(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
非磁性基板の上に、軟磁性下地層と、直上の層の配向性を制御する配向制御層と、磁化容易軸が前記非磁性基板に対して主に垂直に配向した垂直磁性層とが少なくとも積層されてなる磁気記録媒体であって、
前記配向制御層が、前記軟磁性下地層側に配置された第1配向制御層と、前記第1配向制御層の前記垂直磁性層側に配置された第2配向制御層とを含み、
前記第1配向制御層が、基板面と垂直方向の結晶磁気異方性定数が負の値を示す、基板面に対して垂直にc軸配向したhcp構造のCoIr合金を含み、
前記第2配向制御層が、層厚が6nm以上のRuまたはRu合金からなり、
前記垂直磁性層が、前記配向制御層を構成する結晶粒子に対して厚み方向に連続した柱状晶を含むものであることを特徴とする磁気記録媒体。
前記CoIr合金が、CoIr−X合金(XはCr、B、Si、Zr、Ta、Nb、Ti、Vからなる群から選ばれる何れか1種。)であることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の磁気記録媒体。
前記CoIr合金が、Irを10原子%〜40原子%の範囲内で含み、Crを5原子%〜25原子%の範囲内で含むCoIrCr合金であることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載の磁気記録媒体。
前記CoIr合金が、Irを10原子%〜40原子%の範囲内で含み、Bを5原子%〜25原子%の範囲内で含むCoIrB合金であることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載の磁気記録媒体。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の磁気記録媒体の製造方法及び磁気記録再生装置について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0016】
(磁気記録媒体)
本発明の磁気記録媒体は、非磁性基板の上に、軟磁性下地層と、直上の層の配向性を制御する配向制御層と、磁化容易軸が前記非磁性基板に対して主に垂直に配向した垂直磁性層とを、少なくとも積層した基本構造を有する。垂直磁性層の磁化容易軸は、垂直磁性層全体で見たときに平均して垂直に配向している。
図1は、本発明の磁気記録媒体の一例を示したものである。以下、本発明の磁気記録媒体の一例として、
図1に示す磁気記録媒体を例に挙げて説明する。
図1に示す磁気記録媒体は、非磁性基板1の上に、軟磁性下地層2と、配向制御層3と、非磁性下地層8と、垂直磁性層4と、保護層5と、潤滑層6とが順次積層された構造を有している。
【0017】
「非磁性基板」
非磁性基板1としては、アルミニウムやアルミニウム合金などの金属材料からなる金属基板を用いてもよいし、ガラスや、セラミック、シリコン、シリコンカーバイド、カーボンなどの非金属材料からなる非金属基板を用いてもよい。また、非磁性基板1としては、これら金属基板や非金属基板の表面に、例えばメッキ法やスパッタ法などを用いて、NiP層又はNiP合金層が形成されたものを用いてもよい。
【0018】
ガラス基板としては、例えば、アモルファスガラスや結晶化ガラスなどを用いることができ、アモルファスガラスとしては、例えば、汎用のソーダライムガラスや、アルミノシリケートガラスなどを用いることができる。また、結晶化ガラスとしては、例えば、リチウム系結晶化ガラスなどを用いることができる。セラミック基板としては、例えば、汎用の酸化アルミニウムや、窒化アルミニウム、窒化珪素などを主成分とする焼結体、又はこれらの繊維強化物などを用いることができる。
【0019】
また、非磁性基板1は、Co又はFeが主成分となる軟磁性下地層2と接することで、表面の吸着ガスや、水分の影響、基板成分の拡散などにより、腐食が進行する可能性がある。この場合、非磁性基板1と軟磁性下地層2の間に密着層を設けることが好ましく、これにより、これらを抑制することが可能となる。なお、密着層の材料としては、例えば、Cr、Cr合金、Ti、Ti合金など適宜選択することが可能である。また、密着層の厚みは2nm(30Å)以上であることが好ましい。また、密着層は、スパッタリング法などを用いて形成できる。
【0020】
「軟磁性下地層」
