィトステロール、ポリオキシエチレンフィトスタノール、ポリオキシエチレンコレスタノール、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンデシルテトラデシルエーテル、モノラウリン酸ポリエチレングリコール、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、モノオレイン酸ポリエチレングリコール、ジステアリン酸エチレングリコール、ジステアリン酸ジエチレングリコール、ジステアリン酸ポリエチレングリコール、ジイソステアリン酸ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンナフチルエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル等の非イオン性界面活性剤が挙げられる。また上記乳化剤のポリオキシエチレン鎖末端を硫酸エステル或いはリン酸エステルとしたアニオン性界面活性剤等も用いることが出来る。
【0049】
本発明に係る油性相溶液の主溶剤と混合して、長期的に安定なエマルションを形成する観点から、分子骨格中に芳香環を1つ以上有する乳化剤が好ましい。例えば、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンナフチルエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等の非イオン性界面活性剤が挙げられる。また、これらのポリオキシエチレン鎖末端を硫酸エステル或いはリン酸エステルとしたアニオン性界面活性剤等も用いることができる。
このような分子骨格中に芳香環を1つ以上有する乳化剤は、親油基である芳香環が油性相に対して親和性が高いため、長期的に安定なエマルションを形成すると考えられる。この乳化剤は、油性相溶液に含まれていてもよい。
【0050】
乳化剤は通常エチレンオキサイド(EO)付加モル数によって、その性質を変えることができる。油性相溶液に用いる主溶剤と関連して、エチレンオキサイド付加モル数が20mol以上のものが好ましく、エチレンオキサイド付加モル数が40mol以上のものが更に好ましい。長鎖のエチレンオキサイド鎖により、粒子の合一を抑制するためである。
【0051】
前述のエチレンオキサイド付加モル数が20mol以上の乳化剤と、油性相への配向が強いエチレンオキサイド付加モル数が3〜15molの乳化剤とを組み合わせて用いることができる。油性相へ配向の強いものと水性相へ配向の強い乳化剤を組み合わせることにより、界面のミセル濃度が高まり、エマルションの安定性が増すためである。
【0052】
HLB値(親水親油バランス値)については、非イオン性界面活性剤については少なくともHLB値が15以上の乳化剤を1種以上用いることが好ましい。エチレンオキサイド付加モル数が多くても、HLB値が低い場合は、油性相側に乳化剤が取り込まれすぎてしまうからである。
【0053】
エチレンオキサイド20mol以上を有する乳化剤としては、ポリオキシエチレンモノスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレントリスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンナフチルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンクミルフェニルエーテル等の非イオン性界面活性剤で、エチレンオキサイド鎖20mol以上付加したもの、及びその硫酸エステル等のアニオン性界面活性剤を挙げることができる。エチレンオキサイド付加モル数については20mol以上、且つ100mol以下が好ましい。100molを超える場合、粘度上昇が著しく、使用に不適当な場合が生じる。
【0054】
また、エチレンオキサイド付加モル数3〜15のものとしては、ポリオキシエチレンモノスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレントリスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンナフチルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンクミルフェニルエーテル等の非イオン性界面活性剤で、エチレンオキサイド鎖3〜15mol付加したもの、及びその硫酸エステル等のアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等のアルキルフェノール型非イオン性界面活性剤等を挙げることができる。
