(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
各相各極の巻線が単層の重ね巻きコイルで構成され、前記単層の重ね巻きコイルは、2以上に分割された同相の単位コイルを固定子鉄心のスロット内において該固定子鉄心の径方向へ重ねて配置された組合せコイルで構成され、
前記組合せコイルは、1段目の単位コイルと、前記1段目の単位コイルに対して前記固定子鉄心の径方向の内側に配置される2段目の単位コイルと、で構成され、
前記1段目の単位コイルの巻数と前記2段目の単位コイルの巻数とが同一であって、かつ、前記1段目の単位コイルの口出し線の本数と前記2段目の単位コイルの口出し線の本数とが異なる回転電機の固定子巻線。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、複数の実施形態による回転電機の固定子巻線、回転電機の固定子、回転電機の固定子の製造方法、及び回転電機の固定子の製造に用いる治具について、図面を参照して説明する。なお、各実施形態において実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0012】
(第一実施形態)
まず、第一実施形態について、
図1から
図13を参照して説明する。
図1に示す三相交流の回転電機の固定子10は、固定子鉄心11と、三相各相の固定子巻線、すなわちU相の固定子巻線20と、V相の固定子巻線30と、W相の固定子巻線40と、を備えている。固定子鉄心11は、例えば電磁鋼板を所定の形状に打ち抜き、その打ち抜いた電磁鋼板を複数枚積層して構成されている。固定子鉄心11には、48個のスロット12が形成されている。固定子巻線20、30、40は、それぞれスロット12に納められている。これにより、固定子10は、4極48スロットの固定子を構成している。
【0013】
各相の固定子巻線20、30、40は、それぞれの構成が共通しているため、U相の固定子巻線20を代表させ、その構成について説明する。U相の固定子巻線20の各極は、
図1及び
図2に示すように、第1組合せコイル21と第2組合せコイル22とから構成されている。この場合、U相の固定子巻線20は、4組の第1組合せコイル21及び第2組合せコイル22を有している。これら第1組合せコイル21及び第2組合せコイル22は、それぞれ固定子鉄心11のスロット12内に納められている。各組の第1組合せコイル21と第2組合せコイル22とは、各極における重ね巻きコイルを構成している。
【0014】
図2には、48個の各スロット12について、Nを1〜48の整数とし、あるスロット12を第1スロットとした場合のN番目のスロット12を第Nスロットとして表す。第1組合せコイル21と第2組合せコイル22とは、配置が異なることを除いて同一の構成である。例えば第1組合せコイル21は、第1スロットと第11スロットに納められている。第2組合せコイル22は、第1組合せコイル21に対して1スロット分ずらした位置、つまり第2スロットと第12スロットに納められている。この場合、第1スロットと第11スロット、及び第2スロットと第12スロットには、U相以外のコイルを構成する固定子巻線、すなわちV相の固定子巻線30及びW相の固定子巻線40は納められていない。つまり、第1組合せコイル21と第2組合せコイル22とは、単層の重ね巻きのコイルを構成している。
【0015】
各コイルのコイルピッチKは、次式(1)で求められる。この場合、第1組合せコイル21及び第2組合せコイル22のコイルピッチKは、K=83.3%となる。なお、Sはスロットピッチ、Pは極数、Zはスロット数を示す。本実施形態の場合、スロットピッチSは、例えば第11スロットと第1スロットとの差、又は第12スロットと第2スロットとの差であり、スロットピッチS=10となる。また、本実施形態の場合、固定子10は、4極48スロットであるため、極数P=4、スロット数Z=48となる。
【0016】
K=S×P/Z×100・・・(1)
重ね巻きコイルを構成する第1組合せコイル21及び第2組合せコイル22は、同一の構成であるため、第1組合せコイル21及び第2組合せコイル22について第1組合せコイル21を代表させて説明する。第1組合せコイル21は、2以上に分割された同相の単位コイルで構成されている。本実施形態の場合、第1組合せコイル21は、2個に分割されたU相の単位コイルである1段目単位コイル211と2段目単位コイル222とから構成されている。1段目単位コイル211は、スロット12内において、固定子鉄心11の径方向の外側つまり外周側に配置されている。2段目単位コイル212は、スロット12内において、固定子鉄心11の径方向の内側つまり内周側に配置されている。
【0017】
