【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度文部科学省元素戦略プロジェクトの委託研究の成果で、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
セラミックスの製造方法であって、前記セラミックスを構成する金属元素を少なくとも含む金属酸化物粉体を分散させた第一のスラリーを基材上に設置する工程と、前記第一のスラリーに対して磁場を印加し凝固させて第一の成形体からなる下引き層を形成する工程と、前記下引き層の上に、前記セラミックスを構成する金属酸化物粉体を含む第二のスラリーを設置する工程と、前記第二のスラリーに対して磁場を印加し凝固させて第二の成形体を形成して前記第二の成形体と前記下引き層の積層体を得る工程と、前記第二の成形体と前記下引き層の積層体から前記下引き層を除去した後に焼成するか、又は前記第二の成形体と前記下引き層の積層体を焼成した後に前記下引き層を除去して、前記第二の成形体からなるセラミックスを得る工程を有することを特徴とするセラミックスの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。以下では、圧電材料として説明を行なうが、他の用途に使用しても良い。本発明の製造方法は圧電材料の製造方法として好適に利用されるが、圧電材料の製造方法としてのみ使用されるものではない。
【0015】
本発明に係るセラミックスの製造方法は、前記セラミックスを構成する金属元素を少なくとも含む金属酸化物粉体を分散させた第一のスラリーを基材上に設置する工程と、前記第一のスラリーに対して磁場を印加し凝固させて第一の成形体からなる下引き層を形成する工程と、前記下引き層の上に、前記セラミックスを構成する金属酸化物粉体を含む第二
のスラリーを設置する工程と、前記第二のスラリーに対して磁場を印加し凝固させて第二の成形体を形成して前記第二の成形体と前記下引き層の積層体を得る工程と、前記第二の成形体と前記下引き層の積層体から前記下引き層を除去した後に焼成するか、又は前記第二の成形体と前記下引き層の積層体を焼成した後に前記下引き層を除去して、前記第二の成形体からなるセラミックスを得る工程を有することを特徴とする。
【0016】
図1は、本発明のセラミックスの製造方法の一実施形態を示す工程図である。
図1に示す様に、本発明に係るセラミックスの製造方法は、前記セラミックスを構成する金属元素を少なくとも含む金属酸化物粉体を分散させた第一のスラリーを調製して基材上にスリップキャスト法により設置する工程と、前記第一のスラリーに対して磁場を印加し凝固させて第一の成形体からなる下引き層を形成する工程を行う。
【0017】
次に、前記セラミックスを構成する金属酸化物粉体を含む第二のスラリーを調製して前記下引き層の上にスリップキャスト法により設置する工程と、前記第二のスラリーに対して磁場を印加し凝固させて第二の成形体を形成して乾燥し、前記第二の成形体と前記下引き層の積層体を得る工程を行う。
【0018】
次に、前記第二の成形体と前記下引き層の積層体から前記下引き層を切り出し工程により除去した後に焼成するか、又は前記第二の成形体と前記下引き層の積層体を焼成した後に前記下引き層を切り出し工程により除去して、前記第二の成形体からなるセラミックスを得る工程を行う。
【0019】
本発明の製造方法において、セラミックスの原料の金属酸化物粉体には、異方性を有するタングステンブロンズ構造、ペロブスカイト構造、スピネル構造、ガーネット構造、六方晶構造等の金属酸化物が使用できる。粉体の好ましい平均粒径は10nm以上10μm以下である。
【0020】
原料の金属酸化物粉体には、例えばチタン酸バリウム、ジルコン酸チタン酸鉛、Sr
1−xBa
xNb
2O
6、MgAl
2O
4、Y
3Al
5O
12、GaNが挙げられる。
また、第一のスラリーと第二のスラリーに含有される金属酸化物粉体の組成は同一であっても、異なるものであっても構わない。
【0021】
本発明におけるスラリーに用いられる溶媒は、水が好ましい。溶媒に対する金属酸化物粉体の濃度は10wt%以上80wt%以下であることが好ましい。前記濃度が10wt%未満では乾燥に時間がかかり、80wt%より大きいと、粘度が高くなりスラリー中の粉体が十分に分散できず、配向ができない。
【0022】
金属酸化物粉体の分散方法にはボールミルやビーズミル等が用いられる。