非磁性基板の上には、軟磁性下地層2が形成される。軟磁性下地層2の形成方法は特に限られるものではなく、例えば、スパッタリング法などを用いることができる。
軟磁性下地層2は、磁気ヘッドから発生する磁束の基板面に対する垂直方向成分を大きくするために、また情報が記録される垂直磁性層4の磁化の方向をより強固に非磁性基板1と垂直な方向に固定するために設けられている。この作用は、特に記録再生用の磁気ヘッドとして垂直記録用の単磁極ヘッドを用いる場合に、より顕著なものとなる。
【0021】
軟磁性下地層2としては、例えば、Feや、Ni、Coなどを含む軟磁性材料を用いることができる。具体的な軟磁性材料としては、例えば、CoFe系合金(CoFeTaZr、CoFeZrNbなど)、FeCo系合金(FeCo、FeCoVなど)、FeNi系合金(FeNi、FeNiMo、FeNiCr、FeNiSiなど)、FeAl系合金(FeAl、FeAlSi、FeAlSiCr、FeAlSiTiRu、FeAlOなど)、FeCr系合金(FeCr、FeCrTi、FeCrCuなど)、FeTa系合金(FeTa、FeTaC、FeTaNなど)、FeMg系合金(FeMgOなど)、FeZr系合金(FeZrNなど)、FeC系合金、FeN系合金、FeSi系合金、FeP系合金、FeNb系合金、FeHf系合金、FeB系合金などを挙げることができる。
【0022】
また、軟磁性下地層2としては、Feを60at%(原子%)以上含有するFeAlO、FeMgO、FeTaN、FeZrN等の微結晶構造、又は微細な結晶粒子がマトリクス中に分散されたグラニュラー構造を有する材料を用いることができる。
【0023】
その他にも、軟磁性下地層2としては、Coを80at%以上含有し、Zr、Nb、Ta、Cr、Mo等のうち少なくとも1種を含有し、アモルファス構造を有するCo合金を用いることができる。この具体的な材料としては、例えば、CoZr、CoZrNb、CoZrTa、CoZrCr、CoZrMo系合金などを好適なものとして挙げることができる。
【0024】
軟磁性下地層2の保磁力Hcは、100(Oe)以下(好ましくは20(Oe)以下)とすることが好ましい。なお、1Oeは79A/mである。軟磁性下地層2の保磁力Hcが上記範囲を超えると、軟磁気特性が不十分となり、再生波形がいわゆる矩形波から歪みをもった波形になるため好ましくない。
軟磁性下地層2の飽和磁束密度Bsは、0.6T以上(好ましくは1T以上)とすることが好ましい。軟磁性下地層2のBsが上記範囲未満であると、再生波形がいわゆる矩形波から歪みをもった波形になるため好ましくない。
また、軟磁性下地層2の飽和磁束密度Bs(T)と軟磁性下地層2の層厚t(nm)との積Bs・t(T・nm)は、15(T・nm)以上(好ましくは25(T・nm)以上)であることが好ましい。軟磁性下地層2のBs・tが上記範囲未満であると、再生波形が歪みを持つようになり、OW(OverWrite)特性(記録特性)が悪化するため好ましくない。
【0025】
また、軟磁性下地層2は、2層の軟磁性膜と、2層の軟磁性膜の間にRu膜が設けられた積層構造からなるものでもよい。Ru膜の膜厚を0.4〜1.0nm、又は1.6〜2.6nmの範囲で調整することで、2層の軟磁性膜をアンチ・フェロ・カップリング(AFC)構造とすることができる。軟磁性下地層2が、このようなAFC構造を採用したものである場合、外部からの磁界に対しての耐性、並びに垂直磁気記録特有の問題であるWATE(Wide Area Tack Erasure)現象に対しての耐性を高めることができる。また、いわゆるスパイクノイズを抑制できる。
【0026】
「配向制御層」
軟磁性下地層2の上には、配向制御層3が形成されている。配向制御層3は、垂直磁性層4の結晶粒を微細化し、また構成する結晶を頂部が凸形状の柱状晶としその上に形成する磁性層の垂直配向性を高め、記録再生特性を改善するものである。
【0027】
なお、配向制御層3の結晶粒をさらに微細化し、また核発生密度を均一化するため、軟磁性下地層2と配向制御層3との間にシード層(図示せず。)を設けても良い。シード層の材料としては、例えば、アモルファス構造を有した材料を用いることができる。このような材料としては、例えば、10nm程度の厚さにおいてアモルファス構造を有するCrTi合金、CrMn合金、CrFe合金、NiW合金等を用いることができる。
【0028】
本発明の配向制御層は、基板面と垂直方向にc軸を配向させたCoIr合金を用いる。CoIr合金の特性を図