1段目単位コイル211及び2段目単位コイル212は、いずれも同一の巻数、例えば26巻きで構成されている。一方、1段目単位コイル211と2段目単位コイル212とでは、その構成が若干異なっている。すなわち、
図3及び
図4に示すように、内周側に設けられる2段目単位コイル212の周長は、外周側に設けられる1段目単位コイル211の周長よりも短い。これは、
図3に示すように、2段目単位コイル212が、1段目単位コイル211よりも固定子鉄心11の径方向の内側に配置されることにより、2段目単位コイル212におけるスロット間の距離L2が、1段目単位コイル211におけるスロット間の距離L1より短くなるからである。
【0018】
第1組合せコイル21は、2以上の線径の巻線で構成されている。また、1段目単位コイル211の口出し線の本数と、2段目単位コイル212の口出し線の本数とは異なる。すなわち、
図4及び
図5(a)に示すように、1段目単位コイル211は、直径1.1mm×2本の巻線により構成されている。すなわち、1段目単位コイル211の口出し線の本数は2本に構成されている。これに対し、
図4及び
図5(b)に示すように、2段目単位コイル212は、直径1.0mm×1本の巻線により構成されている。すなわち、2段目単位コイル212の口出し線の本数は1本に構成されている。
【0019】
次に、固定子巻線20、30、40を備えた固定子10の製造方法について説明する。各コイル211、221、212、222を、固定子鉄心11の各スロット12内へ挿入する際、
図6に示すコイル挿入治具50、アライメント治具60、及びコイル浮き押さえ治具70が用いられる。
【0020】
まず、これらコイル挿入治具50、アライメント治具60、及びコイル浮き押さえ治具70の構成について説明する。コイル挿入治具50は、複数のウエッジガイド51、複数のブレード52、ブレードホルダ53、及びストリッパ54を有している。コイル挿入治具50は、固定子鉄心11が有するスロット12の数と同数のウエッジガイド51を有している。ウエッジガイド51は、固定子鉄心11の軸方向へ長い棒状に構成されている。複数のウエッジガイド51は、全体として円筒形になるように配置されている。各ウエッジガイド51の基端部は、図示しないウエッジホルダに固定されている。各ウエッジガイド51の相互間にはウエッジ用隙間511及びコイル用隙間512が形成されている。ウエッジ用隙間511には、図示しないウエッジが挿入される。コイル用隙間512には、各コイル211、221、212、222が通される。
【0021】
ブレード52、ブレードホルダ53、及びストリッパ54は、各ウエッジガイド51で形成された円筒状の内側に設けられている。コイル挿入治具50は、固定子10が有するスロット12の数と同数のブレード52を有している。各ブレード52は、固定子鉄心11の軸方向へ長い半円柱状に構成されている。複数のブレード52は、全体として円筒形になるように配置されている。ブレード52の半円柱状の平面側は、円筒形状の外方を向いている。ブレード52の外周側となる平面部の一部には、
図8に示すように、矩形の溝形状のガイド部521が形成されている。ガイド部521は、スロット12のティース15の端部と勘合する。
【0022】
ブレードホルダ53は、
図6に示すように、全体として円板状に構成されている。各ブレード52は、ブレードホルダ53の円周に沿って等間隔に配置されている、各ブレード52の基端部は、ブレードホルダ53に固定されている。これにより、各ブレード52は、全体として円筒形状に構成されている。各ブレード52の相互間には、隙間522が形成されている。隙間522には、各コイル211、221、212、222が通される。
【0023】
ストリッパ54は、各ブレードホルダ53で形成された円筒状の内側に設けられている。ストリッパ54は、ブレードホルダ53の反対側へ向かって細くなる円錐台形に形成されている。詳細は図示しないが、ストリッパ54の外周部には、各ブレード52に勘合する溝が形成されている。ストリッパ54は、各ブレードホルダ53で形成された円筒状の内側を、ブレードホルダ53に沿って摺動する。すなわち、ブレード52及びブレードホルダ53と、ストリッパ54とは、相対的に移動可能となっている。
【0024】
ブレードホルダ53には、
図10に示すように、第1シャフト55が固定されている。ストリッパ54には、第2シャフト56が固定されている。第1シャフト55は、中空軸で構成されている。第2シャフト56は、第1シャフト55の内側に通されている。第1シャフト55と、第2シャフト56とは、軸方向へ相対的に移動可能となっている。第1シャフト55及び第2シャフト56は、それぞれ図示しないシリンダなどの駆動源に接続されている。このため、ブレード52及びブレードホルダ53と、ストリッパ54とは、段階的に移動する。すなわち、第1シャフト55が移動すると、その第1シャフト55の移動に伴って、ブレード52及びブレードホルダ53と、ストリッパ54とが共に移動する。第2シャフト56が移動すると、その第2シャフト56の移動に伴って、ストリッパ54が移動する。
