特許第5678043号(P5678043)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ニヴァロックス−ファー ソシエテ アノニムの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5678043
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月25日
(54)【発明の名称】金属小型構造体を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   B81C 99/00 20100101AFI20150205BHJP
   C25D 1/00 20060101ALI20150205BHJP
【FI】
   B81C99/00
   C25D1/00 381
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-514411(P2012-514411)
(86)(22)【出願日】2010年5月26日
(65)【公表番号】特表2012-529377(P2012-529377A)
(43)【公表日】2012年11月22日
(86)【国際出願番号】EP2010057255
(87)【国際公開番号】WO2010142529
(87)【国際公開日】20101216
【審査請求日】2012年1月13日
(31)【優先権主張番号】09162638.2
(32)【優先日】2009年6月12日
(33)【優先権主張国】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】599040492
【氏名又は名称】ニヴァロックス−ファー ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(72)【発明者】
【氏名】フッシンガー,アレキサンドレ
【審査官】 馬場 進吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−153054(JP,A)
【文献】 特開平05−326395(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0158669(US,A1)
【文献】 国際公開第2007/104171(WO,A2)
【文献】 特開平09−279365(JP,A)
【文献】 特開2000−173954(JP,A)
【文献】 特開2007−247067(JP,A)
【文献】 特開2008−126375(JP,A)
【文献】 特開2007−070703(JP,A)
【文献】 特開2007−204809(JP,A)
【文献】 特開2009−127105(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B81C 99/00
C25D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の金属微小構造体を製造する方法であって、この方法は;
a)平坦な導電基板、または導電シード層で被覆された平坦な絶縁基板を準備する工程と、
b)前記基板の導電表面に感光性樹脂の層を塗布する工程と、
c)前記感光性樹脂の層の表面を平坦化して、希望の均一な厚さにする工程と、
d)希望の微小構造体の外形を決めるマスクを介して前記感光性樹脂の層にUV照射する工程と、
e)前記感光性樹脂の層の重合していない領域を溶解して、この領域に対応する前記基板の導電表面を露出する工程と、
f′)前記露出した導電表面上に少なくとも一層の金属層を前記感光性樹脂の上面を超えた高さまでガルバニック堆積して金属微小構造体となる電鋳ユニットを形成すると共に、この電鋳ユニットの前記基板の導電表面と接触している基準面と反対側の面同士を接続するブリッジを形成する工程と、
g′)前記樹脂層と前記電鋳ユニットとを一体として前記基板から分離すると共に電鋳ユニットから樹脂層を除去する工程と、
h′)前記電鋳ユニットの基準面をワークプレート上に接着固定する工程と、
i′)固定した前記電鋳ユニットの厚さを希望の厚さまで前記ブリッジを接続した表面から機械加工して微小構造体を形成する工程と、
j)次いで、この微小構造体をワークプレートから取り外す工程と、
から構成されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記工程c)は切削工具を使用しておこなう、請求項記載の方法。
【請求項3】
