特許第5677130号(P5677130)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5677130
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月25日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用外装缶
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/02 20060101AFI20150205BHJP
   H01M 2/04 20060101ALI20150205BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20150205BHJP
   C22C 21/02 20060101ALI20150205BHJP
   C22C 21/06 20060101ALI20150205BHJP
   C22F 1/04 20060101ALI20150205BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20150205BHJP
【FI】
   H01M2/02 A
   H01M2/04 A
   C22C21/00 L
   C22C21/00 M
   C22C21/02
   C22C21/06
   C22F1/04 A
   !C22F1/00 612
   !C22F1/00 614
   !C22F1/00 623
   !C22F1/00 626
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 630M
   !C22F1/00 631Z
   !C22F1/00 681
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 673
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-36076(P2011-36076)
(22)【出願日】2011年2月22日
(65)【公開番号】特開2012-174532(P2012-174532A)
(43)【公開日】2012年9月10日
【審査請求日】2013年12月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000176707
【氏名又は名称】三菱アルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(72)【発明者】
【氏名】崔 祺
(72)【発明者】
【氏名】中西 茂紀
【審査官】 高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−096979(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/072776(WO,A1)
【文献】 特開平11−090657(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/02
B23K 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
角型パイプと、該角型パイプの両端をそれぞれ閉塞する一対の蓋部材とを有し、前記角型パイプは、アルミニウム系素材を、熱間押出加工法を用いて成形した押出成形体よりなり、前記各蓋部材は、前記角型パイプの各端部にレーザ溶接法によって溶接され、
前記角型パイプは、その横断面における長辺長をW、短辺長をB、側壁の肉厚をTとしたとき、W/B比が8以上、肉厚Tが0.6〜1.5mmであり、前記蓋部材は長方形板状であり、前記蓋部材の長辺長は前記角型パイプの長辺長と同一、前記蓋部材の短辺長は前記角型パイプの短辺長と同一であり、
前記各蓋部材と前記角型パイプとの溶接部は、前記角型パイプの端部と該端部に被せられた前記蓋部材を1周取り囲むように設けられた複数のビードにより構成された溶接部であり、平均最大溶け込み深さが0.4mm以上、平均ビード幅が0.5mm以上であり、前記角型パイプ側壁の引張強度に対する前記溶接部の引張強度の比である継手効率が43%以上であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用外装缶。
