特許第5677633号(P5677633)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5677633手術用高周波電気外科用処置具と手術用高周波電気外科用システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5677633
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月25日
(54)【発明の名称】手術用高周波電気外科用処置具と手術用高周波電気外科用システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 18/12 20060101AFI20150205BHJP
【FI】
   A61B17/39 320
【請求項の数】14
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-527421(P2014-527421)
(86)(22)【出願日】2013年12月16日
(86)【国際出願番号】JP2013083650
(87)【国際公開番号】WO2014109181
(87)【国際公開日】20140717
【審査請求日】2014年6月10日
(31)【優先権主張番号】61/750,942
(32)【優先日】2013年1月10日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】学校法人慶應義塾
(73)【特許権者】
【識別番号】304050923
【氏名又は名称】オリンパスメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100109830
【弁理士】
【氏名又は名称】福原 淑弘
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140176
【弁理士】
【氏名又は名称】砂川 克
(74)【代理人】
【識別番号】100158805
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 守三
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100124394
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 立志
(74)【代理人】
【識別番号】100112807
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 貴志
(74)【代理人】
【識別番号】100111073
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 美保子
(72)【発明者】
【氏名】北川 雄光
(72)【発明者】
【氏名】田邉 稔
(72)【発明者】
【氏名】山田 典弘
【審査官】 村上 聡
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−218182(JP,A)
【文献】 特開平7−47083(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/124653(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 18/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患部を把持する把持面を互いに対向するように有し、互いに対して開閉自在な1対の鉗子片と、
前記鉗子片の基端部に配設され、一方の前記鉗子片と他方の前記鉗子片とを絶縁する絶縁部材と、
一方の前記鉗子片と他方の前記鉗子片とが互いに回動自在に連結するように、一方の前記鉗子片と他方の前記鉗子片とのいずれかと連結する伝達部材と、
先端部と基端部とを有し、前記先端部は前記伝達部材に固定される操作ロッド部材と、
前記1対の鉗子片のいずれか一方を回動自在に連結する支点を有する先端カバー部材と、
前記操作ロッド部材が挿入されることで前記操作ロッド部材を前記先端部側から前記基端部側まで包み込むように覆い、前記操作ロッド部材と共に体腔内に挿入されるシャフト部材と、
前記操作ロッド部材の基端部に着脱自在に連結する可動ハンドルと、前記シャフト部材の基端部に着脱自在に連結する固定ハンドルとを有する操作部と、
前記操作ロッド部材が前記シャフト部材に挿入された際、前記シャフト部材の径方向において前記操作ロッド部材と前記シャフト部材との間に形成され、且つ前記操作ロッド部材の長手方向に沿って配設され、液体が流れる流路部と、
前記流路部と連通し、前記先端カバー部材の外周面において前記操作ロッド部材の長手方向に沿って配設され、前記流路部から前記液体が流入する溝部と、
前記溝部と連通し、前記1対の鉗子片の基端部付近に液体を供給する開口部と、
を具備する手術用高周波電気外科用処置具。
【請求項2】
前記溝部と連通し、前記鉗子片の一方の基端部を貫通するように前記鉗子片の一方の前記基端部に配設され、前記溝部から前記液体が流入する第1の貫通孔部と、
前記第1の貫通孔部と連通し、前記絶縁部材に配設され、前記第1の貫通孔部から前記液体が流入する第2の貫通孔部と、
をさらに具備し、
前記開口部は、前記第2の貫通孔部と連通し、前記絶縁部材の長手方向に沿って前記絶縁部材に配設され、前記第2の貫通孔部から前記液体が流入する請求項1に記載の手術用高周波電気外科用処置具。
【請求項3】
前記先端カバー部材の先端部は2股に分かれており、前記溝部は前記先端カバー部材の2股に分かれた前記先端部の両方に配設されている請求項1に記載の手術用高周波電気外科用処置具。
【請求項4】
前記シャフト部材は、前記シャフト部材の先端部側に配設され、前記操作ロッド部材が前記シャフト部材に挿入された際に前記溝部を覆う溝部カバー部材を有している請求項1に記載の手術用高周波電気外科用処置具。
【請求項5】
前記1対の鉗子片は、1対のバイポーラ電極である請求項1に記載の手術用高周波電気外科用処置具。
【請求項6】
前記シャフト部材は、外部から前記流路部に前記液体を流入する流入口部を有している請求項1に記載の手術用高周波電気外科用処置具。
【請求項7】
前記液体は、等張液を含む請求項1に記載の手術用高周波電気外科用処置具。
【請求項8】
前記第1の貫通孔部と前記第2の貫通孔部とは、長穴形状を有している請求項2に記載の手術用高周波電気外科用処置具。
