特許第5676980号(P5676980)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5676980
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月25日
(54)【発明の名称】マグネトロンおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 23/40 20060101AFI20150205BHJP
【FI】
   H01J23/40 B
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2010-193743(P2010-193743)
(22)【出願日】2010年8月31日
(65)【公開番号】特開2012-54010(P2012-54010A)
(43)【公開日】2012年3月15日
【審査請求日】2013年7月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000113322
【氏名又は名称】東芝ホクト電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082740
【弁理士】
【氏名又は名称】田辺 恵基
(74)【代理人】
【識別番号】100174104
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 康一
(74)【代理人】
【識別番号】100081732
【弁理士】
【氏名又は名称】大胡 典夫
(72)【発明者】
【氏名】東 正寿
【審査官】 佐藤 仁美
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−010334(JP,A)
【文献】 特開2002−093332(JP,A)
【文献】 特開2000−164151(JP,A)
【文献】 特開平04−067536(JP,A)
【文献】 特開2005−050572(JP,A)
【文献】 特開2002−124196(JP,A)
【文献】 特開2006−324029(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 23/00−25/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極円筒に接合され内壁にチョークを配置した筒状の金属封着体と、この金属封着体に接合する絶縁円筒と、この絶縁円筒に接合される排気金属管と、前記金属封着体および前記絶縁円筒の内側を通り前記排気金属管に接続されたアンテナリードを有する出力部を具備したマグネトロンにおいて、前記チョークは熱膨張係数が前記金属封着体と同じまたはそれ以上である金属環体からなり、前記金属封着体の内壁に圧入され、前記圧入後の前記金属封着体壁および前記金属環体面に金属メッキ膜が被覆されていることを特徴とするマグネトロン。
【請求項2】
前記金属環体の外環壁が外側に傾斜している請求項1記載のマグネトロン。
【請求項3】
前記金属環体の外環壁にスリットが設けられている請求項1または2記載のマグネトロン。
【請求項4】
前記金属封着体が直径の異なる内壁を有し、その間に形成される段差が圧入金属環体のストッパとして金属環体の取り付け位置を決めていることを特徴とする請求項1記載のマグネトロン。
【請求項5】
筒状の金属封着体の内壁に、チョークを形成する環状溝を有し熱膨張係数が前記金属封着体と同じまたはそれ以上である金属環体を弾性的に圧入する工程と、前記圧入工程後に前記金属封着体壁および前記金属環体面に金属メッキ膜を被覆する工程とを具備し、前記金属封着体内壁に前記チョークが固着されることを特徴とするマグネトロンの製造方法。
【請求項6】
前記金属封着体の内壁にそれぞれ内環壁の径が異なる複数の金属環体を各内環壁端に当接する段付き冶具により圧入し、圧入後に前記金属封着体壁および前記金属環体面に金属メッキ膜を被覆する請求項5記載のマグネトロンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマグネトロンおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
調理用の電子レンジは、2.45GHz帯のマイクロ波を発生するマグネトロンを利用する。しかし、マグネトロンは基本波成分以外に高次高調波成分を同時に発振し出力部から放射する。周波数が高い分、電子レンジからの漏洩の防止が難しく、この高次高調波成分は他周波数帯域の電波通信に影響を与えることから雑音成分として輻射が規制される。
