(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のカラークリヤ塗装ステンレス鋼板の一実施形態例について説明する。
図1に、本実施形態例のカラークリヤ塗装ステンレス鋼板を示す。本実施形態例のカラークリヤ塗装ステンレス鋼板10は、ステンレス鋼板原板11と、ステンレス鋼板原板11の片面に成膜された化成処理塗膜12と、化成処理塗膜12の表面に成膜されたカラークリヤ塗膜13とを有するものである。
該カラークリヤ塗装ステンレス鋼板10におけるステンレス鋼板原板11としては公知のものが使用される。
【0009】
[化成処理塗膜]
化成処理塗膜12としては、アミノシラン系シランカップリング剤およびエポキシシラン系シランカップリング剤の一方又は両方を含有する塗膜が好ましい。ステンレス鋼板原板11とカラークリヤ塗膜13との間に、これらシランカップリング剤を含有する化成処理塗膜12を有していれば、無公害なクロメートフリーにでき、さらにステンレス鋼板原板11とカラークリヤ塗膜13との密着性を高くできる。
ここで、アミノシラン系カップリング剤としては、例えば、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
エポキシ系シランカップリング剤としては、例えば、2−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0010】
化成処理塗膜12の付着量は2〜50mg/m
2であることが好ましい。化成処理塗膜12の付着量が2mg/m
2未満であると、光沢および耐食性が低下しやすくなり、付着量が50mg/m
2を超えると、沸騰水試験後の塗膜表面にブリスターを生じることがある。化成処理塗膜12の付着量の好ましい上限は30mg/m
2であり、より好ましくは10mg/m
2である。
化成処理塗膜12の付着量は、蛍光X線分析にてSiO
2量を測定することによって求めることができる。
【0011】
[カラークリヤ塗膜]
本実施形態例におけるカラークリヤ塗膜13は、顔料を含有する塗膜である。ここで、顔料としては、無機顔料、カーボン顔料、有機顔料のいずれであってもよい。
無機顔料としては、例えば、酸化鉄等が挙げられる。
カーボン顔料としては、例えば、カーボンブラック等が挙げられる。
有機顔料としては、例えば、アゾ系顔料、多環系顔料、金属錯体系顔料などが挙げられる。
アゾ系顔料としては、例えば、溶性アゾ、縮合アゾ、モノアゾ、ジアゾなどが挙げられる。
多環系顔料としては、例えば、フタロシアニン、アントラキノン、インジゴ、ペリレン、ペリノン、ジオキサジン、キナクリドン、イソインドリノン、ジケトピロロピロール、フラバンスロン、アンスラピリミジン、アシルアミン、キノフタロン、ピロコリン、フルオロピンなどが挙げられる。
金属錯体系顔料としては、例えば、ニッケルアゾなどが挙げられる。
【0012】
顔料の平均1次粒子径は10〜1100nmであり、10〜800nmであることが好ましく、10〜500nmであることがより好ましい。
とりわけ、顔料が無機顔料である場合には、平均1次粒子径が100〜200nmであることが好ましく、100〜180nmであることがより好ましく、100〜150nmであることが特に好ましい。
また、顔料がカーボン顔料である場合には、平均1次粒子径が10〜80nmであることが好ましく、10〜50nmであることがより好ましい。
また、顔料が有機顔料である場合には、平均1次粒子径が50〜1100nmであることが好ましく、50〜800nmであることがより好ましく、50〜500nmであることが特に好ましい。
顔料の平均1次粒子径が前記下限値未満であると、濃く着色することが困難である。また、前記下限値未満の小さな粒子の顔料は入手が困難である。一方、顔料の平均1次粒子径が前記上限値を超えると、カラークリヤ塗膜13の透明性および鮮映性が低下するため、カラークリヤ塗装ステンレス鋼板10の意匠性が低下する。
なお、本発明における平均1次粒子径は、電子顕微鏡、動的光散乱法、レーザー回折散乱法等によって測定された値である。
