(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記基材表面平坦化工程後に、平坦化剤よりなる層を有する平坦化層上に、微細パターン形成用層を有する層を設け、その上に更に微細パターン形成用のレジスト層を設ける工程と、
前記レジスト層に対して微細パターンを描画して現像する描画工程と、
前記描画工程後、微細パターン形成用層をエッチングして微細パターンを形成する工程と、
を有することを特徴とする請求項7又は8に記載のインプリント用モールドの製造方法。
【背景技術】
【0002】
従来、機械加工の分野や電子回路の分野では、ミクロンオーダーの加工がなされているが、従来はその加工の制御等の際に可視光を用いるのが一般的であった。しかし可視光では、ミクロンオーダーの制御しかできないという限界があった。
【0003】
これに対し、ステッパと呼ばれる装置において、紫外線レーザーや極紫外線光源可視光より短い波長の光や電子線を用いることにより、ミクロンオーダーから数10nmのナノオーダーの加工が可能になった。
【0004】
その一方で、ミクロンオーダーの加工ですら、パターンを形成するのに相当の時間を要する。そのため、ナノオーダーの微細加工ではさらに要する時間が増加する。しかも、紫外線レーザーや極紫外線光源を用いる場合、装置も大掛かりになり、コストも増大する。また、電子線で露光・現像して微細加工を行う手法は逐次加工であり、作業効率が下がってしまう。
【0005】
他方、通常の微細なパターン転写として、通常光を用いてガラス板上に形成されたマスクパターンを露光により転写する手法、すなわちフォトリソグラフィー法が従来の手法として存在する。しかしながら、フォトリソグラフィーを用いても、光の解像度に依存することになり、ナノオーダーの微細パターンを形成する際には限界がある。
【0006】
この問題に対し、近年、微細パターンが形成されたモールドを用いて、被転写材に微細パターンを判子のように転写する方法であるナノインプリント技術に注目が集まっている。このナノインプリント技術により、数10nmレベルという微細構造を安価に再現性良くしかも大量に作製できる。
【0007】
なお、インプリント技術は大きく分けて2種類あり、熱インプリントと光インプリントとがある。熱インプリントは、微細パターンが形成されたモールドを被成形材料である熱可塑性樹脂に加熱しながら押し付け、その後で被成形材料を冷却・離型し、微細パターンを転写する方法である。また、光インプリントは、微細パターンが形成されたモールドを被成形材料である光硬化性樹脂に押し付けて紫外光を照射し、その後で被成形材料を離型し、微細パターンを転写する方法である。
【0008】
どちらのインプリント法を用いるにしても、より細かいパターンを、より大きな被成形材料上に転写することが必要となる。これを行うために用いられる方式としては、モールドと被成形材料とを一度にプレスする一括転写方式や、平板モールドを使用して上記のインプリント法を繰り返し行って最終的に大面積の基材に微細パターンを転写するステップ&リピート方式、ローラー方式などが挙げられる(例えば特許文献1および2参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
微細パターン転写のためには、元型となるインプリント用モールドに微細パターンが設けられている必要がある。この微細パターン形成には、青色レーザーや電子ビーム(EB)などによる微細パターン形成用層への直接描画や、レジストに対する微細パターンの描画・現像後に微細パターン形成用層へのエッチング処理を行う等の手段が用いられている。
【0011】
この微細パターンの描画を行う際には、通常、基材表面に焦点を合わせた後にレーザー照射を行う。ところが、基材表面に傷が存在する場合、すなわち基材表面の平坦度が低い場合、平坦でない基材表面に焦点を合わせることになる。その場合、微細パターンの描画を行う際に、微細パターンの形状再現性が低下するおそれがある。
【0012】
確かに、通常、描画装置にはオートフォーカス機能が搭載されており、ナノオーダーの傷ならばフォーカスエラーを起こしにくい。しかしながら、ミクロンオーダーの傷になると、オートフォーカス機能を用いたとしてもフォーカスエラーが生ずるおそれがある。このフォーカスエラーのせいで、描画装置に記憶された微細パターンをインプリント用モールド上に精度良く再現することができなくなるおそれがある。