【0025】
アライメント治具60は、
図6及び
図7に示すように、ブレードガイド61、ティースガイド62、及び握り棒63を有している。アライメント治具60は、コイル挿入時に加わる力を受けて、コイル挿入治具50のブレード52等が変形することを抑制する。ブレードガイド61は、全体として円板状に構成されている。
図7に示すように、ブレードガイド61の外周部には、各ブレード52に対応してブレード52の数と同数のブレード溝部611が形成されている。各ブレード52は、ブレードガイド61のブレード溝部611に勘合する。これにより、各ブレード52は、基端側がブレードホルダ53に固定されていると共に、先端側がブレードガイド61に保持されて、全体として円筒形状に維持される。
【0026】
ティースガイド62は、全体として円板状に構成されており、ブレードガイド61に対してコイル挿入治具50と反対側に設けられている。ティースガイド62の外周部には、複数のガイド突部621が設けられている。ガイド突部621は、ティース15の相互間の隙間に挿入され、これによりアライメント治具60が、固定子鉄心11に対して相対的に回転することを規制する。握り棒63は、円柱状の棒に形成され、ブレードガイド61及びティースガイド62に固定されている。作業者は、握り棒63を持って、アライメント治具60を、コイル挿入治具50に取り付け又はコイル挿入治具50から取り外す。
【0027】
コイル浮き押さえ治具70は、固定子鉄心11のスロット12に挿入されたコイルがスロット12から飛び出さないように、コイルをスロット12内に押さえ込むための治具である。コイル浮き押さえ治具70は、
図6に示すように、主体部としての複数の円板体71と、各円板体71を繋ぐ複数の接続部72とを有している。円板体71は、例えば合成樹脂などによって円板状に形成されている。円板体71の外周部には、
図9に示すように、各スロット12に対応して複数の押さえ部711が設けられている。押さえ部711は、円板体71の外周部分から外側へ向かって突出している。押さえ部711は、スロット12の開口側の一部分に挿入されて当該開口を塞ぐ。円板体71の中央部には、握り棒63が通る穴712が形成されている。複数の接続部72は、例えば円柱状であって、各円板体71を接続している。
【0028】
ここで、単位コイルの段数を2以上の整数からなるX段とした場合、つまり組合せコイルの分割数をX個とした場合、各単位コイルは次のようにしてスロット12へ挿入される。すなわち、まず、コイル挿入治具50によって、X−1段目の単位コイルをスロット12へ挿入する。その後、固定子鉄心11の内側にコイル浮き押さえ治具70を嵌め込む。そして、次のX段目の単位コイルをスロット12へ挿入する際、コイル挿入治具50が固定子鉄心11の内側へ挿入されることに伴って、アライメント治具60によりコイル浮き押さえ治具70を固定子鉄心11から押し出す。その後、コイル挿入治具50によって、X段目の単位コイルをスロット12へ挿入する。
【0029】
本実施形態の場合、分割段数X=2である。この場合、固定子鉄心11の各スロット12内には、各相各極の1段目単位コイルが挿入された後、各相各極の2段目単位コイルが挿入される。なお、以下では各相各極のコイルについて1段目単位コイル211及び2段目単位コイル212を代表して説明する。
【0030】
まず、1段目単位コイル211の挿入について、
図10を参照して説明する。作業者は、アライメント治具60をコイル挿入治具50から外した状態で、コイル挿入治具50に、各相各極の1段目単位コイル211をセットする。この場合、1段目単位コイル211は、スロットピッチSに相当するS本のブレード52を囲むようにして、ブレード52間の隙間511に挿入される。その後、
図10(1)に示すように、アライメント治具60をコイル挿入治具50に取り付ける。
【0031】
次に、
図10(2)に示すように、第1シャフト55を前進させて、アライメント治具60を固定子鉄心11の内側に進入させる。このとき、アライメント治具60のガイド突部621が、固定子鉄心11のティース15間に挿入され、これにより、固定子鉄心11に対するアライメント治具60及びコイル挿入治具50の相対的な回転が規制される。そして、ブレード52をティース15に勘合させた状態でさらに第1シャフト55を前進させて、ブレード52を固定子鉄心11に押し込む。
【0032】
その後、
