【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、圧電体層と、当該圧電体層の間に介装された電極層との積層体を有する多層構造の圧電アクチュエータを提供する。圧電アクチュエータは少なくとも1つの外部電極を有しており、この外部電極は、溶射により形成された層を介し、積層体の外面に固定されている。
【0007】
積層体の全ての層は、一括して同時に焼成され、一体的な多層型アクチュエータを形成するのが好ましい。圧電体層には、例えばジルコン酸チタン酸鉛(PZT)といった圧電材料を含有する薄板が用いられる。電極層を形成するため、例えば銀・パラジウムペースト、或いは銅含有ペーストなどの金属ペーストを、スクリーン印刷によって上記薄板に塗布してもよい。その後、この薄板は、例えば縦方向軸線に沿って積層され、積層方向に加圧された状態で一括して同時に焼成される。このとき、圧電体層毎に電極層を設ける必要はなく、例えば2つの電極層の間に数層の圧電体層が設けられるようにしてもよい。
【0008】
隣り合う2つの電極層に電圧が印加されると、圧電体層が分極し、その分極方向に沿って伸長する。電極層の電気的接続を行うため、各電極層は外部電極に接続されている。例えば、2つの外部電極が積層体の2つの外面に取り付けられる。各電極層は、積層方向において交互となるように外部電極の一方または他方まで延設されて電気的に接続されると共に、反対側の外部電極からは離間するようになっている。このようにして、同じ極性の電極層を共通の外部電極により電気的に接続することができる。
【0009】
信頼性の高い電気的接続を行うため、外部電極を積層体の外面に確実に固定する必要がある。外部電極は、溶射によって形成された接合層を介して積層体に固定される。
【0010】
このような固定方法には、外部電極を積層体に固定する際に、積層体が悪影響を受けるような温度まで圧電セラミックが加熱されないという利点がある。積層体の外面には、局部的に高い温度(例えば、100℃〜200℃)が生じる可能性があるものの、このような温度上昇は積層体全体に影響を及ぼすものではなく、且つ短時間でしか発生しない。また、溶射によって形成される接合層は、外部電極及び積層体に密着すると共に、厚みを薄く形成されるのが好ましい。これにより、省スペースでの圧電アクチュエータの電気的接続が可能となる。
【0011】
接合層は、外部電極及び積層体のそれぞれに対して少なくとも部分的に付着し、これにより外部電極が積層体に固定される。接合層は、
積層体から離間する方向に向く面である外部電極の上面
の全域に付着している。また、接合層は、積層体の
外面に対して少なくとも部分的に付着するのが好ましい。
【0012】
この場合、外部電極が積層体に設けられたときに、外部から直接的に接触可能な外部電極の面が、外部電極の上面となる。このような面には、積層体の外面と平行であって外部から良好に視認可能な部分が含まれる。但し、この「上面」には、外部から直接的に接触可能であるが、積層体の外面に対して傾斜しているために外部からはよく見えないような外部電極の部分も含まれる。例えば、これらの部分は、外部電極の外周部分または外部電極に形成された孔の部分である。例えば、接合層は、外部電極の上面を覆っている。
【0013】
同様に、接合層は、積層体の外面のうち、外部電極が取り付けられたときに外部から直接的に接触可能な部分、即ち外部電極によって隠れていない領域に少なくとも部分的に付着しているのが好ましい。例えば、このような領域は、積層体の外面のうち、外部電極の周囲に位置する部分、或いは外部電極に形成された空隙を介して外部から見える部分である。
【0014】
外部から直接的に接触することのできない積層体と外部電極との間の領域には、接合層が入り込まないのが好ましい。これは、例えば積層体の外面のうち、外部電極が覆っていて外部から見えなくなっている領域に関するものである。このような領域では、外部電極が積層体に対してしっかりとは固定されていない。このことには、積層体の外面に発生したクラックを外部電極が跨ぐことが可能となって、外部電極にまでクラックが続いて入り込まずに済むという利点がある。但し、外部電極は積層体の外面の少なくとも一部に直接的に接して延設されており、積層体の外面と電気的に接続されている。この場合、電極層は外部電極を直接介して電気的接続を行うことが可能である。従って、低導電性または非導電性の接合層を用いる場合でも、電極層の電気的接続が可能である。
【0015】
接合層と直に機械的に結合している外部電極及び積層体のそれぞれの領域は、使用する溶射方法によって概ね定まる。この方法では、最初の工程として、圧電体層と、当該圧電体層の間に介装された電極層とからなる積層体を準備し、この積層体の外面に外部電極を置く。次に、こうして形成された部材に対して材料を溶射する。このとき、外部電極及び積層体は、外部から溶射されてくる溶射粒子と直接的に接することが可能な部分領域のみが、接合層で覆われるようにするのが好ましい。
【0016】
一態様として、電極層との電気的接続を行う接続層が、積層体の外面に設けられる。外部電極は、この接続層に固定される。外部電極は、少なくとも一部が接続層に対して直に設けられているのが好ましい。
【0017】