【0013】
また、顔料の顔料分散粒度は、カラークリヤ塗膜13の鮮映性がより高くなることから、25μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましい。また、実用性の点から、好ましくは5μm以上である。
顔料分散粒度は、既知の傾きで傾斜した溝が形成された分散粒度測定器を用いて測定する。具体的には、分散粒度測定器の傾斜した溝に顔料を充填し、溝が形成された表面から顔料が突出しはじめる箇所を調べる。そして、顔料が突出しはじめる箇所の溝の深さを分散粒度とする。
【0014】
カラークリヤ塗膜13の顔料容積濃度は0.5〜5.0%であり、0.8〜4.0%であることが好ましく、0.8〜2.5%であることがより好ましい。ここで、顔料容積濃度は下記式で求められる値である。また、顔料容積濃度はPVCと称されることもある。
顔料容積濃度=[(顔料の容積)/(顔料の容積+樹脂の容積)]×100(%)
顔料容積濃度が前記下限値未満であると、どのような顔料を用いても濃く着色することが困難になる。一方、前記上限値を超えると、どのような顔料を用いてもカラークリヤ塗膜13の透明性および鮮映性が低くなる上に、均一な塗膜の形成が困難になるため、カラークリヤ塗装ステンレス鋼板10の意匠性が低下する。
【0015】
また、色の見え方は感覚的であるため、顔料によって意匠性に優れるカラークリヤ塗膜13の可視光の透過率の範囲は異なる。例えば、レッドの顔料であるペリレンレッドでは相対透過率が50〜65%、ブルーの顔料である銅フタロシアニンブルーでは30〜55%、ブラウンの顔料であるコロファインブラウンでは55〜70%であるときに意匠性により優れる。なお、相対透過率が前記下限値未満では透明性が不足する傾向にあり、前記上限値を超えるとカラークリヤ塗膜の色が薄くなる傾向にある。
上記相対透過率になる顔料容積濃度は、ペリレンレッドでは0.8〜2.4%であり、銅フタロシアニンブルーでは0.8〜2.1%であり、コロファインブラウンでは1.5〜5.0%である。
【0016】
カラークリヤ塗膜13は、顔料の分散性が高くなって透明性および鮮映性がより高くなることから、分散剤を含有することが好ましい。
ここで、分散剤としては、塩基性分散剤、酸性分散剤、両性分散剤が挙げられるが、使用する顔料に応じて適宜選択される。例えば、顔料が酸性顔料(例えば、キナクリドンレッド、カーボンブラック等)である場合には塩基性分散剤を、両性顔料(例えば、アゾレッド、イソインドリノンイエロー等)である場合には両性分散剤を、塩基性顔料(例えば、フタロシアニンブルー・グリーン、酸化鉄、オーカー等)である場合には酸性分散剤を使用する。
【0017】
カラークリヤ塗膜13の熱硬化性樹脂組成物は、架橋性官能基を有するアクリル樹脂(以下、アクリル樹脂と略す。)を、ブロックイソシアネート化合物により架橋したものを含有することが好ましい。
ここで、架橋性官能基は、水酸基、カルボキシ基、アルコキシシラン基などから選ばれる1種又は2種以上の官能基である。アクリル樹脂は架橋性官能基を1分子あたり、2個以上有することが好ましい。
【0018】
アクリル樹脂は、少なくとも1種の非官能性アクリル単量体と少なくとも1種の官能性単量体との共重合体である。
非官能性アクリル単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロへキシル、メタクリル酸ラウリル等の脂肪族アクリレート又は環式アクリートが挙げられる。
官能性単量体としては、水酸基を有する単量体、カルボキシ基を有する単量体、アルコシキシラン基を有する単量体等が挙げられる。
【0019】
水酸基を有する単量体としては、例えば、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドキシプロピル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル等のヒドロキシアルキルエステル、ラクトン変性水酸基含有アクリルモノマー(ダイセル化学工業製商品名プラクセルFM1〜5、FA−1〜5)が挙げられる。