基材には、設置するスラリーが凝固した後に、所望の形状にするために、窪みを設けたものが好ましい。また、乾燥を促進するために、溶媒を吸収する素材からなるものが好ましい。特に、本発明の基材には、石膏が好ましい。前記基材の設置方法は、基材に設けられた窪み等にスラリーを静かに流し込むと良い。
【0023】
スラリーに印加する磁場には、超電導マグネット装置を用い、1T以上20T以下の磁場を印加すると良い。より好ましくは、10T以上20T以下である。
成形体を得る方法には、基材で凝固したスラリーを室温下で自然乾燥させることが好ましい。乾燥温度は40℃未満が好ましい。乾燥器による60℃以上の加熱乾燥では、成形体にクラックが入りやすく好ましくない。本発明で言うクラックとは、肉眼で確認できる大きな亀裂である。機能性材料のセラミックスにクラックが存在すると、その機能自身の低下は勿論、機械的強度も低くなるという問題がある。
【0024】
また、本発明においては第一の成形体からなる下引き層を作製する。前記下引き層の上に第二の成形体を形成して、第二の成形体と前記下引き層の積層体を得る。下引き層の役割は、下引き層と第二のスラリーにより成る成形体との間に境界面を生じさせ、乾燥工程及び焼成工程等で生じる収縮差によるせん断応力が集中するために、最終的に不要となる下引き層に応力を閉じ込めるものである。そのために、下引き層は、第二のスラリーを流し込む前に、一旦凝固させることが好ましい。下引き層となる第一のスラリーにより成る成形体と、第二のスラリーにより成る成形体が同一の材料系でも前記境界面は応力の不連続な境界面となる。
【0025】
下引き層の除去方法は、第二の成形体と前記下引き層の積層体を焼結前にブレードを用いて切断し、前記下引き層を除去しても良いし、焼結後にブレードや研削装置等によって、前記下引き層を除去してもよい。
【0026】
本発明に係る製造方法において、前記第一のスラリーの金属酸化物粉体が磁気異方性を有することが好ましい。磁気異方性は、結晶の構造が有する各方位への磁気感受性の差異によるもので、結晶の単位格子のアスペクト比の大きいものや、構成する元素の配置や組合わせに起因するものである。結晶の単位格子のアスペクト比の大きい金属酸化物には、アルミナやビスマス層状化合物等が挙げられる。構成する元素の配置や組合わせによるものは、フェライト等が挙げられる。好ましくは、前記金属酸化物粉体は磁性金属元素を含有することが好ましい。磁性金属には、Fe、Co、Ni、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tmが挙げられる。この磁性金属の含有量は、機能を阻害しない程度の前記金属酸化物に対して0.05wt%以上10wt%以下が好ましい。
【0027】
また更に、前記第一のスラリーの金属酸化物粉体はMnを含有することが好ましい。Mn元素自身は強磁性元素ではないが、酸化物として含有され、磁気モーメントを持つが、強磁性体から成るフェライト等に比べて磁性が小さい。このため10Tという強い磁場下においても十分にハンドリングが可能である。
【0028】
また、本発明に係る製造方法において、前記第一の成形体と第二の成形体が同一の結晶軸に配向することが好ましい。同一の結晶軸では、配向の履歴が第一の成形体から第二の成形体へ良好に引き継がれる。同一の結晶軸とするには、第一の成形体への磁場方向と、第二の成形体の磁場方向をそろえると良い。配向する結晶軸の方向には、<001>、<100>、<110>、<101>、<111>等が挙げられる。
【0029】
また、本発明に係る製造方法において、前記セラミックスがタングステンブロンズ構造金属酸化物であることが好ましい。
タングステンブロンズ構造は、(BaCa)
5Bi
2/3Nb
10O
30の他、(SrCa)
4Na
2Nb
10O
30、Ba
4Bi
2/3Nb
10O
30、(SrBa)
5Nb
10O
30等が挙げられる。好ましくは、(BaCa)
5Bi
2/3Nb
10O
30、(SrCa)
4Na
2Nb
10O
30である。タングステンブロンズ構造金属酸化物の場合は、一部の鉛系材料以外、分極軸がc軸方向である組成が殆どであり、非180°ドメインを形成できないため、c軸への配向が必須である。そこで、ドクターブレード法等の機械的な手法では扁平な形状のタングステンブロンズ構造の配向は十分でなかったが、扁平形状による磁気異方性を利用した磁場配向法が好ましい。
【0030】
また、本発明に係る製造方法において、前記セラミックスはペロブスカイト構造金属酸化物であることが好ましい。
