特許第5677931号(P5677931)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東京瓦斯株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5677931-ボイラ装置 図000002
  • 特許5677931-ボイラ装置 図000003
  • 特許5677931-ボイラ装置 図000004
  • 特許5677931-ボイラ装置 図000005
  • 特許5677931-ボイラ装置 図000006
  • 特許5677931-ボイラ装置 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5677931
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月25日
(54)【発明の名称】ボイラ装置
(51)【国際特許分類】
   F22B 1/02 20060101AFI20150205BHJP
   F22D 11/00 20060101ALI20150205BHJP
   F24J 1/00 20060101ALI20150205BHJP
   B01D 19/00 20060101ALI20150205BHJP
   C02F 1/20 20060101ALI20150205BHJP
【FI】
   F22B1/02
   F22D11/00 B
   F24J1/02
   B01D19/00 F
   C02F1/20 A
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-285269(P2011-285269)
(22)【出願日】2011年12月27日
(65)【公開番号】特開2013-134017(P2013-134017A)
(43)【公開日】2013年7月8日
【審査請求日】2014年2月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000220262
【氏名又は名称】東京瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100105463
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100099128
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 康
(72)【発明者】
【氏名】藤峰 智也
(72)【発明者】
【氏名】坂本 良輔
(72)【発明者】
【氏名】中島 良文
(72)【発明者】
【氏名】竹村 和也
【審査官】 正木 裕也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−300062(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0024853(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F22B 1/02
B01D 19/00
C02F 1/20
F22D 11/00
F24J 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱発生源と、前記熱発生源で発生した熱とボイラへの給水との間で熱交換をして蒸気を発生させる熱交換器と、前記熱交換器への給水管路と、前記給水管路に介装された窒素置換式脱酸素装置とを少なくとも備えたボイラ装置であって、
前記熱発生源は酸化塔と還元塔を備えたケミカルループ式燃焼装置であり、前記ケミカルループ式燃焼装置の前記酸化塔からの排ガスを排気する排ガス管路には前記窒素置換式脱酸素装置に接続する分岐管路が設けられており、前記窒素置換式脱酸素装置には前記分岐管路を通して前記酸化塔から発生する高濃度の窒素ガスを含む排ガスが供給可能となっていることを特徴とするボイラ装置。
【請求項2】
前記排ガス管路における前記分岐管路の分岐部より上流側または下流側に前記熱交換器が設けられていて、前記給水管路は前記熱交換器を通過して適宜の蒸気利用部に達するようにされていることを特徴とする請求項1に記載のボイラ装置。
【請求項3】
前記給水管路は前記酸化塔または前記還元塔あるいはその双方の内部を通過して適宜の蒸気利用部に達するようにされており、それにより、前記酸化塔および前記還元塔はボイラへの給水を蒸気化するための熱発生源としても機能していることを特徴とする請求項2に記載のボイラ装置。