【0020】
カルボキシ基を有する単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等が挙げられる。
【0021】
アルコキシシラン基を有する単量体は、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メタアクリロキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0022】
アクリル樹脂には、非官能性アクリル単量体および官能性単量体以外の他の単量体が共重合されていてもよい。他の単量体としては、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル類;スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン類;アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のアクリルアミド系単量体等が挙げられる。
【0023】
アクリル樹脂のガラス転移点は30〜90℃であることが好ましく、50〜90℃であることがより好ましい。該カラークリヤ塗装ステンレス鋼板10を連続プレスした際に摩擦し、加工発熱して、表面の温度が80〜100℃に上昇するため、アクリル樹脂のガラス転移点が30℃未満であると、カラークリヤ塗膜13が軟化して、金型に付着することがある。また、アクリル樹脂のガラス転移温度が90℃を超えると、ピンホール、レベリング不足等が生じる傾向にある。
アクリル樹脂のガラス転移温度を前記範囲にするためには、アクリル樹脂の組成を適宜選択すればよい。
【0024】
アクリル樹脂の数平均分子量は3000〜50000であることが好ましく、4000〜10000であることがより好ましい。アクリル樹脂の数平均分子量が3000未満であると、ブロックイソシアネート化合物との反応性が低くなり、カラークリヤ塗膜13が形成しにくくなり、50000を超えると、溶媒溶解性が低くなるため、カラークリヤ塗料が得られにくくなる。
アクリル樹脂の数平均分子量は、アクリル樹脂を製造する際の条件(例えば、重合温度、重合開始剤の種類や量等)によって調整することができる。
【0025】
アクリル樹脂を架橋する架橋剤であるブロックイソシアネート化合物は、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物である。具体的には、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネートなどの脂環族ジイソシアネート、該ポリイソシアネートのビューレットタイプの付加物、イソシアヌル環タイプ付加物等であって、フェノール類、オキシム類、活性メチレン類、ε−カプロラクタム類、トリアゾール類、ピラゾール類等のブロック剤で封鎖したものが挙げられる。ジブチルチンジラウリレート等の有機錫触媒がブロック剤の解離促進剤として使用される。
ブロックイソシアネート化合物の市販品としては、例えば、デスモジュールBL1100、BL1265MPA/X、VPLS2253、BL3475BS/SN、BL3272MPA、BL3370MPA、BL4265SN、デスモーサム2170、スミジュール3175(以上、住化バイエルウレタン株式会社製)、デュラネート17B−60PX、TPA−B80X、MF−B60X、MF−K60X(以上、旭化成ケミカルズ株式会社製)、バーノックDB−980K、D−550、B3−867、B7−887−60(以上、大日本インキ化学工業株式会社製)、コロネート2515、2507、2513(以上、日本ポリウレタン工業株式会社製)などが挙げられる。これらブロックイソシアネート化合物は、1種を単独で使用してもよいし、併用してもよい。
【0026】