【請求項2】
前記角型パイプのW/B比が10.8〜16.4、肉厚が0.9〜1.5mm、前記溶接部の平均最大溶け込み深さが495〜621μm、平均ビード幅が631〜741μmであることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用外装缶。
【請求項3】
前記アルミニウム系素材は、JIS1000系、JIS3000系、JIS5000系、JIS6000系、JIS8000系のいずれかのアルミニウム合金からなることを特徴とする請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池用外装缶。
【請求項4】
前記熱間押出加工法を用いて成形された押出成形体は、前記熱間押出加工法によって成形された押出成形体に、さらに引抜き加工を施したものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用外装缶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用外装缶に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話などの携帯機器の電源として広く使用されているが、その優れた特性により、電気自転車・電気バイクのようなエコカー(エコロジーカー)、各種の輸送機械の電源として、また、太陽光・風力発電システムの蓄積電源として期待されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、通常、角型または円筒型の金属缶に、電極体と電解質液を入れた後、金属製の蓋部材を組付け、蓋部材を金属缶に接合し、密封することで製造される。
ここで、例えば携帯電話等のモバイル電子機器に用いられる小型リチウムイオン二次電池の場合には、その電池缶として、多段深絞り工法によって製造されたアルミニウム合金製角型缶が採用されることが多い。この多段深絞り工法では、アルミニウム合金板材を素材とし、例えばドラスファプレスを使用して多段プレスすることで角型缶を製造するのが一般的である。
【0004】
また、小型リチウムイオン二次電池の蓋部材の接合方法として金属缶の電池ケースの開口部に低融点のろう材層を介して蓋部材を嵌め込み、ろう材層の接合界面を固相拡散させてろう付けすることにより蓋部材を接合する方法が提案されている。(特許文献1参照)
小型リチウムイオン二次電池は内容圧力がそれほど高くならないため、金属缶と蓋部材の接合部に大きな耐圧強度は要求されないとはいうものの、ろう付けによる接合強度では不足があるので、最近では溶接により金属缶と蓋部材の接合がなされている。
しかし、小型リチウムイオン二次電池の溶接部に対し、高い溶接強度が要求されている訳ではないので、溶接部における平均溶け込み深さは0.3mm程度以下であるのが一般的である。このため、レーザ溶接に使用される溶接機としては、通常、平均出力が500〜600W級の小型YAGパルスレーザが用いられる。
【0005】
一方、最近、リチウムイオン二次電池の適用分野として期待される電気自転車・電気バイク、その他の輸送機械、太陽光・風力発電システム等の各分野においては、電池が大きな容量を有することが必須となることが多く、その場合には、小型電池の数倍〜十数倍以上の体積の大型電池が用いられる。
【0006】
ここで、大型電池の場合、単体でも発熱量が多く、内部の温度が大きく上昇するため、電池奥の熱を逃がすための工夫をしなければならない。例えば角型二次電池の場合には、電池缶の厚さ(横断面視周辺部)を薄くして、表面積が大きくなるような形状とするのが望ましい。また、大型電池では、容量をさらに増やすため、複数の電池を組み合わせたモジュールやパッケージとして使用されることが一般的である。このような使用形態の場合、必要な電池容量、設置できるスペースに応じて電池缶の形状や大きさ等をある程度自由に設計できることが求められる。
【0007】
しかし、従来から行われている多段深絞り工法では、プレス機の構造上の制限により、限られた形状や大きさの電池缶しか作製することができない。