ペロブスカイト構造金属酸化物は、チタン酸バリウムBaTiO
3の他、PbZrTiO
3、Pb(MgNb)TiO
3等の鉛系や、KaNaNbO
3、Bi
1/2Na
1/2
TiO
3などの単純ペロブスカイト構造とBi
4Ti
8O
12等の層状ペロブスカイト構造がある。ペロブスカイト構造の中でも、単純ペロブスカイト構造は異方性が小さく、配向が困難な構造である。また、特に、ドクターブレード法等の機械的な手法では、粉体形状に異方性が乏しいため、非常に困難である。それに対し、磁場配向法は近年の磁場装置の進歩により、10Tもの強い磁場によって、例え異方性が乏しくとも粉体を配列させることができる。また、単純ペロブスカイト構造は、機能発生軸と磁場による配列を促す軸とが等しいため、磁場配向法が適する。好ましくは、ペロブスカイト構造金属酸化物の主成分はチタン酸バリウムBaTiO
3である。チタン酸バリウムBaTiO
3は同じ圧電材料の代表であるPbZrTiO3に比べ構造の異方性が乏しい。このため、特に、機械的手法よりも磁場配向を適用したほうが良い。
【0031】
また、本発明に係る製造方法において、前記第一のスラリーに対する磁場が回転磁場であることが好ましい。特に、c軸よりもa、b軸が長い構造を持つ、タングステンブロンズ構造金属酸化物の場合、回転磁場によるc軸配向を行なうと良い。このメカニズムは、タングステンブロンズ構造金属酸化物の単位格子はc軸よりもa、b軸が長い特徴的な構造によって説明できる。非磁性材料のタングステンブロンズ構造金属酸化物の磁気感受性は、結晶軸の長い方向に大きくなる。このため、静置したスラリーに単純に磁場を掛けると、タングステンブロンズ構造金属酸化物は磁界方向に対しa、b軸方向が平行に揃う。ここで、回転するテーブル上にスラリーを設置するこで、周方向から磁場の受ける状態、つまり回転磁場を印加された状態となり、a、b軸方向が磁界方向に直行する方向に対して周方向に配向する。このため、実質a、b軸方向と直交する成分であるc軸方向が一方向へ揃うこととなる。以上のメカニズムにより、タングステンブロンズ構造金属酸化物に対し、回転磁場を印加した場合、磁界方向と直交した方向へタングステンブロンズ構造金属酸化物の機能発生軸であるc軸、つまり<001>方向へ配向する。
【0032】
本発明に係る製造方法は、セラミックスの均一な配向を実現するものである。
図2は、本発明における第二の成形体と下引き層(第一の成形体)の積層体を焼成した円盤状焼結体の側面概略図である。配向の均一性を評価するために、下引き層の除去の工程の前に、
図2に示すように、焼結させた円盤状焼結体4を第一の成形体(下引き層)1が基材に接してできた面から順次XRDのθ−2θ測定と研削を繰り返しながら切削断面3に示すように、第二の成形体2の厚み方向の配向度分布を評価した。配向の均一性を評価の結果は、具体的には実施例1の
図4に示す。
【0033】
配向度を示すロットゲーリングファクターFの算出法は、XRDのθ−2θ測定から得たデータの対象とする結晶面から回折されるX線の積分ピーク強度を用いて、式1により計算する。
F=(ρ−ρ
0)/(1−ρ
0) (式1)
ここで、ρ
0は無配向サンプルのX線の回折強度(I
0)を用いて計算され、c軸配向の場合、全回折強度の和に対する、(00l)面(c軸と垂直な全ての面)の回折強度の合計の割合として、式2により求める。
ρ
0=ΣI
0(00l)/ΣI
0(hkl) (式2)
ρは配向サンプルのX線の回折強度(I)を用いて計算され、c軸配向の場合、全回折強度の和に対する、(00l)面の回折強度の合計の割合として、上式2と同様に式3により求める。
ρ=ΣI(00l)/ΣI(hkl) (式3)
また、本発明は、上記の製造方法により得られたセラミックスからなる圧電材料である。本発明のセラミックスは、圧電材料として有用である。
【実施例1】
【0034】
タングステンブロンズ構造金属酸化物(1−x)CBN−xBBN(0≦x≦1)、x
=0.75の圧電材料を作成した。CBNはCa
1.4Ba
3.6Nb
10O
30、BBNはBa
4Bi
0.67Nb
10O
30である。原料には、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化ビスマス、酸化ニオブ粉末を用い、所定の混合比で乳鉢を用いた乾式混合を行った。
【0035】
仮焼は、アルミナ製の坩堝に前記混合粉を仕込み、電気炉を用いて、大気中、950℃、5時間の条件で焼成することにより行なった。この後、乳鉢で粉砕した後、再度、アルミナ製の坩堝に前記混合粉を仕込み、電気炉を用いて、大気中、1100℃、5時間の条件で焼成を行った。