【請求項9】
一方の前記鉗子片の前記把持面と、他方の前記鉗子片の前記把持面との少なくとも一方は、前記鉗子片の長手方向に沿って配設された把持溝部を有している請求項1に記載の手術用高周波電気外科用処置具。
【請求項10】
前記1対の鉗子片は、前記把持面を有する一対の絶縁把持部材を有する請求項1に記載の手術用高周波電気外科用処置具。
【請求項11】
前記絶縁把持部材は、前記鉗子片が最大に開いたときに、前記鉗子片の先端部から前記液体と接触する位置まで配設されている請求項10に記載の手術用高周波電気外科用処置具。
【請求項12】
前記鉗子片の長さをL、前記鉗子片の最大の開き角度をθ1、前記絶縁把持部材の把持面全体が前記液体によって濡れる状態の前記鉗子片の開き角度をθ2としたとき、前記鉗子片の先端部からの前記絶縁把持部材の長さL1は、少なくとも、L×(1−(sinθ1/sinθ2)1/2)以上の長さを有する請求項10に記載の手術用高周波電気外科用処置具。
【請求項13】
一方の前記鉗子片と他方の前記鉗子片との少なくとも一方は、開窓部を有する請求項1に記載の手術用高周波電気外科用処置具。
【請求項14】
患部を把持する把持面を互いに対向するように有し、互いに対して開閉自在な1対の鉗子片と、
前記鉗子片の基端部に配設され、一方の前記鉗子片と他方の前記鉗子片とを絶縁する絶縁部材と、
一方の前記鉗子片と他方の前記鉗子片とが互いに回動自在に連結するように、一方の前記鉗子片と他方の前記鉗子片とのいずれかと連結する伝達部材と、
先端部と基端部とを有し、前記先端部は前記伝達部材に固定される操作ロッド部材と、
前記鉗子片のいずれか一方と回動自在に連結する支点を有する先端カバー部材と、
前記操作ロッド部材が挿入されることで前記操作ロッド部材を前記先端部側から前記基端部側まで包み込むように覆い、前記操作ロッド部材と共に体腔内に挿入されるシャフト部材と、
前記操作ロッド部材の基端部に着脱自在に連結する可動ハンドルと、前記シャフト部材の基端部に着脱自在に連結する固定ハンドルとを有する操作部と、
前記操作ロッド部材が前記シャフト部材に挿入された際、前記シャフト部材の径方向において前記操作ロッド部材と前記シャフト部材との間に形成され、且つ前記操作ロッド部材の長手方向に沿って配設され、液体が流れる流路部と、
前記流路部と連通し、前記先端カバー部材の外周面において前記操作ロッド部材の長手方向に沿って配設され、前記流路部から前記液体が流入する溝部と、
前記溝部と連通し、前記1対の鉗子片の基端部付近に液体を供給する開口部と、
一方の前記鉗子片と電気的に導通している回帰電極と、他方の前記鉗子片と電気的に導通している活動電極とを有するコネクタ部と、
前記流路部に向けて前記液体を送水する液体送水部と、
前記コネクタ部と電気的に接続し、前記鉗子片に電力を供給する電源と、
を具備する手術用高周波電気外科用システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患部へ液体を送水する手術用高周波電気外科用処置具と手術用高周波電気外科用システムとに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に外科手術及び内視鏡による処置では、患部から出血することがある。止血するには、液体を供給しつつ電気凝固する手段が有効とされている。
【0003】
例えば特許文献1は、組織を処置するための手術用機器を開示している。この手術用機器は、患部に液体を供給しつつ高周波電力による凝固が可能な、腹腔用の単極型高周波電気処置具である。
【0004】
また例えば特許文献2は、開腹用の高周波鉗子を開示している。この高周波鉗子は、双極型である。
【0005】
また例えば特許文献3は、出血等を洗い流してから即座にその出血源である患部を処置する内視鏡用嘴状処置具を開示している。
【0006】
また例えば特許文献4は、ノズルパイプが閉塞された状態で送水操作を行ってもノズルパイプと送水チューブとの接続が外れない内視鏡用高周波処置具を開示している。
【0007】
また例えば特許文献5は、出血部位を素早く確実に確認することができ、必要な処置を速やかに且つ確実に行うことができる内視鏡用処置具を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2005−502424号公報
【特許文献2】米国特許第4567890号公報
【特許文献3】特開2004−275548号公報
【特許文献4】特開2007−20969号公報
【特許文献5】特開2005−224426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した特許文献1において、高周波処置具は、単極型である。このため高周波処置具において、患部の深さ方向への侵襲が大きくなってしまい、患部が容易に処置されない。また高周波処置具は、鉗子形状ではないために、組織を把持することができない。
【0010】
また特許文献2において、高周波鉗子は、双極型である。このため患部の深さ方向への侵襲は小さい。しかし、この高周波鉗子は、開腹用であるために、腹腔用には適さない。
【0011】
また、特許文献3及び特許文献4において、送水用チューブは嘴状処置具の中心軸上に設置されている。このため、鉗子を開閉する操作ワイヤが送水用チューブと干渉してしまい、鉗子の開閉力量が損なわれる。また、操作ワイヤの断面積は送水用チューブの断面積に制限されるため、操作ワイヤの強度が低下してしまう。腹腔鏡手術において、鉗子は数100g程度の臓器及び切除切片を把持・剥離するため、このような構造は腹腔鏡手術に適さない。
【0012】
また、特許文献5において、液体を滴下する開口部は、鉗子から離れた位置に配設されている。このような構造は、送水により出血部位を素早く且つ確実に確認することには適している。しかしこの構造は、送水した液体を高周波によって加熱し、この状態で鉗子付近の組織を処置することには適さない。また鉗子と開口部とが互いに離れているため、鉗子付近の組織を加熱することが困難である。
【0013】