前記切削工具は、ハードメタル、セラミック、金属炭化物、金属窒化物、またはダイヤモンドからなる刃先を備えることを特徴とする請求項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LIGAタイプの技術によって金属小型構造体を製造する方法に関する。特に、本発明は、従来技術の方法よりも正確かつ良く制御できる多次元機構を備える小型構造体を製造する方法に関する。また、本発明は、この方法によって製造した金属部品に関する。
【背景技術】
【0002】
1980年代にカールスルーエ核開発研究所(Karlsruhe Nuclear Research Centre;ドイツ)のW.Ehrfeldが開発したLIGA(X線リソグラフィ・電鋳・成形)技術は、高精度の金属小型構造体の製造に優れたものであることが知られている。
【0003】
LIGA技法は、原理上、導電基板または導電層で被覆された基板に、感光性樹脂の層を堆積する工程と、望みの小型構造体の外形に合ったマスクを通して、シンクロトロンを用いてX線を照射する工程と、感光性樹脂層の照射されなかった部分を現像して、すなわち物理剤または化学剤によって除去して、小型構造の外形をかたどるモールドを作製する工程と、感光性樹脂モールド内に金属(通常はニッケル)をガルバニック堆積し、その後、モールドを取り外して小型構造体を取り出す工程とを含む。
【0004】
このようにLIGA技法は完成した小型構造体の品質に問題はないものの、高価な機器(サイクロトロン)を使用する必要があるため、単価の安い小型構造を大量生産するにはこの技法は適さない。
【0005】
このため、LIGA技法を基礎とするがUV感光性樹脂を使用する同様の方法が開発されている。このタイプの一方法が、例えば非特許文献1に記載されており、ここでは、感光性ポリイミドベースのモールド内に金属を電気めっきすることによって金属構造体を製造する。この方法は以下の工程を含む。
−後で行う電気めっき工程のために犠牲金属層およびシード層を形成する工程と、
−感光性ポリイミド樹脂層を塗布する工程と、
−望みの小型構造の外形に合ったマスクを通してポリイミド樹脂層にUV照射する工程と、
−ポリイミド層の照射されなかった部分を溶解することで現像し、複数のポリイミドモールドを作製する工程と、
−モールドの開いている部分に、このモールドの高さまでニッケルをガルバニック堆積する工程と、
−作製された金属構造体を基板から分離する工程と、
−ポリイミドモールドを除去して電鋳金属部品を取り出す工程。
【0006】
したがって、電鋳小型構造体または部品は一括で作製される。作製後、これらの部品を分離し、プレート(加工台)に再び載置して、機械加工および/または研削を行って望みの厚さおよび表面状態にしなければならない。
【0007】
これらの工程は取扱い時間が非常に長くかかり、特に電鋳部品が小さい場合、典型的には1ミリメートル未満である場合は、上記のプレート上での部品の配置がずれる危険性が高い。これらの方法では、スクラップ率、換言すれば製造コストが、工業的生産の要件に見合わない。
【0008】
さらに、従来技術の方法では、基板表面での樹脂の厚さにばらつきがあってもすべての部品を最小の厚さにすることができるように、電鋳材料を十分に高く堆積する必要がある。したがって、電気めっき材料の浪費が多い。
【0009】
実際、モールドを形成するために堆積する樹脂の厚さのばらつきは、現在の堆積方法(通常はスピンコーティングまたはスプレーコーティング)には必ずついてまわる問題である。この点で、モールドを形成する樹脂層が不均一であるため、最も厚い部分と最も薄い部分を考慮した設定で樹脂にUV照射しなければならない。このため、モールドの平面での幾何学的寸法のばらつきが増大する。
【0010】
したがって、これらの欠点を除去する方法が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】A.B.Frazier等の論文「Metallic Microstructures Fabricated Using Photosensitive Polyimide Electroplating Molds」Journal of Microelectromechanical systems,Vol.2,N deg.2,1993年6月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、前述の欠点を除去することであり、これはとりわけ、従来技術の方法によって製造される部品または小型構造体よりも良く制御でき、かつ厚さおよび表面状態が正確である部品または小型構造を製造するための方法を提供することにある。
【0013】
また、本発明は、製造時間の短縮と電気めっきされる材料の量の削減によって電鋳コストを削減する方法に関する。
【0014】
また、本発明の目的は、フォトリソグラフィ露光の均一性を改良し、したがって、同一基板の表面上に製造される部品の幾何学的均一性を改良することである。