例えば接続層は、積層体が焼成される際に同時に焼成されるベース金属膜である。例えば、銀・パラジウムペーストまたは銅含有ペーストといった、電極層と同様の材料を接続層に用いてもよい。この場合、接続層は、積層体の外面のうち、いわゆる不活性領域の部分に固定されており、この不活性領域において、積層方向で1つおきとなるように電極層が積層体の外面まで延設されて接続層と電気的に接続される。例えば、積層体において対向する2つの外面の不活性領域の部分に、それぞれ接続層が配設される。
【0018】
接合層は導電性を有するのが好ましい。これには、外部電極だけではなく、接合層をも介して電極層の電気的接続が可能となるという利点がある。従って、接合層が外部電極と積層体との間の領域に広がり、接続層または電極層と電気的に接続された状態になると、電極層の電気的接続も確実なものとなる。また、電極層への電圧印加も、接合層に固着した更なる接合材を用いて行うことが可能となる。例えば、このような目的のため、ワイヤ状のリード線を接合層にハンダ付けしてもよい。
【0019】
例えば、接合層は金属を含有していてもよい。
この金属には、ベース金属膜及び金属製の外部電極に良好に接合されると共に、信頼性の高い電気的接続が得られるような材料を選択するのが好ましい。例えば、接合層は、ベース金属膜または外部電極と同じ材料を含有する。接合層の金属は、例えば、銅、銀、アルミニウム、及び錫からなる群から選択される。
【0020】
一態様において、外部電極は孔を有した金網体からなる。
例えば金網体は、鋼製金網、銅製金網、或いは鉄・ニッケル合金製金網からなる。金網体を形成する線材は、銅で被覆していてもよく、このようにすることで外部電極へのハンダ付けをより良好に行うことが可能となる。このため、例えば、電圧印加のための外部電極への電気的接続がハンダ付けによって特に良好に行われることになる。
【0021】
金網体も多層構造とすることが可能である。この場合、外部電極が完全に断裂してしまう可能性を低減することが可能となり、電気的接続の信頼性が特に高まる。
【0022】
別の態様として、外部電極は孔を有した金属板で形成される。
例えば、この金属板は、鋼、銅、または鉄・ニッケル合金を含有する。孔は、パンチ加工によって金属板に形成するようにしてもよい。
【0023】
孔を有したこのような形式の外部電極は、特に良好に積層体に固定可能である。溶射の際には、外方から外部電極の上面と積層体とに接合層が溶射される。このとき、外部電極及び積層体のできるだけ多くの領域に接合層が同時に付着するようにすれば、外部電極は特に高い信頼性をもって積層体に固定される。接合層が積層体に付着する部位の可能な限り多くは、接合層が外部電極に付着する部位に近接しているのが好ましい。
【0024】
孔は、できるだけ多くの位置で外部電極が積層体に結合されるように、外部電極において均一に分布しているのが好ましい。
【0025】
孔は接合層によって満たされているのが好ましい。
【0026】
例えば、積層体の外面は、孔の部分が接合層によって覆われている。この場合、接合層は、孔を完全には満たしていなくてもよい。孔は、部分的に接合層で塞がれていれば十分である。
【0027】
更に、本発明は、圧電アクチュエータにおける外部電極を固定する方法を提供する。この方法では、最初の工程として、圧電体層と、当該圧電体層の間に介装された電極層とからなる積層体を準備する。次に、この積層体の外面に外部電極を置く。その後、
積層体から離間する方向に向く面である外部電極の上面
の全域と、積層体の外面の一部
とに対し、
溶射により材料を付着させる。このとき、材料は溶射されることにより粒子状になるのが好ましい。
【0028】
圧電体層と、当該圧電体層の間に介装された電極層との積層体は、外部電極が積層体の外面に設けられる前に焼成されるのが好ましい。例えば、焼成の際には、外部電極が設けられる積層体の外面に、接続層が同時に組み込まれる。
【0029】
上記の材料は、外部電極が積層体にしっかりと結合するように溶射される。溶射された材料は接合層を形成し、外部電極の外面の少なくとも一部、及び積層体の外面の少なくとも一部に付着する。
【0030】
溶射には、例えばフレーム溶射法、プラズマ溶射法、冷ガス溶射法、アーク溶射法からなる群から選択した方法を用いる。
これらの方法を用いる場合、材料は粒子状になり外部電極及び積層体の表面に向けて加速され駆動される。これら部材の表面に対し、溶射された粒子状の材料が衝突すると、材料の粒子が変形し、表面に付着したままとなる。これらの方法は、特に温度及び材料粒子の速度が異なっている。
【0031】
例えば、フレーム溶射法の場合、材料は加熱によって溶融した状態または溶融を開始した状態とされ、粒子状にされて部材の表面に向け駆動される。冷ガス溶射法の場合にはパウダー状の材料が用いられ、わずかに加熱されただけで、被覆しようとする部材の表面に向けて高速で材料が駆動される。この材料が部材の表面に衝突すると、生成された摩擦熱によって粒子が互いに接着すると共に部材の表面に接着する。溶射法は、積層体を加熱する必要がなく、或いは溶射の際にわずかに加熱するだけでよいことから、積層体に対して熱的な悪影響が生じない、或いは僅かな熱的影響しか生じない点で利点がある。
【0032】
溶射の際の積層体の温度は、接合層を形成する材料の融点より低いのが好ましい。
例えば、積層体の温度は200℃未満とする。
【0033】
溶射の際、積層体の外面は、短い時間の間、局部的に高温となる場合がある。但し、このような温度は、積層体の全体或いは積層体の外面全体に関わるものではない。