よって本発明は、侵襲が小さく、液体を患部に送水することで患部を容易に処置する腹腔用且つ双極型の手術用高周波電気外科用処置具と手術用高周波電気外科用システムとを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の手術用高周波電気外科用処置具の一態様は、患部を把持する把持面を互いに対向するように有し、互いに対して開閉自在な1対の鉗子片と、前記鉗子片の基端部に配設され、一方の前記鉗子片と他方の前記鉗子片とを絶縁する絶縁部材と、一方の前記鉗子片と他方の前記鉗子片とが互いに回動自在に連結するように、一方の前記鉗子片と他方の前記鉗子片とのいずれかと連結する伝達部材と、先端部と基端部とを有し、前記先端部は前記伝達部材に固定される操作ロッド部材と、前記1対の鉗子片のいずれか一方を回動自在に連結する支点を有する先端カバー部材と、前記操作ロッド部材が挿入されることで前記操作ロッド部材を前記先端部側から前記基端部側まで包み込むように覆い、前記操作ロッド部材と共に体腔内に挿入されるシャフト部材と、前記操作ロッド部材の基端部に着脱自在に連結する可動ハンドルと、前記シャフト部材の基端部に着脱自在に連結する固定ハンドルとを有する操作部と、前記操作ロッド部材が前記シャフト部材に挿入された際、前記シャフト部材の径方向において前記操作ロッド部材と前記シャフト部材との間に形成され、且つ前記操作ロッド部材の長手方向に沿って配設され、液体が流れる流路部と、前記流路部と連通し、前記先端カバー部材の外周面において前記操作ロッド部材の長手方向に沿って配設され、前記流路部から前記液体が流入する溝部と、前記溝部と連通し、前記1対の鉗子片の基端部付近に液体を供給する開口部とを具備する。
【0015】
本発明の手術用高周波電気外科用処置システムの一態様は、患部を把持する把持面を互いに対向するように有し、互いに対して開閉自在な1対の鉗子片と、前記鉗子片の基端部に配設され、一方の前記鉗子片と他方の前記鉗子片とを絶縁する絶縁部材と、一方の前記鉗子片と他方の前記鉗子片とが互いに回動自在に連結するように、一方の前記鉗子片と他方の前記鉗子片とのいずれかと連結する伝達部材と、先端部と基端部とを有し、前記先端部は前記伝達部材に固定される操作ロッド部材と、前記鉗子片のいずれか一方と回動自在に連結する支点を有する先端カバー部材と、前記操作ロッド部材が挿入されることで前記操作ロッド部材を前記先端部側から前記基端部側まで包み込むように覆い、前記操作ロッド部材と共に体腔内に挿入されるシャフト部材と、前記操作ロッド部材の基端部に着脱自在に連結する可動ハンドルと、前記シャフト部材の基端部に着脱自在に連結する固定ハンドルとを有する操作部と、前記操作ロッド部材が前記シャフト部材に挿入された際、前記シャフト部材の径方向において前記操作ロッド部材と前記シャフト部材との間に形成され、且つ前記操作ロッド部材の長手方向に沿って配設され、液体が流れる流路部と、前記流路部と連通し、前記先端カバー部材の外周面において前記操作ロッド部材の長手方向に沿って配設され、前記流路部から前記液体が流入する溝部と、前記溝部と連通し、前記1対の鉗子片の基端部付近に液体を供給する開口部と、一方の前記鉗子片と電気的に導通している回帰電極と、他方の前記鉗子片と電気的に導通している活動電極とを有するコネクタ部と、前記流路部に向けて前記液体を送水する液体送水部と、前記コネクタ部と電気的に接続し、前記鉗子片に電力を供給する電源と、を具備する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、侵襲が小さく、液体を患部に送水することで患部を容易に処置する腹腔用且つ双極型の手術用高周波電気外科用処置具と手術用高周波電気外科用システムとを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明に係る第1の実施形態における処置システムの概略図である。
図2図2は、シャフト部材の先端部周辺の分解斜視図である。
図3図3は、流入口部周辺の操作ロッド部材とシャフト部材との内部構成を示す図である。
図4図4は、図3に示す4−4線における断面図である。
図5図5は、シャフト部材の先端部周辺の斜視図である。
図6図6は、図5に示す状態のシャフト部材から操作ロッド部材を取り出した状態を示す図である。
図7図7は、被覆部材と溝部カバー部材とを非表示にして、先端カバー部材とシャフト部材との係合・固定部分を示す図である。
図8図8は、絶縁部材周辺において液体が流れる流路部を示す図である。
図9図9は、第2の実施形態における絶縁部材周辺において液体が流れる流路部を示す図である。
図10図10は、鉗子片を閉じた際の貫通孔部の連通状態を示す図である。
図11図11は、鉗子片を開いた際の貫通孔部の連通状態を示す図である。
図12図12は、溝のみで貫通孔部のない状態の鉗子ユニットの先端部周辺の斜視図である。
図13図13は、溝のみで貫通孔部のない状態の処置具の先端部周辺の斜視図である。
図14図14は、第1の変形例を示し、把持溝部が把持面に配設された状態のシャフト部材の先端部周辺の斜視図である。
図15図15は、図14に示す鉗子片の正面図である。
図16図16は、第2の変形例を示し、絶縁把持部材が配設された状態のシャフト部材の先端部周辺の斜視図である。
図17A図17Aは、鉗子片の開き角度と液体に濡れる鉗子片の濡れ面積との関係を示す図である。
図17B図17Bは、鉗子片の開き角度と液体に濡れる鉗子片の濡れ面積との関係を示す図である。
図17C図17Cは、鉗子片の開き角度と液体に濡れる鉗子片の濡れ面積との関係を示す図である。
図17D図17Dは、鉗子片の開き角度と液体に濡れる鉗子片の濡れ面積との関係を示す図である。
図18図18は、絶縁把持部材が着脱自在な状態のシャフト部材の先端部周辺の斜視図である。
図19図19は、第3の変形例を示し、開窓部が把持面に配設された状態の鉗子ユニットの先端部周辺の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
[第1の実施形態]
[構成]
図1図2図3図4図5図6図7図8とを参照し、第1の実施形態について説明する。なお一部の図面では、図示の明瞭化のために、部材の一部の図示を省略している。
図1に示すように処置システム100は、処置具1と、電源33と、液体送水部35とを有している。
【0019】
図1に示すような処置具1は、例えば、外科手術に用いられる双極型電気処置具であり、手術用高周波電気外科用処置具である。この外科手術(処置具1の用途)は、主に、例えば腹腔鏡下における肝臓切除・腎臓切除・膵臓切除である。上記のような外科手術において、処置具1は、生体組織の剥離・把持・切除・採取、出血に対する電気凝固及び圧迫止血等に用いられる。主な用途である肝臓・腎臓・膵臓等の実質臓器が切除される際には、切除面から一様に出血する滲出性(ウージング)出血が発生しやすい。このような出血に対しては、液体を供給しつつ電気凝固する手段が有効とされている。これにより、出血している切除面が一様に凝固される上に、液体の沸点以下にしか生体組織が加熱されないため、過度の凝固がなくなり、生体組織の熱損傷が最低限に抑えられる。