【0013】
本発明の目的は、基材の表面粗さが軽減され、その結果、高いパターン精度の微細パターンを有するインプリント用モールドおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1の態様は、基材上に平坦化剤よりなる層を有する平坦化層が設けられ、前記平坦化層上には微細パターンを有する層が設けられたことを特徴とする。
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の発明において、前記基材はステンレス鋼よりなる円筒形基材であり、前記平坦化剤はポリシラザンであることを特徴とする。
本発明の第3の態様は、第1または第2の態様に記載の発明において、前記微細パターンを有する層は、微細パターン形成用層であり、前記微細パターン形成用層は酸化クロム層を含み、前記酸化クロム層の厚さは100nmより大きく、前記微細パターン形成用層全体の厚さは100nmより大きく1μm以下であることを特徴とする。
本発明の第4の態様は、第1または第2の態様に記載の発明において、前記微細パターンを有する層は、微細パターン形成用層であり、前記微細パターン形成用層は窒化クロム層を含み、前記窒化クロム層の厚さは20nm以上であり、前記微細パターン形成用層全体の厚さは20nm以上であり1μm以下であることを特徴とする。
本発明の第5の態様は、第1または第2の態様に記載の発明において、前記微細パターンを有する層は、微細パターン形成用層であり、前記微細パターン形成用層は酸化クロム層および窒化クロム層を含み、前記窒化クロム層の厚さは20nm以上であり、前記微細パターン形成用層全体の厚さは20nm以上であり1μm以下であることを特徴とする。
本発明の第6の態様は、第1または第2の態様に記載の発明において、 前記微細パターンを有する層は、微細パターン形成用層であり、前記微細パターン形成用層はアモルファスカーボン層を含み、前記アモルファスカーボン層の厚さは50nmより大きく、前記微細パターン形成用層の厚さは50nmより大きく1μm以下であることを特徴とする。
本発明の第7の態様は、基材上に平坦化剤を塗布する基材表面平坦化工程を有することを特徴とするインプリント用モールドの製造方法である。
本発明の第8の態様は、第7の態様に記載の発明において、前記基材はステンレス鋼よりなる円筒形基材であり、前記平坦化剤はポリシラザンであることを特徴とする。
本発明の第9の態様は、第7または第8の態様に記載の発明において、前記基材表面平坦化工程後に、平坦化剤よりなる層を有する平坦化層上に、微細パターン形成用層を有する層を設け、その上に更に微細パターン形成用のレジスト層を設ける工程と、前記レジスト層に対して微細パターンを描画して現像する描画工程と、前記描画工程後、微細パターン形成用層をエッチングして微細パターンを形成する工程と、を有することを特徴とする。
本発明の第10の態様は、第9の態様に記載の発明において、前記微細パターン形成用層は酸化クロム層を含み、前記酸化クロム層の厚さは100nmより大きく、前記微細パターン形成用層全体の厚さは100nmより大きく1μm以下であることを特徴とする。
本発明の第11の態様は、第9の態様に記載の発明において、前記微細パターン形成用層は窒化クロム層を含み、前記窒化クロム層の厚さは20nm以上であり、前記微細パターン形成用層全体の厚さは20nm以上であり1μm以下であることを特徴とする。
本発明の第12の態様は、第9の態様に記載の発明において、前記微細パターン形成用層は酸化クロム層および窒化クロム層を含み、前記窒化クロム層の厚さは20nm以上であり、前記微細パターン形成用層全体の厚さは20nm以上であり1μm以下であることを特徴とする。
本発明の第13の態様は、第9の態様に記載の発明において、前記微細パターン形成用層はアモルファスカーボン層を含み、前記アモルファスカーボン層の厚さは50nmより大きく、前記微細パターン形成用層の厚さは50nmより大きく1μm以下であることを特徴とする。