アクリル樹脂は、カラークリヤ塗膜13が硬くなって耐疵付き性がより高くなることから、架橋剤として上記ブロックイソシアネート化合物だけでなく、アミノ樹脂(メラミン樹脂)を用いて架橋されていることが好ましい。
アミノ樹脂は、アミノ化合物(メラミン、グアナミン、尿素)とホルムアルデヒド(ホルマリン)を付加反応させ、アルコールで変性した樹脂の総称である。具体例としては、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、尿素樹脂、ブチル化尿素樹脂、ブチル化尿素メラミン樹脂、グリコールウリル樹脂、アセトグアナミン樹脂、シクロヘキシルグアナミン樹脂等が挙げられる。これらの中でも、耐指紋汚染性、耐疵付き性、耐薬品性という面からメラミン樹脂が好ましい。
メラミン樹脂は、変性するアルコールの種類によって、例えば、メチル化メラミン樹脂、n−ブチル化メラミン樹脂、イソブチル化メラミン樹脂、混合アルキル化メラミン樹脂等に分類される。
【0027】
具体的には、メチル化メラミン樹脂としては、サイメル300、301,303、350、370、771、325、327、703、712、715,701、267、285、232、235、236、238、211、254、204、212、202、207(以上、三井サイテック株式会社製)、LUWIPAL 063、066、068、069、072、073(以上 BASF製)、スーパーベッカミンL−105(以上、大日本インキ化学工業株式会社製)、メラン522、523、620、622、623(以上、日立化成工業株式会社製)等が挙げられる。
n−ブチル化メラミン樹脂としては、マイコート506、508(以上、三井サイテック株式会社製)、ユーバン20SB、20SE、21R、22R、122、125、128、220、225、228、28−60、20HS、2020、2021、2028、120(以上、三井化学株式会社製)、PLASTOPAL EBS 100A、100B、400B、600B、CB(以上、BASF製)、スーパーベッカミンJ−820、L−109、L−117、L−127、L−164(以上、大日本インキ化学工業株式会社製)、メラン21A、22、220、2000、8000(以上、日立化成工業株式会社製)、テスアジン3020、3021、3036(以上、日立化成ポリマー株式会社製)等が挙げられる。
イソブチル化メラミン樹脂としては、ユーバン60R、62、62E、360、361、165、166−60、169、2061(以上、三井化学株式会社製)、スーパーベッカミンG−821、L−145、L−110、L−125(以上、大日本インキ化学工業株式会社製)、PLASTOPAL EBS 4001、FIB、H731B、LR8824(以上、BASF製)、メラン27、28、28D、245、265、269、289(以上、日立化成工業株式会社製)、テスアジン3027、3028、3029、3030、3037(以上、日立化成ポリマー株式会社製)等が挙げられる。
混合アルキル化メラミン樹脂としては、サイメル267、285、232、235、236、238、211、254、204、212、202、207(以上、三井サイテック株式会社製)等が挙げられる。
アミノ樹脂は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0028】
カラークリヤ塗膜13は、ポリオレフィン系ワックスを含有することが好ましい。カラークリヤ塗膜13がポリオレフィン系ワックスを含有すれば、油性潤滑剤等を塗布した場合に比べて潤滑性が高くなり、加工性に優れたカラークリヤ塗装ステンレス鋼板10になる。
【0029】
ポリオレフィン系ワックスとしては、例えば、パラフィン、マイクロクリスタリン、ポリエチレン、ポリエチレン−フッ素等の炭化水素系ワックス等が挙げられる。
カラークリヤ塗装ステンレス鋼板10を加工する際には、加工発熱および摩擦熱により塗膜温度が上昇するため、ポリオレフィン系ワックスの融点は70〜160℃であることが好ましい。ポリオレフィン系ワックスの融点が70℃未満であると、加工時に軟化溶融して固形潤滑添加物としての優れた特性が発揮できないことがある。ポリオレフィン系ワックスの融点が160℃を超えると、硬い粒子が表面に存在して摩擦特性を低下させるため、高い加工性が得られないことがある。
