(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5678033
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月25日
(54)【発明の名称】心房細動の検出及び処置のための装置及び方法
(51)【国際特許分類】
A61N 1/368 20060101AFI20150205BHJP
A61N 1/05 20060101ALI20150205BHJP
A61N 1/37 20060101ALI20150205BHJP
【FI】
A61N1/368
A61N1/05
A61N1/37
【請求項の数】15
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-507312(P2012-507312)
(86)(22)【出願日】2010年4月20日
(65)【公表番号】特表2012-524619(P2012-524619A)
(43)【公表日】2012年10月18日
(86)【国際出願番号】US2010031748
(87)【国際公開番号】WO2010123895
(87)【国際公開日】20101028
【審査請求日】2013年4月17日
(31)【優先権主張番号】12/757,865
(32)【優先日】2010年4月9日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】12/427,733
(32)【優先日】2009年4月21日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511025503
【氏名又は名称】インキューブ ラブス エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】INCUBE LABS, LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100090468
【弁理士】
【氏名又は名称】佐久間 剛
(72)【発明者】
【氏名】イムラン,ミール
【審査官】
宮崎 敏長
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第06023638(US,A)
【文献】
特開平07−000538(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0076517(US,A1)
【文献】
特表2007−500551(JP,A)
【文献】
特表2003−517327(JP,A)
【文献】
特表2002−534232(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/04 − A61N 1/05
A61N 1/36 − A61N 1/37
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
心臓内における心房性不整脈の検出及び処置のための装置において、前記装置が、
近位部分及び遠位部分を有する電気リードであって、前記遠位部分は前記心臓の心房に配置されるよう構成され、前記近位部分はペースメーカー装置に接続されるように構成された末端を有し、前記電気リードは複数本の導電ワイアを有し、前記電気リードは柔軟性を有し、かつ経皮導入部位から前記心臓の心房に進め得るように構成された電気リード、
前記電気リードに沿って分散配置された複数のパッチであって、該パッチのそれぞれは、前記心臓の心内膜壁に取り付けられるように構成され、前記心臓の運動を妨げることなく、前記心臓の運動に伴って曲がり、撓むように構成されたパッチ、
及び
複数の双極電極対であって、少なくとも1つの前記双極電極対は前記パッチのそれぞれに配置され、前記双極電極のそれぞれは、(i) 前記電気リードの前記導電ワイアに接続され、(ii)少なくとも前記心臓の前記心内膜壁からの電気信号を検知するように構成されるものである、複数の双極電極対、
を備え、
前記複数のパッチ及び前記複数の双極電極対が前記心内膜壁上にパターンをなして分散配置されるものであり、前記パターンが領域を、(i)前記領域内または前記領域に隣接する異常電気活動の巣の場所を検出する、及び(ii)前記巣によって引きおこされる心房細動の発生を予防するかまたは停止させるため、前記場所に歩調取り信号を送る、ために定める、
ことを特徴とする装置。
【請求項2】