【0015】
本発明の別の目的は、単純にかつ安価に実施できる小型構造体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
したがって、本発明は、複数の金属部品または小型構造体を製造する方法であって、
a)導電基板、または導電シード層で被覆された絶縁基板を用意する工程と、
b)基板表面の導電部分の上に感光性樹脂の層を塗布する工程と、
c)感光性樹脂層の表面を平坦化またはレベリングして、望みの厚さおよび/または表面状態にする工程と、
d)望みの小型構造体の外形に合ったマスクを通して樹脂層にUV照射する工程と、
e)感光性樹脂層の重合されていない領域を溶解して、前記基板の導電面が所々露出する工程と、
f)上記露出した導電面の上に少なくとも1層の金属層をガルバニック堆積して、ほぼ上記感光性樹脂の上面の高さまで達するユニットを形成する工程と、
g)上記感光性樹脂と上記ユニットが同じ高さになるように樹脂および電鋳金属を平坦化またはレベリングし、それにより電鋳部品または小型構造体を形成する工程と、
h)上記感光性樹脂層と上記ユニットを基板から分離する工程と、
i)工程h)で得られたユニットすなわち部品または小型構造体から感光性樹脂層を除去して、部品または小型構造体を取り出す工程と
を含むことを特徴とする方法に関する。
【0017】
この方法によれば、基板表面全体にわたって予め定めた一定の厚さの樹脂層を作製することができる。このため厚さが均一な樹脂層が形成され、同一基板の各部において一様な寸法精度でモールド、さらには完成品を作製できるようになる。
【0018】
従来技術の方法(スピンコーティング)では、精度が+/−30μm程度に制限されるのに対して、本発明の方法は、厚さ精度+/−2μmで樹脂を堆積できる。
【0019】
さらに、本明細書で説明するように、部品を電鋳する工程の前に樹脂を平坦化またはレベリングすることで、めっきに必要な金属の量を抑えて、より早い段階で部品間にブリッジを作製する(時間節約)だけではなく、上面の厚さがかなり均一なウェハ、すなわち同じ材料のブリッジによってつなぎ合わされた1組の電鋳部品を用意して、後に続く機械加工操作時のワークプレートへの結合がより整然となるようにする。
【0020】
多層LIGA法の場合、樹脂を平坦化することで、基板全体、したがって基板のすべての部分にわたって、様々な層の厚さに対する公差が小さくなる。
【0021】
本発明の1つの特徴によれば、平坦化する前記工程c)は、切削工具を使用して、好ましくはハードメタル、セラミック、金属炭化物、金属窒化物、またはダイヤモンドからなる刃先を備える工具によって達成される。
【0022】
平坦化工程を行うための工具を使用することにより、研削または研磨プロセスで生じることがある残留屑による樹脂および/または電鋳金属の汚染がなくなる。さらに、切削工具を用いた機械加工は、加工対象の材料(樹脂、または樹脂および電鋳部品、またはワークプレート上に結合された部品)の厚さの差の影響を受けない。
【0023】
本発明の有利な一変形態様によれば、工程f)中、金属をモールドの高さよりも高く堆積させ、金属は平坦化された樹脂表面上に拡がり、それにより部品を金属ブリッジによってつなぎ合わせたウェハを形成し、工程g)は省き、工程h)の後、ブリッジによってつなぎ合わせた金属部品に以下の工程を施す。
j)ブリッジが接続した状態の部品の前記基板に接合していた面をワークプレートに固定する工程と、
k)この状態でブリッジが接続している面を機械加工して、望みの厚さおよび/または表面状態にし、ブリッジを取り除いて上記部品を切り離す工程と、
l)上記k)ステップ後に完成品としての部品をワークプレートから取り出す工程。
【0024】
この第2の変形態様によれば、部品間の金属ブリッジは、
1.厚さを調節するためにワークプレート上に多数の部品を効率よく移送できるようにし、
2.部品をワークプレートに固定するときにワークプレート上に一様に押し付けることができるようにする。これは、完成時の厚さ寸法のばらつきを減少させ、かつ
3.後で行う別の機械加工操作(電食、切削屑除去加工、ダイヤモンド研削、研磨、装飾など)のために、部品を正確にかつ整然と配置できるようにする。
【0025】
すなわち、LIGA堆積中に金属が多めに成長して、すべての部品間にこの金属のブリッジを形成し、したがって部品群がつながったウェハとして取り扱うことができるようになり、これにより、LIGA法によって製造される部品を非常に整然とかつ正確に、このウェハをワークプレートに固定することができる。したがって、部品の正確な位置決めを利用して、CNC機械で部品を機械加工することができる(マーキングをウェハ上に直に電鋳することもできる)。