5に示す。図
5の横軸はCoIr合金中のIrの含有量、縦軸はCoIr合金の結晶磁気異方性(Ku)およびMsを示す。
CoIr合金は特定の組成範囲においてc軸方向に−10
6erg/cm
3台と非常に大きな負の結晶磁気異方性を有し、c面内の結晶磁気異方性は1〜2桁小さい値となる。その結果、CoIr膜はc軸方向には非常に磁化しにくい一方、c面内では軟磁性的に振舞う(Hcが小さい)、という特徴を持つ。すなわち、この特性を有するCoIr合金を基板面に垂直にc軸配向させて、磁性配向制御層として用いると、c面内、即ち基板面と平行面内はHcが低いため、書き込みヘッドからの印加磁界をCoIr合金内に引き込み、OW特性を改善する効果を有する。また、CoIr合金はc軸方向、即ち基板面と垂直方向には磁化しにくいため、配向制御層が原因となるノイズが低く、磁気記録媒体のエラーレートを悪化させない。
【0029】
また本発明のCoIr合金を用いた配向制御層は、c軸配向したhcp構造の層であり、配向制御層を構成する結晶粒子は厚み方向に連続した柱状晶であり、その柱状晶の頂部はドーム状の凸形状であり、その凸部に磁性層の結晶粒子をエピタキシャルに柱状成長させ、磁性層の垂直配向性を高めることができる。
【0030】
また本発明のCoIr合金は、基板面と垂直方向の結晶磁気異方性(Ku)を−1×10
6erg/cm
3以下、より好ましくは、−2×10
6erg/cm
3以下とし、飽和磁化(Ms)を1000emu/cm
3以下、より好ましくは、700emu/cm
3〜100emu/cm
3の範囲内とし、基板面内での保磁力(Hc)を100Oe(7.9kA/m)以下、より好ましくは、80Oe(6.3kA/m)〜10Oe(0.79kA/m)の範囲内とするのが好ましい。Kuが−1×10
6erg/cm
3より高くなると、配向制御層が基板面と平行の方向に磁化を向ける効果が小さくなり、磁気ヘッドの書き込み磁界の引き込み効果が低下する。
【0031】
また、Msが1000emu/cm
3より高くなると、配向制御層に起因するノイズが高まり磁気記録媒体のエラーレートが悪化する。またMsが100emu/cm
3より低くなると、本発明の配向制御層の効果が発現しにくくなる。
【0032】
更に、基板面内でのHcが10Oeより高くなると、配向制御層の透磁率が低下するため磁気ヘッドの書き込み磁界の引き込み効果が低下する。また、Hcが1Oeより低くなると、本発明の配向制御層の効果が発現しにくくなる。なお、基板面内での保磁力(Hc)とは、基板面内方向に外部磁界を印加した場合に観測される保磁力である。
【0033】
図
5に示すように、CoIr合金の好ましい範囲は、Irの組成比が7%超40%以下の範囲が好ましく、10%以上40%以下の範囲がより好ましく、20%以上30%以下の範囲が最も好ましい。
【0034】
また、本発明のCoIr合金は、CoIr合金にCr、B、Zr、Ta、Nb、Ti、Vからなる群から選ばれる何れか1種を添加した合金とするのが好ましい。このような元素を添加することにより、CoIr合金のKu、Ms、Hcの値のバランスを適切に調整することが可能となる。
また添加元素を添加した場合の配向制御層としては、CoIrCr合金、または、CoIrB合金を用いるのが最も好ましく、その場合の合金組成は、CoIrCr合金ではIrを10原子%〜40原子%の範囲内、Crを5原子%〜25原子%の範囲内、CoIrB合金ではIrを5原子%〜30原子%の範囲内、Bを5原子%〜25原子%の範囲内とするのが好ましい。CoIrCr合金、または、CoIrB合金をこの範囲の組成で用いることにより、磁気記録媒体のS/N比、OW特性を改善し、また磁性層の垂直配向性を高め、電磁変換特性に優れ、かつ記録密度の高い磁気記録媒体を提供可能となる。
【0035】
本発明の配向制御層3は、軟磁性下地層2側に配置されたCoIr合金からなる第1配向制御層3aと、第1配向制御層3aの垂直磁性層4側に配置された第2配向制御層3bとからなる2層構造とすることが好ましい。また、後述するように、第1配向制御層3a、第2配向制御層3bの間に、中間配向制御層(図示せず。)を挿入しても良い。また本発明では、第2配向制御層3bとして、RuまたはRu合金を用いるのが、磁性層の垂直配向性を高める上で好ましい。
【0036】
第1配向制御層3aであるCoIr合金は、前述の効果に加えて、配向制御層3の核発生密度を高める効果があり、配向制御層3を構成する柱状晶の核となる結晶を含むものである。本実施形態の第1配向制御層3aでは、
