特許第5678041号(P5678041)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5678041
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月25日
(54)【発明の名称】メタノール水蒸気改質触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/648 20060101AFI20150205BHJP
   B01J 23/63 20060101ALI20150205BHJP
   B01J 23/89 20060101ALI20150205BHJP
   H01M 8/06 20060101ALN20150205BHJP
【FI】
   B01J23/648 M
   B01J23/63 M
   B01J23/89 M
   !H01M8/06 G
【請求項の数】17
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-513166(P2012-513166)
(86)(22)【出願日】2010年5月25日
(65)【公表番号】特表2012-528007(P2012-528007A)
(43)【公表日】2012年11月12日
(86)【国際出願番号】US2010036025
(87)【国際公開番号】WO2010138483
(87)【国際公開日】20101202
【審査請求日】2013年3月22日
(31)【優先権主張番号】12/472,104
(32)【優先日】2009年5月26日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】505470786
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】チャン,チンリン
(72)【発明者】
【氏名】ファーロート,ロバート,ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】カステラノ,クリストファー,アール.
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−232198(JP,A)
【文献】 特開2009−028599(JP,A)
【文献】 特開平10−296083(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
H01M 8/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.PtまたはPdから選択された第1の金属;
b.Sc、Hf、V、Nb、Ta、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Ni、B、Al、Ga、In、Ti、C、Si、Ge、Sn、およびPbからなる群より選択された合金形成元素;ならびに、
c.プロモーター元素としてのZr、
を含み、かつCuおよびZnを含んでいないことを特徴とするメタノール水蒸気改質触媒。
【請求項2】
第1の金属がPtである請求項1記載のメタノール水蒸気改質触媒。
【請求項3】
第1の金属がPdである請求項1記載のメタノール水蒸気改質触媒。
【請求項4】
合金形成元素がVである請求項2記載のメタノール水蒸気改質触媒。
【請求項5】
合金形成元素がTiである請求項2記載のメタノール水蒸気改質触媒。
【請求項6】
合金形成元素がGaである請求項3記載のメタノール水蒸気改質触媒。
【請求項7】
さらに第2のプロモーター元素を含む請求項6記載のメタノール水蒸気改質触媒。
【請求項8】
第2のプロモーター元素がYである請求項7記載のメタノール水蒸気改質触媒。
【請求項9】
さらに第3のプロモーター元素を含む請求項8記載のメタノール水蒸気改質触媒。
【請求項10】
第3のプロモーター元素がBaである請求項9記載のメタノール水蒸気改質触媒。
【請求項11】
第2のプロモーター元素がBaである請求項7記載のメタノール水蒸気改質触媒。
【請求項12】
さらに第3のプロモーター元素を含む請求項11記載のメタノール水蒸気改質触媒。
【請求項13】
第3のプロモーター元素がFeである請求項12記載のメタノール水蒸気改質触媒。
【請求項14】
さらに支持体を含む請求項1記載のメタノール水蒸気改質触媒。
【請求項15】
支持体がCeOである請求項14記載のメタノール水蒸気改質触媒。