本発明の第14の態様は、第9の態様に記載の発明において、前記描画工程においては、青色レーザー描画を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、基材の表面粗さが軽減され、その結果、高いパターン精度の微細パターンを有するインプリント用モールドおよびその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
先に述べたように、インプリントを行う際には、元型となるマスターモールドまたはサブマスターモールドに設けられた微細パターンが高いパターン精度を有しているか否かがポイントとなる。そして、この高いパターン精度は、基材の表面粗さ、すなわち基材の平坦度に起因するところが大きい。
【0018】
このような状況下において本発明者は、インプリントモールドの基礎部分となる基材上に平坦化剤を塗布した後、微細パターン形成用層を設けることを想到した。これにより、微細パターン描画の際に、平坦化剤からなる平坦な表面上にフォーカスを合わせることができることを見出した。そして、高い平坦度を有する表面上に微細パターンを有する微細パターン形成用層を形成することができ、その結果、高い精度で微細パターンを形成できることを見出した。
【0019】
それに加え、本発明者は、前記平坦化剤からなる層を有する平坦化層の上に、平坦化剤よりも不透明な層を微細パターン形成用層8の少なくとも一部としてあえて設けることを想到した。これにより、
図3(a)に示すように、微細パターン描画の際のフォーカスをこの不透明な層の上に確実に合わせることができることを見出した。具体的には、
図3(b)に示されるような事態を抑制、すなわち、平坦化層により折角基材を平坦化したにもかかわらず、微細パターン描画の際のフォーカスが、平坦化層を通り越して粗表面基材上に合わせられるのを抑制できることを見出した。
以下、本発明を実施するための形態を、
図1に基づき説明する。
【0020】
なお、本実施形態においては「平坦度(真円度または平面度)」は、モールド基材の表面粗さを示す指標であり、キズ等がないはずの部分の表面の幾何学的平面からのずれの大きさを示すものであり、JIS B 0182にて定義される指標である。
【0021】
<実施の形態1>
図1は、本実施形態におけるインプリント用モールド1(以降、単にモールド1ともいう)の製造工程を概略的に示す図である。
図1(a)はモールド基材2を示し、
図1(b)はモールド基材2に平坦化剤よりなる平坦化層6を設けた様子を示す。さらに、
図1(c)はその平坦化層6の上に、密着層7、微細パターン形成用層8、レジスト層9をこの順に積層した様子を示し、
図1(d)はこのレジスト層9に対して微細パターンを描画・現像した様子を示す。そして
図1(e)は微細パターン形成用層8に対してエッチングを行った様子を示し、
図1(f)はエッチング後に洗浄を行い、モールド1を完成させた様子を示す図である。
図1(f)に示すように、モールド基材2上に平坦化層6が設けられ、前記平坦化層6上に、密着層7、及び微細パターンが形成された微細パターン形成用層8が設けられたインプリント用モールドが得られる。
【0022】
このような工程を経て完成したインプリント用モールドの概観図を、
図2に示す。
図2は本実施形態におけるインプリント用モールドの概略図であり、(a)は斜視図、(b)は正面図、(c)は(b)のA−A’部分の断面図である。以下、
図1および
図2に基づいて、本実施形態に係るインプリント用モールドおよびその製造方法について詳述する。
【0023】
(基材の準備)
まず
図1(a)に示すような、インプリント用モールド1のためのモールド基材2を用意する。
このモールド基材2は、インプリント用モールド1として用いることができるのならばどのような組成のものでも良い。工業用としての耐久性を考慮すると、金属またはステンレス鋼のような合金製基材が挙げられる。この他にも、石英などのガラス、SiC、シリコンウエハ、さらにはシリコンウエハ上にSiO
2層を設けたもの、グラファイト、グラッシーカーボン、カーボンファイバー強化プラスチック(CFRP)のカーボン系材料等が挙げられる。
【0024】
また、モールド基材2の形状についてであるが、インプリント用モールドとして用いることができるのならば形状は制限されない。例えば、モールド基材2の形状として、円盤形状基材や、円筒形状基材などが挙げられる。円盤形状であれば、平坦化剤等を塗布する際、円盤モールド基材2を回転させながら平坦化剤等を均一に塗布することができる。また、円筒形状であれば、ローラー方式でのインプリントが可能となることから、大量生産に適している。