前記複数の双極電極対が8個の双極電極対を含むことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記双極電極対の内の少なくとも1つが、医用撮像手法を用いて前記心臓における前記少なくとも1つの双極電極対の場所を目で確認できるようにするためのマーカーを有することを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記領域を脱分極して前記心臓の細動状態を正常洞調律に転換するための同時信号を、すべての前記複数の双極電極対から前記領域に送るように構成されることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記複数の双極電極対が、前記心内膜壁上に実質的に円形のパターンをなして分散配置されることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記心内膜壁上のパターンが、洞房(SA)結節を含む領域を定めることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記複数の双極電極対が、異常電気活動の前記巣の前記場所が前記洞房(SA)結節に対して決定され得るように前記SA結節から選択可能な距離に分散配置されることを特徴とする請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記複数の双極電極対が、異常電気活動の前記巣の前記場所が前記SA結節に対して決定され得るようにSA結節から実質的に等距離となるように、前記心内膜壁上に分散配置されることを特徴とする請求項6に記載の装置。
【請求項9】
前記パッチのそれぞれが前記心臓の前記心内膜壁に前記パッチを取り付けるための取付け素子を有することを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記パッチのそれぞれがトロンボゲン形成抑制被覆及び/または前記パッチの細胞付着を抑えるための溶出性薬物を含む被覆を有することを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項11】
前記心房が右心房であることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項12】
心臓内における心房性不整脈の検出及び処置のための装置において、前記装置が、
近位部分及び遠位部分を有する電気リードであって、前記遠位部分は心臓壁上に配置されるように構成され、前記近位部分はペースメーカー装置に接続されるように構成された末端を有し、前記電気リードはそれぞれが絶縁被覆された複数本の導電ワイアを有し、前記電気リードは柔軟性を有し、かつ経皮導入部位から前記心臓壁に進められて前記心臓壁上に配置されるように構成された電気リード、
前記電気リードに沿って分散配置された複数のパッチであって、該パッチのそれぞれは、前記心臓壁に取り付けられるように構成され、前記心臓の運動を妨げることなく、前記心臓の運動に伴って曲がり、撓むように構成されたパッチ、
及び
複数の双極電極対であって、少なくとも1つの前記双極電極対は前記パッチのそれぞれに配置され、前記双極電極のそれぞれは、(i)前記電気リードの前記導電ワイアに接続され、(ii)前記心臓壁の電気信号を検知するように構成され、(iii)前記心臓壁に歩調取り信号を送るように構成され、前記複数のパッチ及び前記複数の双極電極対が前記心臓壁上にパターンをなして分散配置され、前記パターンが領域を、(i)前記領域内または前記領域に隣接する異常電気活動の巣の場所を検出する、及び(ii)前記巣によって引きおこされる心房細動の発生を予防するかまたは停止させるため、前記場所に前記歩調取り信号を送るために、定めるものである複数の双極電極対、
を備えることを特徴とする装置。
【請求項13】
前記複数本の導電ワイアの内の少なくとも1本に接続された加速度計であって、前記心臓壁の運動を検知するように構成される加速度計、
をさらに備えることを特徴とする請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記加速度計が3つの軸において前記心臓壁の運動を検知するように構成されることを特徴とする請求項13に記載の装置。
【請求項15】
心臓内における心房性不整脈の検出及び処置のためのシステムにおいて、前記システムが、
埋込可能なペースメーカー、及び
請求項1または12に記載の装置、
を備え、
前記複数本の導電ワイアの内の少なくとも1本が前記埋込可能なペースメーカーに接続される、
ことを特徴とするシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0002】
本明細書に説明される実施形態は心房細動の検出及び処置のための装置及び方法に関する。さらに詳しくは、本明細書に説明される実施形態は、細動の最早期発生検出のために心臓の表面に配置された分散配置双極電極を用いる、心房細動の検出及び処置のための装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