【0020】
図1図2とに示すように、処置具1は、一対の鉗子片151a,151b及び操作ロッド部材11等を有する鉗子ユニット300と、操作ロッド部材11がシャフト部材13に挿入されることで操作ロッド部材11を操作ロッド部材11の先端部11aから操作ロッド部材11の基端部11bまで包み込むように覆い(外装し)、操作ロッド部材11と共に体腔内に挿入されるシャフト部材13とを有している。また処置具1は、操作ロッド部材11の基端部11bに着脱自在に連結する可動ハンドル201とシャフト部材13の基端部13bに着脱自在に連結する固定ハンドル202とを有し、固定ハンドル202に対して可動ハンドル201を開閉することで鉗子片151a,151bの開閉を操作する操作部31とを有している。
【0021】
図1及び図2に示すように、鉗子ユニット300は、一対の鉗子片151a,151bと、絶縁部材55と、伝達部材51と、被覆部材11dを有する細長い操作ロッド部材11と、絶縁筒部材53と、先端カバー部材12と、支点ピン部材501と、作用ピン部材15dと、作用ピン部材502とを有している。
【0022】
1対の鉗子片151a,151bは、患部を把持する把持面17a,17bを互いに対向するように有している。鉗子片151a,151bは、例えば互いに対して開閉自在となっている。把持面17a,17bは、患部が把持されやすいように凸凹部を有している。鉗子片151a,151bは、1対のバイポーラ電極である。
【0023】
絶縁部材55は、鉗子片151a,151bの基端部に配設され、一方の鉗子片151aと他方の鉗子片151bとを絶縁する。絶縁部材55は、一方の鉗子片151aの基端部に設けられた基端開口部152aに嵌り込む。絶縁部材55は、作用ピン部材15dを介して、鉗子片151aと共に鉗子片151bの基端部15bに回動自在に連結される。つまり作用ピン部材15dは、絶縁部材55と鉗子片151aと鉗子片151bとを連結する。絶縁部材55は、開口部55fを有している。開口部55fの基端部は、鉗子片151bの基端部15bの一部に嵌まり込む。
【0024】
伝達部材51は、鉗子片151aと鉗子片151bとが互いに回動自在に連結するように、鉗子片151aと鉗子片151bとのいずれかと連結する。伝達部材51は、例えば作用ピン部材502を介して、鉗子片151bの基端部15bと連結する。
【0025】
図1に示すように、操作ロッド部材11は、先端部11aと基端部11bとを有している。図8図9とに示すように、先端部11aは伝達部材51に固定される。伝達部材51と操作ロッド部材11とは、ネジ締結、ロー付け、または熱嵌合等の手段で固定されている。
【0026】
操作ロッド部材11は、例えば金属の円柱部材である。図3図4とに示すように、操作ロッド部材11は、操作ロッド部材11を被覆する被覆部材11dを有している。被覆部材11dは、操作ロッド部材11を絶縁する絶縁部材である。このような被覆部材11dは、PTFE等の絶縁被膜として機能する。
【0027】
図2に示すように、先端カバー部材12は、2股の先端部12aと、中空円筒形状の太径部12bと、細径部12cとを有している。細径部12cは、先端カバー部材12の基端部に配設されている。太径部12bは、先端カバー部材12の軸方向において、先端部12aと細径部12cとの間に介在している。先端部12aは太径部12bと一体であり、太径部12bは細径部12cと一体である。
【0028】
細径部12cは、細径部12cの基端部に配設されている突起部12eを有している。突起部12eが後述するシャフト部材13の係合切込313に着脱自在に係合することで、シャフト部材13と先端カバー部材12とが着脱自在に固定される。
【0029】
先端部12aは、鉗子片151aの基端開口部152aと、絶縁部材55と、鉗子片151bの基端部15bとを収納する。先端部12aは、回動の支点として機能する支点ピン部材501を有している。そして、先端部12aは、例えば鉗子片151aと絶縁部材55とが支点ピン部材501を支点として先端部12aに対して回動するように、支点ピン部材501を介して鉗子片151aと絶縁部材55とに連結している。
【0030】
このように先端カバー部材12は、例えば鉗子片151aを先端部12aに回動自在に連結する支点として機能する支点ピン部材501を有している。
【0031】
先端カバー部材12の太径部12bの内部には、中空円筒形状の絶縁筒部材53が固定される。言い換えると、太径部12bは絶縁筒部材53を収容可能であり、収容している太径部12bは絶縁筒部材53と着脱自在に固定可能である。固定は、熱嵌合もしくは接着もしくはその両方によって行われる。絶縁筒部材53の内径と、細径部12cの内径とは、伝達部材51及び操作ロッド部材11が挿脱自在の大きさを有している。
【0032】
図3図4とに示すように、操作ロッド部材11がシャフト部材13に挿入され、シャフト部材13が操作ロッド部材11を覆うように、シャフト部材13は円筒形状を有している。このとき図3図4とに示すように、シャフト部材13の内径は、被覆部材11dを含む操作ロッド部材11の外径よりも大きい。このため、操作ロッド部材11がシャフト部材13に挿入された際、シャフト部材13の径方向において、操作ロッド部材11とシャフト部材13との間には、空間部として機能する流路部43が形成される。この流路部43は、操作ロッド部材11の外部且つシャフト部材13の内部との間、言い換えると、操作ロッド部材11(被覆部材11d)の外周面とシャフト部材13の内周面との間を示す。また流路部43は、シャフト部材13に覆われていることにもなる。また流路部43は、図3に示すように、シャフト部材13(操作ロッド部材11)の長手方向に沿って配設されている。このような流路部43は、液体送水部35によって、操作ロッド部材11の例えば基端部11b側から先端部11a側に向けて液体が流れる流路(送水)部41に含まれる。流路部43において、液体は、流路部43の基端部側から先端部側に向かって流れる。
【0033】
このように流路部43は、操作ロッド部材11がシャフト部材13に挿入された際、シャフト部材13の径方向において操作ロッド部材11とシャフト部材13との間に形成され、且つ操作ロッド部材11の長手方向に沿って配設される。流路部43において、液体は流路部43の基端部側から流路部43の先端部側に向かって流れる。