【請求項16】
触媒を作る方法であって、
a.PtまたはPdから選択された第1の金属;
b.Sc、Hf、V、Nb、Ta、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Ni、B、Al、Ga、In、Ti、C、Si、Ge、Sn、およびPbからなる群より選択された合金形成元素;ならびに、
c.Li、Na、K、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Fe、La、Y、Zr、およびこれらの組み合わせからなる群より選択された少なくとも1つのプロモーター元素、
を含み、
a.前記第1の金属の錯体または塩、前記合金形成元素の錯体または塩、および前記少なくとも1つのプロモーターの錯体または塩の第1の水溶液を形成するステップ;
b.炭酸ナトリウムおよび任意選択で尿素を含む第2の水溶液を形成するステップ;
c.前記第2の水溶液に支持体を添加し、スラリーを形成するステップ;
d.前記第1の水溶液を前記スラリーと混合し、第2のスラリーを形成するステップ;
e.前記スラリーを粉砕するステップ;
f.前記スラリーを乾燥し、プレ触媒を形成するステップ;および
g.前記プレ触媒をか焼し、前記触媒を形成するステップ、
を含む方法。
【請求項17】
メタノールと水蒸気を水素ガスに改質する方法であって、
a.メタノール水溶液を加熱し、メタノール水蒸気を形成するステップ;
b.前記蒸気を、少なくとも200℃に加熱されたメタノール水改質触媒を含むメタノール改質装置に供給するステップ;および
c.前記蒸気を前記加熱触媒に接触させるステップ;
を含み、
前記触媒が、CuおよびZnを含まない触媒であって、
a.PtまたはPdから選択された第1の金属;
b.Sc、Hf、V、Nb、Ta、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Ni、B、Al、Ga、In、Ti、C、Si、Ge、Sn、およびPbからなる群より選択された合金形成元素;ならびに、
c.プロモーター元素としてのZr、
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
メタノールは、燃料電池用の水素とエネルギーの優れたソースである。メタノールの有用性は、比較的貯蔵と輸送が容易なこと、ならびに改質器を使って比較的容易にHに転換できることに由来する。改質器中では、水素は、金属触媒によるメタノールの水蒸気改質プロセスにより製造される。適切な条件下、化学反応によりメタノールと水を反応させて、水素と二酸化炭素が生成する。
CHOH+HO→CO+3H (1)
【0002】
改質プロセスの1つの欠点は、水素製造とは違う経路により副産物COが生成することである。この改質プロセスの副産物は、所定の燃料電池への導入の前に製品Hから除去または「洗浄」されなければならない。通常、この洗浄プロセスは、水性ガスシフト反応により行われる。あるいは、COをPdまたはPd合金膜を使って分離することもできる。PdおよびPd合金膜は、しかし、効果を得るには高い操作温度が必要で、そのため、改質器をより高い温度、通常は約400℃、で作動させなければならない。しかし、高温が触媒寿命に悪影響を与えることを考慮すれば、このような高温は、触媒に優れた耐久性を要求することになる。
【0003】
現状入手可能な触媒は、これらの制約の影響を受けている。例えば、市販の銅−亜鉛触媒(CuO−ZnO/Al)は、焼結と不活性化が起こるため、250℃以上の温度では使用できず、その上、これらの触媒は、改質器で使用前に還元することが必要である。さらなる銅−亜鉛触媒の制約は、これらが自然発火性であり、取扱および貯蔵上の問題があることである。
【0004】
CuO−ZnO触媒配合を改善するための種々の試みが、例えば、米国特許第6、576、217号、ならびに米国特許出願公開第2002/0051747号、2002/0169075号、および2004/0006915号に記載されている。この文献にある各種改良には、銅−亜鉛配合に対するZr、Al、Ce、または希土類元素の導入が含まれる。
【0005】