心臓は、右心房と左心房及び右心室と左心室の、4つの房室を有する。心房は心室へのプライマーポンプとしてはたらき、続いて心室は、肺に(右心室)または大動脈及び身体の残りの領域に(左心室)、血液を送り出す。心臓は本質的に、一連の伝導経路を通ってタイミングがとられた態様で心房から心室に拡がる脱分極波によって収縮して血液を送り出す、電気機械的ポンプである。心律動異常は心臓を苦しめる症状であり、その特徴は心臓の1つないしさらに多くの房室におけるポンプ効率に影響を与え得る異常伝導パターンである。心律動異常は心房または心室で、あるいはいずれにおいても、おこり得る。特定のタイプの心房性不整脈は、心房のポンプ効率を極端に低下させる、心房細動(AF)として知られる症状を引きおこし得る。左心房または右心房は、協調態様で収縮する代わりに粗動し、ポンプ効率がほとんどまたは全くゼロに落ちる。
【0004】
AFのエピソード中、心臓の天然ペースメーカーである、洞房結節(SA結節)によって発生される正常な電気インパルスが、心房及び心室への不規則なインパルスの伝導をもたらす、心房または肺静脈に起源を発し得る異所性巣として知られる、秩序が崩壊した電気インパルスによって圧倒される。この結果、数分から数週間、あるいは数年間、続くエピソードにおいて起こり得る、不整脈として知られる、不規則心拍がおこり得る。AFは、放っておくと、慢性症状に進行することが多い。
【0005】
心房細動は無症候であり、直ちに生命が脅かされることはないが、心悸亢進、失神、胸痛(アンギナ)またはうっ血性心不全を生じさせ得る。AFをかかえる患者では、収縮が貧弱な心房内に血液が溜まり、血餅または血栓を形成する傾向により、発作及び肺動脈塞栓症のリスクがかなり高く、血餅または血栓は、右心房の場合、肺に送られて肺動脈塞栓症を生じさせ、あるいは脳に送られて発作を引きおこす。
【0006】
心房細動は、投薬、埋込心室除細動器または外科施術によって処置することができる。現在用いられている薬物は心拍を緩めるかまたは心律を正常に復帰させる。しかし、患者は生涯投薬を続けなければならず、多くの患者では投薬処置が成功しない。埋込心室除細動器は、同期電気除細動として知られる手法において、一連の高電圧電気ショックを送り出してAFを正常心律に転換させるために用いることができる。しかし、そのようなショックは極端な苦痛を与え、患者の限界をこえるか、または患者はショックによって文字通り地面に打ち倒され得る。外科的及びカテーテルベースの治療も、心房または肺静脈の、AFを生じさせる不整脈の発生の原因となる異所性巣またはその他の巣をもつ領域を切除または破壊するために用いることができる。しかし、これらには、開心術または心臓へのカテーテル挿入が、あるいはいずれもが必要であり、限られた成功例しか得られていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、心房細動の処置のための改善された方法及び装置が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態は心房細動及び同類の症状の検出及び処置のための、装置、システム及び方法を提供する。多くの実施形態は心房細動の早期検出及び処置のための、双極電極の分散パターンを有する心内膜リード及び/または心外膜リードに接続されたペースメーカーを備えるシステムを提供する。
【0009】
第1の態様において、本発明は、右心房における細動の早期検出及び処置のために、分散配置パターンをなして右心房の心内膜表面に取り付けられた複数の双極電極を有する、心内膜リードを提供する。電極は、心房細動の(早期発生を含む)発生を引きおこす異所性電気活動の巣の場所を検出するための領域を定めるために、右心房の心内膜表面上に円形またはその他のパターンで配置されることが好ましい。特定の実施形態において、巣は、AFのエピソード中に、最早期に活動(すなわち脱分極)する心内膜表面上の場所を(最も近い電極対により)識別する、ペースメーカーのアルゴリズムによって検出することができる。
【0010】
巣が検出されると、巣に最も近い電極は次いで、その部位の心臓細動発生を予防するためにその部位に歩調取り信号を送るために用いることができる。いくつかの実施形態において、その早期活動部位は中断せずに歩調をとらせることができる。リードは、心房細動の発生または心房細動の発生の前兆となる信号を決定するための解析のために、検知された信号をそれぞれの電極対からペースメーカエレクトロニクスに送り返すように、ペースメーカーに接続される。リードは、技術上既知の心臓カテーテル挿入法を用いる頸静脈からの導入及び前進によって、右心房に配置することができる。
【0011】