【0026】
本発明による方法の利点は、電鋳された材料のブリッジを取り除いた後に部品のプレート上での配置が正確にかつ整然と保たれることであり、それにより、商業生産のために、機械加工して多層部品を形成し、数値制御機械やロボットによって装飾を施し、(選択的にまたは全体に)コーティングを施し、面取りまたは座ぐりを設け、一括で組み立てることができる。
【0027】
第3の変形態様によれば、分離工程h)後、電鋳部品はつなぎ合わされておらず、部品に以下の工程を施す。
m)搬送用ストリップを、上記部品の基準面とは反対の面に被せる工程と、
n)上記部品を、ストリップと反対側の基準面でワークプレートに固定する工程と、
o)見えている面を機械加工して、上記部品を望みの厚さおよび/または表面状態にする工程と、
p)上記の完成品をワークプレートから取り出す工程。
【0028】
第4の変形態様によれば、分離工程h)後、電鋳部品は金属ブリッジによってつなぎ合わされてはおらず、樹脂によってつながれている。次いで、これらの部品に以下の工程を施す。
q)部品を、その基準面でワークプレートに固定する工程と、
r)見えている面を機械加工して、上記部品を望みの厚さおよび/または表面状態にする工程と、
s)上記の完成品をワークプレートから取り出す工程。
【0029】
本発明の有利な特徴によれば、工程j)の前に、ワークプレートに固定したままの状態で部品に機械加工を施して、目標の厚さにする。
【0030】
当然、本明細書で前述した工程k)、o)、r)は切削工具によって行うことができる。
【0031】
本発明の方法は、時計ムーブメントまたは工具に関するマイクロ機械部品を製造するのに特に有利である。特に、部品は、歯車、ガンギ車、爪石、枢動部品、ジャンパばね、バランスばね、および受動部品、カム、押しボタン、ひげ玉、モールド、スピンドル、ステーク、および電食用の電極からなる群から選択することができる。
【0032】
本発明の他の特徴および利点は、本発明による方法の一実施態様の以下の詳細な説明から一層明瞭になる。この例を、添付図面を参照しながら単に非限定的な例として提示する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1a-1h】複数の歯車を形成するための本発明の方法の第1の実施態様を示す図である。
図2a-2k】本発明に係る方法の第2の実施態様を示す図である。
図3a-3k】本発明に係る方法の第3の実施態様を示す図である。
図4a-4j】本発明に係る方法の第4の実施態様を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1a〜図1hを参照しながら第1の実施態様を説明する。
【0035】
本発明の方法の工程a)で使用する基板1は、例えばシリコン、ガラス、またはセラミックウェハであり、そのようなウェハ上に、蒸着法を用いてシード層、すなわちそこから電鋳反応を開始することができる層を堆積してある。通常、シード層は、クロム部分層2と金層3からなる(図1a)。
【0036】
あるいは、電鋳反応を開始することができるステンレス鋼または別の金属から基板を形成することもできる。そのような場合にはシード層2、3は必要ない。ステンレス鋼基板の場合、使用前に基板を洗浄する。
【0037】
本発明による方法の工程b)で使用する感光性樹脂4として好ましいのは、Shell ChemicalからSU−8として市販されている8官能性エポキシベースの樹脂と、米国特許第4058401号に記載されているようなトリアリールスルホニウム塩類から選択される光開始剤である。この樹脂は、UV放射を当てることで重合させることができる。この樹脂に適していることが分かっている溶媒の1つはγ−ブチロラクトン(GBL)であることに留意されたい(図1b)。
【0038】
あるいは、DNQ(ジアゾナフトキノン)光開始剤が用いられるときにはフェノールホルムアルデヒドノボラックベースの樹脂を使用することもできる。
【0039】
適切な手段であれば何でもよいが、典型的にはスピンコータを使用して、樹脂4を基板1上に望みの厚さに堆積する。通常、樹脂の厚さは150μm〜1mmの間である。望みの厚さと使用する堆積技法に応じて、樹脂4を一回でまたは数回にわけて堆積させることができる。あるいは、スプレーコーティングを用いて樹脂4を堆積させることもできる。
【0040】
次いで、堆積する厚さによって決まることであるが、80〜95℃の間まで樹脂4を加熱して、溶媒を除去する。加熱により、樹脂が乾燥して硬化する。
【0041】