ポリオレフィン系ワックスの酸価は、0〜30が好ましい。ポリオレフィン系ワックスの酸価が30を超えると、熱硬化性樹脂組成物との相溶性が高くなって、ポリオレフィン系ワックスが均一に塗膜表面に浮き上がりにくくなるため、カラークリヤ塗装ステンレス鋼板10の加工性が不充分になることがある。
【0030】
カラークリヤ塗膜13中のポリオレフィン系ワックスの含有量は、熱硬化性樹脂組成物の固形物100質量部に対して0.25〜10質量部であることが好ましい。ポリオレフィン系ワックスの含有量が0.25質量部未満であると加工性が不充分になることがあり、10質量部を超えると塗膜表面にムラが発生して、カラークリヤ塗装ステンレス鋼板10の外観を損なうことがある。
【0031】
また、カラークリヤ塗膜13は、シリカゾルを含有することができる。ここで、シリカゾルとは、ナノメートル(nm)レベルのシリカ粒子のことを意味している。カラークリヤ塗膜13がシリカゾルを含有すれば、塗膜の硬度、耐疵付き性、耐指紋汚染性が向上する。
シリカゾルの含有量は、熱硬化性樹脂組成物100質量部あたり、固形分量で2.0〜10質量部であることが好ましく、3.0〜8.0質量部であることがより好ましい。シリカゾルの含有量が2.0質量部未満であると、耐疵付き性や硬さが不足し、10質量部を超えると加工性が低下する傾向にある。
【0032】
カラークリヤ塗膜13には、更に添加剤として、レベリング剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、艶消し剤、シランカップリング剤等が含まれてもよい。また、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ポリエステル等が含まれてもよい。
【0033】
カラークリヤ塗膜13の膜厚は1〜10μmであることが好ましい。カラークリヤ塗膜13の膜厚が1μm未満であると、カラークリヤ塗膜13の潤滑機能が充分に発揮されず、カラークリヤ塗装ステンレス鋼板10の加工性が低下する傾向がある上に、カラークリヤ塗膜13による着色効果が不充分で、カラークリヤ塗装ステンレス鋼板10の意匠性が高くならないことがある。また、10μmを超えると、カラークリヤ塗膜13の潤滑機能が飽和するとともにカラークリヤ塗膜13の形成が困難になることがある。さらに、カラークリヤ塗膜13の透明性が低くなってステンレス鋼板原板11の素地が見えなくなり、意匠性が低くなることがある。
【0034】
[製造方法]
次に、上述したカラークリヤ塗装ステンレス鋼板の製造方法の一例について説明する。なお、カラークリヤ塗装ステンレス鋼板10の製造方法は以下の例に限定されるものではない。
この例の製造方法では、まず、ステンレス鋼板原板11をアルカリ脱脂や酸、アルカリによるエッチング等の公知の前処理を施す。
次いで、ステンレス鋼板原板11に、アミノシラン系カップリング剤およびエポキシシラン系カップリング剤の一方又は両方を含む化成処理液を塗布し、乾燥して、化成処理塗膜12を形成する。
前記化成処理液としては市販品を用いることができる。市販の化成処理液としては、例えば、パルコートE305、3750、3751、3753、3756、3757、3970(日本パーカライジング株式会社製)、アルサーフ440(日本ペイント株式会社製) 等が挙げられる。
化成処理液の塗布方法としては、例えば、スプレー、ロールコート、バーコート、カーテンフローコート、静電塗布等を採用できる。
化成処理液の乾燥温度(表面温度)は60〜140℃とすることが好ましい。
【0035】
次いで、化成処理塗膜12の表面に、カラークリヤ塗料を塗布し、乾燥(焼付け)して、カラークリヤ塗膜13を形成する。これにより、カラークリヤ塗装ステンレス鋼板10を得る。
【0036】
