【実施例】
【0041】
実験パート
例1.親のハイブリドーマからのAC−1、AC−2、AC−3クローンの単離
モノクローナル抗体AC−1、2及び3を親のハイブリドーマ(2002年12月17日にジェノア先進バイオテクノロジーセンターにてNo.PD02009として預けられ、U.S.7,537,760に記載されている)からのサブクローニングにより単離し、培地上でのELISA分析によって選択した。
【0042】
例2.心臓疾患を患う患者の血清から可溶性BAG3タンパク質を精製する。
慢性虚血性心疾患にかかる患者の血清をウエスタン・ブロッティングによって分析した。75kDに対応するバンドをゲル溶出し(
図1a参照)、トリプシン消化によって得られた断片を質量スペクトル(MALDI/MS)によって分析し、「MASCOT」ソフトウェアを介して同定した。一部のペプチド配列(
図1b)の分析は、BAG3様のタンパク質の同定を可能にした。
【0043】
例3.ラットにおける心筋ストレスモデルの開発
およそ220〜250グラムの重さのあるスプラーグ・ドーリー雄ラット(Charles River Laboratories,Italy)を、ペントバルビタール(60mg/kg)の経口での腹腔内注射により麻酔した。前開胸後、心臓を露出させ、下行冠動脈の近位前方管の縫合を受けた。対照動物は、該動脈の結紮を除き、同一の手順を受けた。その手順の翌日、少なくとも35%の左心室を取り込む大きな梗塞の存在についての経胸壁心エコー検査によって全生存者を選択した(IMグループ)。次に、標準的な手順によってラットを犠牲にし、免疫組織化学的手順のため、左心室をホルマリンで処置した。その図は、コントロール及びIMグループを代表するBAG3タンパク質の発現データを示す。
【0044】
図2は、例1に記載されるBAG3特異的モノクローナル抗体を用いて得た免疫組織化学の結果を示す:大動脈の一時的な閉塞による梗塞の誘発後、ラットからの心臓組織中に、BAG3タンパク質レベルの有意な増加が観察された。
【0045】
次いで、ウエスタンブロット分析は、PEITC(フェニルイソチオシアネート)によって誘発された酸化ストレスにさらされた心筋細胞の上澄み中に、BAG3タンパク質が放出されることを示した(
図3)。
【0046】
この実験では、ラット心筋細胞を、集蜜80%でプレートに蒔き、5%CO
2雰囲気中37℃の血清がない培地中でインキュベートし、それを10μMのPEITCによって図中に示す時間処置した。
【0047】
実験の終わりで、細胞を収集し、加工した。タンパク質溶解物を、細胞内BAG3の発現レベルを評価するために抗BAG3抗体(TOS−2及びAC−1)と、負荷コントロールとして用いた抗GAPDH抗体とによるウエスタン・ブロットによって分析した(
図3A);
図3Bでは、上澄みを集め、アセトン(1:9体積)を用いて沈殿させ、ウエスタンブロッティングによって分析した。
【0048】
また、BAG3の存在は、HepG2(ヒト肝細胞癌)、C6(ラットグリア芽腫)、Panc−1(ヒト膵臓腺癌)、ARO(未分化甲状腺癌)及びHT−29(結腸直腸腺癌)細胞株の上澄み中でも検出された。試験された各種腫瘍細胞株によってBAG3は放出されるが、HUVEC(ヒト臍帯内皮細胞)等の正常な一次細胞の培地中では放出されない。
【0049】
例4.血清中におけるBAG−3の測定のためのELISA試験の開発
BAG3タンパク質が心臓疾患を患う患者の血液中で検出できるか否かを試験するため、標準物質として以下に記載されるように調製されたBAG3組み換えタンパク質を用いるELISA試験を開発した。
【0050】
試験されたBAG−3特異的抗体の種々の組み合わせは以下の通りである:
a):
・BAG3タンパク質のaa18〜33の配列(DRDPLPPGYEIKIDPQ)を認識するように設計された第一モノクローナル抗体クローンAC−1;
・免疫原として全組換えタンパク質(RefSeq:NP_004272)を用いることにより開発され、代わりにAC−1抗体によって捕捉されたBAG3タンパク質の検出物質として使用されたTOS−2という名の第二ポリクローナル抗体;
b):
・第一モノクローナル抗体クローンAC−1;
・BAG3タンパク質のaa385〜399の配列(SSPKSVATEERAAPS)を認識するように設計され、検出物資として使用されたAC−2という名の第二モノクローナル抗体;
c):
・第一モノクローナル抗体クローンAC−1;
・BAG3タンパク質のaa533〜547の配列(DKGKKNAGNAEDPHT)を認識するように設計され、検出物質として使用されたAC−3という名の第二モノクローナル抗体;
d):
・第一モノクローナル抗体クローンAC−1;
・検出物質として使用されたAC−2及びAC−3の混合物;
e):
・第一モノクローナル抗体クローンAC−2;
・検出物質としての、AC−1、又はAC−3、又はAC−1及びAC−3抗体の混合物;
f):
・第一モノクローナル抗体クローンAC−3;
・検出物質としての、AC−1、又はAC−2、又はAC−1及びAC−2抗体の混合物;
【0051】
試験した全ての組み合わせは、定量的に、ELISA試験によって、患者の血清中における可溶性BAG−3の存在を確認することができる。
図4中の説明に役立つ例は、3%ウシ血清アルブミン(BSA)が加えられた食塩水中に再構成された組み換えBAG3タンパク質のスカラー濃度による較正曲線の展開を示す。
【0052】
上記組み換えタンパク質は、NCBI PubMed配列:NM_004281.3ヒトのヌクレオチド1〜2608に対応するBAG3タンパク質をコードするcDNAから作られ、乳癌細胞株MCF−7から得られたRNA全体からのPCRによって増幅され、次いで、制限酵素Ncol/Xholを用いて発現ベクターpET30a(+)(Novagen)中でクローン化された。