ZnまたはCuの別の元素による置換も考えられている。例えば、米国特許出願公開第2004/0006915号では、ZnOとクロム酸化物を含み、銅酸化物を含まないメタノール水蒸気改質用の触媒が開示された。銅−亜鉛触媒に対するほかの改善には、日本特許出願第2002263499号で検討されているようなZnのPdによる置換;日本特許出願第2003154270号で検討されているようなCuのAgによる置換;日本特許出願第2003160304号で検討されているようなCuのCrによる置換;および日本特許出願第2008043884号で検討されているようなZnのSiOによる置換、がある。しかし、これらの配合物は、Zn、Cu、またはCuZn由来触媒の固有の制約を解決してはいない。
【0006】
最近、非CuZnの卑金属触媒であるアルミナ担体FeCoNiが、米国特許出願公開第2007/0294942に記載された。この触媒は、しかし、所望の結晶サイズを得るために、高価な有機金属錯体およびテンプレート分子が必要であり、有用性を制約する。さらに、銅−亜鉛触媒と同様に、この卑金属触媒は、高温で不活性化する傾向がある。
【0007】
種々の他のZnベースのメタノール改質触媒が知られている。例えば、米国特許第4、613、584号には、メタノール水蒸気改質用のPdZnおよびPtZn合金の有用性と配合について記載されている。Iwasa et al、Applied Catalysis A:General、1995、125(1):145−157ならびに米国特許第6、413、449号も参照のこと。PdZnZrベース触媒が米国特許出願公開第2001/0021469号に記載され、また、Pd/Pt−CuZn触媒が米国特許出願公開第2002/0039965号に記載されている。しかし、これらの触媒もまた、不活性化が生じる。例えば、アルミナ単体PdZn触媒の不活性化は、285℃であると報告されており(Pfeifer et al、Applied Catalysis A:General、270(1−2)、165−175、2004、を参照)、また、250℃であるとの報告さえある(Kim、T.、et al、Journal of Power Sources、2006、155、(2)、231−238、を参照)。PdZnZr触媒は、さらに、改質プロセスで起こる可能性のあるZnの浸出の問題に悩まされている。浸出したZnは、存在する分離膜、ならびに燃料電池それ自体を損傷する可能性がある。
【0008】
メタノール水蒸気改質に適した既知の他の合金には、ZrCu、ZrAu、HfCu、ZrCo、およびYNiが挙げられる。その有用性にもかかわらず、これらの触媒は調製が難しく、金属塩前駆物質の溶融が必要である。例えば、米国特許第5、635、439号を参照。Pd−Ga、Pd−In、Pt−GaおよびPt−In触媒(Iwasa、Catalyst Letter 54、1998、119−123)ならびにアルミナ坦持Pt−Ce/Fe/La(米国特許出願公開第2007/0183968号)は、同様に、メタノール水蒸気改質に対し活性であることが示されている。これらの触媒も、また、金属前駆物質の溶融または、Ptの前還元とこれに続く他の金属の連続的添加を含む多段ステップが必要である。このように、文献にはメタノール水蒸気改質に有用な多くの触媒が記載されているが、種々知られている各触媒は、大規模商業用途には適切とは言えない触媒にしてしまう少なくとも1つの特性を持っている。
【0009】
上述の観点から、現在入手可能なメタノール水蒸気改質触媒の多くの、または全ての欠点を軽減する新しい触媒配合およびこれらの触媒を作るプロセスを提供することが本開示の1つの目的である。特に、少なくとも約350℃で連続的に使用可能で、溶融や前還元の必要が無く容易に調製できるメタノール改質用の空気中で安定な触媒を提供することが本開示の目的である。
【発明の概要】
【0010】
ある実施形態では、触媒は、PtまたはPd;Sc、Hf、V、Nb、Ta、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Ni、B、Al、Ga、In、Ti、C、Si、Ge、Sn、およびPbからなる群より選択された合金形成元素;ならびにLi、Na、K、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Fe、La、Y、Zr、およびこれらの組み合わせからなる群より選択された少なくとも1つのプロモーター元素を含むことができる。触媒は、実質的にCuとZnの両方を含まない。触媒は、アルミナ、シリカ、CeO、炭素、およびこれらの混合物からなる群より選択された適切な担体または支持体をさらに含む。
【0011】