カラークリヤ塗料中のアクリル樹脂とブロックイソシアネートとの割合は、アクリル樹脂の架橋性官能基1モルに対してイソシアネート基が0.1〜2.0モルになる割合であることが好ましく、アクリル樹脂の架橋性官能基1モルに対してイソシアネート基が0.1〜1.0モルになる割合であることがより好ましく、アクリル樹脂の架橋性官能基1モルに対してイソシアネート基が0.2〜0.8モルになる割合であることが特に好ましい。
【0037】
カラークリヤ塗料は、カラークリヤ塗膜13の形成時間を短縮するために、ブロックイソシアネート化合物の硬化触媒を含有することができる。
ブロックイソシアネート化合物の硬化触媒としては、ジ−n−ブチルチンオキサイド、n−ジブチルチンクロライド、ジ−n−ブチルチンジラウリレート、ジ−n−ブチルチンジアセテート、ジ−n−オクチルチンオキサイド、ジ−n−オクチルチンジラウリレート、テトラ−n−ブチルチン等が挙げられる。
【0038】
カラークリヤ塗料が、架橋剤としてブロックイソシアネート化合物以外にアミノ樹脂を含有する場合、カラークリヤ塗料中のアミノ樹脂の含有量は、アクリル樹脂固形分100質量部に対して10〜40質量部であることが好ましく、15〜30質量部であることがより好ましい。カラークリヤ塗料中のアミノ樹脂の含有量が10質量部未満であると、耐疵付き性を充分に向上させることができず、40質量部を超えると、カラークリヤ塗膜13の形成が困難になることがある。
【0039】
また、カラークリヤ塗料がアミノ樹脂を含有する場合には、アクリル樹脂の硬化時間(焼付け時間)が長くなる傾向にあるため、アミノ樹脂の硬化触媒を含有することができる。カラークリヤ塗料がアミノ樹脂の硬化触媒を含有すれば、硬化時間を短くできる。
アミノ樹脂の硬化触媒としては、例えば、スルホン酸系触媒やアミン系触媒等が使用されるが、焼付け時間の短縮に特に効果を発揮することから、p−トルエンスルホン酸系触媒が好ましい。
アミノ樹脂の硬化触媒の量は、アクリル樹脂とブロックイソシアネート化合物とアミノ樹脂との合計量を100質量部とした際の0.5〜5質量部であることが好ましく、1〜2質量部であることがより好ましい。
アミノ樹脂の硬化触媒の量が、アクリル樹脂とブロックイソシアネート化合物とアミノ樹脂との合計量を100質量部とした際の0.5質量部未満であると、硬化時間を短縮できないことがあり、5質量部を超えると、得られるカラークリヤ塗装ステンレス鋼板10の加工性が低くなる傾向にある。
【0040】
カラークリヤ塗料にポリオレフィン系ワックスが含まれる場合、ポリオレフィン系ワックスの平均粒径は0.1〜7.0μmであることが好ましい。ポリオレフィン系ワックスの平均粒径が7.0μmを超えると、カラークリヤ塗膜13中でのポリオレフィン系ワックスの分散性が低くなる傾向にあり、0.1μm未満であると、得られるカラークリヤ塗装ステンレス鋼板10の加工性が低くなる傾向にある。
【0041】
カラークリヤ塗料にシリカゾルが含まれる場合には、オルガノシリカゾルを添加することによってカラークリヤ塗料を調製すればよい。
オルガノシリカゾルとは、有機溶媒にナノメートルサイズのコロイダルシリカを安定に分散させたコロイド溶液である。
オルガノシリカゾルとしては、MA−ST−M、IPA−ST、EG−ST、EG−ZL、NPC−ST、DMAC−ST、DMAC−ST−ZL、XBA−ST、MIBK−ST(以上、日産化学工業株式会社製)などが挙げられる。オルガノシリカゾルは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0042】
カラークリヤ塗料の塗布方法としては、化成処理液の塗布方法と同じ方法が適用される。
【0043】
以上説明したカラークリヤ塗装ステンレス鋼板10におけるカラークリヤ塗膜13は、平均1次粒子径が10〜1100nmの顔料を含有し、顔料容積濃度が0.5〜5.0質量%であるため、透明性および鮮映性に優れる上に濃く着色されている。したがって、ステンレス鋼板原板11の視認性が優れてステンレス鋼の質感を維持しながらも濃く着色されているため、カラークリヤ塗装ステンレス鋼板10は高い意匠性を有する。
