特許第5677053号(P5677053)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5677053
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月25日
(54)【発明の名称】X線CT装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/03 20060101AFI20150205BHJP
【FI】
   A61B6/03 373
   A61B6/03 330A
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2010-266107(P2010-266107)
(22)【出願日】2010年11月30日
(65)【公開番号】特開2012-115367(P2012-115367A)
(43)【公開日】2012年6月21日
【審査請求日】2013年10月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】300019238
【氏名又は名称】ジーイー・メディカル・システムズ・グローバル・テクノロジー・カンパニー・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100106541
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 信和
(72)【発明者】
【氏名】西出 明彦
【審査官】 安田 明央
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−006531(JP,A)
【文献】 特開2009−131464(JP,A)
【文献】 再公表特許第2009/011422(JP,A1)
【文献】 特開昭59−068200(JP,A)
【文献】 特開昭62−276798(JP,A)
【文献】 特開2006−288537(JP,A)
【文献】 特開2008−154669(JP,A)
【文献】 特開2009−090115(JP,A)
【文献】 特表2011−515822(JP,A)
【文献】 特開2009−268899(JP,A)
【文献】 特表平08−512169(JP,A)
【文献】 特開昭62−168395(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00−6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極に正電圧が印加され、陰極に負電圧が印加されるX線管を有しており、X線管電圧を複数の設定管電圧に切り換えながら対象を撮影するX線CT装置であって、
前記X線管の陽極に印加する正電圧を発生し、正電圧切換信号に応じて、前記正電圧を、前記X線管電圧が前記複数の設定管電圧のいずれかである所定の設定管電圧となるように定められた所定の正電圧に切り換える第一電圧発生器と、
前記X線管の陰極に印加する負電圧を発生し、負電圧切換信号に応じて、前記負電圧を、前記X線管電圧が前記所定の設定管電圧となるように定められた所定の負電圧に切り換える第二電圧発生器と、
前記第一電圧発生器により発生する正電圧が前記所定の正電圧に到達するタイミングと、前記第二電圧発生器により発生する負電圧が前記所定の負電圧に到達するタイミングとのずれ量が小さくなるように、前記正電圧切換信号および前記負電圧切換信号の少なくとも一方における切換タイミングを制御する制御手段とを備えたX線CT装置。
【請求項2】
前記所定の正電圧および前記所定の負電圧は、それぞれの大きさが前記所定の設定管電圧の半分であり、極性が互いに逆となる電圧である請求項1に記載のX線CT装置。
【請求項3】
前記X線管電圧は、1ビューまたは数ビュー単位で切り換えられる請求項1または請求項2に記載のX線CT装置。
【請求項4】
前記複数の設定管電圧は、第一X線管電圧と該第一X線管電圧とは異なる第二X線管電圧とである請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のX線CT装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記正電圧切換信号および前記負電圧切換信号の一方の切換タイミングを他方の切換タイミングに対して所定時間だけ遅らせる請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のX線CT装置。