【0034】
シャフト部材13は、例えばSUS等の金属を有している。このようなシャフト部材13は、図3図4とに示すように、シャフト部材13を被覆する被覆部材13dを有している。被覆部材13dは、シャフト部材13を絶縁する絶縁部材を有する。このような被覆部材13dは、PTFE等の絶縁被膜を有する。
【0035】
また図1図3とに示すように、シャフト部材13は、シャフト部材13の基端部13b側に配設され、処置具1の外部である液体送水部35から流路部43に液体を流入する流入口部13fを有している。流入口部13fは、液体送水部35と連結し、液体を液体送水部35から流路部43に供給する供給口でもある。流入口部13fは、シャフト部材13と被覆部材13dを貫通し、流路部43(シャフト部材13の内部)と連通している。液体送水部35から供給された液体は、流入口部13fを通じて流路部43に流れ、流路部43から先端カバー部材12に向けて送水される。
【0036】
また図5図6とに示すようにシャフト部材13は、操作ロッド部材11がシャフト部材13に挿入された際に後述する溝部45に蓋をするように溝部45を覆う溝部カバー部材13gを有している。溝部カバー部材13gは、シャフト部材13の先端部13aと先端カバー部材12とが挿入される円筒部材として形成される。このように溝部カバー部材13gは、シャフト部材13の先端部13a側に配設されることとなる。このような溝部カバー部材13gは、シャフト部材13に含まれる。溝部カバー部材13gの先端部は露出しており、溝部カバー部材13gの基端部は被覆部材13dによって覆われる。シャフト部材13の先端部13aと先端カバー部材12とが溝部カバー部材13gに挿入された際、溝部カバー部材13gの基端部は係合切込313と溝部45の基端部45bを覆う。溝部カバー部材13gの先端部は、2股にわかれている。溝部カバー部材13gの先端部は、溝部45の先端部45aの配置位置に対応するように配設されている。このため溝部カバー部材13gの先端部は、シャフト部材13(操作ロッド部材11)の長手方向の周方向において、互いに180度離れて配設されている。先端カバー部材12が溝部カバー部材13gに挿入された際、溝部カバー部材13gの先端部は溝部45の先端部45aを覆う。なお溝部カバー部材13gは、先端部13aと前記したように別体であっても一体であってもよい。溝部カバー部材13gが先端部13aと一体の場合、溝部カバー部材13gは、2股に分かれた先端部13aの一部となる。
【0037】
また、図2に示すようにシャフト部材13は、シャフト部材13の先端部13aに配設されている2つの略L字形状の係合切込313を有している。係合切込313同士は軸対称に設けられている。図7は、被覆部材13dと溝部カバー部材13gとを非表示にした処置具1の先端部分を示している。図7に示すように、突起部12eが係合切込313に入り込み、突起部12eが係合切込313の基端部に係合することで、先端カバー部材12はシャフト部材13に固定する。係合切込313を含むシャフト部材13は、前記したようにSUS等の金属である。よって、シャフト部材13がSUS等金属などの先端カバー部材12と係合することによって、シャフト部材13と先端カバー部材12とは互いに電気的に導通することとなる。
【0038】
図1に示すように、操作ロッド部材11の基端部11bからシャフト部材13の先端部13aに向けて操作ロッド部材11がシャフト部材13に挿入され(差し込まれ)た際、操作ロッド部材11の基端部11bが可動ハンドル201に固定される。これにより、シャフト部材13は固定ハンドル202に固定する。このとき突起部12eが係合切込313と係合しているため、先端カバー部材12はシャフト部材13を介して固定ハンドル202に対して固定され、操作ロッド部材11及び伝達部材51は可動ハンドル201に対して固定される。可動ハンドル201が固定ハンドル202に対して閉じると、操作ロッド部材11が操作部31側に牽引され、鉗子片151a,151bが閉じる。逆に、可動ハンドルが固定ハンドルに対して開くと、操作ロッド部材11が鉗子片151a,151b側に押し出され、鉗子片151a,151bが開く。
【0039】
本実施形態の処置具1は、双極型高周波電気処置具である。鉗子片151a ,151bと、先端カバー部材12と、操作ロッド部材11と、伝達部材51と、係合切込313を含むシャフト部材13とは、SUS等の金属である。太径部12bの内面と嵌合する絶縁筒部材53と、操作ロッド部材11と伝達部材51とを被覆する被覆部材11dと、絶縁部材55と、作用ピン部材15dと、作用ピン部材502とは、例えば、PFA、PTFE、アルミナ、窒化アルミ、ジルコニア等の絶縁材料から構成されている。
【0040】
図1に示すように、操作部31は、電源33と接続するためのコネクタ部31aを有している。コネクタ部31aは、活動(アクティブ)電極31bと回帰(リターン)電極31cとを有している。活動電極31bは、操作ロッド部材11と伝達部材51と鉗子片151bとに電気的に導通している。回帰電極31cは、シャフト部材13と先端カバー部材12と鉗子片151aとに電気的に導通している。操作ロッド部材11から伝達部材51を介して鉗子片151bに向かう活動電極31bの導通経路と、鉗子片151aから先端カバー部材12を介してシャフト部材13に向かう回帰電極31cの導通経路とは、被覆部材11dと、絶縁筒部材53と、絶縁部材55と、作用ピン部材15dと、作用ピン部材502とによって、電気的に絶縁されている。鉗子片151aと鉗子片151bとの両方が生体組織や液体等に接触した状態で、電源33から高周波電力が鉗子片151a,151bに供給されると、鉗子片151bから生体組織に向かって高周波電流が流れ、液体等の媒質から鉗子片151aに向かって高周波電流が流れる。生体組織や液体等の媒質の電気伝導率は、鉗子片151a,151b等の活動電極31b及び回帰電極31cへの導通経路の材質である金属の電気伝導率よりも低いため、ジュール熱が発生し加熱される。
【0041】
電源33は、コネクタ部31aと電気的に接続し、鉗子片151a,151bに電力を供給する。
【0042】
図1に示すように、液体送水部35は、流入口部13fと連結し、流入口部13fから流路部43に送液して、絶縁部材55の開口部55fから患部に向けて液体を供給する。液体送水部35において、液体は、例えば人体における生体組織と同じ浸透圧を有する等張液を含む。このような等張液は、例えば生理食塩水などである。