このようなカラークリヤ塗装ステンレス鋼板10は、家庭用又は業務用の電気製品、電子機器製品の筐体に好適に使用される。
【0044】
なお、本発明は、上述した実施形態例に限定されない。例えば、上述した実施形態例では、ステンレス鋼板原板の片面のみにカラークリヤ塗膜が形成されていたが、ステンレス鋼板原板の両面にカラークリヤ塗膜が形成されていてもよい。また、ステンレス鋼板原板とカラークリヤ塗膜との間に、化成処理塗膜を有していたが、化成処理塗膜を有していなくても構わない。
【実施例】
【0045】
(試験例1)
温度計、還流冷却器、攪拌器、滴下ロート、窒素ガス導入管を備えた4つ口フラスコに、表1に示す配合量で、トルエン、酢酸ブチルを入れ、110℃まで昇温し窒素ガスを吹き込みながら攪拌し、メタクリル酸メチル、スチレン、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸メチル、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)の混合物を3時間かけて滴下した。滴下終了後、さらにAIBNを追加して同温度でさらに3時間反応させて、不揮発分50%のアクリル樹脂の溶液を得た。
さらに、硬化剤であるブロックイソシアネート「デスモジュールVPLS2253」(住化バイエルウレタン株式会社製、NCO含有率10.5質量%)を配合してカラークリヤ塗料を得た。
次いで、このカラークリヤ塗料に、レッドの顔料であるペリレンレッド(平均1次粒子径:40〜100nm、分散粒度:10μm以下)を顔料容積濃度が0.8%になるように配合し、さらにポリオレフィン系ワックス(融点120℃、粒径2μmのポリエチレンワックス)2.0質量部を配合して、カラークリヤ塗料を得た。
次いで、厚さ1.3mmのガラス板(マツナミガラス製)の片面に、前記カラークリヤ塗料を塗布し、180℃、20分で焼き付け、厚さ3μmのカラークリヤ塗膜を成膜させた。
【0046】
【表1】
【0047】
(試験例2〜18)
顔料容積濃度および顔料の種類を表2に示すものとしたこと以外は試験例1と同様にしてガラス板にカラークリヤ塗膜を成膜させた。
【0048】
試験例1〜18のカラークリヤ塗膜の相対透過率を測定した。試験例1〜6の結果を
図2に、試験例7〜12の結果を
図3に、試験例13〜18の結果を
図4に示す。
ここで、カラークリヤ塗膜の相対透過率は以下のようにして測定した。
まず、顔料を含まないこと以外はカラークリヤ塗料と同様のクリヤ塗料を調製し、厚さ1.3mmのガラス板に塗布して、クリヤ塗膜を成膜させた。
次いで、カラークリヤ塗料を塗布するガラス板自体の可視光透過率(測定器:島津製作所製分光光度計UV2500PC)を測定して、ベースラインを作成した。次いで、ガラス板にカラークリヤ塗膜が成膜されたカラークリヤ塗装ガラス板の可視光透過率を測定し、ガラス板にクリヤ塗膜が成膜されたクリヤ塗装ガラス板の可視光透過率を測定した。
そして、クリヤ塗装ガラス板の可視光透過率を100%とした際のカラークリヤ塗装ガラス板の可視光透過率の割合、すなわち相対透過率を求めた。
この相対透過率はカラークリヤ塗膜の透明性の指標になり、相対透過率が高い程、透明性が高いことを示す。
【0049】
【表2】
【0050】
図2〜4の結果より顔料容積濃度が高くなる程、透明性が低下することがわかる。そして、目視による評価によると、平均1次粒子径が10〜1100nmの顔料を含み、顔料容積濃度が0.5〜5.0%である試験例2〜5,8〜11および14〜17のカラークリヤ塗膜は、透明性が高く、かつ、色が濃くなっていた。
とりわけ、レッドの顔料であるペリレンレッドでは相対透過率が50〜65%、ブルーの顔料である銅フタロシアニンブルーでは30〜55%、ブラウンの顔料であるコロファインブラウンでは55〜70%であるときにカラークリヤ塗膜の透明性がより高く、かつ、色がより濃くなった(
図2〜4の白抜きデータ(◇)の範囲)。なお、各々の顔料の相対透過率が下限値未満では着色力が低下し、上限値を超えると透明性が低くなり、不適当であった(