【請求項6】
前記所定時間は、前記第一電圧発生器の前記正電圧切換信号に対する応答時間と前記第二電圧発生器の前記負電圧切換信号に対する応答時間との差分に相当する請求項5に記載のX線CT装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記発生する正電圧が正のピーク電圧となる時点と、前記発生する負電圧が負のピーク電圧となる時点とが一致するように制御する請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のX線CT装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線CT(Computed Tomography)装置に関し、特に、複数のX線管電圧によるX線を用いて撮影を行うX線CT装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線CT装置において、対象を複数のX線管電圧で撮影し、この対象におけるX線吸収係数のX線管電圧依存性の差を画像化する、いわゆるデュアルエネルギー(dual energy)撮影の技術が知られている(例えば、特許文献1,要約参照)。
【0003】
また、デュアルエネルギー撮影の一手法として、X線管の1回転当たりにおよそ千から数千程度のビュー(view)を割り当て、X線管電圧を1ビューまたは数ビュー単位で第一X線管電圧と第二X線管電圧とに交互に切り換えながら撮影する手法が知られている。なお、この手法を、高速X線管電圧スイッチング(switching)法と呼ぶことにする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−6531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、X線管に高電圧を印加する方法としては、主に二種類の方法が知られている。第一の高電圧印加方法は、単一の高電圧発生器を用いる方法であり、X線管の陽極に高電圧発生器の正の出力端子を接続するとともに、X線管の陰極に当該高電圧発生器の負の出力端子を接続し、X線管の陽極を例えば筐体に接続する方法である。第二の高電圧印加方法は、2つの高電圧発生器を用いる方法であり、一方の高電圧発生器の負の出力端子と他方の高電圧発生器の正の出力端子とを接続して筐体に接続し、X線管の陽極に上記一方の高電圧発生器の正の出力端子を接続するとともに、X線管の陰極に上記他方の高電圧発生器の負の出力端子を接続する方法である。
【0006】
第二の高電圧印加方法では、通常、一方の高電圧発生器に、X線管電圧として設定する設定電圧の半分の大きさの正電圧を発生させるとともに、他方の高電圧発生器に、当該設定電圧の半分の大きさの負電圧を発生させる。
【0007】
したがって、X線CT装置において、第二の高電圧印加方法を採用し、かつ上記のX線管電圧高速スイッチング法によりデュアルエネルギー撮影を行う場合には、一般的に、一方および他方の高電圧発生器のそれぞれに対して、第一X線管電圧の半分の大きさで極性が異なる電圧と、第二X線管電圧の半分の大きさで極性が異なる電圧とを交互に繰り返し発生させることになる。
【0008】
ところが、高電圧発生器は、制御信号に対する応答特性に個体差がある。つまり、出力電圧を第一電圧から第二電圧へ切り換える場合を考えると、その切換えを指示する電圧切換信号が入力されてから出力電圧が目的の第二電圧に到達するまでの応答時間は、高電圧発生器ごとに微妙に異なる。また、上記のX線管電圧高速スイッチング法では、高電圧発生器の出力電圧を高速で切り換える必要があるため、この応答時間の違いが無視できなくなる。つまり、X線管の陽極に印加される正電圧が切り換わるタイミング(timing)と、X線管の陰極に印加される負電圧が切り換わるタイミングとの間でずれが生じる。例えば、0.4秒スキャンで2000ビューの高電圧の切換えを行うと、1ビュー分が0.2ミリ秒と、高速な切換えになるため、このタイミングのずれの影響は無視できない。
【0009】
その結果、デュアルエネルギー撮影において、第一X線管電圧と第二X線管電圧との分離性が悪くなり、第一X線管電圧によるX線投影データと第二X線管電圧によるX線投影データとの差が小さくなり、最終的には、得られる画像のコントラスト(contrast)が小さくなる。
【0010】