【請求項4】
前記給水管路は前記酸化塔または前記還元塔あるいはその双方の内部を通過して適宜の蒸気利用部に達するようにされており、それにより、前記酸化塔および前記還元塔はボイラへの給水を蒸気化するための前記熱交換器としても機能していることを特徴とする請求項1に記載のボイラ装置。
【請求項5】
前記窒素置換式脱酸素装置から排気される排気ガスを酸化剤ガスと燃料ガスとの混合を防止するシールガスとしてケミカルループ式燃焼装置の所要部位に戻す排気ガス戻し管路をさらに備えることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載のボイラ装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のボイラ装置であって、排ガス管路には、1つまたは2つ以上の第2の分岐管路が設けられており、該第2の分岐管路は、他のボイラ装置に備えられた窒素置換式脱酸素装置に接続しており、前記他のボイラ装置に備えられた窒素置換式脱酸素装置には、前記酸化塔から発生する高濃度の窒素ガスを含む排ガスの一部が供給可能となっていることを特徴とするボイラ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラへの供給水となる給水中の溶存酸素を窒素置換法により除去する窒素置換式脱酸素装置を備えたボイラ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ボイラを安全に、かつ高効率で運転するためには、ボイラへの給水に溶存する酸素によって配管等が腐食するのを防止するために、給水に対して脱酸素処理が行われる。脱酸素処理には様々な技術が用いられるが、その中の一つに、特許文献1あるいは特許文献2に記載されるような、窒素置換法により脱酸素を行う技術がある。この窒素置換法は、ヘンリーの法則に従い、給水に窒素ガスをバブリングさせることで、給水中の溶存酸素を除去する技術である。
【0003】
一方、燃焼装置の一つとして、ケミカルループ式燃焼装置が知られている(非特許文献1参照)。特許文献3には、ケミカルループ式燃焼で得られる気体でタービンを回転させて電力を得る発電プラントが記載されている。また、特許文献4には、ケミカルループ式燃焼で得られる熱を工業炉、ボイラ、ガスタービンなどの熱利用設備の熱源として用いることも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−285641号公報
【特許文献2】特開2010−5484号公報
【特許文献3】特開2000−337168号公報
【特許文献4】特開2011−179773号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】藤峰智也、速川敦彦、『炎のない燃焼「ケミカルループ燃焼」について』、工業加熱、vol.48、No.6、P14〜19(2011年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
窒素置換法によりボイラへの給水中に存在する溶存酸素を除去するには、99%以上の純度を有した窒素のような不活性ガスが必要となる。このような高純度の窒素ガスを得る方法として、膜分離法、PSA法、深冷分離法などが知られている。そして、特許文献1および特許文献2に記載されるような、従来のボイラ装置では、脱酸素用の高純度の窒素ガスを得るために、いずれかの方法による窒素製造装置を別に設置することを必要としている。
【0007】
図6は、ボイラへの給水中に溶存する酸素を窒素置換法により除去するようにしたボイラ装置の従来例を示している。ボイラには、燃料としての都市ガスと燃焼用空気が供給され、ボイラに備えられた燃焼装置で燃焼する。燃焼排ガスは、ボイラへの給水とボイラ内で熱交換して蒸気を発生させる。発生した蒸気は適宜の蒸気利用部へ送られ、熱交換後の燃焼排ガスはボイラ装置外に放出される。
【0008】
図6に示すように、一般に、ボイラへの給水は、薬剤による軟水処理(薬注)を受けた後、貯水タンクに貯留される。必要時に、貯留水は脱酸素処理装置に送られ、バブリングによる脱酸素処理を受けた後、昇圧機によりボイラへ給水される。前記のように、ボイラ装置には、脱酸素処理装置で使用する高純度の窒素ガスを得るために別途窒素製造装置が設置されている。都市ガスの燃焼により得られる燃焼排ガス中には窒素が豊富に含まれるが、二酸化炭素や水蒸気などの不純物を含むため、脱酸素処理には用いることができず、利用されることなく排気される。
