【実施例】
【0034】
以下、実施例を介して本発明をより詳細に説明しようとする。しかし、これら実施例は、本発明を例示的に説明するためのものであって、本発明の範囲がこれらの実施例に限定されるのではない。
【0035】
実施例1:N−アセチルグルコサミン−6−ホスフェートデアミナーゼ(glucosamine-6-phosphate deaminase)変異体の作成および染色体核酸置換組み換えベクターpDZ−nagAST作成
野生型コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum ATCC13102)のN−アセチルグルコサミン−6−ホスフェートの利用を防ぐために、N−アセチルグルコサミン−6−ホスフェートを基質として用いるN−アセチルグルコサミン−6−ホスフェートデアミナーゼをコードするnagA1(NCgl2556,配列番号1)の不活性化を行った。
不活性化の方法は、遺伝子除去および追加配列導入などの様々な方法があり得るが、本実施例ではnagA1遺伝子のORF(open reading frame)内に停止コドン(stop codon)を挿入して、遺伝子の翻訳(translation)を不能とさせた。
具体的に、コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum ATCC13102)の染色体遺伝子を分離し、これを鋳型として配列番号2と配列番号3のプライマーを用いてポリメラーゼ連鎖反応を介してN−アセチルグルコサミン−6−ホスフェートデアミナーゼをコードする遺伝子(nagA1:NCgl2556)を得た。
nagA1遺伝子を増幅するために使用されたプライマーなどの配列は、それぞれ次の通りである。
配列番号2(nagA1−5)
5’−GGAATTCATGGCAGAAGTGGTGCATTATCAAG−3’
配列番号3(nagA1−3)
5’−GCTCTAGAGATGATGTCCATGGTCGGACTCC−3’
得られたN−アセチルグルコサミン−6−ホスフェートデアミナーゼの野生型遺伝子を用いてORF内停止コドン(stop codon)が入ったN−アセチルグルコサミン−6−ホスフェートデアミナーゼ変異体を製造するために、さらにプライマー(配列番号4および5)を作成して、アミノ酸配列196番目のイソロイシンと197番目のアラニンとの間に停止コドン(stop codon)を挿入した。
具体的な方法としては、ポリメラーゼ連鎖反応で得られた野生型のnagA1を鋳型として配列番号2と4を用いたポリメラーゼ連鎖反応と、配列番号3と5を用いたポリメラーゼ連鎖反応とをそれぞれ行った。得られた2種の産物は、nagA1の一部分であって、元の大きさの半分程度の大きさである。この2種の産物を同時に鋳型として使用し、配列番号2と3を用いて再びポリメラーゼ連鎖反応を行った。この過程を介してN−アセチルグルコサミン−6−ホスフェートデアミナーゼが不活性化された変異体をコードする遺伝子などを得た。前記の不活性化されたnagA1遺伝子断片を、制限酵素EcoRI(New England Biolabs,Beverly,MA)とXbaI(New England Biolabs,Beverly,MA)を用いて、大韓民国公開特許第2008−0025355号などに開示された公知の分子生物学的技術により染色体核酸置換用ベクターpDZに導入して、pDZ−nagA1STベクターを作成した(
図2)。
配列番号4(nagA1ST−5)
5’−GTGCCCGAAGGAAGCTTAAATGATGTGGTGCGC−3’
配列番号5(nagA1ST−3)
5’−GCGCACCACATCATTTAAGCTTCCTTCGGGCAC−3’
【0036】
実施例2:コリネバクテリウム・グルタミクムCJNAGKOの作成
作成されたpDZ−nagA1STベクターで野生型コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum ATCC13102)菌株を形質転換するために、大韓民国公開特許第2008−0025355号に記述されたように、2次交差(crossover)過程を経て染色体上の遺伝子nagA1のORF内に停止コドン(stop codon)を挿入した。最終的に、アミノ酸配列196番目のイソロイシンと197番目のアラニンとの間に停止コドン(stop codon)が導入されたCJNAGKOを作成した。
【0037】