このような事情により、陽極に正電圧が印加され陰極に負電圧が印加されるX線管を有しており、X線管電圧を複数の設定電圧に切り換えながら対象を撮影するX線CT装置であって、得られる画像のコントラストが大きくなるようにX線管に印加する電圧の切換制御を最適化することができるX線CT装置が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の観点の発明は、陽極に正電圧が印加され、陰極に負電圧が印加されるX線管を有しており、X線管電圧を複数の設定電圧に切り換えながら対象を撮影するX線CT装置であって、前記X線管の陽極に印加する正電圧を発生し、正電圧切換信号に応じて、前記正電圧を、前記X線管電圧が所定の設定電圧となるように定められた所定の正電圧に切り換える第一電圧発生器と、前記X線管の陰極に印加する負電圧を発生し、負電圧切換信号に応じて、前記負電圧を、前記X線管電圧が前記所定の設定電圧となるように定められた所定の負電圧に切り換える第二電圧発生器と、前記第一電圧発生器により発生する正電圧が前記所定の正電圧に切り換わるタイミングと、前記第二電圧発生器により発生する負電圧が前記所定の負電圧に切り換わるタイミングとのずれ量が小さくなるように、前記正電圧切換信号および前記負電圧切換信号の少なくとも一方における切換タイミングを制御する制御手段とを備えたX線CT装置を提供する。
【0012】
第2の観点の発明は、前記所定の正電圧および前記所定の負電圧が、それぞれの大きさが前記所定の設定電圧の半分であり、極性が互いに逆となる電圧である上記第1の観点のX線CT装置を提供する。
【0013】
第3の観点の発明は、前記X線管電圧が、1ビューまたは数ビュー単位で切り換えられる上記第1の観点または第2の観点のX線CT装置を提供する。
【0014】
第4の観点の発明は、前記X線管電圧が、第一X線管電圧と該第一X線管電圧とは異なる第二X線管電圧とに交互に切り換えられる上記第1の観点から第3の観点のいずれか一つの観点のX線CT装置を提供する。
【0015】
第5の観点の発明は、前記制御手段が、前記正電圧切換信号および前記負電圧切換信号の一方の切換タイミングを他方の切換タイミングに対して所定時間だけ遅らせる上記第1の観点から第4の観点のいずれか一つの観点のX線CT装置を提供する。
【0016】
第6の観点の発明は、前記所定時間が、一定である上記第5の観点のX線CT装置を提供する。
【0017】
第7の観点の発明は、前記制御手段が、前記発生する正電圧が正のピーク電圧となる時点と、前記発生する負電圧が負のピーク(peak)電圧となる時点とが一致するように制御する上記第1の観点から第6の観点のいずれか一つの観点のX線CT装置を提供する。
【0018】
第8の観点の発明は、陽極に正電圧が印加され、陰極に負電圧が印加されるX線管を有しており、X線管電圧を複数の設定電圧に切り換えながら対象を撮影するX線CT装置であって、前記X線管の陽極に印加する正電圧を発生させる第一電圧発生器と、前記X線管の陰極に印加する負電圧を発生させる第二電圧発生器と、前記正電圧および負電圧の一方を一定にし、他方を前記複数の設定電圧によって定まる複数の電圧に切り換えるよう、前記第一および第二電圧発生器を制御する手段とを備えたX線CT装置を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、正電圧切換信号および負電圧切換信号の少なくとも一方における切換タイミングを制御する手段を有しているので、X線管の陽極に印加される正電圧が切り換わるタイミングとX線管の陰極に印加される負電圧が切り換わるタイミングとのずれを補正して、X線管電圧の切換えにおける管電圧の分離性を改善することができ、陽極に正電圧が印加され、陰極に負電圧が印加されるX線管を有しており、X線管電圧を複数の設定電圧に切り換えながら対象を撮影するX線CT装置において、得られる画像のコントラストが大きくなるようにX線管に印加する電圧の切換制御を最適化することができるX線CT装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】第一実施形態に係るX線CT装置の構成を示す図である。
図2】第一実施形態に係るX線CT装置のX線管印加電圧の切換制御に関する部分の機能ブロック図である。
図3】一般的なX線管印加電圧の切換制御を説明するためのタイムチャート(time chart)である。
図4】第一実施形態におけるX線管印加電圧の切換制御を説明するためのタイムチャートである。
図5】第二実施形態におけるX線管印加電圧の切換制御を説明するためのタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、発明の実施形態について図面に基づいて詳細に説明する。