ある実施形態では、触媒は少なくとも約200℃の温度で働かせることができ、別の実施形態では、触媒は、約350〜約425℃で働かせることができる。本明細書記載の触媒は、銅−亜鉛またはパラジウム−亜鉛触媒に存在した前記のいずれの欠点も示さない。さらに、本明細書記載の触媒の調製では、金属または金属前駆物質の溶融も、1つの元素の前還元とそれに続く他の元素の連続的添加を含む多段ステップも必要としない。開示触媒は、水素燃料電池用高効率およびコンパクトメタノール改質器を作るために、従来の酸化物支持体、セラミックス、またはフォイル、熱交換プレート、等を含む金属基体に適用可能である。
【0012】
触媒は、素早くかつ容易に調製でき、種々の構造の金属および非金属表面に適用できる。あるいは、触媒は、粉末、粒形、ペレット、または他の目的の用途に適した任意の物理的形状で使用可能である。
【0013】
本開示は、実質的にCuとZnが入らない触媒について記載する。この触媒は、PtまたはPdから選択された第1の金属;Sc、Hf、V、Nb、Ta、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Ni、B、Al、Ga、In、Ti、C、Si、Ge、Sn、およびPbからなる群より選択された合金形成元素;ならびにLi、Na、K、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Fe、La、Y、Zr、およびこれらの組み合わせからなる群より選択された少なくとも1つのプロモーター元素を含むことができる。
【0014】
一実施形態では、第1の金属がPtである。ある下位実施形態では、合金形成元素がVである。さらなる下位実施形態では、少なくとも1つのプロモーターがZrである。
【0015】
別の下位実施形態では、合金形成元素がTiである。さらなる下位実施形態では、少なくとも1つのプロモーター元素は、Zrである。
【0016】
別の実施形態では、第1の金属がPdである。一下位実施形態では、合金形成元素がGaである。さらなる下位実施形態では、少なくとも1つのプロモーター元素がZrである。さらなる下位実施形態では、触媒が第2のプロモーター元素を含む。特定の実施形態では、第2のプロモーター元素がYである。他の実施形態では、第2のプロモーター元素がBaである。
【0017】
さらなる下位実施形態では、触媒が第3のプロモーター元素を含む。特定の実施形態では、第3のプロモーター元素がBaである。他の実施形態では、第3のプロモーター元素がFeである。
【0018】
本発明の触媒は、さらに支持体を含んでもよい。特定の実施形態では、支持体がCeOである。
【0019】
本開示は、また、本明細書記載の触媒を調製する方法を含む。特定の実施形態では、この方法は、第1の金属の錯体または塩、合金形成元素の錯体または塩、および少なくとも1つのプロモーター元素の錯体または塩の第1の水溶液の形成を含む。この方法が、炭酸ナトリウムおよび、任意選択として、尿素を含む第2の水溶液の形成をさらに含んでもよい。この方法が、第2の水溶液をスラリーを形成させるように支援することをさらに含んでもよい。この方法が、第1の水溶液とスラリーを混合し第2のスラリーを形成することをさらに含んでもよい。
【0020】
この方法が、第2のスラリーを粉砕し、そのスラリーを乾燥してプレ触媒を形成し、プレ触媒をか焼して本明細書記載の触媒を形成することをさらに含んでもよい。
【0021】
本開示は、メタノールと水蒸気を水素ガスに改質する方法をさらに含む。一実施形態では、この方法は、メタノール水溶液を加熱してメタノール水蒸気を形成することを含む。この方法が、前記を少なくとも約200℃に加熱したメタノール水改質触媒を含むメタノール改質装置に供給することをさらに含んでもよい。この方法がメタノール水蒸気を加熱触媒と接触させることをさらに含んでもよい。
【0022】
メタノールと水蒸気を水素に改質する方法に関する特定の実施形態では、触媒が実質的にCuとZnを含まず、PtまたはPdから選択された第1の金属;ScHf、V、Nb、Ta、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Ni、B、Al、Ga、In、Ti、C、Si、Ge、Sn、およびPbからなる群より選択された合金形成元素;ならびにLi、Na、K、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、SrBa、Fe、La、Y、Zr、およびこれらの組み合わせからなる群より選択された少なくとも1つのプロモーター元素を含む。
【0023】