【0009】
また、従来の窒素製造技術では、いずれにおいても大量の電力を消費するため、製造コストが非常に高い。そのために、窒素置換法によりボイラ給水に対する脱酸素処理を行うと、ボイラのランニングコストが高くなるのを避けられない。さらに、いずれの窒素製造技術によるとしても、そのための装置を設置するための広いスペースが必要となっている。
【0010】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、ボイラへの給水中に含まれる溶存酸素を窒素置換法により除去するための溶存酸素除去手段を備えたボイラ装置において、そのランニングコストを低減し、かつ運転に必要なスペースも低減可能としたボイラ装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によるボイラ装置は、熱発生源と、前記熱発生源で発生した熱とボイラへの給水との間で熱交換をして蒸気を発生させる熱交換器と、前記熱交換器への給水管路と、前記給水管路に介装された窒素置換式脱酸素装置とを少なくとも備えたボイラ装置であって、前記熱発生源は酸化塔と還元塔を備えたケミカルループ式燃焼装置であり、前記ケミカルループ式燃焼装置の前記酸化塔からの排ガスを排気する排ガス管路には前記窒素置換式脱酸素装置に接続する分岐管路が設けられており、前記窒素置換式脱酸素装置には前記分岐管路を通して前記酸化塔から発生する高濃度の窒素ガスを含む排ガスが供給可能となっていることを特徴とする。
【0012】
本発明においてケミカルループ燃焼装置とは、従来知られたケミカルループ燃焼を実行するための装置である。非特許文献1に記載されるように、ケミカルループ燃焼とは、化石燃料(メタンなどの炭化水素)を直接空気と燃焼させる代わりに、燃焼反応を「金属粒子の酸化反応」と「金属酸化物の還元反応」の2つに分け、両者を物理的な粒子の循環で結び、金属粒子の酸化反応によって熱を得るシステムである。酸化反応系では金属粒子は酸化剤として機能する空気と反応して酸素を受け取り、1000℃程度の熱を発する。酸化反応系からの排ガスは、空気から酸素がほぼ除去された大部分が窒素からなる混合ガスである。還元反応系では、酸化反応系で酸化された金属粒子と燃料(メタンなどの炭化水素)が反応(還元反応)し、酸化金属は還元されて金属粒子に戻る。還元反応系からの排ガスは水と二酸化炭素である。
【0013】
酸化反応系に投入する空気の量を酸化反応に必要な量(還元剤の投入量に対して燃焼反応としての当量)だけに制御することで、酸化反応系からの排ガスとして例えば99.9%程度の高濃度の窒素ガスおよびアルゴン等を含む排ガスを得ることができる。
【0014】
本発明によるボイラ装置では、ボイラへの給水を加熱して蒸気化するための熱を得るための熱発生源は、上記のケミカルループ燃焼を行うケミカルループ燃焼装置であり、ボイラへの給水から窒素置換法により溶存酸素を除去するのに用いる窒素、すなわち窒素置換式脱酸素装置で用いられる窒素は、ケミカルループ燃焼装置の稼働時にその酸化塔から排出される排ガス中に含まれる高濃度の窒素ガスである。したがって、本発明によるボイラ装置では、給水中の溶存酸素を除去するのに、特別の窒素製造装置を設置しまた運転することは不要であり、従来の窒素置換法により溶存酸素を除去する手段を備えたボイラ装置と比較して、装置のランニングコストを低減できるとともに、占用スペースも小さくすることができる。また、熱発生源であるケミカルループ燃焼装置の燃焼温度は1000℃程度と比較的低いためにサーマルNOxがほとんど発生せず、稼働に伴う環境負荷も低減できる。
【0015】
本発明において、熱発生源として用いるケミカルループ燃焼装置の形態に制限はなく、任意のケミカルループ燃焼装置を用いることができる。外部循環式であってもよく、内部循環式であってもよい。ここで、外部循環式とは、酸化塔と還元塔とは個別に存在していて、酸化塔と還元塔とは第1の循環路と第2の循環路で接続されており、第1の循環路内を酸化塔で酸化された酸化金属粒子が還元塔に向けて移動し、第2の循環路内を還元塔内で還元された金属粒子が酸化塔に向けて移動する形態のケミカルループ燃焼装置である。また、内部循環式とは、1つの筒体の中に酸化塔として機能する領域と還元塔として機能する領域とが納まっていて、その1つの筒体の中で酸化された金属粒子と還元された金属粒子とが循環する形態のケミカルループ燃焼装置をいう。
【0016】