例えば、角型缶を多段深絞り工法で作製する場合、角型缶の横断面における長辺長をW、短辺長をBとし、角型缶の高さをHとしたとき、W/B比が8を超えると不良率が大きく上昇し、10を超えると割れが多発し、ほとんど生産できなくなる。
【0008】
また、高さHに関しても、多段深絞り工法によるものは100mm未満が一般的である。これは、高さHを100mm以上とするには、その3〜4倍以上のストロークを有する大型プレス機が必要となるからである。そのような大型プレス機は特殊であるため入手が難しく、その導入に膨大な設備投資が必要となる。
【0009】
また、大型の角型缶は、プレス成形で得ること自体難しいため、使用できるアルミニウム合金板材が比較的プレス成形性の良いものに制限され、電池缶の高強度軽量化及び溶接強度の向上を図ることが難しい。
すなわち、小型の角型缶の場合には、プレス技術を工夫すれば強度300MPa以上の加工硬化を付加した硬質素材からでも製造することができる。このため、電池缶の薄肉高強度化を容易に図ることができる。
ところが、大型の角型缶を作製するには、アルミニウム合金板材を深くプレスする必要があるため、素材が比較的軟質なもの(プレス成形性の良いもの)に限定されてしまい、電池缶の高強度軽量化の要求に応えることができない。
【0010】
さらに、大型電池は、小型電池に比べて電池内部の圧力が大幅に高くなるため、金属缶と蓋部材との溶接部が大きな溶接強度を有すること、すなわち、深い溶け込み量を有することが求められる。また、電池缶のサイズが大きくなると溶接部の溶接距離も長くなる。このため、溶接強度と生産性の双方を確保する点から、溶接機として大きなパワーで高速のファイバーレーザ機が使用されることが多い。
【0011】
しかし、大きなパワーで高速のファイバーレーザ機を使用すると、金属缶に加わる単位時間当たりの入熱量が著しく大きくなるため、金属缶はそのような入熱量に耐え得ることが求められる。しかし、多段深絞り工法で用いられる比較的プレス成形性の良いアルミニウム合金板材は、耐熱性が十分に高いとは言えず、レーザ溶接による熱影響で変形や機械的性質等の特性変化を生じる可能性がある。このため、多段深絞り工法で成形された大型金属缶では、レーザ機の大パワー化及び高速化が制限され、溶接強度及び溶接効率の向上を図ることが難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2000−11964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、これら問題を解決するためになされたものであり、寸法の自由度が高く、また、金属缶に用いるアルミニウム系素材を広い範囲から選択することができ、機械的強度に優れるとともに、金属缶と蓋部材との溶接部で高い溶接強度が得られるリチウムイオン二次電池用外装缶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らが、寸法の自由度が高く、また、機械的強度及び溶接強度に優れる角型電池缶を得るべく、検討を重ねた結果、熱間押出加工法によって得られた角型パイプの各端部に、一対の蓋部材をそれぞれレーザ溶接法によって溶接することで電池缶を構成し、さらに、角型パイプの各端部と各蓋部材との溶接部について、平均最大溶け込み深さと平均ビード幅とを規定することにより、これらの要求を満たす電池缶が得られるとの知見を得るに至った。
本発明は、かかる知見に基づいて成されたものであって、以下の構成を有する。
【0015】
本発明のリチウムイオン二次電池用外装缶は、角型パイプと、該角型パイプの両端をそれぞれ閉塞する一対の蓋部材とを有し、前記角型パイプは、アルミニウム系素材を、熱間押出加工法を用いて成形した押出成形体よりなり、前記各蓋部材は、前記角型パイプの各端部にレーザ溶接法によって溶接され、前記角型パイプは、その横断面における長辺長をW、短辺長をB、側壁の肉厚をTとしたとき、W/B比が8以上、肉厚Tが0.6〜1.5mmであり、前記蓋部材は長方形板状であり、前記蓋部材の長辺長は前記角型パイプの長辺長と同一、前記蓋部材の短辺長は前記角型パイプの短辺長と同一であり、前記各蓋部材と前記角型パイプとの溶接部は、前記角型パイプの端部と該端部に接触された前記蓋部材を1周取り囲むように設けられた複数のビードにより構成された溶接部であり、平均最大溶け込み深さが0.4mm以上、平均ビード幅が0.5mm以上であり、前記角型パイプ側壁の引張強度に対する前記溶接部の引張強度の比である継手効率が43%以上であることを特徴とする。