本明細書記載の触媒の有用性を説明する目的のために、種々の表およびグラフで特定の実施形態を図示した。しかしながら、本発明は、図に示した実施形態の厳密な配置および手段に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、PtV−Zr/CeOによる時間と運転中の性能の関係を示す。
図2図2は、PtTi−Zr/CeOによる時間と運転中の性能の関係を示す。
図3図3は、PdGa−ZrY/CeOによる時間と運転中の性能の関係を示す。
図4図4は、PdGa−BaZrY/CeOによる時間と運転中の性能の関係を示す。
図5図5は、PdGa−FeBaZr/CeOによる時間と運転中の性能の関係を示す。
図6図6は、PdZn−ZrY/CeOによる時間と運転中の性能の関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
詳細な説明
定義と省略
この詳細な説明においては、次の省略および定義が適用される。本明細書に使用される単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈から明確に別義が指示されていなければ、複数の参照対象を含むことに留意すべきである。従って、例えば、「a catalyst」への参照は複数のこのような触媒を含み、「the catalyst」への参照は1つまたは複数の触媒および当業者に既知のその等価物への参照を含む、等、ということになる。
【0026】
特に断らなければ、本明細書に使われている全ての技術と科学の用語は、当業者により通常理解されているものと同じ意味を有する。用語を次に示す。
【0027】
本明細書に使われる用語「合金」は、存在する元素間にいずれかの特定の配位に対する制限がない2つ以上の、それらの還元または部分的に還元した形の元素の結合構造を指す。
【0028】
周期表の元素に対する参照は、周知のように、それらの1字または2字の指示対象である。
【0029】
触媒は、通常、PtまたはPdを触媒の約0.2〜約20重量パーセント含む。特定の実施形態では、PtまたはPdを触媒の約0.5〜約10重量パーセント含む。
【0030】
触媒は、PtまたはPdと共に合金形成元素をさらに含む。合金形成元素は、Sc、Hf、V、Nb、Ta、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Ni、B、Al、Ga、In、Ti、C、Si、Ge、Sn、またはPbから選択される。合金形成の代表的元素の例には、V、Ni、Ti、Ga、In、およびCoが含まれる。合金元素のPtまたはPdに対するモル比率は、少なくとも約1から約5である。特定の実施形態では、比率は、少なくとも約1から約3である。本明細書記載の触媒は、実質的にCuとZnの両方を含まない。
【0031】
触媒は少なくとも1つのプロモーター元素をさらに含む。プロモーター元素は、Li、Na、K、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Fe、La、Y、Zrおよびこれらの組み合わせからなる群より選択される。プロモーター元素は、全体触媒の0〜約10重量パーセントの範囲で存在してもよい。特定の実施形態では、プロモーターは、約0.1〜約3重量パーセントで存在することができる。プロモーターとして使用するための代表的元素の例には、Mg、Ba、Fe、La、Y、Zr、およびこれらの混合物が含まれる。
【0032】
触媒は、適切な担体または支持体をさらに含んでもよい。適切な担体または支持体の例には、アルミナ、シリカ、CeO、セラミックス、および炭素が含まれる。これら支持体の混合物もまた、使用可能である。特定の実施形態では、支持体は、少なくとも約5m/gの表面積を有する。代表的支持体はCeOである。
【0033】
支持体は、アルカリ前処理を行っても行わなくても調整可能である。採用する場合は、アルカリ前処理は支持体、例えば、CeOの少なくとも尿素と炭酸ナトリウム水溶液による処理を含む。特定の理論に束縛されるものではないが、アルカリ前処理がCeO支持体の酸性度を減らし、著しく高いメタノール改質活性を有する触媒を生ずると信じられている。
【0034】
酸化触媒の調製のための乾燥およびか焼プロセス後に固体支持体が調製されるとすぐに、触媒は少なくとも約200℃の温度に加熱され、メタノールと水が接触して水素を製造することができる。特定の実施形態では、触媒は、約350〜約425℃に加熱される。特定の実施形態では、触媒は、約400℃に加熱される。水素を効率的に製造するために、蒸発メタノール水溶液を、ホット触媒上を通過させる。