【0036】
スラリーの調製は、第一のスラリー、第二のスラリー共に、上記の仮焼で得た粉末と純水、分散剤(商品名ディスパーサント5020、サンノプコ社製)を2wt%で混合し、ポットミルを用いて、24時間以上の分散処理を行なった。ここで、分散状態の確認にはダイナミック光散乱光度計(Zeta Sizer:シスメックス(株)製)を用いて、粒径を測定した。測定の結果、平均粒径はおよそ900nmであった。このとき平均粒径は100nm以上2μm以下が好ましい。。
【0037】
磁場処理には、超電導マグネット(JMTD−10T180:ジャパンスーパーコンダクタテクノロジー(株)製)を用いた。超電導マグネットにより10Tの磁場を発生させ、磁界中で回転駆動が可能な非磁性型超音波モーターを用いてテーブルを磁界方向に対し、垂直方向に30rpmで回転させた。
【0038】
まず、磁場装置のテーブル上に基材となる石膏を静置し、回転駆動中に、テーブル上の石膏中へ第一のスラリーを少量流し込み、その後ある程度凝固させることにより、スリップキャスト法による第一の成形体からなる下引き層を形成した。
【0039】
次に、磁場装置のテーブル上で、下引き層を有する石膏内へ第二のスラリーを流し込むことでスリップキャスト法による成形を行ない第二の成形体を形成した。
第二の成形体と下引き層の積層体からなる成形体の形成は、スリップキャスト法処理後、一昼夜石膏内乾燥し、石膏より型抜きを行なった。その後、密閉容器内で45℃で24時間加熱処理を行なった。その後大気中で一週間乾燥させた。
【0040】
乾燥させた成形体は、ブレードソーを用い、表面及び下引き層を除去し、円盤状の第二の成形体を得た。
本焼成は、上記の第二の成形体を用いて、電気炉で、大気中、1300℃から1350℃、6時間の条件で焼成を行なった。ここで、得られた焼結体の密度をアルキメデス法で評価を行なった。また、得られた焼結体は、表面切削後、XRD(X線回折)による構造解析と蛍光X線解析による組成解析を行った。
【0041】
また、焼結した円盤形状のタングステンブロンズ構造金属酸化物を厚さ1mmに研磨の後、Au電極をスパッタ装置を用い両面に500
nm厚で形成し、切断装置を用いて2.5mm×10mmに切断し、電気特性評価用の圧電素子とした。
【0042】
分極処理は、温度160℃、印加電界20kV/cm、印加時間10minの条件で行なった。分極の状態は共振反共振法で確認した。圧電特性はd
33メータ(Piezo Meter System:PIEZOTEST社製)を用いて評価した。
【0043】
次に、第二の成形体と下引き層の積層体からなる成形体の配向分布について説明する。
図3は、本発明における第二の成形体と下引き層の積層体を焼成した焼結体の側面概略図である。
図4は、前記第二の成形体と下引き層の積層体を焼成して得られた配向したタン
グステンブロンズ構造金属酸化物の配向分布を示すグラフである。
【0044】
図4の縦軸は配向度を示すロットゲーリングファクターFであり、横軸は焼結体の厚さを示す。
図3に示す様に、第一の成形体1と第二の成形体2との境界面5を基点0、プラス側Aが境界面5から第二の成形体2の表面への距離、マイナス側Bが境界面5から第一の成形体1の底面への距離を表す。
【0045】
また、そのタングステンブロンズ構造金属酸化物の相対密度、d
33、サンプルの均一性、外観の結果を、表1に示す。
【実施例2】
【0046】
第二のスラリー用として、タングステンブロンズ構造金属酸化物(1−x)CBN−xBBN(0≦x≦1)、x=0.75の圧電材料を作成した。CBNはCa
1.4Ba
3.6Nb
10O
30、BBNはBa
4Bi
0.67Nb
10O
30である。原料には、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化ビスマス、酸化ニオブ粉末を用い、所定の混合比で乳鉢を用いた乾式混合を行った。
【0047】
またさらに、第一のスラリー用として、Mn添加のタングステンブロンズ構造(1−x)CBN−xBBN(0≦x≦1)、x=0.75の圧電材料を作成した。原料には、酸化マンガン、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化ビスマス、酸化ニオブ粉末を用い、所定の混合比で乳鉢を用いた乾式混合を行った。酸化マンガン量は、金属マンガン換算で0.4重量%である。なお、酸化マンガン量は、好ましくは金属マンガン換算で0.1重量%以上10重量%以下、より好ましくは0.3重量%以上5重量%以下である。
