【実施例】
【0042】
以下の実施例において報告されているように、幾つかは本発明によるものであり、他は純粋に比較用である種々の試験片を、本発明の実施により得られる技術的な効果及び利点を特徴付けるために準備した。
【0043】
全ての実施例では、下述されている同じ実験手順に従った(下記の表1及び2の星印によりに示されているものを除く):
【0044】
a)SiOCプライマー層を備えるガラス基材の調製:
まず、シリコンオキシカーバイド(SiOC)プライマー層を、基準SGG Planilux(登録商標)の名称でSaint−Gobain Glass France社から販売されている厚さが4mmのガラス基材に、熱CVDにより成膜した。
【0045】
SiH
4、エチレン、及びCO
2の混合物を窒素キャリアガスで希釈した形態の前駆物質であって、容積%でそれぞれ以下の割合:0.41/2.74/6.85/90.1の前駆物質を使用し、事前に約600℃の温度に加熱されていたガラスの上方で横方向に設置されたノズルを用いて、CVDにより、シリコンオキシカーバイドを第1の一連の試験片上に成膜した。
【0046】
得られたSiOC層は、約60nmの厚さを有しており、中実半球形状のバンプ形状を含む構造を有していることを、SEM分析により明らかした。これら突起は、最大高さが約40nmであり、表面密度が1μm
2当たり180個であった。このSiOC層のAFM(原子間力顕微鏡法)により特徴付けられたRMS粗度は、約9nmだった。
【0047】
SiO
2下地層を、同じCVD技術によるか、国際公開第2005/084943号パンフレットの実施例2−IVに記述されている実験手順によるマグネトロン成膜技術によるか、又はそうでなければ欧州特許第799 873号B1明細書の教示によるゾルゲル成膜法によるいずれかの方法で、第2の一連の試験片上に成膜した。
【0048】
次いで、ステップa)の後で得られた下地層の幾つかを、PECVD反応器中、室温、真空下で種々のプラズマにより活性化した(下記の表1を参照)。
【0049】
b)プラズマ活性化:
次いで、シリコンオキシカーバイド層(第1の一連の試験片)又はシリカ層(第2の一連の試験片)を備えた、ステップa)で調製された基材の幾つかを、種々のプラズマにより活性化した。
【0050】
そのために、プライマー層を備える基材を、低圧PECVD(プラズマ強化化学蒸着)反応器のチャンバーに配置した。活性化ガスを導入する前に、まず、少なくとも5mPa(5.10
-5mbar)の残余真空をチャンバー中に作り出した。シリコンオキシカーバイド又はシリカの表面処理に使用されるガス又はガス混合を、反応器中の総圧力が9.99〜26.66Pa(75〜200mTorr)に設定されるまで、20sccm〜200sccmの間で変動する流速でチャンバーに導入した。
【0051】
平衡状態で、導入されたガスのプラズマを、室温で1〜5分間の範囲の時間、200Wの平均高周波(13.56MHz)出力を用いてガス拡散器にバイアスをかけることにより電気的に点火した。
【0052】
c)フルオロシランの適用:
次いで、ステップb)の後(又はステップaの後で活性化せずに)、パーフルオロデシルトリエトキシシラン溶液を、プライマーでコーティングした基材上に、布で基材をワイプすることにより成膜した。この実施例では、種々の層を、物質又はその前駆物質が、それで浸漬した布により成膜されるこの周知の技術により成膜した。しかしながら、無論、当分野においてこの目的のために公知である任意の他の技術により、特に層の厚さのより良好な制御を可能にする噴霧により、スピンコーティングにより、ディップコーティングにより、又はさらにフローコーティングによって成膜を実施しても、それは本発明の範囲外ではない。
【0053】
より正確には、以下の様式で(パーセントは重量による)、それらを適用する2時間前に生成された組成物を、試験片に塗布した:90%の2−プロパノール及び10%の0.3N HClの水中混合物を得た。前述の2つの成分に対して2%の割合の、式C
8F
17(CH
2)
2Si(OEt)
3(式中、E=エチルである)を有する化合物を添加した。室温で15分間静置した後、過剰なフルオロシランをイソプロパノールで洗浄することにより除去した。得られた層の厚さは、約4nmだった。
【0054】
生成された実施例は全て、生成された実施例の各々に特有の種々の実験条件と共に、下記表1に示されている:
【0055】
【表1】
【0056】
表1に記述されている試験片E2、E3、及びE4は本発明によるものだった。SiOC下地層の粗度をAFM分析することにより、プライマー層表面の形態構造が、N
2/H
2O、N
2、又はO
2プラズマを使用した活性化処理により影響を受けず、測定された残存RMS粗度は、3つの試験片全てで約9nmであったことが示された。試験片El及びE5〜E10は比較のために示されている:
・試験片El上に成膜されたプライマー層は、プラズマ活性化しなかった;
・試験片E5上に成膜されたプライマー層は、国際公開第2005/084943号パンフレットの教示によるフッ素含有プラズマにより活性化した;
・試験片E6〜E10は、本発明によるものではなく、現行のシリカに基づくプライマー層を得るための従来構成を例示する。
【0057】
上述のように調製した試験片を、以下の基準により評価した:
1)初期水接触角の測定。これはグラフト基材の疎水性に関する基準指標を提供する;