【0003】
マグネトロンから出力される高調波の輻射を抑えるために、マイクロ波の出力部に数次の高調波に対応する一般にλ/4型といわれるチョークを内蔵して高調波の漏洩を抑制している。
【0004】
従来の出力部の一例を図7に示す。出力部100は、金属封着体101、絶縁円筒103、排気用金属管104などから構成され、これらの内側をアンテナリード105が管軸方向に伸びている。
【0005】
金属封着体101は全体が筒状で、その内壁に環状溝を形成した樋状のチョーク102がロー付けにより形成される。
【0006】
また、図8に示すように、金属封着体101を、絶縁円筒103との接合部分で、内側に折り曲げて環状溝のチョーク102aを形成した構造がある。
【0007】
以上のようにチョークは金属封着体とは別部品として用意しロー付けにより接合したり、金属封着体と一体にプレス成形して形成される。チョークの材質として、冷間圧延鋼板やステンレス鋼などの鉄(Fe)または鉄合金が使用され、ガス放出やロー付け性、耐腐食性向上のために、ニッケル(Ni)や銅(Cu)のメッキが施される。
【0008】
ロー付けには一般的に銀(Ag)と銅の合金ローが用いられる。環状のロー材を用いるが、メッキ膜にしてロー材とするものもある。一例としてCuの陽極ベインとストラップリングのロー付けのために、あらかじめ両者を軽く嵌合させてAgメッキを施すか、Agメッキを施してから嵌合し、ブレージングによりメッキを溶融してロー付けするものがある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5―21015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
金属封着体と一体にプレス成形する場合は部品点数やロー材の削減にもなりコストダウンが可能になる。一方では工程や金型のコスト、部品精度などを考慮するとプレスの制約上から金属封着体に一つのチョークしか設けることが出来ないという問題がある。また材質や板厚によりチョーク形状寸法および精度にも制限が出てくる。
【0011】
高調波輻射阻止のために、金属封着体内壁に複数のチョークを形成したい場合や一体成形で作ることが出来ないチョーク寸法を実現したい場合は、別部品のチョークを用意し金属封着体にロー付けする必要がある。その場合、一体成形の部品に比べてチョーク部品に対する下記のようなコストが余分にかかる。
【0012】
(1)材料コスト
(2)加工(プレス成形)コスト
(3)メッキコスト
(4)ロー材コスト
通常のプレス部品の場合、全体のコストに占める割合は(1)(2)に対して(3)(4)が大幅に大きいことが多く、結果として製品のコスト上昇につながる。
【0013】
本発明はこのような不都合を解決し低コストで高調波抑制効果の高いマグネトロンを得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、陽極円筒に接合され内壁にチョークを配置した筒状の金属封着体と、この金属封着体に接合する絶縁円筒と、この絶縁円筒に接合される排気金属管と、前記金属封着体および前記絶縁円筒の内側を通り前記排気金属管に接続されたアンテナリードを有する出力部を具備したマグネトロンにおいて、チョークは熱膨張係数が前記金属封着体と同じまたはそれ以上である金属環体からなり、金属封着体の内壁に圧入され、圧入後の金属封着体壁および金属環体面に金属メッキ膜が被覆されていることを特徴とするマグネトロンにある。
ことを特徴とする。
ことを特徴とする。
【0015】
さらに、本発明は、チョークを形成し熱膨張係数が金属封着体と同じまたはそれ以上である金属環体を金属封着体の内壁に圧入し、圧入後の金属封着体壁および金属環体面に金属メッキ膜が被覆するマグネトロンの製造方法にある。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、低コストで高調波抑制効果の高いマグネトロンを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態のマグネトロンの断面図。
図2】本発明の一実施形態を説明するもので(a)は出力部の一部を示す断面図、(b)は製造工程を示す略図。
図3】本発明の他の実施形態を説明する断面図。
図4】本発明の他の実施形態を説明する断面図。
図5】本発明の他の実施形態の製造工程を説明する断面図。