【0048】
仮焼は、上記2種の組成について同様に行なった。
まず、アルミナ製の坩堝に前記混合粉を仕込み、電気炉を用いて、大気中、950℃、5時間の条件で焼成することにより行なった。この後、乳鉢で粉砕した後、再度、アルミナ製の坩堝に前記混合粉を仕込み、電気炉を用いて、大気中、1100℃、5時間の条件で焼成を行った。
【0049】
スラリーの調製は、上記2種の仮焼粉について同様に行なった。
まず、上記の仮焼で得た粉末と純水、分散剤を2wt%で混合し、ポットミルを用いて、24時間以上の分散処理を行なった。ここで、分散状態の確認にはダイナミック光散乱光度計(Zeta Sizer:シスメックス(株)製)を用いて、粒径を測定した。測定の結果、平均粒径は2種のスラリー共におよそ950nmであった。このとき平均粒径は100nm以上2μm以下が好ましい。
【0050】
磁場処理には、超電導マグネット(JMTD−10T180:ジャパンスーパーコンダクタテクノロジー(株)製)を用いた。超電導マグネットにより10Tの磁場を発生させ、磁界中で回転駆動が可能な非磁性型超音波モーターを用いてテーブルを磁界方向に対し、垂直方向に30rpmで回転させた。
【0051】
まず、磁場装置のテーブル上に基材となる石膏を静置し、回転駆動中に、テーブル上の石膏の中へMn添加の第一のスラリーを少量流し込み、ある程度凝固させることでスリップキャスト法による第一の成形体からなる下引き層の成形を行なった。
【0052】
次に、磁場装置のテーブル上で、下引き層を有する石膏内へ、Mnを添加していない第2のスラリーを流し込むことでスリップキャスト法による第二の成形体の成形を行なった。
【0053】
成形体の形成は、実施例1と同様の条件で、スリップキャスト法の処理後、一昼夜石膏内で乾燥し、石膏より型抜きを行なった。その後、密閉容器内で45℃で24時間加熱処理を行なった。その後大気中で一週間乾燥させた。
【0054】
乾燥させた成形体は、実施例1同様の条件で、ブレードソーを用い、表面及び下引き層を除去し、円盤状の第二の成形体を得た。
本焼成は、実施例1同様の条件で、上記の第二の成形体を用いて、電気炉を用いて、大気中、1300℃から1350℃、6時間の条件で焼成を行なった。ここで、得られた焼結体の密度をアルキメデス法で評価を行なった。また、得られた焼結体は、表面切削後、XRD(X線回折)による構造解析と蛍光X線解析による組成解析を行った。
【0055】
また、実施例1と同様に、焼結した円盤形状のタングステンブロンズ構造酸化物を厚さ1mmに研磨の後、Au電極をスパッタ装置を用い両面に500
nm厚で形成し、切断装置を用いて2.5mm×10mmに切断し、電気特性評価用の圧電素子とした。
【0056】
分極処理は、温度160℃、印加電界20kV/cm、印加時間10minの条件で行なった。分極の状態は共振反共振法で確認した。圧電特性はd
33メータ(Piezo Meter System:PIEZOTEST社製)を用いて評価した。
【0057】
得られた配向したタングステンブロンズ構造金属酸化物の配向分布のグラフを
図5に示す。
図5の縦軸は配向度を示すロットゲーリングファクターFであり、横軸は焼結体の厚さを示す。第一の成形体と第二の成形体との境界面を基点0、プラス側Aが境界面から第二の成形の表面への距離、マイナス側Bが境界面から第一の成形体の底面への距離を表す。
【0058】
また、そのタングステンブロンズ構造金属酸化物の相対密度、d
33、サンプル均一性、外観の結果を、表1に示す。
【実施例3】
【0059】
ペロブスカイト構造金属酸化物チタン酸バリウムBaTiO
3の圧電材料を作成した。原料には、炭酸バリウム、酸化チタンを所定の混合比で乳鉢を用いた乾式混合を行った。
仮焼は、アルミナ製の坩堝に前記混合粉を仕込み、電気炉を用いて、大気中、1200℃、5時間の条件で焼成することにより行なった。この後、乳鉢で粉砕した後、再度、アルミナ製の坩堝に前記混合粉を仕込み、電気炉を用いて、大気中、1200℃、5時間の条件で焼成を行った。
【0060】
スラリーの調製は、第一のスラリー、第二のスラリー共に、上記の仮焼で得た粉末と純水、分散剤を2wt%で混合し、ポットミルを用いて、24時間以上の分散処理を行なった。また、用いる仮焼粉末には、平均粒径1μm以下の粒径サイズの水熱合成由来のBaTiO