図2に示すように、核となる結晶が成長してなる柱状晶S1の頂部に、ドーム状の凸部が形成されている。
CoIr合金配向制御層、または、第1配向制御層3aの層厚は、1nm〜10nmの範囲内が好ましい。CoIr合金層の層厚が上記範囲未満であると、垂直磁性層4の配向性を高め、垂直磁性層4を構成する磁性粒子42を微細化する効果が不十分となり、また前述の、良好なOW特性、エラーレートが得られない場合がある。
【0037】
第2配向制御層3bは、
図2に示すように、第1配向制御層3aに含まれる柱状晶S1の核となる結晶に厚み方向に連続し、頂部にドーム状の凸部が形成された柱状晶S2を含むものであり、本発明ではRu、またはRu合金で構成するのが好ましい。本実施形態においては、第2配向制御層3bは、第1配向制御層3aに含まれる核となる結晶が成長されてなる柱状晶S1の凸部上に成長され、第1配向制御層3aを構成する結晶粒子と共に厚み方向に連続した柱状晶S2からなる。
【0038】
第2配向制御層3bの層厚は、6nm以上であることが好ましい。第2配向制御層3bの層厚が上記範囲未満であると、垂直磁性層4の配向性を高め、垂直磁性層4を構成する磁性粒子42を微細化する効果が不十分となり、良好なS/N比が得られない場合がある
。
【0039】
本発明の配向制御層3の第2配向制御層3bとして使用可能なRu合金としては、Ruを主成分とする材料からなるグラニュラー構造を有するものが例示できる。ここで、Ruを主成分とする材料からなるグラニュラー構造の配向制御層は、Ruの柱状晶と、その柱状晶を取り囲む酸化物から構成され、酸化物としては、SiO
2、Cr
2O
3、WO
2、Al
2O
3、TiO
2、Ta
2O
5の何れか1種以上の酸化物が例示でき、この酸化物を合計で0.5mol%〜3mol%の範囲内で含む構成が例示できる。
【0040】
また本発明のRu、またはRu合金からなる第2配向制御層3bは、比較的、高いスパッタリングガス圧である、4Pa〜12Paの範囲内で形成するのが好ましい。このような高ガス圧で成膜することにより、柱状晶の頂部のドーム状の凸部を発達させ、その上に形成する磁性層の垂直配向性を高めることができる。
【0041】
また本発明の配向制御層は、基板側から、第1配向制御層3a、中間配向制御層、第2配向制御層3bの3層構造とし、第1配向制御層3aをCoIr合金、中間配向制御層を低ガス圧でスパッタリング成膜したRuまたはRu合金、第2配向制御層3bを前述の高ガス圧でスパッタリング成膜したRuまたはRu合金で構成することができる。
【0042】
中間配向制御層は、配向制御層3の核発生密度を高めるためのものであり、層厚8nm〜12nmの範囲内のRu又はRuを主成分とする材料からなるものである。中間配向制御層は、スパッタリング法により、スパッタリングガス圧0.6Pa〜1.2Paの範囲内で形成する。
【0043】
本実施形態においては、中間配向制御層の層厚を8nm〜12nmの範囲内とすることで、記録時における磁気ヘッドと軟磁性下地層2との距離が小さく、再生信号の分解能を低下させることなく記録再生特性を高めることができる。
中間配向制御層の層厚が上記範囲未満であると、垂直磁性層4の配向性を高め、垂直磁性層4を構成する磁性粒子42を微細化する効果が不十分となり、良好なS/N比が得られない。中間配向制御層の層厚が上記範囲を超えると、記録時における磁気ヘッドと軟磁性下地層2との距離が大きくなり、磁気ヘッドと軟磁性下地層2との磁気結合が弱まり高密度記録に適さない記録特性(OW)となる。
中間配向制御層を設けた場合の第2配向制御層3bについては、前述の2層構造の配向制御層の、高いスパッタリングガス圧で形成する第2配向制御層3bと同じ組成、成膜条件とすることができる。
【0044】
すなわち、中間配向制御層を設けた場合の第2配向制御層3cは、スパッタリング法により、中間配向制御層よりも高い圧力であって、スパッタリングガス圧4Pa〜12Paの範囲内で形成することが好ましい。第2配向制御層3cのスパッタリングガス圧を上記範囲とすることで、容易に、中間配向制御層に含まれる柱状晶S1の核となる結晶に厚み方向に連続し、頂部にドーム状の凸部が形成された柱状晶を含む第2配向制御層3bが得られる。
【0045】