実施例3:グルコサミン−6−ホスフェートアセチルトランスフェラーゼ(glucosamine-6-phosphate acetyltransferase)の構成的発現ベクター作成
N−アセチルグルコサミンの生産のために、グルコサミン−6−ホスフェートを基質として使用してN−アセチルグルコサミン−6−ホスフェートを生成する酵素であるグルコサミン−6−ホスフェートアセチルトランスフェラーゼを発現するベクターを作成した。産業的な適用が容易になるようにするために、細胞の増殖時に酵素を構成的発現できるようにするプロモーター(constitutitive promoter)を用いて作成した。発現には、酵母の一種であるサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)の公知のグルコサミン−6−ホスフェートアセチルトランスフェラーゼ遺伝子、GNA1を使用した。
酵素の構成的発現のためには、コリネバクテリウム・グルタミクムで構成的発現プロモーターとして知られているEFTUプロモーター(Judith B. et al. Appl Environ Microbiol. 2005:8587-8596)を用いた。コリネバクテリウム・グルタミクムから分離した染色体を鋳型として用い、配列番号6と7をプライマーとして使用して、ポリメラーゼ連鎖反応を介してEFTUプロモーター(配列番号8)を得た。得られたEFTUプロモーター産物を、制限酵素NdeI(New England Biolabs,Beverly,MA)とHindIII(New England Biolabs,Beverly,MA)を用いて、公知の分子生物学的技術によりpECCG1117ベクター(Biotechnology letters vol 13,No.10,p.721-726(1991)または、大韓民国特許公告第92-7401号)に導入した。このように作成されたベクターをpECCG117−PEFTUと命名した。また、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)の染色体を分離し、これを鋳型として、配列番号9と10をプライマーとして使用してポリメラーゼ連鎖反応を介してGNA1(配列番号11)を得た。得られたGNA1は、Spe1(New England Biolabs,Beverly,MA)とXbaI(New England Biolabs,Beverly,MA)を用いてpECCG117−PEFTUベクターに導入し、pECCG117−PEFTU−GNA1ベクターを作成した(
図3)。
EFTUプロモーターおよびGNA1遺伝子を増幅するために使用されたプライマーなどの配列は、それぞれ次の通りである。
配列番号6(EFTU−5)
5’−GACTAGTATGTTCGGTTACGTCGGTGACCTTC−3’
配列番号7(EFTU−3)
5’−CCCAAGCTTCTATTTTCTAATTTGCATTTCCACGCCTGC−3’
配列番号9(GNA1−5)
5’−GGAATTCCATATGAGCTTACCCGATGGATTTTATATAAGG−3’
配列番号10(GNA1−3)
5’−GCTCTAGACTATTTTCTAATTTGCATTTCCACGCC−3’
【0038】
実施例4:グルコサミン−6−ホスフェートアセチルトランスフェラーゼ(glucosamine-6-phosphate acetyltransferase)の誘導発現ベクター作成
コリネバクテリウム・グルタミクムの誘導発現システムを作成して、実施例3のコリネバクテリウム・グルタミクムの構成的発現システムと比較を試みた。
具体的に、分離したサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)の染色体を鋳型とし、配列番号9と10をプライマーとして使用してポリメラーゼ連鎖反応を介してGNA1を得、PstI(New England Biolabs,Beverly,MA)とXbaI(New England Biolabs,Beverly,MA)を用いて、コリネバクテリウム・グルタミクムで誘導発現システムとして良く知られているpVWEx2ベクター(Appl. Microbiol. Biotechnol. 2007.76:545-552)に導入して、pVWEx2−GNA1ベクターを作成した(
図4)。前記誘導発現には、lacIq−Ptacプロモーターを用いた。使用されたプライマーなどの配列は、それぞれ次の通りである。