【0016】
本発明において、前記角型パイプのW/B比が10.8〜16.4、肉厚が0.9〜1.5mm、前記溶接部の平均最大溶け込み深さが495〜621μm、平均ビード幅が631〜741μmの範囲であることが好ましい。
本発明において、前記アルミニウム系素材は、JIS1000系、JIS3000系、JIS5000系、JIS6000系、JIS8000系のいずれかのアルミニウム合金からなることが好ましい。
また、本発明において、前記熱間押出加工法を用いて成形された押出成形体は、前記熱間押出加工法によって成形された押出成形体に、さらに引抜き加工を施したものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、電池缶は、角型パイプと、該角型パイプの各端部をそれぞれ閉塞する一対の蓋部材とを有し、角型パイプが熱間押出加工法を用いて成形された押出成形体によって構成されていることにより、角型パイプの断面寸法や高さを比較的自由に設定することができる。このため、本発明の電池缶は、その形状をモジュールやパッケージ等の種々の使用形態に容易に対応させることができる。また、角型パイプの横断面におけるW/B比を比較的大きく設定することも可能であり、これによって、電池缶は、その体積当りの表面積が大きくなり、電池に適用したときに電池内部の熱を効率良く発散できる。
各蓋部材が、角型パイプの各端部にレーザ溶接法によって溶接されており、各蓋部材と角型パイプとの溶接部について、平均最大溶け込み深さ及び平均ビード幅が所定値以上に規定されていることにより、溶接部の溶接強度が高く、耐圧強度に優れた電池缶を得ることができる。
【0018】
熱間押出加工に用いるアルミニウム合金を、所定の組成のものから選択した場合には、目的とする電池缶のサイズやW/B比に関わらず、押出成形に際して中程度以上の加工性が得られ、また、その電池缶に必要十分な機械的強度及び溶接強度をもたせることができる。
角型パイプの肉厚Tが所定の範囲である場合には、その重量を抑えつつ耐圧強度に優れた電池缶を確実に得ることができる。
さらに、角型パイプのW/B比が所定の範囲である場合には、電池缶は、その体積当りの表面積が大きくなり、前述したような電池内部の熱を効率良く発散する効果を確実に得ることができる。
【0019】
また、熱間押出加工法を用いて成形された押出成形体が、熱間押出加工法によって成形された押出成形体に、さらに引抜き加工を施したものである場合には、角型パイプの寸法精度が一段高くなり、電池缶の品質をより高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明のリチウムイオン二次電池用外装缶の一実施形態を示す分解縦断面図。
図2図1に示すリチウムイオン二次電池用外装缶が備える角型パイプの一例を示す横断面図。
図3図1に示すリチウムイオン二次電池用外装缶の溶接部分を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の具体的な実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明のリチウムイオン二次電池用外装缶の第一実施形態を示す分解縦断面図、図2は、図1に示すリチウムイオン二次電池用外装缶が備える角型パイプを示す横断面図、図3は、図1に示すリチウムイオン二次電池用外装缶の溶接部分を示す側面図である。
なお、以下の説明では、角型パイプ2において、中心軸に直交する方向に沿った断面を「横断面」と言い、この角型パイプ2の横断面における外形の長辺長を「W」、短辺長を「B」とし、長辺長と短辺長との比をW/B比とする。また、角型パイプ2の中心軸に沿う方向の長さを「高さH」とする。
【0022】
図1に示すリチウムイオン二次電池用外装缶(以下、単に「電池缶」と言う。)1は、角型パイプ2と、該角型パイプ2の両端を閉塞する一対の長方形板の蓋部材3とを有している。
図2に示すように、角型パイプ2は、横断面が略長方形状もしくは略正方形状の角筒体であり、後述する組成のアルミニウム合金を、熱間押出加工法を用いて成形した押出成形体により構成されている。なお、角型パイプ2の角部は、外面や内面に適当な曲率を有していても構わない。
【0023】