第2配向制御層3bのスパッタリングガス圧が上記範囲未満であると、配向制御層3の上に成長される垂直磁性層4の結晶粒子を分離して、垂直磁性層の磁性粒子を微細化する効果が十分に得られなくなり、良好なS/N比および熱揺らぎ特性が得られない。また、第2配向制御層3bのスパッタリングガス圧が上記範囲を超えると、第2配向制御層3bの硬度が不十分となる。
【0046】
ここで、本実施形態の磁気記録媒体において、配向制御層3を構成する結晶粒子と垂直磁性層4を構成する磁性粒子との関係について図面を用いて説明する。
図2は、2層構造の配向制御層3と垂直磁性層4との積層構造を説明するための拡大模式図であり、各層の柱状晶が基板面に対して垂直に成長した状態を示す断面図である。なお、
図2においては、配向制御層3を構成する第1配向制御層3aおよび第2配向制御層3bと垂直磁性層4以外の部材の記載を省略して示している。
【0047】
図2に示すように、第1配向制御層3a上には、第1配向制御層3aを構成する柱状晶S1の頂部をドーム状の凸とする凹凸面S1aが形成されている。第1配向制御層3aの凹凸面S1a上には、凹凸面S1aから厚み方向に第2配向制御層3bを構成する結晶粒子が柱状晶S2となって成長している。また、第2配向制御層3b上には、第2配向制御層3bを構成する柱状晶S2の頂部をドーム状の凸とする凹凸面S2aが形成されている。そして、第2配向制御層3bを構成する柱状晶S2の上には、垂直磁性層4の結晶粒子が柱状晶S3となって厚み方向に成長している。本実施形態においては、第2配向制御層3bのドーム状の凸部上に垂直磁性層4の結晶粒子が成長されることにより、成長した垂直磁性層4の結晶粒子の分離が促進され、垂直磁性層4の結晶粒子が孤立化されて柱状に成長されている。
【0048】
このように、本実施形態の磁気記録媒体においては、第1配向制御層3aの柱状晶S1上に第2配向制御層3bの柱状晶S2と垂直磁性層4の柱状晶S3とが連続した柱状晶となってエピタキシャル成長されている。なお、本実施形態においては、
図1に示すように、垂直磁性層4が多層化されている。多層化された垂直磁性層4の各層を構成する結晶粒子は、配向制御層3から最上層の垂直磁性層に至るまで連続した柱状晶となってエピタキシャル成長を繰り返している。したがって、本実施形態においては、第1配向制御層3aを構成する結晶粒子を微細化し、柱状晶S1を高密度化することで、柱状晶S1の頂部から厚み方向に柱状に成長する第2配向制御層3bの柱状晶S2および多層化された垂直磁性層4の柱状晶S3も高密度化されている。
【0049】
「非磁性下地層」
本例の磁気記録媒体においては、配向制御層3と垂直磁性層4の間に、非磁性下地層8が設けられている。なお、配向制御層3と垂直磁性層4の間には、非磁性下地層8が設けられていることが好ましいが、非磁性下地層8が設けられていなくてもよい。配向制御層3直上の垂直磁性層4の初期部には、結晶成長の乱れが生じやすく、これがノイズの原因となる。非磁性下地層8を設けることで、ノイズの発生を抑制できる。
また、非磁性下地層8は、配向制御層3の第1配向制御層3aおよび第2配向制御層3bの柱状晶S1,S2と連続した柱状晶として、配向制御層3の第2配向制御層3b上にエピタキシャル成長されている。
【0050】
非磁性下地層8は、Crと酸化物とを含んだ材料からなるものであることが好ましい。Crの含有量は、25at%(原子%)以上50at%以下とすることが好ましい。酸化物としては、例えばCr、Si、Ta、Al、Ti、Mg、Coなどの酸化物を用いることが好ましく、その中でも特に、TiO
2、Cr
2O
3、SiO
2などを好適に用いることができる。酸化物の含有量としては、磁性粒子を構成する、例えばCo、Cr、Pt等の合金を1つの化合物として算出したmol総量に対して、3mol%以上18mol%以下であることが好ましい。
【0051】
また、非磁性下地層8は、酸化物を2種類以上添加した複合酸化物からなることが好ましい。その中でも特に、Cr
2O
3−SiO
2、Cr
2O
3−TiO
2、Cr
2O
3−SiO
2−TiO
2などを好適に用いることができる。さらに、CoCr−SiO
2、CoCr−TiO
2、CoCr−Cr
2O
3−SiO
2、CoCr−TiO
2−Cr
2O
3、CoCr−Cr
2O
3−TiO
2−SiO
2などを好適に用いることができる。また、結晶成長の観点からPtを添加してもよい。
【0052】
非磁性下地層8の厚みは、0.2nm以上3nm以下であることが好ましい。非磁性下地層8の厚さが3nmを超えると、Hc及びHnの低下が生じるために好ましくない。