工程c)で、基板を工作機械のワークホルダに取り付け、ワークホルダ上で、硬化した感光性樹脂層の表面を平坦化して、望みの厚さおよび/または表面状態にする(図1c)。この平坦化操作は切削工具5を用いて行うことができ、従来の研磨工具による平坦化の際に生じることがある残留屑による樹脂の汚染はない。この平坦化操作は乾燥状態で行うことが好ましく、すなわち樹脂の化学汚染を防止するために潤滑手段を用いずに操作を行うことが好ましいことに留意されたい。
【0042】
通常、切削工具は、ハードメタル、セラミック、金属炭化物、金属窒化物、またはダイヤモンド製の刃先を備える工具である。この工程では最終的に、基板が樹脂層4で被覆され、樹脂層4の表面は完全に平坦であり、基板に平行である。また、樹脂は、表面状態または粗さがRa値<25nmであり、また公差±2μmの適切な厚さになっている。
【0043】
そのようにして得られた表面状態と樹脂の厚さの幾何学的精度は、多層法には特に利点となる。というのも、この表面状態が、表面から成長するガルバニック堆積物の表面状態を左右し、また厚さ制御により、各部品の各層の寸法精度も保証されるからである。
【0044】
図1dに示す次の工程d)は、平坦化した樹脂層にマスク6を通してUV放射を照射する工程である。マスク6は、絶縁領域4aと非絶縁領域4bの外形、換言すれば目的とする金属微小構造体の外形を定める。通常、このUV放射は、層を通って進むときに波長365nmで測定して200〜1000mJ・cm-2である。
【0045】
UV放射によって誘発された光重合化反応を完了させるために、層をアニールする工程が適宜必要となることもある。このアニール工程は、90℃〜95℃で15〜30分間行うとよい。絶縁領域(光重合領域)は、ほとんどの溶媒と反応しない。逆に非絶縁領域は、後で溶媒で溶解することができる。
【0046】
図1eに示される次の工程e)は、感光性樹脂層の非絶縁領域4bを現像する工程であり、基板1の導電層3の導電面が所々見えるようにする。この操作は、GBL(γ−ブチロラクトン)およびPGMEA(プロピレングリコールメチルエーテルアセテート)の中から選択した溶媒によって非絶縁領域4bを溶解することによって行われる。その結果、金属構造体の外形をかたどる複数の絶縁感光性樹脂モールド4aが完成する。
【0047】
図1fに示す工程は、上記の導電層3の露出した導電面からモールド内に向けて金属層をガルバニック堆積させる工程であり、複数のユニット71、72、73を形成し、これらのユニット71、72、73はモールドの高さに達し、さらにはそれを超える。当然、この場合の金属には金属合金も含まれる。通常、この金属は、ニッケル、銅、金、または銀、および合金として銅−金、ニッケル−コバルト、ニッケル−鉄、ニッケル−リン、またはニッケル−タングステンを含む群から選択する。
【0048】
電鋳条件は、電鋳の分野でよく知られている技法に従って各金属または合金を電気めっきできるように選択される(例えば、Di Bari G.A.著、L.J.Durney編「Electroforming」Electroplating Engineering Handbook 4th Edition、Van Nostrand Reinhold Company Inc.発行、米国ニューヨーク、1984参照)。
【0049】
図1gに示す工程では、電鋳したユニットを樹脂層とレベリングする。この工程は、摩耗および研磨、または切削工具による加工によって行うことができ、それにより、上面が平らな小型構造体がすぐに完成し、その上面は、特に高級時計用のムーブメントの製造における時計業界での要件に合った表面状態である。
【0050】
図1hに示す工程は、樹脂層4aおよび電気めっきユニット71、72、73を基板1から分離する工程である。この剥離操作を行った後、剥離した構造から感光性樹脂層4aを除去すると、上記のようにして形成された小型構造体であるユニット71、72、73を取り出せる。これを行うために、最終工程で、プラズマエッチングによって樹脂を除去する。
【0051】
そのようにして取り出された小型構造体は、即座に使用可能であり、または必要であれば適切な機械加工を施した後に使用することができる。
【0052】
次に、図2a〜図2kを参照しながら本発明の第2の変形態様を説明する。この第2の変形態様では、図2a〜図2eに示される工程は、図1a〜図1eで説明して図示したものと同一である。この第2の変形態様では、工程f)において、複数のユニット71、72、73が形成されるまでモールド内でガルバニック堆積を行う。ユニット71、72、73はモールドの高さに達し、さらにはそれを超え、感光性樹脂4aの上面に拡がって金属ブリッジ8を形成し、この金属ブリッジ8はユニット71、72、および73をつなぎ合わせる(図2f)。
【0053】