特定の実施形態において、電極はSA結節を囲む円形、長円形または同類のパターンで配置することができる。電極対は、ヘリカルスクリューまたは髭針のような機械的取付素子あるいは生体適合性接着剤のような別の取付け手段を用いて、心内膜表面に取り付けられる、円形または長円形のパッチ上に配置することができる。接着剤には、身体からの熱または電極対に送られる信号による抵抗加熱によって硬化させることができる、熱硬化性接着剤を含めることができる。パッチは、PTFE,ポリエステルまたは技術上既知のその他の生体適合性材料からなることができ、心臓壁の運動にともなって曲り、撓むように構成されることが望ましい。パッチは、血栓、血小板及びその他の細胞の付着を防止するために、タキソールのような、技術上既知の様々な溶出性薬物が含浸された被覆を含む、1つないしさらに多くのトロンボゲン形成抑制被覆を有することもできる。電極は、X線透視、超音波またはその他の医用造影手法の下で心臓内の電極の場所を目で確認できるようにするために、X線不透過性またはエコー源性の材料を含むことができる。パッチは、心臓内の電極の場所を目で確認できるようにするためのマーカとしてはたらくように、そのような材料でつくられた区画を有することもできる。
【0012】
関連態様において、本発明は、左心房における細動の早期検出及び処置のために、分散配置パターンで左心房の心外膜表面に取り付けられた複数の双極電極を有する心外膜リードを提供する。電極は、左心房の心房細動の早期発生を引きおこす異所性電気活動の巣の場所を検出するように心房を電気的にマッピングするため、左心房の心外膜表面上にパターンをなして配置されることが好ましい。パターンには、1つないしさらに多くの肺静脈に隣接する1つないしさらに多くの電極の配置が、そのような場所にある巣を検出するために、含まれる。さらに、左心房リード実施形態において、リードは、心房細動の前兆となる心房壁運動及び正常洞調律を検知するために心房の心外膜壁上に配置された、3軸加速度計に接続することもできる。加速度計からの信号は、AFの単独の兆候として用いることができ、または左心房上に配置された双極リードからの電気信号を補足してAFの検出のためにペースメーカーによって用いられる様々なアルゴリズムの予知能力を高めることができる。さらに、加速度計からの知覚入力は、AFの予防及び/または心臓の正常洞調律への復帰における心房歩調取り信号の有効性を評価するために用いることもできる。
【0013】
別の態様において、本発明は、心房を細動状態から正常洞調律に転換させるために分散型低電圧電気除細動を実施するための、装置、システム及び方法を提供する。上記実施形態及び関連実施形態において、ペースメーカーは、不整脈を排除するに十分に大きい心房の領域を刺激するために、(例えば特定の心房リードの)全ての電極対に(8〜10ボルトの範囲の)高電圧歩調取り信号を同時に送ることができる。内部または外部の電気除細動中に一般に用いられるような(内部除細動に対しては数100ボルトに、また外部除細動に対しては数1000ボルトになり得る)電圧より低い電圧を用いることで、患者が受ける苦痛が大きく軽減され得る。本手法の別の利点は、それぞれの部位において双極電極を用いることにより、心臓に送られる電気エネルギーを非常に狭い領域に収めることができ、よって(この場合は望ましくない効果である)心室を刺激するリスクが非常に小さいことである。
【0014】
本発明の上記及びその他の実施形態及び態様のさらなる詳細は、添付図面を参照して、以下でさらに十分に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、AF検出と歩調取り及び心室歩調取りのためのペースメーカー及び心房と心室に向かっている様々なリードを備える、心房細動の処置のためのシステムの一実施形態を示す側面図である。
【
図2】
図2は
図1の実施形態からの様々なリードの心臓における配置を示す心臓の断面図である。
【
図3】
図3はAFの検出及び処置のために右心房の心内膜表面上に配置された双極電極の分散配置パターンを有する心房リードの一実施形態を示す右心房の側面図である。
【
図4】
図4はAFの検出及び処置のために左心房の心外膜表面上に配置された双極電極の分散配置パターンに接続される平行心房リード構成の一実施形態を示す左心房の側面図である。
【
図5】
図5は検知及び歩調取りのための心房リードの一実施形態を示す断面図である。
【
図6a】
図6aはパッチまたはその他の支持層上に配置された一対の双極電極を含む双極電極アセンブリの一実施形態を示す上面図である。
【
図6b】
図6bは心内膜壁上の双極電極の一実施形態の配置を示す断面図である。
【
図7】
図7はペースメーカーまたはその他の埋込可能な歩調取り装置または刺激装置の代表的回路のいくつかを示すブロック図である。
【
図8】
図8aは正常洞調律に対するEKG(心電図)を示すグラフであり、
