(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5676992
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月25日
(54)【発明の名称】気化器
(51)【国際特許分類】
F02M 3/02 20060101AFI20150205BHJP
【FI】
F02M3/02 A
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2010-210882(P2010-210882)
(22)【出願日】2010年9月21日
(65)【公開番号】特開2012-67618(P2012-67618A)
(43)【公開日】2012年4月5日
【審査請求日】2013年9月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000153122
【氏名又は名称】株式会社ニッキ
(74)【代理人】
【識別番号】100098154
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 克彦
(74)【代理人】
【識別番号】100092864
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 京子
(72)【発明者】
【氏名】藤井 和弘
【審査官】
二之湯 正俊
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−050913(JP,A)
【文献】
特開2001−027154(JP,A)
【文献】
特開2002−357162(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 1/00− 5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソレノイド駆動式の遮断弁が燃料通路の途中に配置されて、エンジン始動時に先端側に円筒状の弁体を有するプランジャが前記ソレノイド側に引かれることで前記弁体が前記燃料通路を開放することで遮断弁が開弁して燃料供給が開始され、エンジン停止後に前記プランジャが前記ソレノイド側から突出することで前記弁体が前記燃料通路を閉鎖することで遮断弁が閉弁して燃料の供給を遮断する燃料カット機構付きの気化器において、前記先端側に円筒状の弁体を有したプランジャがその中心線を直角方向に変異動作可能な状態で前記ソレノイド本体先端側のスリーブ先端面に開口したプランジャ孔に突出して設けられており、前記プランジャが突出・没入する前記スリーブ先端面のプランジャ孔の円形の開口部に、内周方向に沿って均一に角を面取りして内径を拡大した逆テーパー面が形成され、前記弁体は前記プランジャ孔よりも大径であるとともにその基端面には前記プランジャの外周面から続き前記基端面に近づくに従って外径を拡大するとともに前記プランジャの中心線を中心とした円周方向に亘って均一に形成されてその中心線が前記プランジャの中心線に一致したテーパー面を形成してなるガイド凸部が突設されており、前記遮断弁の開弁動作時に、前記弁体の基端面から下向きに突設したガイド凸部のテーパー面が前記スリーブのプランジャ孔開口部に形成した逆テーパー面に接しながら上を滑りながら中心線に対する偏芯状態を修正するように案内され、前記弁体の基端面がスリーブ先端面に当接して停止した開弁動作完了時点で前記弁体が前記プランジャの中心線及び前記弁体の中心線が前記プランジャ孔の中心線に一致して前記ソレノイド本体先端側の所定位置に納まることを特徴とする気化器。
【請求項2】
前記弁体は、メインノズルの基端側開口部を弁シートとしてメイン系燃料通路の途中を開閉するものとされ、開弁動作完了時点で前記メインノズルの中心線に対しその中心線が一致するように配置されていることを特徴とする請求項1に記載した気化器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンに燃料を供給するための気化器に関し、殊に、キーOFF後に燃料の供給をカットする燃料カット機構付きの気化器に関する。
【背景技術】
【0002】
汎用エンジン等、比較的小型で簡易な構成のエンジンに燃料を供給する気化器として、例えば特開平10−227264号公報に記載されたものが知られている。この公報に提示されている気化器は、
図4に示すように、メインジェット4出口からメインノズル6基端側に至るメイン系の燃料通路60の途中を、ソレノイド本体70で作動するプランジャ710先端の弁体71Bで閉鎖することにより燃料の供給を遮断してキーOFF後のランオン等の発生を防止する燃料カット機構7Bを備えているのが通常である。
【0003】
そして、
図4に示した気化器1Bはその破線円中部分を拡大し開弁時の状態を示す