【0035】
特定の理論に束縛されるものではないが、メタノールと水蒸気の存在下、か焼プロセスの間に形成されたPdまたはPt酸化物がゼロ酸化状態に還元され、この時点でPdまたはPt金属がその場で合金形成元素と合金を形成すると信じられている。前に特定したように、これらの元素には、Sc、Hf、V、Nb、Ta、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Ni、B、Al、Ga、In、Ti、C、Si、Ge、Sn、およびPbが含まれる。これらの元素は、また、か焼プロセスの間に酸化物を形成している可能性があり、同様に触媒プロセス中に還元される可能性がある。また、Li、Na、K、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Fe、La、Y、およびZrからなる群より選択されたプロモーター元素も、本明細書記載の条件下、部分的に還元される可能性がある。
【0036】
本明細書記載の触媒は、短い調製手順で調製可能である。一般的調製手法に従い、水溶性PtまたはPdの塩または錯体の第1の水溶液が形成される。通常、合金形成に有用な元素の水溶性塩または錯体が次に添加され、次いで、プロモーター元素または特定の配合に必要な元素の1つまたは複数の水溶性塩または錯体が添加される。
【0037】
次に、第2の水溶液が調製される。この溶液は、任意選択で尿素、および任意選択でプロモーター元素の水溶性塩または錯体を含む。一実施形態では、例えば、ナトリウムがプロモーター元素であってもよく、NaCOの形で添加してもよい。第2の溶液に添加されたプロモーター元素の塩または錯体は、第1の溶液に添加されたプロモーター元素の塩または錯体と同じでも異なっていてもよい。その後、既知量の固体支持体を第2の水溶液に添加し、濃密なスラリーを形成する。
【0038】
次に、第1の水溶液が、濃密なスラリーに添加される。得られた混合物をよく攪拌し、例えば、ボールミルで湿式粉砕して所望のサイズの固体粒子を得る。特定の実施形態では、粒子は、少なくとも直径約3〜約20μmとすることが可能である。他の実施形態では、粒子は、粉砕後少なくとも直径約5〜約10μmとすることが可能である。次に、乾燥のために、触媒を一体型セラミックまたは金属構造物または金属箔または熱交換器にコーティングすることができる。あるいは、触媒を直接乾燥してもよい。
【0039】
いずれの状況でも、粉砕したスラリーを少なくとも約100℃の温度で乾燥する。特定の実施形態では、スラリーを少なくとも約120℃で少なくとも約1時間乾燥する。特定の実施形態では、粉砕したスラリーを少なくとも2時間乾燥することができる。乾燥時間と温度は、調製される触媒に依存して変化してもよい。触媒が触媒のか焼に先立ち十分に乾燥しているかどうか判断することは、当業者の技術レベルの範囲内にあることである。乾燥後、触媒を大気中で約100〜約700℃でか焼する。一実施形態では、触媒を約500℃でか焼できる。別の実施形態では、触媒を約550℃でか焼できる。一実施形態では、か焼プロセスは、通常、少なくとも約3時間必要である。一部の実施形態では、か焼は、より多くの時間、例えば、少なくとも約4時間、必要な場合もある。
【実施例】
【0040】
本明細書で開示の触媒は、ここで、次の実施例によりさらに詳細に説明する。これらの実施例は、説明の目的のみのために提供されており、本明細書に開示の触媒が、これらの実施例により制限されると解釈されるべきではなく、むしろ本明細書で提供された教示の結果として明らかになる任意かつ全ての変形を包含すると解釈されるべきである。同様に、比較触媒例も提供されている。本明細書に開示の触媒とは異なり、比較例には配合物中に亜鉛を含む。
【0041】
以下に記載の各実施例で、「水」は脱イオン水を指す。特別の定めのない限り、全ての反応は大気圧下で起こる。
【0042】
実施例1:PtV−Zr/CeO
PtとVを含む第1の溶液を、15.244gのヘキサヒドロキシ(IV)白金酸(HPt(OH))溶液(16.40wt%Pt)、1.795gのNaVOおよび1.484gのZr(OH)を35gの水に攪拌しながら加えて調製した。
【0043】