【0043】
[流路部41]
次に図6図8とを参照して、本実施形態における流入口部13fから鉗子片151a,151bの絶縁部材55に設けられた開口部55fに向けて液体を送液する流路部41について説明する。
【0044】
流路部41は、上述した流入口部13fと、上述した流路部43と、シャフト部材13の係合切込313と、係合切込313と溝部45の基端部45bにて連通している溝部45と、溝部45と連通する貫通孔部47と、貫通孔部47と連通する貫通孔部55dと、貫通孔部55dと連通する上述した開口部55fとを有する。
【0045】
図3に示すように、流路部43は、径方向において操作ロッド部材11とシャフト部材13との間に形成され、シャフト部材13(操作ロッド部材11)の長手方向に沿って配設されている。
【0046】
また溝部45は、流路部43と連通しており、先端カバー部材12の外周面12dにおいて操作ロッド部材11の長手方向に沿って配設されている。溝部45には、流路部43から液体が流入する。なお溝部45は先端カバー部材12の2股に分かれた先端部12aの両方に配設されている。
【0047】
また図2に示すように、溝部45は、シャフト部材13(操作ロッド部材11)の長手方向に沿って、先端カバー部材12の2股の先端部12aに設けられた貫通孔部47から太径部12bまで配設されている。なお、溝部45の先端部45aは、先端カバー部材12の一部が凹設されることによって、形成されている。先端部45aは、流路部41として機能する。溝部45の基端部45bは、太径部の12の厚み方向において太径部の12を貫通するように、太径部12bに配設されている。つまり、基端部45bは、貫通口部として機能する。なお、図8に示すように、太径部12bに挿入される絶縁筒部材53の外周面が基端部45bの底面として機能する。基端部45bと絶縁筒部材53の外周面とは、流路部41として機能する。このような溝部45同士は、操作ロッド部材11の中心軸に対して対称に2つ配設されている。溝部45は、例えば、鉗子片151a,151bとは直交して配設されている。このため、溝部45は、例えば、鉗子片151a,151bの開閉方向とは直交して配設されることとなる。図7に示すように、先端カバー部材12とシャフト部材13とが互いに係合・固定されたとき、溝部45の基端部45b側の開口方向は、シャフト部材13の係合切込313の開口方向とおおよそ一致している。その際、図5に示すように溝部45は、溝部カバー部材13gによって覆われる(蓋をされる)。
【0048】
図8に示すように、溝部45の先端部45aは、貫通孔部47と連通している。貫通孔部47は、鉗子片151aの基端部を貫通するように鉗子片151aの基端部に配設されている。貫通孔部47には、溝部45から液体が流入する。貫通孔部47は、基端開口部152aと連通している。貫通孔部47は、シャフト部材13(操作ロッド部材11)の長手方向に対して傾いている。詳細には、貫通孔部47は、先端カバー部材12の外周面12dから操作ロッド部材11の中心軸に向かうように、つまり操作ロッド部材11の外側から内側に配設されるように、傾きつつ、基端部15bを貫通している。言い換えると鉗子片151aは、鉗子片151aの基端部に配設され、溝部45の先端部45aと連通し、先端カバー部材12の外周面12dから操作ロッド部材11の中心軸に向かうようにシャフト部材13(操作ロッド部材11)の長手方向に対して傾いている貫通孔部47を有している。
【0049】
この貫通孔部47は、図8に示すように、絶縁部材55に配設され、開口部55fと連通している貫通孔部55dと連通している。貫通孔部55dには、溝部45から貫通孔部47を介して液体が流入する。貫通孔部55dは、貫通孔部47と同様に傾いている。
【0050】
また開口部55fは、絶縁部材55の先端部55aに配設されている。開口部55fは、貫通孔部55dと連通し、絶縁部材55の長手方向に沿って絶縁部材55に配設されている。開口部55fには貫通孔部55dから液体が流入する。そして開口部55fは、鉗子片151a,151bの基端部付近に液体を供給する。
【0051】
このように絶縁部材55は、貫通孔部47と連通し、貫通孔部47と同様に傾いている貫通孔部55dと、貫通孔部55dと連通し、絶縁部材55の長手方向に沿って配設されている開口部55fとを有している。
【0052】
[作用]
次に本実施形態の動作方法について説明する。
図1に示すように操作ロッド部材11はシャフト部材13に挿入され(差し込まれ)、図3図4とに示すように流路部43が形成される。このとき、図5に示すように、溝部カバー部材13gは、溝部45を覆う。また図1に示すように、操作部31は、操作ロッド部材11の基端部11bとシャフト部材13の基端部13bとに連結する。そして処置具1は、体腔内に挿入される。
【0053】
また図1に示すように、流入口部13fは液体送水部35と連結する。これにより液体は、液体送水部35から流入口部13fを介して流路部43に流れる。流路部43に流れた液体は、シャフト部材13の係合切込313と先端カバー部材12の細径部12cとによって形成される溝部に流れる。また液体は、図8に示すように、この溝部における係合切込313から溝部45と貫通孔部47と貫通孔部55dとを介して開口部55fに流れる。さらに液体は、開口部55fから患部に向かって流出する。
【0054】
流路部43はシャフト部材13によって覆われ、溝部45は溝部カバー部材13gによって覆われているために、液体は処置具1の外部に漏れることなく流入口部13fから開口部55fに流れる。
【0055】
滲出性(ウージング)出血している患部、例えば肝臓実質の切除面等に、鉗子片151a,151bが接触し、液体が開口部55fから切除面に流れる。そして、高周波電力が電源33から鉗子片151a,151bに供給される。開口部55fから鉗子片151a,151b付近に流出した液体は、高周波電力によって沸騰して、患部を凝固して止血する。生理食塩水等の液体の沸点は約100℃であるため、患部は過度に加熱されない。さらに、沸騰した液体に浸漬した患部が一様に凝固されるため、液体を使用せず高周波電力のみで患部を処置する処置具より、処置具1は効率的に広範囲を止血する。また、処置具1は双極型であるため、単極型に比べて患部の深さ方向への熱損傷が大きくならず、患部が容易且つ愛護的に処置される。
【0056】