【0025】
なお、モールド基材2の形状は円盤形状以外であっても良く、矩形、多角形、半円形状であってもよい。また、円筒形状以外には、モールド基材2の形状として、円柱や三角柱や四角柱のような多角形形状が挙げられるが、円柱または円筒形の方が連続的かつ均一に被転写材に微細パターンを転写できるため、より好ましい。なお、本実施形態においては、モールド基材2がどのような形状であっても、インプリント用モールド製造の基礎として用いられるものを「基材」と言うこととする。
【0026】
本実施形態においては、中心部分が空洞である円筒形状のステンレス鋼からなるモールド基材2を用いて説明する。
図2に示すように、このモールド基材2は左右両側モールド端面、モールド外周面20、物質的には形成されていない回転軸3を有している。
【0027】
(平坦化剤の塗布)
上述の通り、インプリント用モールド1に用いられる基材においては、ミクロンオーダーの傷が微細パターンの再現性に大きな影響を与えるおそれがある。
そのため、本実施形態においては、従来のようにモールド基材2の表面に直接に微細パターンを有する層を形成するのではなく、平坦化剤により基材表面が平坦化された平坦化剤からなる層(以降、平坦化層6ともいう)をモールド基材2上に形成する。以下、この基材表面平坦化工程について詳述する。
【0028】
まず、平坦化剤の選定を行う。この平坦化剤としては、従来使用される液体状の平坦化膜化剤が挙げられるが、具体的にはポリシラザン、メチルシロキサン、金属アルコキシドなどが挙げられる。また、良好な平坦性を維持できるのならば、平坦化層6を構成する物質として上記の物質のみを用いてもよいし、上記に例示した物質を混合したものを用いても構わない。
【0029】
次に、回転軸3を水平にした状態でモールド基材2を保持し、モールド基材2下方に平坦化剤入り容器を用意する。その後、モールド基材2を下方に降ろし、前記モールド基材2の外周面の一部と平坦化剤とを接触させる。そして、モールド基材2の一部を平坦化剤に浸漬させる。
【0030】
ここでは、平坦化剤に対して、モールド基材2を回転軸方向に対して平行に接触させるのが好ましい。平行に接触させることにより、モールド基材2における浸漬部分において、左右両側モールド端面の間で塗布の程度に差異が生じることを防止することができる。その結果、平坦化剤の塗布にムラを生じさせないことになる。
【0031】
このように、平坦化剤とモールド基材2とを前記回転軸方向に対して平行に接触させた状態で、前記モールド基材2を複数のローラー107により回転させて、前記モールド外周面20に前記平坦化剤を塗布する(
図1(b))。なお、
図2(a)に示すように、モールド基材2をローラー107により回転させるための部分を、モールド基材2に別途設けてもよい。
このときの回転速度および回転数は、平坦化剤をモールド基材2に十分塗布することができるように設定する。
【0032】
(微細パターンの形成)
本実施形態においては、上述のように塗布された平坦化剤からなる平坦化層6の上に、密着層7、微細パターン形成用層8、レジスト層9をこの順に積層する(
図1(c))。その後、レジスト層9に対して電子ビーム露光を行い、エッチング処理を行う(
図1(d)(e))。これにより、モールド基材2上にある微細パターン形成用層8に対して微細パターンを形成する(
図1(f))。
【0033】
まず、平坦化層6の上に設けられる密着層7についてであるが、これは、微細パターン形成用層8と、平坦化層6ひいてはモールド基材2とを接着させるためのものである。密着層7として用いられるものならばどのような物質でもよいが、好ましくはアモルファスシリコン層である。なお、平坦化層6上に微細パターン形成用層8を形成する際に良好に接着することができるならば、密着層7を設けなくともよい。本実施形態においては、平坦化層6の上に密着層7を設けた場合について説明する。
【0034】
そして、密着層7の上に設けられる微細パターン形成用層8についてであるが、本実施形態においては、微細パターン形成用層8の少なくとも一部が不透明な層であることが好ましい。さらに、不透明な層を有する微細パターン形成用層8全体の波長405nmにおける透過率は適度な範囲内にあるのが好ましい。