本発明によるボイラ装置において、熱発生源であるケミカルループ式燃焼装置が発生する熱とボイラへの給水との熱交換は、酸化塔または前記還元塔あるいはその双方の中で行われてもよく、酸化塔の外に設置した熱交換器で行われてもよい。また、酸化塔およびまたは還元塔と酸化塔の外に設置した熱交換器の双方で行われるようにしてもよい。前記熱交換を酸化塔およびまたは還元塔の中で行う形態では、前記給水管路は前記酸化塔およびまたは還元塔の内部を通過して適宜の蒸気利用部に達するようにされる。熱交換を酸化塔の外に設置した熱交換器で行う形態では、前記排ガス管路における前記分岐管路の分岐部より上流側または下流側に前記熱交換器が設けられ、ボイラへの給水は該熱交換器を通って適宜の蒸気利用部に達するようにされる。熱交換を酸化塔およびまたは還元塔の内部と酸化塔の外に設置した熱交換器の双方で行う形態では、前記給水管路は酸化塔およびまたは還元塔の内部と前記排ガス管路に設けた熱交換器の双方を通過して適宜の蒸気利用部に達するようになる。
【0017】
本発明によるボイラ装置において、前記窒素置換式脱酸素装置から排気される溶存酸素を吸収した排気ガスは、そのまま系外に排気されてもよい。しかし、ケミカルループ式燃焼装置においては、酸化剤としての空気と還元剤としての燃料ガスが直接接触するのを回避するために、両者が混じり合う恐れのある領域に不活性ガスをシールガスとして供給する場合があり、そのような形態の場合には、窒素置換式脱酸素装置から排気される排ガスを前記シールガスとして利用することもできる。窒素置換式脱酸素装置から排気される排ガスは、給水中の溶存酸素を含んでいるとはいえその量は極めて微量(0.1〜2.0%程度)であるので、そのままでシールガスとして機能を十分に果たすことができる。具体的には、本発明によるボイラ装置の一形態において、前記窒素置換式脱酸素装置から排気される排気ガスを酸化剤ガスと燃料ガスとの混合を防止するシールガスとしてケミカルループ式燃焼装置の所要部位に戻す排気ガス戻し管路をさらに備えるようにする。
【0018】
一般に、ボイラへの給水管路に介装された窒素置換式脱酸素装置が、所定量の給水に対して脱酸素処理するのに必要とされる窒素ガス量は、ケミカルループ式燃焼装置が当該量の給水を蒸気化するのに必要とされる熱量を酸化塔内での酸化反応で得るときに発生する排ガス量に含まれる窒素ガス量と比較すると極少量である。
【0019】
例えば10t/hのボイラの場合には、一般的に、都市ガス650m/h程度の燃焼熱量が必要とされるが、それに相当する熱量を酸化塔内での酸化反応により得ようとすると、金属粒子の種類や量等によって幅はあるとしても、約1550m/hの酸素が必要であり、空気からその量の酸素を調達しようとすると、約7400m/hの空気が必要となる。結果として、酸化反応の後に酸化塔から排出される排ガス中には、約5850m/hのNが含まれることとなる。一方、脱酸素に必要なN量は、給水1L/minに対して0.35L/min程度であり、10t/hの水から溶存酸素を除去するのに必要とされるN量は約3.5m/hである。
【0020】
そのために、一部の排ガスを脱酸素処理に用い、残りの排ガスは系外に排気するか、別途タンクに窒素ガスまたは液体窒素として保存することとなる。本発明によるボイラ装置の一形態において、前記残りの排ガスを有効利用するために、前記排ガス管路には、1つまたは2つ以上の第2の分岐管路がさらに設けられ、該第2の分岐管路は、他のボイラ装置に備えられた窒素置換式脱酸素装置に接続していて、前記他のボイラ装置に備えられた窒素置換式脱酸素装置に、前記酸化塔から発生する高濃度の窒素ガスを含む排ガスの一部が供給される形態を取ることも可能である。この形態により、さらにランニングコストの低減した、かつ運転に必要なスペースも低減可能とした、複数個のボイラ装置を得ることができる。
【0021】
なお、図5は、ケミカルループ燃焼において、反応塔からの排ガス成分を縦軸、時間を横軸として示したバッチ式試験装置での実験データであり、天然ガス(都市ガス)を反応塔(ここでは還元塔として機能する)に所定量供給すると、反応塔で還元反応が進行することで、反応塔からはCO(とHO)が排出され、所定時間経過してCOの排出がほぼ0となった時点で、反応塔(ここでは酸化塔として機能する)に空気を供給すると、反応塔で酸化反応が進行して空気中の酸素のすべてが消費され、酸素濃度がほぼゼロの状態(換言すれば99.9%濃度のNガスおよびアルゴンなどを含む状態)での排ガスが酸化塔から排出されることを確認した。そして、時間とともに酸化反応での酸素の消費量が低減していき、ある時間そのままで放置すると、酸化塔からの排ガス中のOが含まれるようになることを確認した。