【0053】
得られた組み換えタンパク質を6つのヒスチジン残基に融合したものを大腸菌内で発現させ、HisTrap HPカラム(GEヘルスケア)を用いた親和性クロマトグラフィーによって精製した。
【0054】
次いで、96ウェルミクロプレートを、AC−1抗体を含有する溶液を加えることにより、機能化し、その後、非特異的な相互作用を防ぐため、遮断溶液を用いて処置した。その後、組み換えタンパク質を図中に示す濃度で加え、ポリクローナル抗体TOS−2によって示された。その信号は、ヒドロペルオキシダーゼ(HRP)に結合した抗ウサギ二次抗体の使用と、その後のTMB試薬(eBioscience,UK)の添加とによって得られた。
【0055】
上記分析は、心不全を患う患者の血清中における可溶性BAG3タンパク質を分析するのに有用であることが証明された。
【0056】
例5.心臓疾患及び膵臓癌を患う患者の血清上でのELISA分析の検証
どんな種類の顕在的な疾患をも患っていない対象におけるBAG3の血清濃度を調べるため、健康なドナーから血清を集めた。ドナーの年齢の範囲は21〜65歳であった。検出したBAG3の濃度は平均で2.38ng/ml±0.32であった。
【0057】
年齢に関係した濃度の差異がわずかにあった。具体的に、21〜43歳の年齢グループでは、BAG3の平均血清濃度が3.13ng/ml(±0.50)であり、44〜65歳のドナーでは、それが1.80ng/ml(±0.40)である(
図5)。
【0058】
次いで、可溶性BAG3タンパク質の存在を分析するため、(様々なタイプ及びグレードの)心臓疾患の臨床診断を受けた38人の患者から血清を集めた。試験した患者の年齢範囲は、49〜81歳(平均年齢68.04±6.9)であった。検出したBAG3の濃度は平均で8.30ng/ml±0:58である。
【0059】
心臓疾患を患う患者と健康なドナー間の差異は、全体と同年代の患者の双方で、非常に有意なものである(
図6)。
【0060】
更に、心不全にかかっている対象とかかっていない対象からなる心臓疾患を患う患者の中から、2つの集団を認識し、
図8に記載されるように、BAG3タンパク質の異なる血清レベルによって特徴付けられた。なお、
図8は、非代償性でない心臓疾患を患う患者と比較した心不全の診断を受けた患者におけるBAG3の血清濃度を図示する。
【0061】
更に、膵臓癌、結腸癌又は肺癌を患う幾人かの患者においても可溶性BAG3の血清レベルを測定した。以下の表1に示されるように、膵臓癌を患う患者のみにおいて、70ng/mlを超える血清レベルが測定された。
【0062】
【表1】
【0063】
例6.ELISA分析の感度及び特異性の決定
次いで、心不全を患う患者におけるBAG3タンパク質の検出のためのELISA分析の感度及び特異性の値を明確にするため、得られたデータを統計分析のプログラムを介して分析した。
【0064】
カットオフ値として2.76ng/mlを用い、感度及び特異性の値はそれぞれ83.3%及び77.08%であり、陽性及び陰性予測値はそれぞれ75%及び88.1%である。
図7は、示されたカットオフで得たROC曲線を示す。
【0065】
例7.可溶性BAG3タンパク質の機能活性の特徴付け
血清中に放出されたタンパク質の血球上での役割の可能性を決定するため、組み換えBAG3タンパク質をマクロファージ活性化分析に用いた。このため、マウス単球J774細胞株を、陽性コントロールとしてリポ多糖(LPS)等の炎症促進剤を用い、異なる濃度の組み換えBAG3タンパク質によって処置した。J774細胞を集蜜60%にてプレート上に蒔き、濃度が250、500ng/ml及び1mg/mlの組み換えBAG3タンパク質と共に又はそれを濃度が10ng/mlのLPSと組み合わせたものと共に24時間インキュベートした。
【0066】
実験の終わりで、細胞を収集し、加工した。タンパク質溶解物を、酵素の発現レベルを評価するために抗iNOS抗体(iNOS:誘導型一酸化窒素合成酵素)を用い、また、負荷コントロールとして使用されるGAPDHに対する抗体を用いたウエスタン・ブロットによって分析した。そのデータを
図9a)に示す。
【0067】
更に、培地中の亜硝酸塩の生成は、単球活性化と相関しており、Griess試薬(1%スルファニルアミド、0.1%ナフチルエチレンジアミン、5%リン酸)を用いて検証され、ベックマンDU−62分光光度計において550nMにて測定した(
図9b)。
【0068】
図9b)は、組み換えタンパク質が、500ng/mlの濃度にて、コントロール(未処置細胞からなる)と比べて亜硝酸塩の生成を3倍に増大させることを示す(p<0.001);更に、その活性は用量依存的である(
図9a及びb)。
【0069】
次いで、BAG3組み換えタンパク質を、フルオロタグFITC結合キット(Sigma)を用い、FITCに結合させた。等しい量のBSA−FITC(陰性コントロール)及びrBAG3−FITCを培地に1時間加えた。次に、細胞を3.7%ホルムアルデヒド溶液によって固定し、ZeissLSM共焦点顕微鏡によって分析した。
【0070】
J774細胞表面へのBAG3タンパク質の結合は、フルオロフォアと結合した組み換えタンパク質の使用により確認された(
図10)。BAG3結合は、他のタンパク質、例えばBSAがBAG3の代わりに使用された場合に観察されないため、特異的である。
【0071】
参考文献
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