【0022】
(第一実施形態)
まず、発明の第一実施形態について説明する。図1は、第一実施形態に係るX線CT装置の概略構成を示すブロック(block)図である。また、図2は、図1に示すX線CT装置1におけるX線管電圧の制御に係る部分の構成を示す図である。
【0023】
図1に示すX線CT装置1は、操作コンソール(console)10と、撮影テーブル(table)20と、走査ガントリ(gantry)30とを備えている。
【0024】
操作コンソール10は、操作者の入力を受け付ける入力装置11と、画像再構成に関する処理や走査ガントリ30の制御に関する処理などを実行する中央処理装置12と、走査ガントリ30で取得したX線検出器データ(data)を収集するデータ収集バッファ13とを備えている。さらに、操作コンソール10は、X線検出器データを前処理して求められたX線投影データから画像再構成した断層像を表示するモニタ(monitor)14と、プログラム(program)、X線投影データまたは断層像などを記憶する記憶装置15とを備えている。
【0025】
撮影テーブル20は、被検体(対象)を乗せて走査ガントリ30の開口部に出し入れするクレードル(cradle)21を有している。このクレードル21は、撮影テーブル20に内蔵された不図示のモータ(motor)によって昇降及びテーブル直線移動されるようになっている。
【0026】
走査ガントリ30は、X線管31と、高電圧発生装置39と、X線制御装置32と、コリメータ33と、多列のX線検出器34と、データ収集装置(DAS:Data Acquisition System)35と、モータによって被検体の体軸の周りに回転する回転部36とを備えている。
【0027】
さらに、走査ガントリ30は、回転部36の回転を制御したり、回転部36に搭載されている各部を制御したりする回転部コントローラ(controller)37と、この回転部コントローラ37との通信を行ったり、操作コンソール10や撮影テーブル20と制御信号などをやり取りしたりする制御コントローラ38とを備えている。
【0028】
図2に示すように、X線管31は、陽極31aおよび陰極31cを有しており、陽極31aには正(+)電圧が印加され、陰極31cには負(−)電圧が印加されるようになっている。なお、これらの電極間の電圧差が、X線管電圧となる。
【0029】
図2に示すように、高電圧発生装置39は、第一高電圧発生器391および第二高電圧発生器392を有している。第一高電圧発生器391は、X線制御装置32からの制御により高電圧を発生させ、X線管31の陽極に正の高電圧を印加するようになっている。また、第二高電圧発生器392は、X線制御装置32からの制御により高電圧を発生させ、X線管31の陰極に負の高電圧を印加するようになっている。
【0030】
X線制御装置32は、高電圧発生装置39を制御することにより、X線管31に印加されるX線管電圧を制御できるようになっている。
【0031】
X線管31は、高電圧発生装置39およびX線制御装置32により、異なる複数のX線管電圧が印加されるようになっている。そして、X線管31は、異なる複数のX線管電圧のX線として、第一X線管電圧による第一X線と、第二X線管電圧による第二X線とを発生するようになっている。なお、ここでは、第一X線管電圧は、第二X線管電圧よりも高い管電圧であり、例えば、第一X線管電圧は140kV、第二X線管電圧は80kVである。
【0032】
データ収集装置35は、X線管31からのX線を受けたX線検出器34からの検出器信号を積分、A/D変換することによりX線投影データの収集を行い、データ収集バッファ13へ出力するようになっている。データ収集装置35は、第一X線管電圧のX線投影データの収集、および第二X線管電圧のX線投影データの収集を行うものであり、各X線管電圧のX線投影データの収集は、X線管電圧が各ビュー毎に切り換えられる場合には、各ビュー単位で行われ、またX線管電圧が数ビュー毎に切り換えられる場合には、数ビュー単位で行われる。
【0033】