図10(3)に示すように、さらに第1シャフト55を前進させて、ブレード52の先端が固定子鉄心11の先端から露出するまでブレード52を前進させる。このとき、アライメント治具60は、固定子鉄心11の内側を突き抜けて、固定子鉄心11の外部に露出する。次に、
図10(4)に示すように、第2シャフト56を前進させて、ストリッパ54を前進させる。このとき、
図8にも示すように、1段目単位コイル211は、ストリッパ54によって、スロット12内に押し込まれる。ストリッパ54が前端まで前進した後、
図10(5)に示すように、アライメント治具60をコイル挿入治具50から取り外す。そして、1段目単位コイル211は、ブレード52の先端を乗り越えて、コイル挿入治具50から取り外される。このようにして、1段目単位コイル211は、スロット12内に挿入される。その後、
図10(6)に示すように、固定子鉄心11の内側に、コイル浮き押さえ治具70が挿入される。
【0033】
次に、2段目単位コイル212の挿入について、
図11を参照して説明する。作業者は1段目単位コイル211の場合と同様に、アライメント治具60をコイル挿入治具50から外した状態で、コイル挿入治具50に、各極各相の2段目単位コイル212をセットする。その後、
図11(1)に示すように、アライメント治具60をコイル挿入治具50に取り付ける。
【0034】
次に、
図11(2)に示すように、第1シャフト55を前進させて、アライメント治具60を固定子鉄心11の内側に侵入させる。このとき、1段目単位コイル211の場合と同様に、アライメント治具60のガイド突部621が、固定子鉄心11のティース15間に挿入され、これにより、固定子鉄心11に対するアライメント治具60及びコイル挿入治具50の相対的な回転が規制される。また、このとき、アライメント治具60の握り棒63が、コイル浮き押さえ治具70の穴712に通されるとともに、アライメント治具60によってコイル浮き押さえ治具70が押される。そして、さらに第1シャフト55を前進させて、ブレード52を固定子鉄心11に押し込む。
【0035】
その後、
図11(3)に示すように、さらに第1シャフト55を前進させて、ブレード52の先端が固定子鉄心11の先端から露出するまでブレード52を前進させる。このとき、コイル浮き押さえ治具70は、固定子鉄心11の内側から押し出され、これにより、コイル浮き押さえ治具70が固定子鉄心11から取り外される。その後、1段目単位コイル211と同様に、
図11(4)に示すように第2シャフト56を前進させて、ストリッパ54を前進させる。これにより、2段目単位コイル212は、ストリッパ54によって、スロット12内に押し込まれる。
【0036】
ストリッパ54が前端まで前進した後、
図11(5)に示すように、アライメント治具60をコイル挿入治具50から取り外す。そして、2段目単位コイル212は、ブレード52の先端を乗り越えて、コイル挿入治具50から取り外される。このようにして、2段目単位コイル212も、スロット12内に挿入される。これにより、
図11(6)に示すように、各相各極の1段目単位コイル211及び2段目単位コイル212のスロット12内への挿入が完了する。その後、相間絶縁紙13、14を配置し、コイルエンドを拡開する。
【0037】
固定子10は、
図12に示すように、第1相間絶縁紙13、及び複数の第2相間絶縁紙14を備えている。なお、
図12は、説明を簡便にするため、4極24スロットの固定子10を示している。この場合、第1相間絶縁紙13及び複数の第2相間絶縁紙14の構成については、4極48スロットの固定子10のものと差違はほとんど無い。
【0038】
第1相間絶縁紙13は、
図13(a)に示すように、例えば絶縁性を有するアラミド紙を帯状に切断し、その帯状の両端を接続して環状に構成されている。第1相間絶縁紙13は、固定子鉄心11の軸方向の両端部にあって、固定子鉄心11の径方向に隣接する各単位コイルの相互間に設けられている。例えば、第1組合せコイル21について見ると、第1相間絶縁紙13は、1段目単位コイル211と2段目単位コイル212とにおいて、スロット12から飛び出た部分となるコイルエンド部にあって、1段目単位コイル211と2段目単位コイル212との間に設けられている。これにより、1段目単位コイル211と2段目単位コイル212との間が電気的に絶縁されている。第2相間絶縁紙14は、
図13(b)に示すように、例えば絶縁性を有する矩形状のアラミド紙で構成されている。第2相間絶縁紙14は、
図12に示すように、コイルエンド部において、各相のコイル間に設けられている。ちなみに、スロット12内には、絶縁紙は設けられていない。
【0039】