角型パイプ2を形成するアルミニウム合金としては、例えば(1)不可避不純物の含有量が0.6重量%以下のアルミニウム合金、(2)Mn含有量が0.3〜2.0重量%のアルミニウム合金、(3)Mg含有量が0.5〜3.0重量%のアルミニウム合金、(4)Fe含有量が0.3〜1.8重量%のアルミニウム合金、(5)Mg含有量が0.3〜1.5重量%、Si含有量が0.3〜1.2重量%のアルミニウム合金うちから、その押出加工性及びレーザ溶接性(平均最大溶け込み深さ、平均ビード幅)、機械的強度等を総合的に考慮し、電池缶1に要求される特性に応じて適宜選択するのが好ましい。
熱間押出加工では、多段深絞り工法に比べて、比較的広い範囲のアルミニウム系素材で良好な加工性を得ることができる。このため、機械的強度やレーザ溶接性を重視してアルミニウム系素材を選択することができ、電池缶1に必要十分な機械的強度及び溶接強度をもたせることができる。
【0024】
ここで、(1)〜(5)のアルミニウム合金の具体例及び特性は以下の通りである。
まず、(1)のアルミニウム合金として、例えばJIS(あるいはAA)1000系の各合金等が挙げられる。これらは、優れた押出加工性を有する一方、強度が低く、レーザ溶接性がそれほど良好ではないが電池缶1の構成材料として用いることができる。
(2)のMnを含有するアルミニウム合金として、例えばJIS(あるいはAA)3000系の各合金等が挙げられる。これらは、優れたレーザ溶接性を有している一方、中程度の押出加工性と強度を有する。
(3)のMgを含有するアルミニウム合金としては、例えばJIS(あるいはAA)5000系の各合金等が挙げられる。このアルミニウム合金は、Mg含有量の選択によって高押出加工性または高強度の要求に対応できる一方、レーザ溶接性の面では若干劣る場合がある。
(4)のFeを含有するアルミニウム合金としては、例えばJIS(あるいはAA)8000系の各合金等が挙げられる。これらは、(1)のアルミニウム合金に比べて、成形性を損なうことなく、強度とレーザ溶接性の向上が図れるという利点があるが、前記(2)、(3)、あるいは後述の(5)の各アルミニウム合金の強度より強度は低くなる。
(5)のMg及びSiを含有するアルミニウム合金としては、例えばJIS(あるいはAA)6000系の各合金等が挙げられる。これらは、高押出加工性と高強度に加えて時効硬化特性を有するため、レーザ溶接によって軟化した蓋とパイプの接合部を補強できる利点がある。その一方、レーザ溶接性が前記(4)のアルミニウム合金よりは若干劣る傾向がある。
【0025】
これらのアルミニウム合金を得るには、まず、目的とするアルミニウム合金を溶解・成分調整し、その直径が電池缶1の長辺長Wの1.2〜2.0倍に相当する円柱状のビレットを鋳造する。次に、得られたビレットに、その成分に応じて適切な均質化処理を施した後、適切な長さに切断する。これにより、熱間押出加工の素材となる短尺ビレットが得られる。
【0026】
角型パイプ2は、このようなアルミニウム合金の短尺ビレットを、熱間押出加工法を用いて成形することによって得られる。
ここで、熱間押出加工法は、素材を、該素材が再結晶化する温度より高い温度に保ちつつ圧力を加え、ダイスの孔から押出すことで、ダイスの孔形状に対応した断面形状の、長尺状の押出成形体を得る方法である。本実施形態では、ダイスとして、その孔形状が目的とする角型パイプ2の断面形状に対応するものを用い、アルミニウム系素材を長尺状の角型パイプとなるように押出成形する。そして、得られた押出成形体を目的とする電池缶1の高さに相当する長さに切断する。この場合、角型パイプ2は、この押出成形体の切断によって構成される。
【0027】
前記熱間押出加工法は、目的とする角型パイプ2の断面寸法に関わらず成形プロセスが良好に行われ、サイズやW/B比が比較的大きな角型パイプ2も確実に得ることができる。また、長尺状押出成形体を切断する切断長さが角型パイプ2の高さに相当するため、この切断長さを調整することによって、所望の高さ(長さ)の角型パイプ2を容易に得ることができる。
このため、熱間押出加工法を用いて成形された角型パイプ2は、その形状をモジュールやパッケージ等の電池の使用形態に容易に対応させることができる。また、横断面におけるW/B比を比較的大きく設定することも可能であり、これによって、電池缶1は、体積当りの表面積が大きくなり、電池に適用したときに電池内部の熱を効率良く発散することができる。