【0053】
「垂直磁性層」
非磁性下地層8の上には、垂直磁性層4が形成されている。
図1に示すように、垂直磁性層4は、非磁性基板1側から、下層の磁性層4aと、中層の磁性層4bと、上層の磁性層4cとの3層を含むものである。本実施形態の磁気記録媒体では、磁性層4aと磁性層4bとの間に下層の非磁性層7aを含み、磁性層4bと磁性層4cとの間に上層の非磁性層7bを含むことで、これら磁性層4a〜4cと非磁性層7a,7bとが交互に積層された構造を有している。
【0054】
各磁性層4a〜4c及び非磁性層7a,7bを構成する結晶粒子は、配向制御層3の第1配向制御層3aおよび第2配向制御層3bの柱状晶と連続した柱状晶として、非磁性下地層8上にエピタキシャル成長されている。
【0055】
図3は、垂直磁性層を構成する磁性層と非磁性層との積層構造を拡大して示した断面図である。
図3に示すように、垂直磁性層4を構成する磁性層4aは、グラニュラー構造の磁性層であり、Co、Cr、Ptを含む磁性粒子(磁性を有した結晶粒子)42と、酸化物41とを含むものであることが好ましい。
酸化物41としては、例えばCr、Si、Ta、Al、Ti、Mg、Coなどの酸化物を用いることが好ましい。その中でも特に、TiO
2、Cr
2O
3、SiO
2などを好適に用いることができる。また、磁性層4aは、酸化物を2種類以上添加した複合酸化物からなることが好ましい。その中でも特に、Cr
2O
3−SiO
2、Cr
2O
3−TiO
2、Cr
2O
3−SiO
2−TiO
2などを好適に用いることができる。
【0056】
磁性層4aに適した材料としては、例えば、90(Co14Cr18Pt)−10(SiO
2){Cr含有量14at%、Pt含有量18at%、残部Coからなる磁性粒子を1つの化合物として算出したモル濃度が90mol%、SiO
2からなる酸化物組成が10mol%}、92(Co10Cr16Pt)−8(SiO
2)、94(Co8Cr14Pt4Nb)−6(Cr
2O
3)の他、(CoCrPt)−(Ta
2O
5)、(CoCrPt)−(Cr
2O
3)−(TiO
2)、(CoCrPt)−(Cr
2O
3)−(SiO
2)、(CoCrPt)−(Cr
2O
3)−(SiO
2)−(TiO
2)、(CoCrPtMo)−(TiO)、(CoCrPtW)−(TiO
2)、(CoCrPtB)−(Al
2O
3)、(CoCrPtTaNd)−(MgO)、(CoCrPtBCu)−(Y
2O
3)、(CoCrPtRu)−(SiO
2)などを挙げることができる。
【0057】
図3に示すように、垂直磁性層4を構成する磁性層4bも磁性層4aと同様に、グラニュラー構造の磁性層であり、Co、Cr、Ptを含む磁性粒子(磁性を有した結晶粒子)42と、酸化物41とを含むものであることが好ましい。
酸化物41は、Cr、Si、Ta、Al、Ti、Mg、Coの酸化物であることが好ましい。中でも特に、TiO
2、Cr
2O
3、SiO
2を酸化物41として好適に用いることができる。また、磁性層4bを構成する酸化物41は、2種類以上の酸化物からなる複合酸化物であることが好ましい。中でも特に、Cr
2O
3−SiO
2、Cr
2O
3−TiO
2、Cr
2O
3−SiO
2−TiO
2などからなる複合酸化物を酸化物41として好適に用いることができる。
【0058】
垂直磁性層4を構成する磁性層4cは、
図3に示すように、Co、Crを含む磁性粒子(磁性を有した結晶粒子)42を含み、酸化物41を含まないものであることが好ましい。磁性層4c中の磁性粒子42は、磁性層4a中の磁性粒子42から柱状にエピタキシャル成長しているものであることが好ましい。この場合、磁性層4a〜4cの磁性粒子42が、各層において1対1に対応して、柱状にエピタキシャル成長することが好ましい。また、磁性層4bの磁性粒子42が磁性層4a中の磁性粒子42からエピタキシャル成長していることで、磁性層4bの磁性粒子42が微細化され、さらに結晶性及び配向性が向上したものとなる。
【0059】