2)耐摩耗性。これは、グラフト疎水性コーティングを、以下の2つの異なる試験により磨耗した後、試験片の水の残存接触角を測定することにより得た:
a)Opel(登録商標)摩擦試験。これは、試験片に対してH1硬度のフェルトディスクを用い、1.5cm
2の測定面積に0.4kg/cm
2の負荷をかけて、50サイクル/分の移動速度、6rpmの回転速度で実施した。試験片は、接触角が15000サイクル後で依然として80°より大きい場合、この試験において良好であるとみなされる;
b)Toyota(登録商標)摩擦試験。これは、Daiei Kagaku Seiki社により製造されたデバイスを使用して、TSR7503G規格に従って実施し、4cm
2の測定面積に0.3kg/cm
2負荷をかけ、40サイクル/分の移動速度で実施した。試験片は、接触角が9000サイクル後で依然として80°より大きい場合、この試験において良好であるとみなされる;
3)UV−A放射耐性、これは、UV放射を放射するキセノンランプで、試験片を連続的に照射する試験で測定し、ランプの照度は、300nm〜400nmで積分すると、60W/m
2である。試験片は、接触角が2000時間の曝露後で依然として80°より大きい場合、この試験において良好であるとみなされる;
【0058】
試験片El〜E10により調製された試験片について得られた結果は、表2に示されている。
【0059】
【表2】
【0060】
表2に示されているデータを比較することにより、本発明によるN
2+H
2O、N
2、又はO
2プラズマにより活性化されたSiOCプライマー下地層の存在は、従来技術の最も良好なプライマーで得られたものによる初期耐雨性特性と実質的に同等の特性を有する処理表面をもたらすことが示される。
【0061】
本発明による疎水性基材のUV耐性特性は、現行の規格に沿ったものである。
【0062】
表2に収集されているデータを比較することにより、本発明による試験片E2〜E4の耐性特性が、今までにまだ決して観察されたことのない耐摩耗性を示すことも示される。従って、試験片E2〜E4について得られた結果は、Opel(商標登録)試験の場合でも又はToyota(商標登録)試験の場合でも、全ての比較例の結果より著しく良好である。
【0063】
追加ステップの目的は、本発明による疎水性コーティングを備える基材の加水分解耐性特性を測定することだった。
【0064】
本発明による疎水性基材の加水分解耐性特性は、当分野において、NF ISO9227規格に記述されているNSF(中性塩水噴霧)試験と呼ばれることが多い、塩耐食性試験により従来通りに測定した。この試験は、35℃の温度で、塩水(pH7の50g/l NaCl溶液)の微細な液滴を、測定する試験片上に噴霧することにある。試験片は、垂直に対して20°傾けられている。自動車のサイドウインドウへの応用に関して現在課されている最も厳格な規格は、300時間の試験後に70°より大きな水接触角を要求している。
【0065】
本発明による疎水性コーティングを備える試験片E3(N
2プラズマ活性化)は、NSF試験により測定したところ、所望の用途において完全に良好である塩耐食性を示す。824時間のNSF試験後に測定した接触角は、依然として94°であった。同じことは、実施例E4に当てはまる。
【0066】
そのシリコンオキシカーバイド下地層が、今回はN
2及びH
2Oガスの混合物のプラズマにより活性化された、本発明による疎水性コーティングを備える試験片E2は、NSF試験により測定したところ、特に高い塩耐食性を示す。従って、824時間のNSF試験後に測定した接触角は、100°より更に大きく、これは非常に優秀である。
【0067】
また、得られたコーティングの特性を、SiOC下地層のRMS粗度により評価した。
【0068】
特に、シリコンオキシカーバイドSiOCをガラス基材上にCVD蒸着している間、種々の前駆物質、SiH
4、エチレン、CO
2、及び窒素キャリアガスの初期混合物における容量パーセントを、以下の割合で変化させた:混合物における容積%で、0.1〜1%SiH
4;0.5〜4.0%エチレン;2〜30%CO
2;70〜95%N
2。
【0069】
様々なSiOC層をこのようにして基材上に生成し、これらは、0.4nm〜15.8nmの間で変化するRMS粗度を有していた。その後、このようにして得られた層は全て、上記のステップb)に記述されている条件下で、特に3%の水を有するN
2及びH
2Oガス混合物を含むプラズマにより、試験片E2を得るために使用したのと同じ手順を使用して活性化した。その後、フルオロシランを、ステップc)に記述されている手順に従って、種々の基材に適用した。
【0070】
このようにして得られた疎水性基材の耐摩耗性を、Opel試験(15000サイクル)により測定した。結果は、下記の表3に示されている:
【0071】
【表3】
【0072】
表3に収集されているデータを比較することにより、そのRMS粗度が本発明の目的において低すぎる試験片E11及びE12の耐摩耗性特性は、不十分であることが理解できる。そのRMS粗度が6〜15nmである試験片E2及びE13〜E15は、より良好な耐摩耗性特性を示す。
【0073】
上記の例は、以下の特徴を選択することによって、疎水性基材の耐摩耗性特性の非常に著しい向上を、本発明により得ることができることを示す:
・下地層(SiOC)の性質、
・その粗度、
・活性化プラズマ処理の前記下地層への適用、及び
・前記プラズマ処理の性質。