特定の箇所から出血している場合は、開口部55fは液体を流出し、患部が液体によって洗浄されて、出血点が確認される。その後、操作部31の可動ハンドル201が閉じ、鉗子片151a,151bは出血点付近の組織を挟持する。鉗子片151a,151bは、出血点付近の組織を圧迫しながら、電源33から高周波電力を供給されて組織を高周波電力によって凝固する。滲出性出血している患部の一部が噴出性に出血している場合、鉗子片151a,151bは、噴出性出血の出血点を挟持・圧迫しつつ、開口部55fから液体が供給されている出血点を高周波通電する。これにより、滲出性出血と噴出性出血とは同時に止血される。
【0057】
[効果]
このように本実施形態では、処置具1を双極型高周波電気処置具にすることで、侵襲を小さくでき、患部を容易且つ愛護的に処置できる。
【0058】
また本実施形態では、流路部43と溝部45と貫通孔部47,55dと開口部55fとを介して液体を患部に送水することができる。本実施形態では、この状態で鉗子片151a,151bを高周波通電することで、患部を沸騰した液体によって熱凝固でき、患部に対する過度な熱損傷を防止しつつ、広範囲の出血を迅速に効率よく止血することができる。また本実施形態では、鉗子片151a,151bと患部における生体組織との間が液体で満たされていることで、生体組織が鉗子片151a,151bに付着することも防止できる。このように本実施形態では、液体を患部に送水することで患部を容易に処置できる。
【0059】
また本実施形態では、操作部31の操作により鉗子片151a,151bを開閉できるため、生体組織の剥離・把持・切除・採取も可能であり、出血点を圧迫することもできる。
【0060】
また本実施形態では、流路部43と溝部45とを形成し、流路部43と溝部45とを液体を送水する流路部41の一部として形成されることで、シャフト部材13の内部に流路部41となるチューブ等の管路部材を配設する必要がない。これにより本実施形態では、シャフト部材13を細径にすることができる。
【0061】
また本実施形態では、流路部43をシャフト部材13によって覆い、溝部45を溝部カバー部材13gによって覆うことで、液体が処置具1の外部に漏れることを防止でき、液体を漏らすことなく流入口部13fから開口部55fに流すことができる。
【0062】
また本実施形態では、流入口部13fによって、清潔な液体を常に患部に向けて流すことができる。
【0063】
また本実施形態では、溝部45及び貫通孔部47,55dを操作ロッド部材11の中心軸に対して対称に2箇所設けることにより、鉗子片151a,151bの向きに依存せず、液体を患部に対して安定して送液することができる。
【0064】
[第2の実施形態]
次に図9図10図11とを参照して第2の実施形態について説明する。前述した第1の実施形態と同一部位については同符合を付し、その詳細な説明は省略する。なお図示の簡略化のために、一部の図示を省略している。
【0065】
図10図11とに示すように本実施形態の貫通孔部47,55dは、鉗子片151a,151bの開閉に影響されること無く溝部45と常に連通するように長穴形状を有している。この貫通孔部47,55dは、支点ピン部材501を中心とした円周線501a上に等幅に配置している。
【0066】
これにより、鉗子片151a,151bの開閉によって、貫通孔部47の一部と鉗子片151bの基端部15bとが重なっても、溝部45と貫通孔部47,55dとは常に連通し、連通の遮断が防止される。このように溝部45と貫通孔部47,55dとの連通は常に維持されることとなる。
【0067】
これにより本実施形態では、鉗子片151a,151bの開閉角度に影響されること無く、貫通孔部47,55dを常に開放状態にでき、溝部45から貫通孔部47,55dに向けて液体を容易に流すことができる。
【0068】
[第3の実施形態]
次に図12図13とを参照して第3の実施形態について説明する。前述した第1の実施形態と同一部位については同符合を付し、その詳細な説明は省略する。なお図示の簡略化のために、一部の図示を省略している。
【0069】
図12図13とに示すように、先端カバー部材12の流路部41は溝部45のみである。第1及び第2の実施形態では存在していた、先端カバー部材12と鉗子片151a及び絶縁部材55に設けられていた貫通孔部47,55dは存在しない。先端カバー部材12の溝部45に配設されている開口部602からの水の流出を妨げないため、絶縁部材55は絶縁部材55の先端部に配設されている平坦部601を有している。
【0070】
通常の腹腔鏡手術であれば、シャフト部材13の基端側に対して、鉗子片151a,151bは常時下側にある。このため、溝部45のみであっても、鉗子片151a,151b付近に液体が供給される。水平面に対してシャフト部材13の角度が約30度程度以上で傾斜していれば、溝部カバー部材13gもなくしてもよい。
【0071】
これにより本実施形態では、患部に液体を供給しつつ高周波電力による凝固が可能な、腹腔用の双極型電気処置具を低コストで提供できる。
【0072】
[第1の変形例]
上述した各実施形態の第1の変形例について図14図15とを参照して説明する。一方の鉗子片151aの把持面17aと、他方の鉗子片151bの把持面17bとの少なくとも一方は、開口部55fと連通し、鉗子片151a,151bの長手方向に沿って配設され、鉗子片151a,151bの基端部15bから先端部15aに流体を流す把持溝部15fを有していてもよい。
【0073】
これにより本変形例では、鉗子片151a,151bの先端部15aにまで液体を流すことができ、患部における生体組織が把持面17a,17bに付着することをより防止できる。
【0074】
この把持溝部15fを複数個設けても、同様の効果を得ることができる。
【0075】
[第2の変形例]
上述した各実施形態の第2の変形例として、図16を参照して説明する。図16に示すように、一対の鉗子片151a,151bは、把持面17a,17bを有する絶縁把持部材153a,153bを有している。絶縁把持部材153a,153bは、鉗子片151a,151bの長手軸方向に沿って配設されている。絶縁把持部材153a,153bは、開口部55fから把持面17a,17bに流れる液体に対して、高周波電流を絶縁する。絶縁把持部材153a,153bは、例えばセラミックや樹脂等の絶縁部材によって形成されている。セラミックは、例えば、比誘電率が10以下のアルミナとジルコニアとを含んでいる。樹脂は、例えば比誘電率が2前後のポリエーテルエーテルケトンを含んでいる。
【0076】