これによれば、各相の固定子巻線20、30、40を、それぞれ重ね巻きコイルとしているため、同心巻きコイルを採用した場合に比べて、巻線の無駄を削減することができる。また、各相各極について見ると、例えばU相の各極は第1組合せコイル21と第2組合せコイル22とから構成されている。そして、第1組合せコイル21又は第2組合せコイル22は、2以上この場合2つに分割された同相の1段目単位コイル211、221と2段目単位コイル212、222とを組み合わせて構成されている。
【0040】
例えば1段目単位コイル211と2段目単位コイル212とを、複数のスロット12のうち同一のスロット12である第1スロット及び第12スロット内において固定子鉄心11の径方向へ重ねて配置することにより、第1組合せコイル21が構成されている。同様に、1段目単位コイル221と2段目単位コイル222とを、複数のスロット12のうち同一のスロット12である第2スロット及び第13スロット内において固定子鉄心11の径方向へ重ねて配置することにより、第2組合せコイル22が構成されている。
【0041】
この場合、1段目単位コイル211、221及び2段目単位コイル212、222は、これら1段目単位コイル211、221及び2段目単位コイル212、222を分割することなく一体に構成した場合に比べて、個々の巻線の数量が減る。そのため、1段目単位コイル211、221及び2段目単位コイル212、222は、個々を見ると、これら1段目単位コイル211、221及び2段目単位コイル212、222を分割することなく構成した場合に比べて柔軟なものとすることができる。そのため、個々のコイル211、221、212、222の取り扱いが容易となり、これにより、コイル211、221、212、222を固定子鉄心11のスロット12へ容易に挿入することができる。その結果、各コイル211、212、221、222の挿入について、機械化が容易となる。
【0042】
2段目単位コイル212、222の巻線は、1段目単位コイル211、212の巻線に比べて細く本数が少ない。この場合、1段目単位コイル211、221は、2段目単位コイル212、222よりも柔軟性に乏しくなるが、未だコイルが挿入されていない状態のスロット12に対して挿入されるため、スロット12内の空間に余裕があり、その挿入が比較的容易になる。一方、2段目単位コイル212、222は、1段目単位コイル211、221よりも柔軟性に富んでいるため、1段目単位コイル211、221が挿入されて空間に余裕が少ない状態のスロット12内に対しても、その挿入が比較的容易になる。これにより、コイル211、221、212、222を固定子鉄心11のスロット12へ容易に挿入することができる。その結果、各コイル211、212、221、222の挿入について、機械化が容易となる。
【0043】
また、例えば任意の整数をYとすると、1段目単位コイル211、221は、それぞれφ1.1mmの2本の巻線をY巻きして構成されている。また、2段目単位コイル212、222は、それぞれφ1.0mmの1本の巻線をY巻きして構成されている。これにより、組合せコイル21、22は、それぞれ全体としてφ1.1mmの2本の巻線とφ1.0mmの1本の巻線をY巻きした構成となる。なお、本実施形態の場合、Y=26である。この場合、1段目単位コイル211、221の口出し線は、2本×2=4本となる。2段目単位コイル212、222の口出し線は、1本×2=2本となる。したがって、各組合せコイル21、22の口出し線の総数は、それぞれ2本×2+1本×2=6本となる。
【0044】
一方、比較例として、1段目単位コイル211、221及び2段目単位コイル212、222を、それぞれφ1.1mmの2本及びφ1.0mmの1本の巻線をY/2巻きしたもので構成し、これにより全体としてφ1.1mmの2本及びφ1.0mmの1本の巻線をY巻きした構成とした場合、その口出し線の総数は(2+1)本×4=12本となる。したがって、本実施形態の構成によれば、比較例に対して、その口出し線の総本数を低減この場合半減させることができる。各コイルの両端となる口出し線は、通常、所定寸法を切断される。そして、その切断した部分は廃棄等されて無駄になる。本実施形態の構成によれば、第1組合せコイル21及び第2組合せコイル22の口出し線の総本数を低減することができるため、切断されて廃棄される部分も低減することができる。これにより、コイル21、22を製造するための巻線量を削減することができる。
【0045】
なお、この場合、1段目単位コイル211、221を、φ1.1mmの1本の巻線及びφ1.0mmの1本の巻線の合計2本の巻線で構成し、2段目単位コイル221、222を、φ1.1mmの1本の巻線で構成しても良い。これによっても、上記と同様に、2段目単位コイル221、222を、1段目単位コイル211、221よりも柔軟性に富む構成とすることができるとともに、口出し線の総本数を低減して製造過程で無駄になる巻線量を削減することができる。