図6】本発明の他の実施形態を説明する斜視図。
図7】従来のマグネトロンの出力部を説明する断面図。
図8】従来の他のマグネトロンの出力部を説明する断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1および図2に示すように、マグネトロンはマイクロ波を発振する発振部10とその一方側に形成した入力部20、他側に形成した出力部30からなる。そしてマグネトロンの外部に一対の環状磁石40が嵌着され、ヨーク41で固定されている。発振部10の外壁に冷却フィン42が取り付けられ、その他端はヨーク41に固着される。入力部20にはチョークコイル43と貫通コンデンサ44を備えたフィルターボックス45が設けられる。
【0019】
(発振部)
高周波を発生する発振部10は、Cuでできた陽極円筒11および陽極円筒11内の中央部に位置するカソード12、空胴共振器を形成する複数の陽極べイン13などから構成されている。陽極べイン13は、陽極円筒11と同じCuででき陽極円筒11およびカソード12間に放射状に設けられ、その一端は陽極円筒11の内壁に固定されている。複数の陽極べイン13は、その1つ置きどうしが共通のストラップリング14で接続されている。陽極円筒11の図示上下の開口端部にポールピース15、16が固定され、カソード12にエンドシールド17が接続されている。ポールピース15上方に出力部30が設けられている。
【0020】
(入力部)
入力部20はカソード12を陽極円筒11中央部に配置しかつ電流を供給する2本のカソードロッド21,22とこれらのカソードロッドを支持し電気的に外部に引き出す絶縁ステム23を有している。絶縁ステム23は陽極円筒11との間に配置した外囲器の一部となる入力側金属封着体24で封着されている。
【0021】
(出力部)
出力部30は、外囲器の一部をなす金属封着体31、高調波を阻止するチョーク32およびセラミック絶縁円筒33、排気用金属管34、アンテナリード35などから構成されている。金属封着体31と絶縁円筒33、絶縁円筒33と排気用金属管34はロー材によって気密接合され、その内側空間をアンテナリード35が管軸m方向に伸びている。アンテナリード35は、一端部が陽極ベイン13の1つと電気的に接続され、他端部は排気用金属管34に排気の封止と同時に固定されている。
【0022】
図2に示すように、金属封着体31は冷間圧延鋼板(SPCC)を材質として筒状に形成され、管軸mに対し垂直方向に広がる鍔状部31aおよび管軸mの延長方向に伸びる筒状部31b、同じく管軸mの延長方向に伸びる縮径筒状部31cから構成され、鍔状部31aの外縁が陽極円筒11に接合されている。さらに金属封着体31の縮径筒状部31cと絶縁円筒33の下端面が接合されている。
【0023】
また絶縁円筒33の上端面に排気用金属管34が接合されている。排気用金属管34は、上端が封止された筒状部34aと径大円筒部34bから構成され、径大円筒部34bの図示下端面が絶縁円筒33に接合されている。
【0024】
図2(a)に示すように、チョーク32は断面U字状の環状溝を形成した金属環体で形成される。外環壁32aを低く、内環壁32bを高く形成し、外環壁が金属封着体31の内壁31fに同軸的に、すなわち管軸mに合わせて圧入嵌合されており、その上からメッキ膜36が施されている。チョークの深さは抑制すべき高調波に対応させる。実際には溝開口幅や取り付け位置により高調波のλ/4波長とずれが生じるので調整される。
【0025】
チョーク32の材質の膨張係数は金属封着体31の膨張係数以上に選定され、例えば両者ともに冷間圧延鋼板(SPCC,SPCD,SPCE)を用いることができる。金属封着体31として0.5mm厚、チョーク32として0.3mm厚の鋼板をプレス成形して形成する。
【0026】
図2(b)に示すようにチョーク32を構成する金属環体の外環壁32aを外側に傾斜させてバネ性をもつようにしておき、金属封着体31に挿入し圧入させると弾性的に機械的に嵌合する。圧入により得られる複合部材31,32をNiメッキ浴で無電解メッキを施すことにより、金属封着体の内外壁およびチョークを形成する金属環体面にNiメッキ膜36が形成される。メッキ膜は例えば5〜7μm厚である。これによってチョークの電気的接続が確実になる。一般的に無電解メッキは狭い隙間や端部などでも均一な膜厚が得られる。したがってメッキ膜は金属封着体およびチョーク間の隙間に十分に入り込み両者を固定する。これにより圧入されたチョークの信頼性の高かい固着が確保される。なお無電解メッキのほか電解メッキなどの他のメッキの採用も可能である。また得られるメッキ膜は被膜後に加熱溶融させることが無いのでCuメッキなど他の金属のメッキでもよい。