図3(a)に示すように、微細パターン形成用層8が積層されたモールド基材2の上部からレーザー光109を照射する際、パターン描画の際のレーザー光109のフォーカスをこの不透明な層上に確実に合わせることができる。より詳しく言うと、
図3(b)に示すような事態を抑制、すなわち、平坦化層6により折角モールド基材2を平坦化したにもかかわらず、微細パターン描画の際のレーザー光109のフォーカスが、平坦化層6を通り越して粗表面基材上の傷108の部分に合わせられるのを抑制できる。なお、上記透過率の適度な範囲については、本発明者が鋭意研究中である。
【0035】
なお、本実施形態における「不透明な層」とは、微細パターン形成用層8が積層された基材上からパターン描画のフォーカス合わせを行ったときに、前記不透明な層上でフォーカス合わせが行われる程度に不透明である層のことをいう。微細パターン形成用層8の一部にこの不透明な層を形成する場合、この不透明な層の上にフォーカスを合わせることになるため、不透明な層は微細パターン形成用層8において主表面側(レーザー照射側でありレジスト層9に近接する部分)に配置されるのが好ましい。
【0036】
ここで挙げた不透明な層としては、酸化クロム層(CrOx)、窒化クロム層(CrNx)、アモルファスカーボン層などが具体的に挙げられる。これらの層は、微細パターン形成用層8そのものとして使用してもよい。
【0037】
ここで、微細パターン形成用層8が酸化クロム層を含む場合、酸化クロム層の厚さは100nmより大きくし、かつ、微細パターン形成用層8全体の厚さは100nmより大きく1μm以下であれば、なお好ましい。100nm以上ならば、酸化クロム層上にて十分フォーカスあわせを行うことができる。1μm以下ならば、パターン転写の際の実用に堪えることができる。
【0038】
また、微細パターン形成用層8が窒化クロム層を含む場合、窒化クロム層の厚さは20nm以上であり、かつ、微細パターン形成用層8全体の厚さは20nm以上であり1μm以下であるのが好ましい。なお、窒化クロム層の厚さは30nm以上であるのがより好ましい。
【0039】
さらに、微細パターン形成用層8が酸化クロム層および窒化クロム層からなる場合、窒化クロム層の厚さは20nm以上であり、微細パターン形成用層8全体の厚さは20nm以上であり1μm以下であるのが好ましい。なお、この場合、窒化クロム層の方が酸化クロム層よりも不透明であることから、窒化クロム層が主として不透明な層の役割を果たす。そのため、積層する順番としては、酸化クロム層の上に窒化クロム層を形成するのが好ましい。レーザー光109のフォーカスを確実に上層の窒化クロム層に合わせることができ、その後の酸化クロム層に対するエッチングにおいて精緻なパターンを形成することができる。つまり、微細パターン形成用層8において相対的に不透明な層を上層に配置するのが好ましい。
【0040】
なお、酸化クロム層および窒化クロム層以外にも、アモルファスカーボン層を用いてもよい。アモルファスカーボン層だと、酸化クロム層ほど高い透明性を有さないが故に、微細パターン描画の際に、モールド基材2に焦点が合ってしまうということを防止することができる。アモルファスカーボン層の場合、アモルファスカーボン層の厚さは50nmより大きくし、かつ、微細パターン形成用層8全体の厚さは50nmより大きく1μm以下であるのが好ましい。
【0041】
ここで挙げた各物質からなる層の厚さが上記範囲にあれば、平坦化層6表面に形成された微細パターン形成用層8に、確実にレーザー光109のフォーカスを合わせることができる。また、微細パターン形成用層8全体の厚さが上記範囲にあれば、微細パターン形成用層8に確実にフォーカスを合わせることができるとともに、適切なアスペクト比を有する微細パターンを形成することができる。
【0042】
その後、
図1(c)に示すように、微細パターン形成用層8に青色レーザー描画用のレジスト層9を成膜する。青色レーザー描画用のレジスト層9としては、熱変化によって状態変化する感熱材料であって、その後のエッチング工程に適するものであってもよい。また、感光材料であってもよい。このとき、組成傾斜させた酸化タングステン(WOx)からなる無機レジスト層であれば、解像度向上という点から尚好ましい。
【0043】
その後、描画済みのレジスト層9を有するモールド基材2に対して現像を行うことにより、