配列番号12(Vw2−GNA1−5)
5’−AACTGCAGATGAGCTTACCCGATGGATTTTATATAAGG−3’
配列番号13(Vw2−GNA1−3)
5’−GCTCTAGACTATTTTCTAATTTGCATTTCCACGCCTGC−3’
【0039】
実施例5:GNA1が導入されたコリネバクテリウム・グルタミクムCJNAGKOを用いたN−アセチルグルコサミンの生産
コリネバクテリウム・グルタミクムを用いてN−アセチルグルコサミンを生産するために、染色体内N−アセチルグルコサミン−6−ホスフェートデアミナーゼ(nagA1)ORFに停止コドン(stop codon)を有する変異体CJNAGKOに、グルコサミン−6−ホスフェートアセチルトランスフェラーゼ(GNA1)を導入した。すなわち、実施例3および4で作成されたp117−PEFTU−GNA1とpVWEx2−GNA1のそれぞれでCJNAGKOを形質転換し、N−アセチルグルコサミン−6−ホスフェートデアミナーゼ活性を有さず、グルコサミン−6−ホスフェートアセチルトランスフェラーゼ(GNA1)活性を有する菌株を作成した。作成されたこれら菌株のそれぞれをCJNAG1(KCCM10967P)、CJNAG2と命名した(表1)。
作成された菌株がN−アセチルグルコサミンを生産するか否かを試験するために、N−アセチルグルコサミン−6−ホスフェートデアミナーゼのみ不活性化された菌株(対照群2)と、グルコサミン−6−ホスフェートアセチルトランスフェラーゼのみ増幅された菌株(対照群3)をそれぞれ作成し、対照群として使用した。そして、野生型のコリネバクテリウム・グルタミクムも対照群(対照群1)として使用して、最終的にN−アセチルグルコサミンの生成を分析した(表1)。
使用された培地組成および培養方法は、以下の通りである。試験管にシード(seed)培地(500ml蒸溜水中トリプトン(trypton)5g、酵母エキス(yeast extract)2.5g、塩化ナトリウム(NaCl)5g、ブレーンハートインフュージョン(Brain heart infusion)18.5g、500ml蒸溜水中ソルビトール(sorbitol)91g、それぞれ高温高圧殺菌後に混ぜる)5mlを入れた後、試験菌株を接種し、30℃で12時間培養した。本培養培地(蒸溜水1Lあたり、別途殺菌したブドウ糖90g、硫酸アンモニウム((NH
4)
2SO
4)40g、大豆蛋白質(Soy Protein)2.5g、コーンスティープソリッド(Corn Steep Solids)5g、尿素3g、リン酸二水素カリウム(KH
2PO
4)1g、硫酸マグネシウム七水和物(MgSO
4・7H
2O)0.5g、ビオチン100μg、チアミン塩酸塩1000μg、カルシウム−パントテン酸2000μg、ニコチンアミド3000μg、別途殺菌した炭酸カルシウム(CaCO
3)30g)20mlを250mlの三角フラスコに分注した後、シード培養液200ulを接種して30℃で42時間発酵させた。特に、pVWEx2−GNA1で形質転換した菌株である‘対照群3’と‘CJNAG2’には、細胞の吸光度(optical density:OD)が600nmで1.0となった時に、IPTGを100uM加えた。それぞれの菌株について3個のフラスコによる試験(flask test)を行い、平均細胞濃度とN−アセチルグルコサミンを測定した。発酵の結果、構成的発現と誘導発現に関係なく約1.0g/L以上のN−アセチルグルコサミンが生産された(表1)。既存の大腸菌を用いたNAG生産の場合、増殖期と生産期の分離が可能な誘導発現システムだけが適用可能であったが、コリネバクテリウムの場合、構成的発現システムも使用可能であることが確認できた。
【0040】
【表1】
【0041】
前記の生産されたN−アセチルグルコサミンを、ノビコフなど(Novikov V.Y. et al. Russ. J. Appl. Chem. 1997:1467-1470)に記載された公知の酸処理方法による脱アセチル化によりグルコサミンを生産することができ、N−アセチルグルコサミンを生産すれば、グルコサミンも容易に追加生産することができる。
【0042】
本発明の様々な実施例が詳細に記述されているが、当業界で本実施例の変形および応用が可能であることは明白である。したがって、そのような変形および応用は、以下の請求項に記載された本発明の範囲内に属するものとして明確に理解されなければならない。
【0043】