【0046】
また、スロット12内には、絶縁紙は設けられていない。そのため、スロット12内の空間が絶縁紙によって圧迫されることが無い。したがって、スロット12内において、各コイル211、212、221、222を挿入するための空間をより広く確保することができる。さらに、スロット12内の絶縁紙が、各コイル211、212、221、222を挿入する際の抵抗となることがない。これにより、各コイル211、212、221、222のスロット12内への挿入がより容易なものとすることができる。その結果、各コイル211、212、221、222の挿入について機械化が容易となる。
【0047】
また、本実施形態の製造方法は、コイル浮き押さえ治具70を備えている。コイル浮き押さえ治具70は、固定子鉄心11に嵌め込まれてスロット12の開口を塞ぎ、これにより、一旦スロット12内に配置されたコイルをスロット12の開口から飛び出ることを防止する。この場合、1段目の単位コイル211、221をスロット12へ挿入し、その後、固定子鉄心11にコイル浮き押さえ治具70を嵌め込む。そして、コイル浮き押さえ治具70を固定子鉄心11から押し外すとともに2段目の単位コイル212、222をスロット12に挿入する。これにより、2段目単位コイル212、222のスロット12内への挿入をより容易なものとすることができる。
【0048】
(第二実施形態)
次に第二実施形態について、
図14を参照して説明する。
第二実施形態において、第1組合せコイル21は、1段目単位コイル211と、2段目単位コイル212と、3段目単位コイル213とから構成されている。同様に、第2組合せコイル22は、1段目単位コイル221と、2段目単位コイル222と、3段目単位コイル223とから構成されている。これによれば、各単位コイル211、212、213、221、222、223を、より柔軟性に富む構成にすることができ、その取り扱いを容易なものとすることができる。その結果、スロット12内への各コイル211、212、213、221、222、223の挿入をより容易なものとすることができ、機械化が容易となる。
【0049】
(第三実施形態)
次に第三実施形態について、
図15を参照して説明する。
本実施形態において、固定子10は、2極36スロットに構成されている。この場合も、各相の固定子巻線20、30、40の構成は共通している。例えばU相の固定子巻線20の各極は、第1組合せコイル21と、第2組合せコイル22と、第3組合せコイル23とから構成されている。第1組合せコイル21は、第1スロットと第10スロットとに納められている。第2組合せコイル22は、第1組合せコイル21に対して1スロット分ずらした位置、つまり第2スロットと第11スロットとに納められている。第3組合せコイル23は、第2組合せコイル22に対して1スロット分ずらした位置、つまり第3スロットと第12スロットとに納められている。この場合、各組合せコイル21、22、23のコイルピッチKは、K=50%となる。なお、この場合、スロットピッチS=9、極数P=2、スロット数Z=36となる。
【0050】
また、第3組合せコイル23は、第1組合せコイル21及び第2組合せコイル22と同様に構成されている。つまり、第3組合せコイル23は、1段目単位コイル231と2段目単位コイル232とから構成されている。第3組合せコイル23の1段目単位コイル231は、第1組合せコイル21の1段目単位コイル211及び第2組合せコイル22の1段目単位コイル221と同様に構成されている。第3組合せコイル23の2段目単位コイル232は、第1組合せコイル21の2段目単位コイル212及び第2組合せコイル22の2段目単位コイル222と同様に構成されている。
これによれば、固定子10が2極36スロットの回転電機の固定子であっても、上記各実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0051】
(第四実施形態)
次に第四実施形態について、
図16を参照して説明する。
本実施形態において、固定子10は、2極36スロットに構成されている。この場合も、各相の固定子巻線20、30、40の構成は共通している。例えばU相の固定子巻線20の各極は、第1組合せコイル21と、第2組合せコイル22と、第3組合せコイル23とから構成されている。第1組合せコイル21は、第1スロットと第16スロットとに納められている。第2組合せコイル22は、第1組合せコイル21に対して1スロット分ずらした位置、つまり第2スロットと第17スロットとに納められている。第3組合せコイル23は、第2組合せコイル22に対して1スロット分ずらした位置、つまり第3スロットと第18スロットとに納められている。この場合、各組合せコイル21、22、23のコイルピッチKは、K=83.3%となる。なお、この場合、スロットピッチS=15、極数P=2、スロット数Z=36となる。
