特許第5678075号(P5678075)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5678075スライド素子、特にピストンリング、およびスライド素子とかみ合い作動素子の組み合わせ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5678075
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月25日
(54)【発明の名称】スライド素子、特にピストンリング、およびスライド素子とかみ合い作動素子の組み合わせ
(51)【国際特許分類】
   C23C 28/04 20060101AFI20150205BHJP
   F16J 9/26 20060101ALI20150205BHJP
   C01B 31/02 20060101ALI20150205BHJP
   C01B 21/06 20060101ALI20150205BHJP
   C01B 21/082 20060101ALI20150205BHJP
   F02F 5/00 20060101ALI20150205BHJP
【FI】
   C23C28/04
   F16J9/26 C
   C01B31/02 101Z
   C01B21/06 A
   C01B21/082 K
   F02F5/00 F
【請求項の数】7
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2012-535692(P2012-535692)
(86)(22)【出願日】2010年8月19日
(65)【公表番号】特表2013-509497(P2013-509497A)
(43)【公表日】2013年3月14日
(86)【国際出願番号】EP2010062096
(87)【国際公開番号】WO2011051008
(87)【国際公開日】20110505
【審査請求日】2013年2月28日
(31)【優先権主張番号】102009046281.3
(32)【優先日】2009年11月2日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】509098102
【氏名又は名称】フェデラル−モグル・ブルシャイト・ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】FEDERAL−MOGUL BURSCHEID GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】マルクス・ケネディー
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル・ツィンナボルト
【審査官】 伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−504448(JP,A)
【文献】 特開2004−169137(JP,A)
【文献】 特開平11−172413(JP,A)
【文献】 特開2006−283970(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 24/00−30/00
F16J 1/00− 1/24,
7/00−10/04
F02F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CrN層と、純Cr層を除くMe(C)層と、DLC層とを内側から外側に有するコーティングを備えた鋳鉄または鋼鉄製のスライド素子であって、前記DLC層が、金属含有下部構造と金属を含まないDLC上部層とから構成され、CrN層の硬度が1100HV0.002〜1900HV0.002であり、前記金属を含まないDLC層の硬度が1700HV0.002〜2900HV0.002であり、かつ前記金属含有DLC層の硬度が800HV0.002〜1600HV0.002であり、Meがタングステン、クロム、チタンまたはケイ素であり、xおよびyの両方が0〜99原子%の範囲内であり、前記金属がタングステン、クロム、ケイ素、ゲルマニウムまたはチタンであるスライド素子。
【請求項2】
前記金属含有DLC層および/または前記金属を含まないDLC層が水素を含むことを特徴とする、請求項1に記載のスライド素子。
【請求項3】
前記金属含有DLC層が、ナノ結晶性金属カーバイド析出物を含むことを特徴とする、請求項1からのいずれか一項に記載のスライド素子。
【請求項4】
前記CrN層が1〜30μmの厚さを有し、かつ/または前記Me(C)層が最大2μmの厚さを有し、かつ/または層全体が5〜40μmの厚さを有することを特徴とする、請求項1からのいずれか一項に記載のスライド素子。
【請求項5】
前記DLC層の外側が、粗度パラメータRz<5μmおよび/またはRpk<0.8μmを有することを特徴とする、請求項1からのいずれか一項に記載のスライド素子。