図1(d)に示すように、所望の微細パターン(すなわち最終的に得られる製品に形成された微細パターンに対して反転したパターン)を有するレジスト層9が得られる。
【0044】
上述のようにレジスト層9に微細パターンを施した後、このレジスト層9をエッチングマスクとして、微細パターン形成用層8に対してエッチング加工を行う。これにより、ステンレス鋼のモールド基材2に対して、微細パターンが形成された微細パターン形成用層8を形成することができる。このエッチング加工は従来の手法を用いればよい。たとえば、塩素ガスおよび酸素ガスによるドライエッチングが挙げられる。
このエッチング加工により、
図1(e)に示すように、所望の微細パターンを有するレジスト層9付きモールド基材2が得られる。
【0045】
このレジスト層9付きモールド基材2に対し、アルカリ洗浄、イソプロパノールによる蒸気乾燥を行ってレジスト層9を除去する。これにより、
図1(f)に示すように、モールド外周面20に所望の微細パターンが転写されたモールド1を作製することができる
【0046】
なお、このときの微細パターンとは、ナノオーダーからマイクロオーダーまでの範囲のパターンであってもよいが、数nm〜数100nmのナノオーダーの周期構造であれば、なおよい。具体的な例を挙げるとすれば、ライン・アンド・スペースのパターンや、複数の微細な凹凸からなっている微細突起構造である。その断面形状としては、1次元周期構造の場合、三角、台形、四角等が挙げられる。2次元周期構造の場合、微細突起の形状は、正確な円錐(母線が直線)や角錐(稜線が直線)のみならず、インプリント後の抜き取りを考慮して先細りとなっている限り、母線や稜線形状が曲線をなし、側面が外側に膨らんだ曲面であるものであってもよい。具体的な形状としては、釣り鐘、円錐、円錐台、円柱等が挙げられる。以降、この周期構造における周期をピッチともいい、微細突起頂点間の距離を示す。
さらには、成形性や耐破損性を考慮して、先端部を平坦にしたり、丸みをつけたりしてもよい。さらに、この微細突起は一方向に対して連続的な微細突起を作製してもよい。
【0047】
以上のように、本実施形態に係るインプリント用モールドが構成される。前記実施の形態によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、インプリントモールドの基礎部分となる基材上に平坦化剤を塗布して平坦化層を形成し、その上に微細パターン形成層を形成することにより、平坦な表面上に微細パターンを形成することができる。
その結果、微細パターン描画の際に、平坦化剤からなる平坦な表面上にフォーカスを合わせることができる。さらには、高い平坦度を有する表面上に、微細パターンが形成された微細パターン形成用層8を形成することができる。その結果、高い精度で微細パターンを形成できる。
それに加え、前記平坦化剤を含む平坦化層の上に不透明な微細パターン形成用層を設けることにより、微細パターン描画の際のフォーカスをこの不透明な層上に確実に合わせることができる。すなわち、平坦化層により折角基材を平坦化したにもかかわらず、微細パターン描画の際のフォーカスが、平坦化層を通り越して粗表面基材上に合わせられるのを抑制できる。その結果、さらに高い精度で微細パターン形成層を形成できる。
【0048】
<実施の形態2>
実施の形態1においては、平坦化剤として透明性の高い物質を用いた。しかし、本実施形態においては、平坦化剤として不透明性を有する物質を用いる。こうすることにより、微細パターン形成用層8にて不透明な層を用いなくとも、パターン描画のフォーカスが粗表面の基材上に合うことを抑制することができる。すなわち、平坦化剤そのものが不透明であることから、平坦化された平坦化層6の表面に、確実にパターン描画のフォーカスを合わせることができる。そのため、平坦化層6の上に、微細パターンを有するレジスト層9を直接形成することも可能となる。なお、シリコンウエハのように、モールド基材2の表面が元々ある程度の平坦性を有していれば、平坦化剤として透明性の高い物質を用いた場合であっても、平坦化層6の上に、微細パターンを有するレジスト層9を直接形成し、それをもってインプリント用モールドとすることも可能となる。