3でも構わない。ここで、分散状態の確認にはダイナミック光散乱光度計(Zeta Sizer:シスメックス(株)製)を用いて、粒径を測定した。測定の結果、平均粒径はおよそ100nmであった。このとき平均粒径は30nm以上1μm以下が好ましい。
【0061】
磁場処理には、超電導マグネット(JMTD−10T180:ジャパンスーパーコンダクタテクノロジー(株)製)を用いた。超電導マグネットにより10Tの磁場を発生させ、磁場装置のテーブル上に基材となる石膏を静置し、テーブル上の石膏の中へ第一のスラリーを少量流し込み、その後ある程度凝固させることにより、スリップキャスト法による第一の成形体からなる下引き層を形成した。
【0062】
次に、磁場装置のテーブル上で、下引き層を有する石膏内へ第二のスラリーを流し込むことでスリップキャスト法による第二の成形体の成形を行なった。
成形体の形成は、スリップキャスト法処理後、一昼夜石膏内乾燥し、石膏より型抜きを行なった。その後、密閉容器内で45℃で24時間加熱処理を行なった。その後大気中で一週間乾燥させた。
【0063】
乾燥させた成形体は、ブレードソーを用い、表面及び下引き層を除去し、円盤状の第二の成形体を得た。
本焼成は、上記の第二の成形体を用いて、電気炉を用いて、大気中、1300℃から1400℃、2時間の条件で焼成を行なった。ここで、得られた焼結体の密度をアルキメデス法で評価を行なった。また、得られた焼結体は、表面切削後、XRD(X線回折)による構造解析と蛍光X線解析による組成解析を行った。
【0064】
また、焼結した円盤形状のペロブスカイト構造金属酸化物BaTiO
3を厚さ1mmに研磨の後、Au電極をスパッタ装置を用い両面に500
nm厚で形成し、切断装置を用いて2.5mm×10mmに切断し、電気特性評価用の圧電素子とした。
【0065】
分極処理は、温度100℃、印加電界10kV/cm、印加時間30minの条件で行なった。分極の状態は共振反共振法で確認した。圧電特性はd
33メータ(Piezo Meter System:PIEZOTEST社製)を用いて評価した。得られた圧電材料の相対密度、配向度、d
33、サンプル外観の結果を表2に示す。
【実施例4】
【0066】
ペロブスカイト構造金属酸化物チタン酸バリウムBaTiO
3の圧電材料を作成した。原料には、炭酸バリウム、酸化チタンを所定の混合比で乳鉢を用いた乾式混合を行った。また、用いる原料には、平均粒径1μm以下の粒径サイズの水熱合成由来のチタン酸バリウムBaTiO
3でも構わない。
【0067】
仮焼は、アルミナ製の坩堝に前記混合粉を仕込み、電気炉を用いて、大気中、1200℃、5時間の条件で焼成することにより行なった。この後、乳鉢で粉砕した後、再度、アルミナ製の坩堝に前記混合粉を仕込み、電気炉を用いて、大気中、1200℃、5時間の条件で焼成を行った。
【0068】
また、第1のスラリー用の仮焼粉には、酸化マンガンを混合し、焼成を行なった。このとき、酸化マンガン量は金属マンガン換算で0.4重量%である。なお、酸化マンガン量は、好ましくは金属マンガン換算で0.1重量%以上10重量%以下、より好ましくは0.3重量%以上5重量%以下である。
【0069】
スラリーの調製は、上記の仮焼で得た粉末と、純水と、分散剤を2wt%で混合し、ポットミルを用いて、24時間以上の分散処理を行なった。ここで、分散状態の確認にはダイナミック光散乱光度計(Zeta Sizer:シスメックス(株)製)を用いて、粒径を測定した。測定の結果、平均粒径はおよそ100nmであった。このとき平均粒径は30nm以上1μm以下が好ましい。
【0070】
磁場処理には、超電導マグネット(JMTD−10T180:ジャパンスーパーコンダクタテクノロジー(株)製)を用いた。超電導マグネットにより10Tの磁場を発生させ、磁場装置のテーブル上に基材となる石膏を静置し、テーブル上の石膏中へ第一のスラリーを少量流し込み、その後ある程度凝固させることにより、スリップキャスト法に第一の成形体からなる下引き層を形成した。
【0071】
次に、磁場装置のテーブル上で、下引き層を有する石膏内へ第二のスラリーを流し込むことでスリップキャスト法による第二の成形体の成形を行なった。
成形体の形成は、スリップキャスト法処理後、一昼夜石膏内乾燥し、石膏より型抜きを行なった。その後、密閉容器内で45℃で24時間加熱処理を行なった。その後大気中で一週間乾燥させた。
【0072】
乾燥させた成形体は、ブレードソーを用い、表面及び下引き層を除去し、円盤状の第二の成形体を得た。