【0022】
ケミカルループ式燃焼装置では、酸化反応系に投入する空気の量を酸化反応に必要な量(還元剤の投入量に対して燃焼反応としての当量)だけに制御し、かつ金属粒子の循環速度を制御することで、酸化反応系からの排ガスの酸素濃度をほぼゼロにした状態で、ケミカルループ式燃焼装置を継続して運転することができるようになる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ボイラへの給水中に含まれる溶存酸素を窒素置換法により除去するための溶存酸素除去手段を備えたボイラ装置を、ランニングコストを低減し、かつ運転に必要なスペースも低減可能としたボイラ装置とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】ボイラ装置の第1の形態を説明する図。
図2】ボイラ装置の第2の形態を説明する図。
図3】ボイラ装置の第3の形態を説明する図。
図4】ボイラ装置の第4の形態を説明する図。
図5】ケミカルループ燃焼において、還元塔と酸化塔からの排ガス成分を時間を横軸として示した実験データ。
図6】給水管路に窒素置換式脱酸素装置を介装した従来のボイラ装置を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して、本発明によるボイラ装置のいくつかの形態を説明する。
〈第1の形態〉
図1は、本発明によるボイラ装置の第1の形態A1の概略面を示している。後に詳細に説明するように、ここでは、給水管路14は、酸化塔2の外に設置した熱交換器25、26と酸化塔2の双方を通過して蒸気利用部に達するようにされており、酸化塔2はボイラへの給水を蒸気化するための熱交換器としても機能している。
【0026】
図で、1は熱発生源としての機能を果たす従来知られたケミカルループ式燃焼装置である。このケミカルループ式燃焼装置1は、外部循環式と称されるものであり、酸化塔2と還元塔3とを備え、両者は、その上方領域同士が第1の循環路4により、また下方領域同士が第2の循環路5とによって接続されている。酸化塔2には還元作用を受けた金属粒子が充填されており、該金属粒子は空気流路6を通して酸化塔2内に供給される、酸化剤として機能する空気と反応して酸化金属粒子となるとともに、酸化熱を発生する。
【0027】
酸化金属粒子は、サイクロン7により固気分離された後、前記した第1の循環路4を通って還元塔3内に流入し、次第に下降していく。還元塔3内には底部から都市ガスが燃料ガス(還元剤)として供給されており、酸化金属粒子は都市ガス中のメタン等による還元作用を受け、還元された金属粒子となる。還元された金属粒子は前記した第2の循環路5を通って酸化塔2内に流入し、再度、空気中の酸素と反応して酸化金属粒子となる。
【0028】
サイクロン7から排出される排ガスは、金属粒子との酸化反応によって空気から酸素が奪われたものであり、空気の供給量に応じて、酸素を含まない高濃度の窒素ガスか、残存する酸素をわずかに含む高濃度の窒素ガスとなる。酸化塔2に供給する空気量を制御することで、例えば窒素とアルゴンで99.9%程度を占める排ガスが得られる。酸化塔2からの高濃度の窒素ガスを含む排ガスは、排ガス管路8を通って放出される。還元塔3からの排ガスは、還元反応により生成された炭酸ガスと水とからなっており、高温ガスであることから水は水蒸気となっている。この排ガスは排ガス管路9を通って放出される。
【0029】
必須の構成ではないが、この例で、第1の循環路4と第2の循環路5には、その中間領域に、それぞれループシール10、11が形成されており、このループシール10、11は、後記するように、そこに不活性ガスが供給されることで、酸化剤(空気中の酸素)と還元剤(都市ガス中のメタン等)とが直接反応するのを防止するループシール部としての機能を果たしている。
【0030】
前記酸化塔2内には、その下方から上方に向けて受熱管路12が配置されており、該受熱管路12の入水部13には、給水管路14が接続している。給水管路14には従来知られた形態の窒素置換式脱酸素装置20が配置されており、適宜の給水源からのボイラ用給水は、窒素置換式脱酸素装置20を通過することで窒素置換式による脱酸素処理を受ける。溶存酸素が除去され給水は、ポンプ21によって給水管路14内を圧送され、前記入水部13から受熱管路12内に流入する。給水は、受熱管路12内を通過するときに、前記した金属粒子の酸化反応によって発生する酸化熱および酸化塔2内の加熱ガスによって加熱されて蒸気化し、管路15を通って図示しない蒸気消費部へ送られる。上記第1の形態のボイラ装置A1においては、酸化塔2は、前記したように、ボイラへの給水を蒸気化するための熱交換器としても機能している。