図8bは心房細動のエピソード中の心室のEKGを示すグラフであり、
図8cは心房細動のエピソード中の心房のEKGを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態は心房細動及び同類の症状の検出及び処置のための、装置、システム及び方法を提供する。多くの実施形態は心房細動の早期検出及び処置のための、双極電極の分散配置パターンを有する心内膜リードまたは心外膜リードに接続されたペースメーカーを備えるシステムを提供する。
【0017】
ここで
図1〜2を参照すれば、心房細動の検出及び処置のためのシステム5は、心臓ペースメーカーまたは同類の装置10及び心臓Hの心房A及び/または心室Vの中/上に配置可能な、1本ないしさらに多くのリード20を備える。リード20は多リードコネクタ12を用いてペースメーカー10に接続することができる。様々な実施形態において、リード20には、右心房RAの検知及び歩調取りのために右心房の心内膜壁ENW上に配置可能なリード21,左心房LAの検知及び歩調取りのために左心房の心外膜壁EPW上に配置可能なリード22,右心室RVの検知及び歩調取りのために右心室の心内膜壁上に配置可能なリード23及び左心室LVの検知及び歩調取りのために左心室の心外膜壁上に配置可能なリード24を含めることができる。
【0018】
図3〜6を次に参照すれば、様々な実施形態において、リード21及び/またはリード22は心房性不整脈の検出及び処置のための装置30を有することができる。装置30は、近位部分41及び遠位部分42を有し、リードに接続される複数の電極アセンブリ50を有する、リード40を備えることができる。以下で説明されるように、電極アセンブリ50は、心房細動を引きおこす異常筋電気活動の巣を検出してその場所をつきとめるための領域60を定めるように、リード40に沿うパターン62にしたがって分散配置される。リード40を備える装置30は心臓内の様々な場所に、例えば
図3の実施形態に示されるように右心房RAにまたは
図4の実施形態に示されるように左心房LAに、配置されるように構成することができる。
図4も、電極アセンブリ50及びペースメーカー10に並列に接続される複数本のリード40,40pを有する、装置30の一実施形態を示す。上記実施形態及び関連実施形態において、リード40は、コネクタ12と同じとすることができる、共通コネクタ14に接続することができる。
【0019】
リード40の近位部分はペースメーカー10または同類の装置に接続されるように構成された末端41eを有する。リードの遠位部分42は心臓Hの(右または左の)心房室ACに配置されるように構成される。リード40は、それぞれがそれぞれの長さの全てまたは一部を覆う絶縁被覆45を有する複数本の導電ワイア44を囲む、外装43を有する。導電ワイア44は銅または技術上既知のその他の導電金属を含むことができる。リード40は、首の頸静脈またはその他の同様な部位のような経皮導入部位から心臓の心房室内に進められるように、心臓カテーテル技術で知られているような十分な柔軟性及び押込容易性を有することも望ましい。
【0020】
多くの実施形態において、電極アセンブリ50は、心臓壁に取り付けることができるパッチ53あるいはその他の支持層または支持構造53内に配されるかそうでなければその上に置かれる双極電極52の対51を有する。電極アセンブリ50及び電極52は、異常電気活動の異所性またはその他の巣Fを検出し、巣Fを含む心筋組織MTの領域を脱分極するために心臓壁に歩調取り信号56を送るために、心房の心臓壁HW内の心筋組織MTの領域内の電気活動を検知するように構成される。電極52は一般に円形であって、1〜10mmの範囲の直径を有し、特定の実施形態において直径は2,5及び7mmであり、さらに大きな寸法も考えられる。電極52は、金、白金、銀、ステンレス鋼、及びこれらの合金を含む、技術上既知の様々な導電金属を含むことができる。電極52はアセンブリ50の組織接触面50上に配置されることが好ましいが、アセンブリの内部に入れておいて心臓壁に容量結合させることもできる。
【0021】
好ましい実施形態において、電極アセンブリ50の電極52は双極電極として構成される。そのような実施形態によって、歩調取り及び電気除細動の目的のために心筋組織に送られる電気エネルギーの深さの精密な制御が可能になる。しかし別の実施形態において、電極52は、電流がリード40の別の場所にまたは別のリード20に配置された戻り電極(図示せず)に流れる、単極電極として構成することができる。
【0022】
電極アセンブリ50はいくつかの異なる手段によって心臓壁HWに取り付けることができる。
図6bに示される一実施形態にしたがえば、パッチは、心臓壁HWに入り込んで固定する組織貫入/固定部分57aを有する、1つないしさらに多くのアタッチメント素子57を有することができる。適するアタッチメント素子57には、