図2〜4の黒塗りデータ(◆))。
したがって、平均1次粒子径が10〜1100nmの顔料を含み、顔料容積濃度が0.5〜5.0%のカラークリヤ塗膜をステンレス鋼板原板に形成して得たカラークリヤ塗装ステンレス鋼板では、ステンレス鋼板原板の視認性が高く、該原板のステンレス鋼の質感を活かせる上に濃く着色されている。
【0051】
(試験例19〜24)
顔料を表3に示すものに変更したこと以外は試験例1と同様にしてガラス板上にカラークリヤ塗膜を形成した。そして、試験例1〜18と同様にして相対透過率を測定した。その結果を表3に示す。
【0052】
【表3】
【0053】
表3に示すように、平均1次粒子径が10〜1100nmの顔料を含むカラークリヤ塗膜では、透明性に優れていた。また、目視により評価したところ、得られたカラークリヤ塗膜は濃く着色されていた。
したがって、平均1次粒子径が10〜1100nmの顔料を含むカラークリヤ塗膜をステンレス鋼板原板に形成して得たカラークリヤ塗装ステンレス鋼板では、ステンレス鋼板原板の視認性が高く、該原板のステンレス鋼の質感を活かせる上に濃く着色できる。
【0054】
(試験例25〜36)
顔料分散粒度、顔料容積濃度を表4に示すようにしたこと以外は試験例1と同様にしてガラス板上にカラークリヤ塗膜を形成した。そして、各カラークリヤ塗膜について、JIS K 5600−4−7に準拠し、光沢測定機(BYKガードナー社製micro−TRI−gloss)を用いて、20度光沢度を測定した。その結果を
図5〜7に示す。なお、20度光沢度は鮮映性の指標になり、20度光沢度が高い程、鮮映性に優れる。
レッド、ブルー、ブラウンのいずれの色においても顔料分散粒度25μm以下である場合には、20度光沢度が高く、鮮映性に優れていた(
図5〜7の白抜きデータ(◇)の範囲)。これに対し、顔料分散粒度が25μmを超えると、20度光沢度が80%未満となり、鮮映性が低くなる傾向にあった(
図5〜7の黒塗りデータ(◆))。
【0055】
【表4】
【0056】
(実施例1)
本発明のカラークリヤ塗膜ステンレス鋼板は、いわゆるプレコートのものであり、プレス成形等の成形用の材料である。そのため、成形後の意匠性が高いことが重要である。そこで、カラークリヤ塗膜ステンレス鋼板の成形後の意匠性について調べるために、引張試験後の20度光沢度を測定した。なお、プレス成形では引張の変形が生じるため、引張試験後の光沢度はプレス成形後の光沢度とみなすことができ、とりわけ引張率が2%の場合に相関性が高い。
以下、カラークリヤ塗膜ステンレス鋼板の製造方法および引張試験方法について説明する。
【0057】
ステンレス鋼板原板(SUS304のNo.4研磨仕上げ品)の片面に、アミノシラン系カップリング剤を含む化成処理液をロールコータにより塗布し、表面温度が100℃になるように乾燥させて、付着量10mg/m
2の化成処理塗膜を成膜させた。
次いで、化成処理塗膜の表面に、試験例2と同様のカラークリヤ塗料をバーコータにより塗布し、表面温度が224℃になるように焼付け、厚さ3〜5μmのカラークリヤ塗膜を成膜させて、カラークリヤ塗装ステンレス鋼板を得た。
【0058】
(実施例2,3)
カラークリヤ塗料を試験例8,14のものに変更した実施例1と同様にしてカラークリヤ塗装ステンレス鋼板を得た。
【0059】
実施例1〜3のカラークリヤ塗装ステンレス鋼板の引張試験を下記の条件で行い、試験後の20度光沢度を測定した。測定結果を
図8に示す。
[引張試験]
測定機器:島津製作所製オートグラフ
引張速度:50mm/分
引張率 :2%
測定温度:23℃
[光沢度測定]
JIS K 5600−4−7に準拠し、光沢測定機(BYKガードナー社製micro−TRI−gloss)を用いて、鮮映性の指標になる20度光沢度を測定した。
【0060】
図8に示すように、実施例1〜3のカラークリヤ塗装ステンレス鋼板では、引張率2%で引張変形させた後でも、20度光沢度の大幅な低下は見られず、80%以上であり、意匠性の低下が抑えられていることが確認された。