本焼成は、上記の第二の成形体を用いて、電気炉を用いて、大気中、1300℃から1400℃、2時間の条件で焼成を行なった。ここで、得られた焼結体の密度をアルキメデス法で評価を行なった。また、得られた焼結体は、表面切削後、XRD(X線回折)による構造解析と蛍光X線解析による組成解析を行った。
【0073】
また、焼結した円盤形状のペロブスカイト構造金属酸化物BaTiO3を厚さ1mmに研磨の後、Au電極をスパッタ装置を用い両面に500
nm厚で形成し、切断装置を用いて2.5mm×10mmに切断し、電気特性評価用の圧電素子とした。
【0074】
分極処理は、温度100℃、印加電界10kV/cm、印加時間30minの条件で行なった。分極の状態は共振反共振法で確認した。圧電特性はd
33メータ(Piezo Meter System:PIEZOTEST社製)を用いて評価した。
得られた圧電材料の相対密度、配向度、d
33、サンプル外観の結果を、表2に示す。
【0075】
[比較例1]
タングステンブロンズ構造金属酸化物(1−x)CBN−xBBN(0≦x≦1)、x=0.75の圧電材料を作成した。CBNはCa
1.4Ba
3.6Nb
10O
30、BBNはBa
4Bi
0.67Nb
10O
30である。原料には、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化ビスマス、酸化ニオブ粉末を用い、所定の混合比で乳鉢を用いた乾式混合を行った。仮焼、スラリーの調製、本焼成、電気特性評価試料作製、分極処理は実施例1と同様の作業で行なった。本比較例1では磁場処理は行なわず、成形体の作製には、調製したスラリーを静置された石膏へ流し込み、およそ20分間放置して得た。
【0076】
得られた配向したタングステンブロンズ構造金属酸化物の配向分布のグラフを
図6に示す。
図6の縦軸は配向度を示すロットゲーリングファクターFである。横軸は焼結体の厚さを示し、底面から表面方向への距離を表す。
また、そのタングステンブロンズ構造金属酸化物の相対密度、d
33、サンプル均一性、外観の結果を、表1に示す。
【0077】
[比較例2]
ペロブスカイト構造金属酸化物BaTiO
3の圧電材料を作成した。原料には、炭酸バリウム、酸化チタンを所定の混合比で乳鉢を用いた乾式混合を行った。
【0078】
仮焼、スラリーの調製、本焼成、電気特性評価試料作製、分極処理は実施例3と同様の作業で行なった。本比較例2では磁場処理は行なわず、成形体の作製には、調製したスラリーを静置された石膏へ流し込み、およそ20分間放置して得た。
得られた圧電材料の組成、相対密度、配向度、d
33の結果を、表2に示す。
【0079】
[比較例3]
ペロブスカイト構造金属酸化物チタン酸バリウムBaTiO
3の圧電材料を作成した。原料には、炭酸バリウム、酸化チタンを所定の混合比で乳鉢を用いた乾式混合を行った。仮焼は、アルミナ製の坩堝に前記混合粉を仕込み、電気炉を用いて、大気中、1200℃
、5時間の条件で焼成するとにより行なった。この後、乳鉢で粉砕した後、再度、アルミナ製の坩堝に前記混合粉と酸化マンガンを混合し、電気炉を用いて、大気中、1300℃、5時間の条件で焼成を行った。スラリーの調製、本焼成、電気特性評価試料作製、分極処理は実施例3と同様の作業で行なった。本比較例3では磁場処理は行なわず、成形体の作製には、調製したスラリーを静置された石膏へ流し込み、およそ20分間放置して得た。
【0080】
得られた圧電材料の配向度、d
33、サンプル外観の結果を、表2に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
表1には、本実施例1、2及び比較例1の各タングステンブロンズ構造金属酸化物の相対密度、d
33、サンプル均一性、外観の結果を示す。
ここで、均一性を示す記号は、均一性評価検討において、行なった分類である。○は所望の組成の第2のスラリーより成る領域の焼結体の配向度が厚さ方向に揃っていることを表す。◎は所望の組成の第2のスラリーより成る領域の焼結体の配向度が厚さ方向に揃っていると共に、境界面でも配向度が揃っていることを示す。×は所望の組成の焼結体の配向度が厚さ方向に傾斜を持っていることを示す。
【0083】
また、外観は、目視でクラックが観察されたものは×、クラックが無かったものは○とした。クラックの大きさは数mm程度のものを対象とした。
ここで、均一性評価の検討は具体的に以下の要領で行なった。