【0055】
顔料分散体、水溶性染料、乳化剤以外に、水性相は水性ボールペン用水性インク組成物に通常使用される各種の添加剤、例えば、防錆剤、防腐剤、PH調整剤、潤滑剤、保湿剤、樹脂、天然多糖類等の増粘剤等を含有することができる。
【0056】
本発明のボールペン用水性インク組成物中に占める油性相成分の割合は、質量基準で1〜30%であり、好ましくは3〜20%、さらに好ましくは5〜15%である。油性相成分の割合が1%より小さいと、筆記性で満足な性能が得られず、通常の水性ボールペンとなんら変わらなくなる。また、油性相成分の割合が30%より大きいと、顔料分散体との相互作用でエマルションが不安定となる場合があり、また油分が増えるため、描線乾燥性に悪影響を及ぼす。
【0057】
エマルションの平均粒子径は好ましくは250nm以下であり、更に好ましくは200nm以下である。平均粒子径を250nm以下とするのは、粒子の沈降や、粒子同士の衝突による合一を抑制するためである。粒子径の調整は、後述する乳化方法により制御することができ、また高圧ホモジナイザー等の乳化機を用いた機械的せん断力によっても微細化することができる。
【0058】
本発明の水中油滴型エマルションの乳化方法は、従来技術において知られている種々の乳化方法、例えば、転相乳化法、D相乳化法、PIT乳化法、機械的な乳化方法を用いることができる。例えば、転相乳化法においては、本発明の水中油滴型エマルションは以下の工程により製造される:
a)有機溶剤中で、少なくとも粘度付与剤としての樹脂を含む油性溶液成分を攪拌して、固形分を溶解させる工程、
b)水性溶液成分に乳化剤を加えて攪拌して溶解させる工程、
c)工程aで得られた油性溶液を攪拌しながら、工程bで得られた水性溶液を徐々に添加して油中水滴型エマルション得る工程、
d)攪拌しながら、さらに工程bで得られた水性溶液を添加して相転移を経て水中油滴型エマルションを得る工程。
【0059】
顔料分散体を含む水性溶液を調製する工程は、水性顔料インクの調製に用いられている従来公知の方法を採用することができる。例えば:
e)顔料、分散剤、溶剤及びpH調整剤を攪拌機にて3時間攪拌する工程、
f)サンドミルにて5時間分散する工程、
g)上記顔料分散液の粗大粒子を遠心分離機で除去する工程、
h)上記顔料分散液を希釈し、その他の成分を添加する工程。
【0060】
上述したように調製した、水中油滴型エマルションと、顔料分散体を含む水性相溶液、若しくは染料を含む水性相溶液、又は顔料分散体と染料とを含む水性相溶液とを攪拌混合する。この攪拌混合は、例えば、混合撹拌機により各成分を均一に混合する方法や、ボールミル、ビーズミル、ロールミル、ホモミキサー、ディスパー、超音波分散機、高圧ホモジナイザー等の分散機を用いて各成分を分散混合する方法を用いることができる。このとき、水中油滴型エマルションと上記水性相溶液とを同時に撹拌混合あるいは分散混合してもよく、また順次撹拌混合あるいは分散混合しても構わない。
【0061】
尚、水性相成分の顔料分散体は、転相乳化等で相転移する際に顔料分散系に悪影響を与えることも考えられるので、水中油滴型エマルション製造工程と顔料分散工程は分けて行うのが好ましい。
【0062】
最終的に得られる本発明のボールペン用水性インク組成物の粘性は好ましくは25℃、せん断速度380/秒の粘度が1〜100mPa・s、更に好ましくは7〜70mPa・sであることが好ましい。100mPa・s以上であると、インクの粘性が高まる結果、インクリフィル内でのインクの追従性が悪化するため、好ましくない。
【実施例】
【0063】
以下、最も代表的な実施例により、本発明の好適態様とその優れた効果を具体的に説明する。尚、以下において、部はすべて質量部であり、%はすべて質量%である。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
実施例1〜10について、以下の通りインク組成物の調製を行った。
まず表1に記載の油性溶液成分を攪拌しながら50℃〜60℃の温度に加温して、これらの成分を完全に溶解させた。表中の油性溶液粘度はこの溶液の値である。一方、これとは別個に表2に記載の乳化剤を精製水中に攪拌しながら溶解させ乳化剤水溶液を作成した。なお、油性相への配向が強い乳化剤を配合する場合は、当該油性溶液に添加し常温で攪拌することもできる。