本実施形態では、中央処理装置12が、高速X線管電圧スイッチング法によるデュアルエネルギー撮影を行うための制御信号を、制御コントローラ38を介して、撮影テーブル10および回転部コントローラ37に送信するようになっている。回転部コントローラ37は、その制御信号に基づいて、回転部36のモータとX線制御装置32とを制御し、回転部36を回転させた状態で、X線管電圧を第一X線管電圧と第二X線管電圧とに交互に切り換えながらX線を被検体に照射するようになっている。また、回転部コントローラ37は、その制御信号に基づいて、X線検出器34とデータ収集装置35とを制御し、X線管電圧が第一X線管電圧である時のX線投影データと、X線管電圧が第二X線管電圧である時のX線投影データとがデータ収集バッファ13を介して収集されるようになっている。なお、このときのスキャン(scan)方式は、コンベンショナルスキャン(conventional scan)であってもよいし、ヘリカルスキャン(helical
scan)であってもよい。中央処理装置12は、第一X線管電圧時に収集されたX線投影データと、第二X線管電圧時に収集されたX線投影データとに基づいて、デュアルエネルギー撮影の断層像の画像再構成を行うようになっている。なお、デュアルエネルギー撮影の断層像は、例えば、被検体におけるX線吸収係数のX線管電圧依存性の差を表す断層像である。デュアルエネルギー撮影の詳細については、例えば特開2006−6531号公報などを参照されたい。
【0034】
これより、デュアルエネルギー撮影におけるX線管印加電圧の切換制御について説明する。
【0035】
図3は、一般的なX線管印加電圧の切換制御を説明するための各種信号・電圧のタイムチャートであり、図4は、第一実施形態におけるX線管印加電圧の切換制御を説明するための各種信号・電圧のタイムチャートである。
【0036】
X線管電圧の切換えは、各ビュー毎又は数ビュー毎に行われる。仮に、走査ガントリ30の回転速度を0.4秒/回転とし、X線管31の1回転当りに2000ビューを割り当てると、1ビュー当りのデータ収集時間は、0.2ミリ秒(=200マイクロ秒)となる。この場合に、X線管電圧を1ビュー毎に切り換えるとすると、X線管電圧は0.2ミリ秒ごとに切り換えることとなる。立ち上がりには0.01秒オーダーの制御が求められ、このようなアナログの電気回路においては、かなり高速な切換えを必要とすることが分かる。
【0037】
そして、X線管電圧を第一X線管電圧HVと第二X線管電圧LVとに切り換えるためのX線管電圧切換信号が、回転部コントローラ37から出力されるようになっている。回転部コントローラ37から出力されたX線管電圧切換信号は、X線制御装置32へ入力される。
【0038】
X線制御装置32は、第一高電圧発生器391が発生させる正の高電圧を第一正電圧と第二正電圧とに切り換えるための正電圧切換信号と、第二高電圧発生器392が発生させる負の高電圧を第一負電圧と第二負電圧とに切り換えるための負電圧切換信号とを出力するようになっている。第一正電圧および第一負電圧は、これらの電圧差が第一X線管電圧HVに相当するように定められており、第二正電圧および第二負電圧は、これらの電圧差が第二X線管電圧LVに相当するように定められている。
【0039】
本実施形態では、第一正電圧および第一負電圧は、大きさが第一X線管電圧HVの半分|HV/2|であり、極性が互いに逆となる電圧±HV/2である。また、第二正電圧および第二負電圧は、大きさが第二X線管電圧LVの半分|LV/2|であり、極性が互いに逆となる電圧±LV/2である。例えば、第一X線管電圧HVが140kV、第二X線管電圧LVが80kVであれば、第一正電圧(+HV/2)は+70kV、第一負電圧(−HV/2)は−70kV、第二正電圧(+LV/2)は+40kV、第二負電圧(−LV/2)は−40kVになる。このように、第一高電圧発生器391および第二高電圧発生器392のそれぞれで発生させる電圧の大きさを同じにすれば、各高電圧発生器における必要な仕様および動作上の負担を均等に分散させることができ、高電圧発生器の小型化、軽量化、低コスト化、長寿命化などを図ることができる。
【0040】
図3に示すように、正電圧切換信号は、矩形波となっており、例えばHighレベル(level)のときには第一高電圧発生器391から第一正電圧を発生させ、Lowレベルのときには第一高電圧発生器391から第二正電圧を発生させるための信号となっている。また、負電圧切換信号も、正電圧切換信号と同様に矩形波となっており、例えばHighレベルのときには第二高電圧発生器392から第一負電圧を発生させ、Lowレベルのときには第二高電圧発生器392から第二負電圧を発生させるための信号となっている。
【0041】
X線制御装置32は、X線管電圧を第一X線管電圧HVとするように指示するX線管電圧切換信号が入力されているときは、正電圧切換信号および負電圧切換信号をそれぞれHighレベルにして出力する。また、X線制御装置32は、X線管電圧を第二X線管電圧LVとするように指示するX線管電圧切換信号が入力されているときは、正電圧切換信号および負電圧切換信号をそれぞれLowレベルにして出力する。