【請求項6】
前記CrN層が金属蒸着され、かつ/または前記金属含有DLC層および/または前記金属を含まないDLC層がPA−CVD法によって形成されたことを特徴とする、請求項1からのいずれか一項に記載のスライド素子。
【請求項7】
請求項1からのいずれか一項に記載のスライド素子と鉄系かみ合い作動素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティングを備えるスライド素子、特にピストンリング、およびスライド素子とかみ合い作動素子(mating running element)の組み合わせに関する。
【0002】
多くの技術的応用は、作動素子とかみ合って滑り接触するスライド素子を必要とする。ピストンリングとシリンダーライナーの組み合わせは、典型的な応用と考えられる。シリンダーまたはシリンダーライナーが、例えばアルミニウム‐ケイ素合金からなる場合(特に火花点火エンジンの場合)、DLC(ダイヤモンド状炭素)コーティングシステムは、磨耗および摩擦損失に対する価値を証明している。しかし、周知のDLC層システムは、一般的に鉄系シリンダーライナーを備える高度に過給された火花点火エンジンまたはディーゼルでの使用への適合性および耐用年数を改良する必要がある。著しく高いシリンダー圧力および特に直接噴射との組み合わせに起因して、より大きな割合の混合摩擦状態が存在する。このような状況のDLCコーティングシステムの不十分な適合性の決定的要因は、一般的に5μm未満である薄い層の厚さにあると考えられる。
【背景技術】
【0003】
DE 10 2005 063 123 B3には、導入層(run−in layer)でのDLCコーティングが開示されている。より厚い層厚に関しては、PVDコーティングもまた周知であり、特に、10〜30μmの層の厚さを有するCrNベースのものが知られている。これらによって向上した耐用年数がもたらされるが、特に不十分な潤滑および擦り耐性の場合、摩擦損失および耐磨耗性が劣化する。その一方で、それらの非晶質構造に起因して、DLC層システムは、金属表面に対して実質的に化学的に不活性であるため、かみ合い作動素子に対して非常に低い接着性を有するという利点を有する。
【0004】
DE 296 05 666 U1は、内燃エンジンの領域において、層の厚さにわたって段階的な硬度を有する、金属を含まない非晶質炭素層で被覆された部材に関する。
【0005】
DE 10 2008 016 864 B3には、内側から外側へ、接着層と、金属含有非晶質炭素層と、金属を含まない非晶質炭素層とを備えるピストンリングが開示されている。
【0006】
WO 2009/106201 Alは、DLC結合剤層と、DLC機能層と、DLC導入層とが基板上に存在する、内燃エンジンの部材に関する。
【0007】
最後に、WO 2006/125683 Alには、内側から外側へ、IVB、VBまたはVIB群からの元素を有する層と、ダイヤモンド状ナノ複合組成を有する中間層と、DLC層とを備えるピストンリングが開示されている。
US 2008/0220257 Alは、内側から外側へ、接着層と、4面体構造を有する炭素層と、非晶質炭素層とを有する、金属基板上のコーティングに関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】独国特許第102005063123号明細書
【特許文献2】独国実用新案第29605666号明細書
【特許文献3】独国特許第102008016864号明細書
【特許文献4】国際公開第2009/106201号
【特許文献5】国際公開第2006/125683号
【特許文献6】米国特許出願公開第2008/0220257号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、特に、例えば鉄系かみ合い作動素子を有する高度に過給された火花点火エンジンまたはディーゼルにおいて使用される場合に、耐用年数および摩擦損失に対する要件を充足する、スライド素子、特にピストンリングを提供する目的に基づくものである。スライド素子とかみ合い作動素子の適当な組み合わせについても開示する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は、請求項1に記載のスライド素子によって達成される。
このスライド素子は、一方で、外側のCrN層およびDLC層の組合せを特徴とする。DLC層は、金属を含まないかまたは金属含有下部構造と金属を含まないDLC上部層とを備える。言い換えると、DLC層は、少なくとも部分的に金属を含まず、特に、外表面上に金属を含まないDLC層を備える。さらに、詳細な試験では、CrN層とDLC層との間の中間層としてMe(C)層を設けた場合、開示されたコーティングは特に優れた特性を表すことが示された。この層構造での試験では、スライド素子、特にピストンリングの磨耗特性が、Cr接着層及びDLC上部層を備える周知の構造と比較して向上していることが示された。これにより、耐用年数が著しく向上する。試験ではまた、相対摩擦係数を著しく減少させることも示された。したがって、開示された層構造は、改良されたスライド素子を提供することができる。好ましくは、CrN層は、例えば金属蒸着またはスパッタリングによって、接着層を使用することなくピストン基材に適用されることが強調される。しかし、特殊な応用では、CrN層は、接着層によってスライド素子の基材に適用することも可能である。