【0028】
ここで、角型パイプ2は、熱間押出加工によって得られた押出成形体に、さらに、引抜き加工を施した引抜きパイプを目的の長さに切断した切断片によって構成しても良い。引抜き加工法は、ダイス孔のサイズが被加工体の断面よりも小とされたダイスを用い、角型形状のパイプを、このダイスの孔を通過させて引き絞る加工法である。これにより、角型パイプ2の断面寸法や肉厚の寸法精度を一段と高く制御でき、電池缶1の品質をより高めることができる。
【0029】
角型パイプ2は、その横断面におけるW/B比が8以上、肉厚Tが0.6〜1.5mmの範囲であるのが好ましい。
角型パイプ2のW/B比が8未満である場合には、適用される電池によっては、電池内部の熱を発散させ難く、電池内部の温度上昇によって外部の電子機器に悪影響を及ぼす可能性がある。また、W/B比が8未満の角型パイプ2は、多段深絞り工法によっても容易に製造することができるため、その製造設備や成形条件が既に確立している場合には、熱間押出加工法を用いる優位性は認められず、却って既存の設備等が無駄になるという不都合が生じる。
一方、角型パイプ2の肉厚Tが0.6mm未満である場合には電池缶1の耐圧強度が不足する。また、肉厚Tが1.5mmを超えると電池缶1の軽量化が困難になる。
【0030】
図3に示すように、一対の蓋部材3は、それぞれ、角型パイプ2の各端部に組み付けられ、レーザ溶接法によって溶接されている。
ここで、レーザ溶接法は、レーザ光を熱源とし、金属等よりなる被接合材同士を接合する溶接法である。このレーザ溶接法では、レーザ光を被接合材(角型パイプ2と各蓋部材3)同士の境界部近傍に集光し、この集光スポットを該境界部に沿って走査させることによって金属を局部的に溶融・凝固させ、角型パイプ2と各蓋部材3とを接合する。
【0031】
そして、本発明では、この角型パイプ2と各蓋部材3との溶接部4について、その平均最大溶け込み深さを0.4mm以上、平均ビード幅を0.5mm以上に規定する。
ここで、本明細書中において、「平均最大溶け込み深さ」及び「平均ビード幅」とは、以下のようにして測定される値である。
【0032】
a.平均最大溶け込み深さ
電池缶1を溶接部4で破断し、この破断面を50倍の拡大率で観察する。そして、この観察された拡大像から、溶接部4の最大溶け込み深さを電池缶1の幅全長に亘って測定し、平均値を求める。
b.平均ビード幅
電池缶1の溶接部ビードを、上方から50倍の拡大率で観察する。そして、この観察された拡大像から、溶接部4のビード幅aを電池缶1の幅全長に亘って測定し、その平均値を求める。
【0033】
この平均最大溶け込み深さ及び平均ビード幅は、溶接部4の溶接強度の指標となり、これらの値が大きい程、溶接部4の溶接強度が大きく、電池缶1は大きな耐圧強度を有する。
そして、溶接部4の平均最大溶け込み深さが0.4mm未満の場合には、溶接部4の溶接強度が小さく、電池缶1の耐圧強度が不足する。但し、平均最大溶け込み深さを必要以上に大きく設定すると、溶け込み部分が板厚を超え、電池部品に損傷を与える恐れがある。また、平均最大溶け込み深さを大きな値とするため、大きな入熱量が必要となり、溶接効率が低下するという不都合が生じる。これらの点から、平均最大溶け込み深さは、角型パイプ2の肉厚Tの4/5以下とするのが好ましい。
【0034】
また、溶接部4の平均ビード幅が0.5mm未満の場合には、溶接部4の接合強度が小さく、電池缶1の耐圧強度が不足する。但し、平均ビード幅を必要以上に大きな値に設定すると、大きな入熱量が必要になるため、溶接効率が低下するという不都合が生じる。このため、平均ビート幅は、角型パイプ2の肉厚Tの90%以下とするのが好ましい。
【0035】
溶接部4における平均最大溶け込み深さ及び平均ビード幅は、角型パイプ2と各蓋部材3に用いるアルミニウム素材の種類やレーザ溶接機の条件によって制御することができる。
ここで、レーザ溶接法に用いるレーザ溶接機としては、最大出力が2kw以上のファイバーレーザ溶接機を用いるのが好ましい。これにより、集光スポットの走査速度を比較的速くした場合でも、角型パイプ2と各蓋部材3とを、平均最大溶け込み深さが0.4mm以上、平均ビード幅が0.5mm以上となるように溶接することができ、大きな溶接強度で高速溶接することが可能となる。ここで、前述の(1)〜(5)のアルミニウム合金は、このような出力の大きいレーザ溶接機によってレーザ光が照射されても特性がほとんど変化せず、このような高速溶接を、その機械的強度を損なうことなく行うことができる。