これによれば、固定子10が2極36スロットの回転電機の固定子であっても、上記各実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0052】
(第五実施形態)
次に第五実施形態について、
図17を参照して説明する。
本実施形態において、固定子10は、2極24スロットに構成されている。この場合も、各相の固定子巻線20、30、40の構成は共通している。例えばU相の固定子巻線20の各極は、第1組合せコイル21と、第2組合せコイル22とから構成されている。第1組合せコイル21は、第1スロットと第11スロットとに納められている。第2組合せコイル22は、第1組合せコイル21に対して1スロット分ずらした位置、つまり第2スロットと第12スロットとに納められている。この場合、各組合せコイル21、22のコイルピッチKは、K=83.3%となる。なお、この場合、スロットピッチS=10、極数P=2、スロット数Z=24となる。
これによれば、固定子10が2極24スロットの回転電機の固定子であっても、上記各実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0053】
(第六実施形態)
次に第六実施形態について、
図18を参照して説明する。
本実施形態において、固定子10は、2極48スロットに構成されている。この場合も、各相の固定子巻線20、30、40の構成は共通している。例えばU相の固定子巻線20の各極は、第1組合せコイル21と、第2組合せコイル22と、第3組合せコイル23と、第4組合せコイル24とから構成されている。第1組合せコイル21は、第1スロットと第21スロットとに納められている。第2組合せコイル22は、第1組合せコイル21に対して1スロット分ずらした位置、つまり第2スロットと第22スロットとに納められている。第3組合せコイル23は、第2組合せコイル22に対して1スロット分ずらした位置、つまり第3スロットと第23スロットとに納められている。第4組合せコイル24は、第3組合せコイル23に対して1スロット分ずらした位置、つまり第4スロットと第24スロットとに納められている。この場合、各組合せコイル21、22、23、24のコイルピッチKは、K=83.3%となる。なお、この場合、スロットピッチS=20、極数P=2、スロット数Z=48となる。
【0054】
また、第4組合せコイル24は、1段目単位コイル241と2段目単位コイル242とから構成されている。第4組合せコイル24の1段目単位コイル241は、第1組合せコイル21の1段目単位コイル211、第2組合せコイル22の1段目単位コイル221、及び第3組合せコイル23の1段目単位コイル231と同様に構成されている。第4組合せコイル24の2段目単位コイル242は、第1組合せコイル21の2段目単位コイル212、第2組合せコイル22の2段目単位コイル222、及び第3組合せコイル23の2段目単位コイル232と同様に構成されている。
これによれば、固定子10が2極48スロットの回転電機の固定子であっても、上記各実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0055】
(第七実施形態)
次に第七実施形態について、
図19を参照して説明する。
本実施形態において、固定子10は、6極36スロットに構成されている。この場合も、各相の固定子巻線20、30、40の構成は共通している。例えばU相の固定子巻線20の各極は、第1組合せコイル21から構成されている。第1組合せコイル21は、第1スロットと第8スロットとに納められている。この場合、第1組合せコイル21のコイルピッチKは、K=116.7%となる。なお、この場合、スロットピッチS=7、極数P=6、スロット数Z=36となる。
これによれば、固定子10が6極36スロットの回転電機の固定子であっても、上記各実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0056】
(第八実施形態)
次に第八実施形態について、
図20を参照して説明する。
本実施形態において、固定子10は、6極54スロットに構成されている。この場合も、各相の固定子巻線20、30、40の構成は共通している。例えばU相の固定子巻線20の各極は、第1組合せコイル21、第2組合せコイル22、及び第3組合せコイル23とから構成されている。第1組合せコイル21は、第1スロットと第10スロットとに納められている。第2組合せコイル22は、第1組合せコイル21に対して1スロット分ずらした位置、つまり第2スロットと第11スロットとに納められている。第3組合せコイル23は、第2組合せコイル22に対して1スロット分ずらした位置、つまり第3スロットと第12スロットとに納められている。この場合、各組合せコイル21、22、23のコイルピッチKは、K=100%となる。なお、この場合、スロットピッチS=9、極数P=6、スロット数Z=54となる。