【0067】
次に、油性溶液中に対して前記乳化剤水溶液を攪拌しながら徐々に添加することによって、W/OからO/Wに転相させて水中油滴型のエマルションを得た。その後、市販の高圧ホモジナイザーを用いて所定の平均粒子径に到達するまで、乳化処理を行った。
【0068】
平均粒子径の測定は、粒子径測定器N4Plus(COULTER社製)を用いて測定した。測定時には試料がN4Plusの推奨濃度に到達するまで水で希釈して、25℃の温度条件で測定した。なお、本願明細書で用いる平均粒子径の用語はメディアン径をいう。
【0069】
上述した顔料分散体を含む水性溶液を調製する工程にしたがって顔料濃度20%の顔料分散体を別途作成した。
作成した顔料分散体に対し、最終的な成分量が表2となるように上述のh)工程の希釈及びその他の成分の添加を行った。なお、その際には前記乳化剤水溶液で用いた各成分の量は減じて調整した。
【0070】
別途表3に示すように、比較例として油性相粘度の異なる、比較例1及び2、並びに油性相の無い水性インクとして比較例3を調製した。
【0071】
【表3】
【0072】
上記の水中油滴型エマルションと顔料分散体とをディスパーで混合撹拌を行い、実施例1〜3、5〜10及び比較例1〜3については、最後に増粘剤成分を攪拌して溶解させて本発明の水性インク組成物を得た。
【0073】
本明細書中の粘度測定については、HAAKE社製レオメータ、RheoStress600を用いた。円錐コーンは、直径35mm、傾斜角1度のものを用いた。測定条件は、油性溶液の測定においては、25℃せん断速度38/秒の条件で、インクの測定においては、25℃せん断速度380/秒の条件で、30秒間測定して安定した数値を粘度とした。
【0074】
実施例1〜10において生成された各水性インク組成物及び比較例1〜3において生成された水性インク組成物を三菱鉛筆(株)製UMR−05リフィールに軸に組込み後、以下の評価を行った。
【0075】
<評価>
(a)耐沈降性試験
ペン先部が遠心方向に向くようにしたリフィールを、回転半径20cm、回転数2000rpm(約900G)の条件で5時間遠心を行い、その後に筆記用紙に直径約2cmの円を筆記して、遠心処理前の描線濃度と比較した。
◎:遠心処理前と濃度差なし。
○:若干描線が濃いが筆記に問題なし。
△:描線が濃いことがはっきり認識できるが、筆記は可能。
◆:描線が濃く、且つ筆記かすれが目立ち使用に耐えない。
×:筆記不能。
【0076】
(b)筆感軽さ試験
筆記用紙に5周丸書きし、筆感の軽さを以下のように判定した。
◎:非常に軽い。
○:軽い。
△:普通。
◆:重い。
×:使用に耐えない。
【0077】
(c)ガリツキ感試験
(b)に記載の筆感軽さ試験時の筆記のガリツキ感を以下のように判定した。
◎:全く気にならない。
○:やや感じるが問題ない。
△:やや気になる。
◆:かなり気になる。
×:気になる。
【0078】
(d)耐水性試験
筆記用紙に筆記した描線を水で濡らし、1分後の状態を観察した。
◎:全く描線が変化しない。
○:やや描線にじみが観察されるが問題ない。
△:描線にじみが目立つが判別は可能。
×:判別が困難。
【0079】
(e)描線乾燥性試験
筆記用紙に筆記した描線を10秒後にビニール片で擦過し、描線の伸び度合いと汚れを確認した。
◎:全く伸びず、描線も汚れない。
○:ほとんど伸びず、描線も汚れない。
△:やや描線が伸びる。
×:描線が汚れている。
【0080】
(f)インク裏抜け性
書道用半紙を3枚重ね筆記し、筆記に用いた紙を1枚目と数え、半紙3枚目までのインク写り具合を以下のように判定した。
◎:半紙1枚目の裏側にインクが写っていない。
○:半紙1枚目の裏側にインクが写っている。半紙2枚目にはインクが写っていない。
△:半紙2枚目の表側にインクが移っているが、裏側はインクが写っていない。
◆:半紙2枚目の裏側にインクが写っている。半紙3枚目にはインクが写っていない。
×:半紙三枚目にインクが写っている。
【0081】
(g)保存安定性試験
ペン体を50℃の条件下で3ヶ月放置し、筆記性を確認した。
◎:初期と変化無し。
○:初期と比較して僅かな変化はあるが、筆記に問題なし。
△:描線の劣化は観察されるが、筆記可能。
◆:描線の劣化が著しい。
×:筆記できない。
【0082】
上記試験の結果を表4、表5に示す。これらの結果から、本発明のインク組成物が、比較例インク(本件出願の範囲外、水性インク)に比べて、優れた結果を示すことがわかる。
【0083】
【表4】
【0084】
【表5】