次いで、剥離工程で、樹脂4aおよびブリッジ接続した電鋳ユニット71、72、73のアセンブリを基板1から分離する(図2g)。次いで、樹脂4aを除去してユニット71、72、73を取り出す。これらユニット71、72、73は、ブリッジ8によってつなぎ合わされており、ウェハ9となる。樹脂4aは通常、プラズマエッチングによって除去される(図2h)。次いで、ブリッジが接続している面と反対側のウェハ基準面Fref、すなわち基板1に面していたウェハ9の面をワークプレート10に(接着剤12を用いて)載置結合させる(図2i)。見えている面を機械加工してユニット71、72、73を望みの厚さおよび/または表面状態にすると共にブリッジ8を除去することによって完成品または半完成品が出来上がる。この工程中、上記のユニット71、72、73は互いから切り離されるが、依然として接着剤12で正確な所定の位置に保たれている(図2i)。
【0054】
この工程の最後に、作製された上記の部品をワークプレート10から切り離し、次いで洗浄することができ(図2j)、またはバッチ加工用の工作機械でさらに加工することができる(図2k)。この段階で、部品に様々な装飾および/または機能付け、通常は物理的堆積または化学的堆積を施すことができる。
【0055】
次に、図3a〜図3kを参照しながら本発明の第3の変形態様を説明する。この第3の変形態様において、図3a〜図3fに示される工程は、図1a〜図1fで説明して図示したものと同一である。この第3の変形態様でも工程f)後、剥離工程で、樹脂4aと電鋳ユニット71、72、および73を備えるアセンブリを基板1から分離する(図3g)。次いで、樹脂4aを除去してユニット71、72、および73を取り出す。通常、プラズマエッチングによって樹脂を除去する(図3h)。ここではもう電鋳ユニット71、72、73がつなぎ合わされていない。
【0056】
次いで、フレーム11に張った搬送用ストリップを、上記のユニットの基準面Fref、すなわち基板1と対向接触していた面とは反対の面に被せる(図3i)。次いで、通常は、搬送用ストリップに結合したユニット71、72、73の基準面、すなわち基板1と接触していた面をワークプレート10に載置し、接着剤12で結合させる(図3j)。フレームを取り外し、搬送用ストリップだけ残す。
【0057】
次いで、このユニットの見えている面を機械加工し、搬送用ストリップを除去することで、望みの厚さおよび/または表面状態の部品71、72、および73を形成する。この工程で、これらの部品は互いに切り離され、かつ搬送用ストリップからも切り離されるが、それでも依然として接着剤12でワークプレート上に保持されている(図3k)。この工程の最後に、これらの部品をワークプレート10から取り外し、次いで洗浄する。
【0058】
次に、図4a〜図4jを参照しながら本発明の第4の変形態様を説明する。この第4の変形態様において、図4a〜図4fに示される工程は、図1a〜図1fで説明して図示したものと同一である。この第4の変形態様は、樹脂および電鋳ユニットを備えるアセンブリの接着力が基板1のユニット71、72、73を直に機械加工するには十分でない場合に使用する。この場合、剥離工程で、樹脂4aおよび電鋳ユニット71、72、および73を備えるアセンブリから基板1を分離する(図4g)。
【0059】
次いで、樹脂と電鋳ユニットのアセンブリの、基準面Fref、すなわち基板1と接触していた面を接着剤12を介してワークプレート10に接着結合させる(図4h)。次いで、ユニット71、72、および73の見えている面を機械加工して、望みの厚さおよび/または表面状態の部品にする。これらの部品は、樹脂4aおよび接着剤12によって固定されている(図4i)。
【0060】
この工程の最後に、これらの部品をワークプレート10から切り離し、次いで樹脂4aを除去して、作製された部品を取り出す。通常は、プラズマエッチングによって樹脂を除去する(図4j)。また、本発明によれば、それぞれ図1e、図2e、図3e、および図4eに示した工程の前に、図1b〜図1d、図2b〜図2d、図3b〜図3d、および図4b〜図4dを参照しながら図示して説明した工程を少なくとも1回繰り返すことで、多層部品を作製することができることに留意されたい。
【0061】
したがって、層の数は無制限である。時計の用途では、層の数は通常1〜5である。
【0062】
多層樹脂モールドを作る場合、工程1d、2d、3d、4dの後に樹脂の上に導電層を堆積するのがよく、それにより、後で行う工程1f、2f、3f、4fで電気めっき用の金属が一様に成長できるようになる。
図1a
図1b
図1c
図1d
図1e
図1f
図1g
図1h
図2a
図2b
図2c
図2d
図2e
図2f
図2g
図2h
図2i
図2j
図2k
図3a
図3b
図3c
図3d
図3e
図3f
図3g
図3h
図3i
図3j
図3k
図4a
図4b
図4c
図4d
図4e
図4f
図4g
図4h
図4i
図4j