【0031】
より詳細に説明するに、適宜の給水源からのボイラ用給水は、必要な場合には薬剤による軟水処理を受けた後、貯水タンク22に貯留され、必要時に、前記した窒素置換式脱酸素処理装置20に送られる。窒素置換式脱酸素処理装置20には、前記排ガス管路8からの分岐管路23およびブロア24を介して、前記酸化塔2からの排ガス、すなわち高濃度の窒素ガスを含む排ガスの一部が送り込まれる。給水は、窒素置換式脱酸素処理装置20内で、そこに送り込まれてくる高濃度の窒素ガスを含む排ガスによるバブリング作用を受け、給水中に含まれる溶存酸素が除去される。なお、窒素置換式脱酸素処理装置20それ自体は、前記した特許文献1あるいは2に記載されるように従来知られたものであり、窒素置換式脱酸素処理装置20の構成の詳細およびそこで進行する脱酸素処理の詳細は省略する。
【0032】
図示の例において、窒素置換式脱酸素処理装置20を通過することで脱酸素処理を受けた給水は、還元塔3からの排ガス管路9に取り付けられた熱交換器25内を通過する。そこで還元塔3からの高温排ガスと熱交換して昇温した後、さらに、酸化塔2からの排ガス管路8における前記分岐管路23より上流側(下流側であってもよい)の位置に取り付けられた熱交換器26内を通過することでさらに昇温する。脱酸素処理を受けた給水は、二度の昇温を受けた後、前記したよう、給水管路14を通って酸化塔2内に流入して蒸気化する。すなわち、この態様では、酸化塔2および還元塔3は熱交換器への熱発生源として機能している。還元塔3からの排ガスは、還元反応により生成されたCOとHOからなっており、熱交換器25で給水と熱交換することで冷却されて気水分離され、90%以上のCOガスとして装置外に排出される。
【0033】
窒素置換式脱酸素処理装置20内で給水中の溶存酸素を取り込んだ排ガス(窒素ガス)は、そのまま装置外に放出してもよいが、図示の例では、その一部が管路27を介して、前記したループシール10、11内に送り込まれる。ループシール10、11には、酸化塔から酸化剤としての空気が流入しがちであり、また還元塔3から燃料ガスとしての都市ガスが流入しがちである。ループシール10、11内に窒素置換式脱酸素処理装置20から排出される高濃度の窒素を含むガスを送り込むことにより、該排ガスがシールガスとして機能し、空気と都市ガスとが接触して燃焼反応を起こすのを効果的に回避することができる。なお、窒素置換式脱酸素処理装置20から排出される排ガスには、給水中から除去された酸素が含まれるが、その量は極少量(給水1L当たり0.8mg程度)であり、ケミカルループ式燃焼装置の運転中に必要とされるシールガスの全量中に占める割合は極小さく、シールガスとして機能を損なうものではない。
【0034】
なお、図示しないが、前記給水管路14を前記酸化塔2に加えて還元塔3の内部をも通過させるようにしてもよい。その場合には、還元塔3もボイラへの給水を蒸気化するための熱交換器としても機能することとなる。
【0035】
〈第2形態〉
図2は、本発明によるボイラ装置の第2の形態A2の概略面を示している。第2形態のボイラ装置A2は、蒸気消費側に送られる蒸気は、主に酸化塔2からの排ガス管路8に取り付けた熱交換器26によって生成される点で、図1に示した第1の形態のボイラ装置A1と相違している。他の構成は、第1の形態のボイラ装A1と同じであり、同じ符号を付すことで説明は省略する。
【0036】
詳細には、第2形態のボイラ装置A2は、窒素置換式脱酸素処理装置20内で脱酸素処理を受けたボイラへの給水は、還元塔3からの排ガス管路9に取り付けられた熱交換器25を通過し、さらに酸化塔2からの排ガス管路8に取り付けた熱交換器26内を通過する。そして、給水は熱交換器26内を通過する過程で蒸気化し、その蒸気が蒸気消費側に送られる。
【0037】
第2の形態のボイラ装置A2では、給水管路14はケミカルループ式燃焼装置1の酸化塔2内を通らないので、従来使用されているケミカルループ式燃焼装置をそのまま熱発生源として使用できる利点がある。
【0038】
〈第3形態〉
図3は、本発明によるボイラ装置の第3の形態A3の概略面を示している。第3形態のボイラ装置A3は、前記排ガス管路8から2本以上の前記分岐管が分岐している点で、図1に示した第1の形態のボイラ装置A1と相違する。他の構成は、第1の形態のボイラ装置A1と同じであり、同じ符号を付すことで説明は省略する。
【0039】