【0036】
以上のように、本実施形態の電池缶1は、角型パイプ2が、熱間押出加工法によって成形された押出成形体によって構成されていることにより、その断面寸法や高さを自由に設定することができ、適用される電池の使用形態に容易に対応することが可能であり、また、体積当りの表面積を大きくし、内部の熱を効率良く発散し得る形状とすることもできる。
【0037】
また、角型パイプ2に、一対の蓋部材3がレーザ溶接法によって接合されており、その溶接部4について、平均最大溶け込み深さと平均ビード幅を所定の値以上に規定していることにより、溶接部4の接合強度が大きく、耐圧強度に優れた電池缶1を得ることができる。
このため、本発明の電池缶1は、大容量で大型のリチウムイオン二次電池の電池缶として好適に用いることができる。
以上、本発明のリチウムイオン二次電池用外装缶の実施形態について説明したが、前記外装缶を構成する各部は一例であって、本発明の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更することができる。
【実施例】
【0038】
以下に、本発明の具体的実施例について説明するが、本願発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
JIS規定の1050合金を溶解し、外径13インチのビレットを鋳造した。
このビレットに、均質化処理を施した後、切断、再加熱を行い、ポートホール押出法によって成形することで扁平パイプ(長尺状の角型パイプ)を得た。この扁平パイプは、横断面における外形寸法が長辺長W:205mm、短辺長B:12.5mmであり、側壁の肉厚Tが1.2mmである。この扁平パイプを高さHが250mmとなるように切断することで角型パイプを得た。
次に、JIS規定の3003合金製の蓋部材2枚を用意した。蓋部材は、その平面視での寸法が角型パイプの横断面の寸法と略同一であり、肉厚は1.3mmである。そして、角型パイプの両端を、各蓋部材を組付けて閉塞し、角型パイプの両端と各蓋部材とをレーザ溶接にて接合した。以上の工程により電池缶を作製した。
【0039】
(実施例2〜5)
ビレットの鋳造に用いる合金及びビレットの外径、角型パイプの寸法を表1に示すように変える以外は、前記実施例1と同様にして電池缶を作製した。
【0040】
(実施例6〜8)
ビレットの鋳造に用いる合金及びビレットの外径、角型パイプの寸法を表1に示すように変えるとともに、熱間押出加工によって得られた扁平パイプに、肉厚が0.8mmとなるように冷間引抜き加工を行い、この引抜パイプを切断することで角型パイプを作製する以外は、前記実施例1と同様にして電池缶を作製した。
【0041】
(比較例1)
板厚1.4mmのJIS規定1050合金からなる軟質材(O材)を用い、扁平管を得るべく9段深絞りのプレス機にて成形を行った。目的とする扁平管の寸法は、横断面における長辺長が168mm、短辺長が15.5mmであり、側壁の肉厚が1.2mmである。
【0042】
(比較例2、3)
軟質材として用いる合金、目的とする扁平管の寸法を表1に示すように変える以外は、前記実施例1と同様にして9段深絞りのプレス機による成形を行った。
(比較例4、5)
軟質材として用いる合金、目的とする扁平管の寸法を表1に示すように変える以外は、前記比較例1と同様にして9段深絞りのプレス機による成形を行った。
【0043】
<評価>
1.各実施例及び各比較例について、目的とする寸法の扁平パイプまたは扁平管が成形できたか否かを、表1に示す。
○:扁平パイプまたは扁平管が成形できた場合
×:扁平パイプまたは扁平管が成形できなかった場合
なお、表1中、合金の種類を記載した欄の4桁の数字は、JIS規定されたアルミニウム合金の番号である。
【0044】
【表1】
【0045】
表1に示すように、扁平パイプを押出加工法によって成形した各実施例では、目的とする寸法の扁平パイプを得ることができた。これに対して、9段深絞り工法を用いた各比較例では、第6段深絞り以前で材料に破断が生じてしまい、目的とする扁平管を成形することができなかった。
【0046】