図5に示すように、その円柱状の弁体71Bは、これにより閉鎖されるメイン系の燃料通路60の大部分を占めるメインノズル6の中心線Xに対し、その中心線が直角方向に変位動作可能な状態でソレノイド本体70先端側のスリーブ70bから突出して設けられており、ソレノイド本体70に通電した開弁時に弁体71Bが太線矢印で示す燃料の流れの中に存在するために、中心線Xに対する弁体71Bの変動状況に応じて燃料の流れが大きく変化してしまう。
【0004】
即ち、
図6(A)の弁体71B部分を中心として拡大した部分縦断面図に示すように、プランジャ710外周面とプランジャ710を挿通したスリーブ70bのプランジャ孔720内周面との間に隙間Yが形成されており、
図6(A)の閉弁状態からソレノイド本体70に通電して作動させることで、
図6(B)に示すようにプランジャ710及び弁体71Bが、隙間Yの範囲で中心線Xからずれ動いてしまう。そのため、この気化器1Bを実際に作成して使用した場合のエンジン負荷と排気CO濃度の関係を表す
図7のグラフに示すように、エンジン始動の度に燃料の流れが変動してエンジン性能にバラツキを生じるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−227264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような問題を解決しようとするものであり、燃料カット機構付きの気化器について、燃料カット用ソレノイドの作動による開弁時に弁体が一定位置に収まるようにして、エンジン性能の不安定化を回避することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明は、ソレノイド駆動式の遮断弁が燃料通路の途中に配置されて、エンジン始動時に先端側に弁体を有したプランジャがソレノイド側に引かれることで遮断弁が開弁して燃料供給が開始され、エンジン停止後にプランジャがソレノイド側から突出することで遮断弁が閉弁して燃料の供給を遮断する燃料カット機構付きの気化器において、そのソレノイド本体先端側で開口しプランジャが突出・没入するプランジャ孔の円形の開口部に、内周方向に沿って均一に角を面取りして内径を拡大した逆テーパー面が形成され、その弁体はプランジャ孔よりも大径であるとともにその基端面にはプランジャの外周面から
続きその基端面に近づくに従って外径を拡大したテーパー面を形成してなるガイド凸部が突設されており、遮断弁の開弁動作時に、そのテーパー面が逆テーパー面に接しながら弁体の動作方向を案内して、開弁動作完了時点で弁体がソレノイド本体先端側の所定位置に納まることを特徴とする。
【0008】
従来例では、ソレノイド本体先端側に開口したプランジャ孔内周面とプランジャ外周面との間に隙間がある関係で、開弁時にプランジャがプランジャ孔の中心線からずれた様々な位置に収まるため、燃料の流れの変動を生じる原因となっていたが、本発明において弁体の基端面にプランジャ孔開口部の逆テーパー面に接しながらプランジャを所定位置に向かうように案内するテーパー面を有したガイド凸部を設けて開弁動作完了時点で弁体が一定位置に納まるようにしたことで、開弁の度に弁体が同一の位置に収まるため、燃料の供給状況に変動が生じない。
【0009】
また、この気化器において、ガイド凸部はそのテーパー面がプランジャの中心線を中心とした円周方向に亘って均一に形成されてその中心線がプランジャの中心線に一致しており、開弁動作完了時点でプランジャの中心線及び弁体の中心線がプランジャ孔の中心線に一致する、ことを特徴としたものとすれば、一層正確な燃料供給が実現しやすい。
【0010】
さらに、上述した気化器において、その弁体は、メインノズルの基端側開口部を弁シートとしてメイン系燃料通路の途中を開閉するものとされ、開弁動作完了時点でメインノズルの中心線に対しその中心線が一致するように配置されている、ことを特徴としたものとすれば、開弁動作完了時点の弁体位置の正確さによる燃料供給量の変動回避機能が最も有効に発揮されるものとなる。
【発明の効果】
【0011】
プランジャ孔開口部の逆テーパー面に接しながらプランジャを所定の位置に向かうように案内するテーパー面を弁体基端面側に形成した本発明によると、燃料カット用ソレノイドの駆動による開弁時に弁体が一定位置に収まって、エンジン性能の不安定化を回避できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明における実施の形態の縦断面図である。
【
図2】(A)は
図1の燃料カット機構の閉弁時における弁体部分を中心として拡大した部分縦断面図、(B)は(A)の状態から開弁した状態を示す部分縦断面図である。
【
図3】本実施の形態の気化器を用いて実際にエンジンを運転した場合のエンジン負荷と排気CO濃度の関係を表したグラフである。
【
図5】