図6bに示されるような様々なヘリカルコイルまたは髭針を含めることができる。パッチ53は技術上既知の生体適合性接着剤を用いて心臓壁に取り付けることもできる。特定の実施形態において、接着剤には、血流からの熱または電極52から送られる電気エネルギーによって硬化させることができる、熱硬化性接着剤を含めることができる。
【0023】
様々な実施形態において、リード40は、リード上に分散配置させることができる複数の電極対52/アセンブリ50を有することができる。特定の実施形態において、リード40は、2から10対の間、特定の実施形態においては3,4,5,6,7及び8対の、電極を有することができる。心房または心室の大きさ及び形状に依存して、さらに多いかまたは少ない電極対数を考えることもできる。電極対は相互に実質的に等距離とすることができ、別の間隔の配置を考えることもできる。例えば、その患者の心臓を前もって撮像することで決定することができる、特定の患者の心房の形状及び大きさを考慮して特定の間隔の配置を構成することができる。特定の実施形態において、電極対52間の間隔は約1cm〜約5cmの範囲とすることができ、さらに大きいかまたは小さい間隔も考えることができる。
【0024】
リード40またはその他のリード上の電極対52の間隔及び数は、心房または心室内の心筋組織MTの選択された領域60の電気活動(例えば脱分極の大きさ及び時間経過)の電極による検知を可能にするように構成される。これにより、続いて、組織領域60の伝導マップ61の生成が可能になる。伝導マップ61は領域60内の異常電気活動の1つないしさらに多くの異所性またはその他の巣Fの存在の検出に用いることができる。
【0025】
様々な実施形態において、電極対52は、
図3及び4の実施形態に示されるように、心房壁または心室壁の選択された領域60を囲む円形、長円形またはその他の分散配置パターン62をなして配置することができる。特定の実施形態において、電極対52/アセンブリ50は、
図3の実施形態に示されるようにSA結節を囲む円形、長円形またはその他の分散配置パターン62をなして配置される(電極対52はSA結節から実質的に等距離になるように配置されることが望ましい)。そのような実施形態により、領域60全体内の(または領域60に隣接する領域内の)最早期脱分極の、SA結節の脱分極との比較を可能にすることによって心房の過早脱分極を引きおこす特定の巣Fの検出が可能になる。本明細書に説明されるように、ペースメーカー10内に常駐するソフトウエアアルゴリズム130を、そのような巣Fの場所LFを検出し、次いでその巣の伝導を制御してAFの発生を予防するために、その場所に歩調取り信号を送るために用いることができる。
【0026】
リード40は、電極52に加えて、様々な電気的/機械的特性の検出のためのその他のセンサ70も有することができる。特定の実施形態において、センサ70には、
図4の実施形態に示されるような心房壁またはその他の心臓壁の運動の検出のための3軸加速度計のような、加速度計70を含めることができる。電極52と同様に、センサ70は心臓の心内膜表面上または心外膜表面上に、円形、長円形またはその他のパターンのような、選択可能な分散配置パターン62をなして配置することができる。
【0027】
パッチ53は、特に双極電極実施形態に対して、一般に長円形またはその他の同様な形状を有するであろうが、その他の形状も考えられる。パッチの全てまたは一部分は、PTFE、ポリウレタン、シリコーン及び技術上既知のその他の様々なエラストマーを含む、技術上既知の様々な生体適合性高分子材からなることができる。パッチ53は、心臓壁に取り付いたままであり、心臓壁の運動を妨げないように、心臓の形状に一致するに十分であり、また心臓の運動にともなって曲り、撓むにも十分な、柔軟性を有することが望ましい。パッチ53は、シリコーンまたはその他のエラストマーの被覆のような、1つないしさらに多くの生体適合性トロンボゲン形成抑制被覆58を有することもできる。被覆58は、数年間までの長期間にわたって溶出し得るように被覆内に埋め込まれた、1つないしさらに多くの薬物58dも有することができる。薬物58dには、パッチへの血小板及び細胞の付着を抑えるためのタキソールまたはステント技術で既知の化合物のような、様々な化合物を含めることができる。薬物58dには、パッチ53の細菌の付着、成長または感染の可能性を低めるための、バンコマイシン、セファマンドール、ゲンタマイシン及び銀化合物のような、様々な抗生物質及び抗菌薬も含めることができる。いくつかの実施形態においてパッチ53は多層構造を有することができ、そのような実施形態及び関連実施形態において、被覆58は、一般に組織接触層58であろうような、層58を有することができる。
【0028】