図2の円盤状焼結体の側面図に示すように、焼結したセラミックスを第一のスラリーが基材に接してできた面から順次0.5mm間隔でXRDのθ−2θ測定と研削を繰り返しながら厚み方向の分布を評価した。その結果、実施例1、2の結果はそれぞれ
図4、5のグラフに示すようになった。これに対し、従来技術である比較例1の結果を
図6に示す。
図6によると、底面付近で配向度F=20%、次の0.5mm研削後に配向度F=70%、次の0.5mm研削後に配向度F=80%、次の0.5mm研削後に配向度F=90%、それ以降は配向度F=90%で一定というように配向の傾斜が連続していることが分かる。従来技術の比較例1では表1に示すように、配向度が高いものの、配向度が不均一となり、更にクラックが発生した。この原因は、次のように考えられる。
【0084】
比較例1の製法では、まず磁場印加中にスラリーをスリップキャストした直後に、スラリー中の粒子が十分な配向を付与されないままに底面に固定化されてしまった。しかし、厚みが増すごとにその拘束が緩和され徐々に配向が付与された粒子が配列していった。この結果、底面から上面にかけて連続的に配向に傾斜が生じることとなった。更に、こうして得られた成形体を、乾燥工程及び焼成工程を行なうと、特に比較例1に用いたタングステンブロンズ構造金属酸化物のように結晶異方性の高い場合、内部の配向が高い部分と底面の配向の低い部分で収縮差が大きくなり、大きな応力が発生しクラックの原因となり易いと考えられる。
【0085】
これに対し、実施例1、2は、成形体を得る工程において、所望の材料から成るスラリ
ーを磁場処理を施す基材上に、予め下引き層を形成することを特徴とする。また、好ましくは、下引き層に用いる第1のスラリーの原料に磁性材料を含むと良い。更に好ましくは、前記磁性材料がMnであることがより好ましい。
【0086】
実施例1、2の製法によって、比較例1見られたクラックは無くなり、良質なタングステンブロンズ構造金属酸化物となった。このメカニズムは、次のように考えられる。
実施例1、2の第1のスラリーより成る下引き層の形成により、十分な配向を付与されないままに底面より固定化される層をこの下引き層が受け持つことになる。更に、このとき得られる成形体は下引き層と下引き層上に形成された所望の組成のタングステンブロンズ構造金属酸化物との界面に境界面5が形成された。この境界面5は、実施例1では
図4のように底面から1.2mm研削した面付近であり、この位置を基点0mmとした。また、実施例2でも
図5のように底面より1.2mm研削した面付近であり、この位置を基点0mmとした。この不連続な境界面に、乾燥工程及び焼成工程等で生じる収縮差によるせん断応力が集中するために、最終的に不要な下引き層に応力を閉じ込めることができ、下引き層を剥離させ切り離すことも可能である。こうして、所望の組成の第2のスラリーから成るタングステンブロンズ構造金属酸化物は均一な配向を保持した成形体及び焼結体を得ることが可能となる。
【0087】
ここで、実施例2のように、下引き層の第2のスラリーに磁性材料であるMnを含んだ場合、
図5のように、境界面よりも下引き層側から既に高い配向を持ち、結果、所望の第2のスラリーから成るタングステンブロンズ構造金属酸化物が、さらに均一性に優れた高配向のタングステンブロンズ構造金属酸化物を提供することが出来た。
【0088】
これは、Mn添加により、第1のスラリーの磁気感受性が促進され下引き層が、Mn添加無しに比べて配向し、境界面が不連続であっても配向の情報を引きずることとなったものと考えられる。
【0089】
【表2】
【0090】
表2にペロブスカイト構造金属酸化物であるチタン酸バリウムBaTiO
3系材料の実施例3、4の配向度F、圧電定数d
33、ペレットの外観評価の結果を示す。また、外観については、クラックが観察されたものは×、クラックが無かったものは○とした。
【0091】
この結果、結晶異方性の低いBaTiO
3系材料では、実施例3、4でそれぞれ配向度F=約20%、30%であり、配向均一性評価の結果、実施例1、2と同様に境界面を有していた。これに対し、従来技術である比較例1、2はそれぞれ配向度F=約5%、10%であり、配向均一性評価の結果、比較例1同様に境界面は無く、連続的な配向傾斜を有していた。これらの圧電性の評価結果d
33は実施例3、4はそれぞれ280pC/N、311pC/Nであり、比較例2、3はそれぞれ212pC/N、256pC/Nとなり、配向度に順ずる結果となった。外観においては、実施例3、4ではクラックが見られず良好であるのに対し、比較例2、3ではクラックが見られた。