不透明性を有する平坦化剤としては、例えば色素添加剤を加えた平坦化剤が挙げられる。また、平坦化剤に透明性を有する物質を用いた場合であっても、たとえばポリシラザンからなる2つの層の間にクロム層を挟んだ形態を平坦化層6としてもよい。
【0049】
以上、本発明に係る実施の形態を挙げたが、上記の開示内容は、本発明の例示的な実施形態を示すものである。本発明の範囲は、上記の例示的な実施形態に限定されるものではない。本明細書中に明示的に記載されている又は示唆されているか否かに関わらず、当業者であれば、本明細書の開示内容に基づいて本発明の実施形態に種々の改変を加えて実施し得る。
【実施例】
【0050】
<実施例1>
次に実施例を示し、本発明について具体的に説明する。
ステンレス製の円筒形の中空モールド基材2(SUS304、直径100mmすなわち半径50mm、そのうち中空部分の直径84mm、モールド端面間距離300mm)を用意した。
【0051】
次に、平坦化剤を用意した。平坦化剤には、ジブチルエーテル中にポリシラザンを20%溶解した溶液を用いた。このポリシラザン溶液が入った平坦化剤容器をモールド基材2下方に配置した。
【0052】
その後、モールド基材2をポリシラザン溶液に接触させた。このとき、平坦化剤の液面から0.3mm以下の距離の深さで、モールド外周面20の一部を平坦化剤に浸漬させた。
【0053】
その状態で、別途設けられた回転軸3によりモールドを回転速度32回転/分で3回転させ、モールド外周面20全面にポリシラザン溶液を塗布した。この際、平坦化層6が1.5μmの厚さになるようにポリシラザン溶液を円筒形モールド基材2上に塗布した。
その後、円筒形モールド基材2と平坦化剤とを引き離し、モールド基材2を回転させながら乾燥させた。
【0054】
次に、塗布された平坦化層6の上に、密着層7、それ自身が不透明な微細パターン形成用層8、無機レジスト層9をこの順に積層した。
密着層7としてはアモルファスシリコン層を30nmの厚さで成膜した。微細パターン形成用層8としてはアモルファスカーボン層を200nmの厚さで成膜した。無機レジスト層9としては酸化タングステン(WOx)層をスパッタ法により、20nmの厚さで成膜した。なお、無機レジスト層9の深さ方向への組成変化については、中空モールド基材側x=0.95、レジスト最表面側x=1.60の傾斜組成とした。この無機レジスト層9の形成には、イオンビームスパッタ法を用いてAr:O
2の流量比を連続的に変化させて無機レジスト層9中の酸素濃度を傾斜させた。また、無機レジスト層9中の組成分析にはラザフォード後方散乱分光法(Rutherford Back Scattering Spectroscopy:RBS)を使用した。
【0055】
この無機レジスト層9に対し、青色レーザー描画装置(波長405nm)を用いてライン・アンド・スペースからなる微細パターンを描画した。描画後、エッチング処理・洗浄処理を行い、モールド1を作製した。
【0056】
<実施例2〜9>
実施例2〜9においては、表1に示すとおり、モールド基材2の種類、微細パターン形成用層8の種類及び厚さを各々変化させたこと以外は、実施例1と同様にモールド1を作製した。
なお、実施例3においては、微細パターン形成用層8を設けず、無機レジスト層9に微細パターンを描画して現像したものを完成モールドとした。また、実施例6においては、ライン・アンド・スペースではなくドットからなる微細パターンを描画した。
なお、微細パターン形成用層8の作製に当たり、酸化クロム層を形成する際にはAr:O
2=80:20(流量比)とし、その上に更に窒化クロム層を形成する際にはAr:N
2=30:70(流量比)とした。
【表1】
【0057】
<結果>
本実施例にて製造したモールドについて、走査型電子顕微鏡による観察を行った。その観察結果に基づき、フォーカス異常の有無について検討した。
【0058】
その結果、表1に示すように、実施例1〜9においてはフォーカス異常が発生していなかった。これらの実施例について観察した様子を示す写真であるが、実施例3のモールドについては走査型電子顕微鏡による写真を
図4に示す。また、実施例4のモールドについては
図5、実施例5のモールドについては
図6、実施例7のモールドについては
図7、実施例8のモールドについては
図8、実施例9のモールドについては
図9に示す。この写真からも明らかなように、精度の高い微細パターンが形成されたモールドを得ることができた。