これによれば、固定子10が6極54スロットの回転電機の固定子であっても、上記各実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0057】
(第九実施形態)
次に第九実施形態について、
図21を参照して説明する。
本実施形態において、固定子10は、6極72スロットに構成されている。この場合も、各相の固定子巻線20、30、40の構成は共通している。例えばU相の固定子巻線20の各極は、第1組合せコイル21と、第2組合せコイル22とから構成されている。第1組合せコイル21は、第1スロットと第11スロットとに納められている。第2組合せコイル22は、第1組合せコイル21に対して1スロット分ずらした位置、つまり第2スロットと第12スロットとに納められている。この場合、各組合せコイル21、22のコイルピッチKは、K=83.3%となる。なお、この場合、スロットピッチS=10、極数P=6、スロット数Z=72となる。
これによれば、固定子10が6極72スロットの回転電機の固定子であっても、上記各実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0058】
(第十実施形態)
次に第十実施形態について、
図4及び
図22を参照して説明する。
第十実施形態は、組合せコイル21、22の巻線の構成が上記第一実施形態と異なる。ここで、組合せコイル21、22は同一の構成であるため、第1組合せコイル21を代表させて説明する。第1組合せコイル21は、上記第一実施形態と同様に2以上の線径の巻線、この場合、φ1.1mmの巻線2本と、φ1.0mmの巻線1本と、で構成されている。1段目単位コイル211は、
図22に示すように、φ1.1mmの巻線1本と、φ1.0mmの巻線1本と、の合計2本の巻線で構成されている。一方、2段目単位コイル212は、φ1.1mmの巻線1本で構成されている。
【0059】
すなわち、第1組合せコイル21を構成する1段目単位コイル211及び2段目単位コイル212のうち、固定子鉄心11の径方向の内側に配置される2段目単位コイル212には、2以上の線径の巻線のうち太い方の巻線が含まれている。つまり、2段目単位コイル212には、φ1.0mmとφ1.1mmとの2種の巻線のうち、太い方となるφ1.1mmの巻線が含まれている。
【0060】
また、上記第一実施形態と同様に、2段目単位コイル212の周長は、
図4に示すように1段目単位コイル211の周長よりも短い。すなわち、第1組合せコイル21を構成する単位コイル211、212のうち、固定子鉄心11の径方向の内側に配置される2段目単位コイル212の周長が、固定子鉄心11の径方向の外側に配置される1段目単位コイル211の周長よりも短い。
【0061】
これによれば、2段目単位コイル212の周長は、
図4に示すように1段目単位コイル211の周長よりも短いため、内側に配置される2段目単位コイル212のコイルエンドの高さ寸法を低減できる。また、2段目単位コイル212について、スロット12に収まっていない渡り部分を低減、すなわち一方のスロット12から他方のスロット12へ渡る部分を短くすることができる。これにより、2段目単位コイル212に生じる巻線の無駄を削減することができる。
【0062】
そして、2段目単位コイル212には、2以上の線径の巻線のうち太い方の巻線、この場合、φ1.1mmの巻線が含まれている。これによれば、2段目単位コイル212の周長を短くしたことに伴う巻線の低減量を、より多いものとすることができる。その結果、より多くの巻線の無駄を削減することができる。
【0063】
以上説明した実施形態によれば、各相各極の巻線が単層の重ね巻きコイルで構成され、前記単層の重ね巻きコイルは、2以上に分割された同相の単位コイルを固定子鉄心のスロット内において該固定子鉄心の径方向へ重ねて配置された組合せコイルで構成されている。
これによれば、同心巻きコイルを採用した場合に比べて、巻線の無駄を削減することができる。また、個々の単位コイルを柔軟なものとすることができるため、個々の単位コイルの取り扱いが容易となり、これにより、単位コイルを固定子鉄心のスロットへ容易に挿入することができる。その結果、コイルの挿入について機械化が容易となる。
【0064】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変更は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。