第2の溶液を、7.5gの尿素および0.461gのNaCOを30.0gの水に添加して調製した。次に、第2の溶液を、50.0gのCeO(RhodiaのHSA20)と共にボールミル容器中で混合し、濃密なスラリーを得た。次に、第1の溶液を濃密なスラリーと接触させた。得られた混合物を、固体粒子の約90%が直径で約10μm未満になるまでボールミルで混合した。その後、スラリーを約120℃で約2時間乾燥し、大気中約550℃で4時間か焼した。
【0044】
図1からわかるように、95%を超えるメタノール転換が、この触媒を使い、300℃、メタノール/水供給速度0.25−1.0mL/minで達成された。約400℃で供給速度を2.5mL/minに増やすことにより、メタノール転換が減少し、CO選択性が極わずか増加した。
【0045】
実施例2:PtTi−Zr/CeO
PtおよびTiを含む第1の溶液を、15.244gのヘキサヒドロキシ(IV)白金酸(HPt(OH))溶液(16.40wt%Pt)、7.611gのチタンジイソプロポキシドビス(アセチルアセトナート)(C28Ti、75%イソプロパノール溶液)およびl、484gのZr(OH)を35gの水に攪拌しながら添加して調製した。
【0046】
第2の溶液を、7.5gの尿素および0.461gのNaCOを30.0gの水に添加して調製した。次に、第2の溶液を、50.0gのCeO(RhodiaのHSA20)とボールミル容器で混合し、濃密なスラリーを得た。次に、第1の溶液を濃密なスラリーと接触させた。得られた混合物を、固体粒子の約90%が直径で約10μm未満になるまでボールミルで混合した。その後、スラリーを約120℃で約2時間乾燥し、大気中、約550℃で4時間か焼した。
【0047】
上述の触媒の性能は、実施例1より若干劣っているように思える。実施例2の触媒は、低いメタノール転換と、高いCO選択性を有している。この触媒は、しかし、効率的にHを生成する。
【0048】
実施例3:PdGa−ZrY/CeO
PdとGaを含む第1の溶液を、11.844gのPd(NOs)溶液(20.77wt%Pd)、27.506gの硝酸ガリウム水和物、1.484gのZr(OH)、および8.952gのY(NO・6HOを42.0gの水に攪拌しながら添加して調製した。
【0049】
第2の溶液を、7.5gの尿素および0.461gのNaCOを30.0gの水に添加することにより調製した。次に、第2の溶液を、50.0gのCeO(RhodiaのHSA20)とボールミル容器で混合し、濃密なスラリーを得た。次に、第1の溶液を濃密なスラリーと接触させた。得られた混合物を、固体粒子の約90%が直径で約10μm未満になるまでボールミルで混合した。その後、スラリーを約120℃で約2時間乾燥し、大気中、約550℃で4時間か焼した。
【0050】
本実施例の触媒を用いて、約300℃、約0.25mL/minのメタノール/水供給速度でメタノールの完全な転換が観察された。メタノール/水供給速度を約2.0mL/min、および温度を約400℃に挙げた場合、メタノール転換は、80%に低下した。
【0051】
実施例4:PdGa−BaZrY/CeO
PdとGaを含む第1の溶液を、11.844gのPd(NOa)溶液(20.77wt%Pd)、27.506gの硝酸ガリウム水和物、1.484gのZr(OH)、0.477gのBa(NOおよび8.952gのY(NO・6HOを42.0gの水に攪拌しながら添加して調製した。
【0052】
第2の溶液を、7.5gの尿素および0.461gのNaCOを30.0gの水に添加して調製した。次に、第2の溶液を、50.0gのCeO(RhodiaのHSA20)とボールミル容器で混合し、濃密なスラリーを得た。次に、第1の溶液を濃密なスラリーと接触させた。得られた混合物を、固体粒子の約90%が直径で約10μm未満になるまでボールミルで混合した。その後、スラリーを約120℃で約2時間乾燥し、大気中、約550℃で4時間か焼した。
【0053】
実施例3の触媒にプロモーターとしてのBaの添加により、触媒活性および安定性の両方が改善された。約95%を超えるメタノール転換が、約400℃と約2−2.5mL/minのメタノール/水供給速度を用いて達成された。
【0054】
実施例5:PdGa−FeBaZr/CeO
PdとGaを含む第1の溶液を、11.844gのPd(NO溶液(20.77wt%Pd)、27.506gの硝酸ガリウム水和物、0.477gのBa(NOおよび1.809gのFe(NO・9HOを42.0gの水に攪拌しながら添加して調製した。
【0055】