【0011】
簡略化のために、Meは金属を意味するものであり、例えばタングステン、クロム、チタンまたはケイ素とすることができることに留意すべきである。さらに、開示された層中に、炭素および窒素は事実上任意の比率で存在することができ、xおよびyの両方が0〜99原子%の範囲内であり得る。さらに、特に、少なくとも領域的に、少なくとも1つの作動面(running surface)上にコーティングを提供することができる。さらに、コーティングは、表面および作動面に隣接する表面への移行に及び得る。これは、例えばピストンリングの作動エッジ(running edge)に関連する。
【0012】
好ましいさらなる発展については、その他の請求項に記載される。
1100〜1900HV0.002の値が、CrN層または下部構造の硬度に適当であることが見出された。この実施形態では、硬度1700〜2900HV0.002の金属を含まないDLC層および/または硬度800〜1600HV0.002の金属含有DLC層を組み合わせることができる。
【0013】
水素を含むと、DLC層、特に金属含有および/または金属を含まないDLC層の特に優れた特性が得られるであろうこともまた予測される。
【0014】
金属含有DLC層はまた、例えばWC、CrC、SiC、GeCまたはTiCなどのナノ結晶性金属カーバイド析出物を含むことができる。
【0015】
1〜30μmの厚さを有するCrN層、最大2μmの厚さを有するMe(C)層、および5〜40μmの全体厚さを有する層に対して有利な特性が特定された。
【0016】
粗度に関して、特性をさらに向上させるために、表面を形成する上部層が粗度パラメータRz<5μmおよび/またはRpk<0.8μmを有することが好ましい。
【0017】
実証された方法では、金属含有および/または金属を含まないDLC層は、PA−CVD法によって形成することができる。
【0018】
本発明はまた、少なくとも1つの前述のスライド素子と、かみ合い作動素子、特に内燃エンジン、特に、ディーゼルまたは高度に過給された火花点火エンジンのシリンダーまたはシリンダーライナーの組み合わせに関する。ここで、かみ合い作動素子は鉄ベースである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明による層構造を示す。
図2】ピストンリング及びシリンダーライナーの相対磨耗を示す。
図3】異なる層システムの相対摩擦係数を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
添付の図面を参照して好ましい例示的実施形態を以下で説明する。
図1に示すように、スライド素子の基材10上にCrN層12が適用される。図1に示されている接着層14は、必ずしも備える必要はない。特に、これは好ましくは省略される。Me(C)中間層16を用いて、金属を含まないDLC層が外側となるように、DLC層18が外側に設けられる。
【0021】
比較の試験は、この種類の構造体を用いて、接着層14を使用せずに実施した。表は、層システムを示す。
【0022】
【表1】
【0023】
ここで、システム「DLCシリーズ」は、CrNを含まない標準DLC層システムである。これらの層システムをピストンリングに適用して、潤滑状態において、磨かれた鋳鉄シリンダーライナーと組み合わせてトライボロジー挙動を調査した。図2は、ピストンリング(上)およびシリンダーライナーに対する相対磨耗値を示す。示されたパーセント値は、試験後に残る元のDLC層の割合を示す。この値が100パーセントを超える場合、DLC層に加えて、CrNまたはCrON層もまた少なくとも部分的に磨耗している。最大磨耗値をシリンダーライナーの相対磨耗の参照値として使用し、100パーセントとして定義した。
【0024】
図2に示すように、Me(C)中間層を用いた本発明によるコーティングが最小の相対磨耗を有する。シリンダーライナーに対する磨耗の場合、周知のDLCコーティングのみがより低い値をもたらす。しかし、シリンダーライナーの磨耗は、本発明による実施例に対しても許容範囲である。
【0025】
摩擦係数の測定も実施し、結果を図3に示す。ここでは、本発明による実施例が、最小の相対摩擦係数を有する。したがって、比較的低い磨耗、ひいては長い耐用年数に対する要件に加えてこの要件もまた充足される。
【符号の説明】
【0026】
10 基板
12 CrN層
14 接着層
16 Me(C)中間層
18 DLC層
図1
図2
図3