【0042】
これにより、X線管31のX線管電圧は、X線管電圧切換信号に応じて、第一X線管電圧HVと第二X線管電圧LVとに切り換えられるようになっている。
【0043】
しかしながら、一般的に、高電圧発生器は、入力される電圧切換信号に対して所定の応答特性を有している。また、この応答特性は、高電圧発生器によって個体差があり、一様でない。
【0044】
そのため、実際には、第一高電圧発生器391では、図3に示すように、入力される正電圧切換信号における切換タイミング、すなわち信号がHighからLowあるいはLowからHighになるタイミングから、発生する正電圧が実際に切り換わるタイミングまでに、応答時間Δtp1を要する。また、第二高電圧発生器392では、入力される負電圧切換信号における切換タイミング、すなわち信号がHighからLowあるいはLowからHighになるタイミングから、発生する負電圧が実際に切り換わるタイミングまでに、応答時間Δtp2を要する。そして、応答時間Δtp1とΔtp2とは一致しない場合がほとんどである。図3の例では、Δtp1>Δtp2である。
【0045】
したがって、正電圧切換信号における切換タイミングと、負電圧切換信号における切換タイミングとを同じタイミングにしても、正電圧が切り換わるタイミングと負電圧が切り換わるタイミングとの間に、応答時間Δtp1とΔtp2との差分に相当する応答時間差Δtp12のずれが生じることになる。そして、X線管電圧の波形は、このタイミングのずれが原因で、図3に示すように、高電圧発生器において発生する電圧波形よりも切れの悪い波形となり、X線管電圧の第一X線管電圧HVと第二X線管電圧LVとの切換えにおける分離性を悪くしてしまうことになる。
【0046】
そこで、本実施形態では、図4に示すように、X線制御装置21が、正電圧切換信号および負電圧切換信号の少なくとも一方における切換タイミングを制御して、第一高電圧発生器391において発生する正電圧が切り換わるタイミングと、第二高電圧発生器392において発生する負電圧が切り換わるタイミングとを近づける。例えば、正電圧切換信号および負電圧切換信号の少なくとも一方の切換タイミングに対して、他方の切換タイミングを所定時間遅らせる。なお、この切換タイミングの制御は、所定時間を一定とした方が容易であるが、第一X線管電圧HVへの切換え時と第二X線管電圧LVへの切換え時とで応答時間差が変化する場合には、この所定時間もその応答時間差に合わせて変化するように制御してもよい。図4の例では、負電圧切換信号における切換タイミングを、正電圧切換信号における切換タイミングに対して、上記の応答時間差Δtp12だけ遅らせるよう制御している。これにより、第一高電圧発生器391の正電圧が切り換わるタイミングと、第二高電圧発生器392の負電圧が切り換わるタイミングとが同じタイミングとなる。その結果、X線管電圧の電圧波形は、図4に示すように、破線で示す波形から、実線で示す波形すなわち第一高電圧発生器391や第二高電圧発生器392で発生する電圧に相似した電圧波形となり、第一X線管電圧HVと第二X線管電圧LVとの分離性を損なうことなく、X線管電圧を切り換えることができるようになる。
【0047】
なお、この切換タイミングの制御は、発生する正電圧が正のピーク電圧となる時点と、発生する負電圧が負のピーク電圧となる時点とが一致するように制御してもよい。また、この切換タイミングの制御は、操作者から入力された情報に基づいて行ってもよいし、第一高電圧発生器391の正電圧が切り換わるタイミングと、第二高電圧発生器392の負電圧が切り換わるタイミングとを検出して、自動で制御するようにしてもよい。
【0048】
ところで、正電圧切換信号における切換タイミングおよび負電圧切換信号における切換タイミングを調整すると、X線管電圧の電圧波形が変化し、第一X線管電圧HV時のデータ収集積分および第二X線管電圧LV時のデータ収集積分の適正なタイミングも変化することになる。そこで、本実施形態では、回転部コントローラ37は、第一X線管電圧HV時のデータ収集積分および第二X線管電圧LV時のデータ収集積分のタイミングを適正に調整できるよう、データ収集積分のタイミングを制御する機能を有している。データ収集積分のタイミングの調整方法については、例えば特開2009−131464号公報を参照されたい。
【0049】