図4の気化器の破線円形部分を拡大して閉弁時の状態を示す部分縦断面図である。
【
図6】(A)は
図4の気化器の燃料カット機構の弁体部分を中心として拡大して閉弁時の状態を示す部分縦断面図、(B)は(A)の状態から開弁した状態を示す部分縦断面図である。
【
図7】従来例による気化器を用いて実際にエンジンを運転した場合のエンジン負荷と排気CO濃度の関係を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための形態を説明する。
【0014】
図1は、燃料カット機構7Aを備えた本実施の形態の気化器1Aの縦断面図を示している。この気化器1Aでは、メイン系の燃料通路60の大部分を構成するメインノズル6の
中心線Xに対し、その中心線及び動作方向を一致するようにプランジャ710及び弁体71Aがメインノズル6の基端側開口部の下方で上向きに配置されている。
【0015】
この燃料通路60のメインノズル6基端側下方には、その中心線Xに対し横向きにメインジェット4が接続して定量燃料室3側と連通しており、メインノズル6の基端側開口部を弁シートとしてこれを閉鎖する円柱状の弁体71Aとで燃料カット用の遮断弁を構成している。そして、キーONによりソレノイド本体70に通電して作動させることで、弁体71Aを引き下げて開弁させ、燃料通路60を開通させてエンジンに燃料の供給を行うようになっている。
【0016】
また、キーOFFによりソレノイド本体70への通電を停止して、プランジャ710に付設した図示しない戻しバネで弁体71Aを持ち上げて閉弁させ、燃料供給を停止(カット)するようになっており、以上の構成部分は
図4の従来例にも共通した周知のものである。しかし、従来例においては弁体71Bが閉弁時にスリーブ70bのプランジャ孔720内で中心線Xからずれた様々な位置に収まることで燃料の流れの変動を招いており、エンジン性能の不安定化の問題を生じていた。
【0017】
これに対し、本発明においては、プランジャ孔720よりも大径の円柱状に形成された弁体71Aの基端面に、プランジャ710外周面から続き基端面に近づくに従って外径が拡大したテーパー面710aを形成してなるガイド凸部71aが突設されており、開弁動作において、このガイド凸部71aがプランジャ孔720の円形開口部で内周方向に沿って均一に角を面取りしてなる逆テーパー面720aにそのテーパー面710aを接しながら動作方向を案内して、開弁動作完了時点で弁体71Aがプランジャ孔720aの中心線に一致(中心線Xにも一致)した定位置に収まるようになっており、この点が特徴部分となっている。
【0018】
即ち、
図2の弁体71A部分を中心として拡大した部分縦断面図に示すように、
図2(A)のプランジャ710が突出した閉弁状態から、
図2(B)に示すようにソレノイド本体70に通電してプランジャ710を引き下ろすことで、弁体71A基端面から下向きに突設したガイド凸部71aのテーパー面710aが、スリーブ70bのプランジャ孔720開口部に形成した逆テーパー面720a上を滑りながら中心線Xに対する偏芯状態を修正するように案内され、スリーブ70b先端面が弁体71A基端面に当接して停止した開弁動作完了時点で、プランジャ710及び弁体71Aの中心線が中心線Xに一致した位置に、毎回正確に収まるようになっている。
【0019】
そのため、
図2(B)の開弁状態において、弁体71Aが燃料通路60内で毎回正確な位置に固定されるようになり、開弁の度に燃料供給量が変動することなく正確な燃料の流れ(燃料供給状態)が確保されるため、エンジン性能の不安定化を招くおそれのないものとしている。
【0020】
図3は、上述した本実施の形態の気化器1Aと同じ構成の気化器を作成し、
図7に示した従来例による試験結果の際と条件と同様にして、複数回エンジンを始動・運転した試験結果に基づいて、エンジン負荷と排気CO濃度の関係を表すグラフを示したものである。
【0021】
前記
図3に示したグラフを
図7の従来例による試験結果のグラフと比較した場合、上述した本実施の形態の構成を採用したことにより、エンジン負荷に対する排気CO濃度のバラツキ幅が顕著に小さくなっており、エンジン始動毎に生じていた燃料供給の変動量が少なく抑えられてエンジン性能の不安定化を有意に回避していることが分かる。
【0022】
以上、述べたように、燃料カット機構付きの気化器について、本発明により、燃料カッ
ト用ソレノイドの作動による開弁時に弁体が一定位置に収まるものとして、エンジン性能の不安定化を確実に回避できるものとなった。
【符号の説明】
【0023】
1A 気化器、3 定量燃料室、4 メインジェット、6 メインノズル、7A 燃料カット機構、60 燃料通路、70 ソレノイド、71A 弁体、71a ガイド凸部、70b スリーブ、710 プランジャ、710a テーパー面、720 プランジャ孔、720a 逆テーパー面