磁性層4cに適した材料としては、例えば、CoCrPt系では、Co14〜24Cr8〜22Pt{Cr含有量14〜24at%、Pt含有量8〜22at%、残部Co}、CoCrPtB系では、Co10〜24Cr8〜22Pt0〜16B{Cr含有量10〜24at%、Pt含有量8〜22at%、B含有量0〜16at%、残部Co}が好ましい。その他の系としては、CoCrPtTa系では、Co10〜24Cr8〜22Pt1〜5Ta{Cr含有量10〜24at%、Pt含有量8〜22at%、Ta含有量1〜5at%、残部Co}、CoCrPtTaB系では、Co10〜24Cr8〜22Pt1〜5Ta1〜10B{Cr含有量10〜24at%、Pt含有量8〜22at%、Ta含有量1〜5at%、B含有量1〜10at%、残部Co}の他にも、CoCrPtBNd系、CoCrPtTaNd系、CoCrPtNb系、CoCrPtBW系、CoCrPtMo系、CoCrPtCuRu系、CoCrPtRe系などの材料を挙げることができる。
【0060】
また、垂直磁性層4を構成する磁性層4a〜4cの間に設ける非磁性層7a、7bとして、hcp構造を有する合金として、例えばRu、Re、Ti、Y、Hf、Znなどの合金も使うことができる。
また、非磁性層7a、7bとして、その上下の磁性層の結晶性、配向性を損ねない範囲で、他の構造をとる金属、合金を使用することもできる。例えば、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Ir、Mo、W、Ta、Nb、V、Bi、Sn、Si、Al、C、B、Crなどの元素あるいは合金である。特に、Cr合金としては、CrX2(X2:Ti、W、Mo、Nb、Ta、Si、Al、B、C、Zrから選ばれる1種または2種以上)を用いるのが好適である。この場合のCr含有量は60at%以上が好ましい。
【0061】
また、非磁性層7a、7bとして、上記合金の金属粒子が酸化物、金属窒化物、金属炭化物中に分散し構造としても良い。さらに該金属粒子が非磁性層7a、7bを上下に貫いた柱状構造を有していればより好適である。このような構造とするには、酸化物を含んだ合金材料を使用することで可能となる。酸化物としては、SiO
2、Al
2O
3、Ta
2O
5、Cr
2O
3、MgO、Y
2O
3、TiO
2などが、金属窒化物としては、AlN、Si
3N
4、TaN、CrNなどが、金属炭化物としては、TaC、BC、SiCなどが利用可能である。例えば、CoCr−SiO
2、CoCrPt−Ta
2O
5、Ru−SiO
2、Ru−Si
3N
4、Pd−TaCなどをあげることができる。
【0062】
非磁性層7a、7b中の酸化物、金属窒化物、金属炭化物の含有量としては、合金に対して、4mol%以上12mol%以下であることが好ましい。非磁性層7a、7b中の酸化物、金属窒化物、金属炭化物の含有量が上記範囲を超える場合、金属粒子中に酸化物、金属窒化物、金属炭化物が残留し、金属粒子の結晶性、配向性を損ねるほか、金属粒子の上下にも酸化物、金属窒化物、金属炭化物が析出してしまい、金属粒子が非磁性層7a、7bを上下に貫く柱状構造となりにくくなり、非磁性層7a、7bの上に形成された磁性層の結晶性、配向性を損ねるおそれがあるため好ましくない。また、非磁性層7a、7b中の酸化物、金属窒化物、金属炭化物の含有量が上記範囲未満である場合、酸化物、金属窒化物、金属炭化物の添加による効果が得られないため、好ましくない。
【0063】
非磁性層7a、7bの厚さは、垂直磁性層4における磁性粒子の肥大化による再生時の信号/ノイズ比(S/N)の悪化や磁気ヘッドと軟磁性下地層2との距離が大きくなることによる記録特性(OW)や分解能の低下を起こさないようにするために、10nm以下(より好ましくは5nm以下)とするのが好ましい。
【0064】
「保護層」
垂直磁性層4上には保護層5が形成される。保護層5は、垂直磁性層4の腐食を防ぐとともに、磁気ヘッドが磁気記録媒体に接触したときの媒体表面の損傷を防ぐためのものである。保護層5としては、従来公知の材料を使用することができ、例えばC、SiO
2、ZrO
2を含むものを使用することが可能である。保護層5の厚みは、1〜10nmとすることが、磁気ヘッドと磁気記録媒体との距離を小さくできるので高記録密度の点から好ましい。保護層5は、例えば、CVD(化学気相成長)法などを用いて形成される。
【0065】
「潤滑層」
保護層5上には潤滑層6が形成される。潤滑層6には、例えば、パーフルオロポリエーテル、フッ素化アルコール、フッ素化カルボン酸などの潤滑剤を用いることが好ましい。潤滑層6は、例えば、ディッピング法などを用いて形成される。
【0066】
(磁気記録再生装置)
図4は、本発明を適用した磁気記録再生装置の一例を示すものである。
この磁気記録再生装置は、