【0027】
複合部品としてメッキを一度に施すことができ、さらにチョークのロー付け工程を省くことができるので、工程を単純にでき自動化も容易である。このため従来大量生産のために必要であったチョーク部品のメッキコストとロー材コストを削減できるという大きな効果がある。
【0028】
本実施形態では金属封着体やチョークに低炭素鋼の冷間圧延鋼板を用いたが、鉄材として42アロイやコバールなどの鉄合金を用いることが出来る。
【0029】
金属封着体31とチョーク32の材質は同じであることが望ましいが、異なる場合はチョークの膨張係数を金属封着体の膨張係数よりも大きくすることが望ましい。金属封着体を冷間圧延鋼板とし、チョークをCuで形成すると、銅(16.8×10−6)は上記鋼板(低炭素鋼:12×10−6)よりも熱膨張係数が大きいので、他の部品のロー付け中や管動作中に高温にさらされた場合でも、嵌合によって固定された位置は変わらずに保持される。
【0030】
Cu材を用いる場合冷間圧延鋼板よりも材料コストは上がるが、板厚も薄く比較的小型の部品であることと、ロー材を使用することがないのでコスト上昇にはならない。
【0031】
また本実施形態のチョーク取り付け構造によれば、チョーク形状や取り付け位置の自由性が高いので、金属封着体にプレスでチョークを成形したり、ロー付けする場合に比べて寸法精度の高い任意の複数チョーク構造を低コストで実現することができる。
【0032】
図3の実施形態は、金属封着体の中間所定位置から内壁の直径が異なる縮径部31dを形成し、その環状に形成される段差31eによってチョークの位置決めを行う構造であり、圧入冶具に制約が無く精度のよい取り付けの位置決めが可能になる。たとえばチョーク外径d0を16.5mmとし上端側を縮径して段差の内径d1を16.0mmにする。段差31eはチョーク圧入時のストッパになる。さらにストッパとしてこれにかえて金属封着体内壁に複数の突起を設けるなど他の構造にしてもよい。
【0033】
図4の実施形態はプレスによる一体成形によりチョーク37を形成した金属封着体31の中間部に段差31eを形成して、この段差をストッパにして別部品として製造した金属環体のチョーク32を圧入した構造である。圧入後にこれらの複合部品表面にメッキ膜(図示しない)を施す。これにより複数チョークを備えた金属封着体を容易に製造することが出来る。
【0034】
図5の実施形態は、金属封着体内壁にその軸方向にチョーク321,322を複数個例えば2個離して配置する場合にそれぞれのチョークの内環壁の径を変えることにより、各内環壁端に当接する段付き圧入冶具39を用いて金属封着体内壁に一度に圧入することが出来るようにしたものである。圧入後にメッキすれば、これらのチョークは容易に固定される。
【0035】
図6の実施形態は、チョーク32を形成する金属環体の外環壁32aに圧入を容易にするためのスリット32a1を1以上望ましくは複数個設けて、金属封着体に圧入する場合の弾性力を適切に調整することが出来るようにしたものである。さらにスリットを設けた分の縁辺が長くなる結果、メッキ膜に接する縁が長くなり、チョークはより強固に固定される。
【0036】
金属封着体およびチョークが加工中に酸化しやすい金属例えば鉄材で形成した場合、あらかじめ仮メッキなどの防錆処理を施してもよい。仮メッキした部品を本発明による圧入後、本メッキを施すことで、チョークの組み込みを完成する。
【0037】
本発明はメッキ膜は加熱により溶解せずロー材として用いないので、銀などの高価なロー材やロー付けのための熱処理が不要となり、コストダウンが可能になる。
【0038】
以上のように本発明によれば、金属封着体に別部品のチョークをロー付けすることなく固着することができるので、上記実施の形態に限らず、本発明を逸脱しない範囲で種々の変更が可能なものである。
【符号の説明】
【0039】
10:発振部、11:陽極円筒、12:カソード、13:陽極ベイン、14:ストラップリング、20:入力部、21,22:カソードロッド、30:出力部、31:金属封着体、31e:段差、32:チョーク(金属環体)、32a:外環壁、32b:内環壁、32a1:スリット、33:絶縁円筒、34:排気用金属管、35:アンテナリード、36:メッキ膜、39:段付き圧入冶具
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8