様々な実施形態において、パッチ53及び/または電極52の全てまたは一部分は、X線透視、超音波またはその他の医用撮像手法の下で心臓内のアセンブリ50及び/または電極52の場所を目で確認できるようにするために、X線不透過性またはエコー源性の材料を含むことができる。適するX線不透過性材料には白金及び二酸化チタンがある、特定の実施形態において、パッチ53は、電極対51の場所を目で確認できるようにするために、そのような材料でつくられたマーカー区画59を有することができる。マーカー59は、心臓壁上の所望の場所に電極を配置するための誘導子としての医師によるマーカーの使用を可能にするために、それぞれの電極52から等距離になるようにパッチの中央に配置されることが望ましい。あるいは、マーカー59は、
図6aに示されるように、パッチ53の縁に配置することができる。
【0029】
使用において、マーカー59によって、電気活動の測定のために心臓の選択可能な領域60を定めるための心房または心室の心内膜壁に沿う電極アセンブリ50の精確な配置が可能になる。例えば、特定の実施形態において、それぞれの電極アセンブリに対する所望の場所をマークする位置合せテンプレートの重畳画像とマーカーの位置を合わせることができる。マーカーにより、時間が経過しても電極アセンブリが心臓壁に取り付いたままであることを医師が様々な心臓血管撮像法を用いて判定することも可能になる。さらに、異常電気活動の異所性またはその他の巣Fが検出されると、それらの巣は、巣の原因となる組織の領域を切除するかまたはそうではなくともその周囲に伝導遮断域をつくるための、様々なRF切除処置を実施するための基準点として用いることができる。
【0030】
図7を次に参照すれば、ペースメーカー10は様々な回路及びその他のコンポーネントを備えることができる。パースメーカー10または同様の装置内の代表的な回路110及び電子デバイス120には、電力制御回路111,増幅/検知回路112,歩調取り回路113,遠隔測定回路114,マイクロコントローラ/マイクロプロセッサデバイス121及びメモリデバイス122を含めることができる。1つないしさらに多くのソフトウエアアルゴリズム130を、プロセッサ121による実施のために、メモリデバイス122及び/またはプロセッサ121に格納することができる。そのようなアルゴリズム130には、心臓マッピング/巣検出アルゴリズム、(心房及び心室の両者の)歩調取りアルゴリズム、心房細動検出アルゴリズム、(高電圧及び低電圧(例えば8〜10ボルト))電気除細動アルゴリズム及びこれらの組合せを含めることができる。
【0031】
装置30を身体に配置するための方法の実施形態において、医師は心内膜リードを頸動脈の経皮導入部位または同類の部位から進めることによって右心房に配置することができる。上述したように、配置中に心臓を撮像し、マーカー59の位置を確認することにより、心房内の電極アセンブリ50の所望の配置を達成することができる。心外膜リードは、内視鏡を用いるミニ開胸手術または最小侵襲性処置のような外科手法を用いて配置することができる。必要に応じて、追加のリードを、最小侵襲性手法または外科手法を用いて右心室または左心室に配置することができる。これらのリードの内の1本ないしさらに多くはその後、胸または他の場所に配置されたペースメーカー10に接続することができる。
【0032】
本発明を用いるための方法の実施形態例において、システム5及び心房配置リード40は心房細動を検出及び処置するために以下の態様で用いることができる。分散配置された電極アセンブリは、P波を含む患者のEKG(心電図)をモニタするために、また、SA結節を含むことが好ましい、電極アセンブリで周囲を囲まれた領域またはそれに隣接する領域における伝導をマッピングするためにも、用いることができる。心房細動は、
図8b及び8cに示されるようなP波の消失または異常に基づいて検出することができる。AFが発生すると、脱分極の時間経過を注視してSA結節より先に脱分極する場所を識別することによって、心房細動を引きおこしている異所性またはその他の巣の場所を、伝導マップを用いて識別することができる。次いで、心臓を正常洞調律に戻すために、以下に説明されるように電気除細動を施すことができる。
【0033】
電気除細動が施され、心臓が正常洞調律に戻った後、巣に最も近い電極アセンブリを、その部位が別の心房細動のエピソードを引きおこすことを予防するために、その部位及び周囲の組織に歩調取り信号を送るために用いることができる。また、その部位の場所を、次に異常心房脱分極が検出されたときに直ちに歩調取り信号をその部位に送ってAFの発生を予防できるように、ペースメーカーのメモリに格納しておくことができる。いくつかの実施形態において、早期活動部位は中断せずに歩調を取ることができる。心房歩調取りは、正常P波がおこるはずの期間Tp中に発生させるための適切な時間調整Taをもって、R波,Rを発生させることができる誘導P波,P