図1に示す構成を有する磁気記録媒体50と、磁気記録媒体50を回転駆動させる媒体駆動部51と、磁気記録媒体50に情報を記録再生する磁気ヘッド52と、この磁気ヘッド52を磁気記録媒体50に対して相対運動させるヘッド駆動部53と、記録再生信号処理系54とを備えている。
【0067】
記録再生信号処理系54は、外部から入力されたデータを処理して記録信号を磁気ヘッド52に送り、磁気ヘッド52からの再生信号を処理してデータを外部に送ることが可能となっている。本発明を適用した磁気記録再生装置に用いる磁気ヘッド52には、再生素子として巨大磁気抵抗効果(GMR)を利用したGMR素子などを有した、より高記録密度に適した磁気ヘッドを用いることができる。
【0068】
図4に示す磁気記録再生装置は、本発明の磁気記録媒体の一例である
図1に示す磁気記録媒体50と、磁気記録媒体50に対する情報の記録再生を行う磁気ヘッド52とを備えるものであるので、高密度記録に適した記録特性(OW)が得られる磁気記録媒体を備えた優れたものとなる。
【実施例】
【0069】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0070】
以下に示す製造方法により、試験例1〜21の磁気記録媒体を作製し、評価した。
まず、洗浄済みのガラス基板(コニカミノルタ社製、外形2.5インチ)を、DCマグネトロンスパッタ装置(アネルバ社製C−3040)の成膜チャンバ内に収容して、到達真空度1×10
−5Paとなるまで成膜チャンバ内を排気した後、このガラス基板の上に、Cr−50Tiターゲットを用いて層厚10nmの密着層を成膜した。
このようにして得られた密着層の上に、70Co−20Fe−5Zr−5Ta{Fe含有量20at%、Zr含有量5at%、Ta含有量5at%、残部Co}のターゲットを用いて100℃以下の基板温度で、層厚25nmの軟磁性層を成膜し、この上にRu層を層厚0.7nmで成膜し、さらに70Co−20Fe−5Zr−5Taの軟磁性層を層厚25nmで成膜し、これを軟磁性下地層とした。
【0071】
次に、軟磁性下地層の上に10nmのNi−6Wシード層を形成し、その上に表1に示す構成、組成、層厚、スパッタリングガス圧で配向制御層を形成した。
【0072】
その後、配向制御層上に、垂直磁性層を形成した。
まず、配向制御層上に、91(Co15Cr16Pt)−6(SiO
2)−3(TiO
2){Cr含有量15at%、Pt含有量18at%、残部Coの合金を91mol%、SiO
2からなる酸化物を6mol%、TiO
2からなる酸化物を3mol%}の組成の磁性層を、スパッタリングガス圧を2Paとして層厚9nmで成膜した。
【0073】
次に、磁性層の上に、88(Co30Cr)−12(TiO
2)からなる非磁性層を層厚0.3nmで成膜した。
次に、非磁性層の上に、92(Co11Cr18Pt)−5(SiO
2)−3(TiO
2)からなる磁性層を、スパッタリングガス圧を2Paとして層厚6nmで成膜した。
【0074】
次に、磁性層の上に、Ruからなる非磁性層を層厚0.3nmで成膜した。
次に、非磁性層の上に、63Co20Cr14Pt3B{Cr含有量20at%、Pt含有量14at%、B含有量3at%、残部Co}からなるターゲットを用いて、スパッタリングガス圧を0.6Paとして磁性層を層厚7nmで成膜した。
【0075】
次に、CVD法により層厚3.0nmの保護層を成膜し、次いで、ディッピング法によりパーフルオロポリエーテルからなる潤滑層を成膜し、実施例1〜5、および比較例1〜6の磁気記録媒体を作製した。
【0076】
このようにして得られた磁気記録媒体について、米国GUZIK社製のリードライトアナライザRWA1632及びスピンスタンドS1701MPを用いて、記録再生特性としてエラーレート(BER)、記録特性(OW)の各評価を行った。その結果を表1に示す。
【0077】
なお、磁気ヘッドには、書き込み側にシングルポール磁極を用い、読み出し側にTMR素子を用いたヘッドを使用した。
記録特性(OW)については、先ず、750kFCIの信号を書き込み、次いで100kFCIの信号を上書し、周波数フィルターにより高周波成分を取り出し、その残留割合によりデータの書き込み能力を評価した。
【0078】
【表1】
【0079】
表1に示すように、本発明の実施例に対応する磁気記録媒体はいずれも、比較例に対応する磁気記録媒体に比べて、OW特性及びエラーレートに優れることがわかる。