例えば液体が生理食塩水の場合、生理食塩水に対する高周波領域のインピーダンスが所望の値よりも低下すると、一般的に高周波電力の出力が低下し、結果として処置時間が長くなる虞が生じる。このため、インピーダンスの低下を防止する必要がある。
このインピーダンスの低下の防止について、以下に説明する。なお、図17A図17Bに示す鉗子片151a,151bは、絶縁把持部材153a,153bを有していない。
図17Aに示すように、鉗子片151a,151bの開き角度が大きい場合、例えば、
鉗子片151a,151bが最大に開いた状態のとき、このときの開き角度をθ1とする。
また、図17Bに示すように、鉗子片151a,151bの開き角度が小さい場合、例えば、鉗子片151a,151bの把持面全体が液体150によって濡れた状態のとき、このときの開き角度をθ2とする。θ1とθ2との関係は、θ1>θ2となる。
【0077】
図17A図17Bとに示すように、開き角度がθ1の場合、液体150に濡れる鉗子片151a,151bの濡れ面積は、開き角度がθ2の場合に比べて小さくなる。
このように鉗子片151a,151bの濡れ面積は、鉗子片151a,151bの開き角度に影響する。濡れ面積は、開き角度が小さいほど、大きくなる。そして、生理食塩水等の液体150は、高周波領域で高い電気伝導性を有する。このため、一般的にインピーダンスは、濡れ面積が大きいほど低くなる。つまり鉗子片151a,151bの濡れ面積(開き角度)に応じて、処置時間にムラが生じる虞がある。
【0078】
そこで、本変形例では、図17C図17Dに示すように鉗子片151a,151bは絶縁把持部材153a,153bを有している。絶縁把持部材153a,153bは、開き角度が小さい場合であってもインピーダンスの低下を防止する。
【0079】
絶縁把持部材153a,153bの長さを以下に簡単に説明する。
図17Cに示すように、鉗子片151aの長さをLとする。この鉗子片151aの長さは、鉗子片151aの先端部から作用ピン部材15dまでの位置を示す。
【0080】
また図17Cに示すように、鉗子片151a,151bの最大の開き角度をθ1とする。
【0081】
また図17Dに示すように、絶縁把持部材153a,153bを含む把持面17a全体が液体150によって濡れる状態の鉗子片151a,151bの開き角度をθ2とする。
【0082】
図17C図17Dとに示すように、絶縁把持部材153a,153bは、鉗子片151a,151bの先端部から鉗子片151a,151bにおける所望の位置まで配設されている。所望の位置は、鉗子片151a,151bの基端部側(開閉軸として機能する作用ピン部材15d側)を示す。また所望の位置は、鉗子片151a,151bが最大に開いたときに、例えば、液体150と接触する位置を示す。
【0083】
図17Cに示すように絶縁把持部材153a,153bの長さ(鉗子片151a,151bの先端部から所望の位置までの長さ)をL1とする。この絶縁把持部材153a,153bの長さL1は、開き角度がθ1の場合において、絶縁把持部材153a,153bが液体150に触れることができる位置を示す。
【0084】
このため、絶縁把持部材153a,153bの長さL1は、少なくとも、L×(1−(sinθ1/sinθ2)1/2)以上の長さを有する。本変形例では、L=16mm、θ1=45°、θ2=5°とした場合、L1=9.3mm以上としている。
【0085】
さらに詳細には、鉗子片151a,151bにおいて、開き角度に影響されることなく、常に液体150によって濡れる部分を濡れ部分154とする。濡れ部分154は、例えば絶縁把持部材153a,153bと作用ピン部材15dとの間における鉗子片151a,151bを示す。濡れ部分154の濡れ面積は、鉗子片151a,151bの開き角度に影響されることなく、略一定となる。換言すれば、絶縁把持部材153a,153bが配設されることによって、鉗子片151a,151bの開き角度が変わっても鉗子片151a,151bにおける濡れ部分の154の面積は変わらない。このような長さを有する絶縁把持部材153a,153bが配設されることによって、インピーダンスの低下が防止される。
【0086】
このように本変形例では、絶縁把持部材153a,153bが配設されることで、開き角が小さい場合であっても、濡れ面積を略一定にでき、インピーダンスの低下を防止することができる。これにより本変形例では、高周波電力の出力低下を防止でき、処置時間が長くなることを防止できる。つまり本実施形態では、鉗子片151a,151bの開き角度(濡れ面積)に応じて処置時間にムラが生じることを確実に防止できる。
【0087】
また本変形例では、絶縁把持部材153a,153bを鉗子片151a,151bの先端部から鉗子片151a,151bにおける所望の位置まで配設することで、確実に高周波電力の出力低下を防止でき、処置時間が長くなることを防止できる。
【0088】
なお絶縁把持部材153a,153bは、図18に示すように、鉗子片151a,151bに対して着脱自在であってもよい。この場合、例えば絶縁把持部材153a,153bは凸部155aを有し、鉗子片151a,151bは凸部155aが着脱自在にスライドする凹部155bを有している。これにより本変形例では、絶縁把持部材153a,153bを使用でき、または絶縁把持部材153a,153bが外れ鉗子片151a,151bを直接使用することができる。
【0089】
また本変形例では、絶縁把持部材153a,153bと同じ形状と、把持面17a,17bと凸部155aとを有する金属製の部材が、凹部155bを介して鉗子片151a,151bに配設されていてもよい。
【0090】
[第3の変形例]
上述した各実施形態の第3の変形例として、図19を参照して説明する。
一方の鉗子片151aと他方の鉗子片151bとの少なくとも一方は、開窓部156を有している。開窓部156は、鉗子片151aの厚み方向において把持面17aを含む鉗子片151aを貫通するように、鉗子片151aに配設されている。この点は、鉗子片151bについても同様である。
【0091】
これにより本変形例では、開口部55fから供給された液体が開窓部156に溜まり、高周波により加熱された液体が不必要に鉗子片151a及び鉗子片151b付近から流出することを防止できる。
【0092】
このように本発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。
図1
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図17A
図17B
図17C
図17D
図18
図19