S、または
図8a及び8bに示されるようなR-Rインターバル,Riを生じさせるために実施することができる。
【0034】
心房内の巣及びその他の早期活動/異常伝導部位の検出に加えて、心房細動は、
図4の実施形態に示されるように、心房壁運動を検知するために心房壁(心外膜または心内膜)上に配置された3軸加速度計のような、加速度計71を用いて検出することもできる。そのような運動は、結果として一般に粗動となる、心房壁運動に心房細動が有する効果により、心房細動の前兆となる。加速度計からのこの信号は、左心房上に配置された双極リードからの電気信号を補足して、AFの検出のためにペースメーカーによって用いられる様々なアルゴリズムの予知能力を高めるために、用いることができる。さらに、加速度計からの知覚入力は、AFの予防及び/または心臓の正常洞調律への復帰における心房歩調取り信号の有効性を評価するために用いることもできる。
【0035】
上述したように、心房細動のエピソードが検出された場合、本発明の実施形態は電気除細動を施して心房を細動状態から正常洞調律に戻すために用いることもできる。これらの実施形態及び関連実施形態において、ペースメーカーは、心房細動を引きおこす異常電流を停止させるに十分に大きい心房心筋層の領域を同時に脱分極(本明細書では伝導性捕捉とも称される)するため、分散配置電極対の全てまたは大半に(8〜10ボルトの範囲の)高電圧歩調取り信号を同時に送ることができる。そのような電圧は、AFを予防するために歩調取りに用いられる電圧より高いが、従来の内部電気除細動に一般に用いられる電圧(数100ボルト)または外部電気除細動に一般に用いられる電圧(数1000ボルト)よりかなり低い。一般的な内部または外部の電気除細動よりかなり狭い心臓領域に、多点源によって刺激が送られる(この結果電流密度が高くなる)ため、そのような低電圧を用いることができる。内部または外部の電気除細動中に一般に用いられる電圧より低い電圧を用いることにより、患者が受ける苦痛を大きく軽減することができる。本手法の別の利点は、それぞれの部位において双極電極を用いることにより、心臓に送られる電気エネルギーを比較的狭い領域に収めることができ、よって(この場合は望ましくない効果である)心室を刺激するリスクが非常に小さいことである。電気除細動を達成するための電圧レベルは以下の要因(「除細動電圧調節要因」):
(i) 分散配置電極対によって囲われる組織領域の大きさ(領域が狭くなるほど所要電圧は低くなる);
(ii) 異所性巣の場所(巣が特定の電極に近づくほど所要電圧は低くなる);
(iii)巣の数(巣数が多くなるほど所要電圧は高くなり得る);
(iv) 領域を定める電極対の数(電極が多くなるほど電圧は低くなる);及び
(v) 前AFエピソード数(エピソード数が多くなるほど所要電圧は高くなり得る);
の内の1つないしさらに多くに基づいて調節することができる。これらの要因の内の1つないしさらに多くは、電気除細動プロセスを制御するペースメーカー内に常駐するアルゴリズムにプログラムしておくことができる。除細動アルゴリズムは、初めに可能な最低電圧を使用し、次いで除細動が達成されるまで電圧を漸次高めるように、プログラムすることができる。次いで、除細動達成電圧はメモリに格納することができ、以降の除細動試行において、上述した5つの除細動調節要因の内の1つないしさらに多くを用いて調整または微調整して、出発点として用いることができる。
【0036】
結論
本発明の様々な実施形態の上記記述を、例示及び説明の目的のために提示した。開示された精確な形態に本発明を限定することは目的とされていない。当業者には多くの改変、変形及び改善が明らかであろう。例えば、心房の不整脈及び細動の検出及び処置のための装置の実施形態は様々な心室性不整脈の検出及び処置のために適合させることもできる。
【0037】
1つの実施形態からの要素、特性または作用は、別の実施形態からの1つないしさらに多くの要素、特性または作用と容易に組み合わせるかまたは置換して、本発明の範囲内の数多くの別の実施形態を形成することができる。さらに、他の要素と組み合わされるとして示されたかまたは説明された要素は、様々な実施形態において、独立要素として存在することができる。したがって、本発明の範囲は説明された実施形態の詳細に限定されず、添付される特許請求の範囲によってのみ限定される。
【符号の説明】
【0038】
5 システム
10 心臓ペースメーカー
12 多リードコネクタ
20 リード
21 右心房心内膜リード
22 左心房心外膜リード
23 右心室心内膜リード
24 左心室心外膜リード
30 心房性不整脈検出/処置装置
50 電極アセンブリ
A 心房
ENW 心内膜壁
EPW 心外膜壁
H 心臓
LA 左心房
LV 左心室
V 心室
RA 右心房
RV 右心室