このような第一実施形態によれば、正電圧切換信号および負電圧切換信号の少なくとも一方における切換タイミングを制御する手段を有しているので、X線管の陽極に印加される正電圧が切り換わるタイミングとX線管の陰極に印加される負電圧が切り換わるタイミングとのずれを補正して、X線管電圧の切換えにおける管電圧の分離性を改善することができる。その結果、陽極に正電圧が印加され、陰極に負電圧が印加されるX線管を有しており、X線管電圧を複数の設定電圧に切り換えながら対象を撮影するX線CT装置において、得られる画像のコントラストが大きくなるようにX線管に印加する電圧の切換制御を最適化することができる。
【0050】
(第二実施形態)
図5は、第二実施形態におけるX線管印加電圧の切換制御を説明するための各種信号・電圧のタイムチャートである。
【0051】
第二実施形態では、X線制御装置32は、第一高電圧発生器391および第二高電圧発生器392のいずれか一方の電圧が、一定電圧となり、他方の電圧が、第一電圧と第二電圧とに切り換わるよう制御するようになっている。上記の一定電圧は、−FVまたは+FVである。上記の第一電圧は、第一X線管電圧HVから当該一定電圧の大きさFVを減算してなる大きさ(+HV−FV)で極性が当該一定電圧と逆になる電圧(+HV−FVまたは−HV+FV)であり、上記の第二電圧は、第二X線管電圧LVから当該一定電圧の大きさFVを減算してなる大きさ(+LV−FV)で極性が当該一定電圧と逆になる電圧(+LV−FVまたは−LV+FV)である。また、本実施形態では、FV=(HV+LV)/2である。
【0052】
図5の例では、第二高電圧発生器392の負電圧が、一定電圧(−FV)となり、第一高電圧発生器391の正電圧が、第一正電圧(+HV−FV)と第二正電圧(+LV−FV)とに切り換わるよう制御するようになっている。例えば、第一X線管電圧HVが140kV、第二X線管電圧LVが80kV、一定電圧(−FV)が−55kVであれば、第一正電圧(+HV−FV)は+85kV、第二正電圧(+LV−FV)は+25kVになる。
【0053】
このような第二実施形態によれば、第一高電圧発生器391および第二高電圧発生器392のいずれか一方の電圧が、一定電圧となり、他方の電圧が、第一電圧と第二電圧とに切り換わるよう制御するする手段を有しているので、X線管の陽極31aに印加される正電圧が切り換わるタイミングとX線管の陰極31cに印加される負電圧が切り換わるタイミングとのずれが本来的に発生させないようにして、X線管電圧の切換えにおける管電圧の分離性を改善することができ、陽極に正電圧が印加され、陰極に負電圧が印加されるX線管を有しており、X線管電圧を複数の設定電圧に切り換えながら対象を撮影するX線CT装置において、得られる画像のコントラストが大きくなるようにX線管に印加する電圧の切換制御を最適化することができるX線CT装置を提供することができる。
【0054】
ただし、第二実施形態では、第一高電圧発生器391および第二高電圧発生器392のいずれか一方の電圧を一定電圧としているので、他方の電圧の振幅は、第一実施形態における第一高電圧発生器391および第二高電圧発生器392の電圧より大きくなる。
【0055】
なお、上記の実施形態は、発明の一実施形態に過ぎず、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更・追加が可能である。
【0056】
例えば、上記の実施形態では、X線管電圧を2つのX線管電圧に切り換えているが、3つ以上のX線管電圧に切り換えるようにしてもよい。
【0057】
また例えば、上記の実施形態では、スキャン方式として、一般的なコンベンショナルスキャンやヘリカルスキャンを想定しているが、ヘリカルシャトルスキャン(helical shuttle scan)、可変ピッチヘリカルスキャン(variable pitch helical scan)、アキシャルクラスタスキャン(axial
cluster scan)、シネクラスタスキャン(cine cluster scan)等であってもよい。
【符号の説明】
【0058】
1 X線CT装置
10 操作コンソール
11 入力装置
12 中央処理装置
13 データ収集バッファ
14 モニタ
15 記憶装置
20 撮影テーブル
21 クレードル
30 走査ガントリ
31 X線管
32 X線制御装置
33 コリメータ
34 X線検出器
35 データ収集装置
36 回転部
37 回転部コントローラ
38 制御コントローラ
39 高電圧発生装置
391 第一高電圧発生器
392 第二高電圧発生器
図1
図2
図3
図4
図5