第2の溶液を、7.5gの尿素および0.461gのNaCOを30.0gの水に添加して調製した。次に、第2の溶液を、50.0gのCeO(RhodiaのHSA20)とボールミル容器で混合し、濃密なスラリーを得た。次に、第1の溶液を濃密なスラリーと接触させた。得られた混合物を、固体粒子の約90%が直径で約10μm未満になるまでボールミルで混合した。その後、スラリーを約120℃で約2時間乾燥し、大気中、約550℃で4時間か焼した。
【0056】
実施例4に記載されたFeのプロモーターとしての配合物への導入により、活性のわずかな減少を生じたが、CO選択性が約65%から約70%に改善された。
【0057】
比較例1:PdZn−ZrY/CeO
Pd、Zn、Y、およびZrを含む溶液を、4.734gのPd(NO溶液(20.77wt%Pd)、15.508gのZn(NO・6HO、0.581gのZr(OH)および4.269gのY(NO・6HOを7.0gの水に攪拌しながら加えて調製した。次に、この溶液を20g、0のCeO支持体(RhodiaのHSA5)と接触させた。得られたスラリーを固体粒子の約90%が直径で約10μm未満になるまでボールミルで混合した。その後、スラリーを約120℃で約2時間乾燥し、大気中、約550℃で4時間か焼した。この実施例で記載したPdZn触媒の性能を図6に示す。
【0058】
比較例2:PdZn−ZrYLa/CeO
Pd、Zn、Y、LaおよびZrを含む第1の溶液を、11.844gのPd(NO溶液(20.77wt%Pd)、38.659gのZn(NO・6HO、1.484gのZr(OH)、9.024gのY(NO・6HO、および0.668gのLaCl・7HOを45.0gの水に攪拌しながら添加することにより調製した。
【0059】
次に、第2の溶液を、7.5gの尿素および0.461gのNaCOを30.0gの水に添加して調製した。次に、50.0gのCeO(RhodiaのHSA20)を第2の溶液に添加し、ボールミル容器で混合し、濃密なスラリーを得た。次に、第1の溶液を濃密なCeOのスラリーに添加した。得られた混合物を、固体粒子の約90%が直径で約10μm未満になるまでボールミルで粉砕した。その後、スラリーを約120℃で約2時間乾燥し、大気中、約550℃で4時間か焼した。
【0060】
触媒性能
メタノール水蒸気改質触媒性能を、5/8−インチ内径の不動態化(Silicosteel CR(登録商標))ステンレス鋼チューブで構成される管状充填層型反応器を使って測定した。反応器の層に粉砕し、篩分けして約125−250μmの平均直径にしてある3gの触媒を充填した。次に反応器をNフロー中で400℃に加熱した。
【0061】
反応器が温度に達するとすぐ、約63重量パーセントのメタノールの脱イオン水溶液を、HPLCポンプを使い2mL/min(10Psig)で、240℃で作動中の気化器へ供給した。次に、気化したメタノール−水混合物を加熱反応器に通過させた。気化器を、最適化して、安定な流量を維持し、気相中の水−メタノールモル比率の変動を最小化した。
【0062】
ガスの反応器出口の組成物をモニターし、4チャンネルおよび4つのTCD検出器を備えたAgilent3000Aマイクロガスクロマトグラフィーシステム(GC)を使って、分析した。全体システムは、操作およびデータ取得のために、コンピュータを使って自動化され、制御されている。次の気相種を分析した:H、CO、CO、HO、CH、およびCHOH。メタノール転換と選択性は下記のように計算した:
【0063】
【数1】
【0064】
上の式で、CO%、CO%、CΗ%、およびCHOH%は、それぞれ、GCにより分析した反応器排出物中のCO、CO、CHおよびCHOHモル分率パーセントを表す。改質反応(式1)の化学量論に基づくと、Hに対する選択性は、COに対する値と等しい。
【0065】
上述の手法を使って、実施例1〜5の触媒に対して、表1に詳細を示す選択性の結果が得られた。
【0066】
【表1】
【0067】
表1に示すように、本明細書記載の触媒の「Zn不含」実施形態は、メタノール水蒸気改質用としてPdZn触媒よりも優れているか、または同等の性能を与える。このように、本明細書記載の触媒は、水素分離膜を組み込んだ燃料電池の使用に有用である可能性がある。
【0068】
前記で検討した触媒、組成物、および方法について、上記実施例に言及しながら詳細に記載してきたが、その趣旨から解離することなく種々の改変が可能であり、当業者には容易にわかるであろうことは理解されるべきである。
【0069】
前に参照した全ての引用特許と出版物は、目的に応じその全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6