2.各実施例について、用いたビレットの押出加工性、作製した電池缶の機械的性質及び角型パイプと蓋部材とのレーザ溶接性を評価した。評価の条件は以下に示したとおりである。
(1)押出加工性評価
横断面における外形寸法が長辺長W:188mm、短辺長B:12.5mmであり、肉厚Tが1.2mm、角部の内面側の曲率Rが3mmの押出成形用のダイスを用い、各ビレットを、各種押出速度で扁平パイプに成形した。そして、寸法・形状の精度が良く、表面品質が安定に得られる最大押出速度を調べた。この測定結果を、以下の基準に従い評価した。
最大押出速度が15m/min以上である場合二重丸で示し、最大押出速度が5m/min以上から15m/min未満である場合に○印で示し、最大押出速度が5m/min未満である場合に△印で示した。
【0047】
(2)電池缶の機械的性質
各電池缶について、長辺をなす側壁の中央付近から短冊状にサンプルを切出した。そして、JIS規定5号試験片に加工して引張試験を行い、引張強さ、耐力、伸びをそれぞれ測定した。
【0048】
(3)レーザ溶接性評価
最大出力2kwのYb−ファイバーレーザ溶接機を用い、各角型パイプの両端に、3003合金製の蓋部材をそれぞれ溶接して電池缶を得た。蓋部材は、その平面視での寸法が扁平パイプの横断面の寸法と略同一であり、肉厚は1.1mmである。また、溶接条件は以下の2通りである。比較例4、5は溶接条件2、その以外のものは溶接条件1で溶接した。
溶接条件1
発振方式:CW発振、集光光学系:YW50(fc=125)、ファイバー径:φ0.1、
Arガス流量:20(l/min)、ノズルタイプ:φ10センター、出力:550W、
加工速度:166(mm/sec)。
溶接条件2
発振方式:CW発振、集光光学系:YW50(fc=125)、ファイバー径:φ0.1、
Arガス流量:20(l/min)、ノズルタイプ:φ10センター、出力:450W
加工速度:166(mm/sec)。
得られた電池缶について、溶接部の平均最大溶け込み深さ及び平均ビード幅を以下のようにして測定した。
【0049】
a.平均最大溶け込み深さ
各電池缶を溶接部で破断し、この破断面を50倍の拡大率で観察した。そして、この観察された拡大像から、溶接部の最大溶け込み深さを電池缶の幅全長に亘って測定し、平均値を求めた。
b.平均ビード幅
電池缶の溶接部ビードを、上方から50倍の拡大率で観察した。そして、この観察された拡大像から、溶接部のビード幅aを電池缶の幅全長に亘って測定し、その平均値を求めた。
c.スパッタ痕跡
各電池缶外周面について、溶接ビードから±1.0mmの範囲をCCDカメラによって観察し、50μm以上の溶融スパッタの発生数を計測し、単位長さ250mm中の個数に換算した。その個数が250以上なら×、200〜250未満なら△、100〜200未満なら○、100未満なら◎として評価した。
なお、電池缶の溶接部は缶の角部にあり、試験片を切出して引張試験によって評価することが難しい。その代わりに下記の方法を採用し、評価した。
各パイプまたは板材から幅50、長さ100の短柵状サンプル2枚を切出し、前記の溶接条件1(本発明例1〜8)または溶接条件2(比較例4、5)によって2枚のサンプルの短辺をつき合わせして溶接した。その後、溶接ビードを、試験片の長手方向と垂直になるように平行部の中央にしてJIS5号試験片を作製した。この試験片を用いて引張試験を行い、引張強さを測定し、この値を溶接材引張強さと呼ぶ。この溶接材引張強さと前記の電池缶の機械的性質測定で得た引張強さとの比を求め、それを継ぎ手効率と呼び、溶接強度の評価指標とした。その測定結果も表2に示し、40%以上あれば溶接強度として問題はないと判断した。
以上の評価結果を表2に示す。
【0050】
【表2】
【0051】
表2に示すように、各実施例の角型パイプ及び蓋部材は、いずれも平均最大溶け込み深さが400μm(0.4mm)以上、平均ビード幅が500μm(0.5mm)以上で溶接することができ、大きな溶接強度を得ることができた。なお、押出加工性、機械的性質及びレーザ溶接性は、用いるアルミニウム合金により異なっており、電池缶に要求される特性に応じてアルミニウム合金を選択するのが好ましいことがわかった。
【符号の説明】
【0052】
1…リチウムイオン二次電池用外装缶(電池缶)、2…角型パイプ、3…蓋部材、4…溶接部、W…長辺長、B…短辺長、T…肉厚、H…高さ、a…ビード幅。
図1
図2
図3