詳細には、図1に示した第1の形態のボイラ装置A1における前記分岐管路23の分岐部よりも下流側における排ガス管路8には、分岐管路23と並列に所要本数の第2の分岐管路23a(23b)が設けられており、各第2の分岐管路23a(23b)は、それぞれブロワ24を介して、窒素置換式脱酸素装置30に接続している。窒素置換式脱酸素装置30は前記した窒素置換式脱酸素装置20と同じであってもよく、異なった形態の窒素置換式脱酸素装置であってもよい。図示のように、窒素置換式脱酸素装置30には貯水タンク32が付設されていてもよく、直接適宜の給水源から給水されてもよい。
【0040】
窒素置換式脱酸素装置30に給水されたボイラ用給水は、第2の分岐管路23a(23b)を介して送り込まれてくる高濃度の窒素ガスを含む排ガスによるバブリング作用を受け、給水中に含まれる溶存酸素が除去される。そして、脱酸素処理を受けた給水は、熱発生源としてケミカルループ式燃焼装置を備えない他のボイラ装置に送られる。窒素置換式脱酸素装置30から排出される排ガスは、そのまま装置外へ放出されてもよく、あるいは他の窒素利用部へ送るようにしてもよい。
【0041】
一例として、前記したように、10t/hボイラの場合、窒素置換方式によってボイラへの給水から溶存酸素を除去するのに必要な窒素量は3.5m/h程度である。一方、前記したように、10t/hの水を蒸気化するのに必要な熱量を、ケミカルループ式燃焼装置の酸化塔2での酸化反応によって得るためには、約7400m/h程度の空気量が必要であり、結果、酸化塔2の排ガス管路8を流れる排ガス中に含まれる窒素量は約5850m/h程度である。したがって、図3に示すボイラ装置A3において、複数の第2の分岐管路23a(23b)に対して、窒素置換式脱酸素装置30での脱酸素処理に必要な十分な量の窒素を送り込むことが可能である。
【0042】
〈第4の形態〉
図4は、本発明によるボイラ装置の第4の形態A4の概略面を示している。第4の形態のボイラ装置A4において、熱発生源として用いられているケミカルループ式燃焼装置1は、内部循環式と称されるものであり、酸化塔2内に還元塔3が位置している。還元塔3には適宜のノズルを介して還元剤としての都市ガス(燃料)が送り込まれ、酸化塔2内には酸化剤の空気が供給される。酸化した金属粒子は還元塔3内を上方に移動しながら都市ガスによる還元作用を受けて還元した金属粒子となる。還元した金属粒子は還元塔3の上端から酸化塔2内に入り込み、そこを落下する過程で空気による酸化作用を受けて酸化金属となる。その酸化反応により酸化熱が発生し反応ガスも昇温する。
【0043】
この形態のケミカルループ式燃焼装置1においても、還元塔3からの排気ガスは水蒸気と二酸化炭素であり、酸化塔2からの排ガスには、高濃度の窒素ガスが含まれる。ボイラ用給水の脱酸素処理のための機構、給水を蒸気化するための機構は、上記した第1〜第3の形態のボイラ装置の場合とほぼ同じである。
【0044】
すなわち、適宜の給水源からのボイラ用給水は、一旦貯水タンク22に貯留され、必要時に、前記した窒素置換式脱酸素処理装置20に送られる。窒素置換式脱酸素処理装置20には、酸化塔2からの排ガス管路8に設けた分岐管路23およびブロア24を介して、酸化塔2からの高濃度の窒素ガスを含む排ガスの一部が送り込まれ、バブリング作用を受けて給水中に含まれる溶存酸素が除去される。脱酸素処理を受けた給水は、給水管路14を通り、酸化塔2内に配置された受熱管路12に入水部13から流入し、受熱管路12を通過する過程で加熱されて蒸気化する。生成された蒸気は管路15を通って図示しない蒸気消費側へ送られる。
【0045】
なお、図4に示す例では、窒素置換式脱酸素処理装置20内で給水中の溶存酸素を取り込んだ高濃度の窒素ガスを含む排ガスは、そのまま装置外に放出されるが、還元塔3の下端部周囲に噴出させることで、酸化塔2に供給される空気と還元塔3に供給される都市ガスとの混合を防止するシールガスとして利用することもできる。
【符号の説明】
【0046】
A(A1〜A4)…ボイラ装置、
1…ケミカルループ式燃焼装置、
2…酸化塔、
3…還元塔、
4…第1の循環路、
5…第2の循環路、
6…空気流路、
7…サイクロン、
8…酸化塔からの排ガス管路、
9…還元塔からの排ガス管路、
10、11…ループシール、
12…受熱管路、
14…給水管路、
20…窒素置換式脱酸素装置、
22…貯水タンク、
23…酸化塔からの排ガス管路からの分岐管路、
25…還元塔からの排ガス管路に取り付けられた熱交換器、
26…酸化塔からの排ガス管路に取り付けられた熱交換器